慟哭の刻

 

 

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                 8.

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 (この感覚は何度やっても好きになれないな・・・)

 

  シンジはエヴァの打ち出しによる強力なGに耐えながらそう考えていた。呑気、

 と言うわけではない。この一瞬が彼にわずかに残されている普通の人としての時間

 だったからだ。

  やがて上方に光が満ち、強烈な衝撃と共にエヴァは動きを止める。拘束具が除去

 された。前方には奴が肉眼で確認できる位置まで迫っている。異形の巨人アダムが。

 

 

 

 「やはり現れたか、エヴァンゲリオン初号機」

 「当然だろう、碇に他に手はない。降伏するとも思えんしな」

 「アダム・・・全てのエヴァンゲリオンの元となりし物、いわばオリジナルエヴァ

  ンゲリオン。初号機・・・全てのエヴァンゲリオンの旗機として作られた物、い

  わばマスターエヴァンゲリオン」

 「オリジナル対マスターか、見物だな」

 

  彼等は余裕を持っていた、勝利を疑っていなかった。彼等にとっての見所とは初

 号機が如何に敗れるかにある。

 

 

 

  初号機とアダムとの間にいくつかの防御壁が突き出した。

 

 「シンジ君!最初っから全力で行くわよ。アダムの力は未知数、慎重にね。左手の

  ビルにパレットガンを用意したわ。とりあえず防御壁を生かしながら攻撃して。

  こっちも援護するわ」

 「はい」

 「発進前に通常兵器で出方をうかがっておくべきだったんじゃないかしら?」

 「・・・・・・今更言ってもしょうがないでしょ!」

 

  ミサトの言葉も自然と荒れてくる。

 

 (・・・・・リツコの言う通りだわ。奴に対する怒りと恐怖でそんなことも怠るな

  んて・・・確かに効き目はないでしょうけど、奴の力が少しでも分かっていれば。

  何やってるのよミサト!ただでさえ勝ち目の薄い戦いにシンジ君を送り出してる

  って言うのに、私の判断ミスであの子にもしもの事があったら・・・)

 

  だが彼女はその感情を心の中に押し込めた。指揮者の不安は全体の志気に関わっ

 てしまうことを知っていた為である。

 

「初号機シンクロ率100%、パレットガン配備完了、戦闘準備完了」

 

  シンクロ率100%と聞いてゲンドウの眉が動いた。この時シンジが補完計画を

 遅らせるためにシンクロ率をわざと落としていたことがばれたのだ。例え無事に帰

 れたとしても補完計画は実行に移されるだろう。だが、勝ち目の薄い戦いの前に既

 に勝った時のことを考えている奇妙さに本人は気づいていない。

 

 

  初号機がパレットガンに手を伸ばそうとしたとき、アダムの左手がゆっくりと挙

 がった。防御壁の向こうの初号機を指さすかのようにして動きを止めたアダムの指

 に光が灯った。

 

  まさに今パレットガンを取ろうとしていた初号機の眼前を一本の光が通り過ぎ、

 ビルが火を噴いた。

 

 「なっなんだ?ミサトさん今のは!?」

 「シンジ君、気を付けてアダムの攻撃よ!防御壁も役に立たないほどの。リツコ!

  アレって加粒子砲?」

 「分からないわ。ミサト、防御壁はしまった方がいいわ。役に立たない以上視界を

  妨げるだけ不利よ」

 

  防御壁がしまわれたことによりアダムと初号機間を隔てる物は何もなくなった。

 再びアダムの指先に光が灯る。

 

 「避けて、シンジ君!」

 

  だが走る初号機よりも指先を動かすだけで良いアダムの方が有利である。光が放

 たれた。シンジもとっさにATフィールドを全力展開する。だが・・・

 

 ピシッ

 

  澄んだ音を立ててアダムの光は初号機のATフィールドを一点だけ穿った。太股

 を貫かれた初号機は思わず転倒する。だが、傷はすぐに閉じた。シンクロ率100

 %でのエヴァの再生能力は並ではない。但しシンジにかかる痛みも並ではあり得な

 いはずである。

 

 「そんな・・・・今の初号機のATフィールドを紙みたいに・・・」

 

  またもやアダムの指が光るのを見たミサト達はアドバイスもできずに悲鳴を上げ

 そうになった。

 

 「これなら!どうだー!」

 

  指を目一杯に開いた初号機の右手が突き出される。そこに掌より二周りほど大き

 な円形の光が収束した。透明感のほとんど無いその光を直撃したアダムの光は弾か

 れて方向を変えた。

 

 「あれは?」

 「シンジ君・・・まさかATフィールドを収束させたの?」

 「出来るのそんなこと?」

 「今のシンジ君なら可能よ」

 「いけるわ!」

 

  だが、天使の名を持たぬ使徒には人間に一片の希望も与えるつもりもない。左手

 の5本の指がそろえられ、容赦なく光が放たれた。先程と同じ方法でATフィール

 ドを収束させた初号機ではあったが、帯状になった光は何の抵抗もなく通り過ぎ、

 初号機の肩を深々と切り裂いた。光が消えた後、初号機のATフィールドが崩れて

 いくのが確認できた。

 

  もはやだれも言葉を発しない。見せつけられたのだ・・・・力の差を。

 

 「シンジ君・・ごめんなさい。奴との力の差は作戦レベルでどうなる物でもないわ。

  残るは賭だけね、かなり無謀な」

 

 初号機のモニターに映るビルの幾つかが色を変えた。

 

 「このビルにスマッシュホーク、ソニックグレイブなんかの近距離戦の強力な武器

  を用意したわ。シンジ君は奴の攻撃をかわしながら突っ込んで、途中のどのビル

  かで武器を手にして。そして奴が対応しきれない内にATフィールドを中和、一

  撃で決めるのよ」

 「ちょっと、ミサト!それじゃ特攻じゃないの!シンジにあの攻撃に真正面からつ

  っこめっていうの?」

 「使徒は・・・・特攻では倒せないわ」

 「遠距離からだったら余計に勝ち目がないのよ!」

 

  レイが言葉を発したことに気づいた者は居なかった。それどころではないと言う

 状態なのだ。ただ一人唇をほころばせた者が居たが、それはレイのことに気づいた

 のか覚悟を決めたのか分からなかった。

 

 「行きます!」

 

  ミサトの指示を待たずに初号機が走った。慌ててミサトがビルを開かせる。アダ

 ムにたどり着くまでにそのどれかを手にしなければならない。アダムは冷静に指先

 から光を放ち続けた。そのうち数本は初号機の体を貫く。激しい激痛が走るが、シ

 ンジはそれに耐え、急所への直撃だけはかわしていた。

  アダムも初号機がビルに取り付こうとしているのに気づき、その瞬間を狙った。

 致命傷もなく距離を詰めることは出来たが、武器も手に出来ない。この距離で動き

 を止めるのは自殺行為である。何とかアダムにたどり着く前に武器を手にしなくて

 はならない。

  ・・・焦りがあったのだろうか?初号機がまともに身をさらし、ビルへと向かっ

 た。アダムはすかさずそのビルへ光を放とうとする。瞬間、初号機は大きく逆へ飛

 んでいた。

 

 (フェイントか!)

 

  全ての人が気づいたときには初号機はついにスマッシュホークを手にしていた。

 アダムの反応が一瞬遅れた。その機を逃さずに初号機は最後の距離を一気に縮めた。

 同時にアダムのATフィールドを中和する。元のエネルギー量には差があるだろう

 が、この機を狙っていた初号機と不意をつかれたアダムの差だろうか?フィールド

 の中和は成功した。初号機は渾身の力を込めた一撃をたたき込む。

 

 

 

 

 

  勢い余って地面を叩くこととなった。その時シンジは抵抗がまるで無かった事を

 不審に思い、刃の部分を見た。そして驚愕した。刃の部分が折られて・・・いや切

 り落とされていたのだ。見上げればそこにアダムが剣のような物を振りかざしてい

 るのが見えた。慌てて身をかわした初号機がさっきまで居た場所にアダムの刃がめ

 り込む。と言うよりも大地さえも切り裂いたように見えた。

 

  アダムのそろえられた指先から発した光は絡み合い、固形化されて剣のようにな

 っていた。とっさにプログナイフを装備した初号機の眼前を光の刃が通り過ぎる。

 プログナイフの刃先は綺麗に切断されていた。

 

  左手の光も刃と変えたアダムは猛然と初号機に切りかかった。素手で、この距離

 で勝てるはずもない。次第に初号機の負う傷が増えていき、回復にも間が空くよう

 になった。

 

 「ミサト、どうにかならないの?このままじゃシンジが!」

 

  アスカの悲鳴にもミサトは答えられない。分かっていた、全員に分かっていた。

 もうどうにもならない、遠距離、近距離共に圧倒的な力の差を見せつけられては打

 つ手などあるはずもなかった。爪が食い込みミサトの掌は血に染まりだしたがそれ

 に彼女自身も気づかなかった。

 

 「あっ!」

 

  レイの驚きの声にモニターを見るとついにかわしきれなくなったのか、アダムの

 左の刃が初号機の腹部を貫き通していた。

 

 「シッ、シンジーー!」

 

  動きの止まった初号機に止めを刺すべくアダムは右の刃を振りかざした。

 間一髪、それが振り下ろされる瞬間、初号機の左手がアダムの手首を掴んだ。光が

 収束していないとはいえ、影響はあるのだろう。初号機の左手から白煙が上がる。

 

 

 

 「終わったな」

 「ああ、裏切り者の末路などこんなものだ」

 「永かったな」

 「我々の未来に乾杯でもするか」

 

  老人達は感慨に耽るのはまだ少しはやい事に気づいていなかった。

 

 

 

 

 何もできない悲しみと苦しみに満ちた司令部にシンジの声が流れ出した。

 

 「アダム・・・君も被害者なんだね。いきなり他の世界に移って、自分で動くこと

  もできなくなって、父さん達に心と体を奪われ、切り刻まれ、自分の分身が自分

  を助けに来てくれた仲間を殺して行くのを見なくちゃならなかった・・・そして

  今は自分の意志と関係なく動かされている・・・痛かっただろ、辛かっただろ、

  苦しかっただろ・・・ごめん、ごめんよアダム。僕は無力だから君に何もしてあ

  げられない。僕がしてあげられそうな事と言えば、その苦しみから解放してあげ

  ることぐらいしかないと思ったんだけど、それぐらいは僕自身でやりたかったけ

  ど・・・・無理・・・・みたいだね」

 

  シンジは泣いていた。この期に及んでもアダムのために泣いていた。

 

 「だから・・・・・アダム、君の仲間の力を借りるよ。君の仲間の力を借りて・・

  君を、解放してやる!」

 

  最後の叫びと同時に初号機は左足でアダムの腹を蹴った。その勢いで刃は引き抜

 かれ、アダムとの距離はわずかに空いた。当然追い打ちをかけてくると思えたアダ

 ムだったが、何故か動きを見せようとしない。

 

 

 

 「アダムはどうしたというのだ!何故動かん!」

 「命令はしている、アレはアダムの意志だ」

 「意志だと?どういうことだ、制御は完全のはずだぞ!」

 「確かに制御は完全だ、だが本能までは奪えん。アダムは奴に・・・初号機に怯え

  ている」

 「アダムが?馬鹿な、一体何があった?」

 

 

 

 「サキエル・・シャムシエル・・ラミエル・・ガギエル・・イスラフェル・・サン

  ダルフォン・・マトリエル・・サハクイエル・・イロエル・・レリアル・・バル

  ディエル・・ゼルエル・・アラエル・・アルミサエル・・・・そしてカヲル君、

  君たちの力を貸してもらうよ。・・・・君たちの仲間を助けるために!」

 

  シンジの叫びと共に世界中が淡い光に包まれた。そしてその光は世界の数カ所へ

 と収束していく。ネルフ本部にも2つの光が灯った。

 

 「エヴァ格納庫において異常反応!・・・何かとてつもないエネルギーです」

 「なに・・・あれ?」

 

  格納庫を映したモニターがそこにある零号機と弐号機をとらえていた。2体とも

 光に包まれていた。呆然とそれを眺める人々の眼前で光は急に消えた、まるで何事

 もなかったかのように。同時に世界中で灯っていた光も消えていた。

 

 「更に巨大なエネルギーを観測!今度はセントラルドグマです!」

 「セントラルドグマ?リリス!?」

 

  リリスは光に包まれていた。それは神々しいと言うほどに美しい光である。その

 光はリリスを離れ飛び立った。今度は急に消えたりはせずに、指向性を持って飛ん

 だ。その先にあるのはエヴァンゲリオン初号機。

  光は初号機と一つになった。と言うよりむしろ、離れていた体の一部が帰ってき

 たようにも見える。光は初号機にまとわりつき、オーラの様に、コロナの様に揺れ

 ていた。あたかも数対の翼のように。

 

 「碇・・・これは?」

 「シンジめ、補完計画のエネルギーを使ったか。まあいい、これでアダムを倒せる

  ならばな。それにこれでもう言い訳はさせん、すぐにでも補完計画を実行に移せ

  る」

 「その前にアダムだろう?」

 

  答えずに笑っているゲンドウを見て冬月は疑問を禁じ得なかった。

 

 (このことは碇のシナリオにもあるまい。先程の思考の飛躍といい、何かがずれ始

  めているのか?)

 

 

  アダムは左手を構えた。既に最初の頃の余裕を持った動きではない。数条の光が

 放たれたが、初号機は右手を掲げ、それを無造作に握りつぶした。アダムが指をそ

 ろえようとした瞬間初号機が動いた。信じられないスピードでアダムの懐には入っ

 た初号機は渾身の力を込めた拳をアダムに見舞った。アダムは大きく吹っ飛び、ビ

 ルにめり込んだ。

 

 「す、凄い!」

 「何て力なの・・・これならひょっとすれば・・・」

 

  見ている者達にも絶望的な恐怖はなくなった。あるのは力の近い者同士が戦うと

 きにある緊張感だけである。

 

  アダムが動いた。刃を初号機にたたき込む。初号機は左手でそれを受けたが、流

 石に押さえきれずに刃が軽く食い込んだ。だがその隙に初号機の蹴りが脇腹にヒッ

 トする。アダムが二撃目を刃で受けようとしたのを見た初号機はすかさず中段蹴り

 から上段蹴りにスイッチ、再びアダムが大きくのけぞった。だがアダムも離れ際に

 至近距離から光を放つ。かわしようが無い上にこの距離ではダメージも大きいらし

 く、初号機も片膝をついてしまった。初号機の蹴りをまともに喰らったアダムの顔

 も歪んだようだがすぐに元に戻る。再生力ではアダムに分があるようだ。

 

 

 

  再び交錯する2体の鬼、人によってはそれを神と悪魔のハルマゲドンに例えただ

 ろう。それほどにすさまじい戦いが延々と続いた。どちらが神になるかは見ている

 人の立場によるに違いない。

 

  戦いは永遠に続くのかとさえ思われた。初号機の攻撃は素手による物なのでアダ

 ムに決定的なダメージを与えられない。アダムによって与えられたダメージも今の

 初号機にはほんのわずかな物であるし、すぐに回復する。夕闇が漂い始めても二体

 の発する光がその光景を浮かび上がらせていた。

 

 

 「このままではこちらが不利ね」

 

  リツコの言葉がその場を凍らせた。

 

 「どうして!何で!」

 「一見互角でも、消耗度に大きな差があるはずよ、アダムのダメージは素手の攻撃

  による物、大したダメージじゃないわ。ところが初号機はわずかとはいえ確実に

  ダメージを負っているわ。どっちの方が消耗するか分かるでしょ?」

 「・・・・・・」

 「そして何より、アダムは一個の生命体であるのに対して、初号機はシンジ君が操

  縦している・・・」

 「それが?」

 「初号機は傷を回復させればいいとしても、シンジ君自身の痛み、疲労度なんかが

  蓄積すれば・・・・不利になる一方ね」

 「それじゃ、初号機に武器を持たせて早めに決着を」

 「この戦いで、人間が作り出した武器が役に立つと思う?まだ素手の方がましよ」

 「よくそんなに平然と言えるわね!」

 「事実よ!それに・・・・・私だって平気って訳じゃないのよ!」

 

  リツコの手もきつく握られていた。その手はミサトと同じく血がにじんでいる。

 

 「リツコ・・・・ごめんなさい」

 「いいのよ、私だって何故こんな気持ちになってるのか分からないぐらいだから。

  ただ・・・こんなに汚れた私も受け入れてくれたあの子が死ぬところ何て見たく

  ないのは確かね。多分ここにいる全員が同じ気持ちじゃないかしら。・・・・・

  一人を除いてね」

 

  リツコとミサトはちらりと後ろへ目をやった。そこには戦っている少年を息子と

 も一人の人間とも見ていない男が居た。

 

 

  夜の闇が光に溶け始める頃、アスカが震える声で言った。

 

 「初号機の光・・・・よっ弱くなっていない?」

 

  確かに昨日のような神々しい光ではなくなっている。翼のようにさえ見えた光の

 奔流もない。ただ体を薄膜が覆っているかのようだ。そのことを証明するように初

 号機の負う傷が増えだした。弱い光ではアダムの力を受けきれない。

 

 

 

 「ここまで粘られるとは予定外だがようやく決着か」

 「ああ」

 

  だが、会話に昨日と同じ余裕はない。彼等の中に暗い不安が溢れていた。

 

 (昨日我々は万全の体制で戦いを仕掛けた。一瞬で決着が付くはずだった。だが、

  現実に今まで戦っている。本当に大丈夫なのか?まだ何かあるのではないのか?)

 

 

 

 マイクから流れるシンジの息づかいもかなり荒くなって来た。

 

 「アダム・・・・・・終わりにしよう」

 

  初号機の全身の光が両拳に集まった。特に右の拳は最初の頃のような光を放って

 いる。但し他の部分にはまるで光がない。

 

 「捨て身!?シンジ!」

 「碇君」

 

  少女達の叫びを振り切るように初号機は駆けた。突き出されたアダムの刃が頬を

 かすめるのもかまわず右をアダムの顔面にたたき込む。アダムは大きくはじけた。

 初号機の拳の光も弱まっている。

 

  その時異変が起きた。アダムの顔に亀裂が走り、その隙間から光が漏れ始めたの

 だ。アダムも顔を押さえて苦しみだした。

 

 「こっ、これは?」

 

 戸惑う人々をよそに初号機はアダムの懐へ入った。

 

 「アダム!」

 

  左拳がアダムの鳩尾を捉える。左の拳から光が消えたが、アダムの腹部にも亀裂

 が走り、そこからも光が漏れ始めた。

 

 「これで!」

 

  アダムは狂ったように左右の刃を突き出したが、もはや悪あがきに過ぎない。初

 号機は難なくそれをかわしアダムの目前に身を置いた。

 

 「終わりだ!」

 

  右の拳がアダムの胸を貫いた。初号機の体から完全に光が消え、アダムの体から

 閃光が漏れた。最後に殴った三カ所がアダムの体を縦に貫き、ひび割れが全身に広

 がっていった。

 

 

  事態を理解した司令部に驚きが走った。

 

 「シンジ君・・・・アダムが再生できないように内側から破壊したの!?」

 

 

 

  事態を理解した老人達に驚きが走った。

 

 「ば、馬鹿な!アダムが・・アダムが敗れるはずがない!いくら初号機と言えども

  奴はコピーだぞ!オリジナルに勝てるはずが・・・」

 

 

 

  狂乱する人達の心もしらず、アダムから破片が落ちだした。破片は地に着く前に

 光となって宙に消えた。今までの使徒とは違い、アダムは爆発せずに一欠片ずつ消

 えていく。そして最後の一欠片が光と化したとき人々はようやく気づいた。アダム

 が滅びたことに。

 

 「さようなら、アダム。遠い昔、遥かなる未来に僕達と交わらない世界で生きた者」

 

 

 「勝った・・・・んだよな」

 「ああ、か、勝っちまったよ」

 「夢じゃ・・・・・ないですよね!」

 「いやっっっほーーーー!」

 

  司令部中、いやネルフ本部中が歓喜の渦に包まれた。生き延びたことに対する純

 粋な喜びであった。

 

 「シンジ!こら、返事しなさい!」

 「碇君」

 「・・・・大声出さないでよ、疲れてるんだから。約束しただろ、勝つって。綾波

  も元気になったみたいだね、良かった」

 「良くやったわ、シンジ君。まったくあなたって子は」

 「大したものね」

 

  みんなの賞賛を浴びてシンジは照れていた・・・・はずだ。アスカ達も一刻も早

 くシンジの笑顔を見たいと思ったが、何故かモニターが回復しなかった。

 

 「とにかく早く帰ってきなさいよ」

 「・・・・・・うん」

 「シンジ良くやったな」

 

  この言葉に歓喜の渦が流れを止めた。

 

 「アダムを倒した今何の障害もない、お前がシンクロ率100%を出せることを黙

  っていた件は不問に伏してやろう。さあ、帰ってこいシンジ。全ての準備は整っ

  た。これより人類補完計画を発動させる!」

 

  ミサト達はこの瞬間まで忘れていた。アダムを倒すと言うことは、シンジが無事

 帰ると言うことは、同時に人類補完計画の開始を意味するのだと。背筋が凍る思い

 とはこういう物かと考えた彼女達はこのすぐ後考えを改めることになる。

 

 「準備が整った・・・・・・うん、そうだねやっと準備が整ったんだよ父さん。僕

  が最後の戦いを始めるための準備が。ここからが・・・ここからが僕の最後の戦

  いだ!父さん、僕はあなたに負けない」

 

 

 

 

 「・・・・どういうことだ」

 「どうもこうもあるか、昨日とは我々と奴等の立場が逆になったと言う事だ」

 「つまりは徹底抗戦あるのみか」

 「当然だ、未だエヴァシリーズは我々の手の中にある。今の消耗しきった初号機に

  なら勝ち目はある。戦闘配備を急がせろ」

 「各国に支援要請をするわけにはいかんな、墓穴を掘るだけだ。我々の手持ちの部

  隊だけでやるしかあるまい」

 「通常部隊にネルフ内部への侵入を命じろ。外と内から奴等を叩く」

 「見ているが良い、碇。貴様の思い通りにはさせん」

 

 《続く》

 



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