慟哭の刻

 

 

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                 2.

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  シンジは未だ心を閉ざしていた。

 

  みんなはエヴァを降りたいと言っても聞いてくれないだろう。シンジ自身も仕方

 ないとあきらめてはいた。だが、それは碇シンジとしてすべき事ではなく、初号機

 パイロットとしてすべき事だった。エヴァを動かせればシンジでなくとも良いのだ。

 

 極端な話、重要なのはエヴァが動くかであってシンジがどういう状況にあるかでは

 ないはずだ。だから・・・・心を閉ざしたかった。昔のように。たとえ何が起きて

 も、どのような扱いを受けても傷つかなくて済むように。

 

  皮肉なことに二人の少女が自分を失おうとするのを救い、その後も超然とした態

 度をとるシンジを周りの者は成長の証と取った。

 

 

 

  それからしばらくが過ぎた。最初、シンジは二人がこのような状態になったら自

 分の役目はもう終わりだと感じていた。二人が一歩を踏み出せたら、自分などもう

 必要ではない、自分の存在なんてそんなものだと思いこんでいた。彼女達のことを

 大切に思ってはいたが、彼女達にとって碇シンジという存在が重要な者だとは思え

 なかった。彼は今まで「碇シンジ」として必要とされたことなど一度もなかったか

 ら。

 

  シンジの思いとは裏腹に最初の一歩を踏み出したアスカとレイは、次の一歩を踏

 み出すにもシンジを必要としていた。それどころか、シンジ無しでいまの状況に留

 まることさえ出来なかった。彼女達にとって今の自分達の世界を支える柱はシンジ

 しか居なかった。毎日のように電話をかけてき、会いに来るレイ、片時もシンジの

 そばを離れようとしないアスカ、シンジは気づいていなかったが、「碇シンジ」の

 存在は彼女達の中で他に変わるべき者がないほどに大きくなっていた。

 

 

 

  しばらく中断されていたエヴァの起動試験が再会されることとなった。零号機は

 再構築され、弐号機の修理も完成していた。

 

 「明日から訓練を再開するわ。・・・アスカ、あなたもよ」

 「ミサトさん!」

 

  極当たり前のように語るミサトにシンジは不快感と不審を抱かずにいられなかっ

 た。いつものように「遊びではない」、「パイロットは貴重だ」、「可能性がある

 限りやってみる」、「人類を救うため」等何度も聞かされてきた言葉が繰り返され

 るが、そのような言葉に何の意味が有ろうか。だが、アスカの返事は意外なものだ

 った。

 

 「わかったわ」

 「アスカ?」

 「なによ、あんたが言ったんでしょ、私にはまだ望みが有るって、それを信じてる

  って。それともアレは口からでまかせなわけ?」

 「そ、そんなことないよ」

 

  シンジは戸惑っていた。以前の元気なアスカに戻ったというのならこのセリフに

 も納得できる。だが少なくとも、いまのアスカの目は以前の勝ち気な目ではない。

 何かにおびえている目だ。だが何におびえているのかが分からなかった。

 

 

 

 

 「どう?シンクロ率の結果は」

 「酷いものですね。サードチルドレン79%、ファーストチルドレン19%、セカ

  ンドチルドレンに至ってはわずか7%ですよ」

 「レイの数値は上がっているし、アスカは0%で無いだけましよ。シンジ君にして

  もあんな事があった後にしては上出来だわ」

 「でも実質、戦闘が始まったら戦えるのは初号機だけですよ」

 「・・・・しばらくはその心配もないわ。3人とも上がらせて」

 

  渚カヲルが最後の使者であることを知っているミサトにとって、戦闘可能である

 かは大した問題ではなかった。問題は何故未だに起動試験を繰り返さなくてはなら

 ないかである。だが、彼女は真実を知ろうと焦るあまり大事な物を一つ見落として

 いる事に気づかなかった。

 

 

 「アスカ・・・その・・・」

 「気、使わなくても良いわよ。最初っから起動させる気なんて無かったから。0%

  でお払い箱にされなければ良いのよ。・・・なんだかね、エヴァに乗り続けるこ

  とに疲れちゃったの。もし、もう一度乗りたいって思うにしても時間ときっかけ

  がなければ無理ね」

 「じゃあさ、何で今日エヴァに乗るなんて言ったの?無理しない方が良かったんじ

  ゃない?」

 「あんたバカぁ?エヴァに乗るとでもいわなきゃ、ここに来れないでしょ」

 

  しかし、何故アスカがここに来たかったのかはついに語られなかった。

 

 

 

 

  ある日、シンジはアスカに黙って外に出た。ほんの30分ほど買い物に出ただけ

 なのだが、帰ったとき玄関で待ちかまえていたアスカは烈火のごとく怒った。

 

 「シンジ!一体何処行ってたのよ。あんたに私に黙って行動する権利何てあると思

  っているわけ?いい!これからはどこか行くときはちゃんと私に断ってからにす

  るのよ。今度黙って出て行ったりしたら、絶対に許さないから」

 

  しかし、言葉の強さとは裏腹にアスカの目には強気など欠片もないことがシンジ

 にも見てとれた。その目はまるで母親に捨てられた幼子のような、飼い主とはぐれ

 た子犬のような目だった。

 

  近頃、シンジが長湯を使った後など、洗面所でアスカを見かけることがよくあっ

 た。アレは偶然ではなかったのか?一人になりたくて部屋に引き上げようとすると、

 何かと用事を押しつけてきていた、アレはただの我侭ではなかったのか?やっと復

 興の進んできた第三新東京市をアスカと歩いたとき、彼女は一度も手を離そうとし

 なかった。喫茶店に入ったときも渋々という感じでようやく手を離したし、店を出

 ると慌ててシンジの服の裾を捕まえてきた。そのことをシンジが問うと、

 

 「あんたみたいなバカが迷子にならないようにしてやってるのよ!」

 

 と言ったのだが、アレはただの強がりだったのだろうか?そしてこの前怯えていた

 理由は、ネルフに来たがっていた訳は・・・・

 

 

 (アスカ・・・僕を・・必要としてくれてるの?)

 

  その日、シンジはほんの少し心を開いた、レイやアスカと同じく自分達3人の間

 にだけ向けた開放ではあったが。

 

 

 

 

 「近頃サードチルドレンが変化してきたという噂だが?」

 「ああ、その報告は受けている。手を打たねばならんな」

 「どうする気だ?」

 「全てを話してやる。そうすれば、自分達が今の状況から逃れられないことを知る

  だろう」

 「いいのか?下手をすれば・・・・」

 「かまわん。このまま自我に目覚めて離反されるよりは遥かに良い。ましてやレイ

  にまで影響が及ぶとあってはな」

 「・・・・そうか、私もお前も既に引き返せないのだったな」

 「何を悩む?我々は引き返す必要など無い。前に進んでいるのだからな」

 

  冬月にはゲンドウが話すであろう「全て」とは何かが分かっていた。だからこそ、

 そのことを笑って話せるゲンドウに恐怖した。

 

 

 

 

  三人は司令室に呼ばれた。そこにはゲンドウ一人が座っており、離れたところに

 向かい合うように3つのパイプ椅子が置かれていた。

 

 「座れ」

 

 ゲンドウの言葉に3人は従った。

 

 「シンジ、お前は以前、何のために戦うのか?と聞いたことがあったな。それに今

  答えてやろう。人類のためだ、人類を救う補完計画を実現するためだ」

 

  シンジはゲンドウの言葉に感銘を覚えなかった。何を今更と言う気持ちの方が強

 い。だが何故か背筋が凍り付くような寒気を覚えた。それに耐えながらもシンジは

 返事をした。

 

 「それは何度も聞いています。人類を使徒の襲来から守るために戦えって」

 「違うな、人類の真の敵は使徒ではない。何故使徒に天使の名を与えているのか考

  えたことがあるか?」

 

  意外な話をするゲンドウにシンジ達は唖然とした。

 

 「それは奴等が神の使いだからだよ。奴等は神から我々に対する贈り物を持ってき

  てくれたのだ」

 

  この時、シンジ達は逃げ出すべきだったのかもしれない。神ならざる身で断定は

 出来ないが、彼等が自分達の幸福のみを求めるならばそうすべきだったろう。

 

 「我々ネルフには上位の存在としてゼーレという組織がある。その組織の前身たる

  組織が全ての始まりだった。その組織は世界中の優れた者のみが集まって作られ

  た。科学に優れた者、物理学に優れた者、生態学に優れた者。そのような頭脳に

  優れた者から、指導力、実行力、発想、といった物に優れた者まで様々な者が集

  まった。

   もちろん諍いも生じはしたが、真に優れた者は国家や人種、宗教など下らぬ物

  にはこだわらないため、真の意味での争いは一度もなかった。各国も最初こそ弾

  圧を加えようとしたが、そのうち逆にその組織の力を利用しようとして、援助を

  始めた。存在を認められ、援助と力を持った組織の存在力はますます増大した」

 

  シンジ達にとってゲンドウの言葉は単なる昔話でしかなかった。セカンドインパ

 クト以前の組織の話など聞いても分かるはずがない。

 

 「その組織が世界最大級のコンピュータを開発した。名は「クロノス」と付けられ

  た。それは、コンピュータと言うよりも、システムに近い物だった。世界中の有

  りとあらゆるコンピュータにアクセスし、そのデータを自分の物とする。新しい

  技術が開発されればそれを自分の物へとフィードバックすることも可能だった。

  ゆえにそれは常にその世でもっとも優れた機能を発揮し続けている。

   ある意味MAGIシステムよりも上だろう。MAGIは単体では世界最高のコ

  ンピュータだが、クロノスは世界全体のコンピュータを掌握している。言い換え

  ればMAGIもクロノスの一部だったのだ。そのシステムがとんでもない結果を

  はじき出した。

  《このまま時が過ぎれば2030年前後で人類は滅びる》と。」

 

  その言葉は3人の心をゆらした。人類を守るために倒さなければならない相手は

 「使徒」ではないか。ならばそのコンピュータは何を根拠にそのような結果を?

 

 「・・人類とは愚かな存在だ。人種差別、国家間紛争、環境汚染、資源枯渇、どれ

  を取っても人類の死活問題だと誰もが気づいていながらそのことを見ようともし

  ない。現在の安楽な状況がいつまでも続くと信じ切っている。クロノスはそのこ

  とをはっきりと示したにすぎん。

   もちろん数十回、いや数百、数千回もシュミレートしてみた。我々の力を用い

  て国家紛争を押さえようとすれば、別の地域で宗教対立から破滅が起きた。環境

  汚染を押さえてやれば資源の浪費の歯止めが無くなり滅びを迎えた。分かったの

  はどうやっても人類は滅びることが決定されているという事だった。

   人類はもう終わりの時を迎えようとしている。自らの愚かさによって滅びよう

  としているのだ。だから真に優れたものがが導いてやらねばならないのだ。永遠

  に繁栄できる道へと。それが組織の出した結論だった」

 

  シンジ達もセカンドインパクト以前の世界が一触即発の状況であったことぐらい

 は知っている。だが本当に人類が滅びるほどの危険性があったのか?信用できなか

 った。

 

 「だが、いくら組織の力を持ってしても全ての人類を導くなど不可能だった。まし

  て愚かな他の者達が素直に従うとも思えない。そんな時だ、南極でアダムが発見

  されたのは。アダムは我々の理解を遥かに超えた存在だった、それと同時に最も

  馴染みのある存在でもあったが。構造の99.89%が人間と同じ、残りが全く

  の未知、分かっているのはそれがとてつもない力を発揮することが出来ると言う

  ことだ。

   組織は喜んだ、この力を使えば全世界を自分達で導いてやることが出来るかも

  しれない、世界を破滅から救うことが出来るかもしれない、とな。この時期に最

  も望んでいた物が手に入ったのだ、これが神からの贈り物でなくてなんだという

  のだ」

 

  アダムは・・使徒が求めていた物ではなかったのか?疑問は深まる一方だった。

 

 「アダムの力を素に人類を救うための計画、人類補完計画が検討された。お前達に

  詳しい話をしてもわからんだろうが、簡単に言えばこうだ。人の心には必ず隙間

  がある。寂しさ、悲しみ、怒り、嫉妬、誰にでも必ずだ。その心を埋めてやるの

  だ、その者の理想の世界を見せてやる、我々が隙間を埋めてやるのだ。するとど

  うなるか、そいつは厳しい現実よりも与えられた理想を選ぶことになるのだ。

 

   人とは悲しいぐらいに弱い生き物だ。現実の世界では人と人が分かり合うほど

  難しい事はない。だが補完された世界ではそれが簡単に出来るのだ。そしてその

  心を集め、器に移し、理想の世界を見せてやる、その器となるのがアダムであり、

  エヴァシリーズなのだ。心を失った人間は何の抵抗もなく我々の言うことを聞く

  ようになる。対立も、無駄な動きもなく、我々が指導するがままに理想の社会を

  形成することになる。これぞ唯一人類が生き延びるための手段なのだ。

 

   もちろん様々な条件が必要だ、世界中に同時にシンクロ波を供給するための端

  末として10体を越えるエヴァシリーズを世界中に配備すること、アダム単体で

  はエネルギーが足らぬ為、同種の存在である使徒を呼び寄せ、滅ぼしてエネルギ

  ーを得ること。セカンドインパクトも計画の一端だった」

 

  偽りの世界、偽りの安息、与えられる平穏・・・・そして心なき人類。シンジは

 鳥肌が立つのを感じた。隣にいるアスカとレイを見てみると、やはり恐怖に震えて

 いた。

 

 「嘘だ!嘘なんだろ、父さん!だってリツコさんが言ってた、人は拾った神を使お

  うとして失ったって、それがセカンドインパクトだって、その後新しく人の手で

  作り出された神がアダムなんだって」

 

  ゲンドウは、我を失ったシンジを薄笑いをたたえながら見ていた。

 

 「シンジ、お前が私の話を嘘だと言い、赤木博士の話を信じる根拠は何だ?確かに

  彼女の話はある程度は真実だ。だが、全てではない。彼女がアダムと信じている

  物を我々はリリスと呼んでいる。アダムを素に作られたコピーだ。そしてセカン

  ドインパクトの原因は確かにアダムだが、アダムは失われてなどいない、ゼーレ

  が今でも保有している」

 

  冷静に考えればゲンドウの言うとおりだ。リツコの言葉よりもゲンドウの言葉の

 方が真実に近いに決まっている。だがこの状況で冷静になれるはずがなかった。

 

 「そんな・・・・そんなこと本気で考えているの?そんなことのためにセカンドイ

  ンパクトを起こしたの?その為に20億もの人達が死んだんだよ!」

 「逆だ」

 

  ゲンドウはいかにも楽しげに言葉を続けた。これほど楽しげなゲンドウを見るの

 はシンジは言うに及ばず、レイも初めてだった。

 

 「行動と結果がが逆だ。わからんか?それでは分かるように言ってやろう。セカン

  ドインパクトを起こしたために20億の人間が死んだのではない。20億の人間

  を殺すためにの手段として、セカンドインパクトを起こしたのだ。

 

   当時の地球の人口は多すぎた。我々が導いてやるにはもっと少ない方が都合が

  良かったのだ。だから間引かせてもらった、アダムの力を知るための実験もかね

  てはいたがな。そういえば葛城三佐の父親、葛城博士もあの時南極に行ってもら

  っていたな。我々の崇高な目的も理解できずに非難を繰り返していた邪魔な存在

  だったからな」

 

  シンジは震えていた。この人は何を言って居るんだ?きっと嘘だ、冗談だ。でも、

 父さんが冗談を言う人か?それじゃこれは夢だ。

 ・・・だが彼は理解していた。これは現実であり、彼の父が語っていることは真実

 であると。

 

 「計画は順調に進んでいた、だが不幸なことが起きた。ユイが建造されたばかりの

  エヴァに、お前が乗っている初号機に取り込まれたのだ。もちろんサルベージは

  行った。だが不完全だった。ユイは魂のほんの一部分しか戻ってこなかった。

 

   その原因を徹底的に調べた結果。分かったのは二つの力が足りなかったという

  事だ。エヴァから引き上げるのを助ける力とその後ここに止めておく力が。だか

  ら私はその力を作ろうとした。引き上げる力、エヴァを操りユイを導ける者と、

  導いたユイを止めておく物、ユイの心を入れておく器を。それがお前達だ、シン

  ジ、レイ」

 

 「それじゃ・・・私は・・・・」

 

 「お前の中にユイはいる。だがそれはほんの一部分だ。私が求めていたのは完全な

  ユイでありお前ではない。体は作ることが出来る。だがその体がユイを受け入れ

  なかったら全てが終わってしまう。レイ、お前が今まで生きてきたのは全てこの

  ためだ。ユイのために完全な体を提供できるように実験するためだ。ユイが目覚

  めるまで言うつもりはなかったのだがな。

 

   シンジ、お前がレイに自我を与えようとしたのがいかんのだ。器に自我はいら

  ん。そしてシンジ、お前にもな。お前達はユイを助け、再び私の前に連れてくる

  為だけに生きてきたのだ。それ以外に存在価値など有りはしない。自我など持た

  れては困るのだ、その様にするための育て方は命じてきたつもりだったのだがな」

 

 

 「僕の・・僕達の、今までの苦しみは、悲しみはその為に・・その為だけに・・・」

 

  シンジが声にならない叫び声を上げ、いきなりしゃがみ込むと吐いた。吐く物が

 無くなるまで、無くなった後も胃液を吐き続けた。

 

 「シンジ・・・・しっかりして・・・」

 

  悲しげにシンジの背中をさするアスカは涙に溢れる目をゲンドウに向けた。

 

 「どうしてそんなひどいことが出来るの!どうしてこんなにシンジ達を苦しめるの!

  あなた・・・・それでも人間なの!」

 

  冷笑して答えるゲンドウ。

 

 「人間だ、少なくとも今はまだな。だがもうすぐだ、もうすぐ私は人類を救う救世

  主となるのだ。そして人類を導いていく。ユイと共にな」

 

 

  ゲンドウが去った後も3人は身じろぎ一つしなかった。数分後、突然シンジは叫

 び声を上げながら床に拳を打ちつけ始めた。皮膚が割れ、拳が裂け、鋼鉄製の床は

 すぐに血に染まりだした。

 

  レイの目は何も見ていなかった。虚ろという言葉でも表現しきれないほど光のな

 い目だった。今に比べれば以前人形と呼ばれた頃の目など生気に満ちて輝いていた

 ように見えるだろう。

 

  アスカの目は二人を見ていた、だがどうすることもできなかった。二人に掛ける

 べき言葉も、してやれることも有るはずがなかった。ただ溢れる涙を拭いもせずに

 二人を見ているしかなかった。

 

 

 「僕は・・僕は何の為に戦ってきた?何の為に生きてきたんだ!?何の・・・為に

  ・・・生まれてきたんだよぉ・・・」

 

  心を砕かれた3人しか居ない鋼鉄の部屋に、いつまでも拳を打ちつける音と絶叫

 が空しく響いていた。

 

 

 《続く》

 

 



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