ポンッ ポンッポポンッ ポンッ

雲一つない空に花火が打ち上げられる。
今日は第壱高校の文化祭の初日、多くの生徒達は自分達のクラスの催し物、出展などの準備に大忙しである。



第壱高校の歴史は結構古く、開校は20世紀の初頭にあたる。
つまりこの第3新東京市が遷都、建設される遥か以前からこの地に存在するのだ。
それより以前にあるモノといえば近くの神社、比紀神社しかない。
従って、この第3新東京市にとっては由緒正しき学校なのである。

しかも新校舎が落成してから初めての文化祭の為、関係者にとってその意気込みは並々ならぬモノがあり、その為多くの生徒や教師、業者までもが休む間もなく走り回っている。

通常この第壱高校の文化祭にはその年の目玉なるモノが設定されており、有名な芸能人や俳優、著名な作家などを招待して第壱高校の健在ぶりをアピールするのだが、今回はその様なモノが設定されておらず、関係者や第壱高校のOBなどの間では疑問視されていた。
文化祭のスケジュールの中で変わったモノと言えば野球部の甲子園出場校を招いての親善試合ぐらいで、それ以外はどこの高校でも見かける様な催し物であった。

はたしてこの親善試合が今回の文化祭のメインになるのかは碇ゲンドウしか知らない。









☆★☆★☆











野球部グラウンド−−−−−

ここでは明日の親善試合に向けて野球部が練習をしていた。
各自のクラスの準備には親善試合の為、参加は免除されていた。


「よし、今日の練習はここまで!
 全員上がっていいぞ。」


顧問である加持が全員に話した。
たとえ明日に試合が控えていようとも折角の文化祭である。
せめて人並みに楽しんでもらいたい、という親心であった。


「しかし相手はあの相洋学園なんですよ。
 練習はこれでも足りない位なのでは...」
「みんなの言いたい事は分かる。
 練習も結構だがオマエ達には休養も必要だ、ここで怪我をされてはたまらんしな。
 それに今日は文化祭だ楽しまなくてどうする。」


キャプテンであるタツヤが反対したが加持にとっては十分予想しうる言葉であったので、全員に諭すように言った。


「ま、それでもやりたいと言う奴は、今日の文化祭が終わってからここに来い。
 それだったらいいだろう。
 というわけで今日は解散、以上だ。」


加持の鶴の一声で練習は終わってしまった。





「ホントに大丈夫なのかな、明日の試合。」
「らしくないなムサシ、弱音か?」
「そんなんじゃねーよケイタ、オレ達は甲子園に出場してない柏陵ですら勝てなかったんだぜ。
 それが今回は甲子園出場校、しかもベスト4ときたもんだ。
 そりゃ不安にもなるさ。」
「そうかもしれないけど僕達はもうあの時とは違うよ。
 それにいい機会じゃないか、甲子園の実力ってものがわかるんだから。
 僕は加持先生に感謝しているよ、こんなにいい機会を与えてくれた事にね。」


シンジには不安はなく、逆に強いモノと闘える喜びの方が強かった。


「そうだよムサシ君、それに今回負けたとしても甲子園に行けなくなると言う事はないんだから。」
「そうだなカヲルの言う事ももっともだ。
 そうと分かればもう考えるのはやめだ。
 文化祭を楽しもうぜ。」
「アンタってばホントに単純ね。見てて感心しちゃうわ。」
「フンッ いつまでもウジウジしてるよかマシだろ。」
「たまにはそんなムサシが見てみたいわ。 そうすればアンタのその性格も変わるでしょ。」
「なに! マナ、そんなにオレを怒らせたいのか?」
「そーやってすぐに頭に血が上るからいけないのよ。」
「テメェー!!!(怒)」
「なによ、やる気?」

「やれやれ、今日も平和だねぇ。」


カヲルが涼しげにそう言うとシンジとケイタもそれに頷く。
明日は親善試合があるのにいつもと変わらぬ光景がそこにはあるのだから。








今日は快晴、文化祭には最高の天気であった。










☆★☆★☆











「ええーーーーー!?」

ところ変わってここはシンジ達のクラス。
ここでは一人の少年の絶叫が聞こえた。


「なんで僕がウェイターになっているの?
 それにカヲル君まで。」
「あれ?碇君と渚君には言ってなかったっけ?」


実行委員がニコニコしながら話した。
それもその筈この事は極秘事項とされ、それを知るモノは実行委員と女子全員であった。


「でも明日は親善試合があるし...」
「大丈夫よ碇君、明日は完全フリーにするから。」
「そ、今日だって交代制だから遊ぶ時間はちゃんとあるぜ。」
「で、でもカヲル君は...な?」


ふと自分と同じ目に合っている筈のカヲルを見たが、そこに映っていたモノは既にウェイターの衣装に着替え終わってレクチャーを受けているカヲルの姿だった。
彼にはシンジと一緒、という事しか頭になかったようだ。


「あ、カヲルはもうやる気みたいだぜ。
 じゃ、シンジも頑張ってくれ。」
「よろしくね碇君。
 じゃ、これ衣装だから着替えといてね。」


実行委員はそう言いシンジに衣装を手渡した。
ムサシ、ケイタ、マナはそれを笑って見ていた。


「はめられた...」


接客など、人を相手にする事が苦手なシンジはガックリと肩を落として諦めた。

そうこうしてる間に準備は進められカウンターの方も整い、男子は呼び込みに回り、シンジ達ウェイターやウェイトレスはオーダーの取り方などのレクチャーを受け、その他は飲み物や料理などの準備をしていた。



そして時間になり文化祭の火蓋は切って落とされた。











大切な人への想い

第拾話  決戦前夜











「...ご注文は以上でよろしいでしょうか?
 それでは少々お待ちください。」


シンジは注文を受けると大急ぎでカウンターに戻る。


「オーダー入ります。
 3番テーブル、
 ケーキセット二つ、飲み物はホットコーヒーで
 以上、お願いします。」
「ハイッ!
 ケーキセット二つ、飲み物はホットコーヒー
 入ります。」


シンジがオーダーを告げると元気な声がカウンターから聞こえてきた。
それを聞くとシンジはまたオーダーを取りに行く。



シンジ達のクラスの喫茶店は大盛況であった。
開店早々お客が大量に入ってきて、それがずっと続いているのである。
次から次へと入れ替わるお客を相手にシンジ達ウェイターやウェイトレスは走り回り、カウンターの方ではそのオーダーの対応に追われ、男子達の雑用部隊は少なくなった食材を追加しに走り回るという、うれしい誤算に追われていた。

この事態が起こる背景には、シンジとカヲルがウェイターとして参加という裏情報が流れていたとかいないとか...
その為なのか入ってくるお客の大半は女の子であった。



「すいませーん、オーダーまだなんですけど。」
「ハイ! ただいまそちらに行きます。」


休む間もなくオーダーを受ける。





「野球部の練習より辛いよ...」


シンジはそう実感した。










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場所は変わり体育教官室−−−


「加持ぃー 遊びにきたよ。」
「ん? 葛城か、ちょっと待ってくれ、今やってるのを仕上げるから。」


加持はミサトを確認すると再び仕事に戻った。
しかしミサトは文化祭の時まで仕事をやっている加持の事を怪訝に思い尋ねた。


「何やってんの、アンタは?」
「ああ、明日の事だよ。
 ほら親善試合やるって話さ」
「あ、甲子園出場校との試合ね。
 でも正直言って勝てると思う?」
「そりゃ分からんさ。勝負は時の運って言うしな。」


加持は少しとぼけて言った。


「よしっ 終わった。
 どうだ葛城、これから学校内を回らないか?」
「な、何いってんのよ、明日の事は心配じゃないの?
 アンタがこんなんでどーするのよ。」
「さー 分からんな。
 オレは生憎と神様じゃないからな、先の事は分からんよ。」
「だったらなんで!!」


加持がいつもと同じ様にしているので、ミサトは苛立っていたのだ。


「オレが頑張って勝てる位なら、いくらだってやるさ。
 けど実際にやるのは彼らなんだ、彼らはもう十分過ぎるほど練習はやった。
 後は天命を待つだけさ。」


加持はミサトの事を真っ直ぐ見ながら話す。
こうなるとミサトは何も言えなくなるのだが、今回は何故か違っていた様だった。
だがミサトはこめかみに#マークを作って加持に聞いた。


「アンタ、今その親善試合がどうなっているのか知ってるの?」
「? 何か都合が悪くなったのか?」


加持にはミサトが何を言いたいのか分からなかった。
その時ミサトが1枚の紙を加持に渡した。


「それに何が書いてあるか分かる?」


そうミサトに言われその紙に目を通した加持が瞬時に硬直した。


「何? −−−第壱高校文化祭メインイベント 甲子園ベスト4対我らが壱高野球部−−− 勝つのはどっちだ?
 なんだコリャ? なんなんだこのポスターは?
 葛城! これはどこから持ってきたんだ? まさか学校中に貼り出されて...」


加持の顔から汗が流れ落ちる、ミサトはそんな加持を見ながらもっと残酷な事を話した。


「ううん、街中にばらまかれているわ。」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

体育教官室から絶叫が発せられた。










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一方、科学準備室では−−−


「無様ね。」


白衣を着た金髪の某教師がポスターを見ながらそう呟いた。





第壱高校は今日はまだ平和であった。










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時間は経ちお昼過ぎ−−−


「お疲れー。」「ご苦労さん、後は任せといて。」「じゃ、後よろしくね。」


ようやく交代の時間がきたのである。


「やっと交代か〜。」


シンジはようやくこの激務から開放された。
午前中の売上だけで今回の予想収益を上回ってしまったのである。
これを激務と言わずして何なのか。
とにかくシンジはようやくフリーになったのである。


「やあ お疲れ様。シンジ君。」


カヲルがいつもの様に涼しげな顔をしてシンジに声を掛ける。


「あ、お疲れ様カヲル君。
 それにしてもカヲル君は元気だね、あんな事があったのに。
 もう僕なんてくたくたで...」
「そうかいシンジ君。
 ゴメンね、なんかキミにだけ働かせてしまって。」
「いや、僕に体力がないだけなんだ。」


カヲルが済まなそうにしているのでシンジは慌てて訂正した。
そこにムサシ、ケイタ、マナが入ってくる


「よ、お疲れシンジ、カヲル。」
「お疲れ様、二人とも。」
「お疲れ、シンジ君、カヲル、今日はすごかったね。」
「あ、そっちの方もお疲れ様。」
「やあ、呼び込みの方が良かったらしくてお店の方は大繁盛だったよ。」
「おう、それよりこれ見ろよコレ。」


ムサシは1枚の紙をシンジとカヲルに見せた。
そこには少し前に加持が見たものと同じ事が書かれていた。


「な、何コレ? なんで親善試合の事がこんなにでっかく書かれているわけ?」
「なんでも今回の文化祭のメインらしい、しかも学校だけでなくて街中まで貼り出されているらしいぞ。」
「そ、そんな...」


シンジはまさか話しが、ここまででっかくなるとは思ってもいなかったらしく呆然とした。


「ま、オレはこっちの方が盛り上がっていいけどな。
 フフン、燃えてくるぜ。」
「はぁ、アンタは一つの事に熱中すると周りが見えなくなるからいいわね。」
「なんか言ったか?」
「ん? なーんにも。」


いつもだったら二人のそんなやり取りが延々と続くのだが、今はそんな心境ではないらしい。





「とにかくこの事はキャプテンには伝えた。
 そしたら今日の文化祭が終わったら一度集まる事になったから。」
「うん、分かったよケイタ。
 これじゃ迂闊な事もできなくなったね。」
「そうなんだよね...」
「何をそんなに不安がっているんだい?
 そんなのは関係ないよ、僕達は今まで通りの事をやればいいんだよ。
 そんなに難しく考える事はないさ。」
「そっか、カヲル君の言う通りだね。
 僕達は僕達なんだから今まで通り頑張れば、それでいいんだよね。」


カヲルは暗い方向に考えが行こうとするのを変えさせた。


「けど...今まで通りって言ったらそれはそれで困るんだけど。
 あのバカがね...」


マナがそう言ってムサシの方を見る。
シンジとケイタもそこで不安になる。
カヲルはいつも通りの涼しい顔。


「「「はぁ...」」」



「とにかく燃えるぜ!!!!!」


一人で熱血しているムサシであった。










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理事長室−−−−−

ここには二人の男がいた。
碇ゲンドウと冬月コウゾウである。


「碇、オマエの指示通りにはしたが...本当にこれで良かったのか?」
「フッ、全てはシナリオ通りですよ。」
「しかしうまく行けばいい、もし失敗でもすれば取り返しのつかない事になるかもしれんのだぞ。」
「そんな事を考えていてどうするんです、それに負ける事はあっても失敗する事はありませんよ。」
「まったくオマエというヤツは。」


冬月の手には1枚の紙が握られていた。
その紙は無論あのポスターである。
どうやらこの二人が親善試合の事を大々的に宣伝していたようだ。










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ところ変わってここは街の中心の商店街−−−−−


「あら、何かしらコレ?」

一人の主婦がとあるポスターの前に立ち止まっていた。
髪はショートカット、落ち着いた雰囲気、そしてその外見は実際の年齢より若く見える。
碇ユイであった。


「全く...何を企んでいるかと思えばこんな事を...
 でも面白そうね、近所の奥さま方を誘って明日見にいってみようかしら。」


彼女はこういったイベントには飢えている様であった。










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場所を戻して学校内の職員室−−−−−


「おいシゲル、このポスター見たか?」
「ん?マコトか、なんだ?そのポスターは。」


二人の教師が話をしていた。
一人は歴史の教師の日向マコト、もう一人は数学の教師で吹奏楽部の顧問を務める青葉シゲル。


「ヘー親善試合ね。 しかも甲子園ベスト4とは。」
「な、すごいカードだろ、なんでもウチの方は碇シンジ君が投げるんだ。
 柏陵高校って知ってるか? 柏陵高校はこの甲子園ベスト4と県大会で互角に闘ったんだ。
 で、碇シンジ君はその柏陵高校の4番を見事破ったんだ!
 どう考えてもこの試合一波瀾起こるぜ! 絶対見に行こうぜシゲル!」


マコトは一人で興奮していた。
シゲルは対照的に冷静だった。


「マコト、オマエはどうやらシンジ君の事を知らないらしいな。
 聞いて驚け、シンジ君は以前オレの吹奏楽部に籍を置いていたんだぜ。
 しかもその腕は一流ときたもんだ。 そりゃすごかったぜ。」
「何? それ本当か?
 なんで話してくれなかったんだよ、こんなオイシイ話。
 ...でもなんでそれが野球部に移籍したんだ?」
「ん〜 まあ色々とあったらしい、詳しい事は訊かないでくれ。
 プライバシーの問題になるからな。」


おおまかな理由を知るシゲルは済まなそうにマコトに話した。


「そ、そうなのか。 残念だ。
 でも明日は絶対に見に行くからなシゲル。」
「あったりまえだ! シンジ君が出るんだ、吹奏楽部全員誘って行くさ。」
「二人ともどこに行くんですか?」


突然後ろから声がした。
声の主はこの学校の校医を務める伊吹マヤであった。


「「あれ、伊吹先生じゃないですか。」」
「こんにちは。」
「ちょうど良かった。 見てくださいよ伊吹先生、このポスターを。」


マコトがマヤに親善試合のポスターを見せた。


「ヘー親善試合ですか。
 面白そうですね私もご一緒させてもらえませんか?」
「「それはもう喜んで御一緒させて頂きます!」」


シゲルとマコトは見事なユニゾンで応えた。



こうして明日の親善試合は第3新東京市全域に知れ渡った。
無論シンジの存在も一緒になってゲンドウ達が情報をリークしていた事は言うまでもない。










☆★☆★☆











野球部グラウンド−−−−−
グラウンドでは既に野球部全員が集まっていた。


「全員集まったようだな。
 あー、集まってもらったのは他でもない。
 どうやら明日の親善試合の事が、大々的に第3新東京市中に広まっているらしい。
 何故こうなったのかは不明である...だがオレ達がやる事には何も変わらない筈だ。
 だからこのような情報に惑わされぬように気を付けてもらいたい。
 不安な者はこれから練習をしてくれ、ただし明日の事もあるので無理をしないように。
 以上だ。」


キャプテンから事情を聞いた加持が明日の心構えとして全員に諭したが、殆どの者が緊張しており、あまり耳には入っていなかったようである。

しかしそんな中でも自分のやるべき事を理解している者もいた。
シンジ、ムサシ、ケイタ、カヲルである。
もともとこのメンバーは野球をする事(そのうち一人はシンジと)が好きなのである。
だからこのような事が起きても何ら動ずることもない。

シンジらは最後の調整を始めた。










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相洋学園−−−−−
明日の親善試合の為、早めに切り上げた野球部だが未だ練習を続ける者がいた。
相洋学園野球部の松田ワタルである。
そこへ柏陵高校の水上タケシが話し掛けてきた。


「よっ 精が出るなワタル。」
「またオマエか、そんなに暇なのかタケシ。」


返事はしたモノのワタルは素振りを続けていた。


「いや何、いい情報が入ったんでな。 それを教えに来たんだ。」
「情報って明日の事か?」
「そうだ、碇シンジが投げるらしい。
 明日はオレも見に行くからな。
 じっくりと見せてもらうぜ、オマエと碇シンジの力。」


自分と同等の力を持つワタルを相手にシンジがどこまでやれるかがタケシは知りたかった。


「結果は見えている、行くだけ無駄だ。」


ワタルの応えは素っ気無かった
あくまでも自分の目標は甲子園だと言わんばかりの様子で返した。


「ま、明日になれば分かるさ。
 楽しみにしてるからな、じゃあなワタル。」


タケシはそれだけ言って帰ってしまった。
しかしワタルはそんな事も気にせずに素振りを続けていた。





「碇...シンジ...か。」








既に周りは暗くなり空には月が見えていた。
そしてその月を第3新東京市で見ている少年がいた。





「今日はいい月だね。」


碇シンジであった。
その目は優しく光っており、今は亡き妹の事を考えている。


「明日は試合があるんだ、しかも甲子園ベスト4とね。
 どこまでやれるか分からない、けど見ていてね、レイ。
 ...僕はもう逃げないよ、僕には志を共にする仲間がいるんだ、だから心配ないよ。」


月を見ているシンジはどこまでも優しい声で話した。










「楽しみだね、明日の試合は。」


月の光は優しく照らし、シンジは首飾りを優しく握り締めていた。
レイからの贈り物である水晶の原石の首飾りだった。
それを握るだけでレイを感じる事ができるのか、シンジは優しく笑っていた。


「シンジ君、そろそろ寝た方がいいわ。」


後ろからユイが話してきた。
ユイにとって明日は自分の息子の晴れ舞台、体調だけは万全にしてもらいたかった。


「そうですね、じゃ 早めに寝ますのでおやすみなさい、叔母さん。」
「明日は頑張ってねシンジ君。」
「ハイ、頑張ります。」


シンジはユイの心遣いが嬉しかった。
しかも 「勝って」 ではなく 「頑張って」 であった事がとても嬉しかった。














こうして様々な想いを乗せ、舞台と役者は揃い、後は明日の親善試合を待つのみとなった−−−−−



第拾話  完

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