〜無限にあるはずであり、今では「あった」とするべき可能性の一つの提示として〜

 

この世を創造したる全能神は 平等に人を創り出した。

故にヒトは等しく愚かであり そして等しく賢明であるのだ。

A.アインシュタイン(要約)

 

『不死鳥の系譜』−フェニックス・ライン−

プロローグ

 

彼女がいなくなってから1年が経とうとしていた。

僕は生きる目的を失いかけていた。

僕だけが生き残った。生き残るべきでない僕が、生き残ったのだ。

 

僕は旅に出た。行く宛てもなく、ただ漠然と北を目指した。

北海道。セカンドインパクトからも一年前の凶事からも比較的被害の少なかった

土地。それは残された楽園に見えた。広大な牧草地、のどかな風景、『生きている』

人々。

それは僕とのコントラストをより一層、くっきりと現わしているように思えた。

 

ふと、気が付くと目の前に一頭の馬がいた。

「うわっっ」

僕は驚いて後ずさりした。

「どないした?なんかこの子が悪さでもしたか」

そういって近づいてくる壮年の牧夫。

「いえ、そうじゃないんですけど、ちょっとびっくりしたものですから」

「しかし、あんな大声上げられても驚かないとは、よっぽど兄ちゃんのことが気に

入ったんだな」

まさかと思った。そうして、その馬の方を見た。

 

心臓が止まる思いがした。

 

「ツェッペリンは気性が荒くて仕方が無いはずなんだが、兄ちゃんの前じゃあ大人

しいね。いったいどういう吹き回しか・・・・もうすぐ子供も生まれるっていうのにな

「・・・すいませんけど・・・」

「なんだい?」

「この馬、譲ってもらえませんか?」

「はあ?馬鹿言っちゃいけないよ。この馬はうちの肌馬の中じゃ一番なんだ」

「でしたら、この子馬でも、いや、この子馬がいいんです。お願いします!!」

「しかし、サラブレッドは走って、そしてレースに勝ってこそ価値があるんだよ。

兄ちゃんは一体この子馬をどうする気だい?」

「え、あ、あの・・・」

牧夫は諭すように僕に語った。

「いいかい、兄ちゃんの年齢じゃ馬主は無理だ。その権利が無い。いくら金が在っ

ても国が許しちゃくれないよ。なんだったら親父さんにでも頼んでたらどうだい」

「・・・」

僕は答えることが出来なかった。

「或いは、兄ちゃんが騎手になるってのもあるな・・・はは、まあこれは冗談だが

ね」

しかし、僕にとってはそれは「金言」であった。

「・・・もう少し待っていてはくれませんか」

「ああ、いいよ。だけど、早めにな」

「はい!」

 

僕は東奔西走した。

僕が頼ったのは鈴原トウジだった。彼の父親に馬主になってくれるように頼んだ

のだ。もちろん購入資金は総て僕持ちである。金銭に糸目は付けなかった。僕には

そうできるだけの余裕があったのだ。

「よっしゃ、お前が夢中になることなんぞ滅多にあらへんからな。協力したるわ」

トウジはそう言って僕の背中を強く叩いた。

そして、僕は・・・

 

『第六レースはサラ系新馬の1600メートル、6頭立てです』

 

騎手になった。

 

『一番、ダイタクコース 406キロ 関東の若武者、関トモキ騎手の騎乗』

 

ツェッペリンから生まれた子馬は、僕の予想通りだった。

 

『二番、チェリークロス 512キロ 宮村アスカ騎手が手綱を持ちます』

 

見事なまでの栗毛の牝馬。神々しいまでのその姿。

 

『三番、マイネルサンシャイン 472キロ 名手大友リュウジ騎手が鞍上です』

 

しかし、僕以外の人々は慄然としたという。

 

『四番、ヴァチカンウェイ 456キロ 高山ミサキ騎手に総てを託します』

 

僕達をじっと見詰めるその瞳は・・・蒼く澄み渡っていたのだ。

 

『五番、サイクロン 482キロ 期待の新人、長沢ユキ騎手の騎乗です』

 

僕は彼女に最も相応しい名を捧げた。

それは・・・

 

『六番、アスカラングレー 424キロ 鞍上は碇シンジ騎手。以上の六頭です』

 

 

1分30秒のドラマ。そしてそれは当然の結果に結実する。

 

『アスカラングレー、アスカラングレー!!これは強い!何も寄せ付けない!!

8馬身、9馬身・・・それでは収まりそうも無い!誰にも影を踏ませることなく

ゴール板を駆け抜けるっ!!アスカラングレー、差し切りました。時計は1分3

5秒7。上り3Fは35秒0!!これは強いっっ!また一頭、栗毛の少女が阪神

3歳牝馬Sに名乗りを挙げました!!』

 

ウィナーズサークルに向かう途中で僕は彼女の首にくちづけをした。

「アスカ・・・これからも一緒だよ・・・」

その声が聞こえたのか、そうでないのか、彼女は当然であるかのように「勝利

者の聖域」に立っていた。

 
 

<つづく>

 

皆さん、初めてお目にかかるかと思います。螺旋迷宮(基本的には自分の事は

螺旋と呼んでいます)と言います。今回、DARUさんに無理を言って掲載させ

て頂く事になりました。この様な時期に或いは不謹慎かもしれませんが、一応私

自身の中ではEVAは終わる事はないと思っています。それは創作活動とかそう

いうものではなく、EVAからの問い掛けと言う意味においてです。

私はその問い掛けの自分なりの答えを導き出す為に(とはいっても安易に見つ

かるものでもなく、一生掛っても判らないものなのかもしれませんが)色々な可

能性を試してみたいと思ったのです。

 

そういう訳で、これからしばらくの間、皆様の視界を煩わせると思いますが、

ご容赦くださいませ。



 
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