死者の道

「きっとかわいい女の子さ!」

 

 

 

空は青かった、

信じられないほどに青かった、

この青って何色?

いままで見たことのない青なんだ、、

僕が浮かぶこの湖は、その青で染まっている、

時々風が揺らす水面が、自分の場所を認識させる、

 

「もう、、全てが復元してるのかなぁ、、」

「さぁ、、わかんない、、」

レイとシンジは信じられない程の透明感を持つ湖に浮いていた、

シンジは、以前にも一人で無限の荒野の中にある湖に浮いていたが、

それがどれほど以前の事なのか、表現しようがなかった、、

あの時、あの空間に時間や日付けの概念があったのか、、

今ではどうでもいい事だが、、、、以前もあったという事でしか表現はできない、

 

「でも、、この湖の周囲は、普通の森だよね、」

「うん、、、そうだと思うよ、、」

レイは湖の周囲を取り囲む、高い木々をゆっくりと見まわす、

気がつくと鳥のさえずりも聞こえる、

幸せのさえずりなのか、哀しみのさえずりなのか、

レイにはどうでもいい事だが、、、、以前聞いていたさえずりと同じに聞こえた、

 

「レイ、、、」

「なに?」

「そろそろ、、起きあがろうか?」

「、、、そうね、、」

「あの時は、レイが空から降ってきたけど、、、今度は一緒に起きて、一緒に湖から出るんだね、」

「そうね、、、、」

 

シンジは母との別れの後、暗い空間を落ちていった、

何処まで落ちれば終わるのか分らないほどに、空間を高速で落ちていった、

そして、様々な色に細分化された世界、全ての輪郭が歪み、物理的に物体が存在しない世界、

時空も歪み、常識も、社会通念も歪んだ世界を通り抜け、

最後には体が溶けるほどに強烈な光の世界に落ちていた、、

そこで光と同化したシンジは自分を無くす、、

曖昧な空間で自分も他人もない世界でシンジは自分を必死に捜す、

そして、その光の世界を抜けた時、シンジは重力を少し感じた、、

正確には浮遊力だった、、シンジは再び湖に浮いていた、、、、

(また、同じなのか?)

そう思ったシンジだったが、今度は明らかに見覚えのある世界だった、、

何度も見た空、太陽、、、何度も感じた風と空気、、、何度も聞いた事のある音、、

隣に浮かぶ、何度も会話し、触れ合い、信頼し、互いの感情を補ってきた人物、

レイの存在、、、

全てがシンジの経験の中に入っている世界だった、、

 

「ねぇ、どう思う?」

「どう思うって?」

「僕達が、この湖から出ていっても、、今までとまったく同じ世界なのかなぁ?」

「う〜ん、わからない。でも、ここで浮いてるだけじゃ、意味無いでしょ、」

「そうだね、とりあえず、この湖を出よう、」

シンジは水面の上に立つ、そして、レイの体を引き起こし、二人寄りそう様に立つ、

そして改めて周囲を眺める、、

「昔のままだ、、、僕がよく一人で遊びに来ていた頃の湖のままだ、、、」

「綺麗ね、、、、でもシンちゃんここで自殺したんでしょ?」

「うん、、結局父さんに助けられたんだけど、、、」

「そう、、、、」

「今、、、生きていてよかったと思うよ。こんなに素敵な湖の上を歩けるんだもん、、」

「そうね、、涅槃の地で魂のままでもよかったかもしれないけど、、」

「生きて苦しみを受けてる方が、僕達には似合ってるんだよ、」

「そうね、それが、、私達の未来かもね、」

二人は互いの体に腕をまわす、

二人は上半身は何も身に付けていない、

下半身は皮のパンツに、黒のブーツ、

裸の上半身に浮かぶ綺麗な刺青が、やっと現実感を感じさせる、

 

シンジとレイは歩く、水面上を、一歩一歩、現実を確認しながら歩く、、

そして、、、、シンジとレイは湖の辺に立つ、

その瞬間大きく風が流れる、

その風に森の木々も草も花も砂も、全てが反応する、

大地も空間も空も、全てがシンジとレイが地面に、大地に立つ事を祝福している、

そんな気がする、素敵な強風だった、、

 

「はは、、なんか、変な気分だね、」

「そうね、、、もう何千年も大地に立ってなかった気がするわ、」

「大丈夫だよ、僕達のこと、地球も忘れてないよ、」

「そうよね、アタシもこの星の一欠けらなんだからね!」

「そうだよ、僕達が作る未来は、地球の未来でもあるんだ、、、

それが全てではないけど、無視できる未来でもないんだ!」

「行こう!シンちゃん!この森を走り抜けよう!」

レイがシンジの腕を引っ張る、

「レイ、行き先わかってるの?!」

「そんなの走ってから考えればいいのよ!今は、走る事が未来へつながるのよ!」

「ちょ、、ちょっと、レイ!待ってよ!」

シンジは笑いながら答える、

そんなシンジの腕を引っ張り、レイは走り出す、

そしてシンジも走り出す、

全ての未来が不安な世界かもしれない、

本当は何も無い未来なのかも、単に絶望するだけの未来かも、

それでもいいと、シンジは、レイは思った、

走る先にある世界が、もとの世界なのか、それとも進化した世界なのか、

今はわからない、、、

でも、自分の意志で走り、自分の目で見て、自分の感覚で感じた世界でなければ、

存在する意味はない、、

そう信じて、走る、、、、風と空の歌を聴きながら、、

シンジとレイは、森を、草原を走る、、

真っ赤に染まっていた草原は、もとの緑の草原に変わっていた、

綺麗な花と、草木が生える草原を、

あの時と違う、素敵な未来を信じて走る、

シンジとレイは、素敵な笑顔を浮かべて、

草原をただ全力で、走り抜けていった、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジが再び目を覚ますと、ベットの上だった、

「あれ、、、、知らない天井だな、、、」

以前加持の家で、始めて見た天井とは違う、明らかに病院の天井とベットだった、

「シンちゃん、目覚めた、、」

「レイ、、」

ベットの側で座っていたレイが優しくシンジの頬に触れる、

「僕達、、、走って、、草原を駆け抜けて、、、」

「そうよ、でも私達その後の記憶、、、ないでしょ、、」

「うん、、」

「草原で、二人で抱き合って倒れてたんだって、、」

「え、、、」

「シンちゃんとね、上半身裸でしっかりと、、シンちゃんはアタシの胸に顔を埋めて、幸せそうに倒れてたんだって、、、」

「そ、そうなの、、」

「そうよ、、、」

レイの赤い瞳が奥深くで輝く、、

「ねぇ、、当然責任とってくれるんでしょうね、、」

「え、、いや、、レイ、、」

「アタシの体を汚したんだから、、、責任とってくれるわよね、」

「レイ、、ちょっと、、、待って、、」

「シンちゃ〜ん!!!」

レイがベットに飛び込む、シンジが身構えた瞬間、体にこない衝撃を不思議に思い、レイの後方を見る、

「あんた、またなに勝手なことしてるの!!」

「ミ、、ミサトさん!!」

「ミサト!なんで邪魔するのよ!アタシはシンちゃんと、、いっ痛いって、、」

レイは首根っこをミサトに押さえられ、じたばたしている。

「レイ!あんたは暫く大人しくしてなさい。シンちゃん病人なのよ、」

「はぁ、、、、い、、、、、」

レイはミサトに怒鳴りつけられ、小さくなって座る。

「シンジ君、、、、」

「ミサトさん、、、、」

ミサトは起きあがったシンジの顔をゆっくりと、優しく見つめる、

「嬉しいわ、、、、こんなに嬉しい気持ち、、久しぶりよ、、もう何年も離れていた気がするわ、、」

「僕もです、、、ミサトさんが、何も変わっていないみたいなので、、」

「何も変わっていないって?」

「え、、いやぁ、、」

シンジは笑ってごまかす、

その瞬間、、

ミサトの胸と腕がシンジの頭を包み込む、

「ミ、、ミサトさん、、」

「よかった、、本当に、、、、、本当に、、、」

ミサトは泣きながらシンジを何度も確認する、

シンジが生きている事、シンジがミサトの知っている笑顔を浮かべてくれる事を、

何度も、何度も抱きしめて、、、、、

「ミサトさん、大丈夫ですよ。僕は、何も変わっていません、、、僕は昔のままです、」

「そうよね、、でも不安だったのよ、、とっても、、もう二度と会えなくなるんじゃないかって、、」

ようやくミサトはシンジを離す、

「あなた達が出ていってから、その日の夜、加持が病院に運ばれて、、、」

「え!!加地さん、生きてるんですか!」

「えぇ、加持のやつ、車で事故って、、、それで確か、、アスカもレイも乗っていたはずだと思って、、、、、、とっても心配したのよ。連絡受けてから、病院へ行っても加持は絶対安静で会話はできないし、貴方達は三日も行方不明になってるし、、本当に心配したのよ、、、」

「そうですか、、、」

シンジはレイの方を見る、

レイは“ミサトにも何も話ししていない、”と合図を送る、

「そしたら、昨日あなた達二人が草原で倒れていたところを保護したって、警察から連絡があって、、、、、レイはすぐに目覚めたけど、シンジ君は今日まで眠ったままだし、、」

「そんなに眠ってたのですか?」

「シンちゃん、二日間ずっと眠ってたのよ、」

レイは椅子から立ち上がり、シンジのベットに座り直す、

「そうよ、ずっとアタシが看病してたんだから、、一睡もせずに、、」

「そうなんだ、、ありがとう、レイ、、」

「そんなお礼の言葉じゃなくて、、態度で示してよ、態度で、、」

レイは再びシンジに迫る、

そのレイの後頭部にミサトの貼り手が強烈な勢いで入る、

「痛っ!!!なにするのよ!ミサトだって、シンちゃんのこと抱きしめてたじゃないの!」

「あなたの抱擁は目的が違うの!いいかげんにしなさい!」

「ちっ、、まぁ今回は我慢してあげるわよ、」

「なんですって!レイ、その態度がね、、、」

「まぁまぁ、ミサトさん、、そんなに興奮しないで、、」

シンジが中に割って入る、

レイは形勢不利と判断したのか、シンジの病室から出ていってしまう。

「レイ、、、」

「そうね、レイ相手に本気で起こってもしょうがないわね、」

「それより、ミサトさん、加地さんは、」

「あいつは大丈夫。もう峠を越したから、集中治療室もでたし、意識も戻ってるわ、」

「そうですか、、、、よかった、、」

シンジはほっとする、

「ねぇ、シンジ君、、」

「はい、、」

「レイも加持も、何も教えてくれないの、、あなた達が何処で、何をしてたか、、」

「ミサトさん、、」

「二人ともその事を聞くと何も答えないの、、どうして?シンジ君も何も教えてくれないの?」

ミサトはシンジを問い詰めるわけでもなく、やさしく、シンジの心にそっと触れる様に話す、

シンジは俯いたまま、暫く黙っていたが、ゆっくりと話し始める、

「わからないんだと思います、、、誰も、、、何が起こって、何が事実で、何が夢じゃなかったか、、

誰も世界をもう一度確認しないと、分らないんだと思います、、、、、」

「そう、シンジ君にも分らないいんだ、、」

「すみません、、」

「いいわ、起こった事が事だけに、話しずらいかもしれないけど、、、いつか私にも教えてね、、」

「ミサトさん、、」

「もう、二度とあんな辛い思いするのは嫌だから、、お願いね、」

「はい、、、、約束します。」

シンジは無理に何も聞かないミサトに笑顔で返事する、

「それと、、、シンジ君、」

「はい、」

「カオル君とアスカ、、、まだ発見されてないの、」

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗な月だね、」

「うん、、、」

「レイとこうやって月を見るのは久しぶりだね、、」

「うん、、、」

「綺麗だなぁ、、」

「うん、、、」

レイとシンジは病院の屋上で夜の月を見ている、

二日月ぐらいの月、

ナイフの様な鋭さを持つ月は、どこか悪魔の瞳に似ている月、

シンジは満月より、そんな二日月の方が好きだった、

「レイ、、、、」

「うん、、、」

「どうしたの、気のない返事ばかりで、、」

「うん、、、」

レイは普段の表情のままだ、

だが、明らかにレイの心は月の裏側を見ていた、、

「シンちゃん、、」

「なに、、」

「アスカ、、、死んじゃったのかなぁ、、、、」

シンジはそれほど表情を変えずに月を眺めている、

「そうかもしれないね、、、、」

「そうかもって、、、」

「あの時、レイも知ってると思うけど、、アスカは僕の目の前で死んだんだ、」

「でも、加地さんは生きてるのよ、」

「うん、」

「どうして、アスカは蘇らないのよ、」

「さぁ、、、、僕が望まなかったからなのかなぁ、、」

哀しそうな笑顔で笑いながら答える、

「シンちゃん、、、望まなかったの?」

「どうだろう、、、、でも、今でもいったい何を望んだのか分らないんだ、、あの瞬間、あの場面、あの空間、あの世界、、、、思い出せる、昨日の事の様に思い出せるよ、」

シンジが薄暗い月明かりの中、月光に照らされてるレイに視線を移す、

「アスカが僕の目の前で死んだ瞬間、、その後、僕が世界を滅ぼした瞬間、、浮かんでた湖、知らない民族の争いと消滅、、レイとカオル君と走った大地、、、そして、あの死者の門の前で起こった出来事、、」

「アタシも憶えてる、、、でも、あの門を開けば、魂は復元するはずだったのに、、カオルは言ってた、魂に復元する力があれば大丈夫だって、アスカの魂が復元を望めば、、望むはずだから、、、、そう言ったのに、

そう言うから、、、、、、アタシ、、、」

「レイ、、、」

シンジは涙を拭きもせずに、ただ流すだけのレイをただ眺める、

「なのに、、、、なのに、、、カオルもいない、、、アスカもいない、、、、いないの、、、どこにも、、」

「レイ、まだ全てが決まったわけじゃないよ、、」

「じゃぁ何処にいるのよ!教えてよ、シンちゃん!」

レイが感情にまかせて泣きながら叫ぶ、

シンジはそれでもただ、月の光に浮かぶレイの表情を黙って見ていた、

「アタシは会いたい!アスカに、カオルに、もう一度会って、みんなで食事して、みんなで演奏して、みんなで笑いながら、、もう一度、、もう一度だけでいいから、、会いたいのよ、、アスカに、、カオルに、、」

「レイ、、、」

シンジはやっとレイを自分の側に抱き寄せる、

レイはシンジの胸に顔を埋め泣き続ける、

「シンちゃん、、どうして、会えないの、、、アスカに、会いたい、、カオルに、、、もう一度会いたい、、」

レイは子供の様に泣き声を上げて泣き続ける、

シンジはそんなレイの頭を撫でながら思う、

レイがどれだけ寂しい思いをしていたか、

レイも自分と同じぐらい哀しいかったのだという事を、

シンジが目覚めてから何度かシンジに甘えたかったのだが、

レイはいつも我慢していた事を、

シンジはレイの辛さがとても心に響いていた、

「レイ、、、まだ全てが決まったわけじゃないよ、」

シンジは泣き続けるレイの青い髪を撫でながら優しく話す、

それでもレイは声を上げながら泣き続ける、

「嫌だ、、、会いたい、、、やっと手に入れた家族だったのに、、、、、嫌だ、、嫌、、、、」

「レイ、、、、」

冷たい風が二人の薄い服をすり抜ける、

二人の心に優しく触れて、そしてただ去って行くだけの風だが、

二人の心の奥に何かを残して行く、

 

 

 

「まいったなぁ、それじゃ安心して眠れないじゃないか、」

「「え、、」」

その言葉にシンジもレイも驚き、言葉の方を向く、

「レイがそんなんじゃ、僕はゆっくり暮らせないよ、」

いつもの笑顔、いつもの口調、そして何一つ変わらない風貌でカオルが立っていた。

「カオル君!!」

「カオル!」

レイもシンジも一気に走りだす、

信じられないほど、体が反応する、

鼓動が一気にピークに達する、

「カオル君!」

「カオル!」

抱きしめたはずだった、、

大きく開いた腕で、カオルを抱きしめるはずだった、

だが、シンジとレイの腕が、体が感じたのは、実態のない空虚な空間だった、

シンジとレイはカオルの体をすり抜け、互いに立ち止まる、

「なっ、、、」

「え、、、、、、」

二人ははあまりの出来事に言葉がでない、

二人の目の前に存在するカオルに触れることができない、

何度もカオルの体に触れようとするが、全てすり抜ける、

シンジの腕も、レイの手のひらも、全てカオルの身体はすり抜ける、

「触れられないんだよ、」

「どうして、、、」

「僕の存在はここにはない、魂はいまだに涅槃の地にあるんだ、」

「カオル、、、」

レイは泣きながらカオルの体に触れようとする、

何度も、無駄だと分っていても、、それでも何度も触れようとする、

「レイ、、、すまない、、でも、触れられないんだよ、」

「どうしてよ、、どうして、、カオル、、、嫌だ、、、もう一度、殴らせてよ、、、」

「レイ、だめなんだよ。今の僕の体は、想念の結晶なんだよ。つまり幽霊なんだよ、」

「幽霊、、、、」

「そう、」

レイはカオルの姿を上から下まで眺める、

カオルはいつものお気に入りの黒のブーツに、黒革のパンツ、白いシャツを素肌の上から着ている、

「嘘、だって、、カオル、足あるじゃない、」

「でも、影はないだろ、」

シンジは月明かりに浮かんでるだけで、影のない、光を透通らせるカオルを確認する、

「カオル君、、、実態がないんだ、、」

「まぁ、実態なんて必要ないけれど、、、魂があの地に存在してるから、」

「つまり、、、現世への再生を望まなかったって事?」

「そうだね、僕は涅槃の地で生きることを望んだんだよ、」

「どうして!どうしてよ、カオル!」

レイは信じられないといった感じで叫ぶ、

カオルはその泣きながら叫ぶレイに優しく視線を送る、

「レイ、僕は始めから現世に存在できる存在じなかったんだよ、」

「嘘、、、、」

「シンジ君、怒らないで聞いてくれるかい、」

「うん、、、」

シンジは自分でも信じられないくらい、心は落ち着いている。

「僕はもともと涅槃の地の入り口、君が明けた“死者の門”の門番的な魂だったんだよ、」

カオルの言葉にシンジは何故か驚かない、とても冷静に聞ける、

「“死者の道”を通って来た魂に、本来の輪廻の道を進むのか、それとも“死者の門”を通りぬけ、涅槃の地で眠り続けるのか、魂を導く存在なんだよ、」

「つまり、、、、もとに戻ったと、、」

「そう、、、、僕は本来の魂の姿に戻ったんだよ。」

「じゃぁ、、どうして、、」

「僕もさっき分ったんだけど、、、シンジ君、君は本当に両親に愛されてるね、」

「え???」

「さっきまで一緒だったんだよ、君の両親と、」

「母さんと、父さんが、」

シンジはあの涅槃の地、母と別れたあの地を思い出す、

「そう、一緒にあの地で魂を見守ってるくれてる。実はね、シンジ君、僕は本来生まれる存在ではなかった。そして生まれたと同時に死ぬはずだったんだ。だけども、死んだのは僕の母だった。結果僕は本当に現世での存在価値がない魂になってしまったんだ。苦しみ、苦しみ抜いて、地獄に落ちるだけの存在だったんだ。そんな僕の元の生活は知ってるよね、」

「うん、、、、」

「そんなある日、僕の元に君のお父さん、碇 ゲンドウが現れたんだよ。」

「父さんが、、、」

「そう。君の父さんは色々な事を知っていた。エヴァウィルスの事、地球に選ばれた魂の事、いずれ起こる人類の滅亡の事、、、そして君の事もね、」

「どうして、父さんが、カオル君に、、」

「理由は3つある。一つは僕が本来の魂の道から外れた存在である事を知り、その救済の為、一つはいずれ起きる人類の滅亡から新しい未来を生み出す為、そしてもう一つは、、、、君を守る為、」

「僕を守る為、、」

「そう、レイやアスカと違って僕は本来の運命から外れた生きもだからね、本当は君に接触できる魂ではなかった。だが、碇 ゲンドウは僕の魂に目的を持たせた。君を守り、そして、君が自分の意志で未来を選べる様にね、」

カオルの言葉にレイは何も言えず、泣く事も忘れただ心に言葉を流し込んでいた、

話しをするカオルも、どこか遠い昔話しの様な感じで話す、

「始めは、、悪いけどどうでもよかった。父の虐待から逃げられれば、シンジ君の事、未来の事なんてどうでもよかった。でも、、、君と出会って、、レイと出会って、君の詩を聞いて、3人でバンドを組んで、演奏していくうちに、自分でも信じられないくらいに様々な変化があった。世の中には苦しみや哀しみ、憎しみや恨み、そういった感情だけじゃなくて、誰もが、愛や恋、優しさ、暖かさを持っていて、どんな生命体もこの星の一欠けらなんだって事に気がつけたんだ。シンジ君、、」

「うん、、」

「君に会えて本当に良かった、、、ありがとう、」

「カオル君、、」

「君には黙っていたけど、ずっと君のお父さんと連絡をとっていたんだ。君が何を哀しんでいて、何を喜んで、何を信じて、何を求めているのか、、、君のお父さんは本当に心配していた。君が辛い時に側にいてあげれない自分をとても責めていた。」

シンジは何故か哀しみより、喜びが心を満たしていた。

呆然と立ち尽くすレイとは対象に、なぜかシンジの心はとても澄み切っていた。

「うん、、父さんが僕の事を信じていてくれた事、僕を愛していてくれた事は母さんからも聞いたよ。また、あの地に戻ったら、父さんに、伝えて欲しいんだ、、、、、、、、僕も愛してるって、」

シンジは笑顔でカオルに答える、

「あぁ、約束するよ。すまない、今まで騙していて、」

「ううん、僕の方こそカオル君に会えて本当に良かったよ。嬉しかった、本当に嬉しかった、、、、

何度も駄目になりそうな瞬間、カオル君が側にいてくれて嬉しかった、、、

一緒に演奏できて、一緒にバイクに乗って走れて、、本当に良かったよ、、」

「シンジ君、、、」

「僕はまだ、この世界でやる事が残ってるけど、、いずれまた会えるよね、」

「うん、“いずれ”じゃなくて、“いつも”僕は君といっしょだよ、」

そしてカオルはレイの方を向き、いつもの笑顔で話しかける、

「レイ、、君が忘れないでいてくれれば、僕達は一緒なんだよ、」

「嫌、、、」

「レイ、僕達はいつでも会えるんだよ、」

「嫌、、、あんたの事なんてすぐに忘れてやる、、」

「はは、、レイ、ありがとう、」

「、、、、う、、うる、、、さい、、、」

「レイ、本当に、ありがとう、、これしか、、、僕も、、、、言えない、、、」

カオルの言葉が震える、、

レイの言葉も震える、

素敵な純粋さが雫となり、頬を流れながら言葉を揺らす、

「アタシ、、、すぐに、、、、忘れて、、忘れてやるから、、、」

「あぁ、、、でも、、、でも、、、僕は、、忘れないよ、、絶対に、」

シンジはそんな二人を綺麗な瞳の黒い部分で、優しく見守る、

「レイ、、、」

「な、、、なに、、よ、、」

「ありがとう、」

そして、涙をながしたままシンジの方を降るむき、カオルは笑顔でつぶやく、

「アスカは、、、、まだ迷っている、」

「うん、、」

「でも、、、、、きっといつか、、」

「分ってるよ、よろしく伝えて、、」

「うん、、、」

カオルもシンジもお互いに普段の笑顔で笑う、

「じゃぁ、、またね、」

「じゃぁ、、、、、また、」

明日にでもすぐに会える様な感じの会話で別れる、

そして、、カオルの体は消えて行った、、、

 

「カオル!!!」

レイの叫びは病院の屋上から、風に乗って、永遠の星空に消えて行った、、

 

第二十五話へ続く



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