Star Children 第三部

「Final Impact」(4)

by しもじ  







『それ』が目覚めた時、『それ』は大地の中に深く埋まっていた。
『それ』が最初にやった事はアンテナ(触覚)を広く伸ばす事だった。
周りで続々と、仲間たちが目覚めていくのを感知した。
厳密には仲間でも何でもないが、兄弟とは言えるかもしれない。
兄弟と言っても、ただ単に親が同じというだけの事ではあるが。

同時に今のそいつらは、『それ』にとって敵でもあった。
本能がそう告げていた。
選ばれ、未来を与えられるのは『それ』らの中の一体だけだと。

仲間たちは次々に地上を目指し、飛べるものは空に舞い上がった。
ごくわずかな限られた個体のみが、重力のくびきを脱して宇宙に達した。
それもすべて本能の告げるままの行動だった。
遥か彼方に、かれらの還るべき楽園があった。
地上に取り残されたモノ達は、それに向かってむなしく吠えた。
魂の故郷、黒き月に。
楽園の惑星、青き地球に。


















第二十話


「楽園を追われしモノが見る夢は」
























アスカののるエヴァ伍号機が帰投した。
エアロックを抜けて、船内に戻ってきた彼女を待っていたのは、
もう一人のエヴァパイロット、鈴原トウジの怒声だった。

「こら、惣流。いったい何や、あれは。」

アスカの前に通せんぼをするように右手を伸ばし通路を塞ぎ、
激しい口調で詰問した。

「何って、なんだっていいでしょ。
 それより、ソコ、退いてくれる。シャワー、浴びたいの。
 乾かないうちに洗い落さないとコレ、大変なの。知ってるでしょ。」

LCLに浸かってまだ濡れている髪を右手でかるくなで、アスカは答えた。
今はそんな議論をしている気分では無かった。
そのため、彼女の返答は必要以上にそっけないものになった。

「そないな言い方ってあるかいな。
 自分、インパクトを起こすつもりやったんやろ?」
「そうよ。よくわかったわね。」
「ワイもエヴァに乗っとったんやで。
 エヴァが教えてくれたわ。」
「そう、良かったわね。」
「良くないわ。なんで....」

アスカの態度はかえってトウジの感情を逆なでした。
トウジのボルテージが更に上がり、声が大きくなって行く。
左手の握りこぶしが小刻みに震えていた。

アスカはトウジの言葉を聞き流しながらそれに気がついた。
いざとなったら避けられるように体重を少し外にずらす。

「そんなこと、あんたに関係ないでしょ。」
「なんやて!」

トウジのこぶしが瞬間的に振り上げられた。
だが、トウジは自制心を発揮し、拳はそこで止められた。

「くっ。」

とその時、スピーカーからケンスケの声がした。

『トウジ。持ち場に戻れ。まだお前の当直は開けてないぞ。』



  まったく何をやってるんだ、あいつらは。

管制室で通路をモニターしていたケンスケは思わず机をドンと叩いてしまった。

  なんでここにお前が出てくるんだ。
  これじゃ、台無しじゃないか。
  まったくトウジのヤツ。



「なんや、ケンスケ。」

そう答えた一瞬だけ、トウジの注意がアスカから逸れた。
その隙を逃さず、アスカはトウジの脇をすり抜けて行ってしまった。

『トウジ!』
「うるさいわ、ケンスケ。逃げられたやないか。」
『いいから早く持ち場に戻れ。
 使徒が襲ってきたらどうするんだ。』
「わかった、わかった。
 戻りゃいいんやろ、ケンスケ。
 今は大人しく引っ込んどくわ。けど...。」

そう言って、トウジは自分のエヴァの搭乗口に向かった。
だが、その怒りは完全に治まったわけではない。

  くそっ。惣流のやつ。何を考えてけつかんねん。
  それにケンスケ。お前もや。
  ワイが何も知らんと思ったら大間違いやど。
  自分が何を運んどったか、わからんわけないやろが。
  なーに企んどるんや、お前ら。



  なんで、なんで発動しなかったのかしら?
  やっぱり黒い月が問題なのかしらね。
  けど、どうすれば呼び寄せられるの?
  使徒を全部やっつけないとダメって事?

シャワールームでジェット水流を浴びてLCLを落としながら、アスカは考えた。

  それに相田の奴。鈴原はどうでもいいとして、気になるわね。
  やっぱり知っているんでしょうね、アイツも。
  お咎め無しって事はさすがにないと思うけど、さてどうするのかしら?



  まったく、トウジのせいで余計にややこしくなった。
  これでとぼけるわけにもいかなくなったからな。
  けど今更、僕がエヴァに乗るわけにもいかないしな。
  いっそのこと、使徒の攻撃を早めに開始してしまおうか。
  戦闘中なら、みんな難しい事は考えないですむからな。
  充分な予備調査をもっとしておきたかったんだけど....。





『あらあら。金星に着いた早々仲間割れ?
 まったくこの子達は。
 これで使徒に勝てるのかしら?
 いえ、勝てるわね。エヴァの力があれば.....。』

管制室をモニターしているカメラのレンズが指示もなく動いた。
今、その画面には相田ケンスケのアップが映し出されている。

『問題は、その後か。
 でもアスカでは、今のアスカでは、インパクトは起こせないわ。
 日向君、何を考えているの。』









「エヴァ伍号機単体ではインパクトは発動しなかったか。
 ここまでは委員会のシミュレーション通りだったな。」

次官専用執務室で日向マコトは一人、呟いた。
正面のディスプレイにはワルキューレから送られてきた最新データが表示されている。
その中には、乗組員には知られていないセンサーからの情報も混じっている。

「しかし、ロンギヌスの槍は我々の手の内ににはない。
 月の制御が出来ぬ今、どちらにしろエヴァによる補完は望めないが。」

その隣にあるもう一つのディスプレイ。
こちらはネットワークから孤立した”安全な”コンピュータだ。
先程まで動いていたシミュレーションプログラムをキャンセルし、
画面をクリックしてディスクを取り出した。

「最後の鍵を握っているのは、やはりリリスか。
 お前達が期待通りの反応を見せることを願ってるぞ、シゲル。」

特徴のない、ラベルの張られていない光ディスク。
それに気付いたのは洞窟を彷徨って、二人で歩いていた時だった。
いつの間にそれが彼のポケットに滑り込まされたのか。
しかし、クラウザー博士でなく彼のポケットにそれが入れられた事、
そのことが暗示していることは、彼にもわかった。

「それにしても、手駒が少なすぎる。
 いずれ組織を拡大する必要があるな。」









「先輩、書類の決済をお願いします。」
「またぁ?さっき済ませたばかりじゃない。」
「あれは技術部の関連書類です。
 こっちのは、全部、本部の経理関係です。
 なるべく早く目を通して頂かないと...。」
「わかってるわ。
 まったく、この大事な時に、青葉君ったらひとりで行っちゃうんだから。」

技術部長、冬月マヤは目の前にドンとつまれた書類の山を前に愚痴った。
それもこれも全てはAA司令、青葉シゲルのせいである。
突然、彼は司令代理にマヤを指名した後、アメリカに飛んだ。
彼の熱意に負けて引き受けてしまったのが、マヤの失敗である。
まさか、司令の仕事がこれほど忙しいものだとは思っていなかった。

「これでも司令代理のサインが必要なものを厳選してるんですが...。」
「はぁ。所詮、AAもお役所には違いない、ってことか。
 悪いわね。あなたにまで秘書のまねごとまでさせちゃって。」
「いえ、いいんです。先輩のためなら。」
「でも...。」
「あっ、これ、新しい計画ですか?」
「そう。これからP+のシミュレーションにかける所よ。」

司令代理の仕事がいくら忙しいからと言って、
技術部長としての本来の業務をおろそかにすることはできなかった。
この計画の出来不出来が人類の命運を握っているかもしれないのだ。

「でも凄いですよね。一ヶ月あまりの間にもう第41次案だなんて。」
「私の力じゃないわ。すべて先輩のファイルにあったものよ。
 私はそれを現状に合わせて修正しただけ。」
「先輩?」
「ええ。私の先輩。赤木リツコ博士。
 名前ぐらい、聞いたことあるでしょ。」
「はい。とてもスゴイ方だったんでしょうね。」
「ええ。それはとってもね。
 私なんか、及びもつかない位、優秀な人だったわ。」

  奇麗で、才能があって、優しくて、
  そして.....、哀しい人。
  先輩...。

マヤが思い出モードに入ってしまい、
朝霧サキは、そんなマヤを黙って眺めていた。

「先輩...。」

思わず声に出してしまってから、ふっと我に返る。

「いけない、いけない。
 こうしてる間にもどんどん仕事はたまってくものね。
 急いで処理しないと。」

そして、猛烈な勢いでサキの持ってきた書類に目を通しはじめた。
律義なマヤは、ちゃんと中身を読んで納得するまでサインはしなかった。
どこぞの元作戦部長や、ヒゲの元総司令とは違うのだ。
最後の一枚にサインをする頃には結構な時間が経っていた。

「ふぅ。やっと終わったわ。」
「これで仕事に戻れますね。」
「うーん、だといいんだけどね。」

机の上に置かれたマグカップに手を伸ばした。
さっき入れたばかりだと思っていたのに、すっかり醒めてしまっていた。

  まったく、気軽に引きうけるんじゃなかったわ。
  青葉君、返ってきたら覚えてらっしゃい。

それから、マヤはこれからの仕事を思ってため息をつく。
だが、そうしている間にも、新たな仕事がどんどん溜まっていくのであった。









「まったく、何がどうなっているんだか。
 なんで私が弾劾なんかされなきゃならないのよ。
 世の中間違っているわ。」

ガブリエラ・ロックフォード=パートリッジ。
現職の北米連合大統領はリモコンを操作してTVのスイッチを消した。
壁一面に映し出されていたプロジェクターの光が消えた。
直前までそこには弾劾裁判が開かれている下院の生中継が映し出されていた。

証拠として最初に提出された映像。
それは全く身に覚えのないモノだった。
狙撃され、重傷を負って病院に運ばれたパートリッジ上院議員(副大統領候補)。
その首に正体不明の液体を入れた注射器を突きたてた覚えなど彼女には無い。

彼女がやったのは、元CIAのエージェントを雇って狙撃させたこと。
(口で言うほど腕が良くなかったのだろう。上院議員は即死しなかった。)
次いで、病院の職員を買収して点滴の中身をすり替えさせた。
彼女が見舞った後に病状が急変したのは意図せぬ偶然に過ぎない。

彼女は自分で手を下したりはしない。
分別のある人間とはそう言うものだ。
勿論、元CIAも病院職員も今はこの世には居ないが、大した問題ではない。
事実、下院の審問でも彼らが話題になることは無かった。
偽装は完璧だったのだ。

だがそれを否定しようにも、表にでる危険は犯せなかった。
『G』。
ある意味、こちらはもっと深刻だった。
その次の日の朝。オーバルオフィスで彼女は見つけた。
机の上に彼女の口紅でかかれた『G』の文字。
そして彼女の椅子の心臓の部分に標的のマーク。

誰も入れるはずの無いところに、そいつは侵入してきたのだ。
彼女に身に覚えは無いが、逃げるしかなかった。
Gのパトロンであったユーリの死は予定されたものではあったが、
将軍と共倒れになってくれたことは、彼女には計画外の出来事だった。
あの時点では、Gとの契約もバレていなかったし、彼女が裏切った訳でもない。

AAが、あるいはゲンドウ・碇が『G』を雇ったのかもしれない。
その可能性に思い当たったのは、ここに辿り着いてからだ。
ロッキー山脈の地下深くにあるこの戦略空軍の基地にいる限り、彼女は安全だった。
警備態勢は万全。蟻の子一匹だって侵入できまい。
『産軍複合体』と呼ばれる国家の聖域。
その最後にして最強の砦である。

ここに来たのはもう一つ理由があった。
失いかけている覇権を取り戻すためである。
このプロジェクトが成功すれば、合衆国は再び栄光を取り戻せる。
東洋の島国の連中にいつまでも大きな顔をさせておく訳にはいかない。
今までの事は些細な事に過ぎない。
誰も彼女を非難したりはしないはずだ。
国民は、彼女を支持するだろう。
アメリカの正義を。

『G』の問題も、すぐに解決する。
今、人を遣ってあの男に接触している。
『ゴッドハンド』。
セカンドインパクト直後『G』と時を同じくして暗躍した暗殺者。
『神殺しのG』と『神の手』の対決。
どちらが勝っても、無傷では済むまい。

「そろそろ時間だわ。
 今日こそ成功してもらわないとね。」

彼女はそう言って、部屋を出ていった。
そして地下に向かうエレベーターに乗った。
これが五回目の起動試験である。
地下の格納庫には彼女の、醜い、そして可愛い子供たちが待っている。
成功すれば、全てを取り戻せる。





二時間後。
実験は成功した。
すべて予定通りだ。

  ふふっ。うまくいったわ。
  これでもう、私の邪魔をするものはいなくなった。
  そう、あのAAですら私に手出しはできまい。
  エヴァが金星から帰ってきたころにはすべて型がついている。
  これで『補完計画』などと言う馬鹿げたモノからもおさらばよ。

彼女は科学者たちを全て下がらせ、
人気の無くなったケージで一人、悦に入った。
それは彼女の失敗だった。

「困るんだよなぁ。勝手にこういうモノを造られちゃ。
 おかげで仕事が増えちまったじゃないか。」

ふいに、後ろから声がした。
男が一人、壁に寄り掛かって立っていた。
不精髭に、だらしのない格好。
武器は手に持っていない。

「な、あなた、何者?」
「おやおや。ご存じない。
 あなたは確か、私から逃げるために、
 こうしてここに隠れていた筈ですが....?」
「まさか、『G』?」
「御名答。といっても、景品は有りませんがね。」

ふざけた答だ。
恐れよりも怒りが彼女を支配した。
だが、わなわなと怒りに震える彼女を男は無視した。

「さて、お仕事お仕事。」

そう言った男の視線の先には、拘束具に固定された六体の白いエヴァがあった。
先日第三新東京を襲った9体のエヴァシリーズと同一形状の白い悪魔達。
先程までの実験で使用したダミープラグは全て排出され、
別室で科学者たちが最後の調整作業に入っていた。

「悪いけど、君たちには消えてもらうよ、アダムの分身達。
 君たちの生は、望まれていない。」
「な、何をするの。」
「やるのは彼らです。」

その男は右手をあげ、パチンと指をならした。
それに合わせて六体の白いエヴァの目が光った。
その四肢に力がみなぎっていくのが感じられた。
バキバキバキッ。
音を立てて拘束具が外されていく。

「き、起動した?
 まだプラグも入れていないのに?」
「僕も彼らと同じ、アダムの力を持っている。
 心を与えられていない今のエヴァシリーズなら、
 操るのは造作もないことですよ。」

挙げた右手を、掛け声と同時に振り下ろした。

「さあ、無に還れ。静かに、安らかに。」

六体の白いエヴァが手にした槍を自らのコアに突きたてた。
瞬時にして巨体が融け、ケイジはLCLに満たされ、
六本の槍だけが後に残っていた。

「ロンギヌスの槍か。
 コピーとは言え、こいつは俺の手には余る。
 彼にまかせるとするか。」

今度は合図をするような素振りは見せなかったが、
そうつぶやくと同時に槍も消えた。

「な、なんて事を....。
 あなたは自分のしたことがわかっているの?」
「勿論。ただの破壊ですよ。
 これ以上、混乱の種を増やしたくはなかったのでね。
 インパクトが始まる前に、彼らは止めておく必要があった。」
「ば、バカなことを。
 インパクトなど夢物語をまだ信じてるの。」

彼女は護身用に普段から持ち歩いている拳銃を取り出し、構えた。
全米ライフル協会から贈られた22口径の玩具のような拳銃。
だが、急所に当たれば十分に人を殺傷できるだけの能力はもっている。
それでも、男は悠然と立っていた。

「死になさい。」

距離は3メートル。
いくら彼女の腕でも、はずすことはまず考えられない。
だが、彼女が撃った弾は、男には当たらなかった。
銃弾が宙に静止し、そして地面に落ちた。

「危ないなぁ。誰かに当たったらどうするんですか。」
「よ、よるな、化け物。
 あっちへ行け、消えてなくなれ。
 おお、神様。」
「都合が悪くなったら神頼みですか。
 ま、言われなくてもお望み通り消えてさしあげますよ。
 怖ーいお兄さん達がまもなく大勢やってきますからね。」
「えっ?」
「知らなかった様ですな、前大統領閣下。」
「前...?」
「昨晩、あなたの弾劾が成立したらしいですな。
 報道管制が敷かれてるから、知らなくても無理ないかも知れませんがね。
 ちなみにこの辺のTVで流れている映像は全部一週間前のものですよ。」

”前”北米連合合衆国大統領、ガブリエラ・ロックフォードは
放心したようにその場に崩れ落ちた。





基地に入るのは簡単だった。
もう少し抵抗があるかとも思っていたが、意外とあっけなかったな、
青葉は思った。

既に憲兵の2個中隊が彼らに先行し、上級将校を拘束しはじめていた。
ネオ・ゼーレに関った者達の名簿を彼らは持っていた。
基地の司令官が逮捕された直後に、一部の将校達に指揮された組織的抵抗も止んだ。
兵や下士官たちはこの基地で何が起きているのかさえ知らない者が多かった。
そういった者達も、念のため連行され、あとで取り調べを受けることになる。

軍事基地には似つかわしくない民間人も数十名が検束された。
そのほとんどは科学者達だった。
すぐに調書が取られ、この基地で何を研究していたのかが明らかになった。
それがわかると、すぐに憲兵たちが地下の実験場に差し向けられた。

まだ、こんなところにエヴァ・シリーズを隠し持っていたのか。
危ないところだった。
日本に残してあるJAでは、とても六体ものエヴァに対応できなかっただろう。
青葉は愕然とした。

今日、ちょうど五回目の起動実験が成功したところで、
最終調整をすませればいつでも出撃できる段階まで来ていたと言うのだ。

ケージに向かう途中で、さらに一人の民間人が逮捕された。
サイズの一回り大きな白衣を着込んだその男は自らを科学者の一員であると称した。
だが、その男の正体がバレるのにさほど時間はかからなかった。

「き、貴様!」
「ひっ」

オーウェン・マスト安全保障問題担当大統領主席補佐官。
これも肩書きに『前』をつけて呼ぶべきであろう。
報道などに直接さらされる機会の少なかった彼は、十分逃げおおせるものとふんでいた。
現に日本ではこの手で脱出に成功した。
しかしAA司令の青葉がここにいるとは予測していなかった。
青葉には、彼の顔を決して忘れられぬ理由があった。

「お前は...、お前のせいで...!」
「ひっ、あ、あれは任務で....」

一隊を先に行かせ、青葉はその場で調書を取るように命じた。
正体のバレた前主席補佐官は憲兵の後ろに隠れるようにして、すべてを自白した。
聞かれもしない前大統領の現在の居場所や、居室のキーコードまで喋った。
すべてが終わると、青葉は地べたに座り込んだ男の襟首を取って立たせ、

「この男はオレが地上まで護送する。
 現場の指揮はマカリスター少佐にまかせる。
 前大統領を発見ししだい、連絡するように。
 それと、エヴァには一切、手を触れてはいかん。
 調査隊の手筈を急いで整えるから、現場を完全に封鎖しておくように。」
「はっ。」

気がつくと、一緒に来ていたはずのシェン大佐の姿は消えていた。
元々、ガビー・ロックフォードがここにいる、という確定情報を持ち込んだのは彼だった。





「さて、後はサンプルAの回収だけか。
 私室の金庫、かな、この感じは。」

彼はゆっくりと前大統領の私室に歩いていった。
上のほうでカンカンカンと憲兵たちが階段を駆けおりる音が聞こえた。
数分前、遠くで一発だけ銃声がしたようだがそれ以外は静かだった。
基地の兵士たちはみな従順に新しい命令に従っているようだった。

専用エレベータにのり、ボタンを押し、エレベータが動きだす。
大統領私室のドアには12桁の暗証番号とカードキーが必要なのだが、
彼はそれを苦にもせず、易々と侵入を果たした。
ポケットに手をいれたままで。

「金庫は、と。アレだな。」

壁に飾ってある絵や、本棚の後などという陳腐な隠し場所には金庫はなかった。
素の壁に巧みに埋めこまれているそれは、素人目には全くわからない。
繋ぎ目は1ミクロンの隙間もなく完璧にカモフラージュされていた。

だが、彼には通用しなかった。
彼は感じれば良いだけだったからだ。
アダムの波動を。

「さて、と。」

ポケットから右手を出して、壁面にかざした。
すると、一瞬の光と共に壁が吹き飛び、金庫の扉が出現した。

その時、閉めたはずの部屋のドアが開かれた。
何者かがゆっくりと入ってくるのが気配でわかった。
彼にはそれが誰だがわかっていた。
そこで、声をかけた。

「よう、遅かったじゃないか。
 昔より腕が少し落ちたかな?」

その男は、彼の良く知っているヤツだった。
扉のロックを開けるのにかかった時間、およそ1分。
それでも並みの腕前では出せるタイムではない。

「こんなところで何をしてるんだ?」
「見てればわかるさ。
 それよりお前こそ、何しに来た?
 殺気は感じないし、武器も手にしていない。
 ということは、オレを捕まえに来たのか?」
「そういう事。」
「素手で生け捕りとは、これまた無茶だな。」
「それはクライアントに言ってくれ。」
「碇指令か?」
「さてね。
 本当の事を言うと、ここに来たのはアンタが目的ではない。」
「ガビー・ロックフォードだな。」
「ああ。それとネオ・ゼーレの残党狩り。
 もっとも、ご本人はアンタを追わせるためにオレを呼んだようだが。」
「自ら墓穴を掘ったか。」
「ま、どっちにしろ時間の問題だったと思うがね。
 ところで、日本のドラ猫君。
 いったいなんで又『G』なんてコードネームが付いたんだね?
 随分と色んな所で暗躍していたようだが....。」
「いや、これがまた長い話なんだが....」
「時間はたっぷりあるさ。
 ここから日本まで、ジェット機で十時間程の旅だ。
 御同道願えますかな。」
「どうやって?
 いかにお前が『神拳』といわれた八極拳の使い手だとしても...」

そう言いながらゆっくりとズボンのポケットから左手を出そうとした時、

「動かないで!」

突然、ソファの影からチャーミングな女性が立ち上がった。
しっかりとホールドされた両手の間に44口径のオートマグが握られている。
華奢な造りをしているからといって、撃てないとあなどるわけにはいかない。
彼らが会話している間にそっと気配を殺して侵入し、隠れていたのだ。
先程からのシェンの動き、会話はカモフラージュだったのあだろう。

「そうか、あんたには天使達がついていたんだったな。」

シェン・アンド・エンジェルズ。
かつて、彼らがそう呼ばれていたのを、『G』と呼ばれる暗殺者は思い出した。

彼は左手をゆっくりと外にだした。
その手には何も握られていなかった。
そのまま素直にホールドアップした。

どんなに凄腕の早撃ちだったとしても、距離の離れた二人を同時に倒す事は不可能だろう。
まして20年前、彼と『神拳』の腕前は互角、と言われていた。

「もう一人はどうした?確か天使は二人だったはずだが?」
「ユンファか。彼女は死んだよ。」
「そうか、残念だな。抱きごこちの良さそうな女だった。
 生きていたら、一人分けて貰おうと思ってたのに。」
「本気か?例のお前さんの天使はどうしたんだ?」
「ああ、彼女も死んだよ。少年を護ってな。」

そう話す男の顔が少し曇ったのにシェンは気付いた。

「そうか、残念だな。
 いいオンナ程早く死ぬ。」
「至言だな。
 レイファさん、だったっけか。
 アンタは悪い女になるんだな。
 シェンの事、しっかり護ってやれよ。」
「そのつもりですわ、加持さん。
 あら、動かないで。動くと撃ちますわよ。」

だが、彼はその声を無視し、再び金庫に向き直った。

「悪いが、こっちも仕事なんでね。
 銃を突きつけられたぐらいじゃ、止めるわけにはいかないんだ。」

彼が一睨みすると、すーっと金庫が開いた。
右手を金庫の中にいれ、中の、目的のモノを取り出した。

「これか。これが、最後のアダム、だな。」

そう小さくつぶやいてから彼が振り返ったのと、
レイファがオートマグを発射したのがほぼ同時だった。

バンバンバン。

反動を受けて彼女の両腕は引き金を絞るたびに大きく跳ね上がったが、
三連射された銃弾は正確に男の急所めがけて撃ち込まれた。
眉間、喉、そして心臓。
だが、銃弾は男にとどかなかった。

赤く光る怪しい壁が、それを阻んだ。

「何!?」
「さがれ、レイファ。」

さらに撃とうとするレイファを遮って、シェンが飛んだ。
一跳ねで壁の直前に着地し、そのまま前後に足を踏ん張って壁に掌底を叩きつけた。
八極拳の奥義のひとつ、竜牙掌である。
全身の氣を一手に集め壁に叩きつけたはずなのに、壁はビクともしなかった。

「なんだとぅ!」
「無駄だよ、シェン。
 ATフィールドは絶対不可侵の聖なる結界。
 たとえ君の気功を以ってしても、破ることはできん。」

彼はそう告げると、レイファに軽く手を振って、

「じゃあな、美人の天使ちゃん。
 シェンにはちょっともったいないが、まあ仕方がない。
 はやくこの業界から足を洗って、幸せになるんだぜ。」
「誰のせいで、こんな仕事を引き受けたと思ってるんだ、お前は。」

シェンは相変わらず、奥義を尽くして壁に挑んでいた。
その突き出された両腕の前に顔をぬっと突き出して、

「ご苦労さん。
 じゃ、バイビー。」

そして、にこやかに笑いながら次第にその姿が薄くかすんでいき、
ついには跡形もなく消えていった。
それと同時に赤い壁も消失した。

「消えてしまいましたね。」
「ああ。いつからアイツ、あんな化け物になったんだ。」

奥義を尽くした反動で肩で息をしながらも、シェンは答えた。

「ところで、彼が金庫から取り出したもの、何でしょうね。」
「ああ、あれには見覚えがある。
 10年前、ドイツでアレと同じものをヤツに手渡した事があるからな。
 特殊ベークライトで固められていても、驚くべきことにそれでも生きていた。
 アレは最初の人間、アダムだよ。」
「アダム....。」
「とにかく、だ。これでもう事は俺達の手を離れた。
 これから起きることは、俺達の様な普通の人間じゃ手の届かない所の問題だろうな。」
「後は、神のみぞ知る、と言う事ですか?」
「違うな。多分、神様だって、どうなるか知っちゃあいまいよ。」









「はあぁ〜あ。これもだめ、か。」

そう言って、冬月マヤは手にした書類を机の上に投げ出した。
「第41次人類補完計画」とその書類の表紙には書かれており、
『Top Secret』『Eyes Only』だのといったスタンプが仰々しく押してあった。
サインペンを取り出し、大きく赤いバツ印をつける。

「これで41案目のボツか。
 全部検討するのにはどれだけ時間がかかることやら。」

マヤが冷たくなったコーヒーをすすって一休みしていると、
ドアが開き、誰かが入ってきた。
サキちゃんかしら。また書類仕事か、やーね。
あら?でもそれにしては静かね。
そう思って顔をあげると、予想外の人物が立っていた。

「頑張ってるわね、マヤさん。」
「あっ、ユイさん。もういいんですか?」
「走ったり飛んだり、無理をしなければ、なんとかね。
 ところで、AA版の人類補完計画、あなたを中心に進めてるんですって?」
「よくご存じですね。」
「冬月先生が時々お見舞いに来てくださるから....。
 それで、うまく行ってるの?」

まったく、おじいちゃんときたら、ユイさんにはとことん甘いのね。
いくらなんでも、機密事項をペラペラしゃべるなんて。

そう思いながらも、

「ご覧のとおり、全然はかどってませんわ。」

机の上の書類の山を指す。
全部、これまで没になった計画書である。

「そう。実はあなたに伝えておかなければならないことがあるの。」
「伝えておかねばならぬこと....。何ですか?」
「アダムよ。」
「アダム。セカンドインパクトを起こした、あのアダムですか?」
「ええ。彼の完全なる覚醒は近いわ。
 10年前ならそれは無視できた。でも、今は違う。」
「それは...。」

  何を言っているの?

「補完計画ではエヴァを憑代につかうつもりなんでしょ。」
「はい。そうですが...。」
「エヴァの身体はアダムより造られているわ。
 今、インパクトを起こせば、間違いなくアダムが介入してくる。
 そしてそれを防ぐことは誰にもできない。」

  例え、あの人でもね....。

「アダム....。でも、どうして?」
「セカンドインパクト。その原因は知っているわね?」
「ええ。記録は全て読みました。
 南極の地下に発見された『白の聖堂』。
 そして、ロンギヌスの槍で封印されていたアダム。
 人類は神様を手に入れようとして、それを目覚めさせてしまった。」
「充分な知識を持たずに先走った科学者達の、無茶な実験によってね。
 ゼーレは、キール議長達は警告はしたわ。
 でも、彼らはそれを聞かなかった。
 その代償が、インパクト。
 人類の持っている兵器では、核も、N2も、アダムには通用しなかった。
 そして南極は死の海と化した。」
「でも、彼らは成功したんですよね。
 ロンギヌスの槍でアダムを幼生体に還す事に。」
「ええ、そうよ。
 そして、そのアダムが今、目覚めようとしているのよ。」
「何てこと...!」

  そんな事、知らなかった。
  みんなは...、青葉君やおじいちゃんは知ってるの?

「おそらくは、誰も知らないでしょうね。
 あの人を除いては。
 アダムには単体でインパクトを起こす力はない。
 そしてインパクトが起きればアダムは力を取り戻し、人類は滅びる。
 しかし、補完を行わなければ人類の文明はやがて終焉を迎えるわ。
 宇宙が無限ではないように、許されるエントロピーには限りが有るから。
 ATフィールドが臨界を越えた時、その結末は誰にも予測できない...。」

  そんな...。
  じゃ、どうすればいいの?
  私たちのやってることは全て無駄だと言うのですか、ユイさん。
  何故、今ごろになって....。

「かつて最後の使徒リリンは楽園を捨て、群体として生きる道を選んだ。
 その選択が間違っていた、とは思わないわ。
 だって私達は生きているんですもの。
 たしかに私達は出来損ないの群体なのかもしれない。
 でも、生きているかぎり希望は常にあるはずよ。」
「希望...。」
「努力して行くしかないのよ。
 道が開けていくことを信じてね。
 マヤさん。これを....。」

そう言って、彼女は一冊の薄い冊子を取り出した。

「これは....?」
「インパクトを起こさずに、ATフィールドの崩壊を免れる道はなかった。
 20年前にも、私達は同じ壁に当たって苦しんだわ。
 そして、私が選んだ方法....。
 オリジナルの補完計画、『箱船』よ。」










金星の衛星軌道に到着した翌日。
アスカは自室での謹慎を解かれ、ミーティングルームに呼び出された。
要するに、彼女の謹慎は24時間に満たなかったわけだ。
それでも三人とも、考える時間は十分にあった。

「ひぃ、ふぅ、みぃ。全部で10体か。
 一人5体ってとこやな、惣流。」
「ちょっと物足りないくらいね。」
「意外と少なかったですね。」
「ああ、もっと多いもんやとばかり思っとったが拍子抜けやな。」
「ちょろいものね。二日でかたをつけたげるわ。」
「1日5体か? 甘く見るなよ、惣流。
 ここにいる使徒は全部強者揃いと思ったほうがいい。」
「なんでや、ケンスケ?」
「どういうこと?」
「情報が不足してるからこれは推測に過ぎないんだが....、
 昆崙の最終報告では100体は居た使徒が十分の一にまで減った理由、
 考えられるのは...。」
「まさか、共食い?」
「ああ。そのまさかだ。これまでのところそれを裏づける証拠は無い。」

だからもう少し様子を見たかったんだが...。

「けど、残っている10体の間にテリトリーの様な物があるんじゃないかと思うんだ。
 ほら、各個体はかなり距離が離れてるだろ。」
「そう言えばそうね。」
「逆に言うと、使徒同士の連携のようなものはまず考えられない、ということだ。」
「各個撃破、やな。」
「作戦の基本はそうだ。」
「二対一か。あまり好きじゃないのよね。」
「贅沢を言える立場じゃないからな。
 こっちは補給にだって問題があるんだ。」
「エヴァはS2機関があるかぎり大丈夫やで。」
「ああ。だが、パレットガンなんかの弾数に限りがある。」
「なるべく白兵戦で倒せ、って事?」
「そうも言ってられんだろう。
 無駄弾を撃っている余裕は無い、ということだ。
 他の武器にしても、壊れたら替えは多くないんだぞ。」
「わかってるわ。」
「最初の目標はまず直下の直立型の使徒。
 大きさはほぼエヴァと同じだから戦いやすいだろう。
 ただし、まだその特殊能力については不明な点が多い。
 最初は遠隔攻撃で様子を見て、それから具体的な作戦を決めよう。」
「わかったわ。」

そこで二人のパイロットは部屋を出て、それぞれのエントリーポッドに移動を開始した。
先にエントリーを終えたのはアスカだった。
早々とワルキューレから離脱して、金色の羽根を広げた。
トウジの方はようやくシンクロを終えたばかりだった。
まだシンクロ率は50%を下まわっておりハーモニクス誤差も大きい。
これから精神集中して徐々にシンクロ率を80%まで上げる必要があった。
最終的には同レベルまで上がるし、パワーでならアスカをも上回るとはいえ、
いきなり90%台をたたき出せるアスカとは能力の質が根本的に違った。

  さすがだな、惣流。

「ったく、トロいわね。先行くわよ。」
『ま、まて、惣流。』
「目標、直下の使徒。狙い良し。」

  もう、待ってなんかいられないのよ!
  ワタシは!

「アスカ、ゲーヘン!」





できそこない。

『それ』は、そう言う存在だった。
リリスが、アダムが生み出したあまたの生命体のなかの多くがそうだった。
生命の実を与えられ、知恵の実を与えられた神の分身。天使。
その様に造られた筈なのに、そうはならなかったもの。
要するに、できそこない。

生命の実が機能しなかった個体はすぐに滅んだ。
『それ』は思う。あるいはそいつらのほうが幸せだったのかもしれない、と。
知恵の実が機能しなかった個体は、ここに封じられた。
『それ』は思う。あるいはそいつらには不幸と思う感情もなかったのだろう、と。

『それ』は違った。
2番目と3番目の成功例の間に造られた彼には知性のかけらがあった。
だが、アダムにとっては完璧ではなかったのだろう。
『それ』は楽園を追われ、できそこない、達の中に埋められた。

煉獄の中に閉じ込められ、いったいどれだけの時間を過ごしていたのだろう。
やがて、リリンがアダムを封印すると、使徒たちは一斉に眠りについた。
『それ』も例外ではなかった。
そして一万五千年が経って、目覚めの時がやってきた。

『楽園』の様子はまったく変わっていた。
彼を封じたアダムは消え、他の使徒はまだ目覚めていなかった。
だがその時、再び『それ』は絶望を味わった。
煉獄の『門番』は健在だった。

アダムが復活したと同時に門番も復活していたのだ。
地上に出た瞬間に霧に閉ざされた空を見て、それを知った。





「もらった!」

アスカのスマッシュホークがその一瞬、陽光を浴びてきらめいた。
中心部にあったコアごと、使徒の体が一刀両断にされる。
彼女は油断せず、すぐに羽根を広げてその場を離脱した。
10年前、沼津で受けた教訓は忘れていない。

「やったの?」

三秒後、両断された使徒は大きな音を立てて左右に崩れ落ちた。
されに十秒の間彼女は待ったが、使徒が二体に別れて復活する気配はなかった。

「ふぅー、まず1体か。」
『いや、2体や。こっちも終わりや。』

通信が入った。
同時に衛星軌道からの映像がモニターに映し出された。
隣のセクターで黒いエヴァが使徒を圧倒していた。

『これで、フィニッシュや。』

使徒のコアに青いオーラを纏った正拳が叩きつけられた。
カバーが被さってコアを保護しようとするが、
黒い拳はカバーごとコアを破壊し、そのまま使徒の体を突き破った。

『どうや!』
「バカ!」
『なんや!?』

その瞬間、使徒の体が爆発した。
エヴァと使徒のいた地点に光の十字架が立ち上った。
爆風が収まって映像が回復するのに30秒程かかった。
大きなクレーターの中には上半身を地中に埋めて逆立ちしているエヴァがいた。

「ホントにバカね。学習ってものを知らないのかしら。」
『なんやて。』
「くやしかったら、その格好を何とかすることね。
 でも、アンタ。自力で抜けられるの?」

そこでスクリーンに第三のウィンドウが開いた。

『二人とも、そこまでにしておけ。
 惣流、トウジ、わかってるんだろうな。
 命令違反だぞ。協力して戦えっていった筈だぞ。』
「勝ったんだからいいじゃないの。
 損害だって鈴原が勝手に自滅しただけでしょ。」
『なんやて。ワイは無傷やど。
 今のワイのATフィールドは無敵じゃい。』
「はいはい。」
『とにかく、だ。次は命令を守ってもらうぞ。
 惣流、トウジのヤツを引きあげてやれ。
 その後、一緒にDブロックに向かってくれ。
 今度のヤツは移動はしない。
 だが、強力な果粒子砲を持ってるぞ。
 気をつけるんだぞ。」





それからどれだけの時間が経ったのだろう。
『それ』は再び待ちつづけた。
そしてある日、異質なモノがこの惑星にやってきた。
異質なモノは見慣れぬ力を解放し、『門番』は消えた。

そして初めて気付いた。
惑星のすぐ側にあった『生命の実』の存在に。
だが、彼には手出しができなかった。
他の仲間達、『できそこない』どもが次々に目覚めていったから。

『それ』には、他の仲間に比べて特に強い力はなかった。
彼の持っている限られた能力では、そいつらに敵うべくもなかった。
空に飛び上がったモノ達は生命の実に群がり、異質なモノを破壊した。
その時一瞬だけ光が走った事に、『それ』は気付かなかった。
星が流れたのは瞬間で、その間に生命の実をむさぼっていたモノ達は消えていた。

それからは、地上を『できそこない』どもが支配した。
『それ』は地中に身を潜めて難を逃れることしかできなかった。
しかし『それ』には他の仲間には無かったものがあった。
『それ』には知能があった。ごく原始的な物に過ぎなかったが。
『それ』は慎重に行動する事を知っていた。
じっと時を伺っていれば、機会はいつか訪れる。

待つ事は、得意だった。
意識の無かった間も含め、一万五千年もの永きにわたり、
これまでずっと待ちつづけていたのだから。





「アンタはそこで見てなさい、鈴原。
 闘いってのは、ただ勝てばいいってもんじゃないわ。
 常に華麗に、美しく決めるものよ。
 今からお手本を見せてあげるわ。」

そう言って、アスカは使徒をめがけて一気に飛んだ。
嵐の様に乱射される粒子ビームをヒラリヒラリと躱しながら。
あっと言う間に使徒の所まで辿り着き、

「おぅりゃあー!」

いささか華麗でない掛け声と共に使徒の体を天高く投げ上げた。
素早くプログナイフを取り出して左手に握り上に突き出す。
金色の翼を小さく折り畳み、空中の使徒を見上げると、
叫んだ。

「アスカ・ファイナルヘブン!」

紅いエヴァが回転しながら空を駆けた。
ドリルの様に使徒の身体をえぐって、そして突き抜けた。
コアを貫かれた使徒の身体はゆっくりと落ちていき、
そして大地に叩きつけられた。





『それ』は地下に潜って待ちつづけた。
ふと気付くと、地上に残っていた仲間は一体、また一体と消えていった。
それに、見知らぬATフィールドを持った二体...。
その感触は良く似ていた。忌まわしきモノ、アダムに。
『それ』をこの地に閉じ込めた、憎むべき存在に。

そうか、アダムかの分身、か。
『できそこない』を始末するための、処刑屋、というわけか。

少ない知恵をふり絞って、『それ』は考えた。
どうすれば『アダムの分身』を倒すことができるか。
『それ』のごく限られた能力でもって。

答は出た。
そしてふたたび『それ』は待ちつづけた。
今度はもう、そう長いこと待たなくても良い。









初日の戦闘で、結局5体の使徒を葬ることができた。
残りは5体。

アスカは主張した。

「こいつと一緒に戦っていると、リズムが狂うのよ。」

それは確かに事実だった。
二人の力の性質はあまりにも違いすぎたから。
もし二人のどちらかに柔軟性があれば、
それは相補的に働いてより効果的に戦えるかもしれない。
だが、それは無理な相談だった。
二人とも、確立された個性が強すぎた。

トウジは主張した。

「いいやないか。倍のペースで片づくんやで。
 その分早く地球に還れる計算や。」

それは確かに事実だった。
初日の成果を見るかぎり、問題は無いように思えた。
例えし烈な競争の中生き残った最強の使徒達だったにしても、
彼らのエヴァはまったく相手を寄せつけなかった。



  仕方が無い、か。
  黒き月のことを考えると、早いに越した事はないのも事実だしな。
  取りあえず今のところは惣流も変な気を起こす様子はない。
  問題は、使徒を全部倒し終わった後、か。



  ヒカリ、待っとれよ。
  ワシらの子が生まれる前に、全部かたをつけたるさかいな。
  そうすれば、安心してお前も産めるやろ。
  やけど、問題は惣流やな。
  ワイにアイツを止められるだけの力があるか....?



  邪魔者はとっとと片づけないとね。
  すべては、それからよ。





「アスカ・百裂けーん!」

鞭のようにしなって襲いかかる20本もの光る触手を
ソニックグレイブの突きの嵐が迎え撃った。

「あたたたたたたた!」

その速度は次々と彼女に向かって繰り出されるムチを遥かに凌ぎ、
何十本もの剣が残像となって使徒の身体に突きたてられた。

「とどめよ!」

触手を全て切り取られた使徒を前にして、
アスカは一旦少し距離をあけ、剣を後ろに構えてから走り出した。
砂丘地帯の足場の悪さを物ともせず、ぐんぐん加速していく。
そして使徒の真横をすれちがいザマに剣を振りぬいた。

「必殺、斬鉄剣!」

ソニックグレイブを引いて構えたのは、テイクバックして更に力を溜めるため。
回転する剣先は軽く音速を超え、ソニックブームが発生した。
そのまま走りぬけて、アスカがようやく後ろを振り返った時、
剣の長さの20倍はあろうかという使徒の身体が上下二つに分断され、
ずるずるとその場に崩れ落ちた。

「やったわ。」

羽根を開いて飛びながら使徒に近付き、
たしかに使徒が死んだことを確認する。
必要ならばもう一撃、お見舞いしてやるまでだ。

『目標、完黙。』
『反応消えました。』

状況をモニターしているワルキューレからの通信が入り、
アスカは一息ついた。

「ふぅ。」

残りはあとたったの2体。
トウジが今戦ってる相手を倒せば1体だ。
もうすぐよ、アスカ。





待ちに待った機会がついにやってきた。
こいつはまだ気がついていない。
それにこいつのATフィールドは果てしなく強い。
まるでオリジナルのアダムのように。

こいつの仲間がもう1体いる。
『できそこない』も2体生き残っている。
だが、それはもう問題ではない。
こいつを取り込めば、彼はもっと強くなれる。

こいつの力を手に入れ、『できそこない』を一掃し、
アダムとその分身を滅ぼせば『神』になれる。
待ち望んでいた時がやってきたのだ。





「エヴァの直下にパターン青!」
「パターン青だと!
 惣流、危ない!
 よけろ!」

その瞬間、地上から何かが照射された。

「アンチATフィールドを確認!」
「何ぃ!?」
『きゃあー!』
「エヴァを直撃。侵食されます。」
『いやぁ。ち、力が吸われてくー。』
「エヴァ、出力低下。シンクロ率が急激に下がっています。」
「汚染域、拡大。」
『ダメ、こないでぇーーー!』
「羽根が消えます!エヴァ、落下中。」
「トウジ!」

四号機に援護に向かうように指示を与えようと連絡をとる。
だが、即座に返事が帰ってきた。

『なんや。今、忙しいんや。』

トウジの相手にしている使徒はパワーこそないが、非常に素早かった。
上空からの観察ではそうは見えなかったのだが、それは擬態だった。
技ではなく、力で押し切るトウジには苦手のタイプだ。

「アスカが危ないんだ。
 そいつはいい。
 取りあえずは忘れて、急いで救援に向かってくれ。」
『そないなこと言われても...、ええい。』

使徒の攻撃をなんとか紙一重で躱しながら、返答するトウジ。
隙をうかがって離脱するしかないが、状況がなかなかそれを許さなかった。
上から見ていても、それはわかった。

「なんとか隙を作れないか今からやってみる。
 頼んだぞ、トウジ。」

それから艦内で彼をアシストしているミホに向かって、

「荷電粒子砲、発射準備はできてるな。」
「は、はい。」

金星軌道に入る前から、ワルキューレの即応態勢は常に維持されてきた。
荷電粒子砲はワルキューレの身を護る唯一の武器だからだ。

「目標、地上のエヴァ四号機。」
「えっ。」
「大丈夫だ。金星の濃密な大気による減衰率を考えるとダメージはないはずだ。
 だが、目くらまし程度にはなる。」
「はい。」
「照準、いいな。良し、発射。」





「おっ、なんや?」

なんの警告もなしに、それは彼の元に届いた。
まず電子の流れがエヴァ周辺を広く覆い、
次いでイオン化された大気中の成分がパチパチと弾けた。
分厚いATフィールドの鎧に守られた彼のエヴァには傷一つつかなかったが、
一瞬だけ使徒の動きが止まった。

「チャンスや。よっしゃ。」





「良し、うまくいったぞ。
 再充填、急げ。目標は....」

だが、貴重な時間がそれに費やされてしまった。
伍号機をモニターしているオペレータの報告がケンスケの命令に被さった。

「シンクロ率が起動限界より低下します。」
「エヴァ伍号機、S2機関停止。」





「あかん。間に合わん」





エヴァの瞳が徐々に輝きを消していき、ついに消えた。
エヴァ伍号機はゆっくりと穴の底に落ちていった。
使徒の待ち受ける蟻地獄の中心部に向かって。

「これで、終わりなの。
 シンジ....。」

窪みの奥底で、使徒が顎を広げ待ち構えていた。





その時、

「エヴァ伍号機周辺に高エネルギー反応!」
「何?!」
「10、20、30..50憶ジュール!なおも猛烈に増大しています!」
「エヴァは?惣流は?」
「まだ無事です。」
「すぐに離脱するよ...」
「もうやってます。でも、連絡が取れません!」





「な、何よ、これは。」

その異変は、正確には彼女と使徒のちょうど中間で起きていた。
無論、反射的にレバーをひいて逃げようとしたのだが、
使徒のせいでシンクロを妨害されている現状ではどうしようもなかった。

「動け、動け、動け、動け。動いてよ〜!」

異変の中央に、何かがいた。
目には見えない存在を感じ取った。
それは凄まじく強いATフィールドを発しはじめた。

「使徒?いえ、この感じ、違うわ。
 じゃ、何なのよ〜。」





「強力なATフィールド発生。
 エネルギー場が収束していきます。」
「何だ、アレは?」

黒い球体が突如としてエヴァ伍号機のすぐ下に現れた。

「黒い球体の様ですが....。」
「そんなことはわかっている。問題はその正体だ!」
「データに有りません!」
「球体を中心に強い時空震!」
「ソレノイド場、エヴァのS2機関と共鳴しています!」
「なんだって?!」
「バカな。これ以上は空間が維持できるはずは....。」
「すぐにはじけるぞ!時空が崩壊する!」





半ばパニックに落ち入りかけているオペレーションルームの片隅で、
彼女の意識はかえって鋭く研ぎ澄まされていた。

『ディラックの海?いえ、違うわね。
 もっと大きなエネルギーを感じるわ。
 じゃあ、マイクロブラックホール?
 それを、ATフィールドで支えているというの?
 でも、そんな事ができるのは....』

少なくともヒトにはできない。
いや、使徒にだって不可能だろう。
これだけの力、できるとすれば正に神、か。

『時空特異点....ワームホールを開こうというの?
 ワームホールを抜けて、異世界から侵入しようとしている...。
 でも、何者が!?』

「何かいます!」
「あれは!」

黒い球体が中央から真っ二つに裂け。
切れ目から眩いばかりの光があふれ出る。
そして、その光輝を纏った人型がゆっくりと姿を現した。

『アレは...、光の巨人。やはりアダムか....。』

それは、彼女が25年も前に目撃した光景と良く似ていた。
セカンドインパクト。彼女はその時、南極にいた。
4枚の羽根を持った光の巨人。最初の使徒、アダム。
彼女の父、葛城博士率いる科学者の一団が、過って目覚めさせてしまったモノ。

次第に光が薄れはじめた。
やや俯き気味の姿勢から弾けるように立ち上がり、
そして、羽根が開いた。
あの時、一瞬で南極を死の海に変えた時のように。

だが、羽根は12枚あった。

『いえ、違うわ。アレは....』



「ウソ!」

それを至近距離で目撃したアスカにはすぐにわかった。

「フオォォォォッーーーーーー!」


金星の大地に、紫の装甲に身を固めた巨人の雄叫びが響き渡った。







次話予告



「次号のタイトルは『導かれしモノ』だってさ。」
「随分となつかしいね。」
「知ってるの、カヲル君。」
「知らないものはないさ。
 DQシリーズはエ○ックスが産んだファ○コンソフトの極みだよ。」

「ふーん。ま、アタシにはセ○サターンがあるから関係ないけどね。」


「それじゃお約束だけど、配役を今から決めるわよ。
 私はね〜、美人の踊り子で攻撃魔法の使い手。マーニャよ。」

「漢やったら黙って戦士。ライアンはワイで決まりやな。」
「じゃ、アタシがホイミンをやってあげる。」
(トウジがトルネコだったら、アタシがかわいい奥さんになって
 毎日おいしいお弁当をつくって上げられたのに。)

「綾波は、ミネアって感じがする。」
「あ、ありがと。」
「ちょっと、バカシンジ。わたしはアリーナにするから、アンタはクリフトに決定。
 文句ないわね?」

「はい、それでいいです。」
(ま、たしかに武闘家の鉄砲娘のお姫様って、ピッタリだよ。)

「なんか言った?」
「いえ、なんでもないです。」
「もう一人、お付きの爺さんがいたわね。じゃ副司令、ブライをお願いします。」
「何で私が。」
「冬月は爺さんだからな。」
(覚えていろ、碇。)


「僕はデスピサロだね。シンジ君が倒しに来るのを待っているよ。」
「じゃあ、私はロザリーをやらせてもらうわ。
 涙を宝石に変換するのなんて、空中元素固定装置があるから簡単よ。」

(いや、ロザリーはもうちょっと若い子の方が....。)
「あら、何か言ったかしら?ちょっとでもバーサンとか言ったら、
 進化の秘法の人体実験の第一号にしてあげるわよ。」



「主人公がまだ決まってませんね。」
「チャーンス。」 ← オタッキーなトルネコに決定
「チャーンス。」 ← トルネコに雇われるメガネの傭兵
「チャーンス。」 ← トルネコに雇われるロン毛の吟遊詩人


「今、主人公になると、もれなく無愛想な木こりの父親がついてくるぞ。」
「マヤちゃんに譲るよ。」
「いいえ、加持さんこそどうぞ。」

「泊るんなら早くしろ。でなければ帰れ。」




次回、第二十一話

  「導かれしモノ」



「あらあら。困った人たちだこと。
 全然次号予告になってないけどいいのかしら。」






第二十一話 を読む

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