辺り一帯を静寂が支配する深夜の砂漠。その大地に月が柔らかな光を惜しみなく降り注いでいる・・・。

 この光の下、作戦行動中の一個小隊に彼は居た。

 

 「・・・あの子と出会ったのも、こんな月の夜だったな・・・」 

 

 光の優しさに、懐かしさとも寂しさとも思える呟きが漏れる。

 

 『・・・な〜に、黄昏てんのよ?』

 

 VR(バーチャロイド)のモニターで静静と輝く月を見上げていた彼は、ポップアップウィンドウに映る彼の

 良きパートナー紅茶色の髪の少女に、微笑みと言葉を返す。

 

 「大したことじゃないよ、ちょっと昔の事を思い出しただけ。」

 『む・・・気になるわねぇ、話しなさいよ。』

 

 「別に、関係ないだろ?」

 『い・い・か・ら!ツベコベ言わずに喋りなさいよ!』

 「いや、でも・・・」

 興味津々の彼女にどう対処しようかと半ば閉口しかけたとき、

 

 『ほら、さっさと『ちょっとぉ!作戦行動中なのよ、2人とも幾ら退屈でも、いちゃつくなら帰ってからになさい!』

 救いの手(?)は彼らにとって姉的存在の女性から差し出された。

 

 『な、何よ! い、いちゃついてなんか!』

 『あっら〜?そぉかしらぁ? お姉さんには、そぉは見えなかったわぁ〜。』

 『お姉さん?オバサンの間違いでしょ!』

 『ぬわぁんですってぇ〜!!』

 話の争点が逸れたようで、2人は姦しい言い合いを始める。

 助かったとばかりに少年はホッと息を吐いた。

 

 『くくく、大変やなぁ、センセ』

 『ま、お気の毒、だね。代わりたいとは思わないけど。』

 無責任な戦友達に無言で応え、再び天を仰ぎ見る。

 天に浮かぶ月はただ静かに下界を照らし続けていた。

 

 

 『・・・あなた達、そんなに私の実験につき合うのが退屈なのかしら?』

 白衣を纏う金髪の女性が放つ一言に部隊は水を打ったように静まり返る。

 

 

 視線を月に預けたまま彼は苦笑し、そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

西暦2014年

 

 

 

 空は紅き幕を仕舞い、既に舞台は漆黒の闇の中。  

 観客は足下で囁く虫達のみ、少年は一人山中を必死に駆けていた。

 

 「はぁ、はぁっ、はぁ・・・っ」

 

 




 

 どれだけ走ったろうか?この先どうすれば良いんだろう?逃げ遅れたみんなは?

 

 幾つか想いが去来する中、木の根に足を取られ、彼は転倒した。

 息が上がり疲労で暫く立ち上がれそうにもない・・・。震える腕で体を起こし、側の木に体を預ける。

 

 「は、ははは・・・・・嘘だよね、これは夢なんだよね・・・」

 

 

 汗だくとなった少年が走ってきた方向には、彼の育った街があった。

 その街は今、炎を上げて消え去ろうとしている・・・。

 誰に問うでもなく呟いた一言は、これが現実であることを痛感させるだけだった。

 

 


 電脳戦記バーチャロン

〜福音の名を背負いしモノ達〜


 

 

 その日、街は何処の所属か解らない複数の[多目的火力装備満載機体 グリス-ボック]らしきマシンによって、

 攻撃を受けた。多分、奴らの目的は建設中のVRプラントだったのだろう・・・。

 この攻撃で、今まで大した産業の無かった小さな街は一瞬にして火の海となった。

 炎の中を逃げまどう人々。何人も逃すまいと無差別に攻撃する鋼のロボット達の影。

 

 命辛々逃げ出した彼は、裏山を越え、さらに奥の山を越えた処まで来たのだった。

 

 「・・・これから、どぅしよう・・・」

 

 実際これから行く当てがない。街には幼い頃、伯父夫婦に預けられ一緒に住んでいたのだが、

 両親の居場所について二人とも幾ら聞いても教えてはくれることは無かった。

 そのお陰で、「僕は捨てられたんだ、必要のない子なんだ。」 この想いが常に頭の片隅から

 離れ無いモノとなった。

 




 

 「進む、しかないよね・・・」

 ひとしきり泣いた後、月の灯りだけが頼りの闇の中を彼は再び立ち上がり、おぼつかない足取りで

 前へ前へと進み始めた。

 

 あれからどの位歩いただろう、もう歩くのも嫌になってきた頃、彼の進路に

 草に囲まれ沈黙を保っているVR機の存在が見えた。

 原型を留めていないその機体はおそらく、放置されたんだろう・・・。

 敢えて気にせず、横を通り過ぎようとする。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 「!?」

 空耳だろうか、何か聞こえた様な気がした。当たり前だが、周りには何の存在もない。  

 疲れてるせいかな、そう自分に言い聞かせ、また歩みだそうとする、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 やはり、何か聞こえる・・・、そんなはず無いのに?ふと呼ばれた気がして、VR機を見上げた。

 と、ほのかにコックピットの辺りが青白く発光している。

 

 

 「・・・・・・僕を呼んでいるの?」

 応えるはずもないのに、無意識に声に出していた。 しかし、光が応えるかのように強く瞬く・・・。

 

『早く来て・・・』

 

 そう言っているかの様なその光に導かれ足がゆっくりと進み始める。気がつくと、いつの間にか

 コックピットまで上がってきていた。

 

 「此処まで来たら乗るしかないな、、、」

 ため息をついてから、蜘蛛の巣だらけであろう狭いコックピットに彼は滑り込んだ。

 

 

 

 「・・・?、真っ暗だ。」

 

 光を有していたはずのコックピットの中は、真っ暗で自分の手足すら見えなかった。

 

 

・・・此処に来たのは、初めて? 

 

 「!?、誰?」

 

 不意に耳元で女の子の声がした。いや、もっと近く、頭に直接響いてくる!?

 必死に周囲を見回すが誰もいない・・・。

 

 「この狭い空間に人が、しかも女の子がいるはず無いじゃないか!どうかしてるよ!」

 

 混乱し始めた頭を整理しようと心を落ち着けようと努力する。

 そんな少年の心境を無視するかのように彼女は告げる・・・。

 

・・・心を開かなければ何も見えないわ。

 

 「な、何なんだよ、一体!何の話なんだよ!?それに何処にいるのさ!」

 

 半ば悲鳴で、見えない相手に質問を浴びせかける。

 端から見たら気が狂ったように見えるんだろうな、いや、気が狂ったのかも・・・

 変なところだけ冷静に受け止める自分が、正直恨めしかった。

 

 

 見えない彼女は、暫く沈黙していた様だが、、、

 

・・そう。声は聞こえるのね・・・、じゃぁ、目を閉じてみて・・・

 

 少し迷ったが、他にどうしようも無い、おとなしく従って目を閉じてみることにした。

 

 

 「!! き、君は?」

 

 何も見えるはずのない世界、目前に蒼髪の紅き眼の少女がぼんやりと浮かんでいた。

 

 

私?・・・私の名は、、、、レイ、アナタは?

 

 「ぼ、僕は、碇シンジ・・・。」

 

 


Episode.0 First Impact


 

 

 目の前に非現実的な美少女がいる。しかも目を閉じているのに! そんな馬鹿な!?

 軽い混乱状態に入ったシンジを気にする様でもなく"レイ"と名乗った少女は呟くように話を続ける。

 

 碇...シンジ?知らない名前....どの軍のパイロットリストにも見あたらない・・・。 

でも、私の声、姿が解る・・・・・・・アナタ、VRに乗ったことがあるの?

 

 「・・・軍?パイロット?VRに乗ったこと?ちょっと待ってよ、僕は只の民間人だよ。VRの事だってつい最近知ったのに乗ったことあるわけ無いじゃないか!」

 つい先ほどVRによって街を襲われたばかりのシンジにとって、いい気分のしない質問につい、声を荒らげてしまう。

 

 ・・・ゴメンナサイ。

 

 「い、いや。謝って貰うことはないんだけ、ど・・・それより君、レイだっけ? ここは何なの?それに君は何者?」

 

 ここは、サイバースペースと呼ばれる空間。全てのデーターがリンクする場所。

 そして、始まりも終わりもない永遠が続く場所・・・。

 

 「サイバースペース?データーがリンク??」 

 全くコンピューターの知識がないシンジにとって首を傾げる言葉ばかり。

 

・・・解らなくてもいいわ。何れ知ることだから。

 

 「そ、そう?」

 

 私はこの空間を自由に移動し、見守る為に創られた、そう言うモノ、、、

私を識別する名前、それがレイ

 

 何の感情も映すことのないであろう、その醒めた瞳の奥に一瞬、翳りが映り込む。

 シンジはその悲しげな雰囲気に、声を発することが出来なかった。

 

・・・アナタ、何故、此処に来たの?

 

 レイは、瞬きを一つし、刻を止めているシンジにそう問いかけた。

 

 「へ!?、、あぁ、実は・・・」

 

 シンジは此処に来た経緯を話す間、先ほどの悲しげな雰囲気を気にしていたが、

 当の彼女は無機質な表情で静かに聞き入っており、目の錯覚であったか、そうシンジは

 思うより他無かった。

 

 

 感情の高ぶりに、言葉がつかえ、途切れながらも何とか話し終えたシンジに

 レイは目を細め呟いた。

 

そう、、、。つらかったのね、、、

 

 「うん、だからこの先どうすればいいのか・・・でも、僕が居るべき場所なんか元々無いのかな、、、」

 

・・・そう。アナタはそれを望むのね、、、

 

 しょぼくれかえるシンジの言葉に、彼女は何を見出したのだろう。

 レイは静かに手をかざし、シンジの体を淡い光に包んでゆく・・・。

 

 「な、何!?」

・・・安心して。アナタを転送するだけ、、、 

 

 そう言われる間にも、彼の体は現実から切り離され、0と1とで示されるデーターへと

 変換され、ゆっくりと彼方へ転送されていく・・・。

 

 「うわぁああああ・・・頭が痛い!」

 データー化したことにより垣根の無くなった世界から、莫大な情報が無条件に頭に流入してくる。

 

月面                 機械だらけの部屋
       八面体

南極

爆発
                 泣いている自分

VR         父親

戦場           

 

 幾つかのイメージがフラッシュバックする中、ふとシンジは思う・・・何故、 "レイ" 彼女に対し

 自分はさほど違和感無くすぐに慣れてしまったのだろうか、と・・・。しかし、その答えが出ることを

 待つことなくシンジの脳は処理に対応しきれず意識を失った。

 

 ・・・この機体、アナタにあげる。いつか取りに来て、、、

 

 そう、彼女のこの囁きを聞き取ることなく、、、。

 

 

 

・・・次にシンジが目覚めるのは3ヶ月後の事となる・・・


−Next−
Episode.1 求めるもの 求められるもの
#1


 

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−

後書きっ!

 

くぅ・・・中身が薄い。始めて書くけどこんなので良いのだろうか(汗)

何か満足に表現できてないし・・・。

しかもバーチャロン・・・やはり説明書きするべきなのかなぁ。

一話のイメージは”静夜”なんですが、文章から伝わったのかも甚だ疑問・・・。

でも、頑張って続き書き続けるつもりなので見捨てないでくだい☆ミ

00/03/02(木)




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