死者の道 第五話

 

「海賊の歌」

 

 

アスカとシンジ達が初めて会った時から半年後のある日

 

シンジ達のファーストアルバムのヴォーカル入れに、アスカは来ていた。

隣のスタジオで同じようにシングルの歌いれをしていたアスカは、シンジ達の事が気になり覗きに来たところ、カオルは不在だったが、シンジとレイがいた。

当然のようにレイと喧嘩になり、シンジが止めに入ったがレイは怒ってでていってしまった。シンジはしょうがないなぁ、といった感じでいた。

「どうして喧嘩するの?」

「それはこっちの台詞よ!」アスカは興奮して答える。

(喧嘩するって分かっていてどうして来るんだろう?)

不思議だったが、とりあえず放っておこうと思いシンジはマイクの前に立ち、ヘッドフォンからオケを流してもらう。

目を閉じ、神経を集中させる。そして自分の作った物語の世界に入って行く。

とりあえず、一曲を歌い終い静かに目を開ける。

「う、うわぁ〜!!」

シンジの目の前にアスカの顔があった。

「な、なにしてるんだよ!」慌てふためくシンジ。顔が赤くなる。

「なに考えてんのかなぁ、と思ってさぁ、」アスカは平然と答える。

「あんたの歌ってさぁ、自分で作っているんでしょ。」「う、うん」

「アレンジもそうなの?」「う〜ん、3人で決める事が多いけれど、、、どうして?」

アスカは回りを見回し、レイがいない事を確認する。

少し照れているように話しはじめる。

「どうして、そんな歌が作れるの、、」「え、、、」

「普通さぁ、恋愛の歌とか人生応援歌とかじゃない。」

「それが普通なの?」

「普通とは言わなくても、あんたみたく生きている事が不思議だなんて言いながら変な物語を歌うやつって見た事無いわよ。」

シンジはしばらく黙っていたがSJ−200を手にとって椅子に座る。

「知らないんだ。」「え、何を」

「愛だとか、優しさだとか、運命だとか、他人を応援する言葉を。言葉だけでなく、そういった感情がどういったものなのか、分からないんだ。」

シンジはそう言うとSJ-200を弾きはじめる。

「そ、それって分かるとか、そういう問題じゃないでしょ。」

アスカはシンジの答えにいまいち納得できずにいる。

「じゃあ、なにを答えればいいの?僕の歌は普通じゃありません、間違っています、とでも言えばいいの」

「誰もそんな事言ってないでしょ。ただ、、、」

「ただ、なに?」シンジがアスカに問い直す。

「どうしてそんなに、生きてる事や死ぬ事に執着した歌詞なのかと思ってさぁ、、、」

シンジはしばらく考えている。アスカも黙って蒼い瞳でシンジを見つめ続ける。

「ここに来る前、牧場にいたんだ。」

「牧場?」

「そう、北海道の牧場にいたんだけど、そこでさぁ様々な動物達と生活していたんだけど、」

そう言って過去を振り返る。

 

シンジは母親を亡くしてから叔父の牧場に引き取られていた。そこでの生活は決して悪いものではなかったが、シンジは人間に対して心を開く事ができなくなっていた。

原因は父親にあった。

数ヶ月に一回会うぐらいで、母親が病に犯され、苦しみ、そして死の瞬間にも戻ってこなかった父親をシンジは許せなかった。さらに、葬儀にも現われず、電話でシンジの身柄を叔父に預けた父親にシンジは殺意に近い感情を抱いていた。

だが、母の遺言状の内容は父と自分への愛情を続った言葉だった。なぜ、母はあんな人間を愛しているのか、なぜ、愛されている父は自分と母を捨てたのか、シンジには理解できなかった。いまだに愛や恋を信用できないのはその為でもあった。(それだけではないのだが、、、)

牧場での生活はそんなシンジには特に辛いものではなかった。だが、心を開かずろくに何も話さないシンジに叔父や従業員もシンジと距離を置くようになり、誰もがシンジの心には触れ様とはしなかった。

 

そんな中、動物達だけはシンジに心を開いた。純粋な瞳、言葉は通じないが何故か分かり合える表情、シンジが大切に扱えば動物達もシンジに愛情を示す。動物だけが彼の友達であり、家族であった。

牧場では犬、猫、牛、馬、豚、羊、様々な動物が飼われていて、さらに一歩裏山に入り込めばもっと多くの動物たちと接することができた。

そんな中シンジは様々な動物の出産や死に立ち会ってきた。

生まれてくる生命、育つ生命、生きていく為に苦しみ、喜ぶ生命、そして老いて死を迎える生命。

シンジにとって生命の存在はとても不思議なものだった。

人間よりもはるかに短い人生のなか、生命を繋ぐ為だけに生きる。

(何処から来て、何処へ行くのだろう、)

細胞が動かなくなったら、生命が無くなるのだろうか?

細胞の機能性活動が生命の基ならば、脳こそ生命、魂と呼ばれるものだ。

だが、動物との日々の接触で言葉や形式に関係なく心が通じることがある、

脳の判断とは別に心が感じる瞬間がある。あれは何だろう、、、、、、

 

心が動物たちと通えば通うほどシンジには肉食が辛くなっていった。

もちろんベジタリアンではないが、シンジにとっては自分が肉を食べる事に疑問を持つといった事より、金の為に動物を必要以上に殺す人間が嫌になっていた。

生き物が生きていく以上、食物連鎖は当然であり肉食も必要最低限は当然である。

しかし、人間は自分の欲望で動植物を絶滅させたり、殺し続けている。シンジのいた牧場も食糧事情から生命を商売に利用していた。そんな生活が我慢できず、シンジはTokyo区のジュニアハイスクールに進学した。

それから1年後、レイ、カオルと知り合う。

 

「だから、、、あまり人間が好きじゃないし、愛とか恋とかをいいかげんな気持ちで歌う事は僕には出来ない。

そして、僕の中にある物語や映像が、動物、人間も含めての生死に関するするものが多いのは、それが僕が見てきた真実だから、嘘の無い自然の世界を伝える為だから、、、」

(あれ、どうしてこんな事話しているんだろう、、、2,3回しかあった事無いのに、、、、、、、)

シンジにはどうしてアスカに過去を話しているのか不思議だった。

だが、その相手、アスカは黙っていた。

「逆に僕は今ヒットチャートに入っている人達って、何の為に歌っているのか分からない、なぜ、他人が作った愛や恋や人生応援歌を笑顔を振りまきながら歌えるのか、、、」

「悪かったわね、私の曲もトップ10にはいっているのよ。」

アスカはシンジを見ずに下を向いている。

「ご、ごめん、、、、、でも、僕は今の惣流の歌がいい歌だとは思えない。惣流だってそう思っているんだろ、だから僕にそんな質問をしたんだろ。」

その通りだった。アスカは初めてシンジの歌を聴いた瞬間、自分の歌っている内容のなさ、才能への疑問、シンジへの嫉妬など様々な感情が芽生えていた。だから同じ歳のシンジに、直接聞きたかった。

あらゆる人達が認める才能の理由が、、、、、

「私は、自分の言葉で歌った事無い、、、、、」

アスカは小さくつぶやく様に話す。

「売れる事が第一条件で決まっていて、そのためのプロがいて、その人達の金もうけの為、自分の名声の為、この世界で長くやっていく為には仕方ない、、、そう思っていたんだけど、、、」

「我慢できなくなってきた、って事?」

「分からない、でもいい歌も沢山あったわ、歌っていて気持ちいい時も沢山あったわ、でも、、、」

「自信が無くなったの?」

シンジはSJ-200を弾きながら聞き返す。

「そうかも、、、しれない、、、私も知らないもん、、、、愛や、恋や、優しさなんて、、、、」

だんだん消えてしまいそうなアスカをシンジは黙って見つめる。

「でも、あんたの歌って、言葉じゃ伝わらない何かがある、、、、だからみんなが魅了される、、、、」

「言葉なんか信用してないから、僕は、」

シンジはギターを置いてアスカの側に行く。

「惣流さぁ、君は君だよ。タレントとして誰もが一流だと思っているんだから、それでいいじゃないか。売れる為に頑張ることは悪い事ではないよ。たとえそれが全て偽りでも、、」

「慰めになってない。」

アスカはシンジを睨みつける。

「あんたには分からないのよ!いつも都合よく利用されて、人形のように扱われてきた私の事なんか、」

「でも惣流が望んだんだろ、」

シンジも負けずに言い返す。

「本物になりたいのよ、誰のカバーやコピーでもない、惣流・アスカ・ラングレーになりたいのよ!」

シンジは顔を上げたアスカを見つめる。その時初めて気がつく。

アスカの瞳の蒼さに、純粋な動物と同じ瞳を持つアスカに、初めて気がついた。

「僕にどうしろって言うの?」

アスカは何も答えない。

(しょうがないなぁ、、、、)

「いつか、、、いつになるか分からないけど、一緒に曲を作ろうよ。アスカが作った歌を、僕がアレンジしたり、僕が作った歌をアスカが歌ったり、、、、決してセールス目的じゃなく、本当の歌いたい事、感じたいサウンドを作る為に、、」

「本当に!」アスカの表情が変わる。

「や、約束するよ、、、」シンジはその笑顔にドキッとする。

(アスカの笑顔ってこんなに綺麗なんだ、、、、、なんか明るいなぁ、僕とは違うや、、、、)

「絶対だからね、約束破ったら地獄まで追っかけてお仕置きするわよ!」

「はは、大丈夫、僕は天国にも地獄にも行けないから。」

「なに、それ、、、、、」

「また苦しみの世界に戻るだけだから、、、、」少し寂しそうに言うシンジ、

「訳わかんない事言ってないで、約束忘れないでよ。それと、」

「なに、」

「私の事は、アスカって呼んでね、」

 

 

それから、何度もレコーディングにアスカは顔を出すようになった。

来るたびに、レイと言い合いになり、シンジには曲の構想を話す。

だが、シンジ達のファーストアルバムが完成に近ずくにつれ、アスカは自分の価値に疑問を抱くようになっていった。そして、その気持ちを促進させたのが、付き人の岡村佳恵だった。彼女は、付き人になってからアスカといい関係を保っていたし、アスカも信頼していた。その彼女がやたらとシンジ達の才能を誉める。

アスカには何とも言えない焦りを感じさせられていた、、、、、、

 

そして、その半年後に出た「12月」というアルバムはアスカの自信を大きく震わせた、

 

                                                 

ライブ会場の屋上、星の無い夜空。

シンジの瞳にはある男しか映っていなかった。

「久しぶりだなぁ」威圧的に喋る男。

「別に一生会わなくてもかまわないけど」反抗的に喋るシンジ。

誰もが親子の対面とは思えず、黙って成り行きを見ていた。

「ふっ、わざわざ会いに来た親に言う台詞がそれか、」

「親?何処にいるんだい親なんて、母さんは冷たい国の住人になっているよ。」

シンジは母親以外はいないと、自分でも思い込んでいた。

「時が満ちようとしている、時間が無い。」

「僕には関係ない、」

「いや、おまえが当事者だ。おまえの行動しだいで、、」

「うるさい!!」

シンジは起き上がると男につかみ掛かろうとする。

「シンちゃん!」「シンジ君!」「シンジ!」

レイ、カオル、アスカが遮る。

「離してよ!僕は、、、こいつだけは、、、、」暴れるシンジ

「だめよ、シンちゃん、、」レイは必死にシンジを押さえつける。

「そうよシンジ、父親なんでしょ、あんたの」アスカも落ち着かせようとする。

「違う!!こんなやつ絶対に父親なんかじゃない!!!」

屋上にシンジの叫び声が響く。

「おまえがどんなに否定しても、おまえと私の血は同じ物が流れている。そして、」

「違う、僕の血は母さんの血だけだ!!」

「その血のせいでアスカ君やレイ君を不幸にするのか、」

「どういう意味だよ!」シンジは怒りのまま叫ぶ。

「2週間ほど前、」

シンジ達の動きが止まる。

「おまえ達に起こった事はすべてある人物が計画したことだ。」

「な、、ある人物って誰なんです!」アスカが叫ぶ。

「誰がアスカをあんな目に!」レイも叫ぶ。

「いや、目的はシンジ、おまえだ」

シンジはあの時カオルと同じ事を言う父親を黙って睨みつけていた。

「なぜ、、僕が?」

「知りたいか、」

「あぁ、」小さく答える。

「ならば、後で尋ねてこい。今のおまえは怒りで心が汚れきっている。」

「なんだと!おまえのせいで、、、」殴りかかろうとするシンジをカオルが止める。

「シンジ君、今夜はもう止めよう。」

シンジを止めるカオルは男を見る。男は黙って振り向き去っていく。

「シンジ君、」

もう一人の老人が話し掛ける。

「ぜひ、尋ねてきてくれ。君に真実を見せたいんだ。」

「僕には必要ない真実でもですか、」

「だが、知らなければ彼女達も不幸にしてしまうかもしれない。」

「冬月、行くぞ。」「ああ、」

そう言って、老人も去っていく。

残された4人はただ黙って去っていく2人を見つめていた、、、、

 

 

 

 

ライトバンに乗ってシンジは窓から外の世界を眺めていた。

首都高のライトが定期的に車の中に入ってくる。

暗い車内では誰もがライブの成功とは逆に、暗い表情をしていた。

ミサトは加持とリツコを連れ一旦事務所に戻った。

今は、アスカが一緒にいる関係上マヤがいた。

「みんな、お腹すかない、どこかで食事でもして行く?」

助手席から振り向き後ろのシンジ達に話し掛ける。

いつもならアスカとレイが元気よく返事しているのだが、今日に限っては真ん中に2人で座っておとなしくしている。お互い顔を反対に向け窓から外を黙って眺めている。

「おや、今日は静かだねぇ、普段は自分から言い出すのに」後ろの席のカオルがレイをからかう。

「うるさいわねぇ、なんでこいつと一緒に食べに行かなくちゃいけないのよ。」

そう言ってレイはアスカを横目で睨む。

「なによ、こいつとは!私だってシンジと2人で食事しようと思っていたのに、あんたが邪魔したからこうなっているんでしょうが!」

アスカは屋上での一件以来、一言も話さないシンジを元気ずけようと2人で食事に行こうと誘ったのだが、レイがシンジから離れず結局だめになった。最も、シンジも外食する気にはなれず、帰るつもりでいたが。

「だからって、なにも同じ車で帰ることないでしょ!」

「いいじゃないの、どうせ同じマンションなんだし、けちくさいわねぇ!」

「えぇ、どうせ私はけちで、せこいですよ。」

「まぁ、まぁ、ここで喧嘩しないで、」マヤが止めに入る。

「「だったら一緒の車に乗せないでよ!!!」」

2人が首をマヤに向け、逆三角の目つきで叫ぶ。

「は、はは、、」マヤは半分顔をひきつらせて、前を向く。

実は2週間前の出来事以来、アスカはシンジ達のマンションの隣の部屋に引っ越していた。

アスカは同じ部屋に住もうとしたらしいが、レイの猛反対にあい、また、ミサトもシンジが危険だと判断し、隣の部屋でなんとか納得させた。

「まったく、なんでアスカが隣に住むのよ、、、、」

「まったく、なんでレイは一緒に住めるのよ、、、、」

2人はぶつぶつ言いながらもなぜか一緒にいる事が多い、今日この頃であった。

理由はもちろん、後ろでカオルの横に座っているシンジであった。

「まさか、今日も家に寄ったりしないでしょうね、」レイが横目で牽制を入れる。

「別にあんたに会いに行ってるわけじゃないわよ。私はシンジと曲を作りたいだけよ。」

「だったらまた今度にしてよね、今日は私達疲れているんだから、」

「私がシンジの疲れを取ってあげるのよ、ねぇ、シンジ」

そう言ってアスカはシンジの方に話し掛ける。だがシンジはまったく別世界で考え事をしていて反応なし。

「っく、くく、、まったく眼中にないようねぇ、あんたなんか。」レイがいやみったらしく言う。

「なんですって!!」アスカがレイに掴みかかる。

車内は混乱したまま夜の世界を走る、、、、、

 

 

 

                                                

アメリカ、オレゴン州「シュラウド農作物研究所」、地下12階。

暗く広い部屋に大きな画面が反射した円卓机が浮かぶように存在している。

その回りには様々な国の人々が浮かぶように存在している。

そして中心には一人の老人が浮かぶように存在している。

「ではやはり碇の息子の歌声が影響しているのか、」

「はい、世界に通じる道は大きく開きつつあります。」

「本来欲で染まった人間には開かないはずの道、」

「4千年の昔から、人類が探していた道」

「生物、いや宇宙の源かもしれぬ道が、今あの一族によって開かれようとしている。」

「人間は本来、欲深い生物であるはずだ、それゆえ文化も生まれ、他の種族を滅ぼしても生き残ろうとするのだ。また、それゆえ現世の快楽を忘れられず、現世との別れを示す死を恐れる。」

「現存するパルドトゥドゥル(死者の書)には描かれていないが、世界中の権力者が探し求めた道」

「その死者の道をあの子供たちが開くのか、」

「薬物を使用した長期催眠暗示、そう簡単には解けるはずのない暗示方法だが、」

「碇の息子は直接人の心に入り、本来の心を連れ戻す、しかもただ歌うだけで。」

「一種のトランス状態にすることが出来るわけか、科学の力ではなく、持って生まれた自然の力でか、」

「いやあの力は従来人間が持っている力ではないはずだ。」

「左様、本来は神の力だ。」

「その神の力で人類を新生させるのか、」

「恐怖と欲を取り除き、新たな人種として原始の世界に戻すのか。」

「だがそれは人間である事を捨てる事になる。欲も恐怖も無い生き物など存在しない。」

「今まではの話しだがな、、、、」

「諸君、」シュラウドが円卓会議場の中心に座っている。

「我々は常に新たな発想と努力で、人間だけが持つ知的な文化を維持してきた。長い歴史がそれを証明している。医学の発展だけではなく哲学、生物・物理学の発展も世界を大きく救ってきた。現に絶望的なあの時代の世界を救ったのも我々の日々の努力の結果だ。」

シュラウドは回りの人間をゆっくりと見回す。

「世界の食物の80%がこの研究所でハイブリット化した種子を元にしている。今世界を進化させるも、絶滅させるも我々の判断しだいだ。だが、人間本来の姿を変える必要は何処にも無い。しかし碇たちは人間を神に近い存在に変えようとしている。」

そして暗闇にシンジ、アスカ、レイの画像が浮かぶ。

「我々は、神になる必要はない。神への道は人類の文明の延長になければならない。

神は我々の為に存在しなければならない、、、、、」

その場に存在する者たちが3人を危険と判断する、、、、、、、

 

 

 

                                                 

「じゃあね、シンジ、あんまり暗く考えちゃだめよ」

シンジ達の部屋の前でアスカは別れを告げる。

「う、うん、おやすみ」シンジの返事を聞いてアスカは隣の部屋に入って行く。

「やけにあっさり帰ったわねぇ、、」レイにはアスカの行動が気になっていた。

「あの女なんか企んでるんじゃない、、、、、」

「さぁ、でも初めの頃のとげとげしさは無くなってきてるよ、」

「それはシンちゃんにはでしょ、私にはたいして変わらないわよ。」

「そうかなぁ、レイもアスカもみんな穏やかになってきてると思うけどなぁ、」

「そ、そう?」レイは自分も変わってきてると言われ少し驚く。

「うん、だって最初あった時は触れられなかったもん、カミソリみたいな目付きでさぁ。」

「まぁね、あの頃は丁度バイク泥棒して生活してた時だからね、殺気立っていたからね、」

「バイク、泥棒って、そんなに堂々と、、、」

「でもこんなに普通の生活が出来る様になったのも、全部シンちゃんのおかげね。」

「え、僕の、」近ずくレイに慌てるシンジ。

「そう、シンちゃんが私を救ったんだよ、あの生活から、」

レイはシンジの体に手を回す。

「い、いや、、でも、カオル君も、、一緒に、、」

「ううん、シンちゃん私を暖めてくれたじゃない、心も体も、、」

「そ、それは、、、」レイの体がシンジに張り付く。

「ねぇ、今日は一緒に寝よう、、、」

「え、い、いや、、、、っ今日は、、」

「久しぶりにいいじゃない、それに、シンちゃん何処かに行ってしまいそうで、、不安なの、、、」

レイの顔がシンジの胸にうずくまる。

「レ、レイ、、、、、」

「なに、シンちゃん」レイが顔を上げるとシンジの表情は固まって乾いた笑い顔を作っていた。

シンジの視線の先にはドアから顔を半分だし、鬼の様な目つきで睨んでいるアスカがいた。

「、、、、、、嫌な女」

レイは一気に覚める。

「ア、アスカ、これは、別に、、、」

「いいのよシンジ、、、、別に気にしてないから、それより、明後日の約束忘れないでよ、」

怒りの表情の上に、笑顔の仮面をつけているのが明らかに分かるアスカは不気味な声で話す。

「は、はい、、、」

「じゃあね!!」バン!とドアを閉める音が響く。

「はぁ、、、、、ってなに、レイ?」

今度はレイが怒りを含んだ笑顔で立っている。

「約束ってなに?」「え、いや、、それは、、一応秘密、、、」「約束ってなに?」

「い、言えないんだ、、、よ、、、」

「そう、じゃあ今晩もお仕置きしなくちゃね、ふふふふ、、、、、」

恐ろしいわらいだった、、、、、。

 

 

 

ミサトが自分の部屋に戻ったのは夜中の2時過ぎだった。

「まったくなんでこんな夜遅くまで働くのよ。」

「いきなり来て泊めてもらうのに文句言わないでよね!」

「相変わらず汚いわ、冷蔵庫の中はビールだけだわ、どういう生活してるの、、」

リツコは文句を言いながらも自分の回りだけはきれいにかたずける。

「ミサト、いい加減30過ぎなんだから、少しは自分で掃除ぐらいしなさいよ、」

「うるさいわね、私は別にこれで困っていないわよ。」

そう言いながら服を脱ぎ捨て、バスルームに消えていく。

(あなたがよくても、加地君と私が困るのよ、、、)

リツコはかってに奥の部屋に自分の荷物を運ぶ。

一旦着替えてからリビングに戻るがまだミサトは入浴中だった。リツコは部屋をゆっくり見回す。

何も変わらない、そんな事はなかった。ミサトとリツコが一緒に生活していた大学時代から10年以上が過ぎていた。生物化学の分野では既に博士号を持っていてもおかしくないほどリツコ優れた学生だった。

だが、あまりにも突出した能力はリツコから同じ歳の人間を避けさせていた。リツコも必要ない人間とは極力接触を持たない様にしていた。ミサトと知り合うまでは、、、、

そして、ちょうど世界が狂気からやっと抜け出したころだった。

「リツコ、お風呂に入る、シャワーだけにするの、」

ミサトが脱衣所から大声で聞いてくる。

「シャワーだけでいいわ、」そういって脱衣所に歩いていく。

ミサトが入れ替わりで体にバスタオルだけ巻いて出てくる。

「相変わらずそんな格好でうろついてるんだ、」

「なにいってんのよ、美しいプロポーションを保っているのがうらやましいでしょ。」

笑いながらビールの缶を開ける。リツコは言葉には出さなかったが思っていた。

(どこが、保たれているのよ、腹出てきているじゃない、、、、、)

 

 

加持はカオルの部屋でビールを飲んでいた。

遠くを見つめ、なにかを思いつめたような思いで窓から夜を見つめる。

「あまり、気配を消して近寄られたくないんだけどなぁ、」

そう言って後ろを振り向かずにカオルに話し掛ける。

「大丈夫ですよ、反射的に殴られないような距離にいますから、」

「そうかい、、一度ついた癖は一生はなれないなぁ、、、、どんな時にも。」

「でもそのおかげで、生き延びてきたわけですよね、」

「だが多くの人間の命も奪ってきた。」

そう言って椅子の脇にあるカスタム・アーマーライトM-16を見つめる。

ビールの缶を置き、銃を手に取る。

銃口を見つめる加持の脳裏をよぎるものは何なのか、カオルにも分からなかった。

加持の携帯が突然鳴る。

「もしもし、」銃を片手に、反対側に携帯を持ちながらでる。

「私だ、」威圧的な一言で相手が分かる。

「彼等の動きが大きくなりそうだ、」

「僕は探偵じゃないですから、あまり探るのは得意じゃないんですけど、」

「君の目の届く範囲内でかまわない。データは送る。」

「やり方は我々に任せてもらえるんですね。」

「あぁ、、かまわん。シンジとレイが最後の門にたどり着ければ問題ない。」

「分かりました、それから、一つ聞きたいのですが、」

「何かね、」心を見せない喋りは多くの言葉を生まない。

「最終的には、やはりシンジ君が苦しむ道を選ばなくてはならないような気がするのですが、」

「あぁ、それが人類が存続する唯一の道だ、」

「よろしいのですか、ご子息がこの世の恐怖を全て背負う事になるんですよ、、」

「そのための生命だ、運命は変えられん、」

「しかし、」加持は切り返すがすぐに遮られる。

「誰も戻れない、私にも、君にも、そしてシンジにもだ、、」

そう言って携帯は切れる。

「僕たちの心は自分の意志ではない、ずっと続いてきた輪廻の中で発生する意志で構成されている。」

「だが、俺達は現実を把握できずにいる。」加持はカオルの方を向く。

「客観的現象は絶対的なものではない。観察者の僕たちがいるから存在の意義があるんですよ。そして、物事の本質は単に客観的判断では分からない。」

「真実を見抜くには、俺は心を汚し過ぎた、、、」加持はタバコに火をつける。

「大丈夫ですよ。殺人は文化の一つです。人間が作った人間だけの文化です。」

カオルは恐ろしい事を平然と言う。

「だが神の道からは外れている。」

「でも加地さんの魂は、尊く清いままですよ。その証拠にシンジ君もアスカもレイも、ミサトさんも加地さんを慕っているじゃないですか。」

「最後には嫌われるのだがな、、、、」

「それは僕もいっしょですよ。」

そういってカオルは微笑む。

後ろでは、テレビがニュースを伝える。

「今日発表された世界人口では、20億人を超えたようです、、、、、、、、」

 

第六話へ続く



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