窓から陽の光が差し込む。
その光を浴びてミズホが目を覚ました。
しかし顔色は優れず、額には薄っすらと汗が浮かんでいる。
ミズホは自分の置かれた状況を理解していないのか、首だけを動かして辺りを見渡した。
白い天井、白い壁、そして白いベット。 自分が保健室に居る事が分かった。


「あ、気が付いたんだね。」


その時、不意に横から声を掛けられた。
その声はどこまでも優しく、ミズホの心に染み渡る。
そしてその表情は優しく微笑んでいた。
しかしミズホには見覚えの無い人物だった。


「...誰?」
「あ、僕? 僕は同じクラスの若槻タツヤ。
 須藤さんは転校して来たばかりだからまだ知らないか。」
「貴方が...私をココに...」
「ま、まあ...そうなるね。
 でもびっくりしたよ、いきなり倒れるから。」
「ありがとう...若槻君...」
「あ...いや...なんか照れるな、そう面と向かわれて言われると。」


タツヤは頭を掻き、照れながらミズホに返す。
ミズホはじっとその顔を見詰める。
それに気付いたタツヤは更に顔を赤くする。
あまり見詰められると困るので、なんでも言いからタツヤはミズホに話しかけた。


「ど、どうかしたの?
 僕の顔ってなんか変かな?」
「ゴ、ゴメンナサイ...」
「あ、いや、謝らなくていいよ。
 それよりも大丈夫? いきなり倒れるからびっくりしちゃったよ。」
「...ゴメンナサイ...
 私...体、弱くて...よく貧血なんかで倒れるの...
 迷惑掛けてゴメンナサイ...」


ミズホはタツヤに話し掛けられてからというモノ、謝ってばかりだった。
その表情は暗く沈んでしまい、見ていて痛々しかった。
そして嫌な沈黙が辺りを支配する。
その為に彼女の考えは悪い方へと向かって行き、迂闊にもその考えは口から出てしまった。


「なんで私の体ってこんなんだろ...」


まさか自分がそんな事を口走るとは思っていなかったのか、慌てて自分の口を手で塞いだ。
しかし口から出てしまった言葉は元に戻せない。
自分の発言によってタツヤがどんな風に思うのか、それを考えるのが嫌だった。
タツヤに迷惑を掛けてしまい、そして自分の言葉によって更に迷惑を掛けてしまう。
自分の所為なのに都合良く他人に助けを求めてしまう自分が嫌になった。
そしてミズホの口からは謝罪しか出ない。 タツヤの方を見ない様にして謝った。


「ゴメンナサイ、今のは忘れて...」
「...まただね...」


タツヤから思い掛けない言葉が返ってきた。
ミズホがその言葉に反応してハッと見上げると、そこには困った顔をしているタツヤがいた。
タツヤのその顔はミズホの体の事を案じてるだけでなかった。
不思議そうにその顔を見詰めるミズホ、そしてタツヤが何を考えているのか知りたかった。


「...またって...何?」
「謝った事だよ。 須藤さんって謝ってばっかりだから。」
「...若槻君?」
「それから暗い方に考えるのは止めた方がいいよ。
 でないと余計に悪い方に考えが行っちゃうからね。」
「.........」
「それに病は気からって言うじゃないか。
 だから笑ってた方がいいよ、僕もそっちの方が嬉しいし...
 って僕なに言ってんだろ? ア、アハハハ...」
「...クスッ、可っ笑しいの若槻君って。」


タツヤは自分の言葉がどれだけ恥ずかしいかに気付き、照れながら笑う。
ミズホはその顔を見ていると、何故だか心が軽くなっていく事が分かった。
そして保健室には二人の笑い声が響き渡る。

タツヤは初めて見たその笑顔を綺麗だと思い、自分に淡い想いが湧き上がる事を感じた。
ミズホはタツヤの考えに、自分には無いモノに惹かれる。










桜が舞い散る季節−−−−−

その時に二人は出逢う。
四年前の春、中学2年に進級した時、彼女は転校して来て彼に出逢った。

その時に二人は惹かれ合う。
彼は彼女の笑顔に、彼女は彼の自分には欠けていた考えに−−− それぞれがそれぞれに惹かれ合った。




















―――――それが須藤ミズホと若槻タツヤの初めての出逢い―――――






















大切な人への想い

第弐拾七話 偽れぬ心と偽りの想い











古川家のアユの部屋でアユは自己嫌悪に陥っていた。
部屋は荒れに荒れ、その隅には電話の子機が転がっていた。
アユは自分のベットに寝っ転がって先程の事、タツヤからの電話を思い出す。


「アユか? オレだ、タツヤだ。」
「タ、タツヤ? なんで電話なんか...」
「何って、オマエ今日は休んだんじゃないか。
 だからこうしてオレが様子見で電話したんだよ。
 ...それにしても元気そうじゃないかアユ、心配して損したな。」
「あ、ああ...
 今日一日寝てたら直った、心配かけてゴメン...」


タツヤは普段と変わらぬ話し方だが、アユの方はタツヤとミズホの件が頭に張り付いて上手く話せない。
その為いつもとは違い、アユが聞き役に回り当たりしばらくは障りの無い会話をしていた。
しかしいつまでも隠し通せる筈が無く、タツヤは勘付く。
たとえ高校からの付き合いとは言えアユの性格をタツヤは理解している。
アユがいつもと違うのは体調からで無く、何か別の理由でいつもの調子では無い事に気付いたのだ。


「...何があったんだアユ?」
「え? 何って...どうしたのさタツヤ、いきなり...」
「誤魔化すんじゃない、オマエはいつもそうだ。
 一人でなんでも背負い込んで...そんなんじゃ疲れるばかりだぞ。」
「...タツヤ...」


アユにはタツヤが真剣に考えてくれている事が感じられた。
普段は顔を合わせれば必ず喧嘩を始める位に仲が悪いのだが、いざという時はこの様に自分の事を心配してくれて頼りになる存在だった。
だが今のアユにとっては、そんなタツヤは重荷だった。
自分の悩みがタツヤ自身にある為に、今回ばかりは一人で解決したかったのだ。
しかしタツヤはいつも通りに話し掛けて来るので、アユは言いようも無い不快感に襲われた。


「どうしたんだアユ?
 やっぱり何かあったんだな。」
「...なんで...だよ...」
「なんだって? よく聞こえないんだけど。」
「...なんでだよ...」
「な、なんでって、何が?」
「なんでこんな時に優しくするんだよ!
 アタシの事はほっといてくれ! 一人にして!!」
「ど、どうしたんだアユ!?」
「タツヤなんか大っ嫌いだ!!
 こんな時に優しくすんなバッキャロー!!」
「オイ、アユ! ア...」

ガチャン!

タツヤの呼ぶ声を聞くのが辛くなり、叩き付ける様に電話を切った。
アユの瞳からは涙が零れ、床を濡らしていく。
そして肩で大きく息をしながら崩れていった。


「...バカ...」


最後にこぼれた言葉はタツヤに対して、そして自分に対しての言葉だった。










☆★☆★☆











「...タツヤ君か...」


その頃須藤家のミズホの部屋では、その部屋の主のミズホが一枚の写真を手に取って呟いていた。
その写真には先程の名前の人物、若槻タツヤが写っている。
林間学校の頃の写真らしく、背景には木々が生い茂っていて緑が眩しい。
これは実はミドリが偶然撮ったもので、彼女から無理を言って譲ってもらったモノだった。
その所為あってかその頃からミドリと親しくなり、かつその時点で自分の想い人がばれてしまったのだ。


「告白しちゃったね...とうとう...」


ミズホは少し前の事、タツヤに告白した時の事を思い出していた。
その時はなんともなかったのだが、今改めて思い出すと途端にミズホの顔が真っ赤になっていく。
いくらマヤに説得されたとは言え、普段の彼女からは考えられない出来事だった。
告白に関しては中学の時から、親友であるミドリに再三言われ続けて来たのだが出来なかった。
ではマヤだから説得されたのかと言うと実は違い、ある要因が絡んでいたのだ。

自分以外にタツヤを想っている人が居るのをミズホは知っていたのだ。
そしてその人物は自分の親友である事も分かっていた。
その事に気付いたのは高1の2学期の頃だった。

タツヤのすぐ傍で笑っている女の子が居た。
その女の子のタツヤを見る目は、普通のそれとは大きく違う事にミズホは気付いた。
自分と同じ様な目でタツヤを見ている事に驚愕し、それと同時に嫉妬した。
その女の子には自信が溢れていた。 自分に対する自信があったのだ。
自分の事が大好きな自分とタツヤの事が大好きな自分、その女の子はそれを持っていた。
しかしその頃のミズホは自分に対して自信が持てなかったのだ。
相変わらず体が弱い自分が嫌いだった。 その事でタツヤに迷惑を掛けると自己嫌悪に陥る。
そして嫉妬に狂う自分が許せなかったのだ。
嫉妬の対照がタツヤでありその横に居る女の子、古川アユだった。

アユとは入学から同じクラスで席も近かった所為か、すぐに仲良くなり親友になった。
彼女は良くタツヤと口喧嘩をしていたが、内心はそれを楽しんでいる事にミズホは気付いていた。
楽しそうに話しているアユが羨ましかった、なんの気兼ねも無く話している二人に嫉妬したのだ。

(何故あの二人は楽しそうに話しているの...)

今まではその暗い感情に悩まされていたが、先に自分の気持ちを伝えたのはミズホだった。
今日の帰りに家まで送ってもらった際に告白したのだ。
タツヤとアユの二人の性格からして、自分の恋が成就すると確信していた。

その時ミズホは自分がどれだけ卑しい人間かが分かった。
本当だったらアユに自分の気持ちを打ち明けて闘うべきだったかもしれない、それが親友に対するけじめ。
しかし自分に勝ち目があるとは思えず、二人の気持ちに目を付けた。
自分の事をいつも気遣ってくれるタツヤと自分の想いを知っている筈のアユ、その二つの気持ちを利用した。

もしこの事実が二人に知られたらと思うと気が狂いそうになった。
頼れる二人の存在を失うのが怖かったのだ。
しかしその想いよりもタツヤを奪われるのが嫌だった。
中学の時からずっと見続けていたのに、自分よりも後に出逢ってタツヤを自分から奪って行くのが許せなかった。


「タツヤ君は絶対に渡さない...」


ミズホはタツヤの写真を見詰めて呟く。
彼女のその瞳は暗い輝きを宿らせていた。










☆★☆★☆











時は経ち深夜−−−−−
タツヤは早めに床に着いたが今日は目が冴えてしまい中々寝付けなかった。
理由は二つあり、その内の一つは須藤ミズホの言葉だった。

(好きです...中学の時からずっと貴方だけを見てきました...タツヤ君...)

人から告白されるのは初めてだった。
しかもそれが中学からの想い人だったのだ。

タツヤ自身信じられなかった。
自分には彼女に誇れるものが無い。
それなのに彼女は好きだと言ってくれた。

彼女の事を好きだと言う人間は沢山いる。
中学の時からそうだったのだ。
実際に何人かは彼女に告白した事を知っていた。
タツヤにとっては、その人達が羨ましかった。
自分には無い自信を持ち、自分の想いを伝えられる事が羨ましかった。
ただ見ているだけで、憧れだけで終わりにしようとしていたのだ。


「...中学の時からずっとか...
 オレだって須藤さんの事をずっと...」


しかし自分には勇気が無かった。
その為に自分の想いを伝える事が出来なかった。
たった一言 「好きです」 それを伝える事が出来ずに今日まで引きずって来たのだ。


「オレって今まで須藤さんを傷付けてたのかもしれないな...」


その想いに辿り着くと、もう一人の女の子がいきなり頭の中に浮かんで来た。
ミズホとは対照的な人物のアユだった。
何故アユの事が浮かんで来たのかが最初は理解出来なかったが、先程の電話の件を思いだした。


「それにしてもアユのヤツはなんで...
 折角気晴らしに電話したのに変な問題が増えちまったな...」


あの時のアユの荒れ様は初めてだった。
いくら喧嘩をしていても、あそこまで酷くなる事は今までに無かった。
そして電話越しでもアユが泣いている事に気付き、その原因が自分にある事がなんとなく分かった。
タツヤは過去に一度だけアユを泣かせた事があり、気になって仕方が無い。
アユの事とミズホの事、その二つの事が頭から離れず時間だけが無情に過ぎ去っていく。










タツヤ、アユ、ミズホはそれぞれの想いに悩まされて眠れない。
しかしそれでも明日はやってくる。




















3人にとって決して忘れられないその日が遂に訪れた。





















☆★☆★☆











その日の朝はいつに無く晴れていた。
タツヤは野球部の朝練がある為にいつも通りに早く学校に向かう。
ミズホもまたいつも通りにミドリとの待ち合わせの時間に間に合う様に家を出る。
アユは陸上部の朝練があるのだが、今日はそんな気分では無く朝練には出なかった。
その為に校門の辺りでアユとミズホはばったりと会ってしまった。
ミドリにとってはなんでも無いいつも通りの事だったが、アユとミズホにとっては最悪の場面だった。
時刻はちょうど朝練が終わる頃であった。


「オハヨ、アユ。」
「あ、おはようミドリ。
 ...それからミズホも...」
「お、おはよう...アユちゃん。」


アユとミズホが挨拶を交わした途端に辺りの空気が重くなり二人の間に緊張が走る。
二人は挨拶を交わした後はそのまま動かなかった。
そしてなんの事情も知らないミドリにとってはどうしようも出来ない。
その言い様も無い緊迫感を打ち破る様に先に喋ったのは意外にもミズホで、彼女にしてみれば主導権を握りたいが為の行動であった。

そしてそこから全てが始まった。


「あ、あのね。
 二人に聞いてもらいたい事があるの...」
「なにミズホ、改まっちゃって?」


そこにミドリが 「これ幸いに」 と思い、話に乗ってくる。
しかしアユとミズホには今まで以上に緊張が走り、手に汗が滲んでくるのを感じた。
そして静かにミズホの唇が動き、それを見ていたアユは不安で押し潰されそうになる。
タツヤとの事かも−−−アユは瞬時にその考えに到達した。
そしてアユにとって聞きたくない言葉をミズホは綴る。















「あのね私−−−」







(嫌だ、聞きたくない!)








「昨日若槻君に送ってもらった時に−−−」







(やめて! 喋らないで!)








「伝えたの−−−」







(それ以上言わないで!)








「私の気持ち−−−」







(私だって好きなんだから!)























「若槻君が好きって事を告白したの。」
(タツヤの事が好きなんだから!!)































アユは心の中で自分の想いを叫んだ。
そして自分がまだタツヤの事を諦めきれない事に気付いた。
タツヤの傍に居たい、一緒に笑って居たい。 それは夢の中でしか実現しなかった想い。
タツヤの事が好きでいられる自分でいたかった。

それが偽りの無いアユの心−−−





ミズホは昨日の事をアユに告げた。
そして心の内では笑っていた。

(コレデイイノヨ...コレデ彼女ハ諦メテクレル...)
(そうよ...これでいいの...タツヤ君は渡さないんだから...)

ミズホの暗い感情が喋りかけ、ミズホはその言葉を肯定する。
自分の負の感情を認める程までにミズホの心は弱く、そしてタツヤの事が好きだった。

それが偽りの無いミズホの心−−−





アユとミズホにとっては、永遠とも言える数刻だった。
今までの親友と言える関係が崩れて行く事が二人には予想出来た。
たまたま同じ人を好きになってしまった為に−−−理由はそれだけだった。










「あれ、タツヤじゃない?」


ミドリがタツヤの事を見付けて二人に言う。
その事を聞き、二人の心臓は大きく鼓動する。 不安と緊張、それが二人にそうさせたのだ。
そしてミドリがタツヤの事を呼び寄せて言う。


「ンフフフ〜〜〜、タ〜ツ〜ヤ〜
 ミズホに告白されたんだってぇ。」
「な、なんでミドリが知ってるんだよ?」
「ゴメンナサイ...私が話したの...」
「須藤さん...」


タツヤは困った顔でミズホに話し掛け、ミズホは顔を赤くして謝る。
そんな二人を見てミドリが冷やかす。
しかしアユだけはその場に立ち尽くして黙ったままだった。

(なんて場違いな所に居るんだろう...)

それがアユの正直な心境だった。
今この瞬間を信じたくは無かった。
だが目の前ではタツヤがミズホの事を庇い、恥ずかしそうに照れている。
そんな二人を見ていると昨日の決意が頭によぎった。

(アイツが幸せだったら...それでいい...)

アユの目の前に居るタツヤはその言葉通り幸せに見えた。
その考えに辿り着いた時、アユは昨日自分の姉に話した言葉通りにする事にした。
これ以上今の関係を崩したくは無かったのだ。
そしてアユの口が開く。


「良かったじゃんタツヤ、ミズホと相思相愛の関係になれて。
 それにしてもミズホったら大胆よね〜、自分から告白するなんて。」
「ア、アユまでそんな事を...」
「なに言ってんだよタツヤ、それ位我慢しろ!
 全く、ミズホに告白させるなんて甲斐性無しなんだから。」
「た、確かにそうだけど、甲斐性無しまで言うか?」


いつも通りに話すアユを見てタツヤは安心した。
昨日の事はたまたま機嫌が悪かったのだろうと勝手に予想する。
アユとミドリは冷やかしながらも自分とミズホの事を祝福している様に感じた。
だがそれと同時に今まで感じた事の無い気持ちが湧き上がって来た。

(オマエハソレデイイノカ...大切ナモノヲ失ッテモイイノカ...)

何故そんな言葉が聞こえてくるのか分からなかった。
自分の横に居るミズホを見ていると何故かその言葉が浮かんでくる。
目の前のアユを見ると激しい焦燥感に襲われる。

(ヒョットシテ...怖イノカ...)

その言葉が頭に浮かんだ時、タツヤの心臓は大きく鼓動してその理由を探す。
何が怖いのか、そして大切なモノとは何を指すのか、その答えを求めたが何処にも見つからなかった。
自分の横で微笑んでいるミズホを見ても焦りと苛立ちは消えない。
目の前に居るアユを見ると喉の奥に異様な渇きが襲って来た。

(...ソレトモワザト...気付カナイデイルノカ...ダトシタラ最低ダゾ貴様ハ...)

タツヤは先程から聞こえてくる声が怖かった。
顔は青ざめ、冷や汗が流れ、体の底から震えが来るのが分かる。
そしてタツヤには今まで問い掛けて来た声が誰なのかが理解できた。
だがすぐには信じられなかった。 信じたくはなかった。

何故ならばその声は自分の内からの声であり、自分自身の偽りの無い心−−−
ミズホは確かに好きなのだが、それは友達としてであり、そして過去の憧れの人としてである。
自分が本当に想っているのは−−−

その時アユはタツヤを突き放す様に話す。
なるべく自分の感情が出ない様にして、そして自分の想いにケリを着ける様にしてであった。


「ゴメン...私、用事があるの思い出した...
 だから先に行ってるね.........じゃ...」



アユはそれだけ伝えると走って校舎の中に入って行く。
その言葉には今までのタツヤに対する様々な想いが詰まっていた。





ミズホはその言葉を聞いた時、全てが終わった事を感じた。

(...これでタツヤ君は私だけを見てくれる...)

だがアユという親友を失ってしまうのを感じた。
今までの関係が音を立てて崩れ去って行くのが分かった。





タツヤにはアユを止める事が出来なかった。
自分の隣に居るミズホの存在がそれをさせなかったのだ。
心配そうに自分の事を見詰めるミズホを見た時、彼女が自分にどれだけ依存しているかが理解できたから。

























結局アユは自分の想いを伝える事は無かった。
タツヤはミズホの気持ちを捨てる事は出来ず、自分の本当の想いを告げる事は無かった。
ミズホはタツヤを手に入れた事により、激しい嫌悪感に襲われる。

3人は心の中で偽りの想いを呟く。 これで良かったんだと...
そして偽りのシナリオがこの時から始まる。



第弐拾七話  完

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