港の見える五階建てのマンション、
煉瓦で出来た古いビルの屋上に、小さな部屋があった、
周囲も同じぐらいの高さのビルで埋められている為、
屋上同士で行き来ができる、不思議な一画、
屋上間が1mも無い為、板をつたって渡れる空間、
そんな場所に、、
シンジとカオルは居た、、
そして、その部屋を尋ねる少女が一人、、、
コンコン、
「誰だい?」
「アタシよ、アタシ、早く開けなさいよ!」
ドア越しにアスカが叫ぶ、
「はいはい、、ちょっと待っててね、」
ドアを開けると、紺色のTシャツに赤系のチェックのシャツ、
ヴィンテージ系のジーンズにスニーカー姿のアスカが立っていた、
額の包帯は外しているが、瞼の脹れはそのままな為眼帯はしたままだが、、、、、
「やぁ、アスカちゃん、おはよう、」
「“おはよう”じゃないでしょ、今、何時だと思ってるのよ、」
怒りながらも、カオルが開けたドアからアスカは部屋に入る、
コンクリートの床、外と同じで靴を履いて生活する部屋、
冷蔵庫、小さなキッチン、ソファーがあるだけの無機質な部屋、
壁中に貼られたジェット機の写真、小さな窓のガラスは割れたままだ、
一応、奥に寝室があるようだが、、、、、
「まだ、、四時ぐらいだろ、僕達の生活はこれからさ、」
カオルは笑いながらアスカを迎え入れる、
「アンタね、アンタは学校に通ってないからそんな事が言えるのよ!
まったく、アタシなんか怪我しても一生懸命通ってるってのに、」
文句を言いながらも、アスカは冷蔵庫を勝手に開けてジュースを飲む、
「へぇ、、学校ね、、何がそんなに面白いんだい?」
「別に、、、でも何だか安心するのよ、」
アスカは部屋に1個しかないパイプ椅子に座る、
「安心?」
「そう。別に誰かと話したいとか、遊びたい、そんな気持ちは全然ないけど、
同じ歳の女の子の中にいると、、安心するのよ、、
まだ、、まだ自分は狂っていないってね、、、、」
500mlのペットボトルを握りしめて、アスカは唇にボトル口を付ける、
そして暫くはそのままの格好で、何かを考え込む、
「アスカちゃん、、」
細めた嫌らしそうな瞳でカオルは笑顔を浮かべている、
「な、、、な、、なによ、」
「まだまだ、少女だねぇ〜、アスカちゃんは、」
「、、、、、、、、、、、、、、、、あ、、あんたねぇ〜、、」
「おや、顔が赤いよ、ア・ス・カちゃん、」
「う、う、うるさいわね!」
飲みかけのペットボトルを投げつける、
だが、カオルはそのボトルを片手で受け止める、
そして、残っていた僅かなジュースを飲み干す、
「ふぅ〜、、美味しい。あ、、そういえば、アスカちゃんと間接キスだな、」
「うるさいわよ!この変態が!」
「変態は止めてくれよ、、僕はシンジ君と一緒にいたいだけさ、」
カオルは笑いながらボトルを塵箱に捨てる、
「それが変態だって言ってるのよ!」
「それじゃ、アスカちゃん、変態の定義を教えてくれよ、」
「え、、、、そ、それは、、」
「君をベットに縛って、下着の上から体中を触る、、
でも犯すわけでもなく、君を殴って生まれる苦痛と悲鳴に興奮する、、
僕はそんな人間かい、、、」
「、、、、、、、、、」
「自分の汚さを確認する為に、異性の汚物に自分を埋め、
卑下する自分をまだ愛してる事を確認しながら、興奮する、
そんな人間と同じかい、僕は、、、」
「、、、、、、、、でも、、」
「確かにこの世界、現世のこの時代では僕の愛は異端かもしれない、
でも、時代や場所、宗教や神様、常識や知識、国や人種が変われば、
僕は純粋な生物だと判断される、、、」
「い、、言い訳よ、そんなの!」
「いや、真実だよ、、、
デカルト以降、二元論は行き詰まり、ニーチェは神は死んだと断言した、
つまり人間が勝手に創造した道徳は、地球に否定されたんだよ、、」
「そんな哲学者なんて、、、みんな狂人ばかりじゃない、」
睨みつけるアスカに、カオルは多少俯き、
寂しそうに呟いた、、、
「はは、、アスカちゃんは、、、本当に少女なんだな、、、
この世界は狂人だけが純粋な真実を語れるんだよ、」
カオルの言葉にアスカな何故か反論できなかった、
確かに、そうだ、、
発狂寸前の人間、、知能を持っているが故の発狂、
知能を捨てれば道徳も一緒に捨てる、、、
進化をする人間の最終型は、自殺しかない様な気がして、
アスカには反論ができなかった、
「、、、、、、、そういえば、シンジは、」
「シンジ君は、、まだだね、」
「奥の部屋?」
「うん、、、でも、、」
「酷いの?」
「傷の方は大事には至っていないけど、、、心に受けた傷の方が酷くてね、、、
まだ、食事が取れない状態なんだよ、、」
アスカは片目で奥の部屋へのドアを見つめている、
そして、無言のままドアへ向かう、
「シンジ!入るわよ!」
叫ぶアスカに返って来る返事は無かった、
「入るわよ、、、、、、」
一瞬振返り、カオルを見る、
カオルは否定も肯定もしない、
そして、アスカはドアのノブを回し、、、、、ゆっくりドアを開ける、、
「シンジ、、、、」
ガレージの様な部屋、
壁の一面はシャッターになっている、
西へ向いてる小さな鉄格子付きの窓が存在してるだけ、
蛍光灯もないこのガレージには、時代遅れのランプが光の全てである、
そして、そんな薄暗い部屋に、パイプベットが一つあるだけの部屋に、
シンジは存在していた、、
「シンジ、、」
「、、、、やぁ、、、、、、、アスカ、、、」
シンジは背を向けたまま猫の様にベットの上に横たわっていた、、
「な、、なんだ、元気そうじゃない、」
一応受け答えしたシンジに安心したが、顔は反対側を向けたままだ、、
「まったく、単独行動するからよ。どうして、一人で勝手な行動とるのよ!」
布団に包まったまま、シンジは身動きせず、答えもしない、
「ちょっと、シンジ、聞いてるの!」
アスカは不安を消す様に、声を上げながらベットに座る、
「シンジ、、」
自分を見てくれないシンジに不安になるアスカは、丸まった猫の様な少年に覆い被さる、
「ねぇ、、、大丈夫」
「うん、、、でも、、暫くは一人にして、、、、」
「シンジ、、」
アスカが優しく寄り添う、
そして、後ろから子猫を細い腕で、包まったシーツの上から抱きしめる、
「大丈夫だけど、、どうしても、、自分の体が、、、」
「、、、、、、、、、、汚いの?」
「、、、、、、、、、、、、、うん、、」
子猫が小さく震えている事に、アスカは気がつく、
「シンジ、、、、」
「はは、、、情けないよね、、こうなる覚悟は出来てたのに、、はは、、」
(泣いてる、、泣いてるんだ、、、、)
明らかに震えながら、何かに脅えながら、、子猫は泣いていた、、
「シンジ、、、」
アスカが体を覆っているシーツをゆっくりと剥ぎ取る、
そして、闇の中、ランプの光だけで浮かぶ子猫の裸体を見つめる、
胸部、腹部、陰部、大腿部、、、
全身にタバコの火でも押し付けられた様な火傷の痕がある、
鞭で強打されたと思われる傷も全身を覆っている、
手首には拘束された痕と思われる紅い筋に血が滲んでる、
そして、陰部の側、内大腿部には剃刀で切られた様な傷が無数にあった、、
「、、、、、、、、、、、、、、、」
無言でその傷をアスカは眺める、
そして、白くて細い指先で優しく撫でる、、
「、、、、、、、、辛かった?」
「それ程でも、、」
「、、、、、、、痛い?」
「まぁね、、、、でも、アスカも我慢してる事だし、、」
「、、、、、、、ふふ、そうよ、シンジも我慢しきゃ、」
「でも、、、×××塗れにされたとき、、、多少壊れたよ、、
もう、、、生きてる事を止めた方が良いんじゃないかってね、、、」
「、、、、、、、、、、、そう、、」
「痛みなんかどうでもいい、、でも、その時壊れた心が、、、、」
「今でも直らないのね、、、」
「うん、、、、体も、体内も、、髪も、、言葉も、、、全て、、汚いままなんだ、、、、」
自分で自分を抱きしめる様に、シンジは泣きながら震える、、
決して寒さからくる震えではなく、自分自身が汚物である事への嫌悪感から、、
信じられない程の涙と、震え、嫌悪感を感じていた、、、
「そう、、、じゃぁ、、シンジの心と体が浄化されるまで、、
アタシが一緒にいてあげる、、、アタシが、綺麗にしてあげる、、、」
「、、、、、、アスカ、、」
「シンジの瞳は、、綺麗なままよ、、、世界で最も綺麗な瞳のままよ、、」
ゆっくりアスカはシンジの前に回り込み、裸のシンジを抱きしめる、、、
そして、泣き続ける少年を、自分の腕に包み込む、、
「、、、、ありがとう、、、アスカ、」
「アタシが始めて壊れた時も、シンジ、、、抱きしめてくれたじゃない、、」
「、、、そうだっけ、?」
「あぁ、忘れてたな、、、後でお仕置きしてやる、」
「はは、、、アスカのお仕置きなら大歓迎さ、、、、」
「覚悟してなさい、、」
「、、、、うん、、、」
暗いランプの光だけが、2人を照らしている部屋、
何の装飾も無いコンクリートの壁に映る影は、、
永遠と動く事が無い様に思えた、、、
Nothing Like the Sun
Episode 5
その部屋の外では、、
「、、、、、、、、じゃぁ、私は帰るわ、」
「遭っていかないのですか?ミサトさん、」
「うん、、、、今入っていったら完全にお邪魔虫だもんね、
またアスカに怒られちゃうわよ、、」
ミサトは御土産だけカオルに渡して部屋に出る、
「そうですね、、今はどんな薬よりも、医療法よりも、、
アスカちゃんに抱きしめられてる方が重要でしょうね、」
カオルも一緒に部屋を出る、
そして2人で屋上に出たまま、暫くの間は風に吹かれていた、、、
「あの2人、ラブラブね、」
「羨ましいですか?」
「いやぁ、、それもあるけど、、申し訳なくて、、」
「シンジ君は怒ってないと思いますよ、」
「でも、、救出が遅れたのも事実だし、、
シンジ君を今回は売りの少年に設定したのも私だしね、
おまけに、買う女性が急遽変更になって対応が遅れたのも事実、、
シンジ君があそこまで精神的ショックを受けたのは私の責任よ、、」
「まぁ、、結果的にはあのクラブの上層部まで辿り着けたんだから、、、」
「でも、、、、、アスカやシンジ君に頼ってる部分が多過ぎる、、」
「仕方ないですよ、、あの組織に通常の捜査方法は通用しない、
潜入捜査するにはあの2人が最適ですし、、、、、、それに、、、」
「個人的な感情もあるしね、、」
「そうですね、、、、」
そのまま2人は黙り込む、
オレンジジュースをぶちまけた空、
そのジュースを燃やして橙色に染める夕日、
狂った様に燃え上がる炎で雲も黒く染める、
まさに発狂した地球が人間を焼き殺す為に演出した世界、
その世界を見つめるカオルとミサトは、
早くこの狂った世界が燃え尽きる事を、
心の片隅で祈っていた、、、
一方、、
「レイ!いったらダメよ!」
「だ、、、だって、、、、」
涙目で必死に許しを乞うレイ、
「ダメよ、絶対にダメ!あと少しなんだから!」
マナは鬼の様な瞳でレイを睨む、
「だ、、だめ、、、、、もう、、、」
「レイ、勝手にいったら許さないわよ!」
「そ、、そんなぁ、、、、アタシ、、、もう、」
レイは苦しそうな息使いで、必死に話す、
「もう少し我慢して!きっと最後には素晴らしい快感が待ってるわよ!」
「ううん、、、もう、、だめ、、、」
マナは意識が消えそうなレイに叫び続ける、
「レイ!しっかりしなさい!あともう少しよ!」
「もう、、、、ダメェェェェ、、、、」
バタ!
気を失ったレイはマナの側で倒れる、、
「あ〜あぁ、、、、、あと四皿だったのに、、、
仕方ない、あとは全部私が食〜べよ、」
小さなラーメン屋、
そこの餃子三十皿(女の子は2人でOK)を食べ切ると無料という、
陳腐なありふれた企画だが、その企画に命を燃やしていた少女が2人、、
女性最短記録を更新する勢いで挑戦していた、、
そして、、レイとマナのコンビは、記録更新というおまけ付きで、
餃子三十皿を食い切った、、、
「おやじ、最短記録更新なんだから、ラーメンぐらいおごってよ!」
口に爪楊枝を咥えたまま、マナはさらに食べ様とする、
「ま、、、まだ、、食うの、、マナ、、」
「あったりまえじゃない、まだまだこれからよ!」
レイは意識こそ戻ったが余りの満腹感の為、未だに体を起す事ができず、
奥の部屋で横になっていた、、
「、、、、、、、、、冗談じゃ、、ないわよ、、」
目の下に隈を作りながら、レイはラーメン大盛りを食べるマナを見て、
更に気持ち悪さを増していた、、
「いやぁ、、美味しかったね、」
「そ、、、そう?」
ラーメン屋を後にした二人は大通りに出る、
割と10代の子供が多く集まる街、
その歩行者専用道路をウインドショッピングしながら歩く、
レイは昨日のマナとの約束通り、一緒に街を徘徊していた、
(最も、最初に行った場所はラーメン屋だったのだが、、、)
「じゃぁさぁ、今度はニンニク豚マン、20個に挑戦しようよ!」
「え、、、、、遠慮しとく、、」
レイは真っ青な表情で、顔を引きつらせながら力なく笑う、
「ねぇ、、レイ、」
反射的にレイはマナの言葉に恐怖感を感じ大きく痙攣する、
「も、、もう食い物ネタは、勘弁して、、」
「、、、、い、いや、、食い物ネタじゃなくて、、」
余りに引いてるレイの表情に流石のマナも多少何かを感じる、
「あの、、、アスカの事なんだけど、、」
「え、、、」
二階に入り口があるCDショップの階段に2人は腰を下ろす、
「ねぇ、、昨日アスカと何を話したの?」
「え、、、、、、、、、えぇっとねぇ、、、、」
レイは言葉を詰まらせる、
(ないったなぁ、、、まさか、変なライブハウスで酒飲んでただけ、
なんて云えないしなぁ、、、う〜ん、困ったなぁ、、)
困惑してるレイを見てマナは笑いながら話す、
「、、、云えないら、それでも良いのよ、」
「御免なさい、、」
「いいのよ、でも珍しいなぁ、、アスカが他人に興味を示すなんて、」
「え、、そうなの?」
「うん、、、アタシとヒカリは小学校から一緒だけど、
アスカが他人に興味を持って誘うなんて、、二回目かな、」
「そうなんだ、、、」
暫く沈黙する
2人、コンクリートの階段に座ったまま、ジュースを飲みながら前を歩く人達を眺める、
気色悪笑顔で笑う少女達、性欲まるだしでナンパする黒服の男の子達、
欲望という厚化粧で自分を偽り、思いの通りにならない日常に残酷さを持って挑む、
他人を卑下し、差別し、少しでも自分と違う少年少女を馬鹿にして、
自分達の優性を自分で勝手に認識できる、、
とっても便利な思考回路を持ってる少年、少女達、、
「なんか、資本主義万歳って感じね、」
「え、」
レイの呟きにマナが反応する、
「皆必死よね、、お金もうけする事に、
きっとあの気色悪い女達の頭の中には遊ぶ事しか詰ってなくて、
あの男の子達の頭の中には、自分達の性欲を満たす方法しかなくって、
でも、皆その根底には、“お金で全ての欲望を満たせる”って発想があるのよ、
まさに、資本主義の豚って感じね、、、」
「でも、レイ、、
皆そうだよ、、あの子達だけじゃないわ、、
家で暗く
1日中ゲームばっかりやってる子も、嫌らしいフィギュアを造って興奮してる子も、
小動物を虐待して、残酷に殺して喜んでる子も、
同じクラスの女の子に性的悪戯を繰り返してる子も、、
皆、夢はお金で買える範疇内なんだよ、、
誰もが、夢を実現するのに、お金が必要無いなんて思えないよ、、」
「そうね、、、、アタシも同じって事ね、」
「そうは言わないけど、、
資本主義から抜け出す事はとても難しいと思うの、、
この日本って国で生まれ、、育った人間はね、、、、」
「そうね、、、」
数人の男と数人の少女達、
その場でアダルトビデオの出演交渉が成立、
お金が手に入る事で笑顔を隠せない少女達、
淫乱な行為に胸を膨らます少年達、、
それほど、悪い笑顔でもないのかも、、、
そんな光景を見てたマナが呟く、
「でも、アスカは、、どうして、、、」
「え、、何?」
「アスカは、、如何して自分を売るんだろう?」
「、、、、、、、、、、、、、、、」
「アスカの目的はお金なのかなぁ、、、」
「、、、、、さぁ、」
「アスカの夢もお金でなければ買えない範疇なのかなぁ、、」
「、、、、、、、、、、解らない、、」
「そうよね、、、」
無理に笑ったマナの表情を見ながらレイは想った、
(嫌な笑顔、、、、、あ、それはアタシも同じか、、)