Star Children

エピローグ

by しもじ  







「そうか。そんなことがあったのか....」

元ネルフ総司令、今は喫茶店の髯のマスターは、そう呟いた。

「それではシンジ達は....」

その妻であり、男には不釣り合いなほど若くて美しい女性は、それ以上言葉を続ける事ができなかった。
男は彼女の肩に優しく手をかけ、彼女の推測を肯定した。

「ああ、ユイ」

サングラスに隠された表情と抑制された声音から、彼の感情をうかがい知ることは容易ではない。
与えられたわずかな情報からそれを読み取る事ができるモノだけが、碇ゲンドウの友人たる資格を得ることができるのだ。

「だが、碇。
 そう決めつけるのはまだ早いのではないか?
 彼等なら、やってくれるかも知れない。
 そう、シンジ君とアスカ君ならばな」

別にそんな資格は欲しくない、と言うのが彼の本心ではあるのだが、
人の良いのが災いしているのか、彼との関係は長きにわたる冬月は言った。
半ばはゲンドウとユイを力づけるため。
しかしもう半ばは本気で。

「そやで。ワシもそう思うとったんや」

それに、報告者であるトウジも同調した。

「だけど...、ならばなんでまだ帰ってこない?
 トウジは現にこうやって帰ってきているのに...」
「お前は、ダチが信じられへんのか、ケンスケ?」
「そうじゃないさ。慎重なんだ、と言ってくれ。
 あまり楽観的過ぎると、裏切られた時がつらいからな」

心情的には、ケンスケにしても、トウジと同じだった。

(ひょっとして、あなたもそうなんですか、碇司令?)

言葉には出さず、青葉シゲルは心の中でだけ、訊く。
しかし、彼も『碇ゲンドウの友人』たる資格を手に入れてしまったかも知れない。
彼にとっては不幸な事だが....。









「最近のゼーレの様子はどうだね、青葉君?」

話題を変えるため、冬月が訊く。

「はい。一応、最近はだいぶ静かになったようですが....」
「一時期は凄かったらしいな」
「ええ。職員の引き抜き攻勢を徹底的にかけられましたよ。
 組織の立て直しと拡充を一気に行なうつもりだったんでしょう。
 マコトの奴に、こんな政治的手腕があったなんて思っていなかったから...」
「ワシも自分のことをそう思っていたよ、ネルフに入った時はな。
 だがむしろ、そういう事ばかり熟練してしまった。この男のおかげでな。
 それはそうと、引き抜きが一段落したと言うことは、
 もう次の段階に向けて準備が整えられつつあると言うことじゃないのか?」
「ええ。真ダイダロス計画、すでにゼーレ・ロシアを中心に発動している様です」
「目標は?もう決まっているのかね?」
「乙女座ベータ。32光年の彼方ですよ」
「なるほど。そこまで具体的に進んでいるのか、彼らは」
「ええ。こっちはその半分も計画は進んでいないというのに、ね。
 アイツ、手加減するつもりは全くないようですよ」
「それは我々だって同じだろう?」
「それはそうですが...。
 しかし、マヤちゃんまで引っこ抜かれたのは痛かったな」
「先技研第一研究所のスタッフ半数がついて行ってしまいましたからね」

ケンスケが同意する。
青葉より、彼の方が現在の研究所の惨状は詳しい。

「ミホなんかもう、てんてこ舞いしてますよ。
 いきなりプロジェクトリーダーに格上げされたんですからね。
 もう寝るヒマも無い、ってこないだボヤいてました」
「寝てるヒマはなくても、ご休憩するヒマはあったんだろ、その様子じゃ」

青葉が際どいジョークを飛ばす。

「ま、それは聞くだけ野暮ってもんですよ」

慣れたもので、ケンスケはサラッと受け流した。









「一つだけ、気になっている事がありますの」

それまでずっと黙っていた女性、セイラが口を開いた。

「何かね?」

冬月が応じる。

「アダムですわ」
「加持君、か」

先日、人生で初めて、柄にもなく仲人というモノを依頼された男が言い直した。

「それに、葛城ミサトさん、ね」

実際に式を取り仕切る事になるであろうその妻がさらに言葉を継ぐ。

「はい。カヲルは、その事をずっと気にしていました」
「しかし、彼らにしても、あの状況では何もできまい」
「そうでしょうか?」
「何か、確信に値するものがあったのかね、彼、渚カヲルには?」
「いえ、違うと思います。
 あったのは、ただ漠然とした、そう、予感の様なものかと...」

自分でもよくわからない。
それは彼女の記憶の中にはない事なのだから。
ただ彼女に肉体を与えてくれた少年の強い疑念だけが、消えずに残っていた。

「ならば、気にすることはない。
 よしんば、彼らが何かを行おうとしていたにせよ、彼の事だ。
 悪いようにはしないだろう」
「葛城さんもついてますしね。
 私もアダムについては心配していませんよ」

夫婦そろって、同じ意見のようだ。
『美女と野獣』だのなんだの、その外見から色々と誤解を受けやすいのだが、
彼らはやはり夫婦なのだな、とこんな時、彼女は思うのだ。
やはり、彼らに仲人を頼んだのは正解だった。
そして、願わくば自分たちも、将来は彼等のような夫婦になりたい、と。
もちろん、碇夫妻の外見の事を言っているわけではないし、
シゲルに、ゲンドウの様に不愛想になって欲しい訳ではまったく無いが。

それにしても、ならば彼らは今、何処で何をしているのだろうか?

そして彼女の思いは再び、もう一組の夫婦(になった筈である)に至る。
どこか宇宙の片隅で、彼らは彼らのハネムーンを楽しんででもいるのだろうか?
今の私が幸せなように、彼らも幸せを感じているのだろうか?
やっと巡り合うことのできた真実の家族。
それならばそれでもいい。
単に杞憂に過ぎなかったのなら、それで....





























最終章

  「Be togather !」




























「バカシンジ!」

肩を激しく揺さぶられ、彼は目を覚ました。

「う〜ん。眠いんだよ〜。
 もう少し寝かせてくれよ〜、アスカ〜」

何気なく、まくら元の時計を見る。
5時だ。多分、朝の。

「まだ5時じゃないか〜。
 珍しく自分が早起きしたからって、僕まで起こさなくてもいいじゃないか」
「あんたバカ〜!
 何、寝ぼけた事いってるの!
 ここがどこだかわかってるの?」
「どこって...、ベッドの上じゃない。
 それが、どうかしたの?」
「あんた...、本当にバカね」
「バカバカって、そんなに何回も言わなくたっていいじゃないか」
「だってバカシンジなんだからしょうがないじゃない!
 まだわかんないの?!
 なんで私達がこんな所にいなきゃいけないのよ!」

そう言われて辺りを見回す。
6畳ぐらいの部屋にダブルベッドが一つ。
クローゼット。衣装だんす。それにアスカの化粧台。
いつもの部屋じゃないか。
僕達二人の.....。
って、あれ?
何かがおかしい。

「そうよ。ようやく気づいたの、バカシンジ?
 どこなのよ、ここは。
 どうなっちゃったのよ、フォース・インパクトは!」









「ねえ、加持君」

少し鼻にかかった甘ったるい声をだして女は聞いた。

「ん、なんだ、葛城?」
「どう思ってるかな、あの子たち」
「シンジ君達か?」
「ええ。
 すぐに気がついた筈よね、私達がやった事」

しばし考えてから、男は答えた。

「ああ。まあ、そうだろうな。
 だが、シンジ君ならわかってくれるさ」
「そうかしら?」
「ああ。彼も男だからな」

男の、戦い。
男として、どうして譲れないモノがある。
いかなる代償を払う事になろうとも。
大切な誰かを裏切る事になろうとも。

「でも、アスカはそうはいかないでしょうね。
 今ごろカンカンになって怒っているんじゃないかしら」
「そうだろうな」
「大変ね、シンジ君も」
「仕方ないさ。彼も男だからな」









「どうして、こんな事をしたの?」

しばらく間を置いてから、再び女は問いかけた。

「オレも、男だからな」
「男の意地、ってやつ?」
「ま、そんなもんだ」
「そんなもんだって....」
「なんだ。後悔してるのか、葛城?
 おれについてきたことを」
「それはないけどね。
 でも知りたいじゃない?
 アンタが何を考えているか」
「今は、葛城、お前のことだけだ」
「あん。はぐらかさないで」

何をされたのか、甘い声を上げる女。









直径5m程の黒い球体。
かつてジオフロントと呼ばれたモノ。
ひたすら虚空を突き進む亜光速の方舟。

旧約と同様、定員は一杯だった。
だが船長はノアではない。
アダム。そして、リリス。

それは、今、銀河系を抜け、次の銀河へ向かっていた。
時を、遡りながら。









「ホントに後悔していないの?」
「何を?」
「アダム」

そう言って、女は男の目をのぞきこんだ。

「あの時の事か。もちろん、後悔はしていない。
 だが、葛城にはスマナイ事をした、と思っている。
 あと、リッちゃんにもな」
「でも、もし失敗していたら...」
「シンジ君たちだって、命を賭けて戦っていたんだ。
 葛城だって、そうだろ?」

あの時、まだあどけない少年を戦場に、死地に追いやったのは、彼だ。
その時に少年に言った言葉が、同時に彼の心をも決めたのだ。

  『君には、君になら出来る、君にしか出来ない事があるはずだ』

「それにいつだって男は、強い力に惹かれるもんだ。
 特に、自分の無力さをつくづく思い知らされた後ではな」

  『オレは、ここで見ていることしかできない』

それは事実であっただけに一層、口にした彼の心に冷たく響いた。
それで何も感じない程、彼は魂を失ってはいなかった。
そう見えないのは、それが、彼のスタイルだからに過ぎない。

俺にも、俺にならできる、俺にしか出来ない事がある。
だから....。

「強い力、か。
 それはわからなくも無いわ。
 あの頃は、何度もそう思ったもんね。
 力が欲しいって。
 使徒を倒すための力。
 あの子達を守るための力」

記憶に沈みこむ女の肩に手をやって、男は女を慰める。

「今はこうやって手に入ったじゃないか」
「そうね。でも、こんな形で使う事になるとは思わなかったわ」
「気にしてるのか、シンジ君達の事?」
「当然じゃない」
「彼らは平気だよ。
 今ごろはノンビリと航宙しているさ」
「そう言う事を言ってるんじゃないわ。
 私達は裏切ったのよ、彼らを」

男の腕を振りほどいて、女は反対を向いた。

「葛城は、シンジ君達に全てを委ねていた方が良かったと言うのか?
 だが、あれは、シンジ君のは、ただの思いつきに過ぎない。
 着想として非常に優れたものではある事は認めるが、計画としては不十分だ。
 昔、葛城の立てた作戦と同じだよ。
 冒さなくてはならないリスクがあまりにも大き過ぎる。
 あのまま、彼らにやらせてしまうわけには行かないさ」
「でも、だからって...」
「シンジ君達は彼らに出来る事をやろうとした。
 そして俺達も、俺達にできる最善の事をしたんだ。
 互いにベストを尽くした結果が、これだ」

彼に力がなければ、それはできなかったかも知れない。
彼女の協力がなくても、やはり不可能だったであろう。

「理屈ではわかっているんだけどね....。
 それにしても、あのレイが、あなたの言う事に耳を貸すとは思いも寄らなかったわ」
「オレにだって確信はなかった。
 だが、レイにヒトの心があれば、正しい選択をしてくれると信じる事は出来た」

自分で考え、自分で決める事。
ヒトは、そうやって生きていく。
人形には、出来ない事だ。

「もっとも、シンジ君が反対してレイを説得しようとしていたら、
 そして彼がこの事を知っていたら多分そうしていただろうが、
 結果は違っただろうな。
 だから、シンジ君には秘密にしておく必要があったのさ」
「私もそれで良かったんだとは思う。でも、後味のいいものではないわね」
「さっきも言ったがな、葛城。
 シンジ君はそれをわかってくれるさ。
 アスカも、いずれ、な。
 それで、充分さ」









彼らがそう話している間にも、方舟は宇宙を疾走する。
光速の99.99%をも超えるその速度は、船内の時間を引き伸ばしている。
相対性原理。いわゆるウラシマ効果である。
船内で1秒間が経過するごとに、宇宙は一才ずつ若返る。
球体はなおも加速を続け、その比率はさらに拡大しつつある。

そして、それはまず、隣の銀河系に到達した。









「なんか、不思議な感じがするわね」
「そうか?」
「そうよ。だって、この宇宙にまだ私は生まれていないのよ。
 いえ、それどころか、人類だって生まれていない。地球では。
 でも、私は今、こうしてここにいる。
 これが不思議じゃなくて、どうするのよ」
「地球は、今、遥か14万8千光年の彼方だからな。
 これだけ離れてしまうと、相対論的同時性なんてモノは意味を成さない。
 同時に観測する事ができないんだから、存在が干渉することもない。
 要するに、気にするな、って事だ」
「お気楽な解説、ありがと。
 でもタイムパラドックスは、どうなるの?
 進路を反転させて、地球に戻ったら?
 その時は、時間の連続性が再び回復するんじゃない?」
「それはそうだ。だが、それも問題じゃない。
 その答えは『できない』だからだ。
 四次元時空の位相空間上で、その軌跡は絶対に交わる事はない。
 排他原理の基本法則だからな。
 こうしてアンチATフィールドを使って時間を逆転させる事はできるが、
 すでに起きてしまった過去を変えることはできない。
 見方を変えるとだな、俺達が今こうしてやってることは、
 既に起きてしまった事を逆にトレースしてるだけなのさ」

エントロピー増大の法則に従って、時間は一方的に進んで行く。
だから、親の因果が子に報い、覆水は盆にかえらない。
それが当たり前だと思っている。
いや、思っていた。

量子力学と宇宙物理学は、それを否定した。
物理数学的には、時間も、空間と同じく対称なのだ。
本来は。

それを歪めているもの。
それが、ATフィールド。
人はATフィールドに支配されている。
それゆえに、人にとって、時は一方向にしか流れないのだ。
ただ、それだけの事。

古代ギリシャの哲学者はそれを、科学によらず、洞察した。
人が、時を作っているのだ、と。

「でもね、そうすると、この先私達はどうなるのかしら?」
「あの瞬間から、俺達の時は逆転を始めた。
 この状態は俺達が望むかぎり永遠に続く。
 このままビッグバンを越えて、時が、始まるまで」
「それから?
 そこまで行き着いたら今度は?」
「別の宇宙にでも行くさ。
 そして、新しい歴史を造る。
 オレとお前の。そして子供達の。
 俺達が新世界のアダムとイブになるんだ。
 こういうのは、どうだい?」
「アダムと、リリスよ。
 正確に言えば、ね」
「ふっ。
 OKって事かな?」
「断る理由なんかないもの。
 いつまでだって、どこまでだって、一緒に行くわよ。
 でも、その前にお客さん達をどうにかしないとね。
 そろそろ、いいんじゃない?」
「そうだな」

方舟は、小さな恒星系を瞬時に通過していった。
その時に、球体から何かが飛び出していった。
恒星の周りを巡る双子の惑星に向かって。

「今のは?」
「イスラフェル。
 彼らに相応しい星だと思わないか?」
「...そうね」

彼の頭の中にも、彼女の頭の中にも、一つの光景が思い浮かんだ。
それは、この星の何万年後の姿だろうか?
豊かな水をたたえた青き惑星。
鉱物資源に恵まれた火の惑星。
そこに使徒イスラフェルの姿を持った人類が、文明を築きあげる光景を。
やがて彼らも宇宙に進出し、
人類の敵となり、そして友となるだろう。









      *      *      *









半年ぶりに営業を再開した第2東京市の小さな喫茶店、『チルドレン』。
開店日には地元の女子高生をはじめとするかつての常連客が押し寄せ、大いに賑わったものだが、
今日はドアに張り出された『臨時休業』の札が、客を寄せつけずにいた。

奥のドアが開いて、子供たちが入ってきた。
空になったコップを持って、お代わりを請求しにきたらしい。

にこやかに微笑みながら、それに応じるユイ夫人。

子供たちは、そのまま隅のイスに座って、ストローに口をつけた。

「あらあら、奥に戻らないの?」
「うん。レイ、ここがいいの」
「アイも〜」

大人の仲間入りをしたくてしょうがないようにレイが言えば、
レイの事を実の姉の様にしたっているアイも可愛く同調する。

「せやけど、こんなかわいい子ぉ置いて行っちまったとしたら、
 ホンマ、許せんやっちゃな。シンジの奴」
「アスカもよね。
 残されたこの子が不憫よねぇ」

トウジの言葉に、ヒカリが同意する。
ちなみに、彼らの息子、ソラ君は奥の部屋ですやすやと眠っている。

「ねえねえ。フビンって何?」

耳聡く大人の会話を聞きつけたアイが、ユイに訊く。

「可哀想、って事よ」
「アイ、かわいそうなの?」

可愛くアイは聞き返す。

「アイはどう思うの?」
「うん。アイ、全然フビンじゃないよ」

元気に返事をするアイ。
そんなアイの様子が、いっそうみんなの同情を誘う。

「あ、でも、難しい宿題が一杯ある時は、ちょっとだけフビンかな」

首をちょこっと傾げながら、そう付け加えるアイ。









「ところで碇。
 あれは....、何だ?」

子供たちに続いて入ってきたモノを、冬月は目の端に捉えて訊いた。

「もうボケましたか、冬月先生。
 あれはペンギンですよ。
 イワトビペンギン科の亜種で、温泉ペンギンと言う珍種です」
「ボケただと。相変わらず、失敬なやつだな。
 そう言う事を聞いているんじゃない。
 なんでアレがここにいるのか、と訊いとるんだ」

その黒い物体を指で差しながら、冬月は言った。
かすかに指先が震えてるが、それは老化の現われ、ではない。

「冗談ですよ」
「笑えん冗談だぞ」
「そんな風に怒って血圧を上げると、ご老体にはよくありませんよ」
「まだ言うか、この男は...」
「あら、そこがこの人の可愛いトコロじゃないですか。
 受けを取ろうと必死に頑張っているんですのよ、これでも」
「ユ、ユイ君....」

しばらく絶句する冬月。
だが当初の問題を忘れたわけではない。

「それで、何故、アレがここにいるんだ?
 アレは、オリジナルのアダムは封印されたのではなかったのかね?」
「ええ。その通りですよ、冬月先生」
「でも、これはアダムではありませんわ」
「そうであれば我々にはわかります」

あの事件が終わった後、気がついてみたら彼らの家にソレはいたのだ。
ヒカリは出産を終えた直後で、トウジはまだ帰還していない。
いや、本当に帰ってくるかどうかもわかっていなかった。
そんな時期だから、引き続き、彼らがそいつの面倒を見る事になったのだ。

「すると、これは本物のペンギン、と言うわけか」
「ええ。アダムはこの身体に寄生していた、我々はそう考えています」
「なるほど。それがアダムが封印された事で、解放されたと言うことかな」
「おそらくは。ですが...」

そこでゲンドウの言葉をその妻が継いだ。

「今となっては、完全な答えは私達にもわかりかねます。
 あの光の正体が、本当は何だったのか。
 あそこで何があり、アダムは何処にいったのか、
 便宜上、封印と呼んでいるのに過ぎないのです」
「まだ我々には、わからない事が数多く残されています。
 だが、いつか必ず、わかる時が来るでしょう。
 まだ人類の力はその高みには達してはいませんが、
 その時、アダムの力を越えた時、本当の戦いが始まるのです」
「今のゼーレと新国連の抗争は、所詮、ゲームに過ぎないからな。
 彼らは人類が進むべき道を示してくれた。
 だが、その道のりは、長く果てしない」
「でも、歩みださなければ、何も変わりませんわ」
「そう。全ては、これからなのです」









      *      *      *









宇宙と戦うには、今のヒトはあまりにも無力過ぎる。
さらなる力をつけるために、人類には適当な力を持った敵が必要だった。

ヒトが一人で戦うには、宇宙はあまりにも広大過ぎる。
絶大なる深遠を乗り越えて、一緒に戦ってくれる仲間が必要だった。

だが、この宇宙で、人類は孤独だった。



ATフィールドの呪縛。
生命は誕生しても、知恵を持つことは許されない。
自然進化によってその形質を獲得することは、不可能だった。
冷然たる確率が、文明の発展を否定した。

使徒によって造られた、人類は例外的存在だった。



碇シンジ。
彼の出した答えは簡単だった。

敵が存在しなければ、見つければいい。
仲間が存在しなければ、造ればいい。

アダムとリリスが、リリンを産み出したように。
リリンが、原始の人類に知恵を授けたように。

ヒトが、新たな可能性を持った生命体を造るのだ。



そして今、黒き方舟は宇宙を、時を、駆け巡る。
星に種まく生命の風となって。



もはや人類は、孤独ではない。







次話予告



「ふう。エピローグも次で3話めか。
 今度こそ僕達の出番だね、アスカ」

「まだまだ油断はできないわよ、シンジ。
 だいたい、アタシ達はもう25才なのよ、このSSでは。
 全然子供なんかじゃないのに、次のタイトルはおかしいわ」

「うっ、そうか。それもそうだね」
「それに、エピローグの4とか、5とか、もっと続かないとも限らないわ」

「それは無いわ。次で完全にお終いよ」
「どうして優等生がそんな事、知ってるのよ。
 このアタシでさえ知らないって言うのに」

「絆だから」
「また訳のわからない事いって誤魔化すつもり?」
「契約したの。作者と。
 予告編で作者の役に立てば、本編で出番を増やしてくれるって」

「あっ!それでこの間から....」
「すべてはシナリオ通りよ。問題ないわ」

「じゃ、じゃあ、僕達の出番は?」
「もちろんあるわ。
 セカンドチルドレンは弐号機パイロットだから二号さんで、
 私は多分3人目だと思うから知らなくって、碇君とラブラブなの」

「はぁ?」
「伊吹2尉は若さゆえの過ちを認めたくないから赤い彗星なの。
 それでスイカのひとはスパイ大作戦で、例によって爆発するの」

「何を言ってるのよ、アンタは!?」
「次号予告よ」

「綾波、どうしちゃったのかな」
「ハン!こいつがおかしいのは最初っからよ!」





次回、エピローグの3

 

  「Be Children !」



「さあ、最後だから気合い入れて行くわよ、みんな!」
「シンジ、行きま〜す!」
「零号機、綾波レイ、発進します」
「アスカ、ゲーヘン!」





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