死者の道 第十三話

 

「BLACK BEAUTY」

 

 

 

 

「みなさん、それではお待たせしました、惣流・アスカ・ラングレーさんと“BLUE BLOOD GLOBE”のみなさんです!」

司会のアナウンスと共にアスカとシンジ達がステージ脇から登場する。

観客の反応は二つに分かれる。アスカ目当ての客はアイドルのりで集団で声援を送る。誰が決めたか知らないが、言葉にするのも恥ずかしいエールを送っている。一方シンジ達を目的とした子達はというと、言葉にならない絶叫、叫びを上げながら、一気にステージ前に駆け寄る。中にはステージに駆け上がろうとする子もいた。後ろのほうではアスカのファンとシンジ達のファンの小競り合いがあったりする。

「こんにちは!」

やはり場慣れしているアスカがマイクで第一声をあげる。それなりに客の反応が戻ってくる。

一方シンジたち3人は何処を見ているわけでもなく中を見つめながら、ただ立っている。

「どうぞ、座ってください、」

司会に促され、全員座る。会場はシンジたちが椅子に座ると多少落ち着くが、一部の興奮したファンが大きな声をあげている。

「シンジ!愛してる!」

「お願い歌って!」

「カオル!僕を愛して、お願い!」

「レイ!あたしを抱いて!!」

興奮したシンジ達のファンは自分の心を大声で叫ぶ、自分の思いをシンジ達にぶつける様に、

「すごい人気ですね、」

司会の言葉に3人は何も答えない。

「どうですか、ファンの子に一言、何か、」

3人の前にマイクを差し出す。しかし、シンジは相変わらず何も答えないでいる、カオルもいつもの笑みを浮かべ何処かを眺めてる。レイもつまらなそうに下を向いていたが、マイクに向かって低い声で一言喋る、

「、、、Hello,Jesus&Junky、」

会場からは大きな歓声があがる、

ほとんど人前で言葉を発した事の無いレイが、始めで話した言葉だった。

司会者とアスカは少し引きつった顔をしているが、シンジとカオルは少し可笑しそうな表情をしている。

「いや、、、アスカちゃんも一言、何かファンに、」

司会者が苦しそうに、場をつなぐ。

「え、、、こ、こんにちは、、、」

答えずらそうに、アスカも挨拶するが、なんとなく尻つぼみになってしまう、

それでもアスカの言葉にファンの子は一応反応する。

(うわ、、、なんかやりずらいなぁ、、、)

アスカは心の中で戸惑っていた。

(大丈夫よ、お客の数も50%、50%よ、シンジ達のペースに巻き込まれなければ、大丈夫よ、)

そう自分に言い聞かせなんとか自分のペースを掴んでいくアスカ、さすがに、何度も場数を踏んでいることもあって、司会との会話もうまくこなしていく。自分のこと、他人のこと、うまく笑いを入れながら、うまく自分の意見をいれながら、うまく相手を尊重しながら、誰もがよく見るテレビでのトークショウをアスカは完璧にこなしていく。

その横でシンジは普段と違うアスカに少し緊張していた、

(なんか、アスカ、普段とは別人だな、、、、やっぱり仕事してる時は別人のようになるのかなぁ、、、)

確かにアスカの笑顔は、昨夜から今朝にかけてシンジに向けられた物とは違っていた。

アスカにとってはあくまでも仕事のスマイル、自分をうまく表現するためのスマイルである。

シンジもそれは頭ではわかっていても、心の中では割り切れなかった。

「ところで、今回のシングルなんだけど、」

司会者が進行どうりにアスカのシングルの話しをする。

「作詞、作曲はシンジ君なんだよね、」

「え、ええ、、」

シンジはいきなり会話を振られて慌てて答える。アスカと司会者がシンジの方を見ている。

「タイトルは“B・B”ってなってるけど、何か意味があるのかなぁ、」

「、、、、、特に、無いです、」

「え?、じゃぁ感覚だけってこと?」

「、、、、そうかも、」

「なにかのイメージかなぁ、」

「、、、、わかりません、、」

明らかに司会者との会話のテンポがかみ合わないシンジは、ただ言葉を短く答えるだけだった。

「アスカちゃんはどう?シンジ君の曲は、」

司会者はシンジとの間にできる間に耐えられず、アスカに話しをもどす。

「そうですねぇ、あたしにとっては、、、、、」

アスカはシンジを見ながら話す。

「いまだにわからない曲、かなぁ、」

「よくわからないって?」

「シンジの言葉は本当はシンジ以外の人間が歌ってもだめなのかもしれない、何度も歌ってるうちにそう思えるんですよ、だから何度も録音し直したし、歌詞の意味を必死に考えたんだけど、、、、うまくいったかどうか、未だにわからないの、」

「アスカちゃんにしては珍しく、弱気な発言だね、」

「そうですね、でも、それだけ今回のシンジと私の共演したシングルは、最高の内容だと思うんです、」

「苦労した分だけいいものができたって事?」

「う〜ん、そうじゃなくて、なんとなく始めから良い曲だったから、それをなんとか自分の一部にしようと苦労しただけで、始めにシンジが私に歌ってくれた時からとても良い曲だったの、」

「そうですか、まだテープでしか僕も聞いてないけど、アスカちゃんの新境地が開けた感じがするね、」

「そうですか、ありがとうございます、」

 

そんな会話などおかまいなく、シンジ達3人は呆然と何処かを眺め、時間が過ぎることを願っていた。

「今回、アスカちゃんとレイちゃんはCMで共演してるんですよね、」

レイがゆっくりと司会者に視線を移す。

「えぇ、」

「どうでしたか、CMは始めてじゃないですか、」

「くだらない、、二度とやらない、」

「どうしてですか、僕が言うのもなんだけど、とっても独特の雰囲気をもってるじゃないですか、3人とも。音楽だけじゃなくてもビジュアル的にも勝負できるんじゃない?」

「興味無い、それに、、、」

「それに?」

「タレントになりたいんじゃない、このままバンドマンでいたいだけ、」

レイは司会者よりも、むしろアスカの方を向いて答える。

アスカもレイの言いたい事がわかるのか、挑戦的な視線をまっこうから受け止める。

「自分の信じる世界があるから、そこに行きたいだけ、シンちゃんとカオルと3人で、そこに行くだけ、」

「カオル君はどう、いろいろ話しはあると思うけど、」

「僕もそうですね、単なるドラマーであって、それ以上今は何も望まない、でも、、、」

「でも?」

「シンジ君との絡みがあるCMやドラマだったら喜んで引き受けるよ、」

言葉と共に、シンジに軽くウィンクをする。

会場のカオルファンの悲鳴とシンジファンの絶叫が交じり合う。

どういった意味合いの悲鳴と絶叫かはわからないが、シンジは恥ずかしそうに下を向いたままでいる。

「だめよ、シンちゃんと絡みのシーンを撮るのはあたしが最初って決まってるの!」

「ちょっとレイ、何勝手な事いってるのよ!私が最初に決まってるでしょ!」

「なによ、アスカはいろんな人とドラマでやってるでしょ!そんな女がシンちゃんに触れるなんて、許せないわ!」

「ドラマはあくまで演技よ!それに、私はシンジの恋人だからいいのよ!」

「あたしだって、シンちゃんと一緒に住んでるし、シンちゃんのたった一人の家族よ!」

「いずれは私もシンジと家族になるのよ!」

「無理よ!あんたには絶対無理!」

「なんですって!」

「取り込み中悪いんだけど、、」

椅子から立ちあがり互いの呼吸が感じられるぐらい顔をちかずけ、睨み合いながら言い合いをするレイとアスカ。その間に割って入るシンジの一言。

「「なによ!」」

同時に二人がシンジの方を振り向く。

あまりの恐ろしい視線に一瞬たじろいたシンジだが、なんとか続きを話す、

「あ、あの、、、、みんな、、見てるよ、、、、」

は、っと我に帰り二人が周囲を見渡すと、観客からスタッフ、司会者も呆然と二人を見ている。

カオルはいつもの不敵な笑顔を浮かべて、我関知せず、といった感じでいる。

「い、いやぁ、、、はは、あはははは、、」

「じょ、冗談よ、、冗談、、」

二人とも何を今更、といった感はあるが、とりあえず笑ってごまかす。

「普段は私達、仲がいいんですよ、これでも、、、ははは、、」

「そ、そう、、、よくいっしょにご飯食べたりするもんねぇ、アスカ、」

カオルの鋭い突っ込みが小さな声で入る。

「レイはシンジ君と住んでいて、アスカが押しかけてるだけじゃないの?」

「「うるさい!!」」

またも、二人そろってカオルに向かって叫ぶ。

「と、とにかく、、本当は仲良いんですよ、、」

「そ、そうですか、、仲が良いほど本気で話せるってやつですね、」

「そうですね、はははは、、、、、」

司会者の見え見えのフォローもアスカのぎこちない笑いも、乾いた会場にむなしく響くだけだった、、、

 

 

 

そんなこんなで何とかトークショウも終わりに近ずき、質問コーナーに移っていた。

「アスカさんとシンジさんは付き合ってるのですか?」

「ノーコメント」(アスカは“そうだ”と言ってもよかったらしいが、)

「シンジ君とレイちゃんは恋人同士なんですか?」

「ノーコメント」(レイは“その通り”と答えようとしたが、)

「カオル君とシンジ君はお互いに愛しあってるのですか?」

「ノーコメント」(カオルは“はい”と答えたかったようだが、)

「シンジさんは、二股かけてるんですか?」

「それは違います、」

「シンジさんはレイさんとアスカさん、どちらが好きですか?」

「どちらも同じぐらい大切です、」

ほとんどの内容がシンジ達の関係に対する質問になるなかで、最後の一人がマイクを持った。

「あの、、、質問じゃないんですが、、、シンジさん、お願いがあるんですけど、、」

16歳ぐらいの少女が震える声でマイクに向かって話す。

「お願いします、、、一曲だけ、、歌ってください、、、」

「ごめんなさい、今日はトークだけなんですよ、」

司会者は一応お決まりの返事をする。

「あ、、あの、私、、、シンジさんの声を聞きたいんです、今日のライブには行けないんで、、、」

「すみません、一応今日は、、、」

司会者は当然と言えば当然だが、スケジュール通りに進めようとする。

しかし、司会者の言葉が終わらないうちに、突然シンジは一人でステージを降りてしまう。

無言で険しい表情を浮かべ、何故かシンジは一人で消えてしまう、

「シンちゃん、、」

黙ってステージを降りてしまったシンジを不思議そうに見るレイ。

ざわつく会場に緊張が走る、シンジは数分たってももどってこない。

スタッフも戻らないシンジが何処にいったのかわからず、ただ戸惑っている。

「ちょっと、、シンジらしくないわね、、」

アスカが小声でレイに話しかける、

「いくら客が我侭いったからって、怒ってステージ降りちゃうなんて、」

「そうなのかなぁ、、」

「でも、なんかいつもと違って厳しい表情だったし、やっぱり、怒ったのかなぁ、」

「でも、シンちゃん、そんな人間じゃないよ、、」

「うん、私もそう思うんだけど、、、」

質問した少女は黙って、マイクを握りながら立ち尽くす。どうしていいのか解らず、ただ、震えながら立っていた。司会者もステージ脇で何かスタッフと打ち合わせしている。

「あ〜あ、スタッフも困った顔してるはね、」

「でも、ミサトがいない、、、」

「そうねぇ、」

緊急の打ち合わせを終えた司会者がステージで再度マイクを握る。

「え〜、みなさん、申し訳ないのですが、一応時間となりました、いろいろハプニングもありましたが、本日はこれで終わりとさせていただきます。」

会場からは一気にブーイングが起こる。納得いかないファンが前に押しかけ怒りの声を上げる。

納得いかない終わり方に怒った観客がスタッフや司会者に怒りの声を上げる。

「みなさん、落ち着いてください!」

スタッフと司会者が大声で叫ぶなか、アスカとレイがステージを去ろうとする。

「行ってしまうのかい?」

カオルが二人に話しかける。

「シンジ君は戻ってくるよ、必ず、」

「でも、、」

「信じられないのかい、シンジ君が、」

「でも何処にいったのか分からないし、、」

「大丈夫、僕達のシンジ君は怒ってステージを降りるような人間じゃないよ、」

「そうだよね、、」

「あったりまえじゃない!」

「なによ、アスカが一番疑っていたじゃない!」

「心の底では信じてたのよ!」

そういってマイクを司会者から奪い、アスカは話し始める。

「みんな!おちついて、あたし達はまだここにいるから!だから落ち着いて!」

アスカの声が会場に響く、

「大丈夫、シンジはみんなを裏切らないわ、たった一人の女の子の願いでも死ぬ気でかなえようとする、そんな男の子なんだから、」

「ア、アスカさん、、、でも、シンジ君も戻らないし、マネージャーさんもいないし、」

会場は一応落ち着くが、司会者やスタッフは慌てたままでいる、

「大丈夫、必ず戻ってくるわよ、あんたもいい大人なんだから、大きく構えなさいよ!」

レイが大声で叫ぶ、

「し、しかしですねぇ、、時間もないですし、、」

「おまたせ!!」

ステージ脇からいきなり大きな声が上がる、

ミサトが、シンジが、息を切らせながらステージ脇からでてくる、

「ご、ごめん、、、、みんな、」

シンジは苦しそうに息をし、両膝に両手をついて肩で息をする。

「ギター積んである車が、、、駐車場、、、遠くって、、、」

「なに言ってるの?」

「とにかく、、ごめん、、、、、」

アスカもレイも汗だくのシンジに嬉しさを感じていた、

「まったくびっくりしたわよ、いきなり駐車場までいっしょに走らされて、ギターかついで1階から7階まで階段で駆け上るは、、、もう、」

「ごめんなさい、、、でも、、、どうしても、、、、歌いたかったんです、」

「シンジ、」「シンちゃん、」

アスカとレイは本当に嬉しかった、たった一人の少女の為に、ステージを降り、駐車場まで走り、ギターを担いで階段を駆け上がるシンジが、そんな少年が、とても嬉しかった、

「それじゃ、一曲だけ、、、僕の好きな歌を、、」

呆然としている会場の客もシンジの一言で俄然盛り上がる、

「あ、、、、そうだ、」

シンジは自分のお気に入りのレスポール“ブラック・ビューティー”をアンプにつなぎながら、チューニングをする。マイクにはリバーブもショートディレイもなく、単なる拡張機的なもので、急遽用意されたアンプもギター用ではなく、単に音を鳴らす為のものだ。

「あの、、、、僕に、お願いした女の子って、」

「は、はい!」

少女は割と前の方にいた。

「あの、、、遅くなって、ごめんね、僕の曲じゃなくて、僕の好きなバンドの歌だけど、いいかなぁ?」

「は、、はい、お願いします!!」

少女が涙目で叫ぶと、シンジは小さく笑い、小さくつぶやく。

セッティングは終わったようだ、

「シャーベットてバンドで、“水”」

シンジは歌い出す。

 

 

 

 

 

もしも誰かを愛したら、

素直なその気持ちを

その人に伝える、

それがこの世界に生れ落ちた理由だから、

Ah、、、、

戸惑いながら、話す言葉は、なによりも綺麗さぁ、

 

なにを恐れているのだろう、

やわらかな風が吹いてる、

思い出は雪だから、

透き通った水へ帰ってゆくだけ、

Ah、、、、、

いつの日にかみんな何処かへ、消えてしまう気がする、

Ah、、、、、

伝えなくちゃ、素直なその、気持ちを今すぐ、

その人に、、、

 

 

 

シンジの声はなんの誤魔化しもなく、ストレートにくる、

かすれていて、鋭くて、切なくて、悲しくて、そして、純粋で、、

誰の心にも綺麗な水を注ぐ、

どんな奇跡より、どんな神様より、どんな売れている偽者より、

シンジの本物は心に突き刺さる、

何一つエフェクトされてないギターと歌声、

誰もシンジの世界を疑うものはいなかった、、、

 

弾き終わり、少し照れくさそうに笑うシンジ、

大きな拍手と歓声が彼を余計に照れさせる、

「シンちゃん、、、」

「シンジ、」

アスカとレイも嬉しそうだ、

「それじゃ、バイバイ!」

シンジはギターを片手に、反対の手を振りながら今度は笑顔でステージから消えていく、

そして、レイもアスカも手を振りながら、笑顔で消えていく、

カオルが最後に一言だけ、

「まいったなぁ、、、、」

と、小さく呟きながらいつもの笑顔で去っていった。

 

 

 

「お疲れさま、」

マヤとミサトが控え室に入ってくる、

「ミサトさん、、、あの、すみませんでした、」

シンジが誤る、

「大丈夫よ、あれぐらいのハプニングがあった方がイベントとしては盛り上がるでしょ、」

「なにが盛り上がるよ、残された私達のことも少しは考えてよ!」

アスカは少しご機嫌斜めでいる、

「まったく、一時はどうなるかと思ったわよ、」

「ご、、ごめん、アスカ、」

「まぁ、アスカ、結果的にはいい結果で終わったんだから、」

「よくないわよ!」

アスカは飲みかけのコーラを一気に飲み干す。

「よくないのよ、、あれじゃぁ、、、、私は、、、、」

消えてしまいそうな小さな声で、アスカは自分に言い聞かせる。

「アスカ、、、」

シンジがアスカの側に立つ、

アスカは黙って何かを考え込んでいたが、小さくつぶやく、

「よかった、」「え、、」

「よかった、シンジが突然いなくなった時は、とても不安だった、、、」

「ごめん、一言伝えてからにすればよかったんだよね、、、アスカ、本当にごめん、」

「ううん、いいの、結果的にはシンジは戻ってきて、あの子の為に歌ってあげてよかったの思うんだけど、でも、、」

「でも、、」

「いつかまた、私の為だけに歌ってね、」

そう言って、どこかぎこちない笑顔でアスカは控え室を出て行く。

「アスカ、、、」

シンジはアスカが出ていったドアを無言で見ている、

「アスカの気持ち、なんとなくわかるな、」

「レイ、、、、」

黙って状況を見つめていたレイが話し出す、

「アタシも不安だった、いきなりシンちゃんがいなくなって、何処かに行ってしまった様な気がして、戻ってくるはずだと思っていても、実際に戻ってくるまでの十数分はとても長く感じたわ、とてもね、」

「レイ、、、本当にごめん、」

「シンちゃん、思い込んだらそれに向かって突き進んじゃうから、、、、しかたないんだけどね、あとついでに言わせてもらうと、やっぱりシンちゃんが誰かの為に歌ってるってシーンは、あまり見たくない、」

「どうして?」

「ふふ、シンちゃんにはやっぱりわからないかなぁ、、、いわゆる嫉妬よ、アタシもアスカもね。でも、あの場で最終的に歌わなかったら、シンちゃんへの見方少し変わってたかも、」

少し笑いながらレイも控え室からでていった。

残されたシンジはカオルに聞く、

「どうしたらいいのかなぁ?」

「簡単だよ、シンジ君、今度は、あの二人の為に歌ってあげればいいのさ、」

 

 

 

 

                                                 

その日の夜、シンジ達は札幌で有名なスタンディング・ホールでライブを行なった、

「3104ストリート」と書かれたホールには500から600人の少年、少女がところ狭しと立っている。そして、シンジ達の登場と同時に心を開放する、一時の狂った世界への逃避行のために、

 

「サンキュー、バイバイ!」

シンジの一言でライブは終了する、

観客からのアンコールの要望があっても、あいかわらずシンジ達は応えない、

通常ライブ終了後、シンジは何処かにトリップして、ひどい時には自分で動けなくなる、その為今までアンコールに応えられなかった。

しかし、今回に限り、応えたくない、そんな気持ちでシンジは控え室に戻った。

白のタンクトップに白のショーツで、膝をかかえたまま椅子に座っているレイ、

カオルは上半身裸で、革のパンツをはいたままソファーに寝そべって、珍しくまじめな表情のカオル、

シンジは一人でシャワーを浴び続けている、

「何か、、、暗いわね、、、、」

ステージの終了後、アスカとマヤが楽屋に入って見た光景は、誰も口を開かず、沈んだ空気にどうする事もできないでいるスタッフとレイ、カオル、ミサトの沈んだ表情だった。

「どうしたの、レイ、みんなどうしちゃったの?」

「お願い、、、、アスカ、、、、一人にしてくれる、、、、」

膝を抱えたままレイが呟く、

「シンジは?」

「シャワー浴びてる、10分ぐらい前から、、、、」

 

 

シンジはシャワーを浴びながら、自分の心を見つめる、

 

なぜだ、

なぜ見えなかったんだ、

まったく感じられない、

いつもの世界が、、

あの、光はなんだ、とても悲しくて、苦しい光だ、

人間が溶けていくような、オレンジ色のひかり、

いや、、、水のような液体だ、、、

苦しくはないが、、、僕の血の色が変わっていくような、

レイもカオル君も一緒についてきてくれた、

いつもの世界に行けるはずだった、

でも、あのオレンジ色の光が、僕の血を、僕の心を変える、、、

まるで、絶対的な何かで、僕を押さえつける、

違う、僕が押さえつけているんだ、僕自身の心を、言葉を、

僕が神様にでもなったように、人の心を押さえつける、

そうだ、、、

僕の言葉が神様のような意味合いをもってしまったんだ、

だから、みんなを押さえ込んでいたんだ、

でも、どうして、

どうして急に、

あのオレンジ色の光のせい?

 

 

 

「えぇ、今確認とれました、可視光線としてはA10神経に直接アクセスするタイプだと思いますが、シンジ君の神経では通常の反応結果を得ることはできなかったようです、」

「データは送信された後だったのか、」

「すみません、私が踏み込んだ時には、すでに、データの記録は38%だけ回収できましたが、」

「そうか、引き続き彼らの詮索を頼む、」

「わかりました、」

ゲンドウが特殊専用回線の携帯電話を切る。

「どう思う、碇、」

「恐らく、シンジの魂の波動を探ったのだろう、」

「シンジ君が歌っている時は、最も彼の魂が震えているときだからな、」

「そのうえで、明日の対策を考えのだろう、」

「そうか、明日か、、、、、」

高層ビルの最上階の窓から冬月が見渡す光の粒は、人工的な輝きだけを放ち、誰が見ても心を苛立たせる偽りの光の集まり、いわゆる都市の夜景と呼ばれる、人間が作り出した闇から逃げるだけの世界だった、、、

 

第十四話へ続く



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