Star Children 第三部

「Final Imapct」(6)

by しもじ  







目の前に一人の少女が裸で立っていた。
私は少女に話しかけた。

「アダムは既に私と共にある。
 ユイと再び会うにはこれしかない。
 アダムとリリス、禁じられた融合だけが。」

少女の左腕が音を立てて落ちていく。

「時間がない。
 ATフィールドがお前の形を保てなくなる。
 はじめるぞ、レイ。
 ATフィールドを、心の壁を解き放て。
 欠けた心の補完。
 不要な体を捨て全ての魂を今一つに。
 そして、ユイの元へ行こう。」

私は右腕を前に伸ばす。
少女の胸に手が触れた。

「うっ」

開いた指で彼女の乳房を軽く鷲づかみにすると、
少女が小さく声をあげた。
私の手はそのまま吸い込まれる様に少女の体内に沈みこんだ。

「この時のためにお前はあった。」

その時、上方でかすかな気配が感じられた。
老人達が動きだしたようだ。

「事が始まったようだ。
 さあ、レイ。
 私をユイのところへ導いてくれ。」

少女が目を開いて私を見返した。
真っ赤な瞳。
穢れなき、聖なるモノのみが持つ瞳。

私はその瞳の前に動けなくなった。
右手が埋まっている少女の下腹部が妖しく蠢いた。

「まさか!?」
「私はあなたの人形じゃない。」

次の瞬間、私の腕は少女の身体に取り込まれていた。
肘から先を奪われて私は後じさった。
痛みより大きな衝撃を私は感じていた。

「なぜだ!」
「私はあなたじゃないもの。」
「レイ!」

少女は彼に背を向けた。
その視線の先には、生命の源、リリスの巨体があった。
そのままリリスに向かって宙に上がっていく少女。

「頼む!
 待ってくれ、レイ!」
「だめ。
  碇君が呼んでる。」
「レイぃーーー!」





「また.....、この夢か。」

自分の叫び声で、私は目を覚ました。
小さな、真っ暗な小部屋。
そこで、机に向かって座ったまま寝てしまっていたようだ。
最近、また悪夢にうなされるようになった。
それも決まってこの夢だった。

20年くらい前にも、私はしばしば悪夢にうなされた。
その頃見た悪夢は、今のとは違っていたが。
愛する女性が目の前で消えていく夢だった。
私は何もできなかった。
彼女を救えなかった。
彼女は微笑みながら、エヴァの中に消えていった。

その夢を見るようになってからしばらくして、
人類補完計画にもう一つの意味が加わった。
あの日、冬月先生にそれを告げた日から、私は変わった。
悪夢は消えなかったが、耐えることはできた。

そして、10年前。
『その時』のために私は総てを投げ打っていた。
計画の遂行に利用できるものはすべて利用した。
人非人、と罵られようが気にしなかった。
その方がかえって都合が良かった。
怖かったから。

今ならそれが理解できる。
私は計画を隠れ蓑にして、ただ逃げていただけなのだ、と言う事に。
他人から、シンジから、そして、自分から。

今は違う。
もう逃げないと誓ったのだ。
LCLの海から戻ってきた時に。
ユイと再び逢えた時に。
レイが生まれた時に。
シンジが目覚めた時に。

そう。私は逃げない。

「初号機が目覚めたか。
 良くやったな、シンジ。」

どうやら始まったようだ。
ならば、そろろそ来るか。

「アダムよ。次はお前の番だ。」

だれもいない、ターミナルドグマ。
リリスの柩へ抜ける唯一の入り口。
ドアが開いた。

「待っていたぞ、お前が来るのを。」

私の視線の先にあるのは、二人の幼い少女。
シルエットが、差し込む光の中に浮かび上がった。






















第二十二話


ラ  グ  ナ  レ  ク
「神々の黄昏」























赤い光に包まれて真空中に浮かぶ男が一人。
その遥か足下で紫の巨人が雄叫びを上げていた。
男がその空間にポッと湧き出したのは、初号機が現れた3秒後の事である。

「ギリギリで間に合ったか。
 だが、シンジ君。厳しいのは、これからだぞ。」

その見上げる先にあるものは....。









「アスカ!」

エヴァごとアスカに抱きつきに行きたい気持ちを抑え、
シンジは180度身体の向きを変えて強固な壁を下方に向けて展開した。
紅いエヴァを自らのATフィールドでしっかりと支えた上で。

使徒から放射されるアンチATフィールド。
紫のエヴァが展開したATフィールドがそれを阻む。
自らを盾として、伍号機を、アスカを守るつもりだった。





「映像回復!伍号機とは回線繋がりました。」
「再シンクロ、準備急いで。
 それと記録は全部とっておいて下さいよ。
 あとで必要なんだから。」

間に初号機が入ったことによって伍号機の状況は改善された。
幸い、機能・構造ともに致命的なダメージは一切受けてなかった。
今はまだ初号機のATフィールドに支えられているが、
シンクロさえ回復すれば自力で飛翔することだって可能な筈である。

「エヴァ初号機内部にS2機関を確認。」
「パターン青!使徒の反応があります。」
「でも、あれはシンジだ。シンジなんだろ?」

初号機からの内部映像は送られてきている。
だが、まだ双方向通信のチャネルは開かれていない。
昔とは規格に互換性が無くなってしまったためだ。

「連絡は...つくんだな?
 ああ、昔の初号機のデータならある。
 ミホ、パッチ急いで。」
「今やってる!」
「出力...、ダメです。計測限界を超えています。」
「ATフィールド、推定でエヴァ伍号機の100倍以上。」
「なんて力だ。」

これが真のエヴァンゲリオンの力だというのか?
初号機の段違いの力にケンスケは絶句した。
地球でアスカの四号機が暴走した時、誰もがエヴァに恐怖を覚えたが、
あれでもこれに比べれば全然大した物ではない。

「マズイ!押されているぞ。」
「使徒からのアンチATフィールドの侵食、止まりません。」
「これだけのATフィールドでもだめなのか?
 まだパワーが足りないと言うのか?」

使徒とのほぼ中間点に青くまぶしく輝く絶対障壁、ATフィールド。
だが、相転移空間の界面には相変調による発光パターンが観測されていた。
アンチATフィールドが着実に初号機のATフィールドを侵食している証拠だった。

『パワーとかそういう問題ではないわ。
 アンチATフィールド、その侵食を阻むことは原理的に不可能。
 いえ、ATフィールドが強ければ強いほど逆に...。
 むしろ、よくここまで初号機が抑えている、と言うべきね。』
 
ミサトの声は、喧騒にまぎれて誰にも気付かれない。

『でも、いくら初号機でも、時間の問題か。』

今、シンジは17通りのATフィールドをランダムに放ち、使徒に対抗していた。
ベースが同じアダムである以上、わずかずつではあるが押されるのは仕方がない。
が、このまま行けば、の話である。
ミサトとは違い、シンジはまったく焦っていなかった。
彼は信じて待っていた。

「伍号機、シンクロ回復します。」
「よし、惣流。行けるか?」
『もっちろん。
 シンジ、今、助けるわ。』
「武器は?」
『プログナイフ。これで十分よ。』

伍号機の目が光った。

通信はまだ回復していなかったが、意思の疎通に不足はなかった。
アスカがプログナイフを構えた途端、シンジはATフィールドを完全に解いた。

加速をつけて落下するエヴァ伍号機。
勿論、その真下には、あの使徒がいた。

『でぇりゃああああ。』

直撃。

爆発。

舞い上がる砂塵。

「やったか!?」
『いえ、まだ。
 今のは手応えがなかった。』





(シンジ君?)
(意外と速いわ。)
「わかってる。大丈夫。」

アンチATフィールドから解き放たれた初号機が右腕を身体の横に開いた。
すると、そこに巻きついていた紐のようなものがスルスルとはずれ、
一本の棒になって右手に握られた。

「ごめんよ。」

軽く振りかぶった初号機から投げられたそれは、
伍号機から500m程離れた大地に向かって飛んでいった。

そこに、使徒の本体がいた。





そのモノが空間の裂け目から現われいでたる時、
『それ』はすべて終わった事を悟った。
そのモノは、それ程までに圧倒的存在だった。
それから後の抵抗はただの形式上の意思表示に過ぎなかった。
生に対する執着。

最後にそのモノの放つ光に触れた時、
感じたのはむしろ安堵感だった。

そうか。これで『私』も還れるんだ。

充ち足りた空気に包まれて、『それ』の躰を槍が貫き、
パシャン、と音を立てて『それ』は命のスープに還元された。

もっともリリンに近く、それゆえに封印された『それ』はこうして消えた。





「も、目標、せん滅。」
「い、今のは...何ですか?」
「槍...。
 とすれば、ロンギヌスの槍、そのオリジナルか。」

  サードインパクト後に行方不明になっていたロンギヌスの槍。
  やはり初号機と共にあったか。
  だとすれば、今後の鍵を握るのはやはり初号機。
  そして、シンジか。

「初号機とのコンタクトはまだか?
 双方向回線は?
 早くシンジと話がしたい。」
「こっちだって全力を尽くしてるの。
 横でごちゃごちゃ言わないで。
 気が散るじゃない。」
「あ、スマン、ミホ。」

その時、スクリーンに新しいウィンドウが開き、アスカの顔がアップで映し出された。

『何やってんのよ、相田。
 まだシンジとは繋がんないの?』
「こっちだって、急いでやってるんだ。
 もうちょっとぐらいじっとして待ってろよ、もう。」
『待てないから、こうやってるんでしょ。
 あー、もう。じれったいわね。
 いい。もう頼まない。』
「頼まないって、どうするんだよ、惣流?」
『こうするのよ!』





エヴァ伍号機が再び空に舞いあがって初号機に飛びついてきた。
シンジは初号機のATフィールドをゆるめ、アスカを受け入れた。
そして逆にATフィールドを広げて、二体のエヴァを包み込む。

  ああ、アスカだ。

通信は依然として途絶したままだが、ATフィールド越しにアスカを感じられた。
それに、紅くペイントされた伍号機は、さすがに同じ生産型エヴァだけあって、
かつて初号機とともに戦っていた弐号機そっくりだった。

と、伍号機の両腕がしっかりと初号機の肩をホールドした。
何をするんだろう、とシンジが思っていると、

プシュー。

エントリープラグがエヴァ伍号機の躯体から突き出された。
LCLが緊急排出されたポッド内から、ヘルメットをつけたヒト型が飛び出してきた。
標準の安全確認手順が守られたとはとても思えない行動の速さだ。
シンジはあっけに取られてただ見守るしかなかった。

『シンジ!ここを開けなさい!』

あっと言う間に初号機のプラグ排出口に辿り着き、
備えつけられた非常用通話機を使ってアスカが命令した。

(なんでこんなに早く来れるんだよ?)
(愛の力ってやつじゃないのかい。)
(だけど...、どうやって?)
(目立たないけれどエヴァの装甲板にはタラップがついているわ。
 それを使って肩まで登り、エヴァの腕の上を歩いてきたのね。)
(いや、彼女は走っていたよ。)
(落ちたら間違いなく死んでいたわ。)
(驚嘆に値するね、彼女の行為は。)
(あんまり無茶しないでよ....アスカ。)

初号機の中で心で会話するシンジ。

(で、どうするんだい、シンジ君。)
(入れてあげるの?)
(どうするって言っても、しかたないだろ。
 入れるわけにはいかないじゃないか。)

なかなか応答が無くてアスカは焦れる。

『シンジ!
 聞こえてるんでしょう?
 出て来ないなら、引きずり出すまで!』

ヘルメットの拡声器、そして通話機の回線越しだが、
久しぶりに聞く、そして一時は二度と聞けないことを覚悟した彼女の声。
返事も忘れてシンジは彼女の声に聞き惚れていた。

(これがセカンドチルドレン、惣流アスカ=ラングレーかい?
 可愛くないね。)
(そんなことないよ。)
(弐号機パイロット...変わっていない。)
(そうだね。)

『三秒後にプラグを強制射出。
 衝撃に備えて。
 いいわね、シンジ。』

そしてアスカは受話器の横のカバーを開き、強制射出のボタンに狙いをつける。

(いいのかい、シンジ君?)
(えっ、い、いや、マズイよ、カヲル君。
 止めないと...。)
(それは彼女に直接言ったほうがいい。
 それもできるだけ早くしないとね。
 もう、彼女の手はボタンにかかってるよ。)
(あ、ああ。そうだね。)

急いでシンジはマイクをオンにする。

「アスカ!
 待って。マズイんだ、今は。」

  ああ、シンジだ。
  シンジの声だ。
  帰ってきたのね。
  来てくれたのね。
  ああ....。

とは思っても、素直ではない彼女の性格は変わっていない。

『こらー、バカシンジ。
 今までどこをほっつき歩いていたの。
 心配したんだからね。』

  ホント、心配したんだから。
  もう二度と逢えないと思ってた。
  アンタの後を追って、アタシも...。
  そう考えた事だってあったんだから。

『四の五の言ってないで、とっとと出てきなさい!』

  早くシンジの顔を直に見たいのよ。
  早くシンジを抱きしめたいのよ。
  早くシンジを感じたいのよ。

「ゴメン。出て行けないんだ。」
『なんでよ。』

  アタシの顔を見たくないの?
  アタシの身体を抱きしめてはくれないの?
  アタシに感じさせてはくれないの?

『はっ、まさか....!?』

  そうよね。六ヶ月も離れ離れだったんだもん。
  何があったって、おかしくないよね。
  アタシはシンジの事、忘れたことなんてなかったけど...。
  いいのよ。アンタに何があったって。
  私はシンジを愛してるんだから....。

勝手に想像して悩みだし、深刻な顔をするアスカ。

「アスカ、何考えてるんだよ。
 出られない理由は、ボクがプラグスーツのまんまだって事だよ。
 こんな通気性の高い服で外に出たら、即死しちゃうよ。」
『あ......。』

シンクロを高めるため、プラグスーツは極めて浸透性の高い素材で造られていた。
裸の状態よりもさらに効率良くLCLを皮膚に接触させることができるのだ。
アスカ達の新しいスーツは教訓をいかして簡易宇宙服としても使えるように、
分子選択膜を利用した新素材で造られているが、昔のはそうではない。

「だからさ、今は出られないんだ。
 ゴメン。」
『シンジ....。』
「ホントは今すぐに出ていって、
 アスカに飛びついて、
 アスカに一杯キスして、
 アスカを思いっきり抱きしめたいんだけど....、
 本当にゴメン。」
『シンジ、シンジ、シンジィーーーー!』

アスカはあられもなく泣き出した。
通話機越しに、それを必死でなだめようとするシンジ。



(ま、その気になれば射出なんか簡単に拒否できたんだけどね。
 そうだろ、綾波レイ。)
(ええ。)
(だが、取りあえず今は僕達はお邪魔のようだ。
 少し二人きりにしておいてあげようか。
 それでいいだろ、君も。)
(それが...碇君の望みだから...)



・・・・十分経過・・・・・



『さて、お二人さん。そろそろいいかな。』
「ケンスケ!」
「あっ、相田。いっ、いつから聞いてたのよ。」

二人の蜜月状態に、割込んでくる無粋な声。
アスカの無線は切っており、彼らに聞かれるはずはなかった。
だから声は外から、正確には初号機から聞こえてきた。

『そうやな、「こらー、バカシンジ」ってとこからやったか、ケンスケ。』
『ああ。ちょうどその辺だね、双方向回線が通じたのは。』
「げっ。」

初号機の作る結界の外側で、黒いエヴァ四号機も遊弋していた。

『安心しろ。途中から無線は切っておいた。
 勿論、地球への転送もブロックしておいたからな。』
『そのままやったら、全部筒抜けやったんやど。
 感謝しいや、センセ、惣流。』
「あ.....」
「ありがとう、ケンスケ、トウジ。」

シンジが結界を解くと、四号機が接近してきた。

『ほれ、乗れや、惣流。』

背中に手を回してアスカを乗せ、伍号機のエントリープラグまで運ぶ。
アスカが再エントリーを済ませると、ケンスケが言った。

『さてと、シンジにはいきなりで悪いんだが、まだ実戦中なんだ。
 詳しい状況はあとで説明するとして、まだ使徒は2体残っている。』
「ああ、わかってるよ。」

本当にわかってるような口ぶりで、シンジは答えた。
それは、ケンスケの先程からの疑いを確信に変えるには十分だった。
だが、敢えてそれは口に出さなかった。
そして、努めて軽い口調で言った。

『そうか、ならいい。
 ちゃっちゃと終わらせて、ちゃっちゃと帰ろうぜ。
 みんなの待っている地球に。』
『ああ、そうやな。』
『ええ。』
「うん。」

残り二体の使徒を倒すための指示をケンスケは出した。
だが、それで終わりではないことは彼にもわかっていた。
勿論、シンジもそれを知っていた。









ゲンドウは立ち上がった。
少女たちの行く手を阻むように、部屋の中央に立った。
スチャッと左手でサングラスの位置を直してから、
侵入者を睨みつける。

「どこに行くつもりだ、アダム。」

二人の少女。
背が高く髪の長い方の少女が碇レイ。
そのレイのスカートを右手で掴んでいるのが短髪の子供が碇アイ。

「その娘を放せ、アダム。」

レイは両手であるものを抱えていた。
重いはずなのに、ちっとも重さを感じさせていない。
ゲンドウの視線の先にあるのは少女たちではなく、そのモノだった。

「人質など、お前には不要なはずだ。」

少女たちにもゲンドウの言葉は聞こえている筈なのに、無反応だった。
彼女たちの歩みは止まらない。
もう10m程にまで、ゲンドウに接近していた。

「どうした。言葉がわからないわけでは無いのだろう?」

返答はなかった。 だが、初めて反応が帰ってきた。

「くっ。」

直後、ゲンドウの身体を圧力が襲った。
強風にはじかれるように、一歩後退した。
だが、そこでゲンドウは踏みとどまった。

カチャン

サングラスが顔からはずれ、音を立てて床に落ちた。

「こけおどしか、アダム?」

再び体勢を整えなおして、不動の姿勢でアダムを睨みつけた。
射るような鋭い視線が、ゲンドウの紅い瞳から放たれていた。

少女たちの歩が止まった。

(何故だ。何故、私の命に従わぬ。
 お前は....私の僕。)

アダムの返事はゲンドウの脳に直接送られてきた。
投射されたイメージは脳というフィルターを通じ言語化される。
その反応には戸惑いの色が強く感じられた。

「違うな。私は私だ。」

ゲンドウは断固たる意思によってそれに答えた。

(哀しむべきリリンの末裔よ。
 アダムより生まれしモノは、アダムに還るのだ。
 さあ、我に従え。)
「私はお前の人形ではない。」
(お前は私だ。アダムの僕だ。
 不完全な群体として生まれ、機能できずに滅びゆくリリン。
 我が分身を自ら取り込み、僕と化したお前に何ができよう。)
「ヒトの意思は、常に新たな可能性を生む。」

返事のないアダムに対し、ゲンドウは一歩進み出た。
これで最初の位置に戻った。

「もう一度言う。その娘を放せ。」
(だめだ。これらは必要なのだ。)
「憑代と、扉か。」
(そうだ。)

25年の歳月を経て復活したとはいえ、アダムもまた完全ではなかった。
肉体(ボディ)は既に失われ、精神はこの下等な動物の中に押し込められている。
この状態から抜け出し、再び楽園を作り出すのに必要なもの。
『混沌の母』リリスとの再融合による新たなる創世を彼は求めた。
それにはまず本来の力が必要だ。

「アダムよ。お前の時代(とき)は終ったのだ。」

だがその瞬間、ゲンドウは闇に閉じ込められた。









「よーし、精密機械だからな。パイ君、慎重に頼むぞ。
 そーっと降ろしてくれ。」

ジオフロント地下で静かな戦いが開始された頃、
地上では大規模な突貫工事が行われ、完了しつつあった。

「心配しなくとも大丈夫ですよ、村雨さん。」

最も速く確実な輸送手段としてJAが徴発され、
松代の実験場から発電用S2プラントが運ばれてきた。

「これであとはATフィールド発生装置が間に合えば、問題なしですね。」
「まだ、稼動試験もしていないのよ。
 安心できないわ、サキちゃん。
 それに....。」

たとえ全てがうまくいったとして、果たしてアダムに通用するか...。
マヤはその言葉を飲み込んだ。
とにかくもう彼女にできることは限られていた。
計画を立案した段階で事は彼女の手を離れ、こうして作業を見守ることしかできない。

マヤの携帯が鳴った。

『時田です。こちらは万事順調。
 すでに完成品の搬出をはじめています。
 15分以内に2号機の据えつけが完了します。』
「あら、予定より随分と早いですわね。」
『日本重化学工業連合体の底力を舐めてもらっては困りますな。
 その製造・量産技術に関しては世界一優秀ですよ。
 もっとも、連中を本気で動かすのには苦労しましたがね。』
「やはり首相直々にお願いしたのが効いたのかしらね。」
『ああ、その件はご助力ありがとうございました。
 アレは冬月博士のアイデアだったんでしょう?』
「それは、こんな事態ですからね。
 使える影響力はどんどん使っちゃわないと。」
『全くですな。
 それはそうと、例の計画。
 承認されたそうですよ。』
「ホントですか?」
『ええ。その日重経由の情報なんですが、
 中国は早速もう取り掛かりはじめたそうです。』
「それは心強いですね。」
『ええ。この分だとオペレーション・ラグナレク、いけるかもしれませんね。
 地球規模のATフィールドネットワーク。
 実現すれば、まさに人類のキボウの光ですな。』
「あくまでも間に合えば、の話ですけどね....。」









『碇。君は志を同じくする同士であり、またよき友人であった。』
『だが、神に逆らおうとするとは、いかん、いかんよ。』
『左様。ヒト、すなわちリリンとしての分をワキマエたまえ。』
『我々が神になる必要はないのだ。』
『君はシナリオに従って動けばよい。』

暗闇の中に浮かぶ五組の机。
そこに座る五人の男たち。

『ATフィールドが崩壊すれば、人類に望みはない。』
『それを乗り越えるすべはないのだ。』
『それを防ぐ手だても人類には無い。』
『だが、アダムは別だ。』
『左様、人類はアダムと共に補完される。』
『今こそアダムを解放するのだ。』

人類補完委員会....、すなわちゼーレ。

「アダムに取り込まれることによってですか?」

『そうだ。....いや、そうではない。』
『アダムを取り込むのだよ、我々が。』
『神もヒトもすべての生命が一つになるのだ。』
『ヒトは、新たな世界へとすすむべきなのだろう、碇ゲンドウ?』
幻影、と考えるにはすべてがあまりにも生々しかった。

『滅びの宿命は新生の喜びでもある。』
『そのためのアダムであり、そのためのリリンなのだ。』
『碇ゲンドウ。お前が気にする必要はない。』
『全てはシナリオ通りに。』

「だが、誰のシナリオですか?」

間。

重い静寂が十数秒の間、あたりを満たした。

『勿論、アダムだ。』

中央の座を占めるバイザーの男がそう言って、
そして消えていった。

暗転。

「こけおどしの次は、子供だましか?
 もう少しマシなものは見せられないのか、アダム。」









「日向マコト国連特務次官。
 貴官を逮捕する。」

憲兵10人を引き連れて、突然青葉シゲルが侵入してきた。
そして、令状とおぼしきものを見せながら言った。

日向マコトは落ち着き払って立ち上がると、
10年来の友人には目も向けず、令状を受け取って読みはじめた。

「ハーグの国連司法裁判所でこれが承認されたのが今朝の1時か。
 だいぶ急いだな。」
「ジェット戦闘機でここまで運んでもらった。」
「やるな、シゲル。」

そして、机の上に令状を置いて、親友の目を見据えた。

「おとなしく、ついてきてもらおうか。」
「ついていくのは別に構わないさ。
 だが、その前に...」

トントンと軽く指で机の上の令状を叩く。

「こんなことをして、後で後悔するぞ。」

お前を止められなかった事で、もう十分後悔しているさ。
とは青葉シゲルは口に出さず、そのまま親友の目を見つめ返した。

「証拠はあるのか?」

マコトが尋ねる。

「ああ。ガブリエ・ロックフォードが全部吐いた。」
「北米連合の前大統領閣下か。無様なものだな。」
「だが、お前の仲間の一人だ。」
「彼女は俺の仲間じゃない。」
「そんな言い訳が通ると思うか?」
「さあな。だがそれを決めるのはお前じゃない。裁判所だ。」
「それはそうだ。」
「それに....」

そう言って、マコトは再び机を回り、椅子に深く腰かけた。
おとなしく逮捕されようとする者の態度ではなかった。

「これが発行されたのはかれこれ10時間以上前だ。
 その間に事情が変わっているかもしれん。
 最後にもう一度、この令状を承認した裁判官に連絡することをお薦めするよ。」
「その必要はない。」

シゲルの拒絶をマコトは無視した。

「そうだ。ここの電話を使いたまえ。
 ついでだから、君の手間を省いてあげよう。」

そう言って、知るはずもない裁判官への直通電話をマコトはダイアルし始めた。









暗闇の中に再び浮かび上がる人影。
今度は女性だった。

『ゲンドウさん.....。』
「赤木...ナオコ博士....?」
『碇司令....。』
「赤木....リツコ君。」

かつて、ゲンドウが愛し、利用した女。
あの頃のように白衣を着て、彼に近づいてくる。

『計画はすべて順調ですわ、碇所長。』
『あとは碇司令がアダムを解放すれば.....。』
「あ、赤木博士...。」
『あら、どちらの赤木博士かしら?』
『母さん?
 それとも私?』
「な、何故だ....、何故、君達が...?」
『あら、私達では御不満かしら?
 もう昔の様に抱いてくれないの?』
『また私を、優しく、激しく、包んで下さい。
 私の心を溶かしてください。』

新たな人影がゲンドウの背後に現れた。

『でも、いらなくなったらまた捨てるのね。』

ゲンドウは振り返った。

「レ、レイ?」

蒼い髪、紅の瞳の少女、綾波レイ。
穢れ無き瞳は、瞬きもせずに彼を見つめている。

『ぼくも、いらなくなったから捨てたの?』

そのとなりに、少年が現れた。

「シン....ジ?」

それは、14才の、あの頃のシンジだった。

『でもいいのよ。私たちはそれでもいいの。
 あなたが私を抱いてくれるのなら、それでいいの。』
『そしてアダムと共に行きましょう。』
『私達と一つになりましょう。』
『アダムの中は、とてもあったかいんだ。父さん。』

ゲンドウは4人に囲まれた。
混乱を振り払おうと、必死で考える。

「お前はシンジではない。シンジは成長した。
 レイ。お前は初号機と共に行ってしまった筈だ。
 ナオコ博士は15年前に身を投げて死んだ。
 リツコ君。君はあの時に....私が....殺した。
 これは...すべて幻だ....。」

だが、帰ってくるのは否定の言葉。そして否定の視線。

『何を言っているの、父さん。』
『あなたが私を殺した?
 では、ここにいる私は何?』
『私はずっとあなたを見守っていたわ....、マギの中で。』
『......。』

赤木リツコが一歩前に進み出る。

『でも、幻であることもまた事実。』

シンジが言う。

『父さんの夢なんだ。』

これは綾波レイ。

『現実と夢の狭間の世界。』

最後に赤木ナオコ。

『サードインパクトは、終わってないのよ。』
「なに?!」

その時、モノリスが次々と現われて5人を囲んだ。

『今は西暦2015年7の月。』
『人類補完計画は依然進行中なのだよ。』
『君はその被験者なのだ。』
『リリスの覚醒と初号機の力の解放によりガフの部屋が開かれた。』
『我々の計画はすべて順調に進んでいる。』
『これもみな、君の協力の賜物だよ、碇君。』
『リリスはアダムを拒否し、リリンを選んだ。』
『魂の解放。それが人類の補完される道。』
『まもなく、計画は次の段階へと移行する。』
『アダムを明け渡したまえ。』
『オリジナルを解放するのだ、碇。』
『それが我々の、すなわち君のシナリオではないか。』

モノリスが消える。

『母さんに、会いたくないの、父さん?』
『それがあなたの望みだったのでしょう?』

シンジとレイが交互に口を開く。

『人は一人で生きてはいけないものね。』
『だから補完される必要があると、
 あの時も、あなたはそう言ったわね。』

赤木親子もゲンドウに言う。

『心を開いてよ、父さん。』
『ATフィールドを解放して。』
『受け入れるのよ、碇所長。』
『ヒトの心を。』

四人が一斉に言った。

『 『 『 『 アダムを。』 』 』 』

度重なる記憶への干渉と、矛盾した情報の導く混乱。
そして、ゲンドウは自分が堕ちていくのがわかった。
薄れつつある意識の中で、声が響いた。

(さあ、受け入れよ。
 これがお前の望んだ世界だ。)









最後に残った二体の使徒は簡単にやっつけられた。
潜在能力は最も高いが計算外の戦力である初号機を予備に残して、
先程までトウジが相手していた使徒にアスカの伍号機が、
残った方にトウジの四号機が向かった。
シンジの初号機はその中間の位置で待機していた。

予備戦力があると思うと随分と心強かった。
最初にトウジがポジトロンライフルの近接射撃で使徒を撃破した。
アスカの方は少してこずったのは事実だが、
結局はスマッシュホークで一刀両断してのけた。



  はっ!

突然、ミサトはそれを感じとった。
急いで観測機器を確認する。
それはなおも急激に加速しながら、
異常なまでのスピードで金星に接近しつつあった。

  ナニよ、なんでこんな所にいるのよ。
  はっ、誰も気がついていないの?
  みんな地上の戦闘に気を取られすぎてる...。
  マズイ。

もはや自分の事に構ってはいられなかった。
ミサトは躊躇もせずに回線を乗っ取って、初号機、シンジに警告を発した。

『シンジ君!
 よけて!』





(シンジ君、来たよ。)
(うん。わかってるよ、カヲル君。)
(碇君、イヤなら行かなくても良いのよ。)
(違うよ、綾波。
 ボクは行きたいんだ。
 今度こそ、自分の手で...。
 そう決めたんだ。)





作戦室にいた相田ケンスケもその声を聞いた。

  よけて?
  誰だ?何を言ってるんだ?

『ミサトさん!』

シンジの応答が入る。

  ミサト...さん?
  葛城...ミサトさんか!?
  どういうこと...、しまった!
  黒い月が....。

初号機の目の前に、巨大な黒い物体が存在していた。

  ばかな!
  モニターはしていた筈....。
  まさか、瞬間移動?!

『戻って、シンジ君!』

  シンジ!
  何をするつもりだ....!?









「バカシンジ!」

向こうの方で大声がした。
まあ、いつもの事だ。
私は気にせずに新聞を読みつづけた。

バッシーン!

「いヤー!
 エッチバカヘンタイ、信じらんなーい!」

派手な平手の音、そして叫び声。
これもいつもの事だ。
案外と、彼女もアレが見たくてわざとやってるのかもしれない。

「シンジったらー。
 せっかくアスカちゃんが迎えに来てくれてるのに、しょうの無い子ねー。」
「ああ。」
「あなたもー。
 新聞ばっかり読んでないで、さっさと支度してください。」
「ああ。」

別に新聞ばかり読んでるわけではない。
時々はお茶もすすっている。
が、こういう時はあえて逆らわないほうが身のためだ。
ユイを相手に私が身につけた生活の知恵、というやつだ。
取りあえず、返事しておく。

「もう、いい年してシンジと変わらないんだからー。」
「君の支度はいいのか?」
「はい、いつでも。
 もう、会議に遅れて冬月先生にお小言いわれるの、私なんですよ。」
「君はモテるからな。」
「バカ言ってないで、さっさと着替えてください。」
「ああ。
 わかっているよ、ユイ。」

ドタドタドタッとシンジとアスカ君がやってきた。
そして慌てて朝飯をかき込むシンジ。
我が息子ながら、品のない奴だ。
朝食は静かにゆっくりと食べるものだ。
ちなみに私にはまだ朝のデザートが残っている。
ニヤリ。

「ほら。さっさとしなさいよ。」
「ああ。わかってるよー。
 んとうるさいんだから、アスカは。」
「なんですって!」

バシーン!

まったく、学習能力の無い奴だ、シンジは。
アスカ君もあんなシンジのどこが気に入ってるのだろう。
しかしまあ、蓼食う虫も好き好き、と言うからな。

そう言えば、こないだユイにそう言ったら、
『多分、アスカちゃんや冬月先生も同じこと言ってますよ。』
と笑って言い返された。
どういう意味だったのだろう。
ユイは時々良くわからない事を言う。

「じゃ、おばさま。行ってきます。」
「行ってきまーす。」
「はーい、行ってらっしゃい。」

やっと子供たちが出ていった。
邪魔者は去った。
さあ、二人だけの愛と官能の世界に旅立とう、ユイ。
ここはエデンで、私たちはアダムとイブだ。

ん?...アダムとイブ?
何か引っかかるな、なんだったか。
今日の会議に関係した事だったかな?
まあいい。問題ない。
会議のような退屈な物は冬月のジジイにまかせておけばいいのだ。

「ほらもう、あなた。
 いつまで読んでるんですか。」
「ああ、わかってるよ、ユイ。」

本当はもう読み終わっているのだが、まだ読んでいるふりをする。
我ながら、巧い演技だと思う。
パサリ、とページをめくる。

「ほら、あなた。」

洗い物を終えたユイがやってきて、新聞を取り上げようとした。
そこをタイミング良く立ち上がって、彼女を抱き寄せる。
私はユイのおとがいに指を軽く添え、顔を上向けた。

そして、抵抗する隙を与えず、熱いベーゼ。
      ・
      ・
      ・

「あなた〜。」
「ユイ。」

唇を離した時、ユイの口調が微妙に変化していた。
シメシメ。
今日は私の勝ちのようだ。

実は服を着替えなかったのもここまで考えてのことだ。
シワになったら、またユイが文句を言って着替えなくてはならないし、
寝間着のままのほうが、脱ぎやすくて何かと都合が良い。
小さい頃は深慮遠謀のゲンちゃん、と近所で怖れられたものだ。

もう少しで落ちるな、と見た私は、唇の端に得意の笑みを浮かべる。
初デートの時、ユイはコレがとっても『可愛い』と言ってくれた。
それ以来、私も鏡を見ながら密かに練習したものだ。
いや、これは余談だったな。

もう一度、唇を近づける。
抵抗の気配はない。

いや、逆にユイのほうから近づけてきた。
ふむ。今日はヤケに積極的だな。
ユイの身体を抱きしめている手を放し、ユイの顔に軽く添える。
ユイも私を力強く抱きしめ、それから私の顔に手を添えた。

ふたりの顔が接近する。

「ユイ....、!?」

ユイの手に急に力がかかり、私とユイの唇は密着した。

「ム、ム、ムッーーーーー。」

いつの間にか、ユイの片手が私の鼻をつまんでいた。
どんなに力を入れても、ユイを振りほどけなかった。

むぅ。息ができない。
これでは窒息してしまうではないか。
ユイ、放せ。放してくれー。

ああ、だんだん気が遠くなっていく.....。
すまなかったな、シンジ....
     ・
     ・
     ・





「ユ...イ...?」

気がつくと、私はまた、あの部屋にいた。
いや、まだあの部屋にいた、と言うべきか。
そして、私の目の前にユイの顔があった。

「ユイ?」

もう一度そう呟くと、ユイはうるんだ瞳で私を見つめる。
その唇が濡れて光っていた。

どうやら、最後のシーンだけは現実だったらしい。
いや、ユイが私を現実に連れ戻してくれたのだ。
それは間違い無い。

「あなた〜。」

私の身長にあわせるため、相当無理をして背伸びをしていたようだ。
背伸びを止めたユイは、そのまま私を抱きしめた。
思いっきり力を加えているのだろうが、痛くはなかった。

「もう戻って来ないかと思った.....」
「ユイ。」

私も彼女を抱きしめた。





辺りを見回すと、アダムたちはまだあそこに立っていた。
アダムと視線があった。
その意思が伝わってくる。

(くっ、もう一歩の所だったのに。)

超越したモノでも、口惜しく思う心は残っているのだな。

私はユイをそっと放し、そして支えてやった。
そして、アダムと、それに自分の娘達に、改めて対峙した。










「く、黒い月!」

伍号機で合流しようとしていたアスカも気づいて叫び声をあげた。

「シ、シンジ!」

その声はほとんど悲鳴に近い。

「しょ、初号機が....、飲み込まれる!?」

反対側から近づいてきたトウジもそれを目撃した。
早く使徒を倒した分だけ、より近い位置から見ることができた。

「いや、ちゃう。アレは...飛び込んでいきおった。
 シンジ...。わかっとるのか?」

初号機を飲み込んだ黒い月が脈動をはじめた。

「インパクト...始まるんか?」
「どうやら、そのようだな。防げなかったか。」

四号機と遅れて伍号機が現場に到着した。

「んなことはどうでもいいのよ。
 問題は、シンジが一人で行っちゃったってこと。アタシを置いて。」

アスカが叫ぶ。
そして、そのまま月に体当たりをはじめた。

「無茶やで、惣流。」
「百も承知!」

  エヴァ、お願い。力を貸して。
  もうイヤなの。
  シンジと居たいの。
  ママ、助けて。
  セイラ....。

エヴァの両目に光が灯る。

「ぁあああああーーーーー。」

雄叫びをあげながら、アスカはもう一度エヴァで突っ込んだ。

そして、アスカも伍号機と共に消えていった。





「なんや、惣流まで行ってもうた。」
「トウジ!」
「わかっとるで。」

トウジも気合いを入れて突っ込んでいった。
しかし、むなしく跳ね返された。

「ダメや。なんでワイじゃアカンのや?」
「くそ。何か方法は....?」
「なんや?」
「消えた? 黒い月が?」

トウジの視界から、突然黒い月がかき消すようにいなくなった。

「また、瞬間移動したのか?
 だが、どこに?」

  いいえ、違うわ。まだそこにいる。
  ただ見えなくなっただけね。
  屈折率を外界と一致させる。カメレオンの様にね。
  それほど難しいことではないわ。
  ATフィールドの力を持ってすれば。

「どないせい、っちゅうんじゃい。
 なんか手はあらへんのかいな、ケンスケ。」
「ちょっと待て。今考えてる。」

  遅いわよ、ケンスケ君。
  もう、そんなヒマは無いわ。

ブリッジに警報が鳴り響いた。

「大変です。メインコンピュータが何者かにハッキングを受けています。」
「防壁を展開。ダメです、突破されました。」
「何だって、こんな時に!」
「二次防壁、展開します。」
「逆探知、開始。」
「速いわ!でも最終防壁まで15秒。
 これだけあれば、間に合う。」

そう言って、コンソールに向かう天城ミホ。
急いで対ハッキングプログラムを打ち込みはじめる。

「二次防壁、突破。」
「最終防壁、パスワードを探っています。」
「できた。スパイダーズネット起動。
 あとはやってくるのを待つだけよ。」
「最終防壁が突破されました。」
「来ます!」

シーン。

「おかしいわ。どうなってるの?
 まさか、トラップを回避されたの?
 そんな、バカな。」
「DSS砲起動!」

別の方から叫び声があがった。

「火器管制システムか!」
「最初から、そっちが目的だったのね。」
「逆探知に成功。これは...船内です!」

  船内だと!?
  誰、いや、何者だ?
  そうか、そういうことか!

「安全装置が解除されました。」
「照準しています....目標は...エヴァ四号機。」
「マズイじゃないか!」
「まだ終わったわけじゃないわよ!
 マリオンを起動して、逆ハックで対抗します。」
「待て、ミホ。」
「えっ?」

改めて対抗措置を取ろうとしたミホをケンスケは止めた。

「ミサトさん、葛城ミサトさんですね。」

室内に向かって大声で叫ぶケンスケ。
返事はない。
代わりに船体がぐらりと揺れた。

「いつの間に、航行システムまで....。」

スラスターが噴射され、軌道が修正される。
標的に向けて艦首が回頭した。

「一番から四番まで、砲門が開きました。」
「照準完了。発射態勢に入ります。」

そこで初めて、スピーカーから声がした。

『ロンギヌスの槍を最大射程で発射するわ。
 総員衝撃に備えて。』
「やっぱりミサトさんだ!」
『3、2、1、発射!』

衝撃。
発射の反動だろう。

「全門一斉射撃されましたぁ。」
「四号機を一直線に目指してます。」
「ミサトさん!」
『ちょっち今、忙しいの。
 詳しい話はまた後でね。』
「着弾まで、あと1分と30秒。」





「なんや、このプレッシャーは。」

トウジは四号機に乗って相変わらず空中で指示を待っていた。
レーダーからも黒い月は消えており、
いくら五感を働かせても、その存在は感知できなかった。
その時、背後にぞくりとするものを感じたのだ。

『トウジ君、動かないで!』

そこにミサトからの通信が入った。

「今の声....、
 ミサトさん?」
『いいから。
 お願いだから、しばらく言う事を聞いて。』
「やっぱりミサトさんやな。」
『そうよ。
 今、槍を月に向けて撃ち込んだわ。
 動くと四号機まで巻き込まれるわよ。』
「了解。」
『槍が四号機を通過したら、すぐ後を追って。
 4本の槍の中央にゲートが開くわ。』

  コピーの槍だから、どれくらい保つか計算できないけれどね。

『おねがい、シンジ君とアスカをフォローして!
 今は少しでも助けが必要なの。』

  私が行けたら良かったのに。

「トウジ、俺からも頼む。」
「ああ。言われなくてもわかってるで。
 ワシら、ダチやからな。」
『今よ!』
「おう!」

4本の槍がエヴァのすぐ脇を突き抜けた。
トウジのタイミングは完璧だった。
四号機が超常的な瞬発力を発揮して、それに追随する。

いきなり、何も無かった空間に槍が突き立った。
正方形の頂点を占めた槍の間に稲妻が走る。
そこに、黒い閃光と化したエヴァ四号機が突っ込んでいった。

「いてまえーーーーー!」

そして、エヴァが月に吸い込まれた直後、
槍は折れて地上に落ちていった。





  行ってしまったわね。
  後はここで結果を案じているばかり、か。
  相変わらずシケた結末ね、私。

『こんな所で何やってるんだ、葛城。』
『えっ?』

突然話しかけられたその声に、ミサトは驚いた。
第17通路のカメラの前に、男は立っていた。

『お前は行かないのか?』
『や、やだ。加持...リョウジ?
 まさか...、なんで?』
『話は後だ。
 俺達も、行くぞ!』
『えっ、でも、だって....』
『そっちの事情もリッちゃんから聞いている。
 これなら、ついてこれるだろ?』

加持は自らのATフィールドを解放し、
量子フォノンの過飽和空間を形成した。
葛城ミサトの身体が実体化した。

『良し、飛ぶぞ。』
『いいわ。』



フッっと艦内の明かりが一瞬消え、また戻った。
直後に航法システムと火器管制システムの制御が復帰したことから、
ケンスケは、ミサトも行ってしまった事を知った。









「ユイ。」
「あなた。」

視線が重なる。

「アダムの力、やはり強かった。
 勝てぬまでも、レイ一人ぐらいなら解放できるかと思っていたのだが、
 逆に取り込まれてしまう始末だからな。
 お前までここに来ることはなかったのに。」
「夫婦は常に一緒にいるべきですわ。」
「20年前、その言葉が聞きたかったよ。」
「それはそれ、これはこれです。」
「ふっ。」

ゲンドウの頬がわずかにゆるむ。

「しかし、勝ち目が薄いことには変わりがないな。」

それに重なるように、アダムの思考が伝わってくる。

(その通り。今更、大した違いはない。
 そこの素体にはもう力は残っていない。)

ゲンドウもその事は良くわかっていた。
愛の力、などというあやふやなモノを彼は信じてはいない。
そう言ったものは潜在能力を限界まで引き出すことは出来るかもしれないが、
物理的に不可能な事を可能にする訳ではない。

現実問題として、ユイは自力で立っているのが不思議なぐらいだ。
ゲンドウにしても、ユイの前でなければこうして立っていられたかどうか。
アダムとの力比べで、それ程までに消耗していた。

だが、ユイは平然としていた。
そして、言った。

「あら。どうやって私がここにやってきたとお思い?」

その通りだった。
アダムに取り込まれていたゲンドウは知らなかったが、
ユイはこの部屋の唯一の入り口を通ってやってきたのではなかった。
突然、ポッとゲンドウの目前に出現したのだ。
そうでなければ、アダムも指をくわえて待っている筈がない。

「確かに、個体の維持をあきらめたとしても、あなたに対抗できる見込みはないわ。」
「ユイ!」
「大丈夫よ。そんな事はしませんから。
 あなたと一緒に行けるのでなければね。」

とっておきの微笑をゲンドウに向け、
それからアダムに問いかける。

「そんな私にあなたの結界を突破する事ができると思って?」
(何が言いたいのだ。)
「勿論、助けてくれたヒトがいたからに決まってるじゃないですか。」

ユイの答えは、続いて起こった衝撃音にかき消された。

(何だ!?)

一瞬後、アダムは少女の手から弾き飛ばされていた。
反動で、二人の少女も跳ね飛ばされる。

「レイ!アイ!」

ゲンドウが叫ぶ。

それから、気付いた。
倒れている少女のすぐ横に女性が立っていることに。

「赤木...リツコ君?」

ゲンドウは、一語一語確かめるように区切って言った。
まだ、自分はアダムによる幻覚を見ているのではないか。
そんな疑問が彼の頭をよぎった。

「この子達は大丈夫ですわ。
 手加減はしてあります。」

白衣を着たその女性が口を開いた。
それは、見間違いでも、幻覚でもなかった。

「し、しかし...、君は...」
「そんな顔をしないでくださいな、碇司令。
 これは、本物の私ですわ。」
「だが.....」

言い淀むゲンドウを遮って、アダムの方を向くリツコ。

「取りあえず、アナタには肖像権と言う概念を説明しておかないといけないわね。
 まったく、ヒトの姿を勝手に使うなんて失礼にもほどがあるわ。」

その言葉は、一言の感銘もアダムに与えた様子は見せなかったが、
アダムはゆっくりとその場で立ち上がった。

「くえっ」

ぬいぐるみの様に少女にただ抱かれていたそれは、初めて自力で動きだし、
それが生物で有ることを改めて一同に示した。

「お久しぶりね、ペンペン。いえ、アダム。
 ミサトの家で会って以来だから十年振りの再開ってことになるのかしら。
 もっとも、あの頃はアナタの意識はまだ戻ってなかったでしょうし、
 私もそんなこと、気付いてもいなかったのだけどね。」

  そう。知っていたら、ミサトに引き渡したりはしなかった。

「母さんがペットを飼っていたなんて、おかしいとは思ったのよ。
 母さんは知っていたのね....、そして碇司令、あなたもですか?」
「ああ。」
「何故ですか?」

  何故、黙認したのですか?

「危険はなかったからだ。
 死海文書にもその記述はなかった。
 それでも万が一を考えると身近において監視が出来たほうが都合が良い。
 葛城君の所なら、二十四時間監視がつけられるからな。」

  だから....、いえ、やはりあなたは策士ですわね。

人類補完計画に影響がないと考えられる以上、
ゲンドウとすれば積極的に推奨する必要こそなかったが、
あえてそれを妨げる理由もなかった。そういうことだろう。

その新種の温泉ペンギンが発見されたのはセカンドインパクト直後の事だった。
国連の送り込んだ最初の調査団が、死海と化した南極で見つけた唯一の生物。
いや、正確には、葛城ミサトを含めたたった二つの生命体、であった。
そもそも葛城ミサトの乗る生命維持カプセルが発見できたのも、
調査隊が偶然に見つけたこの生物を捕獲しようと追いかけた結果であった。

その身柄は、まずゼーレが確保し、やがてゲヒルンに引き渡された。
公式な結論は、インパクトによって生じたイワトビペンギンの突然変異種。
極秘に行われた研究は隠蔽され、そう報告された。
温泉ペンギンの俗称は、その時発表されたこの生物の生態を元に、後に付けられた。

その後、研究を主導した赤木ナオコ博士の元に引き取られ、
博士の死後、遺族であった赤木リツコの手によって、
その親友である葛城ミサトに引きあわされたのである。

当時、リツコはこの事に少なからぬ因縁を感じた物だが、
裏で何者かの意思が働いているとは思ってもいなかった。
だが、このペンギンにアダムの意思が封印されていたのだとすれば、
すべての辻褄があった。

リリスの魂が逃げ込み、それゆえに一時的とはいえ失語症に陥った葛城ミサトと、
ロンギヌスの槍によって封印されたアダムの憑代たる生物との運命の再会。

  力を失ったアダムと、アダムを産み出したモノ、リリス。
  惹かれあうのも当然よね。

そして今、その意思を取り戻したアダムは封印を破り、
再び元の絶対なる力を手に入れるべく身体を求めている。

現存する唯一のオリジナルのアダムのボディが、ここに有った。
それを持ち帰ったのが、セカンドインパクト直前に南極を脱出したこの男だった。
その時のホンの一片のコア細胞からクローニングして作り出したモノ、それがエヴァ。
コア本体は特殊ベークライトで固めたうえで、ネルフドイツで極低温で保存された。

それを日本に持ち帰ったのが加持リョウジ。
そして、独自の補完計画のために利用した男、碇ゲンドウ。
金星にいるエヴァを除けば、最後のアダム細胞を持っている男。
それが、彼だった。





少女達が立ち上がった。
アダムのマインドコントロールは既に解けていた。
そして新たなる精神干渉は、リツコの張るATフィールドがそれを阻んでいた。

まず先に、レイが、あたりをキョロキョロ見回してから、言った。

「おばちゃん、誰?」

リツコのこめかみが一瞬だけ引きつったのをアイは見逃さなかった。
年下ながら、処世術にたけた幼児はすかさずフォローを入れる。

「誰、キレイなお姉ちゃん?」
「あら、やっぱりアイちゃんはいい子ねぇ。」

レイは無視して、アイの頭をなでる。

「ほら、ここは危ないから、おじいちゃんとおばあちゃんの所に行きなさい。」
「うん。」

彼女の言った『おじいちゃん』『おばあちゃん』と言う単語には、
ちょっとだけ、必要以上に力が込められていたかもしれない。

アイとレイはリツコの力に守られたまま、ユイの元に駆け寄る。

(何故、邪魔をする?)
「フフッ。さあ、どうしてかしらね?」
(リリン...?
 いや、違うか。)
「わからないのかしら、アダム?」
(我が使徒らに似ているが....、同じではない。)
「当然ね。既に私はヒトであって人でない。
 そう言う存在になってしまったものね。
 補完されてしまった、あの瞬間から。」

そう言って、少しだけ俯くリツコ。
だがすぐに顔をあげ、

「でも、後悔はしていないわ。」

彼女を睨む体長1mに満たないペンギンを見返す。
そして、神にも等しい存在に向かって挑戦の言葉を叩きつけた。

「さあ、アダム。どうするの?
 あくまでも力で勝負を決するつもり?
 私にはあなたに勝つ力はないけれど、あなたを滅する事はできるのよ。
 相反力による不毛な闘いの結末は、対消滅。完全なる死。
 それを受け入れる覚悟はできているのかしら?」

それは、人類の創造主たるアダムに加えられた初めての恫喝だった。

(くっ、造られしモノが少し力を手に入れたぐらいでいい気になりおって。
 まあいい。望みのモノは、手に入れた。
 いささか不十分ではあったがな。)
「何ぃ!?」
「やはりあの時に....。
 少し....、遅かったのね。」

動揺するゲンドウと、それでも冷静なリツコ。

(既に月は動きだしてしまった。
 我が肉体を取り戻し、完全なる復活を遂げたうえで、
 この場でインパクトを起こすつもりだったが思わぬ邪魔が入った。
 リリスとの融合、あきらめた訳ではないが、今は時間がない。
 その欠け片はお前達にくれてやる。)

欠け片、すなわちアダムの分身たるゲンドウとリリスの聖杯たるユイの子供、碇レイ。

「どうしようと言うのかしら、アダム。」
(こちらから月を呼べなくなった以上、
 月に飛んで、直接リリスとの融合を試みる。
 お前達にはそれを止める手だてはない。
 無論、お前にもだ。)

最後の一言はリツコに向かって放たれたモノだ。
そして、力を解放しはじめた。
少しづつ、それは強くなっていく。









「ターミナルドグマ最深部にパターン青!」
「複数のATフィールドを確認。強度マックス。
 なおも増大中です。」

  アダム...?
  覚醒したの?
  オペレーション・ラグナレク.....、間に合わなかったか。

「稼働試験中止。このまま実戦に移行します。
 S2機関は出力最大。全安全装置を解除。」

  でも、やれることはやっとかないとね。
  みんな、頑張って。

「目標は、使徒アダム。
 地上に出た所を迎撃するわ。」









アダムの放射する強大な力からゲンドウ達を守っていたリツコが口を開いた。
あくまでその視線はゆっくりと姿を変えつつあるアダムに向けながら。

「さっき、後悔はしていないって言いましたわよね。
 でも...、ほんと言うと、少しだけ後悔しています。
 ここでまた、あなたに会ってしまったから....。」

ちらっとだけ、ゲンドウに視線を走らせ、すぐに戻す。

「赤木...リツコ君。君には....」
「いえ、いいんです。言わないで。
 ホントに、女心のわからない人ね。
 それだけは...、変わってないわ。」

そして、フッと唇に笑みを浮かべる。

「人のからだを捨ててしまった事は後悔してますけれど、
 あの時の事は悔やんだり、恨んだりはしてませんわ。
 あの頃の想いは本当だったと言う事に気付いたのですから。」
「リツコさん....。」
「ごめんなさい、ユイさん。
 でも、私は碇司令を愛してました。愛してしまいました。
 単なる情欲の対象としてだけではなく、
 いえだからこそ、すべてをあたしのモノにしたかった....。」

リツコの独白。
誰も口をはさまなかった。

「失ってはじめてわかる大事なことって、あるんですよね。
 ただの手段だった筈のものがいつの間にか目的になり、
 その内にそれがすべてになったと知った時にはもう遅すぎたんです。」

  本当、親子そろって同じことを繰り返して.....。

水滴が一滴、地面に落下した。

  これは.....、涙?
  そう、私、泣けるのね。

「さて、そろそろもうお終いにしなければ。」

  今度こそ、一緒に行ってくれるわね、母さん。

彼女はアダムのいる方に一歩前に進み出た。
その顔の大半が金色の髪によってゲンドウの視線から隠されていたが、
わずかに口元だけが小さく動くのが見えた。

「碇司令.....。
 ホントウに.........」

その言葉は、誰にも聞き取れはしなかった。
いや、本当に声には出されなかったのかもしれない。
彼女の想いは永遠になった。

そして、リツコも一気に力を解放した。
髪の毛がふわーっと浮き上がり、金色に輝きだす。
やがてその光は全身に拡がっていった。

「リツコぉおーーーー。」

ゲンドウが叫ぶ。

だが、既に彼女の身体は実体を完全に消失し、
代わりに光の精霊がそこに立っていた。

ゲンドウの叫び声は彼女に届いたのだろうか。

変態を遂げつつあるアダムに光の手を伸ばす精霊の顔は、
微笑んでいるように見えた。







次話予告



アダムの覚醒....。
それが、始まりだった。

「ターミナルドグマより正体不明の高エネルギー体が急速接近中!」
「A.T.フィールドを確認。分析パターン青!」
「まさか、使徒?」
「いや、違う!」
「トリ、ペンギンです!」

巨大ペンギンが宇宙に飛び立つ。

「なんでペンギンが宇宙で生きてられるのよ!」
「ペンギンの環境適応能力を侮ってはいけないわ。」
「進化していると言うの、ペンギンが?」

決戦の舞台は金星に移る。

「現時刻をもって特別天然記念物の指定を破棄。
 アレを有害鳥獣と認定する。戦え、シンジ。」

「そんな。何を言ってるの、父さん。
 アレは、ペンペンじゃないか。」


人類の命運をかけた一戦。

ぺしぱしぺしぱしッ!
「おぅおぅおぅおぅ!」
         「羽根チョップなんかでやられるなよ、トウジ。」

つきつきつきつきッ!
「いや〜〜〜〜!くっ、くちばしぃ〜〜!?」
         「ペンギンだからね。」

アダムの力はエヴァを圧倒した。

「もう、ダメなのね。」
「もう終わりなの?頑張ったのに....」
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。」

追い詰められた人類は、最後の作戦に総てを賭ける。

「無茶かもしれませんが、無理ではないと思います。」
「これだけの材料、どこから集めるんですか?」
「決まってるじゃない。世界中よ。」

オペレーションMC発動。

「シンジ君、今はレシピ通りに作ることだけ考えて。」
「だからって、なんでマヨネーズや砂糖をカレーに入れるんですか?
 うわっ。ビール(エビチュ限定)ってなんですか、ミサトさん。」

「やーね。隠し味ってやつよ。」
「うっ、おぇえ〜〜〜。」
「マヤ!」(味見しちゃだめってあれ程言ったのに...)

アダムの前に差し出された、一皿のカレーライス。

「勝ったな。」
「ああ。」

勝利を確信する男たち。

「クエッ?」

キュー、バタン

「まさに、科学の勝利ですね。」
「ミサトさんのカレー。当たらなかった事ないんだ。」
「わたし、いらない。肉、きらいだから。」
「私もいらないわ。死ぬつもりなんて、無いもの。」

             ・
             ・
             ・
             ・
こうしてアダムは倒れ、人類はインパクトの危機を乗り越えた。
だが、地球防衛隊ネルフのメンバーに安息の日々は許されない。
いつまた第二、第三のペンペンが襲ってくるかもしれないのだ。

ガンバレ、ぼくらのエヴァンゲリオン。
戦え、みんなのエヴァンゲリオン。
いつか地球に平和がおとずれるその日まで....。




次回、第二十三話


「光の宇宙」




「まさか、本当にやるんじゃないでしょうね。」





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