キュキュッ...サーーー

レバーをひねると熱いシャワーが出てきた。
それを限界までひねると、あっという間にカラダ全体が温かいお湯で濡らされる。

サーーー...

目をつぶり、顔をあげてシャワーを浴びるアスカ。
汚れではなく、今朝見た悪夢を洗い流しているように見えた。
下ろした髪は濡れ、べったりと肌に貼りつく。
まるであの時のように...

...キュキュキュッ

手を伸ばし、レバーを逆にひねるとシャワーの勢いが弱くなり、そして止まる。
顔に貼りついた髪をかき上げようともせず、備え付けの鏡に映る自分を見た。

「.........」

右手が鏡に伸びる。
そこに映る整った顔のラインを指でゆっくりとなぞる。
同い年の少女にはない豊かなカラダのラインとキレイな白い肌、そして知的な顔立ち。
だが女として魅力的な部分をあますことなく持っていた彼女の全てを打ち消していたのは、幽鬼のような虚ろな表情だった。
そして鏡の向こうにいるアスカが笑う。

「ふふっ...ヒドイ顔ね」

ふと視線を下ろすと乳房が見えた。
鏡にあった右手がスライドして触る。
ふっくらと張りのある感触が手のひらに広がる。










「...ん」

唇を硬く結び、カラダがピクンと跳ねる。
再び鏡に映る自分を見た。
手のひらで弾力のある胸を弄びながら。

「...はぁ...あ...」

艶めかしい声が小さな口から漏れる。
ときおり小さな波が押し寄せてくるようにアスカのカラダが跳ねる。
目を閉じて次第に息が上がっていくのは、いつも穏やかな笑顔を浮かべていた少年を頭に思い浮かべていたからなのだろうか。
立っていられなくなり、あまった手を壁につけて体を支えた。
眉間に皺を寄せて耐えるアスカの顔には、普段絶対に見せない表情を浮かべている。

「くぅ...んっ!」

くぐもった声が締め切った空間に反響する。
体を支えていた左手はいつの間にか下の方に伸びていた。
そこから粘液質の音が聞こえてくる。

「ぅあ...ふぅぅぅ...シん...!」

出そうになった名前を噛み殺した。
その代わりに『音』はいっそう激しくなる。
喘ぎ声と火照ったカラダ。
鏡に頬を押し付けるようにしてカラダを支える。

「はっ...はっはっあぁぁっ」

力任せに胸を掴み、ふっくらとした形が歪む。
下に伸ばした手にまとわりつく粘りつく感触。
心の中で想い人の名前を叫びながら行為に没頭する。
アスカはただ快感に身を任せていた。

「...ぁンっ」

うっすらと目を開けて鏡の中の自分を見る。
ただの女がそこにいた。
例え快楽に溺れていても、今のアスカは人間らしい美しさを持っていた。
そして訪れる高波。










「ふむぅぅ...んんっ!」










噛み殺した声と硬直するカラダ。
鷲掴みにした胸がたわむ。
直後に吐き出した甘く荒い息が鏡を曇らせ、そしてペタリと冷たい床に座り込んだ。

「はぁっ...はぁはぁっ...」

焦点の定まらない眼を宙にさまよわせ、荒い息をして余韻に浸る。
カラダの火照りは、なかなか冷めない。
いまだ呆けている自分を鏡を通して見つめる。

「...んっ」

朦朧とした意識の中、下に伸ばしていた手を目の前に持ってきた。
手を開くと指と指の間に白っぽい液体が絡み付き、胸には強く掴んだ痕が残っている。
それを見たとき、瞬時にいつものアスカに戻る。

「...フンっ...」

自嘲気味に笑うクセ。
この暗鬱とした二年間でついてしまった。










「.........最低ね」

鏡に映る自分に嫌悪する。
頬にまとわりつく栗色の髪。
見る角度によっては紅く光るときもある神秘的な髪。
それが深い蒼い瞳に写ると、わずかにだが表情に変化が現れる。
紅と青−−−
普通では有り得ない組み合わせを持つ少女がいた。

キュキュキュッ

レバーを急いで回す音がして、再びシャワーが出た。
込み上げた嗚咽をかき消すように...











大切な人への想い

第九拾壱話 嫉みと妬み











ガチャ...

控えめにドアが開く。
そして何も告げずにドアが閉まった。
いつも通りに、ごくありふれた日常が始まる。
朝だというのに太陽の日差しが暑く、アスファルトを焼く。
今は夏休みだがアスカの足は学校に向かっていた。

「.........」

アスカの足が止まる。
長く続く階段とそれを挟むように生い茂る緑の木々。
馴染みのある景観。
アスカの通学路の途中には六分儀家の眠る墓地があった。
毎朝ここを通り、帰りもここを通る。
忘れてはならない記憶としてアスカが選んだ道だった。

ス...

そのまま通りすぎる。
いつもだったら墓前に手を合わせてから学校に向かうはずだった。
なのに、ここ数日になって階段を昇ろうとはしない。
いや、できなかった。
下唇を噛み、足早に去ろうとする。

(二度とくるな!)

あのときのシンジの言葉が甦る。
それが理由だった。
アスカは目を閉じて耳を塞ぎ、全力で走った。

「はぁっはぁっはぁっ...」

名もないような小さな公園に辿り着き、隅にある水道に目が行く。
蛇口をひねり、慌てて水を口に含んだ。
しかしノドの渇きは潤せても、心の渇きまでは潤せない。

「...ゲホッ!」

むせ返り、セキが出る。
何度も何度もセキが出て気管に入った水を吐き出す。

「大丈夫?」

ようやく落ちついた頃、目の前にハンカチが差し出された。
アスカの親友である洞木ヒカリだった。





「今日も学校に行くの?」
「...別にいいでしょ。
 やることないんだし...」

アスカは夏休み、決まって学校に行っていた。
最初は図書室や視聴覚室、電算室と場所を替えていったが、最後には屋上で落ちついた。
ヒカリは理由を聞いたことがあった。

「学校が見渡せるから?」
「...違う」
「私たちが育ったこの街が一望できるから?」
「...違う」
「遠くに甲子園が見えるから?」
「...違う」

結局ヒカリの推測は全部外れていた。
アスカの答えは簡単だった。










焼けつくグラウンドで駆け回る人が米粒ぐらいにしか見えない。
屋上から見下ろす景色などこんなものだった。
張られたフェンスに背中を預けるアスカには、そんな景色など何の興味もない。
今アスカが見ているのは青い空と真夏の太陽。
そして遥か先にいってしまった人たちであった。

「...3人とも1回戦突破したわ。
 でも、このまま勝ち進んでいけば、いずれは...」

独り言を空を見上げてつぶやく。

「優勝するのはたった1校...
 だからどちらかとは必ず闘うことになるわね」

雲の切れ間から夏の太陽の強い日差しが差し込んできた。
アスカは手をかざして日差しを遮る。
太陽は徐々に雲から出て、日差しは次第に強烈になってくる。
それでもアスカは目をそらさず、天を仰ぐ。

「ねえ...アンタには想像できた?」

見上げた空には一本の飛行機雲が描かれていた。
真っ直ぐに伸び、後ろの方は霞んでいく。
子供の頃はシンジたちとどこまで伸びていくのかが知りたくて、一緒に追いかけたこともあった。
空の向こう−−−
いってしまった人たちのところまでなのか...

「...ムリよね。
 あの3人が敵同士になるなんて、そんなの思いもつかなかったわ。
 ううん...思えるはずがないわ」

空に向かって語りかける。
頭上に広がる空と同じ色をした髪の少女、六分儀レイと話すように...
目を閉じて空を仰ぐ姿はとても儚い。

「これはシンジたちが自ら望んだ道じゃない...」

アスカは何も語りかけてくれない天に向かって話し続ける。
天に向かって話しかけるのは、気休め程度にしかならないことなど十分わかっていた。
天は今のシンジたちのように血と汗と涙を流して闘うことはできない。
多くの仲間たちと出逢うこともなく、喜びと苦しみを分かち合えず、自らの手で道を切り開くこともない。
何もせず、ただ見守るだけ。

「ねえ、レイ...
 そう思うでしょ?」

それでも語りつづけるのは、死んでいった者を近くに感じることができると思ってたからだ。
空の向こう、人の手の届かない天にいってしまった人の近くにいられるような気がする。

−−−空に一番近いから−−−

死者の眠る地にすら行けなくなったアスカにとって最後の拠り所となっていた。










☆★☆★☆











「フンフンフ〜〜ン♪」

鼻歌交じりにビール缶を抱え、ホテルの廊下を歩いている。
言わずもがな、葛城ミサトである。
これで引率の先生という肩書きを持っているのだから不思議以外の何物でもない。
笑顔を浮かべ、泊まっている部屋まで後少しのところで歩みが止まった。

「...そう言えばここしばらく見ないわね」

部屋の前でつぶやく。
誰の部屋なのかというと、彼女の同僚兼親友の赤木リツコである。
ここ2・3日の彼女の姿はあまり見ていない。
ゴハンのときはさすがに顔を合わせるのだが、終わると早々に消えてしまう。

「またロクでもないことを考えてるのかしら?
 それとも...逢い引き!?」

ミサトの顔が途端にニヤける。

「リツコったら親友の私にな〜んの相談もなしとはいい度胸ねぇ」

どこをどう考えたらそんな結論に結びつくのかと思えるが、その手に関しては短絡的思考(?)のミサトであるが故。
手掛かりを求めて静かにドアを開け、足音を消して中に入っていく。
息を殺して部屋を覗くとリツコの後姿を発見。

(げっ、なによいるじゃない)

お座敷のテーブルの前で座っていた。
が、そこでいつもと違うことに気づくところは鋭い。

(ノートパソコンを閉じてる...)

ヒマさえあればキーボードを打っている彼女にしてはおかしかった。
しかもため息をつく仕草も見られる。
明らかにヘンだった。

(あのため息、そして頼りない後姿とくれば...は?)

リツコの右腕が伸び、手には針と糸が見えた。
それを見たときミサトは愕然とする。

(あ、あのリツコが裁縫?
 こりゃあひょっとするわね...)

ニヤリと笑う。
しかし油断からビール缶が落ち、ゴトンと重い音がする。
当然気づく。

「だ、誰っ!」

テーブルの上にある物を慌てて隠して振り向く。
いつも冷静な親友が、こうも動揺しているのが面白くなったミサトは、悪びれもせず中に入っていった。

「私よワ・タ・シ」
「ミサトっ!?」

イヤなヤツに見つかった。
そんな顔をしたリツコを見て、ヘッヘッヘと笑いながら隠したものを見ようとする。

「あの赤木リツコが古風にも裁縫ですか。
 いったい誰のためですかな?」
「ち、違うのよミサト、これは...」
「何これ、なんかの設計図?」

モノは隠したが広げた図面は隠しきれず、ミサトの目にとまった。

「ひょっとしてグローブなの?
 なんでリツコがこんなモノを?」
「しょ、しょうがないじゃない、頼まれたんだから」

バツの悪い顔をしながらも作りかけのグラブはまだ隠したままである。
完璧主義ゆえに未完成ということが他人には知られたくはないのだろうか。

「頼まれたって...
 こういうのはお店で買った方がいいんじゃないの?
 わざわざ手間をかけるよりもさスポーツ専門店にいけば...」
「そんなところにあったら苦労しないわよ。
 これは特注品なのよ」

渋々と未完成のグラブを見せる。
牛皮の切れ端がいくつもあってまだ原型はできていない。
しかもこのグラブは通常お店にあるようなグラブではないのでオーダーメイドで注文するしかない。
そうなるとそれなりの日数が必要になってしまうのでリツコ自らがチクチクと手作業で作っている。
そして問題は大きさであった。

「ねえリツコ...このグローブでかくない(汗)」
「正確にはキャッチャーミットよ」
「相変わらず細かいわねぇ。
 で、どうしてこんなサイズなのよ。
 ちゃんとした理由があるんでしょ?
 ...なによその鼻で笑ったような仕草は...」

科学者(?)としての血が騒ぐのかリツコの顔に不敵な笑みが浮かぶ。

「渚君からの注文なのよ。
 とにかく大きいキャッチャーミットが欲しいって。
 で、規定ギリギリまで大きくしたのがこれなのよ」
「これなのよって、ただ大きくしただけじゃない。
 他には何の芸を仕込んであるっていうの?」

ミサトの問いにリツコはがっくりと肩を落とす。
余計なことをするなとカヲルから言われていたのだ。
結局グラウンドで闘うのは生徒たちだからしょうがないといえばしょうがない。
リツコは自分にそう言い聞かせているらしい。
そして再び作業に戻り、黙々とグラブを縫い始める。

「...なにこれ?」

まだパーツにしか過ぎない牛皮の間から手のひらに収まるような赤いモノが現れた。
リツコには気づかれないように盗み見ると、それにはこう書いてあった。

「必勝祈願...お守りじゃない。
 ...まったく古風なんだから」

親友のささやかながらの心遣いに優しい目を向けるミサトであった。










☆★☆★☆











屋上にいるのも飽きたのか、アスカは学校の電算室にやってきていた。

pi...

ディスプレイに光が灯りる。
写し出される情報の数々は第壱高校野球部のものだった。
その中でもシンジのデータを食い入るように見ていた。
エースとしてマウンドに立つシンジ。
馴染みのあるフォームから鋭い直球。
そして初めて見る変化球。
シンジと再会してからデータベースを洗って探し出した情報である。

「アタシの知らないシンジ...」

キーをたたくと次の写真が出てくる。

「渚カヲル、榛名ムサシ、東ケイタ、霧島マナ...
 シンジの同級生...」

銀髪の少年、日に焼けた少年、小柄な少年、髪の跳ねた少女。

カタっ

「若槻タツヤ、榊リュウスケ、望月ヨウスケ、麻生ススム...
 シンジの先輩...」

お人好しな少年、髪を短く刈上げた少年、髪の長い少年、メガネをかけた知的な少年。

カタっ

幼さが抜け切らない少年、そして−−−

「速水フジオ、綾波レイ...
 シンジの後輩...」

仲間たちといっしょに写っているシンジの顔は、昔見ていた笑顔にそっくりだった。
ただ1つ違う点は、目の奥に微かに哀しい色が見える。
それを感じるだけで胸は締めつけられる。
アスカはただ下唇を噛んで耐えるしかない。





カタ...

もう一度キーをたたくと今度は綾波レイが1人だけ写っている写真が出てきた。

「綾波レイ...」

ジャギーのかかった短い髪が同じ。

「綾波レイ...」

顔の造りも同じ。

「綾波レイ...」

名前も同じ。

「綾波レイ...」

シンジのそばにいるのも同じ。

「綾波...レイ...!」

違うのは苗字と髪と目の色だけだった。
あとは全て同じ。
姿形も、シンジの近くにいるのも、シンジが好きなのも同じ。

「なんでアンタは...」

搾り出すような悲痛な声。
やがて虚ろな目が怒りの色に染まっていく。

「また...あのときと同じように...!」

突然現れたのも、シンジの心をさらったのも、全て六分儀レイと同じだった。
自分とシンジの間に立ち塞がる大きな壁として存在する。
綾波レイという個人が全部イヤだった。










「...アスカったらどこいったのかしら...」

不安げに廊下を歩くヒカリ。
屋上にアスカがいないのを知ってイヤな予感がしていた。
教室、図書室、視聴覚室と、ざっと心当たりを回ってきて、最後の電算室に足を向けたところだった。

「あそこにいないとなると...やっぱり帰ったのかしら?」

廊下を曲がると電算室まで後少しの距離だった。
ドアを見てみると少し開いている。
もしかしてと思い、ヒカリは覗いてみた。

「アスカ...」

探し人が見つかった。
が、どうも様子がおかしかった。
鬼気迫るような空気に押され、中に踏み込めない。

「綾波...レイ...!」

微かに聞き取れた言葉に背筋が凍る。
それほどアスカの声は冷たかった。

「なんでアンタは...」

怒りをこらえるかのように肩が震えているのがわかった。
怒り−−−
喜怒哀楽を押し殺したアスカにとって、久しく見なくなった感情の現れであった。

「また...あのときと同じように...!」

だが付き合いの長いヒカリでさえ、こんなに大きな怒りの感情は初めてだった。
怖くなり、足がすくむ。
人がこれほどまでに、人を憎めるものなのかと怖れる。
綾波レイに対しての怒りは、それほど大きなモノだった。










「嫌い...」

綾波レイの写真を前にアスカの唇が動く。
小さな声だが恨みとも憎しみともつかない想いが、たった一言に込められていた。
ただ1人聞いていたヒカリの背筋に悪寒が走る。

「嫌い...嫌い...嫌い...」

ぶつぶつと呪文のような言葉が電算室に木霊する。
ディスプレイに写る綾波レイが、よく知る六分儀レイに重なって見える。

「レイにそっくりなところが嫌い...シンジが好きなところが嫌い...」

憎しみの言葉が続き、レイを見る眼がいっそう険しくなる。
それはシンジがアスカを見る目と同じで、決して認めない冷たい目をしていた。

「でも、一番嫌いなのは...
 シンジを1人占めにできるトコよ!」

そしてアスカの感情が一気に爆発した。
堰を切った洪水のように今までためていた言葉が次々と出てくる。

「ふざけんじゃないわよ!
 なんでアンタがシンジの恋人なのよ!
 逢ってまだ半年も経ってないのに!」
「アスカっ!」

普通じゃない−−−
そう直感したヒカリが電算室に入ってきて必死の思いでアスカを落ち着かせようとする。

「ずっとそばにいたアタシにはできなかったのよ!」
「落ち着いてアスカ!」
「レイでさえできなかったのよ!
 それなのになんでアンタみたいなヤツがシンジの心を捕らえられるのよ!」
「アスカ!」

ヒカリはギュっとアスカを抱きしめた。
細い腕の感触がアスカを包み込み、熱くなった心を冷まさせるが、それでもアスカの暗い感情は消えはしない。

「アンタになにがわかるのよ...!
 レイの心も...アタシの心も知らないくせに!」
「お願いアスカ、元に戻って!」

ヒカリはアスカの頭を胸に抱きしめ、アスカの豊かな髪に顔をうずめて語りかけた。

トクン...トクン...

規則正しいヒカリの胸の鼓動がアスカに伝わる。
それを感じてか、アスカの暗い感情は急速に萎えていった。

「アンタみたいな...アンタみたいな...」
「大丈夫...もう大丈夫だから、元に戻って...」

温かく全てを包み込むような母性をヒカリは感じさせていた。
そしてアスカの口からは、何かに取り憑かれたような恨みの言葉も憎しみの言葉も出なくなっっていた。

「...落ち着いたアスカ?」
「ヒカリ...?」
「もう大丈夫よ」
「ヒカリ...ヒカリ...ヒカリ...」

アスカの顔がぐしゃぐしゃに崩れていく。
ヒカリは穏やかな笑顔を向け、母親が我が子を抱くようにすっぽりと包み込む。
アスカはヒカリの胸を借りて大声で泣いた。










《...もう下校の時間です。
 校舎に残っている生徒は...》

どこか遠くから校内放送が聞こえてきた。
窓の外にはオレンジ色に染まった夕日が差し込み、1つになった影を伸ばす。
シンと静まり返った電算室には、いつの間にか西日が差し込んでいた。

「綾波、レイ...か」

ヒカリはシンジのそばにいた少女の名前をつぶやく。



第九拾壱話  完

第九拾弐話へつづく




100話まであと9話...



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