死者の道

 

body without eyes.」

 

 

 

「行こうか、」

「うん、」

シンジとカオルは朝早くホテルを出る。ミサトとマヤはまだ眠っている、恐らくレイとアスカも同じだろう。一応ミサトの部屋のドアの下から置手紙を入れておいたが、それを読むのは昼ぐらいだろう。

「朝の空気がこんなに気持ちいいのは久しぶりだね、」

「うん、、、、」

「天気もいいし、僕達のこれからを示している様だね、」

「うん、、、、」

カオルの言葉にシンジはほとんど反応せず、ただ無言で歩く。

ホテルの受付の前を通り抜け、まだ少し白い空気が残る早朝の街に二人は消えて行く、

歩きながら話す言葉は目覚めはじめた街に良く響く、まるで空気が二人の言葉を遠くまで伝えようと意図しているかの様にさえ感じる。

「恐いのかい、シンジ君、」

「そうかも、、、」

「大丈夫さ、君は自分の信じる道を進めばそれで、」

「うん、、まぁ、湖に行ったからって何か変わるわけではないんだけどね、」

「いや、過去をもう一度見つめて、そこから自分を解き放ち、新たな旅立ちをする事は大きな意味があるよ、シンジ君自身の心が大きく変わっていくんだ、ひょっとしたら、、、」

「ひょっとしたら?」

「僕達は一緒にいられなくなるかもしれないぐらいにね、」

「そんな、大げさだなぁ、カオル君は、」

シンジは真剣に瞳をぶつけてくるカオルに少し戸惑いを感じる。

「シンジ君、約束してくれ、」

「ど、どうしたの、カオル君、そんなに真剣になって、」

「これから何が起こっても、シンジ君の歌ってきた、信じてきた道を選ぶことを、」

「何の事なの、、、」

「どれほど人間が愚かで、救うべき価値の無い生き物だとしても、決して無意味な世界を望まない事を、」

「カオル君、、、、」

シンジは普段と明らかに違うカオルの態度に戸惑う、

「自分の過去に勝つんだ、そして、自分の未来にも、運命にも、、」

「カオル君、君が何を言ってるのかわからないよ、、」

「遺言かな、、ひょっとしたら、」

 

 

 

 

「何処にいったのよ!!まったくシンジのやつ!」

「まぁアスカ落ち着いて、」

「落ち着いてなんかいられないわよ!カオルまでいないって事は二人で何処かにいったのよ、」

アスカが目覚めたのは8時を過ぎた頃だった。

昨夜は心が不安定でレイに頼ってしまったが今日は違う、そう思いシャワーを浴び、髪を整え、着替えてからシンジの部屋に向かったのだが、いくらノックしても出てこない。もう起きて朝食を取っているのかと思いホテルのレストランに行くが、そこにもいない。そこで、ミサトの部屋に行き、半分眠っているミサトが開けたドアの下にあるシンジとカオルの手紙を見つける。

そこには、シンジとカオルの二人で綺麗な湖に行く、と書いてあった。

「まったく、二人で行く事ないでしょ、私はシンジのなんなのよ、、、」

アスカはなんの言葉もなしに行ってしまったシンジに、怒りではないが不安に近い気持ちでいた。

「あの、湖に行くのなら、どうして、、、私には見られたくないって事なの、シンジ、」

むしろ悲しみに近いのかもしれない、

「アスカ、どうするの、」

事態を知ったレイはすでに着替えて出かける準備をしている、

「追っかけないの、」

「、、、、レイ、」

「うん?」

「ひょっとしたら、シンジにとっては本当に愛って感情は必要無いのかもね、、」

「何言ってるのよ、アスカ、シンちゃん、きっとアスカに自分の過去を見せたくなかっただけだよ、」

「もし、本当にそうなら、、、、私行かない方が、、」

「だめよ!絶対だめ!」

レイがアスカの両方を掴み、強い口調で言う。

「いい、アスカ。シンちゃんは優しいけど、優し過ぎて何か自分にあっても自分の殻の中にすぐこもってしまう。それがどれだけアタシ達を傷つけるか、どれだけ苦しめるか、はっきりと教えなきゃ、」

「でも、、、シンジは、」

「どうしたの、いつものアスカらしくないよ、アスカはシンちゃんがこのままでいいの?愛って形を信じないで、最も辛い愛って感情を知らないままでいいの?とっても苦しいけど、それが人間に最も必要だって事を教えなくていいの?」

「レイ、、、」

「残念だけど、あたしがシンちゃんにしてあげられることは家族としての範囲内のことだけかもしれない、でもアスカは他人なのよ、愛って感情を教えてあげられるたった一人の他人なのよ、あんたが教えなきゃシンちゃん、一生どこにも行けないで苦しんだままよ!それでもいいの、アスカ!」

レイは赤いひとみのまま必死に話す、

綺麗な言葉だ、本当に心からの言葉なんだろう、だからアスカの心にも流れる、

綺麗な水の様に、アスカの心に染みわたる、

嬉しい言葉、そう、アスカにはとても嬉しかった、

「そうね、、、行かなくちゃ、」

「そうよ、アスカ、」

「うん、私が行かなくて、誰が行く、、、私が教えなくて、誰が教える!」

アスカは言葉を力強く繰り返し、拳を固めながら立ちあがる、

「待ってなさい、シンジ!いまから私があんたの事、しっかり調教しにいってあげるわよ!ホホホ、、、、!」

高々と声を上げ、笑うアスカの笑みはどこか女王様的だった。

「ところで、レイ」

「なに、」

「湖って何処にあるの、」

「、、、、、知らない、」

 

 

 

 

                                                 

電車が一定のリズムを立てて走る、普段なら気にならないのだがシンジは何故か体に感じる振動に苛ついていた。単線の4両編成の列車に乗ってからすでに30分以上は経っている、

「カオル君、、、」

「なんだい、シンジ君、」

列車に乗ってから初めての言葉かもしれない、

「昨夜カオル君、僕が神様の様な絶対的な力を手にいれたら、何を望むって聞いたよね、」

「あぁ、」

「ひょっとしたら、僕は世界が終わることを望むかもしれない、、、」

「この宇宙全体を終わらせるのかい、」

「うん、、、人間が生きていくことはやっぱり、苦しみと悲しみが基本なんだと思うんだ、、、、誰もが欲望だけを求めて生きてる、自分が他人より良い環境で生きる為に他人を突き落とす、、、お金の為に体を売る、お金で体を買う、時には他人の体を勝手に売る人間もいる、、、お金の為に動物を殺し、飼育する、、、、、お金の為だけじゃない、たった一人の権力者の思想のせいで、数千人単位で人が死ぬ、、、、殺した軍人は英雄になる、おかしな世界だよね、」

シンジは窓の外の変わらない風景をずっと眺めている、

「そのくせ人間だけが絶滅するわけじゃない、他の植物、動物、自然、そして地球という生命体を壊して行く、、、信じられない生物だよね人間は、、、、、おまけに誰もその事実から目を背けて生きてる。目の前の欲望だけを、食欲を性欲を満たすために生きてる、」

「だから世界の終わりを望むのかい、」

「それに、世界中の宗教で似た様な事が書かれていたり、語られていたりするじゃないか、、、、最終的には世界が終わることが、、、、もし僕が本当に神と同じになったら、、、、」

「終わりにした後、どうするんだい、君は、」

「後って、、、、」

「確かに君のいうとうりだ、世界中の権力者たちは軍事力で世界の民族を征服しようとした、いまだに軍人は核兵器で世界を支配していると思ってるようだが、、、、でも軍人だけじゃない、生物学者は生命の神秘を解くことにより神の座に着こうとしてる、世界中の食物をコントロールして世界を思いのまま動かしてる人物もいる。その為にあらゆる民族、動物、自然を壊してきたことは事実だ、でもシンジ君、その世界を終わらせたら、たった一人で残った君は、どうするんだい、一人で生きるのかい、それとも君もいなくなり全てを無の世界、空の世界にするのかい、」

「、、、、そうかもしれない、」

シンジはどこか悲しい世界を見ている、

太陽の光は世界を救わない、オゾン層の薄い国の人間は誰もがそう思っている、

原子力発電所からでる放射能物質は弱い国に送られる、そしてその国の人は死んでいく、

違う神様を信じる、信仰方法が違う、それだけで殺し合う人間、

豊かな国に生まれ、自由を与えられた人間は精神が壊れる、ない自由を与えられ自我崩壊をおこし、他の生き物を支配することで優越感と快楽を得る人間、

シンジが見ている世界は、そんな世界かもしれない、

もちろんそれだけではない、

レイやカオル、ミサト、マヤ、加持、みんなシンジにとっては綺麗な心を持ってる、

だが、シンジは気がつかないうちに選択していた事も知っている、

シンジ自身が傷つかない人間だけを周囲において、そうでない人間は排除していた事を、

自分に都合のいい人間だけを選択していたことを、

そう思うと自分自身の存在は無意味に思える、

とても小さな人間に思える、

アスカ、、、都合よくない他人、、でも心に触れる事ができる他人、

僕を愛してくれてる、、、のかなぁ、

ごめん、

僕は愛ってやっぱりわからない、

愛が終わる時に流れる涙は真実だとは思えないんだ、

こんな僕が神様と同じ力を手にいれたとしたら、、、

 

 

 

 

 

                                                 

「だめよ、絶対だめ!」

「どうしてよ、私にとっては一生を左右する事なのよ!」

「シンジ君とカオル君がその湖に向かったからって、アスカが行かなくてはならない必要はないわ、」

「必要よ!シンジがこれから人間として生きてく為には、私の愛が必要なのよ!」

「それと、アタシのね、」

ミサトとアスカが部屋で声を張り上げる後ろで、レイが冷静に発言する、

「シンちゃんは自分の過去を振り返るためだけに湖に向かったんじゃないわ、」

「ほかに何があるの?」

「う〜ん、うまく言えないけど、、、きっと自分の心を取り戻しに行ったんだと思う、」

「心を取り戻すため?」

「うん、、シンちゃんの歌にはいつも生きてることへの疑問、生物の存在の理由を求めてた、自分の魂を捨てでも他人の魂の存在を感じたかったんだと思う、、」

「だから一度自分の魂を捨てた場所に行ったの?自分の存在を確認するため、」

「たぶんそんな単純な理由ではないと思う、、、もっと深く、心の奥に埋まってる何かを確認するため、、、」

レイは何故か笑っている、というよりこれから起こる事が、未知の世界に通じるきっかけになる様な予感がして、嬉しさを感じている。

「とにかく、今シンジを一人きりにして過去と今だけに閉じこもってしまったら、一生後悔する気がするの、お願い、マヤ、ミサト、今日だけは私の我侭許して、」

「今日だけじゃないでしょ、我侭なのは、、、、」

ミサトが呆れた見つきで答える、

「私が頭をさげてお願いするのは、これが最初で最後ってことなの!」

「だめ!あんた仕事をなんだと思ってるの、遊びに来たんじゃないのよ、」

「だから、こうやって頭を下げてお願いしてるんじゃない!」

「どこが頭さげてるのよ」

お互いの鼻の先がぶつかりそうになるほど顔を近ずけ、にらみ合う。

だがアスカの瞳は普段とは違う、

「お願い、、シンジの側にいかせて、、、今行かないと二度と会えないかもしれない気がするの、、」

「アスカ、、、どうして、、」

「アスカの言う通りかもしれないな、」

いきなりの声に振り返る二人、

その声の主がレイの後ろに立っている、

誰れにも気ずかれず部屋に入ってきたこの男はよれよれのスーツでレイの肩に手を置く、

「アスカの言う通りだ、今行かなかったらシンジ君とは二度と会えないかもしれないぞ、」

「加持、」

「加持さん、、、」

ミサトは加持の出現に驚く、

「な、なんであんたが、、、ここに、、」

「ある人に頼まれてね、アスカちゃんとレイちゃんを連れてきて欲しいとね、」

「ある人ってだれよ、」

「シンジ君のお父さんだよ、」

加持の言葉に誰もが過剰に反応する、

レイにいたってはまるで自分のなかの暗い部分を見られたような気持ちになり、瞳を固める、

「ど、どうして、シンジのお父さんが、私を、」

「アスカ、君だけじゃなく、レイも感じてるはずだ、昨日の演奏から感じてる何処かから流れてる不安が、シンジ君だけじゃなくみんなが消えてしまう、自分を構成している輪郭が無くなる感覚を、」

「感じた、あたし、、、とっても感じてた!」

「私も、とっても不安だった!」

レイとアスカは加持が答えを持ってると思い、声を上げる、

「それは意図的なものだ、特殊な情報を含む信号を発信し、シンジ君の潜在的な純粋さに干渉する、そして不純物を混合させることで君達の世界を否定するように神経系統に指示をする、」

「そ、そんなことできるの、」

「人間の意識できない神経部分には脳神経に直接アクセスできる神経が多く存在する。そしてその神経に情報を与えるのは通常の伝達方法ではないがそれほど難しいものでもない、二人とも昨日以外にも経験してるはずだがなぁ、」

アスカとレイの脳裏にははっきりと浮かぶ、

宙に浮く感覚、でもなぜかとても不安な気持ちになる暗い無限な空間、

地の底から響くような言葉で、世界の終わり、人間の愚かさを話す、

そして、自分達を否定しその存在を悪としてみなされたあの空間、

二度と経験したくない世界だった、

「まさか、シンジにも、、」

「そうだ、その危険が迫っている、」

ゆっくりと優しく答える加持だが、瞳は真剣そのものだった、

「シンちゃん、、」

レイは自分の陥ったあの不快な、心の奥を抉り取られる感覚を思い出していた、

「シンジ君のお父さんが、君達二人を必要としてるんだ、」

「どうして、アスカとレイなのよ、」

黙って聞いていたミサとが加持につめよる、

「あんたね、いきなり現れて訳がわからないこと言って、ちゃんと説明しなさいよ、」

「残念だが始めから説明してる時間はない、頼む、葛城、」

「頼むって言われてもね、、、、」

「葛城、俺達がこれから生きて行く世界が危険に曝されてるんだ、」

「危険って、、、」

「このまま行けば、人類は地球という生命体を消滅させるかもしれない、人間の手で未来を壊すかもしれないんだ、たった一部の権力者たちだけの為に、」

「それとシンジ君となんの関係があるのよ、」

「未来は人間の手で選ばなくてはいけないんだ、神の力を使って人間や地球を別の形にしてまでも画一的な未来を創造する必要はないんだ、」

「だから、それとシンジ君がなんの関係があるのよ!」

ミサトは多少苛立ち、声を荒げる、

「葛城、、、、、シンジ君やアスカ、レイちゃんは、、、俺達とは違う人間なんだ、」

「、、、、、、はぁ?」

 

 

 

 

 

「碇教授、」

リツコが運転する車の後ろには碇ゲンドウと冬月が座っている。

「シンジ君がもし世界が進化することを望んだ場合はどうするのです、」

ゲンドウは静かに周囲の世界を眺めたまま返事をしない、

「もし、神の力、エヴァをもってして生物、そして地球の進化を望めばそれなりの未来は約束されます、シンジ君が望まない可能性の方が低いのでは、」

「その時は、」

静かにゲンドウが答える、

「シンジの魂を消滅させる、」

 

 

 

 

アスカとレイは黙ったまま加持の運転する車に乗りこむ。

「すまない、葛城、、、、もし生きて帰れたら、」

「そんな不吉な事言わないでよ、」

「そうだな、必ず帰ってきて元の俺の姿を見せるよ、ありのままの俺をね、」

「まぁ、期待しないで待ってるわよ、」

「、、、、それじゃ、」

そう一言残した加持を見ながらミサトは不吉な感覚を隠しきれなかった、

もう、二度と会えない、、、、

そんな気がしている自分が何故かとても嫌だった、

 

「加持さん、ミサトと何を話したんですか、」

アスカはミサトの普段とは違う表情が気になっていた、

「いや、たいした事じゃないよ、」

「うそ、アタシ達が違う人間だって言ってたじゃないですか、」

「君達は世界でもまれな純粋な瞳を持ってることを伝えただけさ、」

加持は後ろに座っている二人に話す、

「動物の瞳は純粋だったんだ、本当に綺麗で、どんな宝石よりも綺麗な輝きを持っている。人間は言葉という記号を持ったことで、心を汚すことも憶えた、」

「でも言葉をもたなかったら人間の文化も社会も発達しなかったはずよ、」

「いや、本当は文化も社会も高度に発展する必要はなかったのかもしれない、」

「どうして?」

どの動物も自然の中で生きてきた。人間も例外ではない。森を歩き、海を泳ぎ、大地を走る。それが地球と生物の本来の姿だった、地球は食物連鎖の底辺にいる動物に植物を与え、その上にいる肉食動物は草食動物を食べる。その上に人間が存在するという学者がいるが俺はそう思わない、人間はこのままでは地球を滅ぼすバクテリアだ。

「でも、人間も自然を大切にするし、他の動物を保護するよ、」

レイが自信なさそうに発言する、

レイ、それこそ不自然なんだよ。自然保護、動物愛護、そういった団体が必要になった原因は人間だ。ミンクのコートを着て自己顕示欲を満足させる為にアザラシの子供を大量に殺す、象牙を手に入れるために象を大量に密猟する、しかも政治家がそれを黙認している。文化の為といって鯨を乱獲する事もそれに近いことだ。今、世界で絶滅しそうな動物が数万種いる、それだけじゃない、世界中の自然をプロトニュウム、ウランなどの放射性物質で殺している。全て人間が行なってきた行為だ。

「でも、、、、アタシ達が生きてる事がそんなに悪い事なの、」

地球規模で考えれば人間ほど悪い動物はいない。地球は生まれてから数億年自然のままでいられた、ところが人間はわずか数百年の間で地球を瀕死の状態に追いこんでいる、

「でも、それを防ぐ為の科学も思想も人間は持ってるはずよ、それに私達だって種として存続する権利があるはずよ!」

アスカからしてみれば自分の存在を否定される事はどうしても避けたい気持ちでいた、

だが、そんなアスカの気持ちを加持は静かに、優しく否定する、

「アスカ、権利を主張するのは誰にだい、

「それは、、、、」

つまり権利なんかは本来人間社会の中だけで認知された概念なんだ。自然や地球、他の動植物を含めた世界では無意味なんだよ。人間は合理主義こそ全てだと勘違いしてしまった。本来の野生の姿を忘れ、全ての現象界の出来事は説明できると、生命も宇宙もすべて言葉という記号で人間の脳で理解できる、人間が認知できる範疇のものだと思いこんでしまった。その結果、人間は種として地球上で最も愚かな、醜い瞳をもった生物になってしまった、、、悲しいことだがな、」

加持の言葉にアスカもレイも黙ってしまう、

「だが、そんな欲望と無縁な瞳を持ち続ける事ができる一族がいたんだ、」

「え、、」

「最近だが、やっとその存在が確認できたんだ、」

「そんな人間がいるんですか、」

「いるよ、俺のすぐ後ろにね、」

レイとアスカは互いの顔をみる、そして後ろを振り返るが、見えるのは街からはずれ段々と山道になってきた舗装されていない道だけが見える。しばらく後ろを振り向いていた二人だが、ゆっくりともう一度二人で見つめあう。

「そう、アスカ、レイ君達の瞳は純粋なままだ、本来人間が持っていた世界中の美しさを兼ね備えた野生の瞳を持ってるんだ、」

「ア、アタシの瞳は、、、」

「その赤い瞳も、アスカの蒼い瞳もすべて地球という生命体が人間を種として蘇らせる事ができる神様の瞳なんだよ、」

「神様の瞳、、、、」

「そう、そして神様の魂を持った人間こそ、、、、、、碇シンジ君だ、」

 

 

 

 

 

カオルとシンジは長い山道の入り口に立っていた、

もともと山道を歩いて来たのだが湖へ行くには、更に急斜面な荒れた道を進まなければならなかった。

いままでの歩いてきた人間が開いた道ではなく、自然とできた獣道を、草木の倒れてる方向を見ながら歩くのだ。もっとも獣道といえども人間が何度も往来してる為、道として成り立ってしまっているのだが、

「よくこんなところ知ってるね、」

カオルが不思議そうにシンジに尋ねる、

「うん、、、これでも解り易くなった方だよ、僕が北海道に住んでいた時はこんな道はなかったからね、」

「へぇ、それでよく知っていたね、」

「うん、一人で山の中を歩き回るのが好きだったんだ、、、、なんとなく気持ちが純粋になるって言うのか、

自然の音、匂い、視界、少し薄暗い光がとても好きだったんだ、」

「本来人間も森の住民だったからね、」

「うん、、、でもあの頃はただ気持ち良かったんだ、嫌な事は全て忘れられたんだ、」

「自然には明らかに力がある、心を治癒させる力が、いつのまにか人間はそんなことも忘れてしまってるけどね、」

「うん、、、悲しいね、」

先に進むシンジの背中を見つめるカオルはシンジの背中に何かを感じている、

白いTシャツと黒い革のパンツ、黒いブーツに腕には刺青、シンプルないつもの姿のシンジの背中をカオルはただ黙って暫く見つめていた。

(僕が憧れたたった一つの背中、純粋な故に悲しみを多くもってしまった瞳、その悲しさをやっと支えてる細い体、腕の刺青以外はなにも装飾されていない心と体を持つシンジ君に僕は憧れを抱いているのかも、、、生まれながらに魂が汚れてる僕は、憧れてるんだろう、シンジ君に、、、)

 

そんなカオルの想いを一瞬で打ち消す様に事が起こる、

 

「カ、カオル君、、、、」

「あぁ、、、、、」

シンジとカオルが獣道を歩き始めてから15分ほど経っていた、

そして、森の木々が途切れ、草原に出た二人が見た光景は、地獄という言葉の持つ人間の概念をそのままにしたような世界が広がっていた、

草木は全て赤く染められている、いや、染めたのではなく大量の赤い液体を草原中にこぼしたのだろう、草木の間の土も赤い色が染み込んでいる、地上が全て赤い色に染まることなど常識では考えられない事だが現実に二人の目の前の世界は赤い底辺が広がっている。

そして、数々の動物の死骸、人間と思われる残骸、肉片、骨、臓物が所狭しと置かれている、

まるで赤いじゅうたんの上を装飾するかのごとく、おびただしい数の屍が放置されている、

「カオル君、これは、、、、」

「大丈夫、赤く染めたのは特殊な液体だよ、とても血に似てるけどね、」

「じゃ、じゃぁ、死体は、」

「それも偽者、スプラッタームービーでよく使うものさ、」

「そ、それでも、、、」

カオルは涼しい顔で目の前に広がっている光景を眺めてるが、シンジには偽物だといわれてもとても落ち着いた気持ちにはならなかった。

「シンジ君、心を失ってはだめだよ、」

「そんな事言っても、、、これはいったい、、、、、、もし全て偽物だとしたら、誰がどうしてこんな事を、」

「僕達だよ、」

その声に振り向くとケイとノーマが立っていた、

「結構大変だったんだよ、ここまでやるの、」

「そうよ、半日以上かかったんだから、」

そう笑顔で話す二人をシンジは呆然と見つめる、

「ど、、どうして、ノーマが、」

「私達はシンジ君を導かなくてはいけないの、悲しいけどそれが運命なの、」

「ど、どういう事なの?」

「それはね、、、、」

ノーマは笑顔でいるが少し話しずらそうな感じでいる、

「僕が話しをするよ、」

ケイがノーマの変わりに話す、

「君は、確か、、、」

「クェポ・ケイ、ケイでいいよ。」

「ケイ、どうして、こんな事を、」

「シンジ君、君はカオルがこれは全て偽物だと言ったけど、それをそのまま信じるのかい?」

「どういう事、」

「自分で確かめもせず、カオルの言葉だけを信じるのかい?ひょっとしたら全て本物かもしれないし、半分は本物で半分だけ偽物かもしれない、」

シンジはケイの言葉を聞き、もう一度赤い草原を見る。だが、そこにはさっきと同じ凄惨な世界が広がっているだけだった、

「あの首を切断された男の死体は本物かもしれない、あのレイプされ殺された少女の死体は本物かもしれない、あの臓物を抉り取られた馬の死体は本物かもしれないよ、君は自分で確かめずにカオルの言葉だけを信じるのかい、他人の言葉で世界を全て決めてしまうのかい、」

シンジはケイの他人を諭すような物静かな口調と不思議な雰囲気に飲み込まれていた、

そして、その言葉通りに全てが偽物ではないような気がしてきた、

「もし、、偽物じゃないとしても、、、どうして、こんな事を、、、、僕には関係ないことじゃ、、」

「いや、大いに関係あるんだよ。ここにある数百の死体はみんなシンジ君に話を聞いて欲しい死体だからね、そうだろみんな!」

そうケイが大きな声を上げる、

そして一斉に死体の頭部のみが動く、

瞳が全て一点をみる、

瞳とは呼べない物質も見る、

シンジの姿を必死に捕らえよと、

そして口々に言葉を発する、

神様、、、、、と、

 

 

第十六話へ続く



Rudyさんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る
inserted by FC2 system