「つま先で歩く猫に2」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐえぇぇ、、、、」

シンジは嘔吐感を抑え切れず、吐き続ける、、

「はぁ、、ぐぁぁぁぁ、、くっ、、くあぁ、、、」

繰り返し吐く胃液、、そして、流れ続ける涙、、

「はは、、、あはぁ、、ぐああぁぁ、、くうぁ、、、」

体中が熱い、、、その熱さで全身が火傷した様な感覚に陥る、、

だが、、流れる涙、吐き出す胃液、、流石に失禁はしていないが、、

シンジは明らかに違う自分、、いや、本来の自分を意識していた、、

(これが、、本当の僕なんだ、、、、、

そうだ、、、思い出してきた、、、、、

そうだ、、、そうだったんだ、、、、、、

やっと思い出してきた、、、、、、、、、

あの時、あの場所で、、、僕は殺して、犯した、、

母さんとキョウコさんと、、、、、レイを、、)

血だらけの顔面を汚れた手の平で覆いながらシンジは思い出していた、、

あの日の事を、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、、くっ、、、くあぁ、、、、くう、、、あがぁぁ、、、、ひくっ、、ひっ、、、」

泣いてるのか、怒っているのか、アスカ自身にも解らなかった、

だが、必死の思いでトリガーを引き銃口から発射された弾丸は、

リツコの体を確実に捉えていた、

「ぐぁ、、、、」

苦痛の声を上げ、リツコは崩れ落ちる、

幸い脚や腕、肩に被弾しただけで済んだが、数発体に被弾しては立っていられなかった、

「リツコさん!」

トウジとケンスケが駆け寄る、

アスカは銃口を向けたまま、固まっている、

流れ落ちる涙を拭う事無く、、、

ただ、肩で大きく息を繰り返し、、、

嗚咽の声を漏らしていた、、、

 

 

「アスカ、、、、教えてあげる、、、」

「はぁぁぁ、、、、くうっ、、ひっっく、、、」

「全ての事実を、、、貴方達が14歳だった時に起きたあの事件の真相を、、

そして、、なぜ、、、今が存在してるのかもね、、、」

 

トウジとケンスケに支えられながら上半身を起こしたリツコが語り出した、、

あの時の出来事を、、、、

あの、封印されていた世界を、、、

 

 

 

 

 

 

 

                                                          

                   

 

7年前、、、、

生物進化研究所にて、

ある会議室で2人の女性がコーヒーを飲みながらブレイクしていた、

「ユイさん、シンジ君の方は順調なんですか?」

リツコが白衣姿のままコーヒーを飲んでいる、

「それがね、、、、順調じゃないのよ、」

質問されたユイも同じく白衣姿のままテーブルに越し掛けている、

「やっぱり、、、シンジ君はアスカの方を選ぶ、、」

「ううん、、それは無いんだけれど、、、」

「何か?」

「シンジが遺伝子操作でレイちゃんを選択する事は間違いないと思うけど、、

レイちゃんの方がね、、、」

「シンジ君を受け入れない?」

「ううん、、レイちゃんもシンジの事を気に入ってるわ。もちろん、レイちゃんの遺伝子も操作してあるから、、それにあの殺人部族の一人として生きるより、シンジと共に生きて行く方がレイちゃんにとっても良い結果がでると思うの、、、でも、、、、」

「仕組まれた幸せだと?」

「そうなのよね、、、レイちゃんの遺伝子配列を私と同じにして以来、容姿的には私に似てきたわ。でも、、、性格はとてもアンバランスなの。暗殺者として育てられた今までの人格と新たに挿入した遺伝子の人格が責めぎあっている、、、、とっても危険な状態よ、」

「でも、その二面性を持った人間でなければ、シンジ君の遺伝子は受け入れられない、、」

「そうね、、、でもシンジに無理やりレイちゃんを選ばせることが、、、」

ユイはそのまま黙ってコーヒーを飲み干す、

「キョウコさんは?」

「相変わらずの状態よ、キョウコとは今回の計画を実行して以来、会話してないわ、、」

「やっぱりシンジ君にレイを選ばせるのは、、」

「まぁ、アスカちゃんが哀しむのは避けられない過程だし、ましてやシンジもアスカちゃんの事が好き、アスカちゃんもね、、、、、、母親としては激怒して当然よね、」

「ユイさんは、、、激怒しないのですか?」

リツコは意地悪そうに聞く、

「私?そうね、、、、、どうしてこんな計画に賛同したのかしら、、、自分でも解らないわ、

でもね、、、、リッちゃん、、何か感じるのよ、、この計画が、人類が、地球が、宇宙が、、

一本の線に繋がっていて、その線上にシンジが居る様な気がするのよね、、」

「未来を生むと、」

「シンジの体にある“E”要素は人類の未来を決める要素よ、、

その要素がレイを媒体として他の人間に適応できなければ、、、未来は無いのよ、」

「そうですね、、、、」

リツコも一気にコーヒーを飲み干す、

「リッちゃん、、」

仕事に戻ろうとしたリツコにユイが話かける、

「何ですか?」

「私達、、、遺伝子操作で他人の気持ちまで変えて、、自分の子供の未来まで変えて、

偽の仕組んだ幸せを創造してまでも、、私達人類は生き残る必要があるのかしら、、」

「、、、、、、、、、、、、」

「アスカちゃんとシンジが自然と幸せになっても、、未来は存在しない。

でも、同時に私達がシンジとレイちゃんから“E”要素細胞を摂取できても、

人類には未来はないんじゃないかなぁ、、、」

「、、、、、、、ユイさん、、」

「人を愛したり、嫌いになったり、そんな感情も遺伝子操作で自由にできる、

でも、、、、、そんな事をしてまで手に入れた未来に、どれほどの意味があるのかしら、、」

ユイは悲しそうに何も瞳に映さずに話す、

「ユイさん、、、、感情なんて、最初から贋物ですよ、、、、愛情も、、、」

「そうね、、、そうかもね、、、」

悲しそうな瞳で二人は会話する、

だが、その哀しみすら嘘なのかもしれない、、、、、

 

 

 

 

 

「碇教授、どうしてですか、」

桜木は執務室で大きな机を前にして座るゲンドウに迫る、

「我々の目的はあくまでも免疫を持たない臓器の培養だ、

決して人類に新たな道を示す事ではない、」

熱血に迫る桜木に対し、ゲンドウは冷静に受け流す、

「でも、現実問題として実験体、いや、シンジ君の体内に宿る“E”要素、エヴァンゲリオンは新たな生命体に進化する為に、神が与えた要素なんですよ、

教授も常々、人類の未来を懸念されてたじゃないですか、

それなのに、どうして、、、、、」

「仮に、シンジとレイの結合により、レイの体内から人間に適応可能な“E”要素細胞が摘出できたとしても、人類が進化する事にはならない。」

「だが、あの石版には“瞋恚の炎”にはその未来が描かれている、

その細胞を持つ人間は、三毒五悪、全てを捨てられると、

つまりほぼ聖人になれる、、欲望も嫉妬も妬みも、、、性欲、物欲から解放され、

真の生物として生きられると、、、、そう書いてあるじゃないですか、

まさに、それこそ、、、、、、」

「君が望む未来なのかね、それが、、、」

「そうです。」

「その為には、あの資本主義の豚どもと手を組んでも構わないと?」

ゲンドウの言葉に桜木も一瞬言葉を止める、

だが、ゆっくりと、確実に自己の意思である事を確認しながら、

桜木は応えた、

「えぇ、、人類が進化するまで、資本主義の世界で目的を達成させるには、彼らの金銭的力は必要です。でも、目的さえ遂行されれば、彼ら自身も進化するわけですから、、、」

「桜木君、、、、」

「はい、、」

「私はあの石版に描かれた事が人類の未来を示しているとは思えない、」

「なぜです?」

「あの石版はエヴァンゲリオン石の使用方法を確かに示している、

だが、肝心のエヴァンゲリオン石は発見されてはいない、

始めて二つ揃った瞬間にこそ真実が見えるはずだ、、」

「今は石版を信用できないと、、、、」

「そうだ、、、それに、、確かにシンジとレイは順調に惹かれあってる、、、

アスカ君より、レイを選ぶ事は間違いないだろう、、

そうなったとしても、シンジとレイが性的結合を果たすには数年かかる、、」

「まだ、行動を起すべきではないと、、、」

「そうだ、、、」

「解りました。でも、僕は人類の未来は人類の進化の延長にあると信じてます、」

「あぁ、、、私もそう願ってるよ。」

桜木はゲンドウの机に背を向け、去って行った、、

 

 

 

 

 

そして、、事件が起きる数日前、

碇邸での朝、、

「シンジ、、早く起きなさい、、、アスカちゃん迎えに来ちゃうわよ、、」

シンジを優しく起す母、ユイの姿があった、

「、、、、、、、、、、、、、」

「シンジ、何時まで寝てるの、」

「、、、、、、アスカは、、来ないよ、、」

「あら、体調でも崩しちゃったの?」

「ううん、、、、、、、、、」

シンジは布団を被ったまま何も答え様とはしない、

「どうしたの、シンジ、」

「、、、、、、、昨日、アスカに伝えたんだ、、

アスカより好きな娘がいるって、、、」

朝にも拘らず、外は激しい雨が降っている、

もっとも、素敵な朝日なんて既に死んでいたのだが、、

「そう、、、、」

ユイは小さく、悲しそうに答えた、

たとえシンジの台詞が予め予期していた言葉であっても、

ユイには何故か悲しかった、

「、、、、、だから、、アスカは迎えに来ないよ、、」

「、、、、、そう、」

シンジのベットに腰を下ろして、ユイは布団を被ったままのシンジを見下ろす、

暫しの沈黙が流れる間、聞こえるのは雨音とシンジの嗚咽の声だけだった、

「、、、アスカ、、、泣いてた、、」

「、、、、、、、、、、、、、うん、」

「あんなに悲しそうに、涙を堪えて、、、必死に涙を堪えてるアスカは、

、、、、、、初めて見た、、、、僕は、、僕は、、、、、、」

「シンジ、、」

ユイは布団をめくり、シンジの首だけを露わにする、

そして、涙を流す息子の頬を優しく両手で包み込む、

「母さん、、僕は、、、僕は、、もう二度と、、、、、、」

「シンジ、、大丈夫よ、アスカちゃんもきっと解ってくれるわよ、、」

「でも、、、アスカを傷つけたんだ、、、酷い事をしてしまったんだ、、、」

「誰もが経験する事よ。そうやって大人に成って行くのよ、、皆、」

「でも、、、でも、、、、僕は、、」

「シンジ、今日はゆっくり休みなさい、、、学校には連絡しておくから、」

「、、、、、うん、、」

ユイは息子を慰めながらも、心に激しい鈍い痛みを感じていた、

自分達の計画の為、確かに人類を救う為に、息子の心まで傷つけている、

そんな気持ちが、シンジが涙を流せば流すほどユイを苦しめていた、、、

 

 

 

 

 

そして、、その日の夕刻、

 

「ユイ、あなたそれでも母親なの!」

碇家のリビングではアスカの母、キョウコが大声を上げていた、

「、、、、、、、、、、、、、、アスカちゃんは?」

ユイはその怒りに対しても、悲しそうに答えるだけだった、

「昨夜、遅くに帰って来てからずっと部屋に閉じ篭りっぱなしよ、

一晩中泣き続けてたみたいで、、やっと部屋から出てきたら今度は熱で倒れて、

もう、やっとさっき落着いて眠ったところよ、」

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、そう、、」

「“そう”って、、ユイ、あなた本当にこのままで良いと思ってるの!」

「、、、、、、、、、、、、、、、解らないわ、、」

「解らないのに、シンジ君の遺伝子を勝手にいじって、アスカよりもあのレイって女の子を選ばせる様に環境も志向も変えたんでしょ!人為的に感情まで操作したんでしょ!

自分の息子にも拘らずに!」

「仕方ない事でしょ、、シンジがあのレイって子を選ばなければ、、、、、」

ユイはキョウコの詰問に苦しそうに答える、

「そうよ、確かにレイって子がシンジ君の“E”要素をコピー培養し、

通常の人体に適応できる進化した細胞を生まなければ、人類に未来はないわ。

でもね、シンジ君やアスカの未来を破壊してまで手に入れた細胞なんかが、

未来を生み出すなんて私には思えないのよ、

絶対にあの石版に記された世界は人類の進むべき未来じゃないはずよ、」

キョウコはユイを睨みつけながら話す、

一方のユイはその視線を受け流す様に黙って佇んでいるだけだった、

「、、、、、でもね、キョウコ、」

「ユイ、実はね、私あの石版の解釈がもう一つ存在すると思うのよ、」

「え、、、」

思わずユイの視線が動く、

「もう一つ、解読基準となる言語を原始ヒエラルキーじゃなく、

原始音響文字で解読するとまったく別の解釈が存在するのよ、」

「まさか、、、キョウコ、」

「そう、ひょっとしたら、私達はとんでもない間違いを犯してる可能性があるのよ、」

「そんな、、原始音響文字は古代インドの一部でしか使用されてないはずじゃ、、」

「そうよ、あの石版は古代エジプトの物だし、エヴァンゲリオン石もエジプトの何処かに存在すると言われている。でもね、瞋恚の炎とか三毒五悪とかは仏教的な考え方なのよ。

そういった内容から判断すると、原始ヒエラルキーよりも、原始音響文字で解読した方が、真実に近い解釈だと思うの。」

キョウコは何か大きな不安を心に含んだまま話す。

「まさか、、、」

そのキョウコの表情からユイも真剣な表情へと変化している、

「その解釈でいくと、、、

エヴァ遺伝子を受け継ぐ女性は、、最も悲しく、最も悲惨な運命を歩む、

エヴァに選ばれし女性、、、そして、エヴァに殺される女性、、そう解釈できるのよ、、

つまり、精神的に善悪のバランスが崩れてる少女である必要性はないのよ、」

「レイである必要性が無いって事?」

ユイはキョウコの言葉に驚きよりも、寧ろ違う感覚を強く感じている、

そう、キョウコの言葉こそ、真実でる様な、、、、そんな気がしている、

「そうよ、レイがエヴァ細胞を生む為の唯一の母体じゃないって事よ。」

「まさか、、、、そんな、、、」

「更にね、ユイ、、落着いて聞いてね、

善悪の精神的バランスが壊れている必要性があるのは、、、、、、、、、、

遺伝子を受け継ぐ者だと、つまりシンジ君なのよ、、」

瞳が大きく揺れる、

ユイは信じられない言葉に何故か異常な程のカタルシスを感じていた、

(あぁ、、そうだ、、そうだったんだ、、、、

だから、私はシンジやレイちゃんの遺伝子を操作してまでも、

人類の未来を手に入れる事に違和感を感じていたんだ、、、、、)

「私達は善と悪のバランスが崩れてる少女を必死に探した。

そしてその結果、綾波 レイの前身となる少女と出会った。

彼女は暗殺者の一族に生まれ、自分の母親を12歳の時に殺害した。

そして、それが元で精神崩壊したところを私達が保護し、遺伝子操作としてユイの遺伝子配列を移植した。そして、シンジ君へ愛情を持ちやすい様にした、

でも、結局は誰もが違和感を感じていた、、、、、

人間が手を加えた未来が、人類の真の未来であるわけがないとね、、」

キョウコの瞳はユイへの非難の色を含んではいない、

だが、ユイ達へ計画の中止を訴える色は非常に濃かった、、

「本来はエヴァ遺伝子を保持する者が自然と道を歩み、

その先に生まれる未来を受け入れる事が真の未来だと?」

「そう、人工的に結果シンジ君とレイが愛し合っても、、未来は生まれない、」

「シンジが自然と選ぶ道、、、、、、、それが、地球の未来なのね、、」

「そうよ、ユイ。今からでも間に合うはずよ、

計画を中止して、レイちゃんも自由にしてあげて。

そして、、、、アスカとシンジ君を、、、」

 

 

 

 

「それは出来ない相談だね、」

振返った2人が見た人物は、、

「、、、、シンジ、、、」

「シンジ君、」

ジャックナイフを片手に死人の様な瞳で2人を睨む、シンジの姿だった、

その瞳は、、、優しさも悲しさも持たない、ガソリンの匂いがする瞳だった、、

 

第十八話へ続く

 



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