死者の道 第十話

 

「ジャンキーが見る夢が美しい愛だなんて思わない、」

 

 

 

 

飛行機の中、シンジの両隣はレイとアスカがいた。

「アスカ調子はどう、」

心配そうにシンジが尋ねる。

「、、、最悪、、、、、」

「二日連続でお酒なんか飲むからだよ、アスカはまだ未成年なんだから、少しは考えなよ、」

昨日アスカは今度出すシングルの歌入れをようやく終え、打ち上げを兼ねてバック・ミュージシャン達と飲みに行っていた。もちろん作曲したシンジも付合わされていた。

「なによ、、、本当だったら二人っきりなはずだったのに、、、、、酒でも飲まなきゃやってられないわよ、、」

(まだ酔ってるなぁ、、、、もういいかげんにしてくれ、、、、)

シンジは昨晩からずっとアスカの愚痴を聞かされ、疲労しきっていた。

「シンちゃんほっときなよ、そんな酔っ払い、、、、、まったくアスカもみっともないわねぇ、」

アスカとは対象にレイはご機嫌だった。

「なによ、飛行機に乗れるって言って、はしゃいでる様な田舎者にそんな事言われたくないわよ。」

「なんですって!この暴力女が!」

「なによ!このジャンキーが!」

シンジは頭の上で起こっているやり取りに付合ってられないと思い、ヘッドホンをしながら目を閉じた。

そしてゆっくり、静かに昔を思い出していた、、、

 

白の世界で白い生き物を探すんだ、、、

そう、、シンジはどんな生き物が好きなの、

う〜ん、妖精かな、

あら、妖精が見えるの、

うん、雪のなかで時々震えてるんだ、

そう、じゃあ暖めてあげないと、

でも触ると解けてしまうんだ、、、死んでしまうんだ、、だから、、、

シンジ、あなたの愛で暖めてあげるのよ、

愛?

そう、触れる事がすべてではないわ、感じる事がすべてでもないわ、、あなたの心が純粋なら、雪の妖精もきっと温まるはずよ、

どうしたら純粋になれるの?どうしたら愛を伝えられるの?

それはねぇ、あなた自身で見つけなくちゃだめなのよ、、、

「母さん、今、僕は純粋ですか、、、、、、」

 

 

「シンジ!」「シンちゃん!」

シンジは昔の世界から呼び戻される。アスカとレイはシンジの表情を覗き込む。

「どうしたの二人とも、、」

アスカとレイの表情は心配そうだった。そして、シンジはすぐに自分の変化に気が付いた。

「、、、、、泣いていたんだ、、、、僕は、、、、」

 

 

 

深い山々のなか、ある寺院がある。

荘厳な門は誰の訪問を望まぬかの様に、厚い威圧感で閉まったままだった。

寺院の中には人の気配はあまりせず、ただ静かな自然と同化できる様にされている。

「宇宙はここに存在する、、、、」

茶室から眺める景色は敷き詰められた小さな石と、自然のまま苔が生えている大きな石が無造作に、何の法則もなく存在しているだけの庭であった。

「すべてが無であり、すべてに真実が宿る。」

「魂がこの世界で有限であると思う人間には、その教えを悟には神の力が必要です。」

年老いた住職の前に正座する男、碇ゲンドウは静かに答える。

「だからといって自分の息子に血を流させる必要があるのかね、」

「シンジの魂はすべての生命の救いです。そうする為に存在する人類にとってたった一つの希望です。」

「希望か、、、、希望を持たず、ただ欲望の為に生きてきた人類を救うのが真の道とわなぁ、皮肉なものだ、」

住職は茶碗のなかに湯をいれる。

「人類が無意識に破滅を望んだと考えれば、シンジはまさに人間でもなく、神でもない存在になります。しかし、本能は生き続けることこそ生命の姿だと捉えれば、まだ人類は救われます。」

「苦しみもなく、悲しみもない世界が人類を救うのかね、」

「いえ、いいかげんな愛や優しさがない、生命の生き続けようとする意志がどれほど辛く、苦難に満ちた道のりかを教えるだけです。」

ゲンドウは差し出された茶碗を手に取る。

「死が終わりだと教える人々にかね、」

「えぇ、シュラウド博士とシーラー博士は人類の叡智こそ、最後に真実を掴み、人類を永遠な物にできると考えています。まさに、絶対的な真実が存在するかのごとく。しかし、存在自体には何の意味を持たない。存在の証明など人間にはできないのだから。」

「人が知りたいと思う気持ちは生命の神秘からきていると言われているが、」

「だが、どれほど科学が生命の存在を証明しても、その証明こそが無意味になる。」

「すべては人間の先入観などで決められた、小さな世界の中の出来事だ、」

「証明や真実は人間の価値観のみで決められ、神の存在、悪魔の業もすべて人類が生み出している。だが、存在を超えたところに真実はあり、そこにこそ生きる道がある。」

「死してなおも生の道を進むのかね、、」

「ええ、死者の道の先にある扉を開けるのは、人間にとっての真実ではなく、生命にとっての事実でなくてはいけません。」

「その為にはシンジ君が人類の悲しみ、苦しさすべてを判断しなくてはならなくてもかね、」

「その為の一族です。そして、ユイのたった一つの希望です、シンジは、」

ゲンドウは一気に茶を飲み干し、静寂の無を見つめる。

小さな鳥が鳴きながら飛び立つ、まるで、シンジ達に今を伝えるかのごとく、、、、

 

 

「は、、っくしゅん、、」

「アスカ大丈夫?」

「何よ、また新たな手でシンジに心配してもらおうとしてるの、この女は、」

飛行機から降りて、ホテルに向かうまでの間、アスカはアレルギーが止まらなかった。

「うるさわねぇ、、、は、、っくしゅん、、、あんたに、、っくしゅん、、、この苦しみが、、、、っくしゅん、分かるわけない、、、は、、、は、、っくしゅん、、、のよ、、、、、」

真っ赤な目をしたアスカはろくに会話もできないでいる。

フェイスタオルで鼻と口を覆っているが、アレルギーは止まらない。

「アスカ、アレルギー持ちなのにお酒なんて飲むから、薬がぜんぜん効かないじゃないの、」

珍しくマヤも怒り気味だ。

「アスカ、今日はホテルから出ちゃだめよ、」

「なんでよ!、、、っくしゅん、、、せっかく札幌まで、、、っくしゅん、来たのに、、」

「アスカ、マヤの言う通りよ。今日は一日ホテルで休んでなさい。遊びに来たんじゃないのよ、」

ミサトも少し怒り口調でアスカに言う。

「、、、、わかったわよ、、、」おとなしくうなずくアスカ。

「残念だったわね、へへ、、」レイはアスカの前で満面の笑顔を浮かべる。

「、、、憶えてなさい、、、、っくしゅん、、、シンジ!!」

「な、なに?」

シンジは真っ赤な涙目で睨むアスカに恐怖を感じる。

「あんたも今日一日外出禁止よ、、、」

「なんで僕までが!」一応は反抗するが、

「なによ、あんた私一人ホテルに残して遊びに行く気なの!」鬼のような形相で睨む。

「い、いえ、、、」脅えるシンジ。断ろうものなら殺されかねない。

「じゃぁ決定ね、わかった!、、、っくしゅん、」

「、、、、分かりました、、、、」無駄な反抗に終わる。

「ちょっと、なんでシンちゃんがあんたに付合わなくちゃだめなのよ!」

レイが当然怒る。

「レイ、、そのビンなに?」

カオルがレイのリュックから落ちた小さなビンを拾う。そのビンには骸骨マークが付いている。

ビンの中身は黄色い粉末が半分ほどに減っていた。

「、、、、アレルギー反応を誘発しますので、花粉症などの人の近くで粉末をまかないで下さい、、、、、、、」

カオルはビンに書いてある注意書きを読む。

全員がレイをいっせいに見る。空気が凍ったように冷たい、、、

「あ、、あれ、、、、そんなビン、、、どうしたんだろう、、、、、あは、あは、あは、は、は、、、、、」

レイの乾いた笑い声にも誰も反応しない。

「レイ、、、、あんたねぇ、、、、」

アスカのこめかみには怒りのマークが浮かんでいる、

「レイ、あんた、給料半分カットね、」

「そんなぁ、、、」

「それと今回は仕事以外の外出は一切禁止、わかった!!」

ミサトが有無も言わさぬ勢いでレイを黙らせる。

「、、、はい、、、」

レイもアスカと同じ涙目になっていた、、、

 

 

「じゃあ一時間後に私の部屋でミーティングね。」

ホテルに着き、チェックインを済ませ、各自の部屋のキーをもらう。

シンジとカオル、レイとアスカ、ミサトとマヤ、といった部屋割になっている。

「シンジ、荷物おいたら私の部屋にすぐ来なさいよ、」

「シンちゃん、荷物置いたらすぐ部屋に行くね、」

「、、、、、、、、」

シンジには部屋にいても、部屋を出ても悲しい結末が待っていた。

「しばらく一人にしてあげようよ、」

カオルがいきなり話す。

「シンジ君、本当は一人になりたいんだろ、いろいろ考えたいんだろ、」

「カオル君、、、、」

「僕は荷物を置いたらロビーにでもいるよ。」

「ちょっとなに勝手な事言って、、、」

当然アスカは反発する。しかしその言葉を遮るようにレイが話す。

「じゃぁ、ミーティングでね、シンちゃん、あんまり暗くならないでね、」

そう言ってアスカを引きずっていく。

「ちょっと、、レイ、、、っくしゅん、、、っくしゅん、、、レイ待ちなさいって、、、くしゅん、、、、、」

くしゃみと共に部屋に消えて行く二人。

「じゃぁ、僕も行くよ、また後でね、」

「カオル君、」

カオルが振り向く。

「ありがとう、助かったよ、」

「そう、よかった。」

いつもの綺麗な笑顔を残し、カオルも消えていった。

そしてシンジは一人で部屋のベットの上に横になった。そして、心の中にある過去をゆっくり振り返る、、

一度逃げ出したこの土地で、考えていた事、悲しんだ事、生きていた印を思い出す、、、

そして死に取り付かれていた自分を、思い出していた、、、

 

 

「なんで邪魔するのよ!」

「いいから、今はシンちゃん一人にしてあげて、」

アスカとレイは部屋で言い合いになっていた。

「だから理由をいいなさいよ!自分達だけ分かっていて、私だけ知らないなんていや!」

アスカはレイとカオルは何かを知っている、だからシンジを一人にしたんだ、そう思った。

レイはベットにブーツを履いたまま横になる。

「、、、、シンちゃん、北海道の牧場にいた話しは知ってるよね、」

「うん、」

「そこでの生活は聞いた?」

「あんまり、、、シンジ自分の過去を話すの好きじゃないみたいだから、、、」

「シンちゃんね、、、そこの牧場で、、、一度死んだんだ、、」

「、、、、」アスカはレイの言ってる意味がいまいち分からなかった。

「自殺したのよ、」

 

 

「えぇ、加地さんが言った通りです、警備の方も順調です、、、、、えぇ、シンジ君が牧場へ向かうとしたら3日後なはずです、、、、えぇ、それまでは彼らも手は出さないと思います、、、、大丈夫です、油断はしません、それじゃぁ、」

カオルは特殊無線電話で連絡を終える。

「そうか、、、みんなここに集まるのか、、、、、後はシンジ君次第だな、」

カオルはロビーのソファーに座り、ゆっくりと目を閉じる。

かつて過去から逃げた自分をシンジが救ってくれた事、そしてシンジ達と生きる道を探し始めた日々を、

ゆっくり思い出す。

(あの時はシンジ君が僕を支えてくれた。でも、今度シンジ君を支えるのは、、、)

 

 

 

「シンジ君の心が一度途切れた場所、、」

「でもまたつながった魂、、」

「ユイさんは許さなかったんだ、シンジ君が冷たい国に行く事を。」

「、、、本当に望んではいなかったのかも、死ぬ事を、」

ノーマとケイは深い森の中にある湖に来ていた。

セルリアンブルーが何層も重なり、さまざまなブルーを作り出す湖、

あまりの透明感と無限の深さに、見つめるほど引きずり込まれる湖、

そして、シンジが死を経験した、死を望んだ湖でもあった、、、

「シンジ君の歌詞には頻繁に出てくる、、、、綺麗な湖が、」

「風と湖、、、、すべてはここで感じた事が元だと?」

「そうとは言わないが、シンジ君は無意識の内に選んでいたのさ、、、この湖に眠る道を、」

「そう、、かもね、、、、、」

ノーマは悲しそうな瞳で湖を見つめる。

「シンジ君が、、人間としてあの扉を開ける事が本当に正しいのかしら、、」

「さぁ、でも博士達は神ではない真実が、人間の叡智の真実が世界を救う唯一の方法だと思っている、」

「シンジ君が神と同等の価値を持つ事が、世界を本当に救えるの?」

「人間の愚かさを憎み、人間の欲望を憎み、悲しみも苦しみもない世界を望めば、、、、」

「そんな世界が幸せだと言えるの?」

「ノーマ、僕たちの世界はもうすぐ限界が来る、今でも生物同士で無意味な殺し合いが続いているし、権力、軍事力、テロ、、、、社会という集合体の中で狂っていく人間達は、快楽で人の命を奪い、苦しませる。扉を開けた後のシンジ君が望む世界がどういった世界かは僕にも分からない。でも、いまのままでは、、、」

「シンジ君が望まなかったら、、、、」

「消えるだけさ、、世界が、この無限の宇宙がね、、、、」

静かな暑さを風に感じている。

二人は薄暗い森の奥深くにあるそれほど大きくない湖に小さなビー玉を投げ入れた。

小さな思いを込めたビー玉が、深く、暗い底へ沈んでいく、、、、

 

 

 

「、、といったスケジュールになっています。」

マヤがスケジュールを読み上げる。

「今日のところは、シンジ君達はライブハウスをこの後視察に行きます。アスカは一応フリーですが、ホテルで休むように。」

ミサトはさっきから大人しくしているアスカを不思議そうに思っていた。

椅子の上で半ズボンの脚を抱きかかえながら、アスカは何かを思いつめている様だった。

アレルギーは一応治まっているが、一応マスクを付け、ピンクのロングスリーブ・シャツの袖に顔を埋めて黙っている。

「アスカどうしたの?」

シンジがレイに小さな声で聞く。

「さぁ、、ちょっといじめ過ぎたかな、」

意地悪そうな笑みを浮かべて答える。

「いじめ過ぎたって、、、、」

シンジはレイの不気味な笑みの意味が分からなかった。

「じゃぁ、ライブ会場を見に行くわよ、」

ミサトとシンジ達三人は部屋を出ていこうとする。

「シンジ、、」

アスカが出て行こうとするシンジに声を掛ける。

「どうしたの、アスカ、、」

シンジのシャツを引き、マスクを顎にずらすアスカは、鼻声で少し赤い瞳になっている。

しかし、アスカの表情は何か思いつめていた。

「後で、戻ってきてからでいいから、二人で話しをしたいの、、、」

「い、いいけど、、」

シンジには後ろで睨むレイの視線が突き刺さっていた。

「、、、待ってるから、、、必ずね、、」

そう言ってアスカは自分の部屋に戻っていく。

 

「、、、アスカに何を言ったの、」

シンジは車の中でレイに話し掛ける。

「別に、ただ教えてあげたのよ、」

「何を?」

「シンちゃんの事、」

「僕の事?」

「そう、それとアスカが入り込めない世界の事も、」

 

 

 

薄暗い部屋の中、ベットにうつ伏せになってアスカは瞳を閉じた。

小さな自分の小さな吐息を感じる。

そう、小さな自分、、、何も知らない自分だ、、、誰も見てくれない私、、

そうか、、、私が誰の心にも入れないから誰も見てくれないんだ、、、

(シンジは私を受け入れてくれる、でも、私がシンジの世界に入れるのは表面だけ、、、シンジの心の奥には入れない、、、扉を開けてはくれない、、、、)

夕日がオレンジの光を発しなくなり、黒い世界に入りかける瞬間、もっとも人間が黄昏る瞬間、アスカは自分の心と一人で会話をしていた、、、

 

 

 

ママ、私のパパは?

何処に行けば会えるの、

私が生まれる事を望んでくれたの、パパもママも、

いつまでも泣いていないで、私の意味を教えて、

愛もなく、苦しみもなく、悲しみもないようにと、

人工受精で生まれた私の意味を教えて、

パパは私が生まれた事を喜んでくれたのかなぁ、

ママは私が生まれて本当に愛を感じたのかなぁ、

私を愛してるって事は、自分自身を愛しているってことでしょ、

だから、自分が壊れたとき、私にも壊れる事を求めた、、

パパ、ママ、、、

こんな他人を愛する方法を知らない私を、誇りには思えないでしょう、、

パパ、ママ、、、

生まれた私が12月の寒さに震えていても、悲しくは思わないでしょう、、

だから、、、、

 

シンジ、

 

助けて、、、、、

 

 

 

数時間前、レイとアスカは同じ部屋にいた。

「、、、自殺って、」

「湖に身を投げたのよ、」

「、、、一度死んだって、」

「湖の辺でみつかった時は死んでたのよ、」

淡々と話すレイは、アスカが知らない過去を言葉少なに表す。

「、、、どうして、シンジが、」

「あんたには分からないと思うよ、」

レイは少し冷たそうに突き放す。

「アスカもいろいろとあったみたいだけれど、シンちゃんの心の奥は多分、分からないよ、」

「どうして、、」

「本当はねぇ、私、死んでるはずだったんだ、シンちゃんと一緒に、」

アスカは黙ってレイの言葉の次を待つ。

「でも、、死ねなかった、っていうより、シンちゃんが救ってくれたんだ、私の事。私の事だけじゃない、カオルの事もシンちゃんが救ったようなもんだった、」

「、、、私も、シンジが、」

「あんたも救われたのかもしれないね、あの時。でも、その後が違う。」

「違うって、、、」

「私とカオルはシンちゃんのファミリーになったの、同じ血を持つ同士のね、」

「私は違うの?」

「う〜ん、近い存在だとは思うけれど、決定的に違うのは、あんたは他人であって家族ではないわ、つまり恋人にはなれるけれど、シンちゃんの心には触れられない。」

「どうして恋人じゃぁだめなの、、、」

「あんた、愛って何か答えられる?恋って何か答えられる?」

レイはアスカの反応を楽しむ様に話す。少し残酷に、嘘の優しさで、話す。

「それをシンちゃんが分かって、愛を求めればアスカにも心に触れる事ができるよ。でも、今のままじゃ無理よ。」

「どうして、、」

「シンちゃんが求めているのは、死じゃない終わりだから、つまり別の世界へ行く事、別の世界へ行ける道を探す事だから、、、今は愛や恋なんかは求めていないわ、」

いつも、アスカはシンジが何処かへ旅立ってしまう気がしていた。

だからシンジの部屋の隣に住んでいても一緒にいる事を求めた。

一緒の学校に行く事を求め、同じ風を感じる事を求めた。

いなくなる事が恐かった、自分のハートに触れてくれるかもしれないシンジが消える事が恐かった、、、

「何でレイにはそんな事わかるのよ、あんただってシンジの他人じゃない、、」

アスカのけなげな反抗もレイにはおかしかった。

「それはねぇ、一緒にステージに立って、一緒に演奏すると分かるのよ。シンちゃんの世界が深く突き刺さる瞬間が、シンちゃんが望む世界にトリップする瞬間が、私達3人にはあるの。お互いが、お互いを信じてるから、感じてる、必要としてる、だから同じ血を流せる、、、、」

レイはシンジのステージを思い出す。

確かに3人にしか分からない瞬間がある。

どんなにシンジがコードアウトしても、リフを小節数を間違えてもレイとカオルは着いて行く。

即興でシンジが弾くメロディーも予測していたかのように、レイとカオルは合わせてくる。

信じられない、自分の演奏はすべてが決まっていて、すべてが計画通りなのに対して、

シンジ達はその瞬間にすべてを創造する。

「私達は同じ血を持つ、違う世界から来た獣なの、、、、、アスカも近い感覚を持ってるのかもしれない、、でも、私達が目指す世界には一緒にはいけない。残念だけど、、」

レイは悲しそうな瞳で無表情な言葉を残し、部屋をでていった。

 

 

 

レイもカオルも他人か、、、

シンジも結局は、、

でも、シンジが愛を求めたら、恋を信じたら、、

そしたら、私に心を触れさせてくれるのかも、

そしたら、私の心にも触れてくれるのかも、

そう思うアスカは小さなハートが潰れない様に、大切に、優しく包みながら部屋からロビーに向かって歩き始めた。シンジ達が帰ってくるのを入り口で待っていたい、一人で部屋にいるよりは、、、、アスカはシンジの瞳が自分を見てくれる時を待ちながらロビーのソファーに座っていた。

アスカは半ズボンのジーンズにピンクのロングスリーブシャツ、花粉用の大きなマスクをつけていた為、誰からもアスカだとは気ずかれずにいた。しかし、入り口から入って来た男女二人がアスカに近ずく。

「アスカ、なにしてるの?」

アスカが顔を上げるとそこにはノーマとケイが立っていた。

 

 

 

ライブハウスの視察を終えたシンジ達はホテルに向かっていた。

「なかなかいい会場だったわね、200人ぐらいは入るでしょう。」

「そうですね、、、」

「あら、なんか気に入らなかった、」

「いえ、さっきライブハウスの人に聞いたんですけど、本当は違うバンドが出演するはずだったらしいんですけど、、、、」

「キャンセルになった話し?」

「えぇ、その後に僕たちが決まったんですけど、かなり強引に僕たちを推薦した人間がいるらしいんですよ、」

「いいことじゃない、」ミサトはあまり気にしてはいないようだ。

「誰でしょうか、その人物とは?」

「さぁ、きっとどこかの心の優しいおじさんなんじゃないの、」

「心の優しいおじさんならいいんですけど、、、、」

カオルはホテルまでの夜の道を見ながらつぶやく。

「レイとシンジ君はどう、なにか問題あった?」

後ろに乗っている二人からの返事はない。

「レイ、シンジ君、」

振り向くミサトは後部座席で二人重なり合うように眠っているシンジとレイをしばらく見つめる。

(こうやって見ていると、、、本当に二人ともまだ子供なんだ、、、いったいどんな夢をみてるのかしら、)

「う、、ん、、、、、、シンちゃん、、、」

レイが寝言でシンジを呼ぶ。

「、、、、ミサトなんてばばぁ相手にしなくていいのよ、、、」

(ぶっ殺すぞ!このガキ!)

ミサトは運転しながらこぶしを握り締める。

「、、、うん、、、、」

シンジも寝言を言っている。

「、、、アスカ、、、、許して、、、」

カオルもシンジの方を見ながら微笑む。

「アスカの夢を見てるのかしら、」

ミサトはそんなシンジをかわいく思う。

「、、、、、ミサトさんみたくならないで、、、」

(クソガキどもが!戻ったらぶっ殺してやる!)

素敵な夢を見る事はできないレイとシンジだった、、、、

 

第十一話へ続く



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