「俺はそいつに、、、、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れ動くジェットヘリ、

自動運転を続ける鉄の塊はシンジ達を乗せたまま飛行していた、

その鉄の塊の中で眠るシンジ、

運転室の後ろにある3人掛けのシートの上で昔の出来事を夢見ていた、

平凡だけど、アスカや、レイや、トウジ、ケンスケ達と笑いながら生活していた頃、

まだ踊りながら、歌いながら、ギターを弾きながら、未来を信じてた頃、

神様の愛情の範疇内の人間である事を信じていたあの頃、

そして、自分が楽園を追放された出来事も、

炎と灰と黒い煙で覆われた世界で起きた出来事を夢見ていた、、、

 

だが、それは夢ではなく、過去をもう一度体験できる、

手軽なタイムマシーンとしての夢、

だが、あの時の感覚まで一緒に蘇る、心臓を抉るナイフの様な夢、

そんな夢を見ていた、、、

「シンジ、、シンジ、、、」

視界はぼやけたままだが、アスカの声は明確に聞こえる、

重たい瞼から視界が漂流したままの世界が見える、

「シンジ、、大丈夫?」

漂流した視界に浮かぶアスカの顔は、シンジの記憶に深く眠る

あの頃の透通った瞳を持った少女の顔だった、

「ア、、、アスカ?」

「シンジ、大丈夫?」

心配そうな表情が何故かとても懐かしい、、

その表情がシンジの眠っていた記憶を蘇らせる、

(あ、あの時と同じだ、、、、、、そうか、まだ夢なんだ、、、)

「アスカ、、、、もう、さよならしなくちゃ、、、、」

シンジはアスカの表情以外、何も認識できない、

「シンジ、、」

そんなシンジを心配そうにアスカは見守っている、

「母さんも、父さんも、死んでしまった、、、、」

「シンジ、何言ってるの?」

アスカにはシンジが何を言っているのか解らなかった、

「記憶のフィードバックよ、」

何時の間にかアスカの後ろにはリツコが立っていた、

「記憶のフィードバック?」

「そう、俗に言うトラウマ的な物で、記憶の混乱が現在と過去の判断を失わせているの、」

「じゃぁ、、」

「そうね、シンジ君の意識は今は、あの時に遡っているみたいね、、、、」

「あの時、、、、、」

 

「アスカ、、、もう皆死んじゃったんだ、、、」

「、、、、、そう、、」

アスカは無表情に答える、

「はは、、、不思議だね、、昨日まで皆微笑んでいたのに、、、」

「、、、、、そうね、」

辛そうに、アスカは答える

「どうしてなんだろう、母さんも、、、父さんも、、黒焦げになってた、、、、、」

「、、、、、そうなの、、」

自分もあの時の記憶を蘇らせられる、

「うん、、、僕の家は放火されて、僕もその場で焼け死ぬところだったんだ、、、」

「シンジだけでも、助かって、、、良かった、、、」

数年前にも言った言葉をもう一度言う、

「どうしてだい?一人で生き残るぐらいなら、、、死んだほうが良かったよ、」

「そんな事はないわよ、」

苦笑しながらも、アスカは必死に過去の言葉を話す、

「いや、死ぬべきだったんだ、、だって僕には解るんだ、、、、

これから二十歳過ぎまで生き延びるには、、今の、、この気色の悪い心臓の感覚を、

ずっと持って生きなければならない事が、、他人の血を流し込む事で、やっと動く、

この神様が創造すたスペシャルな心臓と一緒に生きなければいけないって事がね、、」

「、、、、、、シンジ、」

「アスカ、、、僕はまだ14歳だけど、、、もう、人生は終わる予定だったんだよ、

それを無理やり生き延びてしまったから、、神様が罰を与えたんだ、、僕に、、

生きてる限り、不快な感覚を与える心臓を、、僕に埋め込んだんだ、、、、」

「、、、、、シンジ、止めなよ、、」

「あぁ、、そうだ、ごめん、、アスカの両親も、あの爆発で死んじゃったんだよね、、

ごめんね、自分の事ばかり話して、、、、、、、、ごめん、、」

「良いのよ、シンジ、、」

「強いなぁ、、アスカはやっぱり強いや、、、、、昨日、アスカよりレイを選んだ僕に、、

どうして、、、、どうして、、、そんなに、、、、優しく、、、、、、、、、、、、、」

「シンジ、、、泣かなくてもいいのよ、、、」

「どうして、、、、僕は、、僕は、、、レイを、、、選んだのに、、、」

「シンジ、、、、」

「レイは何処へ行ったの、、、、アスカ、、母さんは、父さんは、、京子さんは、、、、アスカぁ、」

「皆、、死んだの、、、レイ以外はね、、、」

「そうか、、、、レイは生きてるのか、、、、レイ、、、、、レイ、、、、、、レィ、、、、」

「シンジ、しっかりして、、、」

「レイ、、、綾波  レイ、、、綾波、、、、、、、、、、、、レイ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

一気にシンジは体を起こす、

「シンジ!しっかりしなさい!シンジ!!」

「ア、、アスカ、、アスカ、、、、アスカぁ、、、、」

シンジは目の前のアスカにしがみ付く、

必死に、力の限り両腕と胸でアスカにしがみ付く様に抱きつく、

「ア、、ア、、、助けて、、、助けてよ、、、アスカぁ、、、」

「シンジ、落着いて!大丈夫だから!」

突然のシンジの叫びにアスカも必死に叫ぶ、

(おかしい?記憶の混乱?それとも、、、)

数年前のあの時には無かったシンジの混乱にアスカは必死に対処する、

だが、シンジの体の震えは一向に治まる様子は無かった、、

そのシンジの姿をリツコはジッと凝視する、

「アスカ、、殺されるんだ、、、僕は、、殺される、、、皆に殺される、、」

「シンジ、、」

「僕は、父さんに、母さんに殺される、、、世界中から、、、殺される、、」

「落着いて、、、シンジ、、誰も貴方を殺しはしないわ、」

アスカも必死にシンジを抱きしめ、声を何とか届かせようとする、

「レイが殺される、、助けてあげられない、、、だって、僕も殺されるから、、、」

「レイは生きてるわよ、、シンジ、」

「そいつは、贋物だ、、だって、、レイは、、レイは、、、、、、」

体を激しく震わせながら、シンジは泣き叫ぶ、

「レイは、、、全ての始まりだから、、、、、終わりの僕が殺さなければ、、、」

アスカの胸に顔を埋めたシンジが、搾り出す様な声で話す、

「、、、、、シンジ、、何を言ってるの?」

「レイを殺させない、、僕が殺したから、、、僕が、、僕が、、、」

 

シンジはそのまま何も話さなくなった、

体の震えが治まって行くにつれ、シンジは再び眠りに戻っていった、

 

 

 

 

 

アスカはただ動かなくなった背中を見ていた、

何か複雑な、決して解く事が出来ない複数の知恵の輪を心臓に埋め込まれた気分で、

あの時、あの過去の場面で聞けなかったシンジの言葉を、

アスカはもう一度心の中で繰り返していた、、、

(“皆に殺される”、、“終わりの僕が殺さなければ”、、、、、、、何の事?)

シンジの言葉にアスカの心は大きく揺れ動いた、

(単なる記憶の混乱による幻言、、、、、、それとも、、何かが、、)

シンジを抱きしめたまま、アスカはじっと考え込む、

「アスカ、もう一度シンジ君を寝かせて、」

その2人を後ろで見つめていたリツコが話し出す、

「兎に角、今はシンジ君をゆっくり眠らせる事よ、」

「寝かせてって言っても、、、、、こいつ、離れないのよ!」

「そのまま2人で眠っていてよ、あと30分後には、旧北海道地区に着くから、」

「ちょっと、何勝手なこと、、」

「じゃぁ、私も運転席にいるから、シンジ君との添い寝、楽しんでて、」

「ちょっとリツコ!ちょっと、まっ待ちなさいよ!リツコ!!」

叫ぶアスカを残し、厳しい表情のリツコは運転室の方へ去って行った、

 

(リツコ、、、何か知ってる、、、私も、シンジも知らない、、、あの時のことを、、)

アスカは直感的にそう感じ取っていた、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミスター・リュックでよろしかった、、」

「リュックで良いですよ、桜木さん、」

「そうですか、どうも名前を呼び捨てにするのは苦手でしてね、」

「“さん”“様”といった敬称がないと不自然に感じますか?」

「えぇ、、ミスターも馴染めないですけどね、」

「そうですか、、、、、、」

桜木 宗司とESSP特殊部隊長であるリュックは同じ飛行機に載っていた、

軍が用意した特殊機で、2人はシンジ達と同じく旧北海道区を目指していた、

「しかし、この広いスペースに我々2人っきりというのも、変な気分ですね、」

「敢えて、二人にしてもらったんですけどね、ご迷惑でしたか?」

「いえ、ただ、男には興味ないものでね、」

「はは、、僕も、女性が好きです。しかも美人のね、」

笑う二人以外には、10名以上座れるであろう座席全てが空席だった、

「そうですか、それで、美人で知的な女性を追って行くのですか?」

「彼女、、赤木 リツコはネルフの一員である事が判明してます。母親のナオコも含めてね、、、一応政府の命を受けてる僕が彼女を追跡するのは間違いですか?」

「いえ、、、ただですね、貴方は確かに政府の人間だ。国際生物進化研究所の代表者であり、

Pudding計画”推進、成立の責任者でもある、、、、」

「発案者でもあるんですけどね、」

「そうですか、、、確かに貴方は政府から推進、成立、成立後の普及計画、全てまかされている。でもネルフ追求の権限は与えられていないのでは?」

「はは、、リュック、僕の計画を邪魔するのがネルフの目的だって事は、もう気がついているのでしょ、なら僕がネルフの人間を追及するのは当然でしょ、」

「えぇ、、目的が単純に赤木 リツコだけならばね、」

「、、、、、、、どういう意味です?」

リュックはテーブル上のカップに注がれたコーヒーに口を付ける、

桜木はリュックへの視線を逸らさず、皮肉っぽい視線を投げかける、

「まぁ、、、、それは、いいとして、、、

僕が今日お聞きしたかったのは、、今から7年前の出来事なんですがね、、」

「シンジ君のお父さん、、碇教授の死についてですか?」

「さすがですね、今でも良く思い出す?」

「いやぁ、、、時々ですね、、それに、、、、」

「それに?」

「思い出したくないんですよ、、、、もう二度と、」

「なら、碇 シンジや総流 アスカを追うのは止めた方が良いんじゃないですか?」

「僕が追っているのは、、、赤木 リツコ、」

「そういう事にしときますか、、、、それより、教えてくださいよ、七年前、

彼らが14歳のまだ純粋な、人殺しや、鉛の玉とまったく無縁な子供だった頃、、

まだ未来に希望を抱いて、地球より人命が重いと思ってた頃、

その心を全て打ち砕いた出来事を、、、、知りたいんですよ、僕は、」

今度は桜木がコーヒーを飲みながらテーブルに視線を移す、

その表情を、リュックは真剣はまなざしで見つめる、

「興味本位ですか?」

「まさか、、、あの時の事件、、碇 ゲンドウ、碇 ユイ、総流 キョウコ、この3人が死んだ事件、殺害された上に、マンションを爆破された、、周囲の部屋も一緒に吹き飛び、関係のないと思われる近隣の住民が6人死んでる。だが、、、、」

「碇 シンジだけが生き残った、」

「えぇ、、、、現場から発見された彼は多少の火傷ですんでる。奇跡的にね、、

それに、その時、彼の側で確認されていた動物性脂肪の塊、

未だにあれが何だったのか判明していない、、、、、」

「僕に言われても解らないですよ、」

「そうですか、、それにまだ不明な点も数多くあります。

犯人と思われている綾波 レイは爆破の数分前に全裸で、血だらけのまま逃走している、

それは大勢の人間が目撃しているので、間違いない事実でしょう、

だが、14歳の血だらけの少女が現場から走り去って、逃走を続けるなんて不可能だ、」

「誰かが逃走を手助けしたと、」

「えぇ、それに綾波 レイが碇夫婦、アスカの母親を殺害する動機が定かでない、

動機も無く、殺害し、遺体に放火し、ガス栓を解放してマンションごと爆破するなど、、」

「でも、あの晩、不審な音に気がついたシンジ君がリビングに行くと、血だらけの綾波 レイがサバイバルナイフ片手に遺体の側に立っていたと、彼自身が証言してますよね、」

「えぇ、その時点で碇家のリビングで、3人は既に惨殺されていたとの事でしたね、

でも、いまいち納得できないんですよ、、、、」

「動機の問題ですか?」

「綾波 レイが碇夫婦を殺害する理由は不明、、

ましてやアスカの母親、総流 キョウコを殺す理由も、」

「気の狂れた人間のやる事など、通常の常識外でしょ、」

「だが、その場にいた碇 シンジだけは単純な火傷だけで終わっている、」

「恋人同士だったんでしょ。流石に、恋人を殺したりはしないでしょ、」

「そうですね、普通の人間ならばね、、、不思議ですよね、その場で他の人間は殺したのにシンジだけは爆破の犠牲者になっただけだ。それに、シンジの当時の証言では、綾波 レイが血だらけに立っている姿を見た後、彼の記憶はそこから消えている、」

「、、、、、、、、、、」

「本当は、碇 シンジは何をみたんでしょうね、

そして、レイが爆破するまでの間、いったい何があったのでしょうか?」

「、、、、、、さぁね、、」

2人の会話が沈黙する、

その沈黙の意味を示すかの如く、どこからか生暖かい空気が流れ込む、

その気味の悪い温かい風はどこか血の匂いがした、

「綾波 レイ、、彼女は人間なんですかね、」

「突然、可笑しな事を言いますね。」

「綾波 レイ、、、確かに碇 シンジ、総流アスカは幼馴染だ。彼らが12歳の時、

綾波 レイは彼らの通う中学校に転校してきている、、だが、、

それ以前の記録は実に不確定な事が多過ぎる。」

「実際に調査した結果ですか?」

「えぇ、、彼女の12歳以前の過去は、まるで綾波 レイ本人の過去とは思えない、

まるで他人の過去を強引につけた様な過去でしてね、、

数人から証言を貰えたのですが、どれも綾波 レイと一致しない部分が多い、」

「つまり、綾波 レイは何かしらの目的を持って12歳の時転校してきた、

誰か他人の過去を持ったまま、、、、、」

「恐らく、、その目的までは僕はまだ辿りついていないから、解りません。

解らない事だらけですよ、、僕にはですけどね、、、、、」

「そうですか、、」

互いに何かを隠したまま、上空闇の圧迫間が2人を再び沈黙へと導いた、

そして、数分の沈黙の後、リュックがゆっくり口を開いた、

「そうだ、それともう一つ、貴方には嫌疑が掛けられてましてね、」

「ほう、なんの嫌疑ですか?」

「“Pudding計画”に伴って、世界中の子供が極秘に国際生物進化研究所に集められたとの情報がありましてね、」

「そんな事実は知らない。証拠でも?」

「証拠はないです。集められた子供達は世界中の孤児院、ストリートチルドレンが集められた、訴える親もいないですからね。だが、その子供達を実験目的の為に大量虐殺した連中がいるって情報なんですよ、」

「随分と失礼だな。証拠もなく、我々が子供達を虐殺したと言うのか、」

「“Pudding計画”に関連してる人間、政治化、企業家、宗教家、全てリストアップしてる。闇で動いていた出来事も全て調査している。証拠が見つかるのも時間も問題ですよ、」

「、、、、、、、、、、、、、、、、、」

「あまり、ESSPを甘く見ないでくださいね。あなた達をバックアップしてる企業の秘密ファイルから、、実験した研究所も特定できました。その研究所の地下13階から子供の人体と思われる遺体、臓器が大量に発見されました。」

「くくく、、、、、、、そうか、」

桜木はそんな事はどうでもいい、といった感のある笑いで、リュックの言葉に答える、

「もうすぐ、“Pudding計画”に関連していた人間全てに逮捕状がでます。」

「はは、、、まぁ、頑張って逮捕してくれ、」

「どうですか?あなたの目的通りですか?」

「まぁ、、今の所は、」

「じゃぁ、あなたの考える真の“Pudding計画”は、、、、、、」

「そうだ、碇 シンジと綾波 レイ、この2人こそ真の“Pudding計画”だ、」

 

 

 

「そして、エヴァンゲリオンもですか、」

その言葉に桜木は笑いを止め、細めた瞳でリュックを睨みつけた、

 

 

第十二話へ続く



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