「誰かがクスクス、笑いが止まらない、」

 

 

 

 

「大丈夫、シンジ、」

「あぁ、痺れてるけど、、傷はたいした事はないから、」

「そう、、まったく、どうしていつも一人で無理するのよ!」

「、、、ごめん、、」

「ごめんじゃないわよ!昨日もチームで行動するようにってリュックに言われたばかりじゃない!」

「すまない、、」

「あんた謝ればいいと思っていない?行動で反省の印を見せてくれなきゃ困るのよ!」

「、、、、、、ごめん、」

「まったく、心配する側にもなってよね、」

シンジは医務室で腕の傷の治療を受けていた。

その脇でツナギの特殊スーツを脱ぎ、上半身だけTシャツでいるアスカが怒鳴る。

アスカもシンジもそうだが“ESSP”の全員が制服の下に特殊スーツを着用してる。

体にフィットする様に特殊素材で出来た伸縮自在のスーツだが、体温を一定に保てる様にできている為、

どんな気候条件の元でも身軽に作戦行動が取れる。

アスカはそのスーツを上半身だけ脱ぎ、腰の部分で巻いて止めている。

「今後一切単独行動は禁止よ。わかった!」

「、、、、うん、」

「ちょっと真剣に聞いてるの!」

「、、、、うん、」

腕の治療を終えたシンジは一人で考え込む。

アスカの言葉にも曖昧な返事しかしないシンジは呆然と自分の腕に巻かれた包帯を見る。

「シンジ、、、、、」

アスカはさっきまで怒っていた勢いを無くし、魂が戻らないシンジを心配する。

「シンジ、ねぇ、シンジ、、聞こえる?」

「ネルフってなんだろう、、、」

「はぁ?」

「アスカ、加持さんに言われたんだ。ネルフってなんだろう?」

「私達の敵よ、」

「本当にそれだけの存在なのかなぁ、」

「どうして、」

「テロ集団なら何かしらの主義、主張があっていいはずだろ。まだ分らないけど、ケンスケの部屋を爆破したのがネルフだとすると、すでに一年間で10件以上のテロ行為をしてる事になる。」

「でも、犯行声明がほとんど送られてる。犯人でなければ知らない事実も含めてね、」

「確かにそうだけど、その声明内容、報告は最高機密とされ僕達隊員には言葉で説明を受けるだけだ、

組織力がどれほど世界にまたがっているのか、なぜこの第7東京を襲撃するのか、以前からあった組織なのか、指導者“G”とは何者なのか、そして組織の真の目的とは、、、、、、謎だらけだ、」

「だから私達が動いてるんじゃない、」

「動いてる、確かに事件が発生してから動いているよ。捜査もそれなりにしている。にも関わらず通常のテロ事件とはまったく違い、情報、目撃いっさいなし。よほどの科学力、組織力を持ってる組織としか思えない。だが、今の地球上にこの第7東京の情報網、捜査網にかからず行動できるほどの組織が存在するなんて、考えられない。」

「アメリカやドイツにはあるんじゃない?」

「だとしても、アメリカ支部、ドイツ支部からの情報は一切ない。おかしいよ、、、」

「じゃぁ、架空の組織だと?」

「分らない、、、でも、僕達は違う世界を見ているのかもしれない、、、、」

「違う世界、、」

「そう、、、、サングラスを額にかけながら、同じサングラスを探してるのかもしれない、」

「じゃぁ、、敵は、、」

「身内かもね、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスカとの接触はどうだった?」

「まぁ、生意気な二十歳ぐらいの女の子一人くらいどうって事ないわよ、」

「何言ってるのよ、盗聴と尾行に気ずかれた上に、駐車場での銃撃戦、もっと慎重に行動していれば避けられた行動よ。」

「わざとよ、わざと、私の行動に気がつくかあえて餌をまいたの。見事にそれに引っかかった訳よ。」

「言い分けにしては説得力ないわね、」

「何よ!私が本当に察知される様な行動をとってたと思うの!」

「ミサトならありえるわね、」

「リツコ、あんたね!」

「まぁ、おかげでアスカの戦闘映像も手に入ったからいいけど、、」

「リツコ、話しを変えないでよ!」

「分ったわよミサト、そういう事にしといてあげる。」

「“あげる”ってね、、、、」

「指令の内容には、アスカとの接触は含まれてなかったわ。それに、戦闘に入ってから勝手にエヴァを起動させた。充分命令違反よ。」

「リツコ、アスカは単なる生意気な少女じゃないわ。戦闘能力も状況判断もある立派な兵士よ。しかも、敵と判断すれば引鉄を瞬時に引けるほど、戦闘経験もある、他人を殺害する事が任務ならばそれに従う

優れた兵士よ、今後のことも含めて早い内に接触する必要があると判断したのよ、」

「そうですか、、、、、」

リツコとミサトと呼ばれる女性は暗い部屋で、幾つもあるモニターの前に座っている。

部屋には余計な照明はなく、モニターの光だけが壁と床と天井を照らす。

その光がリツコと呼ばれた女性の眼鏡に映る、

「アスカの戦闘データは今までも蓄積してあるわ。問題は、、、」

「シンジ君の方ね、、」

「見て、、」

ミサトがリツコの示す螺旋状のグラフデータを覗く、

「一定じゃないのよ、彼の戦闘能力は。普通は戦闘を繰り返せば繰り返すほど、能力的に向上していく。

アスカは最もその典型的な一人ね。でもシンジ君は、、」

「時と場合、状況、心理状態に大きく左右される。」

「このままではエヴァを操ることは不可能よ、」

「でも、リツコ言ってたじゃない。エヴァには無限の能力が秘められてると、その無限に近ずけるのは一定のリズムだけでは辿り着けない。無限の世界は常にバイオリズムが変化してるって、」

「それと、これとは話しは別。このままじゃ、エヴァに乗る事すらできないわ、」

「そうね、、でもこのグラフの3D曲線、似てるわね、」

「そうね、、、そっくりかもね。神経接続パターンも似てると思うし、おそらく大脳皮質の細胞選択も似てるんじゃない、、」

もう一人、アスカでない人物の3D曲線グラフを見つめ、二人は何か言葉にできぬ思いをいだく、

「本当なら、、、今ごろは素敵な恋人同士のままだったかもね、、」

「あんまり仮定で考えるのは好きじゃないの。特に男と女の関係はね、」

「そうね、、、、、でも、本当なら素敵な恋人同士だったのに、」

「一番多感な時期を殺戮と躁鬱で埋める事ができた、貴重な人生よ。」

「もし、二人に遭えても、、私には、、そんな事言えない、、」

「でも、言わなければ、二人と同じ運命を世界中の人間が歩むことになるのよ、」

「そうね、、、、」

キーボードを打ち込む音と繰り返されるアスカの映像が、二人の表情を何度も違う色に染めていった、

 

 

 

 

 

 

 

「二つの遺体は正確に大動脈を斬られてます。首から数センチの深さで、外傷も数センチ、遺体は焼けている為確実なことは言えませんが、致命傷以外の外傷はありません。」

「プロの仕事ってことね、、、、」

アスカは小さく呟く、

「殺害の後、理由は分りませんが部屋と遺体に放火してます。」

「プロの仕事なら何故?」

「目的は殺害ではなく、何かを消滅させる事だったと、」

「その目的を達成したのか、それとも否か、」

「そもそも遺体の二人は住民ではない、なのに何故あの部屋で殺害されたのか、」

タバコの煙が充満する部屋、壁は黄色く変色し、蛍光灯の光がくすんで見える、

「つまり、遺体の目的は相田 ケンスケ、そしておそらく同席していた鈴原 トウジ、この二人への接触、もしくは殺害だった。だが、おそらく第三者により殺害されたと。この第三者の存在理由は二人が殺害した場合、頚動脈だけを正確に切り裂くという殺害方法は取れないと推測する為です。そして、その第三者が何らかの目的で部屋に放火したと。その第三者と思われる人物が、、、、、」

リュックの横でスーツ姿で報告書を読み上げていた人物が、後ろの席に座るシンジを一瞥する、

「加持 リョウジと思われます。」

その言葉が会議室にいた男達、全員の表情に何らかの変かを浮かばせる、

シンジ達“ESSP”のメンバーの中で、純粋な日本人はシンジただ一人だ、

アスカも日本国籍を持つが、ドイツ人とのハーフである為体格は日本人離れしている、

それ以外の数十名は全て外国国籍を持つ、つまり“ESSP”は多国籍チームなのである。

センター内で特殊訓練を受け、数年の実質訓練を得て各国の“ESSP”へと配属になる。

普通はそういったエリートコースを進んだ人間のみが所属するのだ。

全世界で無事最後まで配属になる人数は、始めの応募数が年間数万名である事に対し、配属になるのは年間数名だけだ。それほど厳しい組織にシンジは唯一例外として、訓練なしで入隊した。

その理由が、加持 リョウジのパートナーであった、という実績だった。

 

「シンジ、」

「なに?」

「加地さんと一緒にいるのかなぁ、二人は、」

「さぁ、どうだろう?でも、、、、」

「でも?」

「加地さんが絡んでる以上、普通の捜査じゃだめって事だよ、」

 

加持 リョウジ、

不思議な男だった、、

だが、死神はこの男にだけ微笑む、

誰もが何度もこの男と接触した、

交戦を求めた人物は一人も生き残ってはいない、

依頼をした人物は99パーセント以上の遂行率に満足した、

誰も加持の出生、国籍、年齢を知る物は無く、

知ろうとした人物は全て消された、、、、

そんな加持 リョウジの仕事は、主義、主張、宗教、国、人種、一切関係なく、

自分が納得した仕事のみ、多額の金額で請け負うといった物だった、

そして一国の首相だろうが、大統領だろうが、彼に狙われたら最後だと言われるほど、

彼の仕事は完璧だった、、、、、たった一人のテロリスト、それが加持 リョウジだった、

だが、数年前、ある少年が加持と行動を共にする様になった、

戦場でも、大都市でも、砂漠でも、ジャングルでも、太平洋の真中でも、アルプスの雪山でも、

全ての仕事に同行し、加持と共に生死の限界を走り抜けた少年がいた、

それが、、、、碇 シンジだった。

 

「どうだったシンジ、久しぶりの対面は、」

チームのメンバーがシンジに話しかける、

「あまり良い物じゃなかったですよ、」

「でもよ、おまえの師匠みたいなもんだったんだろ?」

「まぁ、多少教えてくれたけど、、、、、二人とも仕事を完遂する事が目的で行動してたから、」

「じゃぁ、互いの事はあまり知らないんだ、」

「うん。仕事以外の会話をした記憶は、、、、、殆どないなぁ、」

シンジは適当に答える、

「そうなんだ。やっぱり冷酷な殺人マシーンなんだ、」

その言葉にシンジは少し考えて答える、

「殺人マシーン、、、、、いや、、違うよ、」

「本当は優しい男だったのかい?」

冷やかす様に笑いながら話すチームのメンバーに、シンジは苦笑しながら小さく呟いた、

「、、、、、、、死神だよ、間違いなくね、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある街の小さな部屋での出来事、、

素敵な日常の始まりだった、、

暖かい日差し、優しい朝の風景、澄んだ空気、そんな物がまだ存在していた都市、

シンジはまだベットにもぐっていた、

「シンジ、アスカちゃんがもうすぐ来るわよ、」

碇 ユイが優しくシンジを起こす、

「うぅん、、、今起きるよ、、」

それでもシンジはまだ眠いらしく、ベットから起きあがれない、

「あまりアスカちゃんを怒らす様な事しちゃだめよ、」

「アスカが勝手に怒ってるだけだよ、、」

「まぁ、母さんが口を挟むことじゃないけど、あんまり女の子を泣かしちゃだめよ、」

「泣かしてなんて、、、、」

「レイちゃんだっけ、あの髪の青い女の子、」

「、、、、、、、、うん、」

「レイちゃんを選ぶんなら、ちゃんとアスカちゃんに説明しなさいよ、」

「うるさいなぁ、、、分ってるよ、」

シンジは布団に潜りふて腐れながら答える、

「じゃぁ、早く起きて、朝ご飯食べなさい、」

ユイは素敵な笑顔を残しシンジの部屋を出て行く、

「説明しなきゃ、、、、アスカに、、、、」

シンジは小さく呟いた、、、

 

 

 

「馬鹿!!!」

アスカの平手がシンジの頬を打つ、

「あんたなんか、、、、シンジなんか、、」

「アスカ、、、」

放課後、二人で帰る後には素敵な夕日が流れる、

オレンジと赤が光に反射し、複雑な雲の影を浮かばせる、

何重にも重なる黄昏の風が、制服姿のアスカとシンジの髪を靡かせる、

そして、アスカの涙も、、、、

「、、、どうして、、どうしてなの、、」

「ごめん、、僕は、アスカの気持ちに答えることは、、」

「、、、、、レイなら、、レイには答えることができるの、」

「、、、、、多分、」

泣きながら、顔を俯いたまま涙を拭きもせずに、アスカは拳を固めたまま体を震わす、

「嫌、、、、嫌よ、、、、」

「ごめん、アスカ、、、、、」

「嫌よ!、、、だって、、、、私、、、一人ぼっちになっちゃう、、、、、」

「そんな事ないよ。アスカには沢山の友達もいるし、、」

「、、、、いないわよ、、、誰も、、」

「ア、アスカの事、大切に思ってくれてる人も、、」

「、、、、、いらないわよ、、、誰も、、」

「、、、アスカ、、」

「シンジ以外、、、シンジ以外の男なんて、誰もいらない、」

「駄目だよ、、そんな事言ったら、、、」

「シンジだけが、、、好きだった、、、」

その言葉がシンジの胸を突き刺す、

「好きだって、、、真実だって、思える様にやっとなれたのに、、、」

「ごめん、、、僕が好きなのは、、」

「嫌、、、、絶対に嫌、、、、」

「アスカ、、、」

「どうして、、レイなの、、、」

「、、、、わからないよ、そんな事、、、、、」

目の前で無限の涙を流す少女を、胸が張り裂ける痛みを感じながらシンジは見つめる、

アスカの涙の意味は何だったのか、

アスカがどうしても認められない物は何だったのか、

アスカがシンジに求めていた物は何だったのか、

アスカが求めた真実は何だったのか、

今でもシンジには分らない、

だが、その答えは一生分らないままだろう、

何故なら、

シンジとレイが恋人同士でいられた時間は、あまりにも短かった、、、

 

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!」

シンジはベットの上で自分の叫び声で目覚める、

「はぁ、、、はぁ、、、、、」

シンジの上半身、表情は汗で異常な程濡れていた、

「どうしたの、、、、」

まだ夜も暗く、時計は三時半ぐらいを指していた、

「また、あの夢、、、」

「うん、、、」

シンジは自分の手のひらを額に当て、苦しそうに瞳を閉じる、

「大丈夫?」

「うん、、、もう大丈夫だよ、」

横で眠っていたアスカが優しくシンジを抱きしめる、

「、、、、、アスカ、憶えてる、、」

「なにを、」

「アスカにレイとの関係を打ち明けた時、、」

「あの時の事?」

「ううん、、、、あの時の夕日、とても素敵なオレンジ色だった、、」

「そうね、、憶えてるわ、」

「あんな綺麗な夕日はもう二度と見れないんだろうね、」

「あの時と同じ気持ちには、もう戻れないでしょうね、、」

「もう、、、二度と僕は、、、、僕は、、、」

「大丈夫よ、シンジ、、、アタシは何処にも行かないから、、シンジを一人っきりにはしないから、、」

「アスカ、、、」

「あんたが、私を抱くのは、愛してるからじゃない事も知ってる、」

「、、、、、、、」

「あんたが、、レイの代りに私の体を求める事も知ってる、」

「、、、、、、、、止めてよ、、」

「残酷に、私を捨てたのに、また私を都合よく拾っただけって事も、」

「止めてよ、、アスカ、、お願いだから、、」

「酷い男ね、あんたって。欲望のままに私を汚して喜んでるんだ、最低ね、まったく、、、」

「止めてくれ!!」

シンジは叫ぶ、

暗い部屋に浮かぶベットの中で、滴り落ちる涙の意味が理解できずに泣いてる自分が不安だった、

狂ってしまいたかった、、、、、その方が遥かに楽な人生を送れただろう、

だが、叫び声を明確に聞き取り、その声の悲痛な意味を理解できるシンジは、

まだ、狂う事も死ぬことも許されなかった、、、

「僕は、、、僕は、、、、」

「泣いてもだめよ。現実からは、私からは逃げられないわよ、」

「お願い、、アスカ、、助けて、、」

「無理よ、どんなに私の事を抱いても、私で性欲を満たしても、シンジは救われないわよ。」

「気が狂うか、死ぬしかないの?」

「ううん、シンジにはそんな自由は存在してないは。シンジを救える人間はね、レイだけよ、」

「、、、、、、、、、、絶望だね、」

「そうね。まぁ、絶望の中で精々泣いてなさい。」

「、、、、、、、冷たいね、、」

「そうよ。でも、これだけは忘れないでね。」

「何?」

「愛してる。世界中のだれよりも。」

アスカは小さく布団の中で呟き、そのまま小さな寝息をたてて死んだ様に静寂に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ、そうです。二人はまだ逃亡してると思います、」

“そうか。奴らの膝元だ。発見しれれば間違いなく殺害される、”

「その前に僕か、シンジ君が接触できればいいのですがね、」

“それが君の仕事だ、”

「分ってますよ。大方検討はついています。この第7東京で、彼らの目から隠れるには方法は自然と限定されますからね。恐らくは、、」

“サードと接触したそうだな、”

「えぇ、感動の涙の対面、って感じでは無かったですがね、」

“依頼内容には含まれていないはずだが、”

「今後の依頼内容に含まれると思いましてね、」

“まぁ、その件は言及しないが、飽くまでも二人からの奪回を優先してくれ、”

「二人の生命は関係ないと、」

“我々はあの物さえ手に入ればそれでいい、”

「分りました。そろそろ、この特殊電波が認識された頃だと思うので、それじゃぁ、」

“プチ、”

加持は車の中で衛星電話を切る、

特殊な周波数な為、盗聴される畏れはないが、その場所の特定がし易く、長時間の会話は不可能だった。

エンジンを回転させ、加持は無言で暗い都市の闇を走りだす、

彼にとっては、この都市の未来、この都市の住民の未来、

ネルフ、ESSP、そして、この街を主体としたあらゆる企業、機関、

全てが無意味だった、

そんな加持がシンジと始めて出会ったのは、

今から5年前、

荒涼とした大地に月だけが輝く夜のテキサス州、

その大地には道も標識もない、ただ、人が数人旅の途中で立ち寄る街、

その街の小さなバーだった、、

 

まだあどけなさが残る少年、

だが、瞳の色だけは暗い、他人の心の闇だけを見る、

優しさも、温もりも必要としない、

生まれた子犬を石で殴り殺せる程の痺れる瞳、そんな印象だった、

加持はシンジと初めての会話を今でも覚えている、

「依頼したいんですが、」

シンジはカウンターで酒を飲む加持の横に立ち、生物とは思えない肌の色で呟いた、

「、、、、、、駄目だね、」

加持はシンジの容姿を暫く見た後、興味無さそうに応える、

「ここに現金で1000万ドル在ります。これで仕事を引き受けてください、」

「君が誰かも知らない。突然の訪問者、身元の知らない人物からのコンタクトは断っている、」

「僕は碇 シンジ。今年16歳になりました。」

「そうかい、じゃぁ、その金を奪われない内に家に帰りな。」

カウンターに膝をつき、目の前に並ぶ数本の硝子瓶を見つめる加持は、シンジの方を見もせずに冷たく断る。だが、シンジは、暫くの沈黙の後、再び呟く様に話し始めた。

「家はありません。家族も、友達も、恋人も皆殺されました。」

「それは残念だな。じゃぁ、教会でも行って神父さんと今後の相談でもしてな、」

加持は横目でシンジの瞳を睨みつける、

「神様が言ったんです。あなたに依頼しろと、」

「殺した人間を殺して欲しいって事かい?それが依頼内容かい。俺は個人的に興味がない仕事は受けない事にしてる。犯人探しや復讐なら警察か余所を当たってくれ、」

皮肉交じりに応えるが、シンジもその嘲笑した笑みに負けないほど、不気味な、地獄で死ぬ瞬間の様な笑みを浮かべ、加持に応える、

「いいえ。僕も死にたいんです。だから、一緒にいろって、神様が言うんです。」

「誰とだい?」

「死神、、、、加持 リョウジと呼ばれる死神と、」

 

そう応えたシンジが、何故か加持には死神に見えた、、、

 

 

第四話へ続く



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