Star Children 第一部

「そして、宇宙(おおぞら)に / Fly me to the stars」









「いっただきまーす。」

いつもの朝の食卓の風景。
(BGMはTV第七話「ヒトの造りしモノ」の冒頭の曲)

「さー、まずはオムレツや。
 くー。うまい。いつもながらウマいわー。」

続いてズズーっと音を立ててみそ汁を飲む。
食卓の隣では皿に置かれた焼きサンマを一口に飲み込むペンペンがいる。
こちらも至福の表情をしている。
と、その時。



「キャー」



絹を切り裂くような乙女の悲鳴。

「なんや、どうしたんや、ヒカリ。」

あわててトウジはキッチンのヒカリの元に駆けつける。
ヒカリはしゃがみこんで、震えながら壁の一点を指差した。
「トウジ、あ、あ、あれ。ア、アレが出た。」
「なんや、アレって。」

取りあえずヒカリの身体に別状はないと知ってトウジは安心した。
なんと言っても、今はヒカリ一人の身体ではない。
そしてゆっくり後ろを振り向き、ヒカリの指差しているものを探す。
ヒカリの声がかぶさる。

「ご、ご、ご」

だがヒカリの声はそれ以上、言うことができない。

「なんや、あれ。黒い染みか?
 わ、う、動きおった。あ、あ、アブラムシかー。」

トウジの声も心なしか震えていた。
実は、トウジもこの手の生き物は苦手であった。

「こ、コノヤロー。」

とっさにスリッパをぬいで壁に投げつける。
残念ながら、3cm、的をはずした。
そして、あろうことか、そいつは飛んだ。
トウジの顔を目指して。

「う、うわー。」
「イ、イヤー。」


パン!パン!パン!




















第五話


せんりつ
戦慄




















「ほな、行ってきまーす。」
「あなた、頑張ってね。」

トウジが玄関から出ていこうとしていた。
なぜか顔には至る所にバンソウコーが張られていた。

「おー、イテテ。」

ヒカリが見えなくなったところでトウジは頬をさすりながらつぶやいた。
当然、これらの傷は全てヒカリにやられたものだ。

「まったく、見境いなしにたたくんやもんなー。」





再び朝のシーンの続き。

「イ、イヤー」

バン、バン、バン。
手に持った大根がトウジの顔に振り下ろされる。
よける間もなかった。
二発、三発....。
とうの黒光した昆虫はとっくにあらぬ方向に再び飛んでいったというのに。

「わ、わ、止めい、ヒカリ。」

正気を失ったヒカリはなおも叩きつづけようとする。
しかたなく、トウジはヒカリの両手を押さえつけた。
体勢に無理があったのか、そのままヒカリを押さえつける形で床の上に倒れ込む。

「ム、ム、ム。」

勢いで(?)、そのままヒカリの唇をトウジは塞いだ。

「あ。トウジ...。」

ようやく正気にかえるヒカリ。
ヒカリを上から見つめるトウジ。
ちょっと照れ臭い。
頬を赤く染め、ヒカリは視線をそらした。
つまり、顔を横にそむけたわけだ。
身体はトウジの下になって、床の上にあお向けに寝ている。
従って、目線は当然床の上にあった。
そして今、それは床の上を這っていた。

「イ、」

ヒカリが再び叫ぼうとした瞬間、ダイニングから黒い物体が現れた。
そして、あの物体に劣らぬ敏捷さで襲いかかった。
(ここからBGM変更。第19話「男の戦い」の最後。使徒に襲いかかる初号機のシーンのBGMに。)


「クエー。」

一鳴き。
ジャンプ。
アタック。
そして、ごっくん。

「ひえー。ア、ア、アレを、食ってる。」
「アレを自ら消化すると言うんか?」
「お、おえー。き、きもぢわるいー。」
「お、つわりか?」
「バカ!」



「クエー。」

台所では半ば青ざめて彼を見守る二人を尻目に、
食後のデザートに満足した彼の鳴き声がいつまでも響いていた。









「はぁー。平和だねー。」

思わずつぶやいてしまった。
僕は遊園地にいた。当然、一人ではない。
いわゆる、世間一般に言う『デート』と言うやつである。

「何?」
「何でもない。ただ、皆のんびりとして、平和だなーと思っただけだよ。」

観覧車のてっぺんから見えるのはヒト、ヒト、ヒト。
風船を手にした親子連れ。楽しそうに笑っている学生のグループ。ベンチで食事をしている恋人達。
裏で何が起こっているか、などと言うことを知らないんだから。
いや、気付かせない奴等がそれだけ巧妙だ、ということかな。

「なんか、ケンちゃんの言い方、平和な事が悪いみたい。」
「そんなことないよ。平和だからこそ、こうしてデートもできるんだしね。」

思わずつぶやいてしまった一言をあわてて取り繕った。
もう、それほど時間がないのはわかっている。
それがいつか、ということはわからなかったが。
そしてそれが始まれば、こんな風に楽しむ余裕はなくなるかもしれない。

「ウソ。ケンちゃん、何か隠してる。それもとっても重要な事。」
「そ、そんなこと、ないよ。全然。」
「また、ウソ。私、わかるんだから。
 この間の.....」

その時、突然、背中に激痛が走った。
前のめりになって、ミホに向かって倒れ込む。

「ちょっと、ケンちゃん。
 やめてよ、こんなところで。ヒトが見てる...」

違う。そんなんじゃない。
くそ、力が入らない。
どうしたんだ、いったい。
そうか、撃たれたのか。後ろから。

「ちょっと、どうしたの....あっ。」

心臓の脈動が、激痛となって神経を突き刺す。
息ができない。
ふっと、痛みが消える。
逆に、心地よい、フワフワした感覚がする。
なんだろう、この感じ。
オレ、死ぬのかな。

「イヤーーーーー。」

ミホの絶叫が頭の中にコダマする。
だけど、その声が次第に小さくなっていく。

「死なないで、ケンちゃん、ケンちゃん、ケンちゃーん。」







手応えはあった。
『G』と呼ばれた男は、確かにそう感じた。
スコープ越しに、標的が前にのめり込むように倒れるのも見た。
遊園地から1km以上離れたあるビルの屋上。
そこに男はいた。
まだ、数分は余裕があるはずだが早いに越したことはない。
男はプロフェッショナルだった。
手早くライフルを折り畳む。
M16アサルトライフル・カスタム。
分解する手つきも手慣れたものだ。
アタッシュケースにしまうと、階段に向かう。
ビルを降りると、用意しておいた車に乗り、去っていった。
任務の成功を確信していた男は、あえて標的の生死を確認する必要は認めなかった。
次のターゲットが彼を待っている。







「ケンちゃん、ケンちゃん....」

気付いた時、まだ観覧車は動いていた。

「う、うーん。イタ、イタタタタ。」

気を失っていたのはほんの1、2分だろう。
相変わらず激痛は続いていた。 でも息もできない、という程ではない。
それよりも、今は...。

「ごめん、ミホ。頼むから揺さぶるの止めてくれ。」
「え、ケンちゃん。良かった。生きてたのね。」

ミホが泣いているのがわかった。
横を向いた左のほおの上に涙がポタッと落ちてきたからだ。

「大丈夫さ。生きてるよ。
 あばらの2、3本はやられたみたいだけどね。」

あとで知ったことだが、もう少し損害は大きかった。
なんとか起き上がろうとして、やめた。

「ちょっと、このままでいさせてくれ。」
「どうしたの?起き上がれないの?大丈夫?」
「いや、たださ、ミホの太ももの上が、あまりにも気持ちよくってさ。」
「バカ。」

別に起き上がれなかった訳じゃない。
動こうとすると、確かに痛みは走るが堪えられない事はない。
ミホの太ももの上が気持ちよかったのも事実だ。
ミニスカートの薄い生地を通して、ミホの体温が右のほおに伝わってくる。
だが、これも理由ではない。
敵、狙撃手に生きている事を悟られないためである。
少なくとも、逃げ場のないゴンドラに閉じ込められている間は。

そのまま何分の間、そうしていた事だろう。
ようやく、僕達の乗るゴンドラが地上の駅にたどり着いた。
駅は外からはガードされている。
痛みをこらえて起き上がり、ゴンドラを降りた。
降りる直前に振り向いて僕が座っていた席を見た。
直径10cmくらいの穴がそこには開いていた。

「ちょっと、どこ行くの?トイレ?
 じゃ、待ってるから、手を放してよ。」

外に出る前に、ミホの手を引いて建物の中にあるトイレに行った。
身障者用の広い個室に若い男女が入るのを見ていたヒトはなんて思っただろう。
そんなこと、気にしてもしょうがない。
今はそれよりするべきことがある。
僕はおもむろに、履いていたズボンを脱いだ。

「ちょっと、何するのよ、いきなり。」
「ミホ、君も脱ぐんだ。早く。急いで。」
「何?イヤよ、こんな所で。」

ミホはいささか勘違いしている様だが、しぶしぶ服を脱いでいった。
本当にこんな所で、こんな状態の僕がすると思ってるんだろうか?
背中に穴の開いたジャケットも脱ぐ。
そしてシャツと一緒に、防弾チョッキも脱いだ。
僕の命を救ってくれた、ネルフ特製の奴だ。
強力なライフル弾、おそらくは徹甲弾の衝撃は、さすがに全部吸収してはくれなかったが。
ミホは下着姿になっていた。
白いブラジャーに、ペンギンのワンポイント入りのピンクのパンティだ。
こんな状況でなければ、もっと良く眺めていたいところだ。
けど、そんな余裕はない。ミホのスカートを手に取って、履いた。
髪を伸ばしているから、女の子に見えなくもないだろう。
ミホに、彼女がブラウスの下に来ていたTシャツと僕のズボンを返す。
ここでようやく僕の意図をわかってくれた様だ。
手早く服を身につける。

「頼む、髪を。」

僕がそれだけ言うと、彼女はうなずいた。
一つに束ねているゴムを外し、三つ編みにしてくれる。
応急だが、変装としてはまずまずのものだろう。

その間に、ミホのバッグから携帯を取り出し、電話をかけた。

「もしもし、相田です。スナイパーがいます。気を付けてください。」

それだけ言って切った。
彼ならそれだけで状況を理解するはずだ。

駅舎を出る時、僕は周りを眺め回した。
周囲には観覧車を狙撃できるような建物はなかった。
適当な建物ははるか彼方。どう見ても1Kmは離れていた。
しかし、明らかにそこから狙ったに違いない。
相手は凄腕のスナイパーだった。
そして、動くので外しやすい頭ではなく心臓を狙ったこと、
超音速で飛ぶ徹甲弾を使用したのも超一流のプロの証しである。
普通の防弾チョッキなら貫通されていただろう。
げんにスチール製のゴンドラの壁をたやすく突き破っている。

彼らは本気でつぶしにかかっている。
もう、後戻りはできない。
平和の時代は、たった今、幕をおろしたのだ。
ミホを巻き込んでしまった事だけが、悔やまれた。









「あなた、なんでしたの、今の電話?
 そんなに深刻そうな顔をなさって。」

電話を受けたのはゲンドウだった。
この時間、店に電話を掛けたのだからマスターの彼が出るのは当然だった。
それはそうと、ユイにはゲンドウの表情の微妙な変化がわかるようだ。
他の第三者には、電話を受けて表情が変わった様には見えないだろう。

「うむ。どうやら相田君が狙撃されたらしい。」
「まあ。それで彼は無事ですの?」
「いや、確かめなかった。
 だが自分で連絡してきたのだから無事なのだろう。」

たまたま、この時間、店に客はいなかった。
盗聴器も定期的にチェックして除去している。

「そう。で、あなたはどうなさるの?」
「当面は現状維持だ。警戒は強化する。
 そう、冬月にも警告しておいた方がいいな。」
「それで、大丈夫かしら?」
「さあな。だが、今の我々に、これ以上打つ手はない。」

そうかしら?
現役復帰すると言う選択は無いの?
とはユイは尋ねなかった。
それは敵に対抗する最も効果的な手段であるが、
今の夫が選択する筈が無い事を承知していたからだ。

そう、今は平静を失わず、待ちつづけるしかない。
ゲンドウはそれを知っていた。伊達にネルフの司令をやっていた訳ではない。
スナイパーの恐ろしさは身に染みて知っている。
このゲームは攻める方が圧倒的に有利なのだ。
標的になった側は、恐怖に負け、心身のバランスを崩し、実際に撃たれる前に自滅することも少なくない。
根気よく待ちつづけるしかない。
そして、その瞬間を生き延びれば、攻守が交代する。
攻めていた者が、一転して狩りの対象物へと変貌するのだ。
待ちつづけるのだ。今はまだ。







翌日。
朝、ゲンドウはいつもの様に店の前を掃除していた。
ケンスケとは昨晩から連絡が取れなくなっていた。
再狙撃にやられた可能性も否定できないが、おそらくは潜伏に入ったのだろう。
直接攻撃に出てきたことから考えてもうその時まで時間が無いはずだろうから、
反撃を開始するまでは、身の安全を考えてどこかに隠れているのであろう。
花壇の花に水をやる。
その顔からは想像も付かないが、いつもの彼の日課である。

その時、それは遥か彼方から飛んできた。
直径12mmの死を運ぶ鉄の固まり。
発射音は弾丸の後ろからやってきた。
チタン製のジャケットをかぶり、劣化ウランが詰められたそれは、厚さ10cmの鉄の装甲をも貫く威力を秘めていた。

スコープの中で、男は標的を捉えていた。
使う銃は愛用のM16アサルトライフル・カスタム。
撃鉄は取り外して機械式から電子式の信管に改造しているが、
基本的には旧世紀の強力な軍用銃である。
男は旧式の人間であった。
新式のレーザーライフルを使う気にはならなかった。

標的の心臓が、スコープの十字線に重なった瞬間、男は引き金を静かに引いた。
「夜明けに霜が降りるように」との形容にまさにふさわしい、教本通りの射撃だった。
薬莢に入れられた火薬が点火され、その圧力で弾丸が押し出される。
銃身の施条にそって回転しながら、弾丸は加速される。
銃口から放たれた時、弾丸の速度は音速の二倍を越えていた。
弾丸は重力、風などの影響で直進はしない。
これだけ距離が離れているとその影響は無視できなかった。
コンピュータのような正確さで、男はそれを補正していた。
超一流のスナイパーだけに許された独特の勘で、命中を確信した。
1、2、3。
3秒で弾丸は標的に当たり、標的の男は崩れ落ちる。
その筈だった。

が、男の勘は見事に裏切られた。
瞬間、青い壁の様なものが出現し、すぐに消えた。
一瞬ではあったが正六角形の模様をスコープのなかで男は見た。
標的は倒れなかった。
信じられなかった。あり得ない、あり得ないはずだ。
二発目を発射するのも忘れて、男はしばし沈黙した。
すぐにプロの本能がめざめ、また標的をスコープに捉える。
標的はこっちを見ていた。
二発目を発射する。
再び青い壁の様なものが現れて、今度も標的は倒れなかった。
その時、標的が確かに笑った。ニヤリ、と。
男の背中を冷たい感覚が走った。
ユーリ・ボリソフに拾われて以来何人もの標的を倒してきたが、こんな感覚は初めてだった。
この男は倒せない。
そう直感した。
ここも、危ない。
早く引き上げたほうがいい。
男は冷静に、プロらしく退却を開始した。

まあいい。日本に来て3件の仕事のうちの2つは成功した。
そして、これから大仕事が待っている。



「あなた。」

ユイが出てきた。

「問題ない。大丈夫だ。」

ゲンドウは振り向いて、事もなげに応えた。
足元にはひしゃげた弾丸が二個、落ちていた。

「奴は取り逃がした。
 あの距離では追いかけても無理だろう。」

彼の目線の先には、遠く離れた送電線の鉄塔があった。

「あそこから.....」

ゲンドウの視線を追って、鉄塔にたどり着いたユイが絶句した。
無理もない。ここから2km以上離れている。

「ああ、そうだ、ユイ。」

恐ろしい程正確な腕を持ったスナイパーだった。
ゲンドウの知るかぎり、こんなにいい腕を持った者は二人しかいない。
そのうち一人は、既に死んだ。
もう一人は今、宇宙にいる。
こんな男が他にもまだいるとはな。しかも敵方に。
せっかく敷いた警戒の網の外側からの狙撃だった。

その時、店の中から電話の音が聞こえた。
いや、店ではなく、自宅の方からであった。
慌ててユイが駆け戻る。
ゲンドウはゆっくり歩いて屋内に入って行った。

「ハイ、ハイ、それで、先生は?
 ハイ、ハイ、そうですか。ハイ、ハイ...」

自宅へつながるドアを抜けると、深刻な表情をして電話に向かうユイの目が入った。

「ハイ、ハイ。わかりました。
 私たちは大丈夫。
 じゃ、マヤさん、あなたも気を付けてね。」

受話器を置いたユイの顔はうつむいていた。
そして数秒間下を向いたままでいて、それからようやく顔をあげた。

「アナタ。」

ゲンドウに話しかける声は震えていた。

「先生が、冬月先生が撃たれたそうです。
 今、病院で....かなり危険な状態だそうです。」

ゲンドウは何も答えなかった。
答える言葉も持ち合わせていなかった。







3日後。
出発に備えて、二人は荷物をまとめているところだった。
店は当分の間、閉店する。
子供たちはもう鈴原家に預けてある。
子供たちには手出しはすまい。彼らは安全な筈であった。

「あなた!
 テレビ、テレビ。」

ユイが血相をかえて今から飛び出してきた。
ゲンドウを呼んでいる。
荷作りを中断してゲンドウも居間に向かった。

「どうした、ユイ。そんなにあわてて。」

『繰り返し、臨時ニュースをお知らせします。
 今から1時間前、フランスを訪れていたローマ法王イグナチウス12世が
 ナント大聖堂の前で演説中に何者かに狙撃される、という事件がありました。
 法王はただちに病院に運ばれたということですが....』

「あなた...。」
「ああ。これが、『きっかけ』か。」
「なんてことを...。」

『たったいま続報が入りました。
 銃弾は法王の左後頭部に命中し、このため、法王は即死だったことが判明しました。
 フランス司法当局の公式発表は......』

法王の死。暗殺。
それは混乱が続いていた欧米の宗教界に大いなる波紋を巻き起こすだろう。
カトリック=キリスト教の信者は世界に多く在住しており、
サードインパクトの後も依然として強い信仰心を保っている者も少なくはなかった。
政治的な影響はさらに重大であった。
法王自身が偉大な政治家として欧州の治安に一役買っていたこともある。
政治家や軍人の間にもカトリック教徒は多く残っていた。
そして、暗殺という衝撃の残した、戦慄のメッセージ。
彼らの敵は容赦はしない、例えそれが法王であっても。
力と恐怖による、それは恫喝であった。

『これに対し法王庁はただちに声明を発し、
 神の御名において、このような許されざるべき暴挙にたいし断固とした措置を取る用意があると、
 ジェリコ総大司教倪下の談話として発表しました。
 またイグナチウス12世を聖人の列にくわえることも臨時会議によってきまりました。
 イグナチウス12世法王は、先の法王ヨハネ・パウロ2世の後を受けて2002年の混乱期に登極し、
 その後、バレンタイン平和条約の成立に大きく貢献したことで知られています。
 サードインパクト後の宗教改革の波にも積極的に対応するなどして....』

「時が動きはじめたか...。
 ユイ、準備はできているか?」
「あなた。私はいつでも大丈夫ですわ。
 ただ、子供たちにもう一度...。」
「その余裕はない。
 さあ、行くぞ、ユイ。」

『犯人は当局の厳重な警戒にもかかわらず逃亡に成功した模様です。
 その手口などから見て近年ヨーロッパで頻繁に活動しているテロリスト『G』の犯行である可能性が高いと当局は見ており、
 その背後関係、犯行の目的についても今後捜査を進めていくものと思われます。
 我々のTV局が独自に調べた情報では『G』と名乗る暗殺者は常に単独で犯行におよんでおり、
 また、アジア系、おそらくは日本人である可能性が高い、と言われています。
 一説では、あのネルフの特種工作員であったという話があり、これもかなり信憑性が高いと見られています。
 フランスから、十和田がお伝えしました。』

居間に置かれたテレビジョンは、その後のニュースを次々と伝えていた。
しかし、部屋の主は既にどこかに去った後だった。
誰もいない部屋の中で、テレビの音声のみが響いていた。









「いっただきまーす。」

シンジの明るい声が響き渡る。
いつも(じゃないけど)の朝の(宇宙船の)食事の風景。
(BGMは再びTV第七話の冒頭の曲)

「アスカ、まだ寝てるつもりかなー。」

食卓、というか、まあ、船内に唯一のテーブルの上には標準支給品の宇宙食。
シンジの席の向いにはアスカの分も既に用意されていた。



「キャー」



船内に響き渡る絹をきりさいたような女性の悲鳴。
つづいて凄まじい物音がする。
ドシン。バタン。



ようやく船室にたどり着いたシンジが目にしたものは、
床の上に半ば原形を失ってつぶれている黒い物体と、
悪鬼の様な形相をして叫びながら、丸めた新聞紙(!?)であたり一面を叩き回っているアスカがだった。

「この、この、このー!」
「イヤ、イヤ、イヤー!」
「こんちくしょー。」

(これじゃ、『戦慄のA(アスカ)』だよ。タイトルは。)

「イヤ、イヤ、イヤー!」

船内にはアスカの叫び声と床を叩きつづける音がしばらく響き渡っていた。










次話予告



なぜか14才のシンジが3バカの残り二人と登校してるシーン。
制限速度40km/hの道路には特に車影もない。
のんびり歩いている三人。静かな朝の登校風景。

「まったく、アスカったら。
 ほんとズボラだし、かっこ悪いし、つくづくだらしないし。
 見てるこっちが恥ずかしいよ。」

「うらやましいな、それって。」
「どうして?」
「やっぱ、碇ってお子様な奴。」
「ほんまやなー。」
「どうしてー。」
「他人のおれたちには見せない本当の姿だろ。」
「えっ?」
「家族、って事さ。」

「だまされないで、シンジ。
 あんたは14才じゃないし、ここは通学路でもないわ。
 そいつはケンスケじゃないわよ。フィフスよ。」

「えっ。カ、カヲル君なの。」
「そうだよ、シンジ君。
 Family. 帰る処があるのは幸せに通ずる。
 そうは思わないかい、碇シンジ君。」

「な、何を言っているの。わからないよ、カヲル君。」
「次号予告だよ。」

「G。黒いもの。闇。夜。ひげ。
 これは何。これ、知ってる。Gさんのひげ。
 嫌なもの。Gさんはいらない。Gさんは油っこい。Gさんは....」


「あ、綾波ー。」
「ファースト!あんたまで!」

「次号予告。毎週水曜日18:55頃にやっていたもの。
 葛城三佐の声。いつも同じBGM。
 次週の映像がフラッシュする。時には落書きも...
 『この次もサービス・サービス』
 サービス.....
 だめ、こんな時、どうすればいいのかわからない。」


「ぬ、脱げばいいと思うよ。」
「そう。脱げばいいのね。」
「シ・ン・ジ!!!!」
「じょ、冗談だよ、アスカ。怒んないでよ。
 ワッ。綾波も、冗談だから、ほんとに脱がないで。」

「そう。冗談なの。」

「あんた達ねー。こんなんじゃ予告にならないでしょ。
 いいわ。私が見本を見せてあげる。」

「アスカー。」
「はい、BGMスタート!」
(ここで、例の予告編のBGM)

「長い航宙の末、二人はついに目的地、金星に到達した。
 金星の大地を踏みしめるビーナス・エース。
(JAUのことらしい。胸からミサイルは出ません。)
 そこで二人を待ち受ける驚愕の事件とは。
 そして地球では法王暗殺を引き金として新たな混乱が巻き起こる。
 次週、『混乱の惑星(ほし)』
 見なかったら、おっしおきだべ〜。」

「アスカー。最後が違うー。」


    第六話

カオスほ し
混迷惑星

「星よ、導きたまえ。」
「綾波ー。それも少し違う気がする。」





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