カキン!
快音が鳴り響き、ピッチャーのフジオが焦る。
しかしショートのケイタが上手くフォローして一塁への出塁を許さない。

「アウト!」

塁審の声が響き、フジオはホッと胸を撫で下ろす。
そこで試合は終了、第壱高校は勝ち抜いて更に駒を進めた。
相手校は相洋学園に比べると弱い。 その為にシンジではなくフジオが先発に選ばれ、そのまま完投したのだ。
結果は8−0の圧勝で、攻守共に絶好調で相手に隙を見せる事無く終わった。
実はこの時すでに5回戦を突破してベスト4入り、次の6回戦が準決勝であった。











大切な人への想い

第参拾八話 好敵手 其ノ弐(前編)











「お疲れ、フジオ君。」
「ありがとうございます、碇先輩。
 やっぱり準々決勝ともなるとスゴイですね、甘いボールは投げられませんよ。」

フジオは先程の試合の素直な感想を伝える。
今回の登板は連投によるシンジの休息とフジオの経験値を上げる為に行われたモノだった。
とは言うものの、いつでも交代できるようにシンジは体を暖めていたが...
その後のミーティングで−−−

「あー、みんな良くやったな。 これでベスト4の仲間入りだ。
 甲子園までは後2回勝てばいい、というわけで頑張れ、以上だ。」

加持が簡単に済ませる。
しかしその後はキャプテンのタツヤを中心に今回の試合の反省会を進めて行く。

「5回戦の試合は本当に理想的だった。
 攻守共に上手く機能していた。 特に今回はフジオのピッチングが良かったな。」

誉められて照れるフジオ。
実際にフジオの力はかなりのモノだった。
予選とは言え準々決勝ともなると、実力のあるチームでなければ来れない。
そのチームを相手にしてヒットは何本か許したモノの、完投完封であるのだから力はかなりあると言ってもおかしくない。
右に左に曲がる多彩な変化球を駆使し、味方の分厚い守備に守られ、今日の試合は0点に押さえたのだ。
で、攻撃の方は四番のリュウスケを筆頭にケイタが足で描き回し、カヲル、ムサシ、タツヤの打線が大当たりした。
結果8点もの得点をもぎ取ったのである。

「残りの試合も今日みたいに頑張って欲しい。
 これでミーティングは終わりだ、気を付けて帰れよ。」
「「「ハイ!」」」

タツヤの締めの言葉に部員全員が気合を入れて返事をする。
手を伸ばせば届く距離に夢があるのだから無理もない。
シンジにとっては旧友に会いに行く為、タツヤとリュウスケ達三年生にとっては最後の夏、そしてムサシにとっては昔に交わした約束の為−−−
それぞれの思いは違えども目指す場所は同じであった。





「ムサシ、今日も特訓やるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。
 甲子園まであと二つ! それを思うだけで力が漲ってくる! オレの細胞の一つ一つが騒ぎ出すんだ!!」
「...うるさそうだね...」

シンジの問い掛けに力強く答えるムサシ。
このところムサシの特訓内容もかなり熱を帯びており、その事は仲間ウチでも気になっていた。

「でもムサシ、あまり無理しない方がいいぞ。」
「なに言ってんだよケイタ!
 あと少しで甲子園なんだぞ! ここで踏ん張らなくてどうする!!」

なにを言っても最早無駄。
ムサシを止める事は誰にも出来なかった。 ...例えマナであってもだ。

「ムサシ...
 あんまり無茶な事は...止めなさいよ。」
「無茶はオレ様の専売特許だ!
 やるなと言われてもやってやるぜ!!」
「あ、あのね...」

普段のマナであったなら腕ずくで言い聞かせるのだが、強く出る事はなかった。
なまじムサシの気持ちを知っている為に止められないのだ。
その変化については部員達も気付き始めていた。 なんと鈍感なシンジもである。

「そう言えば霧島さんって、最近変わったよね。
 なんて言うか...大人しくなってきたような...」
「そうですよね、今までだったら榛名先輩の事を尻に敷いていたのに。」
「綾波さんの言う通りだね、まったく不可解極まりないよ。
 とかくこの世は謎だらけって事さ。」

思い思いの事を呟くシンジ達。
しかし付き合いの長いケイタだけは違った。

「しょうがないさ、あと少しで甲子園に行けるんだから。
 あの二人はその為に頑張ってきたんだ。」
「...マナ先輩と榛名先輩と東先輩って幼馴染でしたよね。」
「そうだけど?」
「先輩達って何故甲子園を目指すんですか?」

ふと疑問に思った事をレイは聞いた。
二人の関係について興味を持ったのも理由の一つなのだが...

「何故って言われてもなぁ...」
「僕かい? 僕の場合はそうだね...やっぱり甲子園で優勝した時にシンジ君と抱き合って喜びを分かち合うためかな。」
「渚先輩には聞いてないです。」
「相変わらずキミの心は氷のように冷たいね。」

あっさりと受け流されたカヲルなのだが相変わらずマイペースだった。
その間にもケイタは理由を考えていた。
腕を組んで視線を上の方に向けてう〜んと唸る。

「う〜ん...その事ってシンジには聞いたの?」
「ハイ! それはもう♪」

シンジの事となると途端に嬉しくなるレイ。
一方シンジはそんなレイの気持ちを察する事無くボーっとしていた。

「うーん、やっぱり球児として野球をやる以上、甲子園は憧れの場所だからかな。」
「ふ〜〜〜ん...憧れの為ですか。」
「僕はね。」

意味有り気に最後に付け加え、早速エサに掛かった獲物のようにレイは聞いてくる。
その問いに対してケイタは顔をニヤけさせる。

「僕はって、じゃああの二人は違うんですか?」
「そ、あの二人の事情はちょっと違うんだ。
 なんと言っても二人だけの約束だからね。」
「約束...ですか。」
「ムサシがマナに、ね。」

シンジ、レイ、カヲル、ケイタの4人は一斉に2人の方を見る。
その視線を受けた二人は訳が判らずキョトンとした表情をしていた。

「「...何...?」」










☆★☆★☆











「ただいまー。」
「おかえりなさい、シンジ君♪」

特訓から帰るとユイの元気な声が迎えてくれた。
その声はキッチンから聞こえ、機嫌が良いらしく鼻歌まで聞こえてくる。
最近はずっとこうなのでシンジは気にする事も無く部屋に向かおうとした。

「今帰ったのか、シンジ。」
「ただいま、叔父さん。
 あれ、珍しいですね、お酒飲むなんて。」
「特別だからな、今日は。
 それよりも今日も勝ったそうじゃないか。」
「ハイ、ですが今日は出番ナシだったんですよ。
 最初から最後までフジオ君が投げ通して完封勝ちです。」

出番は無かったが勝利は勝利で、素直に喜ぶシンジ。

「そうか...そうなるとあと二つだな。
 これからも...頑張れ。」
「ハイ!
 じゃ、着替えてきます。」

慣れない事を言うのがよっぽど恥ずかしいのか、ゲンドウはシンジの方を向けなかった。

「顔が赤いですよ、アナタ。
 それはお酒の所為ですか? それとも...」
「ユ、ユイ、これはだな...」

シンジの入れ違いにユイが入ってきた。
指摘されたのが恥ずかしく、ゲンドウは一気に残りをグイッとあおる。
飲み終わるとフゥとため息を吐いて真顔に戻った。

「変わったな、シンジは。」
「そうですか?
 シンジ君は本来あんな子じゃないんですか。」
「変わったさ...
 今日がアイツの命日だって事を忘れているんだからな。」
「あ...」

空いたグラスをジッと見て呟く。
ユイもその事を思い出して暗く沈む。

「だがそれも良いかもしれん。
 いつまでも過去に縛られる事はないからな...」
「...そうですね。」

空いたグラスにユイは酒を注ぎ足す。
その心境は複雑であった。
死んだ者の事を忘れるのが良い事とは思えない。
だがいずれは乗り越えなければならない。
前に進んで行く為にも−−−

「ソウ...今のシンジには夢がある。
 だから、大丈夫だ。」

グラスの中にある氷がカランと音を鳴らす。










☆★☆★☆











時は流れて翌日の放課後−−−
正門の前には明らかに第壱高校の生徒ではない少年が立っていた。

「第壱高校...ここがそうか。」

ちゃんと第壱高校と壁に書かれているのを見て呟く。
片手に地図を持っており、駅からのおおまかな道筋が書かれている。

「さてと、早速野球部を探さないとな。
 あ、すいません。 野球部のグラウンドはどこにありますか?」

ちょうど近くに居た生徒に礼儀正しく尋ねる。
場所を聞くとちゃんとお礼を言ってから少年はそのまま正門をくぐった。
一方そのころ野球グラウンドでは−−−

「マナ、スパイクの紐が切れたんだ。
 替えはある?」
「また無茶したんでしょう、ムサシ。」

見るとムサシのスパイクの紐はキレイにぶち切れていた。 それも両足とも。

「しょうがないわね。
 確か備品棚にあった筈よ、ちょっと待ってて。」
「オレも行くよ、ちょっと休憩。」
「まったく、さぼんないでよ。」

などと言いながらも二人は部室へと向かう。
ムサシの方が背が高く歩く速さが速いのでマナはその後ろを着いて行く感じだ。
いつの間にか大きくなった背中を見てマナの目が細くなる。

(中二の時だったな、ムサシに身長が抜かれたのは)

じっと広い背中を見詰めたままマナは歩き続ける。
野球部の部室はグラウンドから離れた所、校舎の脇の部室棟にある。
部室棟と言うことから、そこには他にサッカー部や陸上部などの運動系の部が構えている。
今の時間は部活が始まったばかりなので人気はあまりない。
が、突然ムサシの歩みが止まった。 そうなると後ろを歩いていたマナは当然ムサシの背中にぶつかる。

ボフ!
「キャッ!
 ちょっとムサシ、いきなり止まらないでよ!」
「あ、悪い。」

マナは鼻を押さえながら文句を言う為にムサシの前に出る。
しかしそんな事は気にも止めずムサシは前を見ていたので視線を向けるとそこにはネコが居た。

「ネコだね。」
「そんな事は分かっている。
 問題は色だ。」

クロネコであった。 全身真っ黒けの。
ネコはじっと二人を見詰めたまま動かない。
気付くとムサシは冷や汗を流していた。 もちろんマナはムサシの変化を見逃す筈がない。

「はは〜んムサシ君、さてはビビッてるね。」
「な、なに言ってんだ、マナ!
 オレに怖いモノがあるとでも思ってんのか!」

マナは既にからかいモードに入ってしまい、ムサシは悟られないように虚勢をはる。

「クツヒモが切れ、目の前にはクロネコが居る。
 これはもう決まりだね。」
「そんなモンは迷信だ!
 オレは信じてないぞ!」
「大声を出すところがア・ヤ・シ・イ...」
ギャーッギャーッ!!
バサバサバサ...

突然カラスが飛び去っていった。
それを唖然とした表情で見ているムサシとマナ。

「「な、何かが起こる...」」

とどめと言わんばかりのカラスの登場により二人の嫌な予感は一気に増大する。
クツヒモ、クロネコ、カラス。 この三つが示すモノは一体なんなのか?
次から次へと悪い考えしか浮かばない二人であった。

それはさておき今の二人の格好が気になる。
なんと二人は抱き合っていたのだ。 ムサシがマナを護るような格好だったという。
もちろんそんなおいしい現場を見逃す筈もない某教師が一名。

「あらあら、まだ明るいのにあの二人もやるわねぇ♪」

一方科学準備室ではリツコが居なくなったクロネコのメルキオールを探していた。

「メルー、メルー...何処行ったのかしら?」
「メルってクロネコのメルキオールですよね。
 私も探しましょうか?」
「お願いするわ。
 まったくあの子は...」

遊びに来ていたマヤが手伝う。
部屋の隅ではエサをおいしそうに食べているシロネコのカスパーとミケネコのバルタザールが居たという。










☆★☆★☆











「フム、ここが野球部のグラウンドか。
 ベスト4まで来るとやはり気合が入っているな、相手にとって不足は無い。」

目の前で行われている練習風景を見ながら少年は呟いた。
腰に手を当て、ふんぞり返りながら見ているのは少年の性格からであろう。
半袖のカッターシャツから出ている褐色の肌に、真中で分けられた黒い髪、無駄が無く絞られた体型。
そして肝心の容姿は野球部に所属している、とある人物にあまりにも似ていた。

「むむ...アイツはなにサボってやがるんだ?
 それにまだ着替えていないのか...まったく気合が足らんな!」

その少年の後ろにはリュウスケが立っていた。
早速根性を入れさせる為に背後に音も無く忍び寄る。
あまりにもある人物に似ているので別人である事に気付かない。

「コラ!
 なにをやってんだムサシ!」
「うわぁ?!」

突然後ろから大声を掛けられ思わず少年は飛び上がった。

「ハッハッハッハ、簡単に後ろを取られるとはオマエもまだまだだな...あれ?」

リュウスケはそんな少年を見ていたが、なんだか自分の予想していた人物と違和感があるのを感じた。
思わず目の前の少年をじっと見る。
身長も、肌の色も、髪型も、何から何まで同じ野球部のムサシに似ているのだが何処と無く違う。
確認の為にリュウスケは聞いてみることにした。

「オマエ、ムサシだよな...?」
「え? ムサシ...
 あの、ムサシってひょっとしたら榛名ムサシの事ですか?」

今度は少年の方が質問してきた。
リュウスケは戸惑いを覚えたが、なんとか目の前の少年がムサシではない事に気付いた。

「ああ、そうだが...キミはムサシではないのか。」
「申し遅れました。
 私はヤマト、 『ヤマト=リー=ストラスバーグ』 と申します。
 次のセミファイナルで貴方達と闘う総武台高校の者です。」

礼儀正しく挨拶をする。
笑顔で、しかも胸に手を当てて紳士のようであった。
そのあまりの事にリュウスケもかしこまって挨拶をする。

「あ...オレ、いや、私は榊リュウスケと言います。
 準決勝の相手の方でしたか。
 先ほどは申し訳ありませんでした。」

その後二人は礼儀正しく、かつ紳士的に話しをしていた。
一方グランドではその異変を感じて視線が二人に集中し、練習は一時中断され部員全員がその場には合わない会話に耳を傾ける。

「どうしたんだろう?
 榊先輩は何してるのかな...」

シンジは誰に聞くでもなく呟く。
そうこうしているとカヲルとケイタが寄ってきた。 ついでにレイも。

「榊先輩って誰と話してるんですかね?」
「うん、見たところ制服が違うからね...」

シンジとレイにはヤマトと名乗る少年に、思い当たる所は無かった。
だがカヲルとケイタには思い当たる節があったのだ。

「ケイタ君、あそこに居るのはひょっとして...彼かな?」
「そんなバカな...だってアイツは故郷(くに)に帰った筈じゃあ...」

カヲルはいつもと変わらないのだが、ケイタの顔色は最悪だった。
血の気がザザーっと引いてしまい真っ青で、更に声も震えている。
しかし悪い予感とは得てして当たってしまうモノである。
リュウスケと話しているヤマトはカヲルとケイタの存在に気付いた。

「アーーーーー!
 ケイタじゃないか、それにカヲルまで!
 元気だったか、オイ!!」

ヤマトは走ってカヲルとケイタの元にくる。
悪い予感が当たってしまったケイタは諦めた顔で立ち尽くしてヤマトを待つ。
シンジとレイは何がなんだか判らない。 その二人の為にカヲルが説明する。

「彼はヤマト=リー=ストラスバーグ。
 中学二年まで彼は野球部だったんだ。」





一方その頃、ムサシとマナは切れたスパイクの紐を取り替えてグラウンドに戻ってきた。
良く見るとムサシの左の頬には真っ赤な紅葉が着いている。

「アタタタタ...
 ったく、なんでオマエは口より先に手が出るんだよ。」
「フン!」

どうやら先ほどムサシがマナを護る為に抱き合っていた続きがあったようである。

「不可抗力だろうが、どう考えても。
 それがなんでビンタをもらわなければならないんだ...ふぅ、オレって不幸だな。」
「フーンだ!」

とりつく島もない。
マナは足早にグラウンドに向かい、ムサシはその後に続く。
グラウンドに着くと目に入ってきたモノは練習が中断されている風景だった。
更に良く見るとマウンドでシンジ達がしゃべっている。 それに加えて違う学校の生徒まで見えた。

「ねえムサシ、みんな何してんだろ?」
「ホントだ。
 まったく次は準決勝なのに、みんなだらけてんな...よし、ここは一発オレ様が気合を入れてやるか!」

意気揚々とみんなの元に走っていく。
だが虫の知らせか、野生のカンなのか、背中に冷たいモノが走った。
こうなると先程のクツヒモ、クロネコ、カラスが頭によぎる。
ムサシはなんとか踏みとどまり、回れ右でその場から逃げようとした。
だがちょうどシンジがムサシの存在に気付いてしまった。

「あ、ムサシだ。」
「ムサシだって?」
ギク!

その名前を聞いた途端にヤマトの目の色が変わる。
ムサシは聞き覚えのある声に反応し、ギギギギギっと首を鳴らして振り向いてみると見知った顔がそこにあった。

「久しぶりだな、ムサシ。
 オマエ、まだ野球をやってたのか。」
「よ、ようヤマト...オマエいつこっちに戻ってきたんだよ...?」

ヤマトは胸を張りながら、と言うよりムサシに威圧感を掛けながら話す。
先程のリュウスケの時とは大違いであった。

「ん、今年の4月だ。 なんでも交換留学ってヤツらしい。
 ま、オレとしては戻って来れたんでどうでもいいんだがな。」

ムサシはさっきのケイタと同様に顔色が優れない。
手短に挨拶を終わらせるとヤマトは辺りを見渡す。 どうやら誰かを探しているようだ。
一方、マナは足を忍ばせてグランドから立ち去ろうとしていたが、それよりも早くヤマトの視線に捕まる。

「マナさん!
 居るなら居ると言って下さいよ、水臭いなぁ。」

ヤマトはムサシを押し退けてマナの元へと走り寄る。
マナもまたムサシやケイタと同様に諦めた感じで振り返る。 その額には大粒の冷や汗が流れていた。

「あ...あら、ヤマト君じゃない...」
「クンだなんてそんな他人行儀な事はやめて下さい! 私とマナさんの仲じゃないですか。
 そんな事よりもマナさん、私はアナタの為に野球をやっているんです!
 アナタの夢はこのヤマト=リー=ストラスバーグが叶えて見せます!!」
「そ、そうなんだ...」
「私がアナタを甲子園に連れていってあげます!
 だからご安心ください!!」

力を込めて自分をアピールするヤマト、それを嫌々聞いているマナ、ムサシとケイタはそれを諦めた感じで見ている。
野球部の面々はそんなムサシ達を遠巻きに観察している。
そこで一応の事情を知っているカヲルは全員に説明を始めた。

「見ての通り彼は霧島さんに好意を寄せているんだ...つまり好きって事さ。
 中学の時はそれはもう大変だったんだよ、ムサシ君とヤマト君は理解し合えないし、見ての通り霧島さんに言い寄っているし...」
「...そうだろうね。
 けど初めて見たよ、あんな霧島さん。 ムサシが相手だったら負けずに言い返すのに。
 ...さっきの話だと、彼も甲子園を目指しているそうじゃない...となると僕達のライバルになるんだよね。」
「まさか彼が香港から戻ってくるなんて...」

シンジはライバルとなるヤマトを見定める。 いや、部員全員がヤマトを見ていた。
しかしそんな事はお構い無しにヤマトは延々とマナに話し続ける。





ヤマト=リー=ストラスバーグ
彼もまた甲子園を目指す香港帰りの球児であった。


第参拾八話  完

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