「天使と悪魔が同居している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンジは何処へ行ったんだ、」

「知らない、」

「知らないわけないだろ、一緒に行動してたんだろ、」

「途中まではね、、、、」

「途中で別行動に入ったのか、」

「今頃、あの女に撃ち殺されてるんじゃないの、」

「どうして、一人で行かせた、シンジがもしあの女に接触したら、シンジがやられる可能性の方が、」

「だから、一人で行かせたのよ、」

「、、、、、、アスカ、、」

「どうせなら、、、、私に殺させるより、、レイに殺される方が、、シンジには幸せなのよ、、」

アスカは、議事堂側に設けられた、簡易テントの下で椅子に座って話す、

上半身の特殊スーツを脱ぎ、腰の部分で巻き止める、

そして、中のT−シャツだけがアスカの上半身を覆っているが、

そのシャツは水でも被ったかの如く、汗で濡れていた、

恐らく、普通の汗とは違う、体内の水分を蒸発させる、何かが働いた為だろう、

例えば、、、、、、現実を絶対に把握認識できない現象を見たとか、、、

 

 

事件発生から既に1時間以上過ぎていた、

“ESSP”もネルフによるテロ行為と判断された今回の事件に介入を始める、

もっとも、その介入決定以前にシンジとアスカは行動を起していたが、、

「テロ行為の危険性があったのなら、何故報告しなかった、」

「確証が無かったもので、、」

一応上官に当るリュックは、アスカへの質問を続ける、

「確証も無しに、勝手にコンピューター制御室の警備に、強引に加わってたのか、」

「予測範囲内の危険に対する当然の行動だと思いますが、」

「現場の話しでは、軍隊の連中とも争ってたそうだな、」

「彼らがお決まりの警備しかしてないから、私が適切なアドバイスを与えてあげただけです、」

「また余計なことを、、、」

「事実、メインコンピューターは外部からのハッキング対応に追われ、その前、同時に仕掛けられた簡単な赤外線警報プログラム変更に気がつく軍事は一人もい無かったわ。

まったく、上官の命令以外は何一つ緊急時に対応できないなんて、、税金の無駄よ、あんな組織、」

「上官の指示も聞かない、定期連絡も一切行わない、そんな人間ばかりじゃ、組織は成り立たん、」

「でも、リュック、、、」

「言い訳は、後でゆっくり聞く。君への処分は3ヵ月の減俸、それと暫くの間、自宅謹慎だ、君にはこの事件から外れてもらう。」

「なんですって!冗談じゃないわよ!どうして、、」

アスカは椅子から立ちあがり、リュックに講義する、

「君は謹慎と減俸処分で済んでる。だが、、」

リュックは険しい表情でアスカに答える、

「シンジと綾波 レイの関係が、公にされた、、、」

「なっ、、、、、どうして、、」

一気に声を潜め、リュックと同じぐらいに真剣な表情に変わる、

「今朝、“ESSP”にメールで投稿があった。内容は、碇 シンジと綾波 レイの過去を暴露したものだった。当然、、、、二人が付き合っていた事も含めて、在る事無い事、抽象的に書かれていたが、、」

「匿名メールってやつね、、、でも、誰が、、」

「解らないから、匿名なんだよ。だが、このままでは、シンジと綾波 レイが共に逃亡したと判断する連中も出てくる。」

「直ぐに連れ戻せ、って事ね、」

「そうだ。この事件の捜査より、今はシンジを連れ戻す事が優先だ、」

「わかった、、、、」

アスカは直ぐに行動に移ろうとする、

「あぁ、そうだ、、アスカ。一応自宅にダミーを置いとけよ、自宅謹慎なんだから、」

「大丈夫、素敵なダミーがベットでもう眠ってる頃よ。私が予約済みだからって、ダミーを襲わないでね、」

「あぁ、襲うなら、本物にするよ、」

「馬鹿、、、」

リュックの言葉にアスカは笑顔で答えるが、、

実は、不安で堪らなかった、

シンジが殺される事?

違う、、、アスカが恐れてるこは、シンジがレイを殺してしまう事、

そして、その後にシンジが自らの命を絶つ事が、、

勝手に二人に死なれてしまう事が、

アスカには不安でしかたなかった、、

 

 

 

 

 

 

 

時間は多少さかのぼる、

調度アスカが議事堂に進入した頃、、、、

二人の人間が議事堂の屋上にいた、、、

 

「あの時もこんな夕焼けだったね、、」

「そうね、、でも、あの時の方が、オリジナルの狂気を感じられた、、、」

「それは、あの時、レイが全てを壊したからじゃないの、僕も、アスカも、トウジ達も、、」

「アスカの両親も、碇君の両親もね、、、、」

「どうして、殺したの、、、、、、僕達の両親を、」

シンジは銃をゆっくりと抜く、

「私が殺したんじゃないわ、、、」

「そう、、、」

「でも、私が殺したのよ、碇君とアスカの両親を、」

 

レイの表情が夕日に染まる、

オレンジ色、限りなく赤に近い肌がレイの瞳と同化する、

そして、“殺した”と言いながら、不気味な笑みを浮かべるレイ、

その不気味な笑みがシンジの枯渇した正義感を刺激する、

 

「碇君のお父さん、私がユイさんの首にナイフを刺したら、笑ったのよ、、、

あのポーカーフェイスしか知らない、、、感情表現の方法を知らないあの人、、

自分の奥さんが目の前で殺されたのに、、笑ってたのよ、、」

「レイ、、、、止めてよ、、、そんな話し、、」

 

クールさを一層増して行くシンジ、

そのシンジの表情を、冷たい感情を加速させるレイの言葉、

口元に不気味な笑みを浮かべたレイは、更に話しを続ける、

 

「アスカのお父さんの頭をショットガンで吹っ飛ばしたら、アスカの母親、、、

“まぁ、素敵、、、これで私はゲンドウ君と幸せのなれる、”

そう大声で叫んだのよ、、、、私可笑しくて、、、大声で笑っちゃったの、、」

「レイ、、そんな嘘はいいから、、、真実を教えてよ、、」

 

シンジは銃を握る右手に力を込める、

そして、ポケットに入れたまま銃を握る左手にも力が入る、

 

「嘘じゃないわよ、、、碇君。その後、貴方のお父さんと、アスカのお母さん、

二人の死骸をそのままにして、ベランダでセックスしてたのよ、、、延々と、、

私、馬鹿らしくなってきて、、それで、碇家と総流家、両方とも爆破したの、、

中々、吹っ飛んだ時に生まれた炎が綺麗で、良かったけど、、、」

「もし、それが真実だとしても、、、レイが殺す理由は、、なに?」

 

狂人的な笑いを浮かべて愉しそうに話すレイ、

だが、シンジも狂痴的な笑みを浮かべながら、

これから自分が取るべきであろう、寸前の未来に発狂しそうになっていた、

 

「簡単よ、、私、レイプされたの、碇君のお父さんと、アスカのお父さんに、

碇君と別れろって言われて、断ったら、、、、強引に、、私を押し倒し、、、

何度も、、、何日も監禁して、、、、私の体中の血液が真っ白になるまで、、、犯されたわ、、

おかげで、この白い肌が永遠の物になったから、結果的にはよかったのかなぁ、、

あはあははは、、あは、ああはは、、、あはぁあぁぁはあ、、あああ、、」

 

レイの世界中に響き渡る様な笑い声が、シンジの世界には届かない、

くだらない未来や、正義、倫理、そんな概念をまとめて一気に捨てたシンジには、

レイの狂騒しながら叫ぶ、泣き声の様な笑い声は、、

とても虚偽的な創造物に見えた、、

 

「ねぇ、、レイ、、、」

「なに、碇君。どうしたの、、また、あの雨の中と同じで、私の事、撃てないの?

可哀想ね、、、、狂った過去に永遠と縛られてるなんて、、、動物実験の為に生まれたあなた、、

とっても可哀想よ、、、ぎゃぁぁはぁ、ああぁあは、はははは、、はぁあああ、あぁはあ、、」

「君は本物なの、、、?」

 

シンジにはレイの笑い声は関係なかった、

シンジに必要なのは、その“狂った過去”における真実だけが、、

たった一つの真実だけが、、引鉄を引く鍵だった、、

 

「幾ら僕の前で、狂った振りをしても無駄だよ、、、レイ、、

もう、、、僕は狂人を装った人間の言葉なんかに惑わされたりしない、

だって、、僕が本当の狂人だから、、、偽者には興味ないんだ、、

だから、、、レイ、、、

真実を教えて、、、

お願い、、」

 

シンジは右手の銃口をゆっくりとレイの額に当てる、

 

「君が本当に殺したの、、綾波、、、」

 

笑いを止める、

不気味な笑みも止める、

レイは、銃口の奥に見えるシンジのクールな瞳を哀しそうに見つめる、

「昔は、、、そんな瞳じゃなかったのにね、、」

「君がそうさせたのかもしれないんだよ、、、

でも、本当は自分でこの瞳に成る事を望んだのかもしれない、、」

「始めて私にキスしてくれた時の瞳は、こんな夕焼けの光を全て吸収してしまうぐらい、

茶色い部分が深紅に染まる瞳だったのに、、、、、どうして、、」

「僕は多くの人間を殺してきた、、、犯罪者ばかりだけど、、、

でも、余りにも多くの悲しみが僕の感情を壊してしまったんだよ、、

まぁ、それが目的だったんだけど、、、、

どんなに沢山の人を殺しても、、

どんなに哀しみと恐怖感で自分を発狂させたくても、、

僕は狂人になれなかったんだ、、、、、、最後までね、」

「どうして、、」

「君の存在だよ、、、、」

「私の所為、、」

「うん、、、君から真実を聞出すまでは、、、僕は死ねない、、狂人にはなれない、、

そう、誰かが叫んだんだ、、、僕の心の中のもう一人の人間がね、、

だから、、早く狂人になりたいから、、、早く死んでしまいたいから、、、

お願い、、、教えておくれよ、、レイ、、」

 

シンジの表情から夕日の後が消えて行く、

もう少しで、夕日は完全に闇に飲み込まれる、

そんなギリギリのライン上で、二人の感性は揺れ動いていた、

一瞬の言葉で、、、全てが終わる、、

そんなライン上で、二人は暫くの間見詰め合っていた、、、

 

「いいわよ、、、、教えてあげても、、」

「、、、、、、、、」

レイの言葉にシンジは無言で答える、

だが、引鉄を引く指先には、自然と力が入る、

「その代わり、約束してね、、、」

「何を、」

「理由がどんな結果であろうと、、、、、必ず、その引鉄を引いてね、、」

「、、、、、、うん、解った、」

「理由は、、、、ね、、、、」

 

世界中の音が止まる、

どんなに下でアスカ、葛城、桜木達が騒いでいようが、、、

この二人には、まったく関係なかった、、

信じられない静寂の中、シンジは言葉を待つ、、

 

 

 

「理由は、、、、、、、」

 

 

 

 

シンジは、既に引鉄を引く為の力を準備している、

いつでも、引ける、、、その心がOKサインを出している、

 

 

 

 

 

 

 

「私のこと、胸無しって言ったから、、、」

 

 

 

 

 

引鉄を引く指から、一気に力が抜けて行く、

 

「あははぁぁ、、、はははぁ、、、、ねぇ、ねぇ、可笑しい?ねぇ、、

くだらない理由でしょ、、あははは、、、あぁぁ可笑しい、、、

そんな理由で貴方の両親とアスカの両親を殺しちゃうなんて、、

ははは、、あはは、、私って、、本当に最高ね、、あははっはっは、、」

 

レイは銃口の下で再び大声で笑う、

さっきと同じ狂笑を繰り返しながら、、、

目から涙が溢れるほど、笑っている、、

 

「だから、、、殺したのよ、、、あはぁっはははっはっはぁ、可笑しい、、

でもね、、、貴方のお母さん、ユイさんね、、、私に殺される瞬間、、

あまりの恐怖感にオモラシしたのよ、、、ぎゃぁはっはははぁはあは、、

はは、、もう、、、私可笑しくって、、、、堪らなかっ、」

 

 

 

レイの言葉は最後まで続かなかった、

 

シンジの右手の指が、引鉄を引き、

レイの言葉を奪った、

 

それほど血を流さないで倒れるレイ、

 

つまらなそうに、、その死骸を見つめるシンジが呟いた、

 

「もう少し、楽しませてくれるかと思ったのになぁ、、、

なんだ、結局血は深紅のままじゃないか、、、うそつき、」

 

 

 

 

 

 

 

「どう、、綾波 レイを殺した気持ちは、」

 

「あんまり気持ち良いもんじゃないね、」

 

「そう、、でも、自殺するにはまだ早過ぎるわよ、」

シンジは首と視線だけ後ろを向ける、

「始めましてかな、、碇 シンジ君、」

金髪の女性が黒い革のボディースーツ姿で立っている、

「結構僕は有名人なんですね、」

「そうよ、もっと自分の事を知らないとね、」

シンジがゆっくりと振り向き、銃を向ける、

「撃っても無駄よ、」

「そうみたいですね、、貴方からは人間的な暖かさを感じない、」

「暖かさ?」

「人間を撃つ時、一番重要なのはその標的の体温を感じる事です。蛇が暗闇でもネズミなどの小動物を捕らえられるのは、遠くの獲物の体温を正確に感じる事ができるからなんですよ、」

「シューティングもそれと同じって事ね、」

「正確に狙うには、スコープは必要だけど、更に精密な狙撃が要求される場合や、スコープでも捉えられない遠距離狙撃の場合は、その標的の体温を感じることが必要なんですよ、」

「さすが、天才狙撃者の言葉は違うわね、、、それって天性?それとも訓練で獲られる事?」

「加地さんは天性だって言ってたけど、、、僕は違うと思う、」

「反復的な作業で獲られるの?」

「違う、、、、、」

「じゃぁ、何?」

「殺してやるって、強く思う気持ちかな、、」

 

夕日が沈んだ暗い世界にシンジの野生の瞳が輝いていた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は再びアスカに戻る、

「まったくいつも一人で何処へ行っちゃうんだから、、」

「まぁ、この都市の何処かに存在してる事は間違いないんだから、」

「せやな、兎に角シンジを探そうや、」

アスカの運転する車にトウジとケンスケも乗っている、

「ねぇ、あんたのそのエロメガネマシンでシンジを探せないの、」

「エロメガネ、って、、、、この探知機のこと?」

ケンスケが多少嫌そうな表情をしながらも答える、

「そうよ、シンジのベルトには特殊周波数の発信機がついてるのよ、」

「へぇ、、そうなんだ、、で、そのHzは?」

「α波形の1602なんだけど、その機械α波って入る?」

「大丈夫、特殊無線傍受の為に、僕が改造したやつだから、、」

「、、、、、、、あんた、あんまり危ない事やってると、消されるわよ、」

「あぁ、、今回の事件で身に染みたよ、、」

ケンスケはヘッドフォンを片耳に合わせながら、周波数を合わせる、

「せやな、、、今回命狙われたのも、あの時エジプトで特殊無線の傍受をしたのが原因だったしな、」

「あんた達、その石、どこに隠したの?」

「あぁ、今じゃ無国籍地域になってる場所だよ、、、」

「無国籍地域って、、、、まさか旧北海道地区?」

「そう、あの今じゃ小さな島になってしまった、、死者の国だよ、」

 

二十世紀までは立派な日本国の一部であった北海道も二一世紀初頭の民族独立運動の流れのなか、

アイヌの血を強く持つ民族の独立武力闘争が起きた。

だが、それと同時期、南極大陸がオゾン層の破壊により十分の一程度融解した結果、元の大陸面積の殆どが海面の下にもぐってしまい、民族紛争問題も曖昧なまま日本国から切り離された。

現在では、昔存在していた八丈島程度になってしまった湿原地帯が占める不思議な島、

そして、オゾン層から逃れる為の特殊フィルターもない旧北海道地の島は、

犯罪者のみが生息する、死者の国と呼ばれる島となっていた、、、

 

 

「よく侵入できたわね、、」

「まぁ、あの島で今でも生活してる昔からの民族の人達がいてね、」

「以前、わいが取材にいった時、偉い世話になった老人がおってな、その人に今回も頼んでな、」

「じゃぁ、今、その人の所にその石は、、」

「あぁ、、、でも、総流、なんであの石のこと“エヴァ”って呼ぶんや?」

「さぁね、、私もまだわからない、、でも、、、」

「でも、、なんや?」

「私の推測が間違ってなければ、、、、、」

「なければ、、、」

「人間の存在の意味、未来の意味、神様の有無、、、そんなものが全て無意味になるかもしれない、」

 

アスカはただ、今は灰色の世界の下、無機質な雲を見上げて車を走らせる、

そして、空を覆っている特殊フィルターに理由のない苛立ちを覚えながら、

今はシンジの行く先を探していた、

 

 

 

 

 

 

「この、死者の国へ、何の用かね?」

萱葺き屋根、古い木で出来た築100年以上ではないかと思われる家、

だが、黒く染まったこの家には、何故か人間的な暖かさがまだ存在してる、

一年中が極寒の地となったこの湿原地帯で、囲炉裏だけで暖をとるこの家には、

年老いた老人夫婦だけが、厳しい自然の野生の掟の中で生きていた、

「自然の力を信じたくて、この地を訪ねて来たのですが、」

「ふっ、、嘘はいかんぞ、いくら人間年をとっても、嘘はいかん、、」

「そうですか、、さすが、自然と会話を持って生きて来た人間は違いますな、」

「そうでもないさ、、、お主の様に強い意思を持った人間が、そんな理由だけでこの地に来るとは思えないだけだ。その瞳がそう語っておる」

「何をですか?」

「この老人を殺してでも、目的を達成させるという瞳じゃ、」

「できれば、そんな行為はしたくないのですが、」

「目的はあの石かね、」

「、、、、、えぇ、」

「あの石は、いったい何なのかね?わしに預けていった青年も解ってはいなかったようだが、」

「あの石は、、、、、、」

口髭を蓄え、色付きのサングラスで老人を睨む男は、茣蓙の上で静かに答える、

「神の石です、、、、、、この世界を浄化できる、唯一の人間にとっての希望です。」

 

 

第八話へ続く



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