カーテンの隙間から朝日が差す。
外では鳥たちの囀りが朝の訪れを知らせ、目覚ましは自分の主を起こすためにアラームを鳴らす。

モソモソ...

ベットの上で気だるそうに動く塊があった。
薄手の毛布からノロノロと手が伸び、ワサワサと何かを探し始める。
やがて鳴り続ける目覚し時計に当たり、パチリとスイッチを止める。
すると訪れる静寂の世界。
邪魔者を消した部屋の主は安眠を貪る。

スーーー...

なるべく音を立てないように気を配りながら僅かに襖が開く。
その開いた隙間から白いソックスを履いた足がニョキッと現れた。
鮮やかな栗色の髪、宝石のような蒼い目をした少女、名前は惣流アスカ。
彼女は抜き足差し足でベットに近づく。
寝ている部屋の主を見下ろす位置まで近づくと、彼女の可愛い口が開いた。

「ったく、たま〜の休みになるといつまでも寝ようとするんだから。」

怒っているようで、ホントは怒っていない。
目尻が下がり、頬が緩み、太陽のような笑顔がまぶしい。
しかし笑顔はニヤリと悪戯ネコのそれに変貌し、部屋の主の耳元で...

「起っきろー!
 バカシンジ!!」











大切な人への想い

第伍拾八話 過ぎ去った夏(其ノ壱)











チチチ...

鳥たちが部屋の中から聞こえた大声に驚いて飛び去っていく。
で、部屋の中では...

「ア、アスカぁ...せっかく野球部も休みなんだから...」

眠気まなこでなんとか反論する。
しかしアスカにそんなモノは通用しない。

「だから、なに?」
「もう少し、寝・か・せ...グゥ...」

最後まで言い終わらずに、再び夢の住人と化すシンジ。

「ちょっとシンジ!
 あ〜もう、小さい頃から変わらないんだから。
 野球部は無くても学校はあるんだから起きなさい!!」

歴史は繰り返すと言うのか、アスカも小さい頃からの日課というべき実力行使に出た。

バッ!!

宙に舞う毛布。
そこで驚くアスカ。
と思ったらトマトのような真っ赤な顔になり...

「キャー!!
 エッチ、バカ、変態、信じらんない!!」
パァン!

部屋の中で乾いた音が鳴った。
それをキッチンで聞く空色の髪と紅い瞳を持つ少女、名前は六分儀レイという。
彼女は中学校の制服にエプロンをして味噌汁を作っていた。

「うぅ...あのときパーじゃなくてグーを出してれば...
 もう3連敗じゃない!
 私も兄さんを起こしたい!!」

手に持ったおたまを握り締め、涙混じりに愚痴をこぼすレイ。
アスカとレイはシンジを起こす当番をジャンケンで決めていたのだ。
結果は3日連続でアスカの勝利。
そのお陰で(?)今日の味噌汁はヤケにしょっぱかったという。










朝食を食べるシンジ、アスカ、レイ。
シンジの隣にはレイが、向かいにはアスカが座っており、レイは兄の左頬をチラチラと見る。

「...まだヒリヒリするよ...」

シンジの左頬には真っ赤な紅葉が咲いていた。
涙目になっているのがちょっと哀愁を誘う。

「起きないアンタが悪いのよ。」

素っ気無く言うのはアスカ。
でも頬は薄い桜色だったので説得力はイマイチだ。
そして兄を気遣うレイ。

「大丈夫?」
「へ、平気だよ。
 いつものことだから慣れちゃったりして、ははは...」

なんとか平静を繕うシンジ。
しかしアスカのツッコミがすかさず入る。

「だったらもっと鍛えてあげようかしら?」
「...ゴメンナサイ。」

いつもの会話、いつもの構図だった。
ちなみにシンジとレイの母、ユミは最近忙しいせいかまだ寝ている。
惣流家も同様である。
このような朝は、もはや日常茶飯事であった。










「兄さん、おかわりは?」
「ありがと、レイ。
 もらうよ。」

レイはお茶碗を受け取り、ニコニコとゴハンをよそう。
対照的にアスカは面白くない顔だった。
かくいうアスカは料理がダメ、という訳ではない。
頑張ればかなりの腕になるのだが、レイはそれ以上の腕を持っているので勝ち目ナシ。
よって台所はレイの絶対領域が張られているので出番が無いのだ。





「シンジ、今日の午後は大丈夫なんでしょうね?」
「うん、練習は無いって先生が言ってたから大丈夫だよ。」
「テスト期間だけしか休みが無いなんて、ホント頑張るわねアンタたち。」

テスト期間。
シンジたちの中学校は現在夏休み前の期末テスト中だったのだ。
で、最終日である今日は練習も無いので、遊ぶ予定を立てていた。

「でも久しぶりだね、3人で遊ぶなんて。
 ハイ兄さん。」

おかわりを渡すとシンジは笑顔で受け取る。

「ありがと。
 ホント厳しかったからね。
 強くなるには仕方ないけど...」

最後の方は済まなそうに言った。
強くなるには練習を積まなければならない。
だが自由な時間がそれだけ削られるのだ。
という訳で徐々に暗くなるシンジ、朝から何かと大変である。

「ホラ、暗くなんない!
 アンタには夢ってモノがあるんでしょ〜が。
 だったらそれに専念しなさい!
 ホ〜ント、理解あるアタシたちに感謝しなさいよ!」

ビシッと人差し指を立てて有無を言わさず納得させる。
多少強引なのだがシンジは彼女の優しさを知っていた。
だから笑顔で感謝の言葉を伝える。

「ありがとう。」
「そ、そんなことより!」

自分に向けられた笑顔を正視できず、あさっての方向を向く。

「早く食べなさい!
 学校に遅れるでしょ!!」










☆★☆★☆











タッタッタッタッタ...

シンジを先頭にアスカ、レイの順に国道沿いの歩道を走る。
時間もかなり切迫しているので大急ぎだ。
そして徐々にだがシンジとアスカたちとの差が大きくなり始める。

「ちょっと待ちなさいシンジ!」
「速いよ兄さん!」
「あ、ゴメン。」

走るスピードを落とし、アスカたちに合わせる。
なにしろシンジは野球部のエースであるために、かなり走り込みをやっているのだ。

「アタシたちに合わせてよね!
 ったくアンタは...」

シンジに並ぶと早々に愚痴る。
となると反射的に謝ってしまうのだ。

「ゴ、ゴメン。」
「すぐ謝るクセはやめなさい!
 ...って、まぁ今のはアンタが悪いか。」
「ゴメン...」

小さい頃から言い続けているのにこれだけは一向に直らない、らしいといえばそれまでなのだが...
そんなことを思い出しながらシンジの走る姿を横から見る。
家から走り続けているのに息があまり上がってない。

「どうしたの?」

アスカの視線に気づくシンジ。
目と目が合って顔が赤くなり、プイッと正面を向きなおす。

「な、なんでもないわよ!」
「?」

シンジには何がなんだか判らない。
機嫌が悪いのかなと思って深くは追求しなかった。
長年の付き合いで、ここでなんでと聞くと更に機嫌を悪くして、マシンガンのように言い負かされるのを知っているからだ。
そのとき空色の髪が横を通り過ぎる。

「兄さん、アス姉、遅れちゃうよ。」

レイは後ろを振り向き、スカートをはためかせながら走り去っていく。

「レイ!」
「ま、待ちなさーい!」

慌てて追う二人。
自然にシンジがアスカの前に出る。
アスカに見えるのはシンジの背中、その背中がやけに新鮮に見えた。

(...なんでだろ?)

不思議に思ったが、理由がすぐに判った。

(そっか、小さい頃はアタシが前を走ってたんだ)

アスカは頭が良いだけでなく、運動神経も優れていた。
小さい頃は同い年の男子には絶対に負けない自信があり、そして今でも運動能力でアスカに勝てる男子は少ない。
その数少ない男子の1人が前を走るシンジだ。

(頑張ってきたもんね、シンジ)

背中を見る目が優しくなる。
いつの間にか自分を追い抜いた幼馴染み、身長も今では追い抜かれようとしている。
だが悪い気はしなかった。
いつかこんなときが来て欲しかったのかもしれない。
アスカは学校に着くまでシンジの背中を見続けていた。










☆★☆★☆











カチ、カチ、カチ...

時計の秒針が時間を刻む。
シ〜ンと静まり返った教室に、その音だけが響く。
そしてカチッと分針も動き、同時にチャイムが鳴った。

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
「そこまで!
 じゃ、後ろから答案用紙を回収してくれ。」

先生のテスト終了の合図が緊張の糸を断ち切ると、ガタンと席を立つジャージ姿の少年が。

「よ〜やっと終わったワ!
 総てのしがらみから解放されるこの瞬間がたまらんわい!」
「鈴原!
 まだ答案用紙を集めてるんだから座ってなさい!!」
「カ、カンニンやイインチョ...」

答案用紙を集めていたクラス委員長のヒカリが注意する。
毎度毎度の光景。
それを眺めるシンジ。

「尻にしかれるタイプだな、トウジって...」

冷静に分析する。
とそこにいつものようにアスカも入ってくる。

「アンタもでしょ。」
「なんで僕が尻にしかれるタイプなんだよ!」
「なによ、ホントのこと言ったまでじゃない。」
「どうしてだよ!」
「見たまんまじゃない。」
「アスカがそうやってポンポンポンポン殴るからだろ!」

とここでも始まるいつもの夫婦喧嘩。
で、窓際のケンスケが一言。

「平和だねぇ。」

外ではピーヒョロロ〜と鳥が飛んで行く。










ガヤガヤと玄関では生徒たちがこれからの予定を話し合う。
なんといってもテストが終了したのだ。
地獄から解放され、束の間の平和を楽しむ。
なぜ束の間なのかというと、結果が返ってくるまでだからだ。
しかし結果など気にも止めない輩もいる。
黒いジャージに身を包み、声高らかに笑うトウジが良い例だ。

「久しぶりの自由や!
 思いっきり遊ぶで〜!!」

嬉しさのあまり廊下を走ってしまう。
となると黙ってないのが委員長こと洞木ヒカリ嬢。
こちらも走って追いかける。

「コラ、鈴原!
 廊下は走らない!!」

三年間も同じことをやっていると、もはや風物詩となったのか誰も2人を注意しない。

「見てて飽きないよな、あの2人。」
「なんでトウジって野球以外のことには学習能力がないんだろ?」
「決まってんじゃない、バカだからよ。
 ...ハァ、ヒカリもヒカリだけど...」

遠巻きに見ているのはシンジとアスカとケンスケ。
テストも終わったのでいつもより軽い鞄を下げて帰ろうとしていた。

「なあシンジ、テストも終わったことだし、遊びに行かないか?」

ケンスケが切り出す。
シンジ、トウジ、ケンスケは小学校からの付き合いで、同じ野球部仲間。
3人はよくつるんで遊んでいるのだ。
結果つけられたあだ名が 『3バカトリオ』 であり、名付け親はアスカである。
その親友の誘いをシンジは済まなそうに断った。

「ゴメン、ケンスケ。
 予定が入ってるんだ。」
「なんだ先約があったのか。
 惣流か?
 それとも、レイか?」

自分たち以外の予定と言ったらそれ以外にない。
そのことは長い付き合いから判っていた。
そのとき背後から答えが返ってきた。

「両方ですよ、ケンスケさん♪」
「「「レイ!?」」」
「迎えにきたよ、兄さん。」

愛くるしい笑顔を浮かべながら最愛の人、シンジの前に出る。
で、トウジはレイの親友にして自分の妹のミユキにつかまって怒られていた。










☆★☆★☆











「ねぇ兄さん、こんなのはどうかな?」

レイが白い水着を見せる。
シンジたちはブティックで水着コーナーにきていた。

「似合うんじゃない、レイ。」

笑顔で答えるシンジ。
はたから見れば仲睦まじき兄妹か、或いはカップルにも見える。

「ホント、兄さん?」
「うん、レイのイメージにピッタリだからね。」
「じゃ、試着してみようか?」
「...え?」

シンジの答えを聞かずに颯爽と試着室に入っていく。
シャッとカーテンをしめるとパサリと服を脱ぐ音が聞こえ始めた。

「ま、まいったな...」

1人ポツネンと立ち尽くすシンジ。
そのときレイがヒョコリと頭だけを出し、悪戯っぽい顔で一言。

「エヘヘ、楽しみにしていてね♪」
「あ...」

その際にシンジはレイの肩の白いヒモを見つけてしまった。
しかしレイは気づかずに着替え再開する。
再び取り残されたシンジは思う。
最近レイから富に女を感じるようになった。
しかしレイのシンジに対する接し方は昔から変わらない。
人懐っこそうに、くっついてくるので煩悩がムクムクっと起き上がるのだ。

「頼りにされているのは嬉しいんだけど...」

腕を組んで考えてしまう。
とそのときアスカが一着の水着を持って現れた。

「やっと見つけた!」
「アスカ。
 どこ行ってたの?」
「こっちのセリフよ!」

アスカの機嫌は傾き、いつ爆発しても不思議ではない。
という訳で瞬間的に謝ってしまうシンジ。

「ゴメン...」
「もういいわよ!
 水着も見つかったから。」
「そうなんだ、良かったね。」

これ幸いにすかさず話を合わせる。
だが持ってきた水着を見た瞬間、固まってしまう。
白と赤のストライプのビキニだったのだ。

「じゃーん!」
「ア、アスカ、これ着るの?」
「なに顔赤くしてんのよ、このスケベ!」

怒っている。
だが予想されたことなので、総てはアスカのシナリオ通りだった。

(予想通りな反応をしてくれるわシンジったら。
 ま、このアタシなんだから無理ないか。
 ふふん、シンジの目はアタシにクギ付けね)

アスカは持ってきたビキニの水着を着たときを想像し、さらなるシナリオを描き始める。
しかしイレギュラーは必ず存在するのだ。
試着室のカーテンがシャッと勢い良く開いて白い水着を着たレイが登場した。

「お・待・た・せ、兄さん。」
「あ...」

シンジは思わず見惚れてしまい、言葉を失う。
レイの産まれ付きの色素欠乏の白い肌に白い水着が重なり、純粋に綺麗だと感じた。
レイはじっと見るシンジの視線に恥ずかしくなり、恥じらいながら聞く。

「ど、どうかな...?」
「...すごく...
 すごく似合ってる...」
「...ありがと。」

シンジの賛美の言葉にモジモジしながら答える。
良い雰囲気、まさしく恋人同士に見えた。
そうなると黙っちゃいないのが独りカヤの外なアスカだ。

「シンジ!
 アタシも着るわ!」

アスカはすぐ隣りの試着室に入る。
乱暴にカーテンがしめられ、シンジとレイは呆気に取られた。

「どうしたんだ、アスカ?」

鈍感なシンジはなにも判らない。
レイは気づいたのだが、なにも言わないことにした。
自分も同じ立場にいたら、絶対にそうするからだ。
そしてアスカが着替え終わり、水着姿のお披露目になったら、シンジはまともにアスカの姿が見れなくなった。










☆★☆★☆











河原の土手を、アスカを先頭にシンジとレイが歩く。
買い物の帰りだった。

「これでキャンプに必要なモノは大体そろったわね。」

アスカは自分の荷物をシンジに押し付けていたので、実に軽快そうに歩いている。
一方のシンジは3人分の両手では持ちきれないほどの荷物を持ってあとを歩く。

「必要なモノって、なんでこんなに買うんだよ。
 キャンプは来月なのに、しかも何軒も回るし...」

不平不満を口にする。
すると差し伸べられる天の助け。

「兄さん、少し持ったげようか?」
「ありがとう、でも平気だからいいよ。
 ...だけどホント色々なモノを買ったね。」

女の子の手は借りない。
男の意地と見栄とヤセ我慢といったところか。
それに妹の前では弱いところを見せたくはないようだ。
幼馴染みのアスカの前では良く見せるのだが...

「女は男と違って必要なモノが結構あんのよ。」

振り向き様、シンジのおでこをペチッと叩く。
両手がふさがっているために、シンジは目をつぶって痛みに耐えるしかなかった。
困った顔をしながらレイも入ってくる。

「でも久しぶりだね、みんなそろって旅行なんて。」

来月にシンジの家族とアスカの家族でキャンプに行くことになったのだ。
両家はお隣さんであり、親同士が学生時代からの親友だったので、家族ぐるみの付き合いが多いのだ。
従ってシンジとアスカは幸か不幸か物心が着く前から一緒であり、姉弟同然に暮らしてきた...どちらが上かは力関係から見れば一目瞭然。
2人とも一人っ子なのだが姉弟だった。
しかしその関係も崩れるときがやってきた。
それがレイの養子縁組である。
レイという妹ができたためにシンジは変わり始めた。
護らなければならない、そんな想いがシンジに産まれたのだ。
だが変わったとは言ってもアスカに頭が上がらないのだけは変わらなかった。
それが何を意味しているのか、中3のシンジにはまだ判らなかった。

「そうだね、最近はアスカのトコも忙しいからね。」

アスカの両親のことを言っている。
仕事が忙しくて親と一緒にいられる時間が少なくなった今、家族旅行を楽しみにしているのだ。










「オウオウ、ガンバッとるなガキ共。」

トウジが河原でキャッチボールをする子供たちを見つけ、小さな頃の自分を思い出す。

「オレたちもあんな頃があったよな。
 で、遅くまで遊んでいて怒られたと。」

一緒にいたケンスケが加わる。
トウジとケンスケは幼稚園からの付き合いだった。
ちなみにヒカリもだ。
そのヒカリも加わる。

「懐かしいよね。
 ...そう言えば甲子園の予選、始まったよね。」
「せや!
 来年からはついにワシたちが出れるんや!!
 ああ、時間よ、はよ進まんかい!」

夕陽に向かって叫ぶ。
熱血漢なヤツであるから仕方ない。
しかもヒカリはそんなトウジを見て微笑んでいる。
その2人を見てミユキはため息が出てくる。

「お兄ちゃんったら相変わらずなんだから...」
「ミユキちゃんも苦労するね。」

ケンスケもまた2人を見ていた。
そのとき背後から名前を呼ばれる。

「あれ、ケンスケじゃないか。」
「お、シンジか。
 両手に花のデートは終わったのか?」

振り向き様、答える。
親友であるために姿は見ずとも声だけで判るのだ。

「「そんなんじゃない(わ)よ!!」」

一糸乱れぬユニゾンで否定するシンジとアスカ。

(...私はそのつもりだったんだけどな)

心の中で想うのはレイ。
自分の気持ちについてハッキリと判っているのはレイだけなのであろうか?

「センセやないか。
 いつからおったんや?」
「ついさっきだよトウジ。
 ところでなに見てるの?」
「見てみい、昔のワシらや。」

河原でキャッチボールをしている子供たち。
既に日は傾いているのにまだ遊び足りないのか、やめる気配はまったくない。
シンジもトウジもケンスケも、アスカもレイもヒカリもミユキも、しばらくの間、その光景を眺めていた。










☆★☆★☆











「「「ただいまー。」」」

六分儀家のドアを開けて帰宅を知らせる3人。
アスカも一緒なのは勝って知ったるなんとやらで、六分儀家も自分の家同然だからだ。
しかし返ってきた声はユミではなかった。

「や、おかえり、シンジ君、アスカちゃん、レイちゃん。」
「「「槙村さん。」」」

意外な来客に驚く。
そしてキッチンからユミも現れる。

「みんな、おかえりなさい。
 ちょっとそこで槙村さんと会ったのよ。」
「久しぶりですね、ホント。」

シンジは笑顔で歓迎する。





「...出張、ですか。」
「そうなんだ。
 だから早いとは思ったんだけど、先輩の墓参りも済ませたんだ。」

シンジの父、ソウである。
毎年、命日に全員が集まって墓参りをするのだが、今年は出張のために槙村は早目に済ませた。

「出張っていつまでなんですか?」
「8月の中頃までかな?
 ま、早く終わるかもしれないし、長引く可能性もあるけど。」
「あら、早く終わるんでしたらキャンプに一緒に行きませんか?」

墓参りに一緒に行けないのならとユミがヒデユキのことを誘った。

「キャンプ、ですか?」
「ええ、アスカちゃんのところと一緒に行くんですの。
 槙村さんもサエコさんを誘ってみては?」
「ブッ!」

いきなり吹き出すヒデユキ。
なぜサエコと付き合ってるのが−−−
と思ったのだが、亀の甲より年の功というのか、何でもお見通しのユミには敵わない。

「判りました、お言葉に甘えます。」
「来れるんですか、槙村さん?」

嬉しそうに聞くのはシンジ。
ソウが死んでからはヒデユキが何かと面倒を見てくれたので、シンジは兄のように慕っていたのだ。

「うん。
 よろしくな、シンジ君。」

この瞬間、六分儀家、惣流家に加え、ヒデユキとサエコもキャンプに行くことになった。



第伍拾八話  完






落書き

さて今回から始まった過去のお話。
このお話では二年前の夏、シンジが六分儀の姓を捨てるまでを一気に書くつもりです。
ということは妹のレイと母親のユミがとある事故で命を落とし、ゲンドウとユイに引き取られるまでですね。
けど何話続くかまだハッキリしないのが現状です。
よって野球からはかなり遠くなってしまいます。
甲子園が開幕するのはいつになることやら...



―――予告―――



名門東雲高校からの特待生の誘い

甲子園を目指す球児にとって、それは願ってもないチャンスだった

しかし想い描いた夢のため、犠牲になるモノがある

自由な時間が削られ、大切な人との時間が奪われていく





次回

大切な人への想い

「過ぎ去った夏(其ノ弐)」



注) 予告はあくまでも予定です




sugiさんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る
inserted by FC2 system