死者の道 第十一話

 

「退廃的な唇」

 

 

 

 

ノーマとケイがアスカの前に座る。しかし、アスカは著しく不快な目つきをする。

「あら〜、ご機嫌斜めみたいね、」

「そうだね、僕らは邪魔みたいだね、」

「でも偶然にもこんな所で出会ったんだから、会話ぐらいした方がいいんじゃない、」

「そうだね〜、僕はこの格好で合うのは初めてだからなぁ、挨拶しないと、」

「そうね〜、有名人だからサインでももらっておけば、」

そんなわざとらしい会話をアスカの前で続ける二人に、アスカは苛立ちを隠しけれず、だんだんと眉毛が釣り上がってくる。

「うわ〜、恐そうな目つき。マスクしてそんな目つきしてるとヤンキーみたい、」

「そうだね、髪の毛も赤茶色だし、特攻服とか着たら似合うんじゃない?」

「うるさいわね!!何を、人の前で勝手な事言ってるのよ!」

アスカがソファーの前にあるガラスのテーブルに、大きな音を立てて手を突く。

「いやぁ、とりあえず正式に挨拶しようと思ってね、」

ケイはまったくアスカの怒りを気にせずに笑顔で話す。

「アンタ達と話してるほど暇じゃないのよ、」

「アスカ、暇そうだったじゃないの?」

「うるさいわね、なんでアンタがここにいるのよ!」

アスカはノーマを睨み付ける。

「まあ偶然でもあり、必然でもあり、シンジ君と関係ある人間はここに集まるようになってるんだよ、」

笑顔で話すケイにアスカは不思議な感触を持つ。

(あれ、こいつの笑顔、、、、いや、こいつの瞳は、、、、似てる、、、、)

「似てるでしょ、シンジ君に、」

アスカの心を見透かした様にノーマが話す。アスカはマスクの上の瞳をケイの視線に合わせる。

「あんた、、誰?」

「僕かい?僕はクエポ・ケイ。国籍性別全て不明。」

「不明?」アスカは疑いの目で見る。

「そう、分からないんだ、」

「何で性別まで不明なのよ!」

怒るアスカに関係なく笑顔で答えるケイ。

「無いんだよ、僕には、」

「、、、、、、、何が?」

ノーマが手招きをする。アスカも体を起こしてノーマの方に顔を近ずける。

そして、ノーマがアスカの耳元で無表情に囁く。

「????が無いのよ、」

アスカの顔が真っ赤に成ったかは大きなマスクのせいで分からなかったが、アスカの動きが止まる。

「だから僕は男か女か分からないんだよ、」

硬直しているアスカは、突き出した顔はそのままで、視線だけノーマの横に座るケイを見る。

「実は、アスカちゃんと会うのは始めてじゃないだ、」

ケイは少し照れたように話す。

「え、どういう事よ?」

「アスカちゃん、今もマスクしてるけど、あの時もマスクしてたよねぇ、アレルギーって結構大変なんだ、」

「あの時って、、、、まさか、、、」

「そう、あの時のハムスター、かわいかったね、」

 

笑顔で話すケイ。だが、アスカは自然と後ずさりを始めている。

スピードで記憶がよみがえる。

あの時の、ひどく苦しく、暗く、不快な感覚で中を浮く感覚がよみがえる。

体が拒絶を始める。とても呼吸が苦しくなり、後頭部が震え始める。

「で、、、でも、、、あんたとは違う、、、」

アスカが記憶している人物と、ケイの容姿は違っている。

「簡単な変装だよ。アスカちゃんの心を壊すには僕の容姿じゃだめだからね、」

アスカは脳の震えが体中に流れるのを感じる。

言葉にならない言葉をマスクの下で発している。

「アスカ、落ち着いて。私達の話しを聞いて。」

ノーマは震えるアスカの手を取ろうとするが、アスカは後ずさりをしながらノーマの手を払う。

「あ、、あんたも、、、仲間だったんだ、、、、こいつらと、、、」

「アスカ私の話しを聞いて、」

ノーマは無表情にアスカに近ずく。

「また、私の心を壊すつもり、、、、あんたも、、、私を殺すつもりなんだ、、、」

後ずさりするアスカの肩をケイが掴む。

「大丈夫、僕たちは今はアスカちゃんと話しをしたいだけなんだ、だから、、」

 

ケイの言葉は、途中で後ろから入れられた後頭部へのハイキックで途切れた。

「レイ!」

アスカは叫ぶ。

レイは右足を上げたまま崩れるケイを見下す。

「もう一度会いたかったわ、映画館じゃやられっぱなしだったしね、くくく、、」

不気味な笑顔を浮かべながら、崩れ落ちたケイの胸座を掴み叫ぶ。

「起きなさいよ!あんたのせいで映画見損なったんだから、たっぷりお礼させてもらうわよ!」

「レイ、やめなよ、、」

拳で殴ろうとするレイをシンジが止めに入る。

「シンジ!!」

アスカはダッシュでシンジに抱き着く。

「シンジ、、、シンジ、、、、」

「ちょ、ちょっとアスカ、、」

「こら!アスカ何やってんのよ!」

今度はレイがアスカに掴みかかる。

そんなドタバタ劇をノーマとカオルが遠くから見つめる。

「やっぱり来たんだ、」「えぇ、どうしても知りたかったの。」

「わかったかい、シンジ君の事。」「えぇ、でもこれから起こる事の方がもっと重要なはずよ、」

「博士達も来るのかい、」「えぇ、ここで起こすつもりらしいわ、あの湖でね、」

「そうか、、、、ところで、」「なに?」

「彼ら、どうする?」

シンジに抱き着き、顔を胸に埋めてまったく離れないアスカ。力ずくで離そうとするレイ、それを止めようとしているシンジ。そして、その足元にはケイが倒れたままだった。

「ほっときましょ、私達は私達で楽しみましょうよ、」

「そうだね、しばらくはほおっておこうかな、」

いつもの作り笑顔ではない笑顔を二人で浮かべながらロビーから消えていく、、、

 

 

 

ロビーでの乱闘はミサトとマヤの介入により終止符がうたれる。

原因を作ったレイはミサトの部屋に監禁されていた。カオルはケイとノーマと共に夜の札幌へと消えていった。そして、シンジとアスカは一つの部屋で同じ時間を共有していた。

「大丈夫?」

シンジがミネラルウォーターを渡す。

「うん、、、もう落ち着いた、」

「さっき、カオル君が言ってたけど、あの二人もアスカに危害を加えるつもりはないって、」

アスカは黙ってシンジから渡されたミネラルウォーターを飲む。

「、、、、人を信じられないのって辛いわね、」

「え、どういうこと?」

「あの一件以来、私、他人が用意してくれた物すべてが怖かった、、、全てに何かが含まれてるんじゃないかって、、、今まで親切だった人も、仕事だけの付き合いの人も、、、みんな私を、、、、、」

「大丈夫だよ、あの一件以外は何も起こってないじゃないか、後でケイって子に聞いてみようよ、いったいどういう事なのか、どうやらレイのときにも彼が絡んでいたようだし、」

「カオルも仲間なの?、、、、元々仕組まれていた事なの、、、ひょっとしたら、」

「、、、、わからない、それはカオル君に聞いてみないと、」

「そうね、、、」

ベットの上で上半身を起こし、アスカは手元のペットボトルを見つめる。

「アレルギーは大丈夫?」

「うん、もうどこかの乱暴女が変な粉をまかないだろうし、もう大丈夫、」

「ふふ、少し鼻が赤いね、」

「もう、笑わなくてもいいじゃない、結構辛いのよ、」

シンジの不思議な笑顔はアスカを落ち着かせる、改めてアスカはそう思った。

(さっき、ケイって子の笑顔もどことなくシンジに似ていると思ったけど、、やっぱり全然違う、、、)

「、、、、瞳が違うんだ、」

「え、」

「シンジの瞳は絶対誰とも違う、甘いくて、透き通ったブラウンだけど、どこか悲しそうで、純粋すぎて壊れそうで、、、」

「アスカの瞳もアスカだけのものだよ。まるでグランブルーみたいだ、、」

シンジは椅子の背もたれを抱き、跨ぐ様に座る。

「ねぇ、話があるって言ってたよね、」

「うん、、そうなんだけど、、、」

「レイから聞いたよ、、、」

「そう、、、、、」

シンジは寂しそうな笑顔で微笑み、そのまま黙り込む。

しばらくの間静かな空間の音が流れる。

「なんで私には黙ってたのよ、」

低い声でアスカが聞く。だがシンジはうつむいたまま黙っている。

「シンジは教えてくれないもんね、シンジの過去はシンジの物だから、私には教えてくれないもんね、、、」

「そんな事はないよ、、、」

「ううん、それはそれでよかったの。私もシンジに言ってない事沢山あるもん、、、、、」

「アスカには知って欲しくなかったんだ、、、あの頃の僕を、、、、知って欲しくなかったんだ、、、」

「じゃあ何でレイやカオルは知ってるの!」

ベットから起き上がりシンジの前に立ち、アスカは蒼い瞳でシンジを強く見る。怒りではなく悲しみでもなく、ただシンジの全てを見れるように、大きな瞳で見つめる。

「あの頃のシンジをレイやカオルが知っているのに、私にはどうして教えてくれないの!」

「だから、アスカには知って欲しくなかったんだ、アスカが知ったら、、、、知ってしまったら、、、、」

シンジはうつむきながら背もたれを抱きしめる腕に力を込める。

アスカの蒼い瞳を見ることはしない、いや出来ないのかもしれない。

そんなシンジを見つめるアスカは震えるシンジの腕にそっと触れる。

「シンジ、、、私はシンジの恋人になりたい、、、レイはシンジが愛なんて求めてないって言ってた。シンジも私も愛なんてしらないから、、、、だから幻想を追っかけているだけで、本当に求めてるのは愛じゃないって、、、」アスカは膝をつき、シンジの目線に顔をもってくる。

「でも、、、私はシンジの恋人になりたい、、、、こんな我侭で、意地っ張りで、女の子らしいことなんか何もできないけど、、、シンジの恋人になりたい、、、」

「、、、、、、だったらなお更、僕の過去は知らない方がいいよ、」

「どうして、自殺したからって、一度逃げたからってそれがシンジの全てじゃないわ、今のシンジがあるのも過去のシンジがあるからでしょ、」

シンジの腕は小さく震えている。

「ねぇ、お願い、私に聞かせて、、、シンジの過去を、、、、レイからの言葉じゃなくて、シンジの言葉で、、」

「、、、アスカは僕を純粋だって言ってくれた、、、」

「うん、誰よりも純粋だと思う、」

「でも、僕はもう純粋じゃないんだ、、、汚れた心と体なんだ、、、」

「そんな事ないわよ、シンジの心が純粋だからあれだけの曲を書いて、歌えるのよ、あれだけの人達がシンジの曲を支持してくれるのも、シンジの心が純粋だからよ、」

アスカは何故か心配になってきた。シンジが自分の純粋さを信じていない事がとても不安に思えた。

「、、、、でも、僕には見えなくなってしまったんだ、、」

「見えなくなった?」

「うん、昔は妖精が見えたんだ、雪の妖精が、」

「雪の妖精?」

シンジの言葉に戸惑うアスカ。

「母さんに言われたんだ。雪の妖精はいつも震えているんだけど、僕が暖めるとすぐに消えてしまうんだ。だから、僕の心で暖めてあげなさいって、、、僕の愛で暖めてあげなさいって、そう言われたんだ、」

アスカには何のことか解らなかったがシンジの言葉を受け入れる。

「でも、愛がなかった、、、、僕の心には愛はなかったんだ、、、人間なら普通は感じる愛が僕の心にはなかったんだ、、、だから、もう見えなくなってしまったんだ、、妖精も、森の声も、花の歌も、汚れた僕はもう二度と見たり、聞いたり出来ないんだ、」

黙って俯き、アスカを見ずにつぶやく様に話すシンジの頬にアスカがそっと手を添える。

「でも、私にとってはシンジの歌が、シンジの声が、シンジの体が暖めてくれる、生きてる証拠を与えてくれる。私だけじゃない、きっとシンジの歌声を聞いた人は、みんな心に刻まれる、シンジの純粋さを、」

「でも、僕は純粋じゃないんだ!!」

立ちあがるシンジはアスカに背を向けて立ち尽くす。アスカの手のひらはシンジの涙で濡れていた。

「もう、、純粋じゃないんだ、、、、、、綺麗な水に体を沈めたいだけで、僕の体は偽者なんだ、」

小さく震えるシンジの声がアスカには痛く感じる。

「どうして、、シンジはアタシを救ってくれる、あらゆる世界を見せてくれる、綺麗な詩を教えてくれる、そんなシンジが偽者だなんて、誰も言えないわ、、、」

背をむけたまま小さな震えを押さえようとするシンジの背中にアスカは手のひらを添える。

「カオルもレイもシンジが思う、信じる世界が純粋で真実なものだと思っているから、シンジといっしょに演奏するんでしょ、シンジが一方的に思い込んでるだけよ、」

アスカは体をシンジの背中につける。

「だから、、、私に話して、、、どうして、そんなに死の世界、死の瞬間にあこがれるのか、どうして自殺したのか、、、、教えて、シンジの言葉で、、、、」

アスカの顔がシンジの背中に埋まる。小さな心臓が温かい音をたてる、

「信じてくれる、、、、アスカは、」

小さな声でどこか遠くに投げるように言葉を吐く、

「、、、言ったでしょ、私はシンジの恋人になりたいんだって、」

アスカもシンジの心臓に話しかける、

「僕が一度、自らの死を望んだのは、、、、」

シンジの心臓音が少しだけ早くなる、

「体を汚されたんだ、、、、」

「誰に?」

「知らない、多くの人に、、、、、」

 

 

 

 

                                                

「もういいかげん許してよ、、、」

「あら、マヤ、何か聞こえました?」

「いいえ、ミサトさん、気のせいじゃないですか、」

「そうよね、まさかレイがこれぐらいの事で“許して”なんて言わないわよね、」

「そうですよ、さんざん私達に迷惑かけておいて、これぐらいで“許して”なんて言えないですよ、」

危うくホテル側から宿泊拒否されそうになったところを、ミサトの

“仕事以外の時は奴隷として使ってください”

といった一言で何とか救われた、、、、、のだが、今は便所掃除のおばちゃんと化している。

「とほほほ、、、なんで北海道まで来て便所掃除してるの私は、シクシク、、」

「ほら!嘘泣きしてないで、さっさと便器をみがいて!」

ミサトの容赦ない鞭がレイに襲い掛かる。

「はいはい、、、やればいいんでしょ、やれば、、、」

レイはぶつぶつ言いながらも雑巾で便器をふく。

「、、、、まったくこれだから30過ぎの独身ババアは困るんだよ、私が若いからって、これじゃぁいじめよ、いじめ、、、だから誰にも貰われないままなのよ、、、本当に、、、、、、、え、」

しゃがんで個室の便器を拭いていたレイの背後になにやら黒い影がさしかかる。

振り向いたレイが見たものは、、、、

「い、いや、、、なんだ、、、やだなぁ二人とも、そんな恐い顔して、、、」

油汗が浮き始めるレイ。

「、、、あら〜そんなに恐い顔かしら?オバさんだからかしら、」

「、、、、30歳過ぎると、笑顔も恐くなるのかもねぇ、」

近寄るふたりが個室の壁に張り付くレイを追い詰める。

「や、、やだなぁ、、、二人ともまだまだ若いじゃない、、」

ガシャ!という音と共に個室の扉がロックされる。

「じゃぁ、その若い体に教えてあげるわ、いろいろとね、」

「オバさん怒らすと、どれだけ恐いか、体に刻んであげるわ、」

清掃中と書かれた札がぶら下がるトイレから、レイの悲鳴だけが永遠と続いていた、、、

 

 

 

 

                                                

「体中を汚されたんだ、、、知らない人達に、、」

「汚されたって、、、まさか、」

「そう、お金と引き換えに僕の体が必要だったんだ、、、、」

 

父ゲンドウの言葉により、シンジは母ユイが他界した後、北海道の叔父の牧場に引き取られた。

しかし、時代は未だに2000年の悪夢を引きずったままで、経済は混乱を極めていた。そんな中、叔父の経営する牧場も多額の借金に苦しんでいた。ただですら苦しい生活のなかにシンジが加わったことは叔父家族にとってはとても大きな負担だった。

“まったくどうするんですか、私達だけでも苦しいのに、なんでこの子を引き取るんです!”

“しかたないだろ、肉親は俺達だけなんだから、それにゲンドウ兄さんからもう金ももらってるし、”

“養育費に毛が生えたもんでしょ、借金を返せるって聞いたから承諾したのに、、”

“まぁ、もうしばらくしたら兄さんにもっと金の方を頼んでみるよ、なにせ金だけはあるからな、”

“まったく、金持ちなんだから自分の子供ぐらい引き取ればいいのに、”

“まぁ、世界を救う学者さんなんてどこか狂っているもんさ、”

“こっちは貰うもんさえ貰えれば別にどうでもいいわよ、世界なんて、”

シンジの寝ている部屋には叔父夫婦の会話が響く。

心が張り裂ける、そんなもんじゃない、シンジの体はどこが腕で、どこが指なのかわからないほど麻痺していた。悲しい涙はでない、だが胸の奥に痛みを伴い溜まっていく、苦しみと憎しみを感じながら、、、、、

「おはようございます、」

一睡も出来ないシンジが次の日挨拶をする、

だが、だれ一人として視線をシンジには合わせない。叔父も叔母も、いとこの年上の少女も、誰もシンジの存在を受け入れてくれなかった。

 

 

シンジは遠くを見つめて、アスカにやっと聞こえる程度に話す、

「誰も僕が邪魔で、不必要で、できることなら消えて欲しいと願っていたんだ、」

「、、、、ひどい人達ね、」

「しかたないよ、僕は存在してはいけない子供だったんだから、、本当の父親にも捨てられたぐらいだし、」

「、、、、、、シンジ、」

アスカはシンジの服を強く握る、そうしなければシンジが今すぐにどこかへ行ってしまいそうだった、

 

 

シンジが心を殺した日々を送って一年以上が経っていた、

牧場の経営は日々悪化していた、

それに伴い、シンジへの過酷な労働と心への負担も悪化していた。

そんなある日、シンジは叔父夫婦といっしょにある大きな別荘に来ていた。

「あの、、ここで僕は何をするんですか、」

「シンジ君、私達にも知らされていないんだよ、」

「そうなのよ、先方さんがね、是非シンジ君を連れてきて欲しいって言うのよ、」

「、、、、そうですか、」

豪華なリビング、いかにも成金趣味といった置物、小さなシンジの体が埋まりそうなソファーに3人は座っていた。どうやら、叔父夫婦が借金している金持ちの別荘らしい、しばらくして出てきた別荘の主にやたらと腰が低い。

「君がシンジ君かね、」

急にシンジは声をかけられ驚く。

「は、はい、」

「そうかい、今日は遅いから3人とも泊まっていきなさい、夕食ももうすぐできる、、」

そう威圧的に話す別荘の主の瞳は誰が見ても汚れきった、人間のもつ優しさや暖かさを持たない生き物ではない黒い瞳でシンジを見つめる。

「そうですか、それではお言葉に甘えさせていただきましょうか、」

「そうだな、シンジ君もいいね、」

初めからシンジの意志など関係なかった、初めから決まっていた事だった、

その夜シンジが受けることは、金と引き換えに、全て決まっていた、、、

 

 

「シンジ、、、、、」

アスカはシンジの過去に何も言葉がでない。

なぜシンジが?そんな想いが心を占める。

まるで自分が犯された様にアスカの心は軋む。

(痛い、、シンジ、痛いよ、、、でも、シンジの心はもっと痛くて、ずっと苦しんでいたんだよね、、)

涙があふれる、心もあふれる、小さな人間にあまりにも多くの感情が込められている。

震える体で、悲しみを感じないようにまるで他人の話しをしている様に話すシンジ。

「気がついた時には、僕は一人だった、、、、周りに大勢の人がいるんだけど、、、人間の目をしてたのは僕一人だった、、、裸で動かないで泣いている僕だけだった、、、」

「シンジ、、、、」

「だから、自分の存在を消したかったんだ、、」

「シンジ、、お願い、、」

「だから、生きていたくなかったんだ、」

「ねぇ、もう、、、」

「だから、、、死にたかったんだ、」

「、、、やめて、、、もう、、」

「自殺だけが生き続けるたった一つの道だったんだよ!!」

叫びと共に、アスカの方を振り返り両手で両肩を強く握る。

「母さんのいる冷たい国に行く事だけが、僕の夢だったんだ、、、」

震える手をアスカの体は感じる。

蒼い瞳は言葉を見つけられない。

だが、シンジをみつめる、哀れみや同情ではなく、自分の心が壊れたような気持ちでシンジを見る。

「汚い体なんだ、、、あの時いったい何が起こったのか憶えてはいないんだ、でも、、、、」

「、、、、でも、、」

「感触が残ってるんだ、、、知らない誰かが、、大勢で僕の体に触れたあの恐ろしい感触が、、消えないんだ、」

「シンジ、もういい、止めて!」

アスカは涙を流す少年を力の限り抱きしめる、

自分の持てる力を全て使って、少年の心が壊れない様に、心と体がバラバラにならない様に、

アスカは自分の頬をシンジの頬につける、

心を伝える為に、綺麗な涙でシンジの涙を拭く、

そして、シンジの過去を話させた自分を責める、

「ごめん、、シンジ、、、、ごめん、、、許してなんて言えないよね、、、」

「アスカ、、、」

「シンジが思い出したくない事なのに、、、無理やり、、、私は、、」

「そんなことないよ、アスカ、、」

「ごめんね、、恋人になんてなれないよね、、、、ごめんね、シンジ、、、、、」

「アスカ、、泣かないで、、、」

「シンジこそ泣かないで、、、、、」

アスカの腕の中で、静かに涙を流すシンジ、

シンジを抱きながら綺麗な涙を流すアスカ、

退廃的なキスをする二人、

退廃的なくちずけをする瞳と瞳、、、

きっとこの瞬間は真実だろう、、、、

 

 

 

 

                                                

「痛っ、、」

ケイは自分の後頭部をさすっている。

「あのぐらいで済んでよかった方だよ、」

カオルはおかしそうに見ている。

「まったく乱暴な女ね、」

「でもアスカちゃんにとっては心を勝手に荒らした人、レイにとっては心を汚された人、ケイの印象はよくないよ、」

「早いとこ誤解を解かないとなぁ、」

ハイネケンのビールビンを飲みながら困った顔をする。

「でも本当にあの女二人がエヴァの道を作るの?今でも私には信じられないわ、」

ノーマはトマトジュースを飲みながら不満そうな顔でいる。

「間違いないだろう、あの心の強い感受性は僕達にはない感性を得られるようにできてる、」

カオルはやっぱりジャックダニエル・ビールを飲んでいる。

「シンジ君のたった一つの魂、この世界が生まれた時と終わるとき、全てを救い、全てを破壊する魂、その魂を導くのが彼女たち二人だ、、」

「どうして、私じゃだめなのかなぁ、、、、」

「残念かい、」

カウンターに3人ならんで座っている。ノーマは自分の決められた運命を悲しむ。

「しかたないよ、僕だってシンジくんの様な魂を持って生まれたかったよ、」

「いや、シンジ君の魂こそこの世界でもっとも壊れやすい、、、、、」

「だから、世界でもっとも純粋なのよね、」

「だから、世界でもっとも苦しむ魂」

3人はそれぞれ心の言葉を内に秘める。

「シンジ君の体は一度世界から逃げている、」

ケイはカウンター後ろのキープボトルの棚を眺める。

「代わりの体、エヴァにすでにシンジ君の魂は込められている。僕のように否定された体ではないよ、」

カオルが自分の腕の刺青を眺めながら答える。

「カオルの体も神様は否定してないわ、」

ノーマがカオルに答える。

「そうかい、、そうだといいんだけど、、同じエヴァの体を持つ種族、同じ魂を持つ一族なのに、僕達3人は苦しくて悲しい現世にとどまる以外ないんだ、、、」

「でも、私はカオルとケイがいる世界がいい、、、」

「、、、、そうだね、でもそれすら僕達の願いはかなえられないかもね、、、」

言葉より未来を信じた彼は、なにか大切なものを見つけたかった、、、

何もいらない、、、

何も信じない、

幸せになる道を信じたかった、、、

 

第十二話へ続く



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