死者の道 第八話

 

「見渡す限りグランブルー」

 

 

大きな川に黄土色の水が流れる。

すべてを飲み込めるような勢いと、誰もを恐れさす轟音をたてながら、

深い霧雨のなか幻想的な雲が流れ、夜を紫色に染める。

そんな不思議な夜、荒れ狂う流れの上にかかる橋の上に、シンジは一人で立っていた。

(何かが違う、、、僕は、、、、誰?、、何が違うんだ、、、、、)

シンジはTokyo区のジュニアハイスクールに進学したが、自分の存在が異質なことに気が付きはじめていた。明らかに価値観、思考方向性は同年代の子とは違っていた。だがシンジには自分の何が違っているのか、自分自身では理解できずにいた。

(ここでは大切な死はない、、、日常的な感情だけの死があるだけだ、、、、、、)

黒い川を見つめ、無表情のまま前髪から滴が落ちるのも気にせずに立っている。

遠くで何かがクラッシュする音がした、同時にサイレンの音が近ずく、

だが今のシンジには興味のないことだった。

(悲しくはない、うれしくもない、切なくもないけど、何かが違う、、、、僕は何をしたいんだ?)

シンジはただ自問自答を繰り返し、霧雨の夜のなか、立ち尽くすだけだった。

どのくらいの時がすぎたのか、やっと周囲の状況を見渡したシンジは隣にいる一人の少女に気がついた。

シンジと同じ、上から霧雨で濡れている少女も黙ったまま黒い川を見つめていた。

言葉を交わすわけでもなく、ただ二人は黒い流れを感じていた。

そして、二人とも髪の毛が水浸しになった頃、少女が口を開いた。

「何かんがえてるの?」

「わからない、、、、、、」

「そう、、、、、」

「君は何を考えてたの?」

「、、、、、世界の終わり、、、、、、」

この時シンジは少女が怪我をしている事に気がついた。

滴り落ちる水滴に混ざって、額から赤い液体が顔を染めている。

腕の傷から流れる血液が白い肌を装飾する。

破れたジーンズと安っぽいT−シャツでは隠せない血の色にシンジは気がつく。

「世界の終わりって、どんな感じだろう、、、」

少女はつぶやく。

「、、、、きっと何も感じないよ、」

「どうして、、」

「今だって終わっているんだ、ただ気がついていないだけさ、、、」

シンジの言葉に振り向き近ずいていく少女、

「辛いの、、、生きるのが、、、」

「いや、感じることがわからないんだ、、、」

シンジは薄い光に映る少女の赤い瞳に初めて気がつく、

「私といっしょね、、、、、」

「何が?」

「何処にも行けない、誰とも違う、何もわからない、、、私といっしょ、、、あんたもレインドッグなんだね。」

 

 

シンジは少女の運転する鉄の固まりに乗っていた。

雨は霧雨から大粒の滴に変わり、二人の体に突き刺さる。

スピードがどのくらいか、そんな事は気にならない、感じるまま信じたい世界を見つけるため、信じたい世界へいけるように走る。

「どぉ!!けっこう私といると楽しいでしょう!!」

少女はバイクをドリフトさせながら走らせる。

この暗闇から抜け出せず、苦しむように、悲しみを感じながら、、、

だが、シンジはなぜか嬉しさを感じていた、

「ねぇ、誰も知らない世界に行きたくない!!」

少女が声を上げる。

「そうだね、君とならいいかもね!!」

シンジも大声で答える。

さっき知り合ったばかりの少女と終わる、素敵なことじゃないか、

シンジはそう思った。

「私さぁ!もうだめだと思うから、手伝ってくれる!!」

そういって黒い川に向かって鉄の固まりを走らせる。

スピードを上げていく中、シンジが叫ぶ、

「そういえばさぁ!」

「なに!」

「君の名前、教えてよ!」

「そうねぇ、、、もう一度会うことができたら、その時教えるわ!!」

その次の瞬間二人の体が重力から開放される、鉄の固まりといっしょに落ちていく中、

シンジも少女も空中でみつめあう、

奇麗な茶色い瞳、深い赤の瞳、なぜか悲しく、うれしい感情のまま世界を去ろうとしている二人、

世界を拒絶した二人は黒い世界に消えていった、、、、

 

 

白いベットの上でシンジは目覚めた。

天国、ではなく知らない天井、知らない部屋だった。

ここが今までの世界と同じ世界なのか、それとも違う世界なのか、いや、どっちの世界でもないかも、

シンジは意識がはっきりするにつれて、体に異常な重さを感じていた。

(あれ、体が動かないなぁ、、、何か体の上にいる?)

シンジが体を動かそうとすると、体を押さえていたものが布団の中でかすかに動いた。

(、、、、まさか、、、、)

物体がゆっくりとシンジの顔に近ずく、

「気がついたんだ、、、」

赤い瞳の少女が布団の中から顔をだす。

「奇麗な体してるんだ、、、、、でもやっぱり瞳が一番奇麗だね、、、」

「、、ありがとう、、、、」

シンジは少し恥ずかしさを感じていた。

「僕たち、生きてるんだ、、、、、」

「そうね、きっと神様はピンボールに夢中で、私たちを招待するの忘れてしまったのよ、」

「はは、、きっとそうだね、、、、、、、」

「ねぇ、、」

「なに、」

「私達、生きるべきなのかなぁ、、、」

「たぶんね、、」

「でも生き方しらないんだ、私、」

「知っている人間は誰もいないよ、、、」

「誰にも必要とされてないのに、、、」

「それでも生きる必要があるから、神様に招待されなかったんだよ、きっと、、、」

少女は顔を少し曇らせながら、不安そうにシンジに聞く、

「いつか、、、、いつかまただめになったら、、、その時もいっしょにいてくれる、、、」

シンジは赤い瞳を見つめたまま悲しくそうな笑顔で答える。

「僕たちの世界を見つけようよ、、、きっと純粋な苦しさと喜びを持っている世界があるはずさ、、、、今はどうしたらその道が開けるかわからないけど、、、生きていればきっと、、、、、、、」

二人の瞳が近ずく瞬間、ドアが開く。

「お熱いところ申し訳ないが、、、」

加持がホットミルクを二つ運んできた、

「、、、、あんただれ?」

二人にホットミルクを渡し、部屋にある椅子に座る。

「その前に、二人とも服ぐらい着たらどうだい、」

「「え、」」

二人は慌てて布団で体を隠す。いつのまにか上半身を曝していた。

「あ、、あんた誰なのよ!」

少女は顔を赤らめながら叫ぶ。

「とりあえず君たちを助けた親切なお兄さんってとこかな、」

「誰も頼んでなんかいないわよ、」

「あぁ、だから親切なお兄さんだって行っただろ、」

「なんで、親切なの、、、」

「ありがとうございました、」

シンジが少女の言葉を遮るように話す。

「おかげで助かりました、」

加持はゆっくりと少し笑いながらシンジ達に近ずく。

「君たちは死にたかったのかい?」

二人は俯き、質問に対しての答えを考える。だが、なかなか答えは出せずに黙ったままでいる。

「まぁ、生きることも死ぬことも自由だから、好きなほうを選べばいいんだけど、」

「本当に自由なんですか?」

シンジが顔を上げて話す。

「生死を選択する自由なんて、生き物に本当にあるんでしょうか、」

「どういことだい、」

「僕もさっきまで、生死は自由な意志で決められると思っていました、、、、でも、黒い水の中に沈んでいきながら感じたんです、、、、、」

「何を、、、、」

「生きることはとても大きな苦痛を感じることで、、、、その苦痛を取り省くことが大切なんであって、、、きっと生死はあまり関係ないのかもしれないって、、、」

「つまり選択の自由は生きる道を切り開く為にあると、」

「そこまで、生きることに執着するつもりはないんですけど、、、、、」

「でも、川の中から彼女を抱きしめながら這い上がってきたんだぜ、君は、」

「本当!!」

「、、、、、、憶えてない、、、」

シンジが叫ぶ前に少女が叫んだ、

「きっと何か未練があったんじゃないのかい、」

「そうなの、、、、?」

複雑な表情でシンジをみる少女、

「、、、、きっと、、、、知りたかったんだ、どうしても」

「、、、、何を、」

「、、、、君の名前、、、」

「え、、、、」

「もう一度、会うことができたら、教えてくれるって、、、、」

「そんな事、、、、」

「どうしても、知りたかったんだ、、君の事が、」

しばらくシンジを見つめていた少女が、何処かさびしい笑顔ではなく、透明なグランブルーの笑顔をみせながら、赤い瞳で答える。

「レイ、、、、、レイっていうんだ、私」

「僕はシンジ、」

 

 

 

グランブルーの夜、

涼しくもなく、甘くもない、世界が止まった様な感じがする夜、

灰色のシャツを素肌に羽織り、レイを抱きしめるシンジ、

揺れる髪の毛を押さえる、レイの髪の毛に神経があるような気がするから、

だから、何も言わずに、ただ頭を撫でるだけ、、、、

「あの時といっしょだね、、、、初めて会った時、」

「でも、あの時は生きていこうと思い始めていた、」

「嬉しかった、、、シンちゃんの肌に触れることができて、、」

「僕も、レイの瞳に触れることができて嬉しかったよ、、、」

シンジの腕の中でつぶやくレイ、

「やっぱりだめだった、、、、」

「何が、」

「必要とされなかった、、、」

「誰に、」

「悪い人間なんだって、私達は、、、」

「誰にとって、、」

「きっと苦しみだけを受けるようにできてるんだ、」

「みんなそうだよ、、」

「でも、、、、、私は誰からも愛されない、」

「レイ、、、」

「生まれた時から、愛をもらえなかった、、、、みんな私の存在を消していた、私がどんなに悪いことをやっても、誰も私を見てくれない、、」

「レイ、、、そんな事ないよ、、」

「あいつらが言う通りなのよ、、、私は実体のない言葉みたいな存在なのよ、、存在の理由はあいまいな、誰かの印象だけで決まるいいかげんな生き物なのよ!!」

赤い瞳から流れる純粋さを、シンジの腕が感じ取る、

「生きても死んでも、変われない汚れた魂を持った生き物なのよ!!」

シンジは分かっていた、純粋な涙を流せる人間ほど苦しみを感じることを、

「レイ、、僕たちは悪い人間なのかもしれない、、、でも、生き続けることもできる人間なんだ、、、」

「こんなに苦しい思いをしても?」

「だから生きるんだよ、」

「どうして、」

「苦しみも、悲しみもない世界、愛だけが世界を覆った世界、、、そんな世界も悪くはないと思うけど、僕たちはきっと狂ってしまうよ、いや、僕たちだけでなく、どんな人間でも狂ってしまうよ、」

「今だって半分狂ってるわ、、」

「そう、だから生きるんだよ、この狂った世界で、僕たちを拒絶し、否定し、苦しめるこの世界で、、、」

シンジは暗闇の奥にある世界、グランブルーの夜の世界を見つめながら話す、

「最近、歌ってる瞬間に何も聞こえなくなる時があって、自分の意識が何処かへ行ってしまう時がある、加地さんもあるらしいけれど、僕は自分の行きたい世界に近ずいている様な気がするんだ、、」

「あの時はなしていた、純粋な苦しみと喜びを持つ世界に、、、」

「うん、まだその世界がどんな物か分からないけど、僕たち3人で演奏すると道が見えるんだ、、」

「私には見えない、、」

「いや、いつもレイは一緒にてくれるじゃないか、」

「そうなの、、、」

「僕は思うんだ、、きっと死んでも、生きていても、苦しみはついてまわる、どんなに狂っても悲しみを感じる、、、僕の行きたい世界に行っても、同じさ、、、、」

「だから、今を生きるの?」

「うん、だからレイや、カオル君や、アスカや、ミサトさん達と生きるんだ、」

シンジはレイを腕から放す、

「だから、どんなに自分の存在が不必要でも生きて苦しみや、悲しみを受けるんだ、生きてる証として、、、」

シンジはレイの瞳を拭う、優しく頬に触れる、

レイもシンジのぬくもりを感じる、、

「レイ、」

「なに、、」

「一緒に行こう、、、僕たちが歌う世界は理想や道徳的じゃないけど、、、、きっとすべてが純粋だよ、生も死も、殺人も盗難も、嫉妬や浮気も、愛や恋も、、、、、きっと奇麗に見える世界ははずだよ、、、」

「うん、、」

「一緒に居てくれる、、、」

「、、、もちろん、来るなっていわれてもしがみついて行くわ、」

「はは、、レイは絶対に離れなさそうだね、」

「あったりまえよ、、、、シンちゃんを一人にはさせないわよ、」

小さな笑顔で笑うレイは心の言葉を信じた、周囲の事実より、シンジの存在を、自分の存在よりも、

強く、強く、信じていったのだ。

「よかった、、、シンちゃんのからだまだ奇麗なままだ、、、」

レイは奇麗な世界に身を沈めていった、、、

 

 

 

カオルは加持のマンションに住んでいる。

昔はレイとシンジも一緒にすんでいたが、今は、カオルと加持だけがいる。

しかし、今日は新しい二人が一緒にいる。

「どうして黙って消えたの、」

ノーマはカオルに詰め寄る、

「ちゃんと手紙を置いていったじゃないか、」

「あんな、一言“また会えるよ”だけが書いてある手紙だけ置いて、黙って消えたのよね、」

ノーマは怒っているのではなく、ただ知りただけだった。

「あの時はまだ言葉で自分の気持ちを説明できなかったから、真実だけを書いたのさ、」

「確かに真実だけど、私は嘘でもいいからあなたの口から聞きたかった、」

「何を、」

カオルはソファーに横になる。ノーマはカオルを追うようにソファーの前に座る。

ケイはただ黙って深夜のテレビ番組を見つめる、音は消えたまま画像だけを眺める。

「逃げ出した理由を、」

「理由はさっき教えたことさ、」

「“世界の嘘と真実を見つける為”なんて言われて、納得できると思うの?」

「でも事実だからなぁ、」

いつもの笑顔で答える。

「私にはそのうそ臭い笑顔、効かないことぐらい分かるでしょ、」

「さすが幼なじみは鋭いなぁ、やっぱりノーマに会えて嬉しいよ、」

「誤魔化さないで!」

ノーマの口調が少し厳しくなる。

「本当はあの男から逃げたかったんでしょ、」

「さぁ、」

「自分の過去を捨てたいから逃げたんでしょ、」

「10歳ぐらいの子供だった僕がそこまで考えてはいないよ、」

「子供だったからこそシンジ君のお父さんに逃げたんでしょ、」

ノーマは容赦なくカオルに迫る。

「ノーマ、会った時からその話ばかりじゃないか、少しはカオルとの再開を喜ぼうよ、」

ケイが会話に入り込む。

「喜ぶ?私は喜んでるわよ、10年間心の中で苦しんでいた事が、やっと本人から聞けるんだから、」

「その10年の間で僕たちも成長したし、知ったこともある、知りすぎたこともあるけど、、、、」

「ノーマ、心配してくれてたのに連絡一つしなかった事は謝るよ、すまない。君なりにいろいろ僕が出ていった理由を考えてくれてたんだね、」

「カオル、私は別に謝ってほしいとかじゃないの、」

「じゃあどうすればいいんだい、僕は、」

ノーマは黙ってカオルを見つめる。ケイは二人をしばらく見ていたが、しばらく黙ったままの二人から視線をテレビの画面に戻す。

「教えて、、、あなたと、、、あなたのお父さんの事を、」

静かに、ナイフの柄の部分に触れるように、慎重につぶやく。

「あなたは、、、いつも悲しい瞳をしていた、子供の頃から、悲しさや辛さを隠していた、、、、その笑顔で」

カオルは黙ってノーマを見つめる。

「あの頃は、あなたとお父さんの事は知らなかった、、、、だから、、、何もあなたの事がわからなかった、だから、本当のあなたの言葉を知りたいの、、、あなたの口から、」

「あの人は元気かい?」

「、、、、死んだわ、、、、3年前に、」

「そう、、、、」

そのままカオルは体を反対側に向ける、ノーマの視線からそれるように。

「どうして、テレビってつまらないんだろう、偽者ばかりで嫌になる、」

ケイが小さくつぶやいた。

カオルがノーマを見ることはその夜はなかった、

 

 

夢を見た、、久しぶりに昔の自分の夢を、、、

 

カオルはベットに縛り付けられている、

パイプがむき出しのさび付いた古いベットに、生まれたままの姿で、、、

「やめて、父さん、、、」

「おまえは生まれるはずのないのに生まれた、、、」

「僕は人間だよ、、、父さんの子供だよ、、」

「いや、おまえは悪魔の子だ、母さんの魂を奪った、死神の子供なんだ、」

「嫌だ、、、父さん、痛いよ、、、」

「おまえの体は母さんの物だ、おまえの魂は母さんの物だ、、、、この偽者が!!」

「、、、、、、、」

あまりの苦痛に気を失う、

カオルが目を覚ますと父親がカオルを抱きしめている、

だが、カオルは縛られたままだった、、

「そうだ、、、この感触、匂い、まさに母さんの物だ、、、、」

カオルはただ黙って耐えていた、、

父親が息子を抱きしめる、そんな物ではなかった、

体を性欲のままに愛撫しまくる、単なる獣のような男がカオルの心を壊す、

なぜ、、、、、僕は何のために、、、、感情を持ったらだめだ、悲しみを持ったらだめだ、、、

ただの人形にならなければだめなんだ、、、そうさ、この体と魂は父さんの言うように、きっと母さんの物なんだ、、、、、、だから、僕が苦しむ必要はないんだ、、、、

でも、、、考えてる僕は誰?

悲しんでいる僕は何?

苦しんでいる僕は誰?

泣いてる僕は何?

カオルの意識は消えていく、だが父親の行動は止まらない、

カオルが次に意識を取り戻した時、彼は一人で自分の部屋にいた、、、

どのくらい死んでいたんだろう、、どうでもいいや、そんな事、、、

まだ生きてるんだ、、、、まだ苦しまなくてはいけないんだ、、、、

そう思うと悲しくもないのに、涙がこぼれる、、

そしてカオルは始めて気がつく、、、

自分の体が装飾されている事に、

彼の体中には刺青が入れられていた、、、、

悪魔の印と呼ばれる呪いの模様が、体中に彫られていた、、、

 

 

夢から覚めたカオルは裸のまま、鏡の前にたった、、、

「もうすぐこの模様も消えるよ、、、シンジ君が救ってくれる。」

 

 

 

 

一ヶ月後、

シンジ達はセカンドアルバムの最終段階に入っていた。

前回のセルフプロデュースの反省も含め、今回は加持がプロデューサーとして呼ばれていた。

シンジ達はやはりまだ若い、恐ろしい才能と有り余るパワーを持っていても、アルバムのクォリティを高める術はやはり知らない。前作は一発録りで済ませれたが、今回はさまざまな目的がある。

その為にもシンジ達の心や、やりたいサウンド、シンジの世界を理解できる人物であり、優れたミュージシャンでもある加持に頼むことになった。

「全部で22曲か、、、」

「どれも良い出来ですねぇ、」

「正直ここまで良い感じで出来上がるとは思ってませんでしたよ、」

「そうね、後は選曲するだけね、」

ミサトもスタッフも曲自体にはとても満足していた。

その様子を少し離れたところで3人の獣は眺めていた、

「ねえ、シンちゃん、」

「なに、」

ぼろぼろのジーンズに汚いT−シャツのシンジに、オーバーオールにタンクトップのレイが聞く。

「どうして14曲ぐらいにしなきゃだめなの?」

「どうしてって言われても、、やっぱり良いアルバムにするためじゃないかなぁ、」

「全部良い曲だって言ってたのに?」

「仕方ないんじゃないかなぁ、、」

「全部、今の気持ちで作った曲よ、今伝えたいこと、信じてる世界を歌ってるのに、このまま捨ててしまうの、」

「別に、捨てるわけではないよ、アルバムに入らないだけで、、」

「でも、今しか歌えない曲もたくさんある、私達の心が大きく変わったら、二度と歌えない曲もあるのよ、」

「そうだな、僕もそう思うよ。」

ミキサーにもたれかかっていたカオルも会話に加わる。

「僕たちの作品は、単なる繰り返しではない。その瞬間に見える世界を、真実を伝える。きっとこの機を逃したら二度と歌えない曲もあるよ、」

「でも、、加地さんに言われたんだ、アルバムはよそ行きの服みたいな物だって、」

「つまり、まずは見せかけがたいせつだって、事?」

「そうは言わなかったけど、ライブとも違うし、テレビともちがう、装飾しすぎてもだめだし、華がなさすぎてもだめだって、、、」

「シンジ君はどう思うんだい、」

「僕は、、、、」

「私達にはセールスもメディアも関係ないわ、あるのは信じた世界に進むみちだけよ、」

「その道の途中で大切な鍵を落し続けるのかい?」

「僕は、、、、」

「シンちゃん、私達が装飾された服なんか着ても、聞いてくれる子達は喜んでくれないわよ、」

「僕たちの青い血もそれを望んでいないよ、」

レイとカオルの心は決まっていた。もちろんシンジも、同じ気持ちをすっと感じていた。

そして、シンジ達三人は加地のもとに集まっていった。

加地にはわかっていた。

彼ら三匹の獣を預かったときから、こうなる事をある程度予測していた。

当然ミサトは反対する、他のスタッフも良い感触ではない。

しかし、三匹の獣は自分達の信じるサウンドと方向性を進む。

その三匹を信じてる加持がうまく道を作る。

ミサトやスタッフを説得しながら、シンジ達の道を作る、

そして、結論が出た、、、、

 

アルバムタイトル「Lovely Baby」「Candy Baby」/「BLUE BLOOD GLOBE」

セカンドアルバムは同じジャケットで中身の違う二枚同時発売になった。

 

第九話へ続く



Rudyさんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る
inserted by FC2 system