「つま先で歩く猫に、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リツコの言葉を誰もが静かに聞いていた、

だが、誰も疑問を持たず、誰も信憑性を持たず、

ただ、自分たちとは関係の無い、SFの様な話を聞いていた、

本当に、自分達とは別の世界、ブラウン管の世界の様な気がしていた、、

「私達は、その石版に刻まれた世界を如何しても信用できなかった、、

でも、、シンジ君の細胞、遺伝子、免疫を調べれば調べるほど、、、

どうしてもその石版に描かれた呪文を信じざるを得なかった、、、、」

「そんなに、シンジは、、、」

「そうね、肺の手術、アスカなら憶えてるでしょ、」

12歳の時、

アスカもはっきり憶えている、

シンジの肺胞に腫瘍ができ、呼吸すら殆どできず緊急入院した時を、

「えぇ、、、、始め聞いた話では結構重症で、ひょっとしたら片方の肺を摘出する必要があるかもって云われたのに、、、、シンジは手術後1週間ぐらいで引退した、、、」

「そう、シンジ君の回復力、腫瘍を殲滅する自己防衛免疫の力は異常だった、、

でも、、、事実は私達の想像を遥かに超えた形で更に進んで行った、、」

「、、、、、、、、、、、、」

アスカは無言でリツコを睨んでいたが、

前髪で瞳を隠しながら、小さく俯いて聞いていた、

「私達の研究は、“E”要素を他の人体器官を共有する事と、

その石版に書かれていた瞋恚の炎を消す方法を解読する事に変化していった、、、

でもその方法が解明されるにつれ、私達は更に信じられない事実に突き当たったの、、」

一旦暗闇の奥を見つめ、何かを確認した様な表情を浮かべると、

再び語りはじめた、、、

「始めは、物質的な現象として肉眼で確認できる範囲だった、、、

シンジ君のクローンニングを一切受けつけない細胞だったの。

通常細胞遺伝子をクローニングする事は可能なのに対して、

シンジ君の細胞はクローニング出来たとしても、同じ“E”要素を持たなかった、、」

「つまり、通常のクローンは生み出せても、“E”要素を持った細胞遺伝子は生まれないかったと、、、」

「そう、通常の免疫、マクロファージ、キラーT細胞、異種解読・殲滅機能を持った

普通に機能する器官しか生まれなかった、、、、、

私達はどうしてシンジ君が“E”要素を保持できるのか、

どうしてクローニング不可能なのか、

その原因を探り始めた、、、そして、、その答えはあの石版に書かれていたの、、、」

リツコの表情がさらに無常さを増す、、、

「瞋恚の炎に?」

「えぇ、、、、、」

アスカの表情は険しさを増す、

その瞬間、、生暖かい風が走り抜けて行った、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイの撃った2発の弾丸、、、

その速度を越える人間の行動速度は存在しない、、

だが、、その弾道を見極めれば、、、

避けられない事はない、、、

(闇の中、、、鉄の塊を見極める、、そんな人間離れした事、、、、

碇君できるんだ、、、、、、やっぱりこいつ、、悪魔なんだ、、、、)

 

 

レイは自分の下腹部に刺さったナイフを抜く事も出来ず、

仰向けに倒れながら、横に立つ血だらけの男を見上げていた、、

「これで、、、、終われるね、、、レイ、、」

「やっぱり、、、、、あんた、、人間じゃなかったわね、、、」

あまりの痛みに歪めた表情でシンジに応えるレイ、

そのレイを見下ろすシンジも脚や肩、額から、下腹部からも出血していた、、

 

 

「弾道が、、、見えるなんて、、、、、人間業じゃないわ、、、」

「僕は、、、、、人間だよ、、、レイ、」

 

数秒前、、

シンジはうつ伏せに川岸にうつ伏せに倒れていた、

だが、今は、、レイが倒れている、

逆にシンジがレイの側に血だらけになりながらも、立っていた、

河川がら立ち上がったシンジは、レイが発砲した弾丸を一発は下腹部に(致命傷ではない)、

そして、一発は自分のサバイバルナイフで受け止めた、、

そして、水際に倒れ込んだ後、レイが至近距離で発砲した弾丸を、

瞬時に振り向き、右肩と右手で受け止める、

そして、左手で投げたナイフが、、、

 

レイの下腹部(致命傷に近い場所)に突き刺さった、

そして、シンジとレイの位置関係は逆転した、、、

「そんなに、、、大量の出血してるのに、、、、動ける人間はいないわ、、、、」

途絶えながらレイは必死にシンジを睨みつける、

「、、、、、、、、」

シンジは無言でレイを見下ろす、、

「まったく、、、、、あんたを殺す為に、、、ずっと暗闇で生きて来たのに、、、

やっぱり悪魔には勝てなかったわ、、、はは、、、、はは、、は、、、」

泣きながら笑うレイ、、

悲しそうに見下ろすシンジは、真っ赤に染まって行くレイの体をじっと見ていた、

「どうして、、、どうしてこんな風になったんだろう、、」

「さぁ、、自分の胸に聞いてみな、、」

どうでもいい、、

そんな感じでレイは吐き捨てる様に応える、

「、、、、、愛してた、レイ、、、ずっと、、ずっと、、、」

それでも、シンジは自分の思いを伝える、

「本当に、、、本当に、、レイが、、、、、」

「気色悪い事云わないでよ、、、」

血だらけの表情に苦笑を浮かべるレイ、

「どうして、、、あの時、僕がアスカより、レイを選んだ時、、

レイはとても綺麗な笑みを浮かべてくれたじゃないか、、、」

「、、、、、、、、そんな事、、、、、、、」

 

 

 

 

 

だが、レイの記憶から、シンジと一緒に見た不思議な雨空、

狂った様な雲から降り続く中、、

2人でキスをした事、、

レイは忘れてはいなかった、、、

退廃的なキスだった、、、

でも、、過去を持たないレイにとっては、

人間になれる希望のキスだった、、、

 

 

 

 

「、、、、、、、、忘れた、、あんたのキスなんて、、」

レイは口から血を吐き出し、、

暗闇に立つシンジをにらみつけた、、、

「僕は覚えてる、、、レイが、アスカを選べって、、アスカを哀しませるなって、、、

泣きながら、、どしゃ降りの中、、それでも僕を選んでくれた事、、、

2人でずぶ濡れになりながら、、、泣きながらキスしたこと、、、

忘れて無いよ、、、、」

シンジも知らない間に涙を産み落とす、、

だが、滴り落ちる液体が、涙か血なのか、、、シンジにもよく解らなかった、、

「今でも、、、あの時の気持ちは変わって無いよ、、、、」

「、、、、、、、、、どうして、、」

レイの小さな呟きにシンジは表情を少し変える、

「え、、、」

「どうして、、、こんな世界を望んだのよ、、、、、、」

「こんな世界を、、、望んだ、、、僕が、、?」

「何今更言ってるのよ、、、、、、、碇君が、、、全ての始まりだったのよ、、、」

「僕が、、始まり、、、?」

「ぐぁ!!!」

レイは口から大量の血を吐き出し、

体を大きく痙攣させる、

「レイ!!」

「ぐぁ、、はぁ、、はぁ、、はぁ、、、、」

「レイ、僕が全ての始まりって!どういう事なんだよ!レイ!」

シンジがレイの体を抱きかかえる、

「はぁ、はぁ、、、、忘れたとは、云わせないわよ、、、

碇君が、、、、ユイさんや、、、キョウコさんを、、、私の目の前で惨殺した事、、

ナイフで引き裂いた腹から、、臓器を引きずり出し、、

そして、、私を、、、強姦して、、、泣き叫ぶ私を殴りつけながら、、

最後に焼き殺そうとした事、、、

絶対に、、、、許さ、、、、、ない、、、、、か、、ら、、、、、」

 

 

シンジの腕の中、レイは、、、、、行き絶えた、、

 

 

「レイ、、、、、」

 

 

シンジはレイの最後の言葉を受け止められなかった、、

だが、、同時に体中から信じられない程の衝撃が生まれる、

そして、、、、、、自我崩壊する音が頭に響き渡った、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

 

 

 

誰にも届かない、

そんな悲鳴に似た叫びが、、、

星を殺した闇の空に吸収されていった、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンジ君の遺伝子をコピーする事、

彼の細胞を直接他人に移植させる事は不可能だった、

でも、彼の遺伝子を一旦他人に移植してから、その遺伝子を増幅させる事は可能だった、

つまり、シンジ君の精巣から生まれた無数の精子は、

一旦ある遺伝子を持った人種の体内な入ると、自然と培養できる事がわかったの、」

「その石版に、、、そう書いてあったの?」

「そう、、、、そのとおりよ。

ふふ、、、でもね、アスカ、、、ここからが信じられない世界なのよ、」

「、、、、、、、、、、、、、、、」

「その石版曰くね、、

シンジ君の遺伝子、すなわち“E”要素遺伝子を増幅できる人種は、、

もっとも犯罪性の高い遺伝子構造を持ち、

もっとも純粋性の高い遺伝子要素を持つ、

遺伝子自体がバランスを取れずに狂気に埋もれた少女、、、

そんな少女だけが、、、、、“E”要素をシンジ君から受け入れられる、、

そう書いてあったのよ、、、、」

アスカは次に来る言葉を予想する、

だが、その予想が当る事は望んではいなかった、

「なに、、、それ、、、」

 

だが、アスカの予想通りの言葉をリツコは継げる、、

 

「つまり、、綾波 レイは、、、その為に選ばれた仕組まれたチルドレンなのよ、」

「仕組まれた、、、チルドレン、、、」

下を向いて前髪で瞳を隠していたアスカが、多少表情を上げる、

「そう、もともと残酷性の強い民族に生まれた少女、

その残酷性をコントロールできずに、優しさをも兼ね備えた少女、、

暗殺者の一族に生まれた普通の生活を望んだ少女、、

それが、、綾波 レイなのよ、、、」

アスカの目が大きく見開いていく、

口元の右側が極端に上がって行く、

狂人、、、、

そんな笑みを浮かべながら、、

アスカはリツコに向けた銃に力を入れる、

「シンジの遺伝子を、、、受け継ぐ為に、、、、増幅させる為に、、、」

その狂笑に合わせる様に、リツコも狂笑を浮かべる、

「そうよ、、私達が用意して、シンジ君を貴方から奪う様に仕組んだ少女よ、、」

「シンジを、、、、、私から奪う様に、、、、、仕組んだ、、、」

「そう、、仕組んだのよ。遺伝子レベルでね、、

本来はアスカ、、貴方を選ぶはずだった、、いえ、選ぶのが自然な未来だった、、

でも、それではレイに“E”要素を組み込ませ、増幅させる事ができないから、、

シンジ君には遺伝子操作によって、レイを愛する様に、レイを選ぶ様に、、

私達が遺伝子操作したの、、人工的にね、、、」

 

アスカは泣きそうな狂った瞳でリツコを睨みつける、

自分の過去、自分が7年間思い悩んで来た事が、

全て他人によって仕組まれてた、、

そう思うだけで、、、尋常な感覚ではいられなかった、、、

 

「、、、、、、、、、、、、」

 

無言で般若の様な瞳でリツコに銃口を向けるアスカは、、

無意識の内に大量の涙を溢れさせていた、、

 

「全てが、、、、全てが、、、シンジの愛も、、

私の愛も、、、、青春も、、、一度っきりの大切な時期を、、、

あんた達の計画で、、、、、勝手に、、、、、、」

怒りで言葉にならないアスカは、

必死に瞳で言葉を伝える、、

その蒼い瞳で、、鬼形を浮かべながら、、、

「貴方達にはすまない事をしたと思ってるけど、、

その時は、そうする以外人類を救う道が見えなかったのよ、、」

リツコはまさに瞋恚の炎を上げ、憎しみを露わにするアスカに、

冷酷な印象の言葉を浴びせる、

「絶対に、、、あんた達、、、許さない、、

絶対に、、、殺してやる、、、、殺してやる、、、、

絶対に、、殺して、、、、、」

アスカは余りの感情の困惑に思考が付いて行けないでいる、

言葉を生む事もままならない、、、

「でもね、、、私達はレイとシンジ君が性行為を行えば、、、いずれ自然に、

レイから“E“要素を持った細胞、器官が摂取できる、、そう思ってたのに、、」

リツコもその涙に何かしらの愛を感じながら、、、

自分の死を感じていた、、、

「絶対、、、、殺してやる、、、、、」

アスカは呪文の様に言葉を繰り返す、、

すでに、通常の感覚ではなくなっているのだろう、、

そんなアスカを嬉しそうにリツコは眺めながら話す、

「そうね、、、別に構わないわよ、、、

でも、もう一つだけ、真実を聞いてからにしてね、」

「なによ、、、、これ以上、、真実なんて興味ないわよ!!」

「シンジ君は、、遺伝子レベルでレイを意識し、愛するように操作されても、、

純粋にレイを愛する事はできなかった、、、、

貴方への気持ち、思い、、、それが恋愛感情かどうかはわからないけど、、

シンジ君はレイを完全に受け入れなかった、、、、

その為、、、、、シンジ君は、、、、一時的にだけど、、

暴走したの、、、」

 

「暴走?」

 

「そう、、、あの時、、、シンジ君の家で、、、、

キョウコさんと、、ユイさんを殺したのは、、、、

レイじゃないわ、、、、、、

犯人は、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、シンジ君よ、、」

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカの涙は、、この瞬間に枯れ果てた、、

 

そして、残った最後の力で、リツコに向けた銃の引鉄を引いた、、、、、

 

第十七話へ続く

 



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