Star Children 第一部

「そして、宇宙(おおぞら)に / Fly me to the stars」







シンクロルームで二人はそれを目撃した.....。

「シンジ、い、今の...。」
「アスカ....」
「み、見たわよね。幻じゃ、ないよね。」
「うん。見た。ハッキリと。」
「アレは....」

そこでアスカは沈黙する。
シンジもそれを言葉にするのをためらった。
確信はしていても....。

『間違いないわ。アレは...』

その時、スピーカーから突然声が上がった。
さらにもう一人。別の声がスピーカーから流れる。

『使徒ね。』




















第七話


  「使徒達の聖域」






















『使徒発見!』の第一報はおよそ30分遅れて地球に届けられた。

地上で最初にその情報と接したのは、国連宇宙開発機構の当直管制官だった。
続いて、次官、長官に報告されてから、1時間以内に世界各国の首脳に伝達された。

太平洋上の大きな島に設けられた巨大な打ち上げ基地。
セカンドインパクト後の大津波で住民がほぼ全滅した悲劇の島に、
宇宙開発のための巨大な都市が建設されていた。
赤道直下ながらも山の中腹にあるため、気温はいたって快適である。

「使徒、再び...か。
 彼らの言った通りになったな。」

日向マコト。35才。
国連宇宙開発機構、特務次官。
長官人事は政治的な色彩が濃く、一線を退いた政治家が任命される。
現在の長官はロベルト・ルイ・エンリケという72才の元欧州連邦首相である。
だが、彼の存在はお飾りに過ぎない。
実質的には、次官の日向マコトが機構の運営を統括している。

「昆崙とアマテラスUに至急連絡。
 予定は全て変更。
 アマテラスUは、使徒に関する情報収集を最優先の任務とする。
 ただし、パイロットに身の危険が及ばない限りは、だ。
 昆崙のシェン司令には、あらゆる裁量の自由を許可する。
 アマテラスUの回収と地球帰還のために必要な対策を取られたし、と伝えろ。」

深夜、突然自宅にもたらされたその報に彼は起こされた。
制服に着替えながら、携帯で当直士官に指示を与えた。

「よし、基地内はそれでいい。
 許可を与えるまで情報を外にもらすなよ。」

「あなた...。」
「緊急事態だ。
 行ってくるよ。」

心配そうな愛妻に軽くキスをしてから、玄関を出る。
ガレージに行き、車のエンジンを掛け、深夜の街を走り出した。
フリーウェイに入るとオートクルーズを設定し、携帯を取り出す。

「もしもし、日向です。
 金星で、使徒が発見されました。
 イエ、まだです。独断で押さえてあります。
 ハイ。ハイ。わかりました。
 しかし、それは....。
 イエ、わかりました。
 では、そのように。」

駐車場からは急いで管制室に向かった。
廊下をひたすら走りながら、ちょうどドアを開けた時、
アマテラスUからの第二報が入った所だった。
長官はまだ来ていない。

『アマテラスU艦長、惣流アスカです。
 我々が遭遇したUMAに関する続報をお届けします。』

スクリーンに映った表情からは、パニックを抑制しようという努力が伺える。

『全長、推定50m。
 全幅10m程度の紡錘形をしており、四本の足かヒレのような器官あり。
 いかなる原理に基づくのか不明なれど、霧の中を自由に動き回れる模様。
 3回、接触する事に成功。しかし、同一の個体とは断定できず。
 今のところ、我々を攻撃してくるような気配は見られません。
 本日はもう通信圏外が近いので調査を打ち切り、アマテラスは手近なところに着陸させる予定です。
 金星より、アスカ、送信終わり。』



「ペンペン。
 じゃあそういう事だから、着陸可能地点の指示、お願い。」
「クェ。」

使徒発見、という一大事の影に隠されて、アスカもシンジも重大な疑問に気がつかなかった。
シンクロルームには聞こえない様に音声回線を閉じた上で、操縦室に声がする。

『ちょっとぉ。なんでこんな所に使徒がいるのよぉー。』
『さあ、何故かしらね。』
『さあ...って。』
『今は深く考えてもしょうが無いわ。とにかく使徒がそこにいるのだから。
 それよりも今は情報収集に集中しましょ。』
『そうね。
 リツコ、あなた、アレ、作れる?』
『アレ?』
『ほら、「パターン青、使徒です!」ってヤツ。』
『ああ。青葉君?
 無理ね。彼をここに連れてくるには、空間転送装置でもないと。
 彼の精子があれば作れなくもないわ。クローンだけど。』
『何こんな時に冗談言ってるのよ。』
『わかってるわよ。個体情報判別システムの事よね。今やってるわ。
 手持ちの機器からでは、かなり機能が限定されるけどね。』
『さっすが、リッちゃん。』
『おだてても何も出ないわよ、ミサト。
 あら、帰ってきたようね。』

やがて、無事着陸を終え、パイロット二人が操縦室に入ってきた。
すでにシャワーを浴びて、LCLを落としてさっぱりしたあとだ。

「ふーーう。いったいなんでこんな所に使徒がいるのよー。」
「ちょっとアスカ、まだ使徒だって決まったわけじゃないんだし。」
「いいえ、アレは間違いなく使徒よ。
 アタシのカンに間違いは無いわ。
 大体、あんな異様なもんが空飛んでんのよ。
 使徒以外の何もんでもないわ。」
「使徒。天使の名を持つ人類の敵。
 地球に攻めてきて、人類を滅ぼそうとした存在。
 ダブリス...。でも、カヲル君も使徒だった。
 リリン....。そして、人類も17番目の使徒だった。
 リリスによってアダムより作られしモノ。
 リリス....レイ。綾波レイ....。
 ねえ、アスカ。
 やっぱりまた僕達は使徒と戦わなくてはいけないのかな。」
「あったり前じゃないの。
 話し合いが通じる相手じゃないでしょ。
 ふりかかる火の粉は払って当然よ。」
「でも、今度は、使徒が地球に攻めてきたって訳じゃないし...。
 むしろ僕達の方が、金星に、彼らの星に来た訳だし...。」
「それでも、よ。
 アンタだってわかっているんでしょ。
 人類にとって、使徒は、禁忌の存在だって事ぐらい。
 基本的に相容れない存在なのよ。だから...。
 あら、昆崙から通信が届いてるわね。
 ペンペン、再生して。
 ふん、ふん。そうね。わかったわ。
 ペンペン、命令受諾、と昆崙に連絡しておいて。
 とにかく、今日の所は早く寝ましょ。
 明日は早いわよ。」





「大丈夫かしら。慎重に行動してくれるといいんですが...。」
「アスカ君はともかく、シンジ君がいるから大丈夫だろう。」
「司令は...、シンジ君を信頼なさっているんですね。」
「まあな。何しろ、世界を一度救った男だからな。」
「だけど、次も救ってくれるとは限りませんわ。」
「そりゃ、そうだ。
 けどな、レイファ。忘れるな。
 『次』は、救って貰うんじゃない。俺達が救う番だ。
 ま、そんなだいそれた事、できるかどうかはわからんが。
 少なくとも意気込みだけは、な。」
「ハイ。そうですね、司令。」





03 『金星で、使徒が発見されたそうだ。』
04 『ほう。それは我々のシナリオにはなかった筈だな。』
03 『ああ。だが、この一件、我々の役には立つ。
    再びエヴァを使用する、もってこいの口実だよ。』
04 『しかし、だからといって無視はできん。』
02 『シナリオにはあった。だが見落としていた。それだけだ。』
01 『どういうことかしら。説明してくれる?議長代理殿。』

01番の言葉にはトゲがある。
自分の頭ごしに物事を進められて面白くないのだ。
対日本工作は彼女の『お楽しみ』だったのに、トンビ(G)においしい所を横取りされた。

02『できそこない。彼らの存在は認知していたのだ。
   全て明るみになれば、どうと言うことは無い。
   楽園を追われしモノは、リリンだけではなかった、ということだ。』
04『計画に影響は?』
02『黒き月。月が彼らを地球に誘うだろう。
   扉は再び開かれる。血塗られしエヴァンゲリオンの手によって。』
03『つまり、彼らが全てやってくれると言う訳か。我らの代わりに。』
02『金星のチルドレンがどこまで頑張るか。
   まずはお手並みを拝見する事にしよう。』
04『屠所の羊にも抵抗する権利ぐらいは与えてやらんとな。』



照明がついた。
部屋にいるのは彼女一人。
取り残された、いや、戻ってきたのだ。

「アイツ等、ホント、趣味悪いわね。」

ガビー(ガブリエラ)・ロックフォード=パートリッジ。
ロバート・パートリッジとの結婚は、政治への良き足がかりとなった。
党大会期間中の夫の暗殺事件は彼女を一躍悲劇の主人公に祭り上げ、
亡き夫の遺志を継ぐ女政治家として、有権者の支持を受け副大統領候補に指名された。
かつて地上で最も豊かだった大国、北米合衆国の初の女性副大統領。
そして、大統領が暗殺された今では、臨時とはいえ初の女性大統領である。
ここまではとんとん拍子で来た。

あとは新世界秩序を打ちたて、栄光の名を歴史に刻むだけだ。
彼女はそのために『聖なる新月』なる怪しげな組織を利用した。
むこうでも、彼女の政治的・経済的な力を利用している、と考えているだろう。
これまでの所、利害関係は一致していた。おそらく、これからも。最後の最後まで。
だが、新たな世界がやってきた時。市民が真実に目覚めた時。
世界を指導するのは私の役目となる筈だ。
他のメンバーは軍人や、科学者や、ただのゴロツキにすぎない。
政治というものの本質を知っているのは私だけだ。
ましてや、あんな小娘なんか.....。

市民には、優れた政治的指導者によって善導される権利がある。

それが彼女の政治的信念だった。





「使徒、発見!」

日本で最初にこの情報を耳にしたのは、彼が最初だった。
現在の日本の政治的指導者、高橋首相よりも1時間早く、彼はキャッチした。
日本時間、午前3時。
普通なら、誰もが寝ている時間だ。

「やはり、ここに来て正解だった。僕の勘は正しかった。
 もうすぐ、世界はここを中心に動くだろう。再び。」

その独言を聞いている者は、だが、誰もいなかった。





「使徒、発見!」

その報に首相が接した時には朝の六時をとうに過ぎていた。
国連宇宙開発機構からの正式の連絡から2時間も過ぎていた。
遅延の責任を追及するのは後にして、すぐに臨時閣僚会議を招集する。
遅れ馳せながらも、情報の秘匿によるパニック抑制や、一層の治安警戒が決められた。
だが既にこの時には、ネットワークを通じて「使徒現る!」の情報が世界を飛び交っていた。





「いったい誰が、こんな情報流したんだ!」

珍しく、青葉シゲルが怒っていた。
この情報のせいで、世界中が大パニックに陥っていた。
それも次第に尾鰭が、それも雪だるま式に脹れ上がりながら飛び回っている。
尾鰭はともかく、本体の「使徒発見」に関しては真実なのだから否定できない。

「さあ。詳しい事はわかりませんが、情報部の話だと宇宙開発機構筋からの様です。」
「マコトもドジをふんだな。あいつらしくもない。」

いつまでも愚痴を言っていても仕方がなかった。
取りあえず、できる事から始めなくてはならない。
万が一、使徒が来襲した時に備えておく必要があった。
それには....。

「セイラ二尉、先技研の時田氏に連絡を取ってくれ。
 二時から幕僚会議だ。それにオブザーバーとして招かれている。
 それまでに話をしたい。」
「JAを使われるつもりですの。」
「ああ。」
「しかし、役に立つのですか?」
「使い方次第、じゃないか?」

別の言い方もあるな。青葉は思った。口には出さなかったが。
無いよりはマシ。



「あなた。」
「どうした、ユイ。」
「何か外が騒がしいようですよ。」
「気にすることは無い。
 どうせたいしたことでは無かろう。」

彼は間違っていた。たいした事だったのだ。
だが、ホテルに閉じこもって世間から隔絶していた彼らがその報に接するのには、
もう少し時間が必要だった。







『どう、リツコ。』
『もう少しよ。ちょっと待って。』
『まだなの。ずいぶん時間がかかるわね。』
『仕方ないでしょ。間に合わせの道具で造るんだから。
 それより、二人の様子はどうなの。』
『今はぐっすり寝てる。
 ほんと、いい度胸してるわ。
 明日は死ぬかも知れないっていうのにね。』
『だからこそ、よ。
 少しでも長く、「絆」を確かめあっていたいんでしょ。』
『驚いた。リツコがそういうこと言うなんて。』
『アラ、これでも私も女よ。いえ、女、だったわ。
 こうなって、そして、はじめてわかることもあったけどね。』
『ゴメン。』
『いいのよ、ミサト。
 さて、これで完成っと。
 じゃ、テスト始めるわよ。』
『ええ。やって』

船内のどこかでスイッチが入り、急造の「個体情報判別システム」が作動する。

『何よコレ!
 この機械、壊れてるんじゃない?』
『失礼ね。
 この赤木リツコ、そこまで腕は落ちていないわ。
 もっとも、腕なんて今はないけどね。』
『だけど、こんな、こんな事って....。』
『そうね。まさに驚くべき事実ね。
 でも、予想できなくもなかったわ。
 どうやら二人を起こした方がいいみたいよ、ミサト。』



「ええっー。アレが全部、使徒だっていうのー。」

アスカの無意味な抗議

「うーん。どうも、そうみたいだね。」

シンジの緊迫感の欠けた返答。

「冗談じゃないわ。非常識よ。いくらなんでも。
 訴えてやるわ。」

誰に?なんてツッコミを入れる気にもならない。
それよりも、大事なことがある。

「これじゃ、惑星丸ごと使徒っていってるようなもんじゃない。」

アスカは文句をやめない。意味無いのに。それを遮って、

「それより、アスカ。
 早く昆崙に連絡した方がいいと思うんだけど。」
「そうね。いいところに気がついたわね。
 ま、アタシはとっくに気付いていたけど、
 シンジがいつ気付くかなって思ってたとこなのよ。」

もう夫婦になって5年も立つ。
付き合いだしてからなら10年以上になるのに、見栄を張るのをアスカは止めない。
いい加減、無理しなくてもいいのに、とシンジは思う。
だけど、それを楽しんでやってるようだから、あえて止めないが。

「じゃ、ペンペン。
 昆崙につないで頂戴。」

しばらくして、昆崙の映像がスクリーンに映った。
向こうでは24時間体勢で連絡を待っていたのだろう。
まだ、連絡予定時刻より3時間も早いのに、即座に昆崙は応答した。
まず、正規の通信士官であるパイが出て、すぐにシェン司令に交代した。

「司令。例のUMAに関して重要な事が判明しました。」

リアルタイム通信圏外、すなわち1光秒以上の距離が離れているが、
数秒待てばいいのだから、会話が成立しない距離では無い。

「本艦に搭載している個体固有波形パターン分析装置によると、
 やはり、例の物体は、パターン青。すなわち使徒です。
 さらに、同じ波形パターンを持った物体が惑星全土を被いつくしています。
 すなわち、使徒の本体は、惑星全土を被っていた、あの雲、ということです。」

これで、相手が驚く事を予想して、しばらく置いてから次を続ける。

「例のUMAからはコア特有のパターンが見られますから、」

ここまで言った時、相手の驚いた反応が映像に映った。
それを見ながらも、間を開けずアスカは続ける。

「やはり、これがこの雲型使徒のコアであると考えられます。」

返答を待つ事、10秒。

「わかった。おそらくは、そうなのだろう。
 で、これからどうしたらいいと思う?
 いや、君たちはどうしたいのだね。」

アスカは即答する。
事前に聞いていた訳ではないが、シンジはこの返答を予想していたので驚かない。

「無論、倒します。」

再び、間。

「君たちの気持ちは、わかる。」

いや、わかっていない。
少なくとも、シンジの気持ちは。

「だが、我々は科学調査船だ。
 武器も持たずにどうしようというのだね。」

今度も、即答。
アレを発見して以来、アスカも考えていたのだろう。
いかにしたら使徒を倒しうるか。

「武器ならあります。
 地質調査用のN2爆弾が、予備を含めて二発。
 JAもリアクターを暴走させれば、立派な核兵器です。
 使徒の中に潜り込めれば、ATフィールドは無効です。
 したがって、前回と同じようにアマテラスで雲の中に入れれば、勝機はあります。」

確かにアスカの言う通りだった。
この作戦なら、成功する見通しも高い。
失敗しても、シンジ達は使徒の手の届かない衛星軌道にいる。
その時は、逃げれば良いだけのこと。
少なくとも、10年前のミサトの作戦よりうまくいきそうだ。
あれ程絶望的な戦いではなかった。

応答には、しばらく時間がかかった。
司令も相当に逡巡したのだろう。

「わかった。作戦の有効性は認めよう。
 私には、反対する理由は認められん。
 だが、これは私の一存では決められない。
 地球に報告して、政治的に決断して貰う必要があるからな。」

当然だろう。とシンジは思う。
何悠長な事言ってるの。アスカは焦れる。

使徒に対するこの二人の差は、10年たっても変わっていない。
いや、10年間、そんな事を考える必要がなかったのだから変わらないのは当然か。
本来持って生まれた性質の差。
それだけではないだろう。
シンジは、アルミサエルとは戦わなかった。
アスカは、渚カヲル=使徒ダブリスとは交わらなかった。
その違いが、ここに現れていた。

「しばらく待ってくれ。
 多分、決定にはかなり時間がかかる事と思う。
 なにせ事が事だからな。安保理事会か、国連総会か。
 いずれにせよ、これは政治が関与すべき問題だろう。
 場合によっては、明日になっても決まらないかも知らん。
 その間、情報収集を続けてくれたまえ。
 それと、十分に警戒は怠らないでくれ。
 昆崙、以上。」

司令の予想は裏切られた。
決定は以外に早く、彼の元に届けられた。
別の所で、それは下されていた。



01「あの雲!あれが使徒だったとわね。
   世界中の天体科学者がだまされてたのね。」
02「おそらく。
   これまでの探査衛星は全てあれにやられていたのでしょう。」
04「それが今回に限ってどうしてまた。」
02「JAも、アマテラスも、これまでの探査船とは桁違いに大きい。
   大きさ的には通常の使徒と同等、今回の使徒のコアともね。
   推測で言えば、他の使徒と区別がつかなかったんじゃないかしら。」
01「所詮、図体はでかくともできそこないはできそこない。
   頭は空っぽって訳ね。」

しばらくの間。

03「これは、なかなかに優れた作戦だよ。
   おそらくは成功するのではないかな。
   N2が使徒に通用するとすれば、の話だが。」
02「おそらくするわね。
   10年前に現れたオリジナルの使徒の中にも、
   第6使徒ガギエルのように通常攻撃で倒された者もいる。
   まして相手はできそこない。勝てて不思議は無い。」
04「いいではないか。せいぜい頑張ってもらおう。
   仮にあの使徒を倒したとしても、その時、彼らは知るだろう。
   自分達の死刑執行命令にサインをしてしまったことをな。」
03「確かに。まだ月の到着まで若干の猶予がある。
   それまでせいぜいチルドレンにもあがいてもらおう。」
01「そして華々しく散っていただきましょう。
   我らが聖なる月のために。」
02「では、満場一致ね。
   宇宙開発機構には私が伝えておきましょう。
   安保理の事後承諾はお願いします。」
01「了解です。議長代理殿。」



次官室の電話がなる。
この音は守秘回線のものだ。
彼は受話器を取った。
連絡は予想していたよりはるかに早かった。

「ハイ。ハイ。
 では、よろしいのですね。
 ハイ。ハイ。
 彼らの安全は....。
 いえ、勿論こちらでも検討しました。
 確かに問題はなさそうに思えます。
 ハイ。ハイ。
 国連を通す前に決めて....。
 ああ、当然ですね。愚問でした。
 ハイ、では、そうします。」

受話器を置く。
ふーう。一息つく。
彼らと話す時はいつもこうだ。
緊張して大汗をかく。
別に彼らの力が怖い訳では無い。
10年前の碇司令の方が、その意味ではよっぽど怖かった。
罪悪感が彼の身体に汗をかかせていた。
理性はそれを認めない。間違った事はしていないのだから。
が、心の隅には引っかかっていた。
取りあえず、ウソをついているのには変わりが無いということが。

返答は、意外ではなかった。
彼はそのために活動してきたのだし、作戦に穴も見当たらない。
彼だって、あの使徒を目前に鍛え上げられた作戦課将校だった。
その判断力にはそれなりの自信が、少なくとも今は、ある。
おそらくは、彼の元上司でも、これ以上の作戦は作れないだろう。
この状況下では。生きていたとしても。



その知らせは、即座に昆崙を経由して、アマテラスに伝えられた。

「という訳で、攻撃許可がおりた。
 ただし、作戦の遂行にあたってはくれぐれも気をつけてくれ。」
「了解、日向二佐。」

ただし、この短いアスカの返事が地球に届くのは30分後だ。

「さて、アスカ君。
 具体的な攻撃プラン、タイミングは全てキミ達にまかせる。
 我々がここから指示するにはちと遠いからな。
 だが、こちらでモニターできるよう、回線は常に開けておくように。」
「了解、シェン司令。」

こちらの返事は数秒で届く。
今、秒ごとに昆崙は金星に接近していた。
再軌道計算の結果航路が変更され、昆崙は金星への双曲軌道に乗っていた。
まだ軌道週修正が可能なギリギリのところに昆崙がいたのは幸いだった。



「さ、シンジ。攻撃許可が降りたわ。
 急いでプラグスーツに着替えましょ。」
「着替えましょ、ってさ、アスカ。僕もやるの?」
「当たり前でしょ。
 アマテラスとJAを同時に制御するのよ。
 二人でやらなきゃしょうがないでしょ。」
「で、できるの?そんなこと。
 シンクロルームは一つきりしかないのに。」
「できる。
 私がそういうからには、できるのよ。」
「さあ、早く。」



『ねえ、リツコ。ほんとにできるの?そんなこと。』
『ま、できるんじゃない?
 設計者には相当な自信があったようだから。
 コンピュータの方は問題がないわ。
 マギでさえ、3台のエヴァを時分割して統括できたのよ。
 ペンティアムUなら、2台くらい問題ないわね。
 私達の分を入れたとしても。
 私にはわからないのは、どうやって一台のシンクロルームで複数の思考を区別するか。
 アスカには何かいい考えがあるんじゃないかしら。』
『これでできなかったら、みんなの笑い物だわ。』
『そうね。でもその方が良かったってこともあるかもよ。』
『どういう事?』
『さあ。未来を予言するのは私には手に余るわ。すくなくとも、まだ今は。』
『あんた、また私に何か隠してるんじゃないでしょうね。』
『この状態で?どうやって。』



二人は、プラグスーツに着替えて、再度操縦室に来た。
ここで簡単なブリーフィングをやるようだ。
これはシェン司令に聞かせるためでもある。
(ところで、着替えは同じ部屋でやったのかな?)
(「そうよ。いいじゃない別に。夫婦なんだから。」)
「さて、作戦はそんなに複雑じゃないわ。
 まず、アマテラスで雲の中を飛び回り、例のコアを探す。
 これが第一段階ね。
 つぎに、コアを発見したら接近し、JAがジャンプして捕まえる。
 これが第二段階。
 最後に、JAは自爆、手持ちのN2爆弾を二個、持ってね。」
「二個とも、いっぺんに使っちゃうの?
 勿体なくない?」
「敵の防御力がわからない以上、戦力を出し惜しみするのは愚の骨頂。
 最大戦力で敵を撃破する。これが正当な戦術ってもんよ。」
「撃破できなかったら?」
「その時はその時。逃げんのよ。当然でしょ。」

「じゃあ、受け持ちを決めるわ。
 JAで攻撃するのは当然、リーダーのアタシ。
 シンジはアマテラスの操縦をお願い。」
「そんな、それじゃ、アスカが...」
「いいの。作戦を決めたのは私。
 だからいいの。
 それより、シンジ。早く奴さんを見つけるのよ。
 アタシは人に待たされるのは嫌いなんだからね。」

「それと、ペンペン。
 自爆装置が起動したら、臨界直前にシンクロカットして。
 ただし、ギリギリまで待つこと。
 早過ぎて、手を放して落っことされたらシャレにならないからね。」
「クェ。」

了解、の意思表示だろうか、今の鳴き声は。

二人はシンクロルームに入った。
今度は、シンジが後。アスカが前。

「じゃ、シンジ。しっかりやるのよ。
 ペンペン、アマテラスのシンクロ起動準備。
 よし、シークエンス・スタート!」

シンジは集中した。

  そんな事うまくできるのか、なんて今は心配しても仕方がないか。
  とにかく、今は、飛ぶんだ。
  飛んで、アレを見つけるんだ。

アマテラスは無事起動した。
まだ離陸はしない。

「よしよし、っと。」
「アスカ。JAはまだ起動しないの?」
「今からやるわ。それより6番ハッチをあけておいて。」
「了解。」

シンジのわき腹がなんかくすぐったくなった。
人間の身体で言えば、ハッチはそこにある。
そして、そこにはN2爆弾が納められていた。

「ペンペン?
 シェルをもう一つ開いて、そこでもう一つシンクロシーケンスを起動。
 今度はJAとよ。」

ヒュゥーーーーン。
音がする。
同時にアマテラスとシンジのシンクロ率がガクンと落ちる。

「やはり、ノイズが入るわね。
 ま、ここまでは予想通り。
 両シーケンスとも、ノイズフィルタを最大に設定。」

シンジのシンクロ率は少し回復する。
だが、まだ20%を切っている。

「さて、それじゃ、JAの方、
 ベーシックをドイツ語に変更。
 Anfang der Verbindung.
 Anfang des Nerven Anschlusses....... 」

ヒュゥーーーーン。
再び音がしてシンジのシンクロ率が再上昇。
元どおりとは行かないが、まずまずの値に戻った。
これなら、飛べる。

同時に、JAの方も、順調に起動シーケンスをクリアしていく。

「Synchro start!」

JAが起動した。
立ち上がるJA。

「ふー。何とかなったじゃない。 (←ドイツ語です。by 作者)
 ドイツ語使うの久しぶりだからちょっと心配だったけど。
 やってみるもんね。」

アスカの独り言。
当然、ドイツ語なので、シンジには理解できない。

「今、なんて言ったのアスカ。」

日本語で答えようとすると、思考にノイズが入りシンクロが落ちる。
否、日本語で考える事自体、厳禁なのだ。

「Schweige ! Sei still !」

強い調子でアスカが告げる。
これらの言葉はシンジも知っている。
夫婦喧嘩で時々興奮したアスカが使う。
英語なら「Sharp up!」
日本語なら「黙れ。」
言い方を変えて二度も繰り返す所を見ると、しかもゲンドウ級の「黙れ」。

「Bitte.」

さすがにこれでは強過ぎると思ったのか、アスカは付け加える。
「Please」「お願い」の意味だ。
シンジも理解した。
そして、シンジは完全に沈黙した。

『やるわね。アスカ。こんな手を使うとわね。』
『しっかし、行き当りばったりもいいとこじゃない。
 これでよくあんな自信たっぷりなこと言えたわね。』

ちなみに二人とも、ドイツ語は理解できるし、話せもする。

『アラ、あなたもそうだったわよ。
 身に覚えがないとは言わせないわ。
 ヤシマ作戦から始まって、戦艦主砲によるゼロ距離射撃。
 あげくには大気圏外から落下する使徒をエヴァで受け止めさせる。
 あなたの方がよっぽど無謀だったと私は思うわよ。』
『タハハハハ。』





その間にも、アマテラスは飛び立っていた。
敵。使徒と言う名の人類の敵の本体を探して。
JAは再び格納庫にしまわれている。
ただし、すぐ起き上がれるようにうつぶせで。
N2爆弾のカートリッジを背中に抱いて。



金星を覆う雲は決して晴れる事がない。
この使徒を倒さない限り。
この星は、残された使徒達のたった一つの聖域だった。








次話予告




「シンちゃんやるわねー。」
「え、何が。」
「だって誰も見ていない雲の中でアスカちゃんと抱き合ってさー。」
「綾波ぃー。何の事だよ。」
「シンちゃんはアマテラスにシンクロしてるんでしょ。
 アスカちゃんはJAだし。それがピッタリ寄り添っちゃって。」

「何を言うんだよ。」
「な、何を言うのよー。」
「次話では、JAがアマテラスに馬乗りになるんでしょ。
 これっていわゆる○上位ってやつじゃない(ポッ)。」

「やめろよ、綾波ぃー。」

パカッ。

「こら、シンジ。9番ハッチが開いてるわよ。」
(ぼ、膨張してしまった。)

(なんか変ね。いつものレイじゃないわ。あっ。)
「わかったわ、アナタ、転校生レイね。どうも変だと思ったら。」

(転校生レイ、いわゆる「リナ・レイ」というやつですな。)
「御名答。」
「言っておくけど、この話にはアナタの出番は無いわよ。」
「知ってるわ。でも一度、出してみたかったのって作者の人が言ってるわ。
 彼、学園ラブコメエヴァは自分には書けないことよくわかってるみたいね。」

「ま、限界を知っておくのはいいことだわ。」
「ハードSF路線もついにあきらめたそうよ。
 当分(第二部)は巨大人型ロボットアクションを突っ走るんだって。」

「あたしは最初からそんなもの期待してなかったからいいけどね。
 でもSFを名乗るなら2025年の惑星の軌道シュミレーションぐらいしとくべきだったわね。」

「だから日付をぼかして来たんだってさ。
 でも、さすがにここに来て無理がわかったって言っているわ。
 じゃあ、次号予告、始めるわよ。」

    金星で、超巨大雲型使徒と対決する事になったシンジとアスカ。
    二発のN2爆雷を抱いてアスカは飛ぶ。
    爆発する使徒。いずこへともなく消え行く雲。
    だが、晴れた金星の大地の上に二人が見るものは?
    運命が今、二人を襲う。



次回、第八話

「絶叫」



「なんかイヤなタイトルねぇー。」
ハーレルヤ、ハーレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ、ハッレールーヤ。」
「イヤー。私の夢に入ってこないでぇー。イヤー。」







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