月−−−−−
それはとても儚げで美しい物。
古来よりその美しさは世界各地で伝えられ、その地位を不動の物にして来た。

しかし、そのあまりにも美しい姿に畏れを抱く物も少なくない。
事実、月には何かを惹き付ける魔力のような物があると伝えられた。
その魔力による物は吸血鬼、狼男等がその代表である。

闇を支配する存在、もしくは闇を照らす存在、それが月である。
相反する二面性を持つ物、美しさと畏れにより、数多の伝承では神にも悪魔にもなれる不思議な存在。



その月を背景に闘う二つの影がある。
その戦闘のスピードは凄まじく、人の目で追える物ではない。
辛うじて見えるものは、二つの影が交差する時に発する光と音のみである。

その光と音が、月の浮かぶ闇に明滅する。
二つの影の闘いは、まるで月に捧げるかのような美しき闘いであった。

二つの影、それには共通する物があった。
人型である事、翼がある事、言葉を理解する事、そして人を超えた存在。

だがその姿、印象は正反対である。
一方は神々しき美しい姿、もう一方は禍々しき恐ろしい姿。
神と悪魔そのものであり、月の二面性を象徴するかのような存在であった。

二つの影の力は均衡しており未来永劫続くかに思える。
悪魔が神に問い掛ける。


「止めろ! 止めてくれ!
 何でオレ達が闘わなければならないんだ!」


神がそれに答える。


「何故止めなければならぬ。
 オレとオマエの進むべき道は違う、だからこそ闘うんだ。」


悪魔は闘いを止めるように神に問うが、神はそれを受け入れない。
二つの相反する物が闘う、それは至極当然に思えるのだが悪魔は闘いたくはなかった。
目の前に居る神、そして自分は悪魔、太古よりこの二つの存在は闘って来た。
二つが歩み寄る事は無く、勝利か敗北、生か死、存続か消滅、その二つに一つであった。

しかし二つの影は惹かれ合う。
元々一つだった物が二つに分かれ、それが元に戻ろうとする様に。

悪魔は思う。
互いが互いの事を認め合っていた頃を。
支え合っていたあの頃を。
二人が兄弟同然に遊んでいた懐かしき頃を。


(何故だ! 何故オレ達が闘わねばならないんだ! リョウ!)











DEVIL MAN
もう一つの最終戦争


序章 狂い始めたモノ











ターーーン
ワアアアアアアアアアアア!!






銃声が響き辺りから歓声が湧き上がる。
その歓声を受けながら少年達は走る、自分が最速である事を証明する為に走る。
ゴールが近くなるにつれ速さの個人差が現れ、遅い者と速い者の差が開く。
トップを行くのは二人の少年で、その力は互角であった。

身長、体重、歩幅等、全てが同じで、違う物と言ったら二人を区別する為のゼッケンと名前だけだった。
互角の闘い、誰もがそう思う。
しかし勝負の世界、最新の技術力はそんな二人にすら区別をつける。





ワアアアアアアアアアアア!!

歓声が再び響き渡る。
二人は同時にゴールのラインを過ぎる。誰もが同時に見えた。
しかし機械が見た結果は違う。
コンマ数秒の差であるが、それが二人の明暗を分けた。


「やってくれたな、オマエの勝ちだ。」

「ヘヘ、悪いな。」


負けた者は悔しさを微塵も見せずに勝者を称える。
勝った者は笑って答える。
互いが互いを認め、いつ果てる事の無い闘いは続く。

一人は冷静さを備える少年、もう一人は優しさを備える少年。
名前は『飛鳥 了』、『不動 明』と言う。
親友であり、幼馴染みであり、兄弟であり、そしてライバルである。
一位は飛鳥 了、二位は不動 明、今回の勝負の結果であった。

どこまでも続く青い空の元での二人の勝負、競技が行われていた。
どこにでもある学校の一風景、体育祭のワンシーンであった。





「はぁ〜
 今回はオレの負けか...
 だがな、リョウ! 次は覚悟しておけよ!」

「ハハハ、いいぜアキラ。 いつでもかかって来い。
 それが勝者の余裕って奴だ。」

「カーーーー
 何て嫌みな奴なんだ。それが親友に向ける言葉か?」

「勝負の世界は厳しいんだぜ。」


一見するとアキラにリョウが喧嘩を売っている様に見えるのだが、その実は違っていてじゃれ合っていた。
見慣れた者にとっては、いつもの風景。
この二人はいつもこの調子であった。


「コラ! そこの二人!
 終わったんなら早くどきなさい!」

「ゲ、マズイ。 逃げるぞアキラ。」

「またミキか...捕まるとヤバそうだな。」

「あ、逃げるな! 待ちなさーい!」


アキラとリョウ、その二人の間に入って来る者、入る事が出来るモノ、
彼女の名前は『牧村 美樹』、彼女もまた二人の幼馴染みである。
そのミキに追い出される様に二人はその場を去った。

こんな風景もいつもの事で、それが永遠に続くかの様に時は緩やかに流れている。
抜ける様な青い空に輝く太陽。
その光は生きとし生けるモノ、その全てに平等に降り注いでいた。










☆★☆★☆











「全くこの二人ときたら...恥をかくのは私なんだからね。」

「べ、別にいいじゃねーかよ。」

「そうだよ、オレ達の事なのに何でミキが出てくるんだよ。」

「幼馴染みの私までそう思われたくないからよ!」

「「ス、スイマセン...」」


場所は移り牧村家−−−−−
今日の体育祭の反省会? をやっていた。
ミキの一言に怯えるアキラとリョウ、二人にとってミキとは頭の上がらない存在であった。
そこへ二人を庇うようにミキの父親が助け船を出す。


「いいじゃないかミキ。
 アキラ君とリョウ君はトップだったんだろ。」

「そうですよねオジさん、オレ達がトップだったからそれで良いじゃないか。」

「そうそう、これは喜ばしいモノだよなアキラ。」

「ハハハハハ、そう言う事だミキ。
 怒ってばかりいると可愛い顔が台無しだぞ。」

「な、な、な...」

「顔が赤いぞ、ミキ?」

「リョウの言う通りだ、鏡貸してやろうか?」

「もう! パパがそんな事言うから二人が調子に乗っちゃったじゃない!」


ミキは顔を赤くしながら反論する。ミキの両親とアキラとリョウは笑っている。
牧村家のリビングでは口論とも、じゃれ合いとも言える団らんの一時が過ぎて行く。
それを見るミキの両親は、これ以上無い幸せを感じていた。

牧村家に何でアキラとリョウが居るかと言うと、二人の両親に頼まれたからである。
アキラの父とリョウの父は共に考古学者で、現在は研究として海外に出払っている。
母親もまた父に着いて行き居ない。
と言うわけでアキラとリョウは仲の良い牧村家に厄介になっているのだ。
3人の家は隣同士とまではいかないが、かなり近い位置に点在しており、その為に幼馴染みと言う図式が成立していた。

3人の関係は物心が付く以前から続いていた。
その関係はいつまで続くのだろうか。

昨日の次は今日、その次は明日が待っている。
その当たり前の事が日常で、永遠に続く様に思える。
普通は誰だってそう思っている。










だが−−−−−

プルルル...プルルル...プルルル...カチャ

電話の呼び出し音がその日常、そして関係を打ち砕く−−−−−


「はい牧村です。
 はい...ええ、そうですが...
 ...え? もう一度おっしゃって下さい...」


受話器を取ったミキの母の顔が次第に青ざめて行く。
冷汗が流れ、体が震え、言葉も頼り無い。
その事にリビングに居る全員が気付く。


「どうしたのかしらママ?」

「変だよな...何かあったのかな?」

「あんな表情初めて見るよ。」

「どうしたんだオマエ?」


アキラ、リョウ、ミキは心配になる。ミキの父はそれを察して自分の妻に問う。
そしてミキの母は青ざめた表情で受話器をこちらの方に向けて言う。


「アキラ君、リョウ君...アナタ達の御両親が...行方不明になったわ...」

「「「え?」」」


その場に居る全員が耳を疑った。
全ての終わりと始まりが同時にやって来たのだ。










☆★☆★☆











ゴオオオオオオオオオオオオ

轟音と共に巨大な鋼鉄の固まりが空に浮かび上がり、鋼の翼によって飛行機が飛び立つ。
その飛行機にはアキラとリョウ、そして牧村家に凶報を告げた研究員である『林 則嘉』が乗っている。
林はアキラとリョウの父親達の研究所で働いているので、二人とは多少なりとも面識があった。
飛行機は一路、二人の父親達の研究先であるオーストラリア大陸へと向かった。


「あの...林さん...」

「何だいアキラ君...」

「父達は無事なんでしょうか?」

「済まない、オレにも良く分からないんだ...
 今は恐らく財団の人達が捜索に当たってから、すぐ分かるよ...」


林はアキラを落ち着かせるように静かに話した。
とは言うモノの自分ですら現状が分からなかった。
林の所に伝えられたのは只一言、『行方不明』だけだったのだ。
何度も現地の研究所に問い合わせたのだが、そちらの方でも連絡が取れず今に至る。
林がアキラに言った言葉は自分に対しての言葉でもあった。


「財団って...一体何なんですか?
 それにどうしてオーストラリア大陸なんですか?
 あそこに遺跡なんてある筈無いのに...」


今度はリョウが聞いて来た。
リョウの言う通りオーストラリア大陸は、人間がその地に足を踏み入れてからの歴史は浅い。
従って旧文明の遺跡等というのはある筈が無いのだ。
それなのに考古学者であるアキラとリョウの父親達は調査に行ったのだ。

そして財団の存在。
研究資金の全額出資と無期限の研究期間、そして全指揮権を委任、と言う好条件。
それらは、どう考えてもおかしかった。
それにも増して、アキラとリョウの父親達は現場で多くの修羅場を潜り抜けている筈なのに、二つ返事でOKしたのだ。

全てが謎に包まれている。
アキラとリョウは、そう考えずにはいられなかった。










☆★☆★☆











ゴオオオオオオオオオオオオ

月明かりが照らす中アキラとリョウを乗せた飛行機は闇の中を突き進んでいる。
そしてその遥か上、成層圏を抜けた所からその飛行機を見ている者が居る。

白き鎧と翼、そして光り輝く輪を持ち、清冽なる気配を放つ人型の存在−−−
天使と呼ばれる者が見ていた。
そして天使の口が動く。


「サイは投げられました...か。
 そろそろ私も動かなければなりませんね、彼らも動き始めましたから。
 ...全てが終わる前に...いえ、全てが始まる前に...ですかな?」


ザザ!

白い翼を大きく広げ移動を開始する。
その速さは人が創り出した文明の力を遥かに上回る。
目的地はアキラとリョウの正反対の方向。

ミキが居る日本だった。










☆★☆★☆











オーストラリア大陸のエアーズロック、その地下深く潜る事、数千メートル−−−−−
そこは球状の空洞になっていた。
そしてその中心には遺跡と呼べる石碑が一つだけ、ひっそりと立っている。
その石碑には何かが刻まれているが、人類の英知を持ってしても読み取れない。
だが石碑の前に立つ男はそれを見て何やら呟く。

「後少しだ...後少しで我等の願いが叶う...
 我等の理想郷...我等の指導者...後少しだ...」


男が静かに呟く。
その足元には血溜まりが出来ていた。
そしてその中心には死体が転がっている。
それを見て男はもう一度呟く。


「全ての始まり...我等の願い...破壊と創造が始まる。
 もうすぐだ...我が友よ...」


男の全身は血に塗れている。
その表情は恍惚としていた。
狂気がその男を支配しているのか...或いは違う理由があるのか...
その目は人に在らざる光を宿していた。










☆★☆★☆











ギャギャッ!

飛行機はタイヤから白煙を上げながら着陸する。
そして管制塔の指示に従い所定の位置に移動する。
周りは既に明るくなっており、整備員達は眩しそうに入って来たばかりの機体を見上げる。

その機体から乗客達が降りてくる。
その中にはアキラ、リョウ、そして林が居た。
照り付ける太陽を眩しそうに見ながら一行は、入国審査のゲートへと移動する。
しかしその3人に近づく美しい女性が居た。
金色の髪をショートにまとめ、スーツを身に纏い、背筋を伸ばしこちらを見ていた。
その女性は3人の前に立ち、流暢な日本語で話しかける。


「Mr.林ですね。」

「え? ええ、そうですが。
 失礼ですがあなたは?」


林は幾分リラックスした態度で目の前の女性に話す。
矢張り日本語で話されると安心するのか...それとも女性だったからか...
女性は優しい笑顔を見せながら自己紹介を始めた。


「失礼しました。
 私は『キュラウェア財団』の者で、『ソニア=フィールド』と申します。
 今回はここ、オーストラリアまで御足労願いまして申し訳ありません。」

「あ...いえ、その事はお気になされなくて結構です。
 私は飛鳥、不動両教授の教え子の、林則嘉と申します。
 こちらの二人は...」


林はアキラとリョウの紹介をしようとしたが、ソニアはそれを制した。
そして再び笑顔を見せて話す。


「御二人の事は存じております。
 飛鳥、不動両教授の御子息、リョウ君とアキラ君ですね。」

「ご存知なんですか?」

「ええ、よく教授達の自慢話で聞かされますので...」


ソニアは、やや苦笑した表情で答える。
どうやら耳にタコが出来るほど聞かされているらしい。
教授達の子煩悩振りは大学の中ではかなり有名な話しで、林もまたその犠牲者であった。
その事は無論アキラとリョウは知っている。


「「スイマセン、父達がご迷惑をお掛けして...」」

「あら、いいのよ。
 それよりも早く研究所の方に来て下さい。
 お母様達が待っています。」

「え? 母さんが?」「母達は無事なんですか?」


アキラとリョウが同時に聞いてくる。
アキラが左、リョウは右から。 ソニアは「まるでステレオの様な二人ね」と思った。
ソニアは相変わらず笑顔で答える。


「慌てないで、貴方達の御両親は全員無事です。」

「「「へ?」」」


間の抜けた声で3人は答える。
それもその筈で、今まで生死不明で情報は少ない、それで心配して来てみたら無事だと言う。
最早、安堵感を通り越して拍子抜けの状態である。


「詳しい事は車の中で説明しますので、こちらの方に来て下さい。
 それから入国審査の方は、こちらの方で処理しましたので御心配無く。」

「は、はぁ...分かりました。」

「じゃ、じゃあ行ってみましょう林さん。」

「どうなってんだ?」


冷静に話すソニアとは対照的にアキラ、リョウ、林は何がどうなっているのかが分からず、只着いて行くだけだった。
そして一行は研究所の在るキュラウェア財団の施設へと向かった。










☆★☆★☆











時間は少し前−−−−−
まだアキラ、リョウを乗せた飛行機がオーストラリアを目指している途中−−−−−

ここ牧村家ではミキが心配そうに月を見ていた。
もちろん心配の元はアキラとリョウの事だった。
頬杖を付き時折ため息を洩らす。
二人が日本を発ってからずっとこの調子だった。


「大丈夫かな...アイツ等の御両親...」


知らぬ間に涙が零れる。
ミキにとって二人の両親も自分の親も同然だった。
小さい頃から何か事ある毎に3家族は集まり行動を共にしていた。
親達はアキラ、リョウ、ミキに平等に惜しみの無い愛情を注いでいたのだ。
ミキが心配するのは至極当然である。


「はぁ...心配だよぉ...」


ミキは机に突っ伏しながらしゃべる。
落ち着きが無いのか椅子に座って、フリーになっている足をブラブラとさせる。

その時ミキの頭に直接話し掛ける存在が居た。


「そんなに彼等と彼等の両親が心配ですか?」

「! だ、誰?」


いきなりの事に驚いて、ミキは辺りを見渡して声の存在を探す。
しかし何処にも見当たらない。
直接頭に話し掛けられた事すら分からなかった。
誰も居ない事を確認すると、気のせいかなと思い直す。


「???
 空耳かな...」

「空耳ではありませんよ、牧村ミキさん。」

「! 誰? 誰なの?」


今度は名前を呼ばれたので誰かが居ると確信した。しかも自分の事を知る物と。
だが先程確認した様に誰も居ない。


「何処に居るの?
 姿を見せなさい!」

「フフ、ココですよ。」

「コ、ココって何処よ?」


声はするけど姿は見えない。
それでも諦めず、ミキは辺りを見渡した。
そしてある一点で視線が止まる。


「やっと見つけてくれましたか...」

「な、あ、あなた、誰なの?」


ミキの視線の先には大きな鏡が置かれていた。
その中にはミキの姿と、そうでは無い存在が映し出されてる。


「私ですか...
 私は貴方達が天使と呼ぶ存在です。」

「天...使...」

「貴方を御迎えに参りました。」

「え?」










白き翼を持つ存在は、ミキにそう告げる。
ミキは目を大きく開き鏡に映し出されている天使を凝視する。
アキラとリョウはキュラウェア財団に向かう。
そしてエアーズロックの地下深くでは、石碑の前で男が願う。



いつまでも続くと思われた日常、それが打ち砕かれ、それぞれの運命は大きく変わる。
月の光は優しさと厳しさを持って、それぞれを分け隔てなく照らし続ける。
この先に待ち受けるモノに備えて...


序章  完




あとがき

最後まで読んで下さってありがとうございます。

う〜〜〜ん、話のテンポが早くてスイマセン。
それから...続いてしまいました。
ホントは長編でもいいから一話にまとめようと思ったんですが...
途中で力尽きてこんな風になりました。
軟弱モノなんです、私。

と言うわけで、続きはまた後程...
切りの良いHIT数で公開します。
51万か、55万か、それとも60万か...
何時になるか分かりませんが気長に待ってて下さい。

では次回予告です。







結局生きていたアキラとリョウの両親達
研究所で久しぶりの再会を果たす
しかし父親の姿はそこに無かった
ソニアの提案により、父達が居る遺跡へと向かうアキラとリョウ
遺跡には何があるのか?
古代文明人は何を願って遺跡を建造したのか?
そしてミキの前に現れた天使は何を思うのか?

次回

DEVIL MAN
もう一つの最終戦争


力を求めるモノ


次回もサービスサービス♪



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