「フッ!」
ズバァン!
「ストライク、バッターアウト!」
バッターを打ち取ったシンジは肩で軽く息をしながらカヲルからの返球を受け、帽子を脱いでユニフォームの袖で汗を拭き取る。
「ふぅ...やっぱり夏だね。」
夏の炎天下は想像以上に球児達の体力を消耗させていた。
ロージンバッグで丹念にスベリ止めをしてからセットポジションに入り、チラリと一塁のランナーを確認してからバッターボックスに立つヤマトを見る。
回は4回に移り、すでに打順は一巡し、未だ双方には得点は無い。
入念にシンジはカヲルとサインを決める。
アウトカウントは2つ。
シンジはカヲルの出したサインに頷き、再度一塁ランナーを牽制する。
ビッ!
ザッ!
シンジの右腕からボールが放たれ、それと同時にヤマトの右足が踏み込まれた。
踏み込んだ場所は元の位置より一塁側、左打者であるヤマトは内角に狙いを絞った。
するとボールはヤマトの読み、と言うよりもカンが当たったのか内角に切れ込む。
「大当たり!!」
ガキン!
ボールは一直線にセンターとライトの中間に伸び、ライトのリュウスケとセンターのムサシが打球を追う。
先に捕球体勢に入ったのは広い守備範囲が自慢のムサシだった。
だがそれでもギリギリの位置である為に左足で踏み切り、フェンス際で大きくジャンプした。
「届け!」
ムサシは必死になって体を伸ばしてボールに食らい着こうとする。
飛距離はフェンスギリギリで2ベースは確実。
下手をすると一塁にいたランナーがホームに帰ってしまうという考えがムサシの頭によぎった。
パシィ!
「やった!」
なんとかグラブの端でボールを掴み、ムサシに会心の笑みが浮かぶ。
だが次の瞬間、ムサシの視界はブラックアウトした。
ドガ!
「ムサシ!!」
第壱高校スタンドからマナの叫びが響く。
大切な人への想い
第四拾弐話 男の闘い(後編)
「ムサシ!!」
ムサシはフェンス際まで下がり過ぎた為、ボールをキャッチしたと同時にフェンスに激突した。
だがすぐに起き上がり、辺りを見回す。
激突のショックにより何も見えなくなった時間は僅かだったのが幸いしたのか、落としたボールはすぐ近くにあった。
「く、間に合うか?」
ズキン!
体勢を立て直してボールを拾おうとした時、ムサシの左足に激痛が走った。
「大丈夫か!」
異変にいち早く気付いたのは一緒に走っていたリュウスケだった。
リュウスケはボールを拾うと中継位置にいたフジオに投げ、ムサシの近くにしゃがみ込む。
見るとムサシは左足を押さえ、額から大量に汗を流していた。
「オ、オイ、ムサシ...大丈夫か?」
「オレ...よりも、試合の方を...」
ムサシは絞り出すような声で試合を気にする。
その瞬間に総武台スタンドから歓声が沸き上がった。
リュウスケが見たモノは一塁に居たランナーがホームベースを踏んだところだった。
「先制は総武台か...」
リュウスケは自分の思いを恨めしげに口にした。
だが不意にムサシを掴んでいた右手がどけられた。
「え? オイ、ムサシ!」
「...大丈夫です、まだいけます。」
ムサシは左足を引きずりながらセンターの定位置に戻ろうとした。
「大丈夫じゃないだろ!
今すぐ診てもらわないと...」
「大丈夫です!!」
ムサシが大声で反論する。
それがヤセ我慢だというのは判っていたが、リュウスケにはムサシを止める事ができなかった。
ただの一度もリュウスケの方を振り向かずにムサシは歩いて行く。
結局試合は中断される事無く進んだ。
だがムサシの異変に気付いた者が居た。
ムサシの親友達のケイタとカヲル、ライバルのヤマト、そして幼馴染みのマナの4人だけであった。
「シンジ君、この回は早く終わらせてくれ。
ムサシ君が変だ。」
カヲルがアイコンタクトでムサシの事を伝える。
「榛名先輩が、ですか?
だって守備に着いているじゃないですか。」
第壱高校スタンドではマナがレイに教える。
「ちょっとしたケガだとうるさいけど、酷いケガの時は黙ってんのよ...アイツの悪い癖よ。
ここ、お願いね。」
「あ、マナ先輩!」
マナは第壱高校ベンチに向かう。
「どうするんだ、ムサシのヤツを?」
二塁ではヤマトがショートのケイタに小声で話し掛ける。
「どうするもこうするもないよ。
ああなったらテコでも動かないほどガンコなヤツって知ってるだろ。」
「そりゃそうか。
バカだからな、アイツは。」
思い出したかのように呟く。
だがケイタはそれを否定する。
「違うよ...」
「なんだ、違うのか?」
「...大バカなんだよ。」
ガツッ!
「オーライオーライ...」
パシ!
「アウト、チェンジ!」
六番バッターはファーストフライに終わり、総武台の4回の攻撃は終わる。
だがこの回で1点入ってしまった。
そしてムサシのケガの具合も気になり、ベンチに入ると彼の異変を知る者が集まる。
「ムサシ、足の方は大丈夫なのか?」
「何? ムサシがどうかしたのか?」
リュウスケの一言を皮切りにその場に居た者達が騒ぎ出す。
「だ、大丈夫ですよ!
ハハハ、みんな心配性なんだから...」
「何が大丈夫よ!
ちょっと診せなさい!!」
すごい剣幕でマナがベンチに降りて来てムサシの横に着く。
その手には救急箱を持っていた。
「マナ、いいって...って、オマエら何しやがるんだ!!」
「ムサシ君、ちゃんと診てもらった方が良いよ。」
「悪いなムサシ。 ヤセ我慢はほどほどにした方が良いぞ。」
カヲルとケイタが左右を固め、ムサシの動きを封じる。
その隙にマナがユニフォームの裾を捲くって足を診る。
「...やっぱり。」
「あ、バカ見るな!」
慌てて隠そうとするが時既に遅し。
ムサシの左足はフェンスに当たったヒザの辺りからふくらはぎにかけて腫れ上がっていた。
「オマエ、こんなんで続行できるのか?
監督、交代を...」
「ちょっと待って下さいキャプテン!
オレはまだいけ...イッ...」
普通に力を入れただけなのに左足に激痛が走る。
「ムサシ君、無理はしない方が良い。
交代は...そうだな、美和君が良い。」
「ハイ!」
「まだいけます!!」
ムサシの言葉には不退転の意思が篭められていた。
その迫力に押され、誰も何も言えなくなってしまう。
左足を庇うようにして立ち上がり、強靭な意志だけで痛みを押さえつける。
「何言ってんのよ、これ以上は無理に決まってんじゃない!
アンタ何考えてんのよ!!」
マナだけは必死になってムサシを止めようとした。
だがそれが逆効果となり、返ってムサシは意固地になってマナに怒鳴り散らした。
「ウルサイ! 女は引っ込んでろ!!
監督、オレは大丈夫です。
だからさっきの交代はナシですからね!」
加持を見るムサシの目には有無を言わさぬ迫力がある。
それでもマナは食い下がろうとするが、加持がそれを止めた。
「判った、キミの好きにするがいい。」
「そんな...監督は何も判っていません!
誰が見ても大丈夫じゃないんですよ...ちょっとムサシ、ダメだってば!」
「離せ!」
強引にマナを振り切る。
ムサシがケガをした部分は軸足である為、満足な試合など最早出来る状態ではない。
その事は長年マネージャーとして働いていたマナには十分過ぎるほど判っていた。
「やめて、ムサシ...」
「いい加減にしてくれ!
今じゃなきゃダメなんだ、それぐらいオマエだって判るだろ!!」
「判ってるわよ!」
突然マナが大声を上げた。
ここまで来ると必ず手か足が出る筈なのだが、出たのは声だけだった。
ムサシのユニフォームの端を握り締めながら懇願する。
「...判ってるわよ...
けど、それでまともにプレイできるの?
ヤマト君に勝てると思ってるの?」
「やってみなきゃ判らないだろ!
ヤマトは強いさ、オレでも勝てるかどうかは判んねーよ。
でもアイツは今ここに居るんだ、闘わないでどうする!
逃げるわけにはいかないんだ!!」
「だったら...」
マナの掴む手にぎゅっと力が篭められた。
「せめて手当てだけでもさせて。
もう、邪魔しないから...」
「マナ...」
ユニフォームを掴んだ手が微かに震えていた。
スタンドからの応援がやけに遠く感じる中、ムサシは気まずそうにマナの手当てを受けた。
結局、第壱高校の攻撃は一番のケイタから始まり、塁に出たのは三番のタツヤのみ。
四番のリュウスケは外野フライに倒れて攻撃は終了した。
☆★☆★☆
時は遡り、再び三年前−−−
遂にヤマトの出発の日が明日に迫っていた。
しかしその肝心の日は担任にしか話してはおらず、誰も知らない。
ヤマトは何食わぬ顔で学校に来ていたのだ。
いつも通りに登校して正面玄関をくぐって下駄箱を開ける。
ドガ!
だが正面玄関に下駄箱を蹴り抜く音が響いた。
登校時間という事もあり辺りは騒然としていたが、水を打ったように静かになった。
ヤマトの近くの下駄箱を蹴ったまま止まっているのは左足。
「ちょっとツラ貸せや。」
そこに居たのはムサシだった。
いつもとは違い、明らかに殺気を漂わせている。
それが自分に向けられているのはヤマトには判っていた。
「...ああ。」
沢山の生徒が見守る中を2人は屋上に向かう。
もちろんその事は職員室に知らされたが教師達は動かない。
というより、2人の教師がそれをさせなかった。
「いつものコミュニケーションですよ。」
これは野球部の監督。
「ああ、例のヤツですか。
しょうがありませんね、あの2人は。」
これはヤマトの担任。
ムサシとヤマトの事は職員室にもチラホラと話題が及んでいたのだ。
だが翌日、この2人の教師は謹慎処分にされた。
理由は生徒の監督不行届きである。
教師の不祥事の為にムサシとヤマトの事は埋もれてしまう結果となった。
バキィ!!
そして場所を移し屋上ではムサシとヤマトの殴り合いが繰り広げられていた。
言葉は不要、拳で語りあえる漢(おとこ)にだけ許された特権である(笑)
相手を殴ってその存在を心に刻み込み、殴られては踏み留まり殴り返す。
やがてムサシの感覚は無くなり、体力も尽きかける。
だがヤマトが向かってくる以上、倒れる訳にはいかない。
自分が辛い時は相手も同じだ、と言い聞かして体を動かす。
2人の決着は結局は着けられなかった。
だからこそ、こんな形でもいいから2人は続けた。
「ウワアアアアアア!!」
バキ!
ムサシの渾身の力を篭めた左ストレートがヤマトを捕らえた。
その時のムサシにはヤマトがマナを殴ったシーンが映し出されていたかもしれない。
誰も悪くは無い。 その事は判っている。
しかし幼馴染みを傷付けた怒りと行き場の無い憤りをぶつけた。
「ガアアアアアアア!!」
ガキ!
体勢を崩しながらもヤマトは果敢に殴り返す。
自分の意思ではないのに、仲間達や好きな人から離れなければならない。
その理不尽な憤りを篭めて殴る。
双方ともに限界を超えており、2人はそのまま崩れ落ちた。
大の字に仰向けになり、ゼェゼェと荒く息をしながら体力の回復を計る。
目を開けるとすぐそこに広がる蒼い空。
ムサシはその空と自分が初めて感動した刻の空を重ねる。
「スッゲー昔にさ、親父に連れてってもらったんだ...甲子園。」
ムサシは昔話を始めた。
唐突だったが誰にも話した事の無い想いを伝える。
ヤマトは顔だけをムサシの方に向けて黙って耳を傾けた。
「親父の母校がたまたま出場したからその応援にな。
楽しかったよ...そして悲しかった。
今でもその刻の想いは消えねぇ...」
耳を澄ませばスタンドの歓声と球児達の闘う声が聞こえる。
目を瞑れば闘っている球児達の映像をはっきりと想い浮かべる事ができる。
自分が好きになったきっかけを伝えていた。
「点を取られても取り返し、んでまた取られ...最後まで諦めなかった。
汗を流して体中どろだらけになりながら頑張ってんだぜ、9人のメンバーが。
気が付いたらオレも手に汗握りながら応援してた。
でもやっぱり勝負ってヤツは残酷なモンでな...たった一つのエラーで決着が着いちまった。
そしたらどうなったと思う?
敗けたメンバーは声上げたり頭抱え込んだりして大泣き...高校生にもなって人前で涙見せるか普通?」
その時を想い出せば、いつでも熱いモノが込み上げてくる。
「でも、ガキだったオレでも判ったぜ。
悔しかったんだな...ってな。
総てを懸けて闘った果てに、待っていたモノは敗け...そりゃねえだろ。
勝ち負けは時の運って言うけど、オレも悔しくて泣いちまった。
...だがな、今になって思えばそんな事で泣いていたんじゃないんだ...」
自分の夢に想いを馳せて青空を眺める。
ヤマトは続きが聞きたいのか、黙って耳を傾けていた。
「オレがそこに居たかったからだ。」
その言葉はヤマトの心に響く。
(オレだって今、ここに居たい...)
自分の素直な気持ちが湧き上がってきた。
ふと気が付くとムサシが自分の方を見てニヤついていた。
「な、なにが言いたいんだ!」
「へへ、オマエ、今ここに居たい、って思っただろ。」
「な、な、な...」
読まれていた。
図星を突かれたヤマトは慌てて否定しようと上半身を起こしながら反論する。
「ふざけてんじゃねー!!
誰がこんなところなんか。」
「だからオレは願ったさ。
諦めたりしない、オレは甲子園に行きたいんだ。」
ムサシの口調が一気に真面目になる。
手を空にかざして指の間から漏れる光を眩しそうに見る。
そして手を伸ばせば届きそうなくらいの位置にある太陽を掴もうとして手を握り締めた。
「オレが野球を始めた理由さ...よっと。」
下半身を折り曲げ、バネの力を利用して一気に立ち上がる。
ヤマトもやれやれといった感じで体を起こした。
「なんだ、オレはてっきりマナさんの影響で始めたのかと思ったぞ。
あの人はアクティブな人だからな。」
「...アイツはオレの真似をしただけだ。
マナにも話してないんだぜ、この話。」
「ホントか?」
意外な感じでムサシを見ると、ニッと白い歯を見せて笑っていた。
「バカバカしい夢、絶対叶わない夢だって言うヤツらがほとんどだ。
でも諦めてちゃぁ、何も始まらない。 願わなけりゃぁ、意味が無い。
...いつかオマエとはケリを着けたい。 だからオマエも諦めるな。」
風が吹き抜け、ヤマトの前髪を撫でる。
目の前に居るライバルが、とても大きく見えた。
今は自分の敗けだとはっきり判ったのだ。
自分の知らないところで、想い、悩み、見付け、そして夢を現実に変えようとしている。
「...マナさんが惚れる訳だな...」
「ブッ! なんでそこにアイツが出て来るんだよ!!」
「オ、オマエ本気で言ってんのか?」
場は一転してまた喧嘩モードに切り替わる。
「女の子の気持ちも判らないなんて最低だぞムサシ!」
「オレはアイツを女として見た事は、ただの一度も無い!
これっぽっちもな!!」
親指と人差し指で大きさを表現する。
「オマエはそれでも男か!
それともオレがマナさんを奪ってもいいのか!」
「ああ、いいぜ。
そん時はのし付けてオマエにやるよ!」
「言ったなキサマ!
だったら次に会った時はケチョンケチョンにしてやるぜ!
そうすりゃマナさんだって気付く筈だ、首洗って待ってろ!!」
「ケッ! 弱いヤツほど吼えるってのはホントだな。
返り討ちにしてやんぜ!!」
互いに睨み合い一触即発の状態になる。
「「う〜〜〜〜〜...」」
額をこすり、歯をギリギリと鳴らして牽制し合う。
そして晴れわたる青空に2人の声が響いた。
「「忘れんじゃねーぞ!」」
☆★☆★☆
ガキン!
ザザ...パシ! ビュッ!
「アウッ!」
試合は更に進み終盤に差し掛かった。
ムサシのフォローをするようにライトのリュウスケとレフトのススムが奮闘し、シンジは外野に飛ばさないように配球に気を配る。
その甲斐あってか4回の1点以降得点される事無く進んだが、逆に1点も取る事は出来なかった。
相手の鉄壁の守備を打ち破る事は出来ず、更にムサシのケガの影響で打撃は上手く噛み合わなくなってきていた。
肝心のムサシのケガも悪化する一方で、試合の流れは総武台高校に向いている。
そして7回の表、最初のバッターであるムサシは変わったばかりのピッチャーの立ち上がりを突いて四球で出塁した。
六番のヨウスケは送りバントを決めてムサシをなんとか二塁に進めた。
七番のススムはレフト前にボールを運ぶがムサシが三塁には進めずシングルヒットとなる。
いつものムサシならば悠々セーフなのだが、ケガの影響が出ている為に大事を取って二塁に留まる。
1アウト、一・二塁。 得点圏にランナーを置く為に双方の応援は天を突かんばかりに盛り上がっていた。
八番のフジオが打席に立ち、軽くバットを振ってタイミングを取る。
(榛名先輩にはもう限界が来ている筈。
だったら送りバントかシングルヒット狙いで...)
だがフジオの狙いを妨げるかのように内野は前進守備で送りバントも怪しくなって来た。
加持はムサシの代走を出そうともせずにナインを信じて傍観を決め込んでいる。
(監督、鬼と言うか仏様のように心が広いと言うか...
とにかく代走は無理、送りバントもダメ、となるとシングルヒット狙いしかないじゃないか。
...長打コースになると先輩の足が持たなくなるかもしれないし...)
ブツブツと考えをまとめる。
狙い目もムサシの進行方向である三塁線を避ける形になり、右打者のフジオは打球を流すしかなかった。
(流し打ちのポイントは、バットを寝かせて脇を締めながら...)
フジオは相手投手が投球モーションに入るのに合わせて考える。
投手である習性なのか、自分ならここに投げるというカンが働き、そこに狙いを合わせ打ちに行った。
キン!
狙いは大当たりになり一塁線を駆け抜ける。
予想に反して勢いが良すぎ、長打コースとなってしまった。
しかしそれでも総武台の守備陣の展開は早い。
レフトが素早くボールを拾い、ベースカバーとホームへの中継役が配置に着く。
意外に早いその展開に舌を巻きながら一塁を踏んだフジオの耳にスタンドからの歓声が聞こえた。
「まさか!?」
いやな予感が起こり三塁を見てみると、ホームを目指すムサシの姿があった。
「そんな! 無茶よムサシ!」
第壱高校スタンドからマナの絶叫が上がり、ベンチからも同様の声が上がった。
だが4回の1点が自分の責任だと思っている為に、ムサシは制止を振り切ってホームを狙う。
(同点だ! オレの力で同点にするんだ!!)
総武台の1点はヤマトの打点であり、それに対抗するように自分の足で1点を取りたいという願いだけがムサシの体を動かす。
ボールは中継を経てホームに返ってきた。
ホームを死守するキャッチャーは左足でベースを覆い隠しムサシの生還を邪魔する。
ザザ! パシィ!
スライディングと同時にボールが入ったミットが激突する。
クロスプレーとなり、誰もが主審の言葉を待った。
やがて土煙が消え、ムサシの足の位置とボールの入ったミットの位置が現れた。
「アウト!」
ムサシの足はキャッチャーのガードに阻まれ、ホームまで到達していなかった。
それどころかケガをした左足に叩き付けるかのようにミットが押し付けられていた。
「グ...ガぁ...」
「オイ、大丈夫かねキミ?」
主審が異変に気付き声を掛けるが、ピッチャーからの言葉に気付いてムサシから注意が逸れた。
「サード!」
キャッチャーが慌てて三塁に投げるが、ススムはスライディングを決めて悠々セーフとなった。
その隙にムサシはベンチに引っ込んで手当てを受ける。
手当てをするのはもちろんマナであった。
用意した氷袋を患部につける。
「なんでこんなになってまで闘わなきゃならないの...」
自分の気持ちを抑え切れなくなり、マナはムサシに問う。
答えは判っているのだがそれでも聞いてしまう。
「決まってんだろ...勝つ為にだ!!」
「野球は1人でやるスポーツじゃないんだよ。
...ムサシが居なくても、きっと勝ってくれるよぉ...」
「チームとしてだけじゃねぇ!
オレはアイツに勝ちたいんだ!!」
「そんなの今じゃなくてもいいじゃない!
これ以上やったらホントに野球が出来なくなるかもしれないのよ!」
それほどムサシのケガは酷くなっていた。
そっと患部にマナの暖かい手が添えられる。
備品の手入れ、ユニフォームの洗濯などで、年頃の女の子のわりにはその手は荒れている。
いつも陰日向に野球部を支えてきた証拠であり、一緒に闘っているという証明でもあり、誇りでもあった。
「もう十分じゃない...恥ずかしい事じゃないんだよ。
何がそうさせてるのよぉ...」
三年前は自分のお節介の所為で2人の決着を台無しにした。
そして今回も2人の決着に口を挟もうとしている。
それでもマナはムサシを止めたいと心から想った。
「今じゃなきゃ意味が無いんだ。
でなければ、一生後悔し続けると思う。」
肩で息をし、苦痛に顔を歪ませ、マナの手当てを受ける。
だが眼光だけは衰える事を知らない。
それどころか一層鋭くなってセンターを守るヤマトを見据えていた。
「グッ!」
ガキ!
九番のシンジは内野ゴロに打ち取られ、三塁のススムをホームに返せなかった。
ここでチェンジとなり回は7回の裏に進む。
「7回の攻撃は終わったか...じゃ、行ってくるぜ。」
右手にグラブを着け、ムサシがマナに声を掛けた。
「...やっぱり行くの?」
「ああ、みんなが待っている。」
第壱高校ナインは、ムサシ以外は既に守備位置に着いていた。
ムサシはマナに背中を向けセンターに向かって歩き始める。
幼い頃からいつも見てきた背中の筈なのだが、今のマナにとっては次第にぼやけて行き、自分の気持ちを抑え切れなくなった。
「行かないで!」
マナが後ろから抱きつき、頭一つ分低い為に背中に顔を埋める。
8という背番号がマナの流した涙によりじわじわと濡れて行く。
「行っちゃダメだよぉ...」
「...昨日言った言葉、覚えてるか?」
ムサシはそのまま背中を向け、マナを抱き留めはしなかった。
その代わりに廻されたマナの手に自分の手を添える。
「忘れるはずない!
だって昔から言ってたじゃない!
でも...もういいよぉ...そんな約束...」
ムサシの体に廻した手にギュッと力を篭める。
今の自分の気持ちを伝えたかった。
何よりも大切な人を想う気持ちを、ほんの少しでも伝えられたらと切に願う。
「背番号、見えるか?」
突然問われ、ムサシの背中から顔を離して背番号を見る。
白い布地に数字の8が黒で書かれていた。
なんの変哲も無い、とても簡素なモノではあるが、グラウンドで闘う球児にとっては何よりも大切な数字であった。
1はピッチャー、2はキャッチャー、3はファースト、4はセカンド、5はサード、6はショート、7はレフト、8はセンター、9はライト。
1から9の数字はレギュラーの、自分自身が守るべきモノを表している。
球児達はその数字を目指し、多くの血と汗と涙を流す。
だからこそ背番号を背負う者は、その数字に恥じぬ闘いをしなければならない。
「オレには出来過ぎた数字だ。
だけど渡された以上は応えなきゃならない!
今年で引退する先輩達の為にも、励まし合ってきた仲間達の為にも、背番号をもらえなかったヤツらの為にな...」
「ゥ...グス...」
マナはムサシの言葉に嗚咽でしか応えられなくなっていた。
ムサシはそっとマナの手を解き、グラウンドへと向かった。
背番号を分かち合った仲間達の元へ、そして同じ背番号を背負うヤマトと闘う為に。
☆★☆★☆
その後も試合は均衡していた。
双方ともに点を許さず、仲間達を支え合い、闘う。
スタンドでも自分達のチームの勝利を願い、声を枯らさんばかりに応援を続ける。
守る方は失策も失投も許されず精神的に疲労して行く。
攻撃する方も相手の腹を探り僅かな隙に突け込む者も居れば、その一方で正々堂々と勝負を挑む者も居る。
そして9回に駒を進め、第壱高校の最後の攻撃が始まった。
トップバッターは四番のリュウスケだったが、あえなく内野フライに倒れる。
ネクストバッターサークルに居たムサシは立ち上がりバッターボックスを目指して歩く。
「さて...行ってくるか。」
「スマン、塁に出れなかった...」
リュウスケが去り際にムサシに声を掛けた。
「榊先輩...」
「あとは任せたからな、絶対に塁に出ろ!」
四番たる者がその役目を果たせなかった事を悔やんでいたのだ。
後事を託されたムサシは新たな決意を秘めて打席に立つ。
だがマズイ事にムサシのケガの事は総武台高校にも知れ渡っていた。
軸足のケガの為に、上手く力を入れられない。
ならば打たせて取る方が得策だと総武台のバッテリーは判断する。
相手のケガに突け入り、自分達の守備を信頼してボールを投げる。
「ストライーク!」
1球目は外角低めに決まった。
ここならば軸足に体重が掛かる為、打てたとしても自慢の守備を抜ける事は無いと思っていた。
だがそんな事をしなくても、ムサシは十分に疲弊していた。
普通に立つ事すらままならず、フラフラと体が左右に揺れている。
「ウワッ!」
ドサ!
2球目は一転して内角を攻められ、突然の事に対応しきれずにムサシは倒れる。
「どーした、足元がふらついてるぜ!」
そんなヤジが総武台スタンドから聞こえた。
途端に同じような言葉が次から次へと飛び始める。
ムサシはそんな事は気にせずに立ち上がったのだが、それを一喝する球児が居た。
「黙れ! うるさいぞオマエら!!」
ヤマトだった。
その声は球場の隅々に響き、話し声やざわめきは一気に静まった。
「オマエ達にアイツの何が判る!
何も知らないくせにそんな事を言うな!!」
ヤマトは自分達を応援してくれているスタンドに向かって怒鳴り散らした。
大声もさる事ながらその者が放つ威圧感に押され、誰も喋れない。
辺りが静まるとヤマトは再びムサシを見据える。
「ったくあのバカは...」
ムサシは真っ直ぐなヤマトの性格に呆れ果てる。
だが自分でもそうしただろうな、と心の中では思っていた。
自分だけのライバルをバカにしてほしくはない。
バカにしていいのは、ライバルと認めた自分だけなのだ。
フッと余計な力が抜けて自然体になる。
不思議と左足の痛みが消えていく。
根拠は無いが、何故だか打てそうな気がしてきた。
ザザ!
ピッチャーはサインを決めて投球モーションに入る。
ムサシは目を働かせ、ボールを黙って待つ。
ヤマトはムサシだけを見詰め、勝負の行く末を見届ける。
ザ!
ピッチャーの上げた左足が大地を踏み抜く。
ムサシは体の重心を腰に移動する為に軸足に力を入れて調整する。
ビュッ!
ボールは放たれ、キャッチャーのミットの位置に狂い無く突き進む。
コースはバッターの泣き所である内角低め。
だがムサシは右足を外側に踏み込み、体を正面に向け、ボールめがけてバットを振り抜いた。
カキン!
綺麗な音が球場に響いた。
ボールはアーチを描きながらライトスタンドにゆっくりと入っていく。
それを信じられない表情で見送る総武台と第壱高校のナイン達。
シンジもカヲルも、ケイタもマナも、立ち上がってボールの行方を追う。
トサ!
ボールはレフトスタンドの芝生の上に落ちた。
9回の表、ムサシのソロホームランにより、第壱高校が同点に追い着いた瞬間であった。
ワアアアアアアアアアア!!!
第壱高校スタンドから歓声が湧き立つ。
その中をムサシはゆっくりとダイヤモンドを回る。
一塁ベースを踏み二塁を目指す。
消えていた痛みが、今になってようやく復活してムサシの足を蝕んでいく。
だがそれはムサシにとって、どうでもいい事であった。
この打席だけもってくれた事に感謝する。
更に願うとしたら、ホームベースを踏むまでそのままでいて欲しかった事ぐらいである。
二塁ベースを踏み、三塁を目指す。
グラ...
「え?」
突然目の前の景色が斜めに傾いた。
限界を超え、それでも左足を酷使した為に力が入らない。
それどころか視界まで狭くなってきていた。
そのまま傾きは大きくなり、倒れる瞬間に支える者が現れた。
見ていた第壱高校ベンチでは加持が素早く動き、担架の用意をしてグラウンドに入ろうとしていた時の事だった。
ガシ!
「倒れるのはまだ早いぞ。」
「ヤマト...か?」
ムサシは声のする方向に耳を傾け顔を向けた。
「折角のホームランだ、自分の力で廻れ。」
「...ったりめーだ。
代走なんかさせるかよ。」
支えられながらもヤマトに悪態を突く。
その言葉を聞いてホッとしたのか、すかさずムサシをからかう。
「もっとシャキッとしろ!
オマエを待ってる人が居るんだぜ。」
一瞬、いつも交わされていた口喧嘩が懐かしく思えた。
売り言葉に買い言葉でムサシからの 「そんなんじゃねーって」 という否定の言葉を待つ。
だがその言葉は返ってこなかった。
その代わりに...
「そろそろいってやらないとマズイな...」
「!」
慌ててムサシの方を振り向く。
そこに居たムサシはマナを真っ直ぐに見て優しく笑っている。
その顔は昔のような迷いは無く、大切な人を心から想っていたのだ。
ヤマトはしばらくの間驚いていたが、フッと男臭い笑みをこぼす。
「早くいってやれ、このバカ!」
ムサシの背中に向かって叫ぶ。
「ワルイ!」
ヤマトに振り向かず応える。
そしてゆっくりとダイヤモンドを廻り終えたムサシはホームベースを踏んだ。
第壱高校スタンドからは再び歓声が上がり、ムサシはその中をベンチに向かって歩き始める。
だが不意にその歓声は静まる。
ムサシを待ち焦がれたマナが立っていたからだ。
距離は縮まり、やがて2人は立ち止まる。
しばし見詰め合う2人に回りの者達は声一つ上げない。
そしてムサシの口が動き、言葉を綴る。
「...長いコト待たせちまったな...」
優しい声をマナに掛ける。
「...バカ...」
マナもまた優しい声で応える。
やがてムサシは崩れ落ち、マナはムサシを抱き止めた。
自分より大きく重い体なので膝立ちの状態で受け止め、ムサシがマナに覆い被さる形となる。
「待ちくたびれたぞ、ムサシ...」
頭を垂れて気を失っているムサシに話し掛けるマナは、涙を零しながらも笑顔を見せていた。
☆★☆★☆
「...うぅ...」
人気の無い控え室でムサシは覚醒する。
薄く目を開けるとぼんやりとだが見知らぬ天井があった。
「ここは...?」
場所を確認しようとするが体を動かせなかった。
「目が覚めた、ムサシ?」
不意に上から自分を呼ぶ声がした。
だが安心できる声だった為に慌てずに応える。
「ああ...悪いな、マナ。」
自分の頭に感じる柔らかい感触に気が付く。
ムサシは長椅子に寝かされ、マナはムサシに膝枕をしていたのだ。
「...今だけだぞ。」
嬉しい筈なのに何故かそんな言葉しか出てこなかった。
だがそれが返ってムサシを落ち着かせ、それを見て目を細める。
そしてムサシが試合の事を聞いてきた。
「そう言えば試合はどうなったんだ?
オレがここに居るってコトは誰が...」
「とっくに終わってる...勝ったのは私達よ。」
ムサシが倒れた後、3年の美和サトルがその代わりに出場。
六番のヨウスケは抜け目無く出塁し、七番のススムはセオリー通りに送る。
そして八番のフジオが再び長打を出し、二塁に居たヨウスケがホームに生還して逆転となった。
9回の裏に移るとシンジとカヲルの無敵のバッテリーが相手の隙を上手く突き、3人で終わらせゲームセットとなったのだ。
「...そっか、さすがは第壱高校野球部だ。」
「そうよ、頼もしいんだから...」
マナの口数が少ない為に会話は途切れ途切れになる。
だが不快感は無く、むしろ心地良かった。
マナの一言一言が胸に響く。
言葉は無くても、2人の心は満たされていた。
...だが当然のごとく、お邪魔虫は存在する。
「ったく、何をやってるんだムサシは。 それでも男か?」
「アンタにはムードってモノが無いの?
ハァ...なんでこんなヤツが私の彼氏なの...」
控え室の中を覗き見るヨウスケとその恋人のミドリ。
「とかなんとか言って自分も見るんじゃない...じゃなかった、見ないの。」
「言い直す必要は無いよ、シズカの良さは僕が良く知っているんだから。」
「あ、麻生君...(ポ)」
勝手に2人の世界を創り出すシズカとススム。
「ちょっとアンタ達、こんなところでいちゃつかないでよ...」
「ほっとけって、それよりも行くぞアユ。」
「あ、待ってよタツヤ。」
控え室から離れるタツヤとアユ。
「それにしても今回は活躍できなかった...四番失格だな...」
「元気出してくださいよ、リュウスケさん。
次の決勝は頑張って下さい。」
「それもそうだな。
あ〜あ、悩んでたら腹が減っちまった。
何か食ってくか?」
「ハイ♪」
お腹を満たす為に食料を求めに行くリュウスケとそれに付き従うカナ。
「みんな勝手...大変ですね、須藤先輩。」
「そ、そんな事ないのよ。
これでもみんなの絆は固いんだから...多分(汗)」
散り散りになる3年部員を見送るフジオとミズホ。
時は流れ、既に試合は終わり、帰り支度も済んでいた。
他の部員達は思い思いに帰路に着く。
それでも残っていたのが上の連中とシンジ、レイ、カヲル、ケイタだった。
「いつまで待てばいいのかな?」
「待たずに帰りましょうよ、碇先輩。」
「う〜ん、でも...」
相変わらず優柔不断なシンジとそれでも傍で笑顔を見せているレイ。
「やっと収まる所に収まったな。」
「けどヤマト君はあっさりと引き下がったね。
これで良かったのかな...」
これはケイタとカヲル。
カヲルの言ったようにヤマトは身を引いたのだ。
☆★☆★☆
「ゲームセット!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
2−1で第壱高校の勝利によって試合は終了した。
敵同士だった球児達がお互いの敢闘を称え、握手を求め合う。
「やったな、ケイタ。」
「ありがと、ヤマト。」
ヤマトも敗けたとはいえ、勝った第壱高校の勝利を祝っていた。
だが挨拶もそこそこにヤマトは帰ろうとする。
「じゃあな、必ず甲子園に行けよ!」
「あれ? ムサシは会わないの?」
本来ならば一番会いたい人はこの場には居ない。
それでもヤマトは球場を去ろうとしていた。
「ああ、話す事は何も無い。」
「...マナにも?」
「そうだ。」
ヤマトは背中を見せて答える。
どことなく寂しい感じだが、何故か一回りほど大きくなった感じもする。
そこにカヲルも入ってきた。
「決着は着いたのかな?」
「ああ、オレの敗けさ。」
立ち止まって答えた。
敗けた筈なのだが、晴れ晴れとした気を放つ。
ヤマトは天高く昇っている太陽を見て昔を思い出す。
「...っていうより、三年前に敗けていたんだ。
オレは逃げ出して、アイツは傍にいた...この差はでかいぜ。」
その時の事は今でもハッキリと思い出せるのか、少しばかりヤマトの顔に陰りが見えた。
だが、そうなるとまた新たな疑問が思い浮かぶ。
「じゃあ、なんで戻ってきたんだ?」
「決まってんだろ。
アイツの気持ちをマナさんに伝える為だ。」
「ヤマト...」
結局、ムサシとマナを一番心配していたのはヤマトだった。
自分の想い人の為に、尊敬するライバルの為に身を引く。
「ちょっとカッコつけ過ぎかなオレって。」
振り向き、照れ隠しに頭を掻く。
「その通りだね。」
「似合わないぞ!」
笑いながらカヲルとケイタは答える。
今の3人は中学時代に戻り、仲間であった頃を懐かしんでいた。
時を重ねてもその想い出は色褪せる事無く残っている。
確かに彼らはそこに居て、そこで笑っていた。
そして今もそこで笑っている。
シンジはそんな3人を、少し離れた所で眩しそうに見ていた。
☆★☆★☆
「オ〜イ、そろそろ帰るぞ。」
覗きにも飽きたのか、そこに残っていた者達に向かってヨウスケが切り出す。
壁を一枚隔てた控え室では、これ以上の展開は望めないだろうと判断したようだ。
シンジ、レイ、カヲル、ケイタはそれに従い、控え室を後にした。
廊下を歩き、玄関のところまで来ると、そこには野球部のメンバー全員が集まっていた。
だがそこには見知らぬ大人が居て、その人は加持と話をしている。
「あ、来ましたよ。
シンジ君、キミにお客さまだ!」
加持がシンジを呼ぶ。
お客さまだと言われても身に覚えが無いのでシンジは戸惑う。
「お客さん...ですか?」
トコトコと歩いて行き、来訪者の顔をチラッと見る。
それに気付いたのか来訪者はニコッと笑顔を見せた。
(え...この顔...)
突然記憶の奥深くに眠っていた人物が浮き上がってきた。
ずっと昔、家族全員が生きていた一番幸せだった頃に出逢っている。
その記憶の中で、父親であるソウと良く似た笑顔を持つ青年は、その時と変わらぬ声でシンジの名前を呼ぶ。
「久しぶりだね、シンジ君。」
「槙村...さん...」
第四拾弐話 完
第四拾参話を読む
後書き
いよっしゃ〜〜〜!
やっとムサシ・マナ編が終わったっス。
こういったお話を書いていると、こういったネタにぶつかって大変です。
お陰で今回のお話は、GWが明けてからの水・木・金・土と4日間かけて笑いながら書いていました。
となると次の更新まで1週間しかない...週一更新ペースがもうガタガタ(3・4月に崩れましたが)
以前までは結構書きおきがあって余裕があったのに...トホホ。
それもこれも全てはとあるゲームがいけないんです! GW開始に発売された某土星のゲームです。
散々待たせたあげくにあの出来具合...ハッキリ言ってダメです。 ええ、そうです。 フ○ンズです。
けど原作とは別物だ、と割り切ってやるとそうでもない気もします(笑)
さて愚痴も済んだ事だし、次回の予定にいってみよー。
遂にシンジ達は決勝に進出した。
あと一つで甲子園、夢はすぐそこまで来ていたのだ。
だがそこにシンジの過去を知る者が現れた。
彼はシンジに何をもたらす存在なのか...
ってな具合です。
くっくっくっくっく...そろそろシンジ君中心に話が展開します。
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