ミーンミンミンミンミンミ〜〜〜〜〜ン...

太陽が照りつけ、セミの鳴き声が響く。
夏の日差しに熱せられたアスファルトには陽炎が立ち昇り、小高い丘の上に建つ寺を目指す少年と少女がいた。
少年は夏用の制服をキチッと身にまとい、背筋を伸ばして歩く姿は、見る者に清冽な印象を与える。
少女もまた制服姿で、こちらは花を両手で大事そうに持っていた。
少年の半歩ほど後ろを歩く姿は、彼女の性格を表している。
そして2人は寺に入る者への試練ともいえる、長く高く続く階段を上る。

「一年ぶりやな、ここに来るのは...」

先頭を歩く少年が呟く。
階段を挟むように両サイドには木々が立ち並び、2人を太陽の日差しから護るように、枝と緑の葉をいっぱいに伸ばして木陰を作る。

「そっか、一年ぶりなんだ...
 私は月に一度は来てるんだよ。」

少女は薄っすらと汗をかき、降り注ぐ木漏れ日に反射する。

「...大丈夫か?」

少女を気遣う少年の声。
少年の体力に比べると少女はかなり辛い状態であった。
だが少女は心配をかけまいと笑顔を見せる。

「ありがとう。
 でも、平気だから...」
「.........」

何を言ってもムダなのは判っていた。
少年は少女のことを十分理解していたので、せめて歩く早さを緩めるだけだった。
そして少女もその優しさを知っていた。

「...ありがと...」





ミーンミンミンミンミンミ〜〜〜〜〜ン...

階段を登りきると、目の前には石の柱たち整然と立ち並ぶ。
永い歳月を経てきたことを表すように石の表面にはコケが生え、刻まれた文字がそこに眠る者の名を生きる者に教える。

「え〜と...どこやったかな...」

少年はそれらをグルッと見渡す。

「奥の方よ。
 一年ぶりだからって忘れるとひどい目にあうわよ。」
「オウ、そやった、思い出したワ!
 確か...奥の列で...あの木の向こ...」

そのとき少年の言葉が途切れた。
少女もまた立ち止まる。










バサバサバサ...










鳥が翼を羽ばたかせ、天空を目指して飛び立つ。
その際に羽が幾本か抜け落ちて少年の視界を遮り、不規則な軌跡を描いて舞い落ちる。
そして開けた視界の先には栗色の髪をした少女の後姿が...










ザザ...










少年と連れの少女は栗色の髪の少女の後ろに立つ。
そこに見える栗色の髪の少女の背中はか弱くとても小さい。
だが彼女が背負うモノは何よりも重く大きい。
その業ゆえに、少女の目に映るモノは目の前の墓石だけであり、後ろに立つ2人の存在には気づかない。










「なんや、もう来とったんか...」










少年が話しかける。
だが声が届いていないのか、少女は目の前の墓石を見たまま動かない。
少女はいつからそこに居たのだろうか。
そして綺麗に磨かれた石の柱に何を想うのか...










「なぁ...
 ...惣流...」










3人の子供たち、鈴原トウジと洞木ヒカリ、そして 『惣流アスカ』 は 『六分儀』 と彫られた石の柱の前に立つ。










大切な人への想い

第伍拾伍話 再会の刻











プァアアン...!

新幹線が走る。
それに乗るのは第壱高校野球部員。
そして目指すは甲子園。

「うおおおお!!
 ついに舞台は甲子園か!!」
「見送りにきてたみんなのためにも頑張らなくちゃね。」
「当ったり前だケイタ!
 必ず校歌を歌ってやるぜ!!」

車内で部員たちは、しばしの楽しい時間を満喫する。
だがその中で一席だけ他とは空気が違う所があった。
その席に座るのは碇シンジ。
シンジは窓から見える景色を、ただボーッと眺める。
そこにレイがひょこっと顔を出す。

「どうしたんですか、シンジさん。」

誰も寄せつけない空気もこの少女には通用しない。
レイの愛くるしい顔を見ると、シンジの表情に変化が現れる。

「ちょっと考え事を、ネ。
 ...久しぶりだから...」
「また1人で考えてたんですか!
 あのときのあの言葉はウソだったんですか!」
「ウ、ウソじゃないよ!
 その...つまり...」

苦笑するシンジ。
あのときのあの言葉とは、夏祭りの後の宴会でのことだった。
宴会は未成年であるため、しかも甲子園出場校という立場もあるため、酒盛りなどはできなかったが、何故か異常に盛り上がっていた。
けど二十歳を軽くオーバーしているミサトとリツコはいつも通りに飲んで騒いでやがて酒の肴を探し出して捕まったのがシンジでレイとの仲をあらかた吐かされたあとシンジは脱出に成功した。
そのときシンジのあとを着けるようにレイも一緒に出てきた。
辺りは暗闇、見上げれば満天の星空が広がり、そこで2人はしばし語り合いそこで隠し事は絶対にしない、困ったときは必ず相談する事、という約束が交わされた。
しかも上目遣い&目を潤ませて、という半ば強制的に...

「ゴメンね、綾波。」
「どうしたんですか?
 出発してからずっとじゃないですか。」
「う〜〜〜ん...」

腕を組んで考え込むシンジ。
そして待つこと数十秒。

「綾波、良かったらでいいんだけど、一緒に行きたいところがあるんだ...」
「一緒に、ですか...?」

そのときのシンジの顔はいつになく真剣だった。










☆★☆★☆











白を基調にした壁が清潔な印象を与える喫茶店があった。
店の名前は 『CAT’S EYE』 と言い、入り口の看板にそう書かれていた。
店の窓は太陽の日差しを店内の隅々に行き渡らせるよう大きく造られており、その下にある花壇には色とりどりの花が植えられている。
窓は綺麗に磨かれ、花壇には雑草が一本残らず抜かれ、手入れが行き届いているのは店の主の性格を表している。

カランカラン

店のドアが開かれ、着けられた鐘が開店の準備をしていた妙齢の女性を振り返らせる。
女性の名は 『ミキ』 、そしてこの店の主である。

「あら 『ファルコン』 表の掃除は終わったの?」
「ああ...」

入ってきたのはスキンヘッドでサングラスをかけた大男、名は 『伊集院ハヤト』 という。
だが名前と容姿があまりにも一致しないので仲間内では 『海坊主』 、もしくは 『ファルコン』 と呼ばれている。
無愛想に返事だけすると彼は店内の掃除に取りかかる。
だがそれはいつもの風景、そしてミキには彼の性格が判っていた。

「フンフ〜ン♪」

ミキは機嫌が良いのか鼻歌混じりにカチャカチャと洗物を片づける。
その近くで海坊主は気合を入れてカウンターのイスを磨いている。
彼らは綺麗好きであった。
特に海坊主はどんな事にも妥協はせず、掃除も徹底的にやっていた。
以前に気合を入れすぎてイスの足が曲がるほど力をこめたほどである。

「...そう言えば明日ね、新東京市から女の子たちが来るの。」
「そ、そうだな...」

女の子たち。
それはアユ、ミズホ、ミドリ、シズカ、カナの5人だった。
この5人が甲子園の間だけこの店に下宿しに来るという、人と接するのが得意でない彼の頭を悩ませる問題である。

「まったく、嫌だったら嫌って言えば良かったのに...
 なんでOKしちゃったのよ?」
「...フン!
 ヤツには借りがある、それにウチがダメだとなると、あそこしかないだろ。」

そっぽを向いて、しかも恥ずかしそうに答える姿は、恐らく借りがあるなどという弱さを見せたくはないのだろう。
それでも打ち明けるところは、ミキという女性をパートナーとして信頼しているからだ。

「...それもそうね。
 冴羽さんのところは環境が悪いから...
 それに、カオリさんのお兄さんのお願いだしね。」
「フン!
 ...それはそうと、あっちの方は今日だったな。」
「ええ、確かお昼過ぎに着く予定よ。
 冴羽さんたちが行ってる...」

そこで何故か途切れる会話。
背後には極楽トンボが飛んでいた。

「...だ、大丈夫かしら?」
「カオリが一緒だから大丈夫だろ...多分...」










☆★☆★☆











新大阪の駅構内。
そこで聞こえる女性の悲鳴とそれを追いまわす男の声が...

「ねぇ〜、待ってってば彼女ぉ♪
 お茶でもしっませんか♪」
「嫌だって言ってるでしょ!
 しつっこいわね!!」
「そんなつれないこと言わないでさぁ♪」

周りの目を気にも止めず、男は狙った女を追い掛け回す。
デレッとした表情で下心丸出し。
これが原因でナンパに成功しないのが判らないのか...

「あ、あのもっこり男は〜〜〜(怒)」

そこに現れる1人の女性。
彼女の名前は 『槙村カオリ』 といい、槙村ヒデユキの妹である。
彼女の背後には駅構内であるにもかかわらず、雷を纏った暗雲がたち込めていた。

バッ!
「今日という今日はもう許さん!!」

どこに隠していたのか 『100t』 と書かれたハンマーを取り出し、ナンパ男に天誅を下す!

「リョウ!
 いいかげんにせんか!!!」
「カ、カオリ、ちょっとタンマ!」















文章化できない恐ろしさ















「...ったくアンタって男は...」

カオリの足元には、通常ならば死んでいてもおかしくないほどに、ズタボロにされた男が転がる。
こめかみを押さえながらこの男 『冴羽リョウ』 が自分のパートナーであることを嘆く。

「女と見ればすぐナンパする...
 今日ぐらい大人しくしてられないの!?」
「いや、最近暑いじゃないか。
 気分転換にちょうどいいかな、って思って...」
「...アンタやる気あんの?」

リョウのふざけた言葉に、心臓を鷲掴みするようなオーラを発するカオリ。

「今日はシンジ君が帰ってくるんだよ。
 それに兄貴にも頼まれてんだから真面目にやんなさい!!」
「わ、判ったってカオリちゃん。
 あんまし怒ってばかりいるとシワが増えるぞ。」
「な、なんです...って...」
「シッ!
 カオリ、黙ってろ。」

突然マジな顔つきになるリョウ。
それはまさしく獲物を狩るハンターの目だった。
こんな目をするのは滅多にないことを知っているカオリは、ある重要なことを教えていると思った。

「来たの、シンジ君が?」

焦ってリョウの視線の先を見る。
多くの人が行き交う構内、その中からお目当ての人物を探し出すのは容易ではない。
だが、この男は違う。
彼の耳は1km以上先で鳴った銃声を瞬時に拾うことができ、鼻はどんな薬でも匂いを嗅いだだけで判断することができる。
そして口は7つの声を持つ男と呼ばれるほど、様々な声色を真似できる。
極めつけは目であった。
彼の目は今、一点に絞られ、捕らえた人物を正確に調べている。

「ちょっとリョウ、一体どこにいるのよ?」
「ちょっと後姿で、いまいち判らんが...
 青紫がかった髪といい、はちきれんばかりの胸!
 抱きしめたら折れてしまいそうなあの細い腰!!
 そして芸術的なラインを描いているお尻!!!」
「へ...?」

1人で力説するリョウに着いて行けず、背後で鳴くカラスが哀愁を誘うカオリ。
ただ一つ判ったことは、見つけたのはシンジではなく女であることだけであった。

「うおおおお、どこぞの女男とは比べ物にならないナイスバディだ!!
 そこのお嬢さん、僕とお茶しませんか!?」
「あ、コラ待てリョウ!!」

ゴキブリも顔負けのフットワークで間合いを詰めていくリョウとハンマー片手に追いかけるカオリ。
だが突然リョウの足が止まった。
すると当然のことながら、カオリは背中にぶつかる。

「ちょっとリョウ、いきなり止まらないでよ!」
「シッ!」

再び慎重な顔になったリョウは物陰に隠れるように、ある人物を指差す。
カオリも同じように物陰に隠れ、指の先を追うと...

「...シ、シンジ君...」

カオリの目には二年前、最期に逢ったときよりも成長したシンジの姿が映っていた。
ちなみにリョウが追いかけた美女はミサトである。
シンジたち一行は、新幹線ホームから降り、甲子園近くのホテルへ向かうために電車を乗り換えた。










☆★☆★☆











ここは西宮市の甲子園から結構近いところに建つホテル。
入り口には 「歓迎、第壱高校野球部様」 と書かれた看板が見える。
そのホテルのロビーにシンジたち第壱高校野球部は集まっていた。

「じゃあオレとタツヤは先方にご挨拶に行から、後は各自で決めてくれ。
 甲子園に行くのもいいし、練習するのも自由、ただしケガのないようにな。
 では、解散。」

チェックインを済ませた加持がそう告げて、キャプテンのタツヤと練習場としてお世話になる学校へ行く。

「甲子園に行く人がいたら私に言ってね。
 これでも引率者として来たんだから連れてってあげるわよ。」
「オレ行きます!」
「オレも、オレも!」

ミサトの言葉にほとんどが集まる。
夢の甲子園に来たのだから当然である。
だが別行動を取る者がいた。

「スイマセン、ちょっと行きたいところがあるんですが...」

シンジが加持に話す。

「そうか、1人で行くのか?」
「いえ、綾波と...」

シンジがレイを見る。

「オレか葛城の携帯の番号は知ってるよな?」
「ハイ。」
「判った。
 だが、あんまり遅くなるなよ。」
「ハイ。」

二年ぶりの帰郷なので加持は深くは追求しなかった。
そしてシンジがいつもより元気がないのに気づいたのも理由の一つだった。










☆★☆★☆











時は流れ、太陽は大地に還ろうとしていた。
日の光はそこに在る総てのモノを同じ色で染める。
あれから数時間の時が過ぎたというのに、3人は墓石の前から去ろうとはしなかった。

「...今年は、ワシらだけか...?」

墓石に添えられた花と燃え尽きた線香を見る。
そしてそこに伸びる影があった。

「よ、久しぶりだな。」

クセのある髪とメガネをした少年が現れた。

「遅いでケンスケ。」
「スマン、中々抜け出せなくてな。」

彼の名は相田ケンスケ、高知県の代表校である十六夜高校の制服を喪に服すために着ていた。
彼もまた墓石に花を添え、手を合わせ、しばしの間、祈りを捧げる。
六分儀と彫られた墓石に何を想うのか...





ザ...

ケンスケは挨拶を終えると席を譲る。
アスカの表情は凍りついているかのように変化はまるでなかった。
だがそれでも墓石を目の前にすると、蒼い瞳が濁る。
トウジもケンスケもヒカリでさえアスカの目に映るモノが見えない。
辺りの空気が張り詰めて重く苦しくなり、ケンスケが場を和らげるために切り出した。

「トウジ、調子の方はどうだ?
 去年に続けてだと、プレッシャーもまた大きいんじゃないか?」
「アホぬかすな、ワシはいつでも絶好調や!
 そんじょそこらのヤツとは鍛え方が違うワイ!!」

胸を張って大威張りする。

「ま、今年も優勝はもらったも...」
「相変わらずおめでたい頭してるわね...
 シンジが出てきたらアンタなんか...」

アスカの言葉にそこにいる3人は何もしゃべれなくなった。
誰よりも理解し、誰よりも大切に想うその名前...
だがそれを口にする度に心が痛くなる。
シンジが消えたその日から、今日という日までずっと苦しんできた。
そしてその苦しみと哀しみを、この3人は嫌というほど理解しているつもりだった。

「もういいんじゃないか、惣流...
 あれは誰の責任でもないんだ。」
「わかった風な口きかないで。
 アンタには判らないわ...」
「...そうか...」

とりつく島もないことぐらい判っていたが、言わずにはいられなかった。
再び訪れる沈黙。
聞こえるのは遠くからのセミの声だけだった。










☆★☆★☆











シンジとレイは泊まっているホテルから電車で隣りの駅で降り、駅前の商店街の中のとある花屋に入った。

「...この花をください。」

懐かしそうで、でもどことなく哀しそうなシンジの横顔を見るレイ。
シンジに着いてきたのはいいのだが、何もしゃべろうとしないシンジのお陰でまだ目的地が判らない。
それ以上に気になるのはシンジの心だった。
甲子園に向かう日が近づくにつれて1人でボーッとするのが多くなる。
過去の傷痕に向かい合うのだから無理もないのだが、それでもなんとかあの笑顔を取り戻して欲しかった。

「ありがとうございます!」

店員の元気な声でレイは我に返った。

「行こうか、綾波。」
「あ、ハイ!」

慌てて後を着いていく。
レイが見ているのはシンジの広い背中。
シンジのことを考えると愛おしく、胸が締めつけられ、抱きしめたくなる。
そんな想いに駆られながら歩いていると、表通りではなく裏通りを歩いているのに気づいた。

「ここ、どこなんですか?」

裏通りを通るのは、その地に詳しいと思って聞いた。

「ここを通ると近いんだ。
 ゴメンね、不安にさせちゃって。」
(まただ...)

最近良く見る笑顔だった。
シンジは綾波レイではない誰かを見ていた...いや、綾波レイを通して違う人間、妹であるレイを見ていた。
それが綾波レイの心をかき乱す。
そしてその前を歩くシンジが呟いた。

「ここは、何も変わらないな...」

時代を感じさせる街角や色褪せた壁。
シンジは優しく哀しい目で、目に映る風景を眺めていた。










☆★☆★☆











場所は戻ってアスカ、トウジ、ヒカリ、ケンスケのいる墓地。
ケンスケが思い出したように呟く。

「そう言えば...
 今年の大会で、ちょっと気になる学校があるんだ...」
「見つかったんか!」

トウジがまくし立てるように聞く。
そして僅かだがアスカの表情にも変化が現れる。

「落ち着けってトウジ!
 ったく相変わらずだな...」

口ではそんな事を言っているが、何も変わらない親友にホッとした。
そして説明を始めようとしたとき、意外にもヒカリが口を挟んできた。

「相田君、それってまさか新東京区の...」
「知ってるのか!?」
「なんや、2人して盛り上がって...
 ワシらにも判るよう説明せぇ!」

カヤの外に追い出されたトウジはイライラと急かす。
アスカも表情にこそ出ないが、トウジと同じだった。
そしてケンスケはいきなり真面目な顔をして2人に教える。

「第3新東京市立第壱高校ってのが新東京区の代表校なんだ。
 そこのピッチャーってのが...」










バサバサバサ...










鳥が飛び立つ。










ザ...










足音が聞こえた。










ス...










背後から伸びる2つの影法師が視界に入る。










「誰や...」










夕日の逆光により、顔が見えない。










「誰だ...」










まばゆいばかりのオレンジ色の光に目を細める。










「誰...」










寺の鐘が鳴るこんな時間に、自分たち以外に人が来るとは思わなかった。










「...まさか...」










だがアスカだけは違った。
夕日に照らし出されたシルエットと感じる気配、そして見慣れた二人一組の姿。










「シ、シンジ...」










待ち焦がれ、想いやまなかった者の姿がそこにあった。
涙が零れ落ち、その想いの深さを示す。
そしてアスカの目にはもう1人、自分の罪を象徴する者の姿が映った。










「...ウソ...」










目がこれ以上開かないと思えるほど開かれ、心臓が破裂しそうなくらいに鼓動を繰り返し、ガチガチと歯を鳴らして瞳孔が開かれる。
それはシンジも同じだった。










「なんで...オマエが...
 オマエがここにいる...」










体が震えあがり、脂汗が流れ、脳裏に二年前の惨劇が蘇る。
小さな頃、突然現れた少女。
少年と少女の間に現れた大きな壁。
少年にとって何よりも優先せねばならない存在。
その大切な絆を絶ち切ってしまったのは目の前の少女。










「ぅ...あぁ...」










想い出すのは3人いっしょの光景だけ。
そこでは自分と2人の少女が心から微笑んでいた。
3人の想い出が写真のように何枚もヒラヒラと舞い落ちる。
それらの想い出がガラス細工のように音を立てて砕けたとき、心も同じように砕け散る。










「うああああああああああ!!!」



第伍拾伍話  完






落書き

最初から飛ばそうとしたんですが、まずはスイマセン。
意外とお話が進まなかったです。
序盤は先ず下地を敷いてからお話を徐々に展開するという、スローペースな自分に気づきました。
でも次は頑張ります!
という訳で次回の予告です。



―――予告―――



再会した少年たち

だが何も変わってはいなかった

二年という歳月を持ってしても過去の痕は消えない

そして少年たちは行き場の無い気持ちをぶつけ合う





次回

大切な人への想い

「癒されぬ想い」



注) 予告はあくまでも予定です




今回の新キャラ
冴羽リョウ、槙村カオリ、海坊主、ミキ
シ○ィーハ△ターのメインキャラクターですね。
槙村ヒデユキとサエコを出したので...

〜設定〜
リョウとカオリはシンジに何度か会ったことがあります。
これはカオリがヒデユキの妹だからです。
シンジの過去についてもヒデユキ、もしくはサエコから聞いています。
海坊主とミキについては名前を聞いたことがあるだけで、シンジとは直接は会っていません。



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