【 TIP OFF 】

 

 

第十話『Nein so etwas…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ここはどこ?

 

 

 

……ここは寒いからイヤ。

 

……ここは暗いからイヤ。

 

……ここは狭いからイヤ。

 

……ここは息苦しいからイヤ。

 

……ここは気持ち悪いからイヤ。

 

 

 

 

 

……でも、外に居るよりイイ。

 

……いらない子だっていわれるよりイイ。

 

……誰からも必要とされないよりはイイ。

 

……誰も居ないからイイ。

 

……ひとりぼっちだからイイ。

 

 

 

…………

 

……寂しいけど。

 

……寂しいけどイイ……

 

 

 

 

 

……?

 

……なに?

 

 

 

……暖かい。

 

……気持ちいい。

 

……優しい。

 

 

 

……ママ?

 

……ママなの?

 

 

 

…………

 

……違う。

 

……ママじゃない。

 

……知ってる。

 

……コイツ知ってる。

 

 

 

……碇シンジ。

 

……バカシンジ。

 

 

 

……コイツキライ、いつもオドオドしてるから。

 

……コイツキライ、内罰的だから。

 

……コイツキライ、優柔不断だから。

 

……コイツキライ、ファ−ストと仲が良いから。

 

…………

 

……コイツキライ、優しいから。

 

 

 

……コイツキライ……好きだから。

 

 

 

 

 

……ここはやっぱりイヤ。

 

 

 

 

 

……コイツが必要だって言ってくれるから。

 

 

 

……ここはやっぱりイヤ。

 

 

 

……コイツと一緒に居たいから。

 

 

 

……ここはやっぱり……イヤ。

 

 

 

……ずっとこうして手を握っていてもらいたい。

 

……ずっとこうして手を握っていてあげたい。

 

……ずっとこうして抱きしめていてもらいたい。

 

……ずっとこうして抱きしめていてあげたい。

 

 

 

……ずうっと一緒に居たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……?

 

……シンジ?

 

……シンジ!?

 

……どこ行くの、シンジ!?

 

……待って!!

 

……待ってよ!!

 

……置いていかないで!!

 

……アタシのこと必要だって言ったじゃない!!

 

……アタシにはアンタが必要なのよ!!

 

……待ってよ……置いてかないでよ!!

 

……アタシを独りにしないで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どおしたの? アスカぁ?」

 

「え?」

 

ふりかえると、さっきまでほかのこたちととんねるをほるのにむちゅうになってたシンジが、

どろんこの顔にきょとんとしたひょうじょうで、アタシのそばにきていた。

 

あわいおれんじいろのにしびのさす、ゆうぐれどき。

 

うちのちかくのじどうこうえん。

あたしはそこでシンジやほかのおともだちのみんなとあそびにきていたんだっけ。

 

「な、なんでもないわよ! ばかシンジ!」

そう…なんでもない…

なんでもないはずなのになんでこんなにむねがくるしいんだろう…

 

カナカナカナ…

 

ちかくからきこえてくるせみのなきげに、アタシののどはあつくつまりそうになる。

 

「でも、アスカないてるよ?」

 

え?

 

「ちょっ、ちょっとめにごみがはいっただけよ!」

アタシはあわててうでをあげて、めをごしごしする。

 

「あ、だめだよ、アスカ」

こんどはシンジがあわてて、あたしのうでをとる。

 

「めにごみがはいったときは、ごしごししちゃいけないんだよ」

 

…う…くやしいけどあんたのそのえがおがかわいいのはみとめてあげるわよ。

 

「じゃ、じゃあどうすればいのよ」

「ぼくがとってあげるよ」

シンジが、かわいいおさるさんのはんかちをポケットからだす。

 

「ほら、アスカうーってして?」

「い、いいわよっ!」

やさしくのばされたシンジのてを、なんだかてれてしまってはらいのけるあたしに、シンジはすこし

こまったようなかおをする。

 

…ううっ…そのかおもはんそくものよシンジ。

 

「だめだよ、アスカ」

「も、もうとれたからいいのっ!」

「で、でも」

「いいったらいいのっ!」

なおもいいつのるシンジに、あたしはほっぺたがあつくなるのをかんじながら、にぎりこぶしを

ふってからだぜんたいでおもいっきりきょぜつのいしひょうじをしてやる。

こうすると、こいつはたいていひきさがってくれる。

 

「わかったのっ!?」

「う、うん、わかったよ。でもホントにだいじょぶ?」

「だいじょぶよっ」

「そう? よかった」

 

…あう…またそのおひさまみたいなえがお。

…そのかおをみるとなんでかアタシはほっとして、ついきがぬけてしまう。

 

「…ありがと」

「え?」

「なっなんでもないわよっ!」

 

…みみがわるいのかしら? こいつ。

 

「? ふふ、へんなアスカ」

「むっ…へんとはなによ!? ばかシンジのくせにっ!!」

「ご、ごめん。…でもアスカだってぼくのことすぐばかばかっていうじゃないか」

からだをちぢこまらせて、きえいりそうなこえながら、なまいきにもシンジがこうぎしてくる。

「むむっ…あんたがばかなのはホントのことでしょ!!」

「で、でも…」

「むむむっ…でももすともないのっ!! だいたいオンナノコがないてるのをみたら「どうしたの?」

なんてきくまえにだまってはんかちをさしだすのがえちけっとでしょっ!!」

「あ、ご、ごめん」

ちぢこまらせたからだを、さらにちぢこまらせるシンジ。

 

…ふんだ。

 

「ったく」

 

「…ううっ」

 

…あ、やだ、なかないでよ。

 

「しょ、しょうがないわね…ゆるしてあげるわ…」

ないしんのどうようをシンジにきづかれないように、やれやれとあたしはおすましがおでいう。

「…ほ、ホント?」

「ホント」

「…ぼ、ぼくのこと、きらいにならない?」

 

…あうう…そのすがるようなめもはんそくものなんだからっ。

 

「…なるわけないでしょ。でもつぎからきをつけなさいよっ!?」

「うんっ」

「じゃあ、ほら、あっちでいっしょにあそびましょ」

「うんっ」

 

…まったくげんきんなんだから。

 

あたしはこころのなかでためいきをついてから、シンジのてをひいてすなばにいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どうしたの? アスカ?」

むかえにきたおかあさんにつれられてかえっていくおともだちのみんなのせなかをぼうっとながめ

ていると、またむしんけいなばかシンジがこえをかけてきた。

 

「…べっつにぃ」

 

…フンだ。さみしくなんかないもの。

 

いやなあじのするおもいにむねをしめつけられるのをごまかすように、あたしはせっせとてを

うごかす。

 

「でも、なんかアスカのかお、かなしそうだよ?」

 

…ふだんはどんかんなくせになんでこんなときだけそんなことがわかるのよ…ばかシンジ。

 

「…そんなこと…ない…わよ」

 

「なにがかなしいの、アスカ?」

あたしのことばをあっさりむしして、しんじがにっこりほほえむ。

 

「…べ、べつに…かなしくなんて…ないもん」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「アスカ?」

だまりこむあたしに、にっこりほほえんだままのシンジが、こくびをかしげるようにしてあたしの

かおをのぞきこんでくる。

やさしくさいそくするめ。

こんなぼけぼけっとしてるくせに、こいつはなぜか、いつもあたしがかべにかこってかくしたものを

かんたんにみつけてしまう。

じぶんそのものをみすかされたような…そんなきぶんになるけど、なんでかすこしもいやじゃなかった。

 

 

 

「………………れる?」

 

そんなんだから…

 

「え?」

 

「…シンジ…あんたは…」

 

「うん?」

 

そんなんだから、けっきょくあたしは、いつもみたいにくちにださせられる。

この、むねのおくのほうをずきずきさせる…ふあんを。

 

「…あんたは、ずっと…ずっと、あたしのそばにいてくれる?」

 

ひといきにそういってしまってから、あたしはぎゅっとつぶっていためをそうっとあけて、ちらっと

シンジのほうにかおをむける。

 

「…うん。もちろん!」

 

へ?

 

シンジは、いっしゅん、きょとんとしたひょうじょうをしてから、すぐににっこりほほえんでいとも

あっさり、しかもちからづよく、くびをたてにふる。

 

のぞんでいたこたえとはいえ、そのこともなげなちょうしに、あたしはべつないみでふあんになる。

 

「あ、あんたね、そんなかんたんにいって…ずっとよ? ずっと!?」

「うん」

「あたしがひとりにならないようにしなきゃだめなのよ!?」

「うん」

「うう〜ホントのホントにわかってんのっ? ずっとなんだからね!?」

「うん」

「うんうんって、かんたんなことじゃないのよ!? すんごくたいへんなことなんだから!」

「そんなのわかってるよ。でもだいじょうぶ」

 

そういって、シンジはまたれいのおひさまみたいなえがおをうかべる。

 

「う…な、なんでだんげんできるのよぉ…」

なぜかアタシのほうのちょうしがさがってしまう。

 

「だって…」

 

「だって?」

 

「だって、ぼくはアスカがだいすきだから」

 

「へ?」

 

「アスカのことがいちばんすきだから、ぜったいひとりになんかしないし、ずっとそばにいたいと

おもうよ」

 

「あ…」

 

あたまのなかで、ぼんっておとがきこえたようなきがする。

シンジの、よそうがいにきょうれつなこうげきに、ゆでだこみたいにまっかっかになってしまってる

だろうかおをみられたくなくて、おもわずとっさにかおをふせてしまう。

 

でも、すごくうれしかった。

むねのおくに、ぽっとやわらかい、みてるとおもわずえみがこぼれてしまうような、そんなひが

ともったような、そんなあたたかさをかんじることができた。

すごく…きもちいい…

 

 

「アスカは? アスカは、ぼくがかなしくてかなしくてしかたがなくなったら、そのときそばに

いてくれる?」

 

へ?

 

「アスカは…アスカはどう? アスカはぼくのそばにいてくれる?」

 

え? え? え?

 

ちょっ、ちょっとちょっと!

 

そんな、あの、まってよ!

 

そ、そんなこと…きゅうにいわれたって…

 

こ、こっちにだってこころがまえってもんがあるんだから…

 

た、たいみんぐってもんをかんがえなさいよね…

 

ふう…はあ…ふう…はあ…

 

よし…おっけ…

 

いくわよ…

 

…………。

 

…………。

 

そ、その…なんていったらいいのか…

 

えっと…その…あの…つまり…

 

アタシ…

 

そう…アタシは…

 

アタシは…!

 

「あ、おかあさんだ!」

 

へ?

 

そのこえにふとかおをあげてみると、まず、しかいいっぱいにしずむおひさまのあざやかなオレンジ

いろのひかりのこうずいがせまって、おもわずひたいにてをかざす。

そのまぶしいオレンジいろのなか、こうえんのいりぐちのところに、シンジのママがシンジによく

にた、やわらかいえがおでこちらにてをさしのべていた。

 

「おかあさん!」

 

シンジはさっとたちあがると、すなだらけのてをごしごしとずぼんでぬぐってから、まんめんの

えみをうかべてシンジのママにかけよって、そのさしだされたてにしがみつく。

 

そんなシンジをみながら、あたしもそっとたちあがって、スカートをぽんぽんとはらってから

シンジたちのほうへあゆみよる。

 

ママにきょうあったことをたのしそうにはなすシンジをみてると、またむねのおくでさみしさが

ひろがりそうになる。

 

けれど、ぐっとこらえる。

 

シンジはちゃんとやくそくしてくれたんだから。

 

「どうしたの? アスカ? かえろう?」

 

ほらね。

 

「はいはい」

アタシにむかってさしのばされたてを、おすましがおでとる。

 

と、そのしゅんかん、べつなほうこうからすっとのびてきたまっしろなてが、あたしにさしだされた

シンジのてをさきにぎゅっとにぎってしまう。

 

「あれ、レイも迎えにきてくれたんだ?」

 

てをのばしたしせいのまま、ぼうぜんとするあたしのまえでシンジがいもうとにやさしくわらい

かける。

 

…シンジ?

 

「え? レイもいっしょにあそびたかったの? そうだったんだ、ゴメンね」

 

…そのてはあたしにさしだしてくれたんじゃなかったの?

 

「うん。つぎからはかならずレイもさそうね」

 

…そのみぎてであたしとてをつないでくれるんじゃなかったの?

 

…ねえ、シンジ?

 

「うん。そうだね。そろそろかえろうか」

 

…え?

 

「ね、アスカ。かえろうよ」

 

…え? でも…じゃあ、あたしはどうすればいいの?

 

…こんなのおかしいじゃない。

 

「ほら、アスカ。いっしょにかえろうよ」

 

…まってよ…まってよシンジ!

 

…あたしは…あたしはどうすればいいのよ!

 

…あんたのりょうてはふさがってるのに!

 

…あたしとつなぐてはないのに!

 

…ずっと…ずっと、そばにいるっていったのに!

 

…やくそくしたのにっ!

 

…シンジ。

 

…まってよ…まってよシンジ…!

 

…シンジっ!

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

柔らかな風が大樹の枝葉を揺らし、葉と葉のこすれあう落ち着いた音が徐々に覚醒する意識の中で

自然と澄まされた耳に響く。

自らの頬も撫でつけるその涼しげな風は、汗ばんだ肌にとても心地よく感じられた。

 

庭園の中央部にある大樹の、丁度根元に置かれたベンチ。

そのベンチの背もたれに心持ち頭を預けるような姿勢で、少女はそこに居た。

むせかえるような緑の匂いと、雨の少ないこの時期でも心地よい程度の潤いを感じることの出来る

そこは少女のお気に入りの場所だった。

 

その風に誘われてという訳ではないのかもしれないが、少女はその覚醒を示すかのように、ゆっくり

と瞼を開く。

 

天をも覆い隠さんばかりに繁った深緑。

その僅かな隙間から差す幾重もの光の帯。

 

眼前に広がる、その穏やかな光景は、ささくれだった少女の心を幾分か慰めてくれる。

 

その白金に彩られた深緑の天井に視線を留めたまま、暫く身じろぎもしなかった少女だが、やがて

しっとりと肌を濡らす汗を拭うように額に掌を置くと、哀しげに眉根を寄せて、重い想いに満ちた

胸中を少しでも軽くするかのように、深く深く息をつく。

 

「…やだな」

 

 

サーッ…

 

再び吹きつけた風が、ゆっくりと庭園を吹き抜ける。

少女の哀しげな呟きをのみこんで。

 

 

(第十一話に続く)

 

 


 

あとがき

 

あう…そろそろお忘れの方もいらっしゃるかとは思いますが、

10話公開させていただきました。

激・おひさしぶりの主命です…(T-T)

 

相変わらずのへっぽこぶりかとは思いますが、へっぽこはへっぽこなりに

頑張っていきたいと思います(更新ペースのことも含めて(T-T))

 

なにかあればどんなことでも構わないのでメール頂きたく思います。

 

それでは、今回はこの辺で。

 

 

追伸

 

8話の後書きでお知らせさせていただいたお馬鹿企画の第二弾(今度は連載(笑))を

こちらCREATORS GUILD でもお馴染みのコースケさんのHP ALCHEMY

に投稿させていただいてます。

渾身の力でもって(笑)書かせていただいた合作なので、お時間がある方は是非是非ご覧に

なってください。

 

 



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