死者の道 第七話

 

「灰色のシャツ」

 

 

「だれも知らない町があるとしよう、、、」

シュラウドと呼ばれた男はレイとカオルに話し掛ける。

「だれも知らない町なのに誰かが知っている、そんな矛盾はありえない。だれも知らない町、人間が認識していない存在は無に等しい。つまり仮にその町が存在していても、存在はしないんだよ。」

「つまり、碇一族、特にシンジ君は存在していない、認識できない存在だと、」

カオルが鋭い目付きで答える。

レイには何の事だかまったく分からなかった。

「だが、それは白人、西洋人の認識だ。我々東洋人には認識できるよ。」

ケイと呼ばれた男の子も会話に参加する。

「つまり、博士達からしてみれば、ある絶対的な真実、宇宙、人間の生命もある普遍的法則が存在し、その真実に向かって、人間は志向するはずだと思い込んでいる。」

「何処にも真実なんてないのにね、」

カオルはケイに笑いながら話し掛ける。

「だが、生命も全て現象の一部でしかない。科学も知識もすべて現象を推測し、結果を導いてきたのだ。」

「でもその結果が世界を破滅に導いた。」

「いや、そもそも人類は無意識だとしても破滅を望んでいるんだよ。」

カオル、ケイ、シュラウドの会話にレイは何か不安を感じ続けた。

碇一族の話しと、シンジの話しが今の会話に何の関係があるのか分からなかったが、なぜか、ここにいてはいけないような気がしていた。

(逃げるんだ、、、、カオルなら逃げる方法を知っている、、、、)

「ねぇ、カオル、、、」

「いや、僕でも一旦この世界に入ると、そう簡単には脱出できないんだよ。」

まるでレイの心を読んだように答える。

焦るレイ、カオルまでも知らない存在のような、住む世界が違う人間のような気がしていた。

「カオル、、、私、、、、」

レイは何故か悲しかった、恐怖より不安より、悲しみが心に染みていく。

「だめだ、焦っては、もっと心を広げるんだ、触覚を研ぎ澄ますんだ。じゃないと、アスカちゃんみたく心の深みに落ちてしまう、」

カオルは毅然とした態度でレイに言う。

「存在の意味を持ちたいのかね、」

シュラウドの3D映像がレイに近いずく。

「生まれた時から、存在を否定された生き物。まるで実態を持たない言葉のようなものだな。地獄、悪魔、神など存在認識はないが、意味合いだけがあいまいに存在する言葉、君の存在を感じる事はできても証明する事はできない。」

「、、、、それって、生きてる意味がないって事?」

レイは呆然と言葉に反応する。

「先にも言ったが、真実を求める志向性が人間の本質だ。だが、その本質が世界を壊してきた。君が言う生きる意味とは、滅びの意味を持っているかということかね、」

「そんな事わかんないわよ!!!」

レイは無限の空間に叫ぶ。もう何がどうなっているのか理解できなかった。

言葉が頭を回り、誰に何を聞いても、何を考えても無意味に思えていた。

「レイ、存在の意味なんて必要ないよ。」

カオルが優しく微笑む。

「そう、人間はすべてあいまいな現象界、存在を証明できない観念の世界に生きている。君を客観的に見て判断する人間が世界の真実だとは決まっていない。」

ケイがレイの側により、優しく話し掛ける。

「どうでもいいわよ、そんなこと、、、」

レイは困惑した顔を下に向け、背中に感じる悲しみに負けない様、自分で自分を抱きしめる。

「我々は破滅に向かっている。それは人間が望んだ事、いや、人間ではなく生命体、遺伝子が望んでいる事なのかもしれない。つまり人類にとっての真実は破滅を意味している事を数千年かけて証明してきたのだよ。そして、我々は、君と、アスカ君、そしてシンジ君は人類が真実を掴むのにもっとも危険な存在と判断した。つまり、君たちは人間ではないのだよ。」

「、、、、どうして、人間じゃないの、私は、、」

「君たちは客観的判断外の存在だ。だから人の心に入り込み、外部の進入を許さない心の世界触れる。それはまさに神と呼ばれる概念のみがなせる業だ。そう、実存を伴わない言葉の集合体のように。」

「、、、わかんない、」

「つまり君とシンジ君、アスカ君は人間が対象物を認識するのに必ず先入観を持って判断するのに対して、まったく純粋意識で対象物を捕らえてしまう。客観的判断とは普通の人間には不可能なんだよ。」

「私が、どうして出来るの、、、」

「君達が神、悪魔の大いなる意思と外れた生き物だからさ。この宇宙に存在する普遍的法則に人間は沿って動いている。なのに、君たちはその法則外に存在する、まさに人類の敵なのだ。」

レイにはまったく理解できない、だが、シュラウドと呼ばれたこの老人がアスカやシンジ、そして今目の前でレイ自身を危険な存在だと思っている事は分かった。

「、、つまり、、、、、私の敵なのね、、、、、、あんたは、」

「敵という言葉が適切かどうかは分からないが、君たちの存在は危険過ぎ、、、、、」

「うるさいわね!!!」

レイの怒りは、さっきの悲しみほど弱い感情ではなかった。

「訳わかんない事ばっかり言って!アンタの意思や人類がどこへ進もうと私達には関係ない事よ!

私の真実は私が感じる事だけよ!」

レイは怒りを増幅する事で恐怖も迷いも消していく。

「確かに私達は人の心に触れる事が出来るかもしれない、でもそれは悲しませる為じゃないわ、純粋な心を取り戻す為、私の心を取り戻す為よ!」

レイの叫びが空間にこだまする。カオルは冷静に残響を聞いている。

「そろそろ超重力空間が耐えられないんじゃないかい、」

「あぁ、そろそろ終わりにしないとね、」

ケイが遠くを見つめるような瞳を閉じる。

時間と空間は切り離せない。だから時空を歪ませると見えるもの、感じるものはすべて変わる。

クエポ・ケイは浅黒い顔を少し歪ませて超重力の世界をもとに戻していく。

 

光の可視光線変化をゆっくりと眺めるレイは、初めに感じたあの不快な重力と無重力を交互に感じていた。意識が遠くへ感じ、全てが色を無くしていく、、、、、

レイが意識をはっきりと持つには少し時間が掛かった。

普通に席に座り、スクリーンの方を眺めている。

周りを見回すと、最初の映画館に入った時と同じで、薄暗い館内に、疎らな人、スクリーンには映画のエンディングが流れていた。カオルも、ケイと呼ばれた男の子も、シュラウドと呼ばれた老人も周りには誰もいなかった。

(、、、、、くそっ、映画見損なったじゃないの、、、、、、、、、)

 

 

 

                                               

「ケイがいるとは、ちょっと誤算でした。」

カオルは映画館の屋上で灰色の空と灰色のビルを眺めている。

「まぁ、彼等も本気だという事だな、」

加地はタバコに火をつけ、ゆっくりと話す。

タバコの煙の奥に黒い煙が立ち昇っている。

「加地さんの方はどうでした?」

「とりあえず3D映像を送っている連中に接触できたが、何もつかめなかったよ。」

「そうですか、、、、」

カオルは答えが予測通りだったので、そっけなく答える。

「だが、それなりの収穫もあった。ケイ君が作る超重力空間、時空を歪ませ、まったく現在の空間とは違う時の流れと空間質量を創り出す能力。いままでその世界にはアクセスは不可能だと思われてきた。」

「だけども、ブラックホールの特異点の様なものを作る事で入る事は出来ると。出る事は難しいが、、、、」

「でも君は入っていった。そして、戻ってきた。それだけでも充分な収穫だよ。」

「またリツコさんが喜びそうですね、」

カオルはこの話しをどうやってリツコに話すか考えていた。

「でも加地さんの外からの攻撃がなかったらあのままケイの世界に留まったままでしたよ。」

「彼等はレイを閉じ込めるつもりだったのか、それとも、、、」

「壊す意志はあったでしょうね。僕が来る事はあらかじめ予想していたようですけど。」

「とりあえずは、3人に接触するつもりか、、、、そうなると、」

「次はシンジ君でしょうね。」

 

黒い煙は車の爆発によるものだった。

レイの後に映画館に入った加持とカオルは、ケイの存在に気がつく。そして2人別行動に移る。

カオルはケイの世界に入り、レイを守る、加持はその他の敵を詮索、排除する事にする。

カオルの連絡で3D映像を遠隔操作でケイが映し出している事を受け、送信もとを探し、映画館から少し離れた場所にまっていた車を発見し、そして、、、、、、

 

「しかし、時空が歪むのにたとえ特殊電波といえども、よく送信できるもんだなぁ、やはり科学力とは、」

「いや、ケイの能力ですよ。かれは現象界と観念界とを結ぶ重要な存在ですから、」

「そして、君は全ての事実に特異点を持たせる存在か、まったく碇一族とは不思議なもんだなぁ、」

「正確には一族ではないよ。」

そう言って、先ほどまでレイの側にいた少年が後ろから近ずく。

「やぁ、ケイ、帰ったんじゃないのかい。」

カオルの言葉には警戒心はなかった。

「うん、そのつもりだったんだけど、博士達がね、久しぶりにみんな会うんだからゆっくりしてこいって、言うから、」

「しばらくはここに居ると。」

「うん、それにシンジ君とアスカ君にも会ってみたいし。」

「君の存在を俺達が狙ったとしてもかい、」

加地は警戒心を解いてはいない、いや、解けないのだろう。

「う〜ん、でも碇教授にとっても僕の存在は消せないから、きっと大丈夫だと思うんだ。それに僕の魂があの道の先にいったとしても、別にそれほど問題じゃないしね、」

そういってシンジと同じような笑顔で笑うケイ。

(シンジ君と似ているなぁ、やはり、一族の血のせいなのか、、、、)

「血は関係ないんですよ、」

カオルの言葉に驚きと警戒心を強める加持は普段とは違う目つきでカオルを見る。

「いずれ、話しますよ、僕たちの事も。」

そういって映画館からレイが出た事を確認し、自分達もここから去ろうとするカオル。

「そうだカオル、」ケイがカオルの背中に話し掛ける。

「ノーマも来てるんだ、」

「、、、本当に?」

振り向いたカオルの表情はいつもの笑顔だがどこか硬い。

「うん、今ごろシンジ君達に会ってると思うよ。」

悪戯っぽく笑うケイに対してカオルの笑顔は引きつっていた、、、、、、

 

 

 

 

                                                 

講義が終わり、シンジはアスカと駐車場にいた。

「まったく、ちょっと有名人になると大変よね〜、」

「なんだよ、それ、」

アスカの嫌味っ気の混ざった言葉にむっとして反応するシンジ。

「有名人になるとかわいい女の子が沢山寄ってきて大変でしょうねって事よ。」

「どこにそんなに沢山女の子が居るんだよ、」

「あ〜ら、それじゃあ今日はたまたまだったのかしら、スタイルの良い外人みたいな女の子に誘われて、断るのも大変でしたわね、」

シンジはノーマに一緒に帰ろうと誘われるが、アスカの殺気立った表情を背中に感じながら、丁重に断ったのだが、ノーマは去り際に無表情な顔で、

「今度から講義の時、隣の席は私の為に予約しといてね、じゃぁ、またね、」

そう言って少し笑顔を作ってシンジに別れを告げた。

アスカは明らかに不機嫌だった。

「初めてだよ、今日みたいな事は、」

「信じられないわね、2人で見詰め合ったりしてさ、」

「本当だよ、普段はカオル君がいるからあまり他人とは話ししないんだ、だから、、、」

アスカは怒りながらもシンジのバイクの後ろに乗る。

「まったく、私の立場も考えてよ。」

「立場って、、、、、、」

「あんたねぇ、私みたいな美人が横に居るのに、他の女と見詰め合って、私は何なのよ、、」

アスカの声は怒りや嫌みではなく、悲しみの色が強かった。

「ごめん、、、、」

シンジは何もいえずにうつむく。

「ごめん、でも、なんか不思議な子だったんだ、瞳が何故か似ていたんだ、、、カオル君に、」

シンジの言葉も途切れていく、

「どっちが好き、」

「え、」

アスカがシンジの方を見ずにつぶやく。

「あの子の瞳と私の瞳、どっちが好き、」

「どっちといわれても、、、、」

「答えて!」

アスカの強い意志が込められた言葉にシンジは暫く考え、答えていく。

「比べようがないよ、、今日初めて会った訳だし、、、でも、彼女の瞳は全てを見通しそうで、、、なんとなく恐いんだ、世界中を知っていそうで、、、、、」

「それで、」アスカが続きを促す。

「でも、アスカの瞳は特別だよ、こう、何故か世界中が純粋になれるような、思想や概念なんか関係なく、透き通る世界が見れそうな、、、その、、、、つまり、、、」

シンジはアスカに見つめられて恥ずかしそうに話す。

「アスカの方が、、、、、」

「私の方が?」

「、、、、、、、、好きだと思うよ、」

シンジの一言を聞き、表情を変えるアスカ。

アスカはバイクの側に立ったままのシンジの顔に手を添える。

「私も、同じ理由で、、、、、、、、、シンジの瞳が、、、、、、、好き。」

そういってシンジの瞳に軽いキスをする。

「、、、、、、、、、、、、、」

思考停止とはこういう瞬間を言うのだろう、とシンジは後で思った。

 

そんな2人の姿をカメラから覗く奴が居た。

アスカのファンクラブに所属し、アスカの編入を誰よりも喜んでいた男。

自分の愛するアスカが1人の男と一緒に登校して、学校でも常に一緒に居て、しかも、、、、、

カメラをもつ手がシンジへの怒りで震えている。

(殺してやる、殺してやる、殺してやる、、、、、、、、、、、、、でも無理だろうな、俺には、)

ケイスケは別の手段でシンジとアスカを引き離す方法に出る事にした。

 

 

 

                                               

シンジとアスカは風を感じる。

昔、全ての答えは風の中にあると歌ったミュージシャンがいたが、シンジもそんな気がしていた。

JAPAN州も砂漠化が進み、かつて千葉と呼ばれていた地域は半分以上が砂漠化していたがシンジは砂漠が好きだった。砂漠の中に生きる生き物、地獄の様な風を感じながら、どこにもない希望を望みもせず、ひたすら強く生きる花、植物、動物がシンジは好きだった。

風は世界中を知っている。

そして、僕たちがどれほど汚れて、美しさを捨ててしまったかを、

肌で感じる熱さで、教えてくれる、

きっと砂丘の模様も風が作る悪戯で、

世界の夢を、愛を、悲しみを表現しようと思ったんだ、

だから砂漠にいこう、いつか、心を透き通らせるために、、、、、、

 

そんな話しをするシンジの声をアスカは黙って聞いている。

 

私には感じられない世界を感じる、

私には聞けない声を聞く、

私には見えない風のプレゼントをシンジはもらう、

私には、悲しいぐらい、純粋な瞳のシンジは不思議な男の子、

きっと世界で一番ブルーなハートを持っているのだろう、

でも、シンジと居ると、シンジの話しを聞くと、

世界が綺麗な湖で屈折した光のように、生命を綺麗に洗ってくれる、

きっと素敵な男の子だから、、、、、

 

 

「いつか砂漠で星を見よう、心が星に刺されるんだ、そこで、死ぬ事ができたらどんなに幸せだろう、」

「だめよ、私達は死ねないわ、まだ必要なものを手にしてないもん、」

「必要なものって?」

「、、、、、綺麗な、首飾りかな、」

そういってアスカはシンジの背中に顔を埋める。

アクセルを開け、夕日を睨むシンジは心が嬉しがっている事に気が付いた、、、、

 

 

 

                                               

「レイへの接触が終わったようです。」

「そうか、」

暗い部屋の中、男が夕日を眺めている。

その背中に向けてリツコが報告をする。

「ケイとノーマがそれぞれレイ、シンジ君とアスカに接触していますが、」

「かまわん、彼にまかせておけばいい、」

そういって高層ビルの最上階から見る、汚れた夕日から視線は逸らさなかった。

「彼等はアスカの時のデータと今回のデータを持って、研究所に戻るようですが、」

「かまわん、所詮は覚醒する前のデータだ。シュラウドも分かっているはずだ。」

「カオルがケイの超重力空間に接触し侵入に成功しましたが、」

「ある程度予測していた事だ。彼等もカオルの侵入を拒みはしないだろう。それより、データを元に、超重力空間への思念送信が出来るように分析しておいてくれ。」

「それでは今度のシンジ君への接触時に、、、」

「あぁ、われわれも急がなければ、」

そう言って広いフロアーにたった一つ存在するデスクと椅子に戻る。

「しかし良いのか、碇、今度の接触の前に、シンジ君には説明をした方がよいのではないか、」

デスクの脇で資料に目を通していた冬月が視線を逸らさずに話す。

「真実を知っていても、これから起こる事は変えられんよ、」

「しかし、シンジ君はおまえの実の息子だぞ、」

「それも事実だが、シンジは大いなる意志の魂を持っている事も事実だ。」

「だがなぁ、」

「彼等が道を作り、最後にシンジが門を開ける。そうしなければ人類はいつまでも普遍的法則にしばられたままだ、」

「その結果、シンジ君が永遠に消えてもか、」

「そのための魂だ、」

そう言う碇は再び汚れた夕日を見続ける、

「赤木博士、報告書の方を頼む、」

「はい、、」

 

 

 

                                               

リツコが報告書を提出してから数時間後、

ミサトの部屋のキッチンでは久しぶりにまともな夕食がテーブルに乗っていた。

「いや〜、リツコがいると便利でいいわねぇ、」

「あんたの為に作ったんじゃないわ、自分の為に作ったら多くなっただけよ。」

「なによ、私はついでなわけ、」

ビールを片手にリツコが作った料理をつまみ続ける。

「仕事、忙しいの?」

「まあね、地味な研究だけどね、」

「なんだっけ、パルコ・ドトールだっけ?」

「パルド・トゥドゥルよ、」

リツコは事務的にテーブルに皿を並べ、椅子に座る。

「そんなに面白いもんなの、昔の人が書いた本が、」

「学者としてはね、」無機質に答える。

「なんの本なの、その、パッラパ・ドドドだっけ?」

「そうねぇ、あなたが理解できるように説明するには、私の思考年齢を20歳ぐらい下げないとだめね、」「なによ、私がそんなに馬鹿だと思ってるわけ!」

リツコはゆっくりとはしを置き、ミサトを暫く見つめ、

「、、、、違うの?」

「、、、、、、、、、いえ、多分そうだと思います、、、、、」

ミサトは半分諦め顔で答える。

「でも、研究しているのはその古代文書ではないの、」

「そうなの?」

「その古代文書に記されている予言をね、」

「人類の未来でも書かれていたの?」

ミサトには予言という言葉にそれほど意味があるとは思っていなかった。

「えぇ、世界の終わりがね、」

そう言って食事を淡々と進めるリツコを、ミサトは缶ビールを口に付けたまま眺めていた、

「人類はどこから来て、どこへ行くのか、」

「あ、それなら知ってる、確かゴーギャンの絵のタイトルでしょ、」

「そう、どこから来て、どこへ行く、という言葉は、たとえばAからBに来て、BからCへ行く事になるわ、それは分かる?」

ミサトは体半分乗り出し興味深そうにうなずく。

「つまり現在B地点から見たAとCが存在するのよ。」

「生命が生まれてから死ぬまでのことじゃないの、」

「現象界では普通そう考えるわ、でも予言を基礎に考えるとAもBもCも存在しない。つまり全ては輪廻して、始まりも終わりもないと言っているの。」

「じゃあなんで世界の終わりなのよ、」

「人間が考える世界は宇宙全体を含んだ現象界だけど、おそらく想念、思念、思考など全てを含めた世界、つまり神様の存在以外は全て無くなるのよ、そして輪廻も無くなるの、その予言ではね、」

「ごめん、ちょっと解らないんだけど、、、、」

「つまりね、神様という概念的存在が実態を持ち、その実態以外は存在しなくなるの、」

「、、、、、存在がなくなると、どうなるの?」

「どうにもならないわよ、別に、」

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

淡々と食事を続けるリツコ、やっぱり理解できず4本目のビールを開けるミサト。

「ところで、来週のステージどうするの、」

リツコは食事を終えるとミサトに話し掛ける。

「そうねぇ、」

「誘われているんでしょ、加地君に、」

「まぁね、」

「じゃあ行くんで書しょ、加地君、演奏するの久しぶりだって言ってたわよ。」

「あの馬鹿、偉そうに仕事選ぶからよ。」

「あら、一流のミュージシャンほど仕事は選ぶものよ、大量消費の音楽の様な雑音を演奏しているわけではないのだから、仕方ない事よ、」

「でも、お金があって始めて出来る事も多く在るわ、」

ビールの缶を持ったままミサトはリビングに向かう。

「同じ事、レイにも言える?」

ミサトはリツコに背を向けたまま、少し笑った。

 

 

 

 

                                                

シンジとアスカはお互いの部屋の前にいた。

「それじゃあ、また連絡するわ、」

「うん、明日からドラマなんだよね、」

「そう、今回は主演女優ではないけど良い役なんだ、」

「僕たちも明日からレコーディングに入るから、お互い忙しくなるね、」

「忙しくなったら、そうそう一緒に学校へ行けないね、」

お互いになかなかさよならを言い出さない。

「でも、隣に住んでる訳だし、会えなくなる訳ではないよ、」

「ねぇ、レコーディング、また遊びに行っていい?」

「もちろんだよ、でもレイと喧嘩しないでね、」

「分かってるわよ、、、、、、、、それよりさぁ、シンジ」

「なに、」

「お父さんの事、」

シンジの表情が少しだけ変わる。

「お父さんに、、、、会いに行かないの?」

アスカはこの質問を避けていたがあの夜以来、ずっと気にしていた。

「お父さん、きっとシンジに会いたい、、、」

「あんな奴、父親じゃない、」

シンジは言葉を遮る。アスカの顔は見ていない。

「シンジ、でも、、、」

「アスカには関係ないことだよ、、、、、」

シンジは顔を背けたまま、アスカを見れずにいる。

「、、、そう、関係ないことね、」

寂しそうなアスカと、辛そうなシンジは数時間前までの気持ちを忘れそうになっていた。

「そうね、、、シンジ、ごめんね、辛い事言って。でもね、父親が生きているって羨ましいな、」

アスカは自分の部屋の玄関の鍵を開ける。

「、、、羨ましい?」

「私、存在しないんだ、父親って、」

「死んじゃったの?」

「ううん、私のお父さんは精子バンクに登録されていた誰かなの、だから今でも誰が父親か私には知らされていないの。唯一、父親が誰か知っている母親は精神病院行きじゃあ、一生わからないでしょうね、」

アスカはうつむいたまま自称気味に笑い、そして表情を無機質に変える。

「じゃあね、、、、、さよなら。」

 

 

 

シンジは1人で立っていた。

アスカが閉めた扉をじっと見つめていた。

もう二度と立ち上がれないほど、心が痛かった。

シンジは自由だ、どこにでも行ける、恐れるものはない、

でも、気分は、、、、、

 

 

 

「ただいま、」

シンジはレイが怒っているだろうと思っていた。

だからまったく反応がなくても、気にせずに自分の部屋に直行した。

少し休んでから、シャワーを浴びそのまま再び自分の部屋に戻る。

静かな部屋だった。

静かさが襲ってきそうな不安がシンジの心を占めていく。

体をよく拭かずに、濡れた髪の毛もそのままで、ベットに横たわる。

暗闇の中月の明かりだけが光として存在し、

細い腕に黒のドクロと、白いハートの刺青を浮ばせる。

全裸のまま心が何を感じているのか分からないシンジは、1人でつぶやく。

こんな僕だけど、こんだ様な僕だけど、、、、、、愛してくれるのかい?

それはアスカやレイに向けての言葉でなく、

自分自身に向けての言葉だった、、、、、

 

「そのままじゃ、風邪ひくわよ、」

部屋の入り口に立っていたレイがシンジの背中にシャツを投げる。

シンジはそのまま動かないで、ベットにうつ伏せにのままでいる。

レイはシンジのベットに座る。

何も話さず、黙ったままでいる。

何かが違う、そう思ったシンジは起き上がり、レイが投げた灰色のシャツを羽織る。

「どうしたの、レイ」

月の明かりに反したレイの表情をシンジには見えない。

「今日さぁ、シンちゃんが言っていた映画を見に行ったんだ。」

「マービン・ゲイの事、」

「そしたらねぇ、アスカに酷い事した人達に会ったんだ、、、、、」

シンジの表情が一気に変わる。

「レイ!」

その言葉にレイが振り向く。

「レイ、瞳が、、、、、」

月の明かりに浮かぶレイの瞳は赤く、赤く、赤い瞳に変わっていた。

 

誰からも愛されずに生きてきた、小さな女の子の瞳は生まれた時から赤だった、、、、、、

 

第八話へ続く



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