「スリー」
「トゥー」
「ワン」
「ゴー!」
鮮やかな流線型を描いた機体は大地を飛び立った。
衛星軌道往還シャトル「ハーキュリーV」は様々の補給品と乗客二名をのせて上昇を続けた。
乗客の顔が高いGのために苦痛にゆがむ。
この程度のGはかつて何度も経験している。
宇宙(そら)に飛び立つのもこれが二回目である。
しかし苦痛は苦痛であった。
乗員も当然同じ苦痛を受けているはずなのに、一向につらそうには見えない。
マニュアル通り黙々と作業をこなしている。
左後方座席に座る女性は、それが気に入らなかった。
が、隣の男性の顔が同じように苦痛にゆがんでるのを見て少し満足感を覚えた。
右後方座席の男性は、隣の女性が平静を装いつつも苦しさを隠しきれない様子を見て心配していた。
もっとも心配して声など掛けようものならかえって彼女を怒らせるのは目に見えている。
いずれにせよ、彼らは軌道上にあるステーションまであとしばらくのあいだGに耐え続けなければならない。
そしてその後は一転して無重力の世界が訪れる。
それも数年間。
彼らは星界の住人となるのだ。
前回の宇宙体験はたった3日間だけであった。
適性試験をかねた単なる練習のための打ち上げだった。
今回は違う。本番である。
これから二週間の間、低重力環境への馴化のためステーションに在住し、
その後、先月進宙式が行われたばかりの「アマテラスU」に乗り込む予定である。
すでにアマテラスUは儀装を終え、今は別のスタッフの手によって最終試験が行われている。
母艦となる「昆崙」は既にいつでも出発できる体勢にある。
同乗のパイロットたちは二ヶ月も前から軌道上で待機していた。
先行したアマテラスTは実に1年も前に地球を発進している。
彼ら二人の到着が計画遂行のための最後のファクターであった。
旅立ちの日をぎりぎりまで遅らせたのはひとえに彼らの希望によるものである。
できる限り地上にいたい、家族と共に過ごしたい、という我儘は聞き入れられた。
代償として計画の予定が大幅に切り詰められ、スケジュールは過密になったが。
用意された二週間の馴化期間は必要最低限のものであった。
ランデブーまでの間、加速が2%もあげられることになった。
幼い娘との最後の数週間は、だがそれに値するだけの価値があった。
次に会えるのはおそらくは二年後。
成長著しい幼年期の少女にとって重要な期間を両親と離別していなければならないのだ。
その前に、惜しみない愛情を注いでおきたいのが親の情というものである。
幸い、彼らと同居している少女の祖父母が面倒を見てくれることになっている。
少女の生活環境、教育環境に関してはまったく問題がないと言えた。
また、幼いながらも少女は状況を理解しているように思えた。
それが、救いだった。
「行ってしまいましたね。」
「ああ。」
「帰ってくるのは二年後ですね。」
「そうだな。」
「しばらく、さびしくなりますね。」
「ああ。」
『いや〜。ついに始めちゃいました、「Letters」の続編。
果たしてこの作者にハードSFが書けるんでしょうか?
予定通り、全キャラの補完が達成できるんでしょうか?』
「全キャラの補完?そんな必要ないわ。
私とシンジさえ補完されればそれでいいのよ。
だいたい、何よ、コレ。
私のセリフが一個も無いじゃないの。」
『いや、その、今回はプロローグですから。』
「プロローグも何も、主役はなんと言ってもこのアタシなのよ。
読者の皆様も、このアタシの華麗な大活躍を望んでるに決まってるわ。
この話は、アタシを主人公にした美少女宇宙活劇にするのよ。」
『あのう、アスカ様はもう結婚されているわけで、美少女と言うにはお年が...。』
「ぬゎんですって!アタシが美しくないというの!」
『いえ、そういうわけでは...。
それに、話はハードSF路線で行こうと決めているので...。』
「アンタ、アタシに逆らうつもり?
アタシが一言『イヤ』って言えば、こんな話、どうとでもなるのよ。
アタシとシンジのラブラブ小説じゃなきゃ出てやらないから。」
『そ、そんな無理なこと言われても...。』
「大丈夫ですよ。なんとかなりますって。」
(アスカには好きなように言わせておけば...。後は僕にまかせて。)
『そ、そう?君にそう言ってもらえると助かるよ。』
「ほら、そこ。無駄口たたいてないで、とっとと続きを書きなさい。
言っておくけど、次は絶対アタシを活躍させるのよ。
いいわね。」
『ハ、ハイ。かしこまりましたです、アスカ様。』