アタシの瞳が他人を苛立たせる、

だから貴方達はアタシを犯した、

体中の皮膚がキャンディーグリーンに変った、

血の色が無くなったのはもう随分昔の事、、、

ママは泣いてるアタシを笑顔で殴る、

自殺するのが最高の快楽だなんて、

アタシは虹に撃たれて死にたい、、

そんな夢だけじゃ、皆は許してくれない、

 

 

さっきまで生きていた子犬が死んだ、

アタシの身代わりで死んだ気がした、

愉しそうに笑う子供達と一緒に、

その腐った価値観も捨てて欲しいの、、

何時かアタシの夢にジョーズが現れる、

あの素敵な剃刀で世界を切り刻んでくれる、、

アタシが虹に撃たれて死ぬ夢も、、

取り上げられて、投獄されるんだ、、、

 

 

最低の気分だよ、、無限に落ちるだけの感覚、、

体が裏返しになるアタシ、とっても綺麗でしょ、、

誰もが生き続けたい、

そんな事勝手に決めないで、、

そんな噂を流さないで、、

そんな嘘、、もうごめんよ、、

 

 

 

 

 

 

シンジは一枚の紙きれを見ている、

そこに書かれた殴り書き詩、

筆跡は明かにレイのものだった、、

「虹に撃たれて死ぬか、、、、、、僕も憧れるよ、レイ、」

そう呟いたシンジは、悲しそうに笑った、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Nothing like the Moon

~ episode 2 ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「越智、、、里美、、」

 

「久しぶりね、綾波さん、」

 

あの時と同じ、強烈過ぎる美を持った少女は、コールタール製の瞳を輝かす、

爬虫類が持つ妖艶さを身に纏い、脱皮したばかりのピンク色の肌を露出している、

「、、、、、、、、何、その格好?」

「へへ、、変かなぁ、でも、素敵でしょ、」

両手に革製グローブ、真っ赤なゴム製のタンクトップ、

網タイツに黒革のミニスカート、膝下まである網上げブーツ、

どこかのSMクラブから出てきた様な格好だ、、

タンクトップから見える肩には複雑な模様のパピオンが数匹刺青されている、

ゴールドのアクセサリーがボディラインの品格を更に下品にしている、

だが、本当に下品なのは売春婦ですらしない様な派手な化粧かもしれない、、、

「、、、、、、素敵ねぇ、、、、」

「ふふ、、それより、お友達は助かったの?」

「、、、、、、、、、、、、えぇ、お陰様でね、、」

「そう、お礼はいいわよ、」

「別に云うつもりはないわ、」

「ふふ、、そう思った、、、」

笑う唇が異常な程不快感を生む、

奇妙な形に歪む瞳が、人間的な温かさを一切無くす、

世間的な美を全て持っている反面、世界の汚をも持っている様な気がする、

レイの背中には無数のゴキブリが走りまわっている、、

体中から流れる透明の血液が、、、レイの体を冷凍させる、、

「ところで、こんな所でなにしてるの、」

普段の調子では言葉は出ない、、

それでも必死に口を動かさなければ、この真夏に凍死しそうになっていた、

「、、、、、、アンタに関係ないでしょ、」

「あら、そう、、、そうよね、まさかあの伝説の“シャーベット”に行こうと

思って、階段を何往復もしてたわけじゃないわよね、、、」

「、、、、、、、、、、、、、、うるさいわね、」

「まさか、居酒屋“シャーベット”にしか行けなくて、苛々してたんじゃないわよね、」

「あんたね、、、解ってて云うのは嫌味よ、」

レイが睨みながら吐き捨てる、

「あら、嫌味な人間ほど、真実に近いのよ、」

「あんたの勝手な意見でしょ、」

「勝手な意見こそ世界を未来へ導くのよ、、」

「アタシはね、アンタとどうでもいい事で議論するつもりないの、」

「そう、、残念ね、くだらない議論ほど人生には必要よ、うきゃきゃきゃきゃ、、」

サソリが笑う、、、

そんな印象を与える猟奇的な笑顔は、レイの五感を一気に刺激する、

不快感でもなく、安心感でもなく、嬉しさも憎らしさでもない、

単純に神経を錆びたステンレスで抉られてる感覚を受ける、

「、、、、、、アンタ、誰なの?」

レイは不快感を押さえながらつぶやく、

 

その次の瞬間、、

「ふふ、、うきゃあああ、、、ぐぎゃががが、、ふぁぁぁふぁぁあああ、、」

越智は突如、両手で顔面を揉み下しながら、奇声を上げ始める、

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、アンタ、誰なの?」

「きぐあへやちゃぎゃぐぴょじゃっじゃでにゅびゅっゅつっつつつうたただあ!!」

今度は口に拳を入れて、何かの詩を大声で叫ぶ、

だが、その声は何を示しているのか、レイには解らない、

メロディーも無いうめき声に、ただ言葉を失うだけだった、、、

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、アンタ、人間、」

NFAOJFVIRNAF,,,,IFAKLSNWL…..DNVA98893-NNVFAPOL,MM

人間の言葉なのか、、それともレイが知らない言語なのか、、

この世のものとも、あの世のものとも取れる、不思議な感覚が聴覚を刺激する、

その刺激が、人間を救うものなのか、それとも絶滅に負い込むものなのか、

それとも、、世界を救済するものなのか、、、

今のレイには判断が出来る思考はなかった、

レイはただ呆然と不思議な少女を眺めていた、、

「、、、、、、あんた、、、」

余りの怒りと不快感で全身が鳥肌になり、髪の毛が総立ちになった感覚が襲う、

あと数秒で、殴りかかる、そう思った瞬間、

「ううん、人間じゃないわ、」

あっさりと普通の言葉に戻る越智、

そして、レイの眼前に顔を持っていく、

「人間じゃない、、人間じゃない、、だってアタシ、愛人だもん!」

「てめぇ!いい加減にしろ!」

次の瞬間、

右の拳には確実に越智の左頬を捉えた感覚がある、

だが、レイの前には笑ったままの少女が存在していた、

「あれ、、綾波さん、怒った?」

「、、、、、、、、、」

レイは物理的に起こってはならない現象を目の前に付きつけられ、

思考、血流、心拍、、、全てが止まった、

「、、、、、、、、、、、、、、、、、」

「どう、今の貴方は“信じられない”“何故”って思ってるでしょ?」

「、、、、、、、、、、、、、、、、」

「確かに貴方の物理的証明が崇拝されてる世界ではね、」

「、、、、、、、、、、、、、、、」

「綾波さんを包んでいる、既存の有限的価値観の世界ではね、」

「、、、、、あんた、、なに云ってるの、、、」

「簡単なことよ。貴方はアタシを殴った、その感覚も拳にある、

でもアタシは貴方の眼前から動いていない、痛がってもいない、、

それが、不思議だと思うのは、貴方がリミテッドだからよ、」

「、、、、、、、、、、、、、、」

目の前で美と汚を共に持つ少女は得意そうに話す、

だが、レイは言葉を生み出す事はできないままだ、

「ふふ、、じゃぁ綾波さん、貴方のその常識、どうして当然だと思うの?

それは物理的世界と貴方の少ない経験から判断した結果の中での判断でしょ、

どうして、その世界が全てだと思うの?

物理的現象外の世界は偽者で、絶対に存在していないというの?

貴方の常識や価値観が世界の全てを構成してるなんて、どうして云えるの?

綾波 レイの経験の世界が、他人の世界の全てじゃないでしょ、」

「、、、、、、、、、、、、、、、、、」

「例えば、死ぬことが終わりであると資本主義では判断する、

資本主義では負ける事は悪として、敗北は死を意味する、

老いていく事は気持ち悪い生物へ変化する事で、

若いことはどんな事にも増して素晴らしいとされる、

金銭的に高い物々を身につける事が素晴らしく、

乞食になった者は家畜と同等になる事、、

それが、一般的な常識、、でもそれは狭い価値観の事、、、

同じ価値観の中で安全に生きてる、くだらない生物の世界での判断なのよ、、

その拳の感覚も、、さっきのアタシを見た時に感じた不快感も、、

アタシが発した音声を理解できないのも、殴った相手が動くと思ってることも、、

全て、、、、、勝手に誰かが定めた世界なのよ、、、、、」

「、、、、、、、、、、何云ってるのか、、解らない、、」

 

 

 

 

蝉の鳴き声がこだまの様に響く、、

知らない間に、通行人は誰一人として存在していない、

空気は夏の熱気で蜃気楼の様に歪んで行く、

全てが贋物、、、それとも、単なる異常現象か、、

無意味に蒼い空は、雲の存在を許さない、

捜さなければ見つからない太陽と真昼の白い月、、、

悲しい目をした鳥が数羽、群れをなして奇声を上げながら飛び舞っていた、、

 

「ふふ、、解らなくていいのよ、、解る必要なんてないんだから、」

「、、、、、、、、、どうして、、、、、」

「“理解する”って事は科学的証明の世界、資本主義や社会主義といった思想

の世界では必要な事。でも、感覚だけで生きる、遺伝子レベルで生きる野生の

世界では、理解なんて必要ないのよ。生きる意志も、死ぬ意志も、、、

そして、愛とか恋とか、誰かの為に生きるとか、、、

幸せとか不幸とか、絶望とか驚嘆とか、、、天国も地獄も、、、

全て関係無いのよ、、、

ただ、セックスして食べて、寝て、次に遺伝子を残すだけ、、

それだけの世界では、科学も思想も宗教も関係ないのよ、」

「、、、、セックスして、、食べて、、寝るだけ、、、、」

「そうよ、人間は文明開化と称して無意味に自然を破壊する、

他の生物を当然の様に飼育して残酷に食べる、しかも不味いといって捨てる、

原子力を所か構わず撒き散らし、核廃棄物を地中に埋めて安心する、

自然主義と叫んだ集団は、騒音防止条例で死刑にされる、、

人権を主張する集団は、肌の色で主張のランクをつける、、

宗教家は立派な寺院を建立するために、老人達から金銭を騙し取る、

そんな世界より、本能に従う世界の方が素晴らしくないなんて、、

誰が云えるの?」

「、、、、、誰が、、云える?」

「そうよ、、

女性は化粧とアクセサリーで外見を固め、老化には死よりも嫌悪感を抱く、

男性は権力に溺れて最終的には自殺する運命を辿るか、奴隷として死ぬか、、

ねぇ、綾波さん、、、貴方が生きてる世界が素晴らしいなんて、

誰も云えないでしょ、、、

それと同じで、あの如月達の世界が異常だなんて、、

誰が云えるの?」

「、、、、誰が、、、、云える?」

「そうよ、誰も云えないはずよ。だって、そう主張した人間こそ異常だからよ、」

「異常?、、、、、主張した人間?」

「本来、背徳って言葉はイエスの教えにに背いた、ブッタの教えに背いた、

アラーの教えに背いた、そんな行為なのよ。でも、神様なんて概念の存在

であって、今存在してる事実は遺伝子のケイゾクだけ、、、

遺伝子のケイゾクを目的とする行為だけが、、、、

つまり、SEX EAT SLEEP、、

それだけしか存在してないのよ、、、」

レイは次第に心の世界と現実世界の狭間に落ちて行く、

恐らく狂人になりえた人間だけが得られる特殊な空間に落ちて行く、

そのレイを見ながら笑う越智の瞳は一層輝きを増す、、

溢れ出る闇色に染まりつつあるレイを、、嬉しそうに見ながら、、、

その感覚にレイも抵抗できずに、身を沈めて行く、、、

全ての輪郭が融解していく感覚が溢れているが、風景もはっきと残っている、、

地面も、空間も、空も、、、全てが存在している、

存在している、、、、、

存在、、

レイは思考する。

存在とはなんだ?

綾波 レイとはなんだ?

越智 里美とはなんだ?

誰が答えられる?

誰も答えられないまま、世界は歴史を携えて来た、、

無限の残酷さと欲望を満たす文明だけを崇拝して、、

過去に忘れ去られた神様は、適当な経典だけを残した、、

存在しない存在の世界、、

そんな世界では全てが無意味だ、、

無意味、、

言葉も意味がない、、

あるのは、、

SEX、、

EAT、、、

SLEEP、、、

 

 

本当に?

疑問も、、、無意味、、、

 

 

 

じゃぁ、、アタシも、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意味の無い世界なら、意味を持てば良いのさ、」

その言葉にレイは急激に自分を取り戻す、

「意味の無い世界で意味を持てば、その人物がその世界の支配者になるのさ、」

「、、、、、、、、、、カオル、、」

何時の間にか、カオルがレイの背後に立っていた、

「あまり、うちのバンドの天才ヴォーカルを困惑させて欲しくないなぁ、」

カオルは越智との間に強引に入り込む、

「あら、困惑だなんて、あまりにも素敵だから食べちゃおうかなと思ってただけよ、」

そのカオルには普段の笑みを振りまく越智だが、明らかに不機嫌そうだ、

「人肉食を行っても、レイの遺伝子は摂取できないよ、」

「それは解らないわ、、、食べてみないとね、、ふふ、、ふふふ、、ぐはははは、、」

「そうやって、レイを君達の世界に閉じ込めさせる訳にはいかないね、」

「あら、招き入れるだけよ、、、、神様としてね、、」

「神殺しが得意な君にレイを崇拝させるわけにはいかないな、、、」

カオルは深紅の瞳に力を込める、

一気に殺気を全身に纏い、戦闘態勢に入る、

「あら、、、アタシと戦うの?」

「あぁ、、殺す、」

「アタシを殺しても無意味なのに、、ふふ、、」

「云っただろ、、、無意味なら意味を持ってやるってね、」

次の瞬間、

カオルの体は消えた、

越智の体も消えた、

少なくとも、レイにはそう見えた、、

そして、数秒後、、

カオルは左腕から血を流しながら、突然レイの前に現れた、、、

「くそ、、、、逃げられたか、、、」

傷口を抑えながら、カオルは呟いた、

「レイ、大丈夫かい?」

「、、、、、、、、、、、、大丈夫ってなに?」

「レイ、、越智 里美が言ったことは気にするな。

単なる言葉による誘導催眠だ、今は普通の現実で、日常のままだ、」

「、、、、、、、、、、日常ってなに?アタシ、、まだ夢を見てる?」

「レイ、自己意識をしっかり持て!自我を崩壊させるな!」

必死にカオルが叫ぶが、レイの瞳は完全に焦点を失っている、、

「、、、、いや、、アレ、、何?あんた、、誰、、アタシ、、アタシ、、

アタシの世界は、誰?アタシの夢は、、、越智?神様、、、、、アタシ、、

神様、、、神様、、、神様、、、言葉だけ、、、っつ!」

 

崩れる様にレイは地面に倒れる、

そのレイをカオルが支える、

「、、、、、眠らせたんですか、、」

「困惑してたからな、、仕方ない。」

「越智 里美の方は?」

「流石だよ、、、まったく包囲網には掛からない、、、」

「さすが神殺しの第一人者ですね、、、」

「人食にかけてもな、、、」

加持はレイを担ぎ上げ、夏特有の炎天下の空間を歩きはじめた、、

普段と変らない景色、、、

何時の間にか人気も戻っていた、、

車の音も、テレビの音も、騒音が戻り、物理的感覚も戻っていた、、

「やはり、、レイは、、」

「あぁ、、越智、自ら出てくるって事は、、、」

「、、、、、、悲しいですね、」

「仕方ないさ、、、この星に生命が誕生した時から決まっていた事だ、」

「、、、、、そう簡単には割り切れませんよ、、特にシンジ君やアスカちゃんは、」

「割り切ってもらうさ、、、それが彼らの運命だからな、」

 

加持の言葉は冷たく響いた、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジの住居は一二階建てのマンションの屋上にある、

屋上にある、コンクリートで覆われた二部屋、、

入り口を過ぎると、キッチンとソファーがあるだけ、

奥の寝室にはベットとテレビがあるだけで、窓もない、

そんな部屋でシンジとカオルは住んでいる、

もっとも、、殆どシンジだけが住んでいるのだが、、

 

そんなコンクリートの箱の様な部屋をミサトとアスカが訪れていた、

「「は?」」

シンジとアスカは同時に言葉を発する、

「聞こえなかった?」

ミサトは台所のある部屋でビールを飲んでいる、

正面のソファーにはアスカとシンジが座っている、

「、、、、、、誰が行くの?」

細めた瞳、しらけ切った表情でアスカが質問する、

「だから、貴方達全員よ?」

「アタシとシンジと、、、、、」

「レイもクラスのみんなも、全員、」

「、、、、、、どうして?」

「どうしても、こうしても、学校行事なんだから、当然でしょ!」

ミサトは飽きれた顔でさらにビールを飲み続ける、

「、、、、、、いや、、」

「ダメよ、全員参加なんだから、」

「、、、、、、いや、」

「ダメよ!アスカ、学校行事なんだから、参加しなさい!」

「いや!いや!いや!いや!いや!絶対にいや!

修学旅行なんて、、、、、、、絶・対・に・い・か・な・い!」

 

首を振り、髪を振り乱しながら、アスカが大声で拒絶した、

シンジはただ苦笑いを浮かべるだけだった、、、、

 

第十五話へ続く



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