【 TIP OFF 】

 

第二話『再会』

 

 

 

 

『……これを受けて、日本時間の昨夜遅く世界政府準備委員会議長の碇ゲンドウ氏は、

国連事務総長 結城マモル氏、合衆国大統領 ヘンリー・アトキンス氏と相次いで会談をもち、

現在国連安保理最大の焦点となっている……』

画面は、碇ゲンドウが2人の男とそれぞれ会談する様子を映すと、次の話題に移る。

「司令、がんばってるんだ…」

お弁当の用意を終えた惣流・アスカ・ラングレーは、葛城ミサトが朝早くから出かけていった

ため、いつもより幾分余裕のある朝食を摂っていた。

ゼーレ崩壊によって混乱しかけた世界のパワーバランスを安定させるべく、豊富な政治的

コネクションを用い、様々な策を講じ組織した委員会の拠点を、衰えたとはいえども未だ

世界の中心たり続けるアメリカ合衆国に置いた碇ゲンドウが、3人の家族を連れ合衆国に

移ってから2年余りが経過した。

別れのときのあの少年の表情は、未だに記憶の靄が掛かけられるのを拒絶している。

別れのときの涙の味も胸と喉にかかった鈍い痛みも、決して色褪せることはなかった。

「そっか…、まだ2年しかたってないんだっけ…」

画面に視線を留めたままの彼女の表情を、艶やかな亜麻色のカーテンが覆い隠した。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

タイヤが盛大に悲鳴をあげる。

「でも、シンちゃんってばホントに逞しくなったわねえ…」

ハンドルを豪快に切りながら、ミサトは先刻再会した感激の余り思わずシンジに抱き付いて

しまった時のことを思い出して、助手席にすわっているシンジに声をかけた。

「ええ、なんか1年半位前から急に伸びだして…」

「いま、身長いくつ?」

「186cmです、今は」

「その言い方だと、まだ伸びてるんだ?」

「ハイ、少しづつですけど」

「へー」

来た… そう思うとシンジは心理的に身構える。

ミサトの微笑みがセクハラ親父のいやらしいニヤケ顔へと変わったことに気付いたのだ。

「それにカッコよくなっちゃってー、モテモテだったんじゃないのぉ、あっちで?」

「そんなことありませんよ、むこうじゃこれくらいの背は普通ですし」

「でも、『行かないで! シンちゃん!』とか言ってくれた彼女の一人や二人いたんでしょ?」

「…ハハ、まさか。そんな人居ませんでしたよ」

「…ウ〜ン? 今の間、あやしいわねえ? 正直に言ってみなさい? オネーサンに」

ここで取り乱して感情的になってはミサトの思うつぼだということを、イヤという程理解している

シンジは顔が紅潮してしまっていないかを気にしながらも、努めて冷静に振る舞う。

「ホントにそんな人居ませんでしたよ。あっちじゃいつも妹が側に居たから、みんなに

シスコンとか言われてたし、仲良かった友達がみんなもてたからあんまり目立たなかったん

ですよ。僕は」

「え〜? ホントに〜? 」

「…変わってませんね、ミサトさんは」

期待に反してからかい甲斐がない上、ツッコミまで入れてくるシンジのつれない態度に

ミサトはむくれる。

「…まあね。この歳になるとそうそう変われるもんじゃないわ」

「怒らないでくださいよ… ところで、アスカこの2年元気にしてましたか? 何か大きな

病気とかしませんでした? それに…」

「スト〜ップ! それは、シンちゃんが直接アスカに訊くべきよ。あの子だってそうして

欲しいとおもうけど?」

「…そうですね」

「ええ!」

「わかりました。そうします」

「フフ…ところで、どう? 2年ぶりの第三新東京市は?」

「そうですね… 随分賑やかになったように感じました」

「そうね、丁度シンちゃん達があっちにいってから一気に再開発が本格化してね」

「人も増えたみたいですね?」

「ええ、いろんな制約が解除されたから。便利な割に地価も安かったみたいだし」

「変わったんですね… ここも」

「…ええ。でも、良いことだわ。前進しているということだもの。平和の中で。…シンジくん、

アナタも変わったわ… 上手く言えないけど…私はそれが嬉しい。…幸せなのね? シンジくんは」

「はい… 」

そう応えて、はにかんだように微笑む。

ミサトもそれに、一つ微笑みを返す。

「よ〜し! じゃあ、急ぐわよ! しっかりつかまってなさい!!」

そう雄叫びを上げると、一般公道であるにもかかわらず、ミサトはギアをトップに入れたまま

アクセルをべた踏みする。

シンジの目に入ってきた信号は、心持ち赤みがかっていたように思えたが、急加速したルノーは

それを当然のように、あっさり無視した。

「ハア… ホント変わってませんね、ミサトさんは…」

シンジはあからさまなあきらめ顔で、一応つっこみをいれておいた。

それもまた、しごくあっさり無視されたが。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

県立第三新東京第壱高校バスケット部の部員数は、比較的少ない。

壱校が強豪として名を馳せていることを考えると意外に思えるかもしれないが、公立

である上、県内有数の進学校である壱校生徒の部活に対する意識は高くない。

それでもそのネームバリューから、我こそはという新入部員が毎年20人程度やって来る

のだが、壱校を強豪たらしめてるその練習のハードさによって、半年経って3分の1残って

いれば良い方である。

特に現在の2年生は酷く、入学当初21人いたものが、現在では鈴原トウジと相田ケンスケを

残すのみである。

 

空は底抜けに青く、降りそそぐ陽光はつよいが、あくまで清澄としている。

南の空いっぱいに広がる入道雲が、心地よい清涼感を誘う。

朝練をたったいま終え、1年生達がモップがけやボール集めなどの後片付けをしているのを

尻目に、トウジとケンスケは体育館脇の日陰で火照った体を冷ましていた。

心地よい冷たさを伝えてくるコンクリートに寝そべったトウジが、体育館の壁に寄りかかって

座りスポーツ用のゴーグルを外し、タオルで汗をぬぐってるケンスケに首だけを向ける。

「昨日見に来てたんか? フユミさん」

「ん? ああ…」

「わかってたんか?」

「いや、昨日の夜電話で言ってた」

「それやったら、打ち上げにも来てくれはったら良かったのにのお…」

「冗談。そんなことになったら、桜先輩に後で何されるかわかったもんじゃないよ」

「ええやないか。あないな奇麗なオンナノヒトと付き合うてるんや、それ位されんとバチ

あたるで、ホンマ」

「何いってるんだよ。それならトウジだって委員長みたいな素敵なオンナノコがいつも

一緒にいてくれるんだ、幸せなことこの上ないじゃないか」

「それはそうやねんけど… 」

「いつも一緒にいられるって言うのは、俺やフユミさんからすれば羨ましいことこのうえないよ」

「そうやな…」

「そうさ」

「あ、鈴原君に相田君。こんなところに居たんだ。探したよ」

急に野太い声が割り込んでくる。

驚いて2人同時に振向いてみると、開け放たれた体育館の側面扉から、結城ハジメが1度

顔だけ出して声をかけてからから、改めて近づいてきた。

バスケ部監督を務める彼は、32歳の美術担当の教師である。

その柔らかな物腰とえらくごつい顔はのギャップは、初対面の人間に少なからぬ困惑を与えるが、

慣れてしまえば割と面白味のある男と知れる。

「探してたて、なんぞようですか? 結城センセ」

怪訝そうな顔をしてトウジが訊く。

「うん。鈴原君と相田君、僕のクラスでしょ? それで、ちょっと頼みがあるんだけど

聞いてもらえるかな?」

チラッとトウジと顔を見合わせてから、ケンスケが先を促す。

「それで、なんですか? 頼みって?」

「うん。実はね。今日うちのクラスに転校生が来るんだ」

「この時期にですか? なんか中途半端っすね」

「うん、まあそうなんだけどね。それで、その転校生アメリカから来るんだけど、どうも

向こうでバスケットやってたみたいなんだよ」

「ほー。本場仕込みってやつやな」

「うん。そういうことになるね。そこで、その彼にうちの部に入る気はないか訊いて

貰いたいんだけど… 」

「それぐらいかまいませんけど…」

「そうか、じゃあ、お願いするよ。ホントなら僕が言ってもいいんだけど、教師から言われるのと

級友から言われるのじゃあ彼の気持ちも違ってくるからね…」

「わかりました、わしらの方から誘っときます」

「うん。わっかてると思うけどこれは誘いであって、強制じゃないからね。あくまでも彼の

意志を尊重するようにね? それじゃあ、頼んだから。朝のHR遅れないようにね」

そういってごつい顔に男くさい笑顔を浮かべると、結城ハジメは二人から離れていった。

「転校生だってさ」

「そやな」

「どんな奴かな?」

「さあなあ… 」

「…そういえば、3年前シンジが転校してきたのもこれくらいの時期だったな」

「…そうやなあ。今ごろ何しとるかのう…アメリカで。手紙ばっかりにせんと顔見たいのお…」

「…? アメリカ? いや、まさかね…」

「それはないやろ。バスケやってるなんて聞いてへんし」

「だよな、惣流も何も言ってないことだし… さ、そろそろシャワー室も空いただろ。ぼちぼち

行こうぜ」

「そやな…」

そういって一斉に立ち上がると、汗でべとついた体をシャワーでさっぱりすべく、二人は

再び体育館に入っていった。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

「おはよ、アスカ」

例によって下駄箱に詰まっていたのであろう十数通のラブレターを、相変わらず封も切らず

忌々しそうにごみ箱に捨てているアスカに、ヒカリが声をかける。

「あ、おはよう。ヒカリ」

振り返ったアスカは、不機嫌そうな顔ながら挨拶を返し、連れ立って教室方面に歩き出し

つつ、いつものように愚痴りはじめる。

「ったく! いい加減直接渡す勇気もない奴等の手紙なんて読む気はないってことに気付かない

のかしら!? だいたい、いくらあたしのとは言え、下駄箱に入れるなんてどういう神経

してんの!? 信じらんない!」

ヒカリは、いつものことにひとつ苦笑してから、まあまあ、と軽くいなして話題を転じる。

「ところで、今日は随分早いのね? アスカ?」

「まあね。なんかミサトが、朝イチの用事があるとかで余裕があったから」

「ふーん。何の用事かしらね?」

「さあ? 大方また何かやらかしてリツコにでも呼び出しでもくらったんじゃないの?」

「フフフ…」

 

 

学校の朝独特のそわそわとした空気が、今日も教室を包んでいる。

目のあった何人かに挨拶を送りながら二人は、窓際後方部の自分達の席についた。

「まだ、鈴原達来てないみたいね?」

アスカが、右斜め前の席に視線をむける。

「バスケ部は朝練があるから…」

「昨日、試合あったのに?」

「来週のはじめに決勝があるから」

「ふーん。大変ねえ」

「そうね… だから、お弁当の量いつもより多くしてきたの。ホントは何かお手伝い

したいんだけど、私にできることってこれくらいしかないから…」

爽やかな笑顔で、アスカに応えるヒカリ。

「そら、ありがたいのお」

机を小脇に、何時の間にやら近づいていたトウジがヒカリに笑いかける。

「す、鈴原…」

「イインチョにはホンマ、いつも迷惑かけるのお」

「そんな、迷惑だなんて…」

「ホンマ、いつもすまん」

「いいの、気にしないで。私が好きでやってるんだから… 他人行儀に謝ったりしないで?」

「そうか… じゃあ、ありがとう、やな?」

「うん!」

「イインチョ…」

「鈴原…」

いくら親友とはいえ、朝っぱらからクスリ抜きでどっぷりとトリップできるヒカリに

チョット引きながら、視線を転じるアスカ。

「なによ、それ?」

ケンスケがアスカの隣の空いたスペースに作った席に、アスカは怪訝な視線を送る。

「転入生が来るんだよ」

「へー。男? それとも女?」

「男。帰国子女らしい」

「結城先生に頼まれたの?」

「ああ。朝練のときにね」

「ふーん。ま、何にしろこの転入生はついてるわね」

「なんで?」

「あったりまえでしょ。このあたしの隣をいきなりゲットできたんだから」

「…そいつもはじめはそう思うかもな」

「どういう意味よ?」

「いや、べつに」

「ハン、言ってなさい」

鈴原トウジと洞木ヒカリが社会復帰を果たしたのはしたのは、担任である結城ハジメが

朝のSHRを開きに教室を訪れてからだった。

 

 

「今日は皆さんに転入生を紹介したいと思います」

教壇に立って、そのごつい顔からは想像出来ないほど穏やかな口調で、一通り連絡事項を

伝え終えた結城が生徒達に笑いかける。

その言葉に、オ〜、とお約束的に教室がどよめく。

次いで教室は静まり返り、結城が視線を送る教室のドアに皆注目する。

その視線をゆっくりと生徒達に戻し。

やがて、結城教師が口を開く。

「だけど、まだ来てないんだ…」

いかにも残念そうな顔で。

「……」

「……」

教室を妖精がよこぎる。

「なんでやねんっ!」

いち早く自分の役目を思い出したトウジがゼスチャーつきで鋭く突っ込む。

「いや、この時間にはついてるはずなんだけど…」

笑い出した生徒達を不思議そうに見渡しながら結城が首を捻る。

「変だなあ… まあ、来ないものは仕方がありません。1限の美術は美術室で石膏デッサン

を行います。皆さん遅れないように。それでは、朝のSHRを終えます」

 

 

 

 

§

 

 

 

 

シンジの体に普通では考えられないGがかかる。

「…この運転じゃ、もう一回切符切られますよ?」

「うっさいわね。今度は振りっきてやるわ」

「もういいじゃないですか? そんなにむきにならなくても」

「シンちゃんを初日から遅刻させる訳にはいかないでしょ!?」

「ミサトさん…」

目を丸くして運転席の方をむくシンジに、視線だけで笑って応えるミサト。

「…もうその時間ならとっくに過ぎてますけど… 気付いてなかったんですか?」

「…は?」

車は盛大にドリフトしながら、今最終コーナーを回った。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

「どうも、こういうのって苦手なのよねえ…」

む〜、と唸って、アスカは美術室の真ん中に据えられた石膏像を睨む。

「こういうのって、得意な人が上手に描いてこそ心が豊かになるモンだと思わない? ヒカリ」

「でも、アスカ自分で選択したんじゃない。美術」

「だって、音楽はやたらとテストがあるし、書道はあたし漢字書くの苦手だし。消去法

ってやつよ」

「それでも、アスカが選んだことには変わりないでしょ? だからそんな事言わないの」

「そやそや、イインチョの言う通りやで惣流。何事も自分でやると決めたからには、

最後までやり遂げなアカン」

「そうそう。たまにはいいこと言うね、トウジも」

「クッ… あ、アンタ達に言われる筋合いは……アレ?」

立ち上がって二人に食って掛かろうとしたアスカが、自分の体をペタペタ叩き出す。

「? どうしたの、アスカ?」

「うーん。お財布教室に忘れちゃったみたい… ちょっと取ってくるわ!」

そう言って担当の結城の許可も得ないでさっさと出ていってしまったアスカに、ヒカリは

軽く溜息をつくと、結城を探すべくあたりを見回そうとする。

「惣流君はどうしたんです?」

生徒達の作品を眺めながら美術室を廻っていた結城が、丁度近くまできていたらしく

声をかけてきた。

「あ、何かお財布を教室に忘れてきたらしくって…」

振り返って、バツが悪そうにヒカリが応える。

「そうですか」

「ところでセンセ、転入生なかなか来はりませんな」

結城がこれ以上ヒカリの非を鳴らすとは思えないが、念のため助け船を出すトウジ。

「そうだね。保護者の方が朝には間に合う、っておっしゃってたんだけどね…」

思い出して首を捻る結城に、今度はケンスケが訊く。

「なんで保護者なんすか?」

「なんでも、日本に到着したのが昨夜遅くで、昨日は空港のターミナルホテルに泊った

んだそうだよ、だから今日は保護者の方の車に乗ってホテルの方から直接来るらしいん

だ」。

「そういえば、名前は何て言うんですか? その転入生の人」

何気なく疑問を口にするヒカリ。

「ああ、碇君だよ。碇シンジ君。なんでも2年前まではここに住んでたとか…」

「「「…は?」」」

虚を衝かれた3人が、開いた口の形も同じにハモる。

『結城先生お客様がいらっしゃっています。至急職員室の方までお戻りください』

結城が流れる校内放送に、うん、と一つ頷く。

「噂をすれば影だね。件の方達でしょう。みなさん、私はちょっと行ってきますけど

皆さんはそのまま続けていてください」

美術室を見回してそう言うと、固まったままの3人に気付くことなく、そのまま出ていっ

てしまう。

「…同姓同名の別人ってことは?」

なんとか硬直から抜け出したヒカリがかろうじて口を開いた。

「…それはないだろうね。これだけ要素が符合してるとなると」

「…そやな、碇なんて名字滅多にいない上、名前はシンジやからな」

「そう…ね、やっぱり彼なのね…」

 

 

財布を取って美術室に戻ろうとしていたアスカは、何かにからだがすっぽりと覆われたのを

感じていた。

すぐに、後ろから誰かに抱き締められたんだと気付いた。

けれど、彼女には大声を出して抵抗しようなどという気が全く起き無かった。

なぜなら、それは彼女にとって苦痛ではなく。

むしろ。

それは、初めからそのためにあるように、彼女のからだの凹凸に余すところなくなじみ。

感じる体温は、無条件で彼女を落ち着かせるもので。

彼女を包む匂いは、どこまでも柔らかく、優しく、そして何よりも懐かしく。

それでいて、彼女の背にかかる重みの質感はあくまでもリアルで、それが夢でないことを

彼女に実感させるに十分で。

からだをすっぽりと覆われてしまうほど、そのサイズが大きくなっていることを除けば、

ほかは全て彼女の記憶のままで。

それは、確信であって。

言葉には出来ないほど膨大な感情が膨らんで、彼女の瞳から零れ落ちる。

聞いて欲しいこと、

聞きたいこと、

したいこと、

して欲しいこと。

たくさんあったけれど、まず初めには、言おうと彼女はずっと前から決めていた。

だから、彼女は彼女のお腹の前で組まれた手に自分の手を添えて。

彼女のあたまに頬を寄せる『彼』の方に顔だけで振向く。

そのひょうしに、また大粒の涙が瞳から零れたけれど気にせずに。

微笑んで。

唇を震わせる。

「おかえりなさい…シンジ」

「!! …ただいま。アスカ」

それ以上は、彼女も声にすることは出来ず。

唇をかんで必死に鳴咽をこらえる。

そんな彼女を見て、彼はからだを入れ替え、今度は胸の中に彼女を閉じ込め。

彼女の涙をたたえた目元に口付けし。

耳元で囁く。

「泣いてよ…アスカ。 僕しかきいてないから。…僕が、きくから…」

彼女は彼を見上げ、微笑もうとしたけれど失敗して。

顔を歪ませて。

ちからのかぎり泣いた。

2年分。

彼の居なかった2年分。

彼は、彼女が泣き止むまで、黙って、彼女の豊かで艶やかな髪に手を差し込み、漉くように

優しく撫で続けた。

 

 

先程までざわめいていた美術室を静寂が支配している。

勿論先程から困った顔をして出入り口に佇む見慣れない、しっかりとした体つきで長身の

整った顔立ちをした、生徒が例の転入生であろうということもあるのだろうが。

何よりもその手を、アスカが、あの男嫌いのアスカが、顔を真っ赤に染めながらもしっかりと

握っていることに驚愕しての静寂だった。

「ねえ…アスカ? ほら、みんなこっち見てるし… いいだろ? もう」

アスカの耳に口を寄せてシンジが困ったように囁く。

「イヤ。今日はずっとこうしてるの。ナンか文句ある?」

…耳まで赤くしながらすごんだって迫力ないよ。

あきらめたように深く溜息をつくと、シンジはそのまま口を開いた。

「はじめまして。碇シンジといいます。2年前までこの街にいましたが、事情があって

アメリカの方に行ってました。これからよろしくお願いします」

 

(第三話に続く)


 

あとがき

 

なんか、いまいちラブラブ度が足りないような…

 

次回は、綾波さんがかろうじて登場するかもしれません(あくまで予定)

 

相変わらずへっぽこですが、あったら感想ください。

苦情、お叱り、誤りの指摘、その他読んだ後感じたことなら何でもかまいません。

よろしくお願いします。

 

それでは… 今回はこの辺で。



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