Trrrrr… Trrrrr…

 

「はい。……‥はい、……‥えぇ、その様に処理頼みます。」

端末を取った部屋の主は必要最小限だけ喋り回線を切った。

 

「碇、何かあったのか?」

 

隣にいた冬月は聞き取れた内容から深刻さを感じとる。

 

「・・・光井のプラントが、街ごと壊滅したそうだ。」

「何!ゼーレのしわざか!?」

 

「わからん。が、余計な新参者が舞台から降りた。」

「お前にとって所詮シナリオの範疇と言う訳か・・・。」

 

 


 電脳戦記バーチャロン

〜福音の名を背負いしモノ達〜


 

 

 

『…番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。本日……』

 

ゴールデンタイムの華やかな番組が一転。無機質に事故を告げる特別報道へと変わり、記者が淡々と情報を繰り返し読み上げる。

 

『…‥今のところ生存者の発見の報告は有りません。尚、この爆発は、光井重工が新規に建設中の工場が原因と思われます…。

番組を一部変更してお伝えしました。』

 

「…エライこっちゃのぉ。」

 

すでに番組は元のバラエティーに戻り、タレントの笑い声がスピーカーから流れ出ている。

画面を見つめたまま、箸を宙に停めていた彼の背中に怒鳴り声が掛かった。

「大変なんは分かるけど、早よご飯食べてしもぉてぇな、お兄ぃ!片付けるんはウチやねんで!!」

 

「…五月蠅いのぉ。お前には思いやりの心は無いんか?……

…わ、判った!喰うから!それは勘弁してくれ。」

 

洗いかけのフライパンを高々と振り上げる妹に、トウジは慌ただしく食事を再開した。

 

 

 

 

同刻、同僚の机に腰を下ろし、テレビを見ていた葛城ミサトは無言でモニターの電源を落とした。

部屋の主の発するキーボードの音だけが忙しなく響く。

 

「・・・情報統制、か。事実は全て闇の中、、知らない方が幸せなのかしらね?」

 

 

マグカップの水面に映り込んだ自分の顔を睨み付けたまま呟く、その両手に僅かに力がこもり陶器の中の世界が歪む。

 

「仕方ないわね。真実が世間に露見すれば、此処とて只では済まないのよ。」

リツコは溜息混じりにそう答え、手元の冷めきったコーヒーを入れ直しに立ち上がった。

 

 

「わかってる!でも、私達のやろうとしてる事だって…」

 

迷いが見えるミサトの一言に、コーヒーを注ぐ手を停めリツコは冷酷に言葉を紡ぐ。

 

「割り切って考えるしかないのよ、葛城一尉。どう考えようと結果は出さなければならない…、

その為のネルフ、その為のVR、違うかしら?」

 

 

「・・・ゴメン、そうよね。迷ってる暇は無いわよね、人類の平和のために。・・・・・アリガト、コーヒー美味しかったわ。」

 

瞳から迷いの光を消したミサトはリツコにカップを返し、部屋を後にする。

 

 

閉ざされた扉に向かいリツコは低い声を解き放つ・・・。

 

 

「今はこれでいいのよね?・・・母さん」

 

その言葉に答えるべき者は既にいない。

 

 

 

 

−3ヶ月後−

−西暦2015年3月−

−第三新東京市NERV司令室−

 

 

 

……先月までの報告は以上です。子細は書類を。」

「うむ、ご苦労だった。各調査は続行してくれたまえ。」

「了解しました。…では、失礼します。」

 

報告書を前に落胆の色を浮かべた冬月は、未だに手を顔の前で組み

一言も発しようともしないゲンドウの態度に更に肩を落とす。

 

「…未だに零(レイ)も、シンジ君も消息不明、か‥」

書類の一部に目を通しゲンドウに差し出した冬月は呟きをもらした。

 

「・・・レイが居たところで状況は何も変わらん。既にVRも稼働するのだからな。」

「しかしだな、碇。 動くとはいえ、VRシステムは未だにその殆どがブラックボックスだぞ?零が居れば全て解明されたのではないか?」

 

「構わん。その為の技術課だ、、、赤城の娘とて無能ではないだろう。」

つまらないことを、そう態度で表すゲンドウに冬月は食い下がる。

 

「…それはそうだが。昔とは違うのだぞ?3賢者の彼女たちが揃っていたあの頃とは・・・。」

「あぁ、解っている…。それはもういい。それより、マルドゥック機関の報告はどうなっている?」

 

「‥…少しは息子の心配をしたらどうなんだ?碇。」

「私にとってアレは10年前に死んでいる。今更死んだところで替わりはない。」

 

「……そうか。お前らしいな。」

非情とも取れるこの言葉に冬月はそれ以上続ける言葉もなく肩をすくめ、次の書類に意識を移した。

彼とてこの男と無駄に時間を過ごしたくはないだろう…。

 

 

「…順調に選定が進んでいるようだが、、、この報告では些か年齢に問題が有ると思わんか?」

冬月は書類に示された、点数・氏名・年齢・住民登録No.の羅列に顔をしかめる。

 

「今現在の成績トップ者は14歳だぞ、ずば抜けて点数は高いが…。」

 

氏名の欄には”シンジ.I”、登録No.はエラーが出ている。

まさかな、、、人違いだろう、そう思い直し冬月は敢えて口に出さなかった。

 

「…我々に手段を選んでいる暇はありませんよ冬月先生。ゼーレとの戦いは最早時間の問題でしょう‥。」

 

「・・・最早、ユイ君は我々を許してはくれんだろうな。」

天井を見上げ自分を取り巻くこの現実を嘆くより他無かった・・・。

 

 

 

不意に机の脇の端末が自分の所在を示し、内線の青いランプが短い間隔で点滅し始める。

 

 

「あぁ、私だ・・・何だ?」

オンフックのスイッチに手を掛け、ゲンドウは煩わしそうに声を出す。

 

『たった今、司令のご子息を保護したとの連絡が在りました!』

 

「……」「!」

 

 

 

「で、彼は今何処かね?」

一向に声を出さないゲンドウに成り代わり冬月が言葉を発する。

 

『ハイ、技術課の相田曹長のご自宅だそうです!』

 

「職員の処か…。では、今日はもう遅い、明日迎えを寄こすと伝えなさい。」

『解りました。失礼します!』

 

スピーカーから音が途切れると、冬月は沈黙したままのゲンドウを横目に、今施設内で一番手が空いている部署の人物を

連想し呼び出しを掛けた…1コールで相手側の応答がある。

 

『はい、作戦課の青葉です。』

「スマンが葛城君はまだ其処にいるかね?」

『あ、はい。ちょっとお待ちください・・・葛城さーん!

 

  『んぁ?何ぃ〜?もぅ終業時間なの?』

『起きてくださいよ!副司令から電話です!』

  『ふぇ!ひょ、ひょっと待ってもらっへ!』

『早くしてください』

 

『・・・申し訳ありません、副司令。少しお待ちいただけますか?』

「あぁ、構わんよ…」

漏れ聞こえる痴態にこめかみを押さえ彼女の出てくるのをじっと待つ。

 

時計の秒針が優に一周するのを見届けた後…

 

『はい、お電話代わりました、葛城です。』

「・・・今直ぐ、司令室に来たまえ!」

我慢できなくなって怒鳴りつける冬月コウゾウがそこにいた。

 

 

 


Episode.1 求めるもの 求められるもの
#1


 

 

 

季節を失って早15年、天よりその存在を力強くアピールする太陽は3月の今日も変わりない。

 

「くっそぉ〜、こないに暑いんやったら来るんや無かった!」

「ハイ、ハイ、、もうそのセリフは聞き飽きたよ。」

 

鬱蒼と茂る草むらをかき分け汗だくになりながら2人の少年が進んでいる。

 

「ケンスケぇ。お前が、直ぐや言うから付いて来たってんぞぉ…おまけに何も見えへんかったやろうが!」

「悪かったなトウジ。何せ、今日はいつもより警備が厳しかったんだよ。」

 

2人は第三新東京市からやや離れたところにある基地にVRを見に行ったのだった。

普通、規制で近づくことすら出来ない演習場への道をケンスケがこっそり見つけていたのだが、

不運にも厳しい警備がされており他のルートを探す事を余儀なくされてしまったが、

如何せん何処からも近づくことが出来なかったのである。

 

「しっかしなぁ、VRが見たいんやったら噂の試験受けて合格すりゃエェやないか?」

黒ジャージの少年は右手で顔を扇ぎながら眼鏡の、ケンスケに話しかける。

 

「あぁ、でもその前にどうしても見ておきたかったんだ、、、、今日からVRが本格導入されたんだし、

俺達が試験に合格するかどうかも分かんないだろ?」

 

「さよか。せやかて、オノレは受かる気で居るんやろ?」

「当然だろ、その為に訓練してるんだしさ。」

トウジは彼らしい強気な発言に苦笑する。

 

「付いてきて貰ったお詫びにトウジ、帰りに飯でもおごるよ。」

「スマンなぁ…ゃが、遠慮はせぇへんぞ。」

 

空腹感に耐えかねていたトウジは待ってました!とばかりに目を輝かせる、その様子に

これから起こることを思い後悔するケンスケであった・・・。

 

その後鬱蒼した草むらを抜け、山を下りた2人はそれぞれの自転車にまたがり一直線に第三新東京市へと伸びる道路を疾走する。

 

「さて何を喰うかのぉ…やっぱり、冷たくてサッパリしたモンがええな。」

トウジは後ろを走るケンスケに既に何度目かになる食べ物の話題を振る。

 

熱せられたアスファルトでゆらゆらと立ち上る蜃気楼がわずかだが大きく歪む。

やがて歪みが小さくなったときシンジがそこに立っていた。

道の先に大きな街が見える。

 

決まってから言ってくれよ。・・・え!? トウジ!前、前!!」

「あれは?、、、、、第三新東京市、か。」

湧き出るように地名が浮かぶ。

 

此方を向いていたトウジの前方に急に人が出現し、ケンスケが大声を上げる

「来たことなんか無いのに………」

 

「ん!?・・・ぬわぁ!どいてくれぇ!」

「え?うわっ!」

 

その声で咄嗟に回避行動をとったトウジだったが突然の事で完全には避けきれず2人はぶつかる形となった。

 

 

 

 

「ほんまスマンかったなぁ・・・碇?」

「シンジでいいよ。あんな処に立ってた僕も悪いんだし…。」

「でもさ、不意にシンジが現れたような気がするんだけど、、、」

 

「そんな訳無いやろケンスケ。」

 

ぶつかった縁でシンジは騒がしい2人に無理矢理意気投合させられる形で街まで行くことになり、

軽い食事でもしながら話そうとのケンスケの提案で、三人は街の繁華街にあるファーストフードへと向かう。

 

「・・・今って12月だよね?」

閑散とした商店街がシンジに違和感を感じさせていた。

彼にとって今、街中はクリスマス特有の浮かれ模様が繰り広げられている筈であった。

 

「何ゆうとんねんシンジ、今3月やで!打ち所でも悪かったんか?」

「え?…そんな筈は‥」

困惑するシンジにハンバーガーをむさぼり食っていたトウジが突っ込む。

 

そんな2人の会話に、ケンスケは鈍い光を放つ眼鏡の前で手を組み低い笑い声を零す。

「その話、詳しく聞かせて貰えないかね?碇シンジ君。」

「へ?あ、相田君?急にどうしたの…」

「スマンなシンジ。コイツ偶にこうなるんや、、、」

急に態度がおかしくなったケンスケの様子に怪訝な顔をするシンジだが、そのポーズを崩さず質問は繰り返される。

 

「ぼ、僕の記憶では今日は12月19日か20日だと…」

「それは西暦何年かね?正直に言えよ?」

「2014年だけど、、、ちょっと、トウジ止めてよ!」

 

助けを求めた先のトウジはシェイクを飲み干し、静かに首を振るお手上げポーズを取っている。

ケンスケの暴走は誰にも停められないのだろう。その後周りからの奇異の視線を浴びる中、尋問は続き

シンジが3ヶ月前爆発のあったと報じられた街の出身であること、山に逃げた処までしか記憶が全く無いことが判明した。

 

「いや〜、そうだったのかぁ、成る程なぁ。じゃ、ゲーセンでも行くかぁ」

好奇心が満たされ晴れ晴れとしたケンスケはゲッソリとしている2人を引きつれ、

なし崩し的に毎日通っているゲーセンへと向かう。繁華街のはずれにあるその場所は、

何時の時代になってもその喧騒さに変わりはなく、違いはせいぜい流行の機種のみであろう。

 

その空間で一際目を引く巨大な箱の筐体、その横でVRを模したロボットの映像がエキシビジョンモニターを処狭しと動き回っている。

 

「あれ、あれ!今あれが第三ではブームなんだ!しかも無料!」

「しかもVRの操縦と同じ設定らしいで!」

 

はしゃぐケンスケ、トウジの横でシンジはそれに群がる人混みに圧倒されていた。

 

 

 

「ほな、終わったら自販機の前でな!」

「お互い幸運を祈る!」

「え、あ…うん」

 

数分の順番待ちの後、ビシッと敬礼し筐体に乗り込むトウジ、ケンスケに続きシンジも乗り込み座席に着く。

 

−操作の説明を聞きますか?必要ない場合は計器を押してください。−

 

前方モニターに映るカウントが切れる黙って眺める。

 

−これより、操作の説明を行います、シートベルトを着用してください。−

 

「えっと、これか。」

シートベルトを留めるとそれを合図に一斉に計器に光が灯る。

 

−では、説明を音声にて行わせていただきます…−

 

機械の抑揚のない声に従い計器の役割を覚えていく…。

 

−パイロットの登録を正確に入力してください。−

 

脇のキーボードが緑の光を放ちモニターに必要事項の入力を促すメッセージが現れる。

 

「えっと……‥あれ?住民番号なんてしらないや、適当でいいかな?」

シンジは適当なナンバーを打ち込み次の指示を待つ。機械は沈黙していたが暫くして次へと進む。

 

−では、レベル最低から開始します。機種を選択してお楽しみください。−

 

十種類ほどのVRが表示されシンジは少し迷ったが、最初と言うことで基本のテムジン[高汎用性標準機体]

使うことにした。メインウエポンは手に下げているロングランチャーである。

 

 

−GET READY!−

 

どうやらCPUとの一対一の勝負で同じタイプのテムジンが最初の敵であるようだった。

敵は開始早々シンジの機体に向かいミサイルを連射し、高速で体当たりを挑んでくる。

 

「え!?」

 

相手の突然の動きに慌ててシンジは左へ回避行動をとり、すれ違い様に咄嗟にライフルで動力部を凪払う

と、敵のテムジンはそのまま沈黙した・・・。

 

「こんなに簡単で良いのかなぁ?」

 

余りに弱い敵に疑問を覚えつつ次へと進むが、どのレベルの敵も同様に撃破してしまい、そのままスタッフロールが流れ出す。

これの何処が面白いのかと首を傾げながらシンジは筐体を出ると、突然エキシビョンモニターに見入っていた人々から

盛大な拍手を受ける。焦ったシンジは2人の待つであろう飲み物コーナーへと逃げるように走った。

 

「どや?初めてじゃムズカシかったやろ?」

駆けてきたシンジに缶ジュースを飲んでいたトウジは笑って尋ねる。

 

「いや…そんなことは、、、」

「まぁ、時間から言って説明聞いて2体目まで進んだっちゅうトコか?」

 

「そんなレベルじゃ無いよ、トウジ!」

 

エキシビジョンを眺めに行っていたケンスケが戻って来るなり興奮した声で話す。

「瞬殺だよ、瞬殺!あっと言う間にエンディング!当然ランキング一位!凄い奴が居るなぁと思ったら、シンジだよ!」

「ほ、ホンマかぁ!?そないに巧いんかシンジは…くぅー、見とけば良かった!」

この後、夕暮れまで話し続ける2人を延々相手しなければならないシンジだった。

 

 

 

 

 

「上がりなよ、。あ、心配しなくても今日はパパ帰らないと思うからさ。」

「あ、じゃぁ、お、お邪魔します…。」

「ゆっくりしててよ。今、茶でも出すからさ。」

 

 

「あ…ゴメン。」

本当に申し訳なさそうに答えるシンジに苦笑しながらケンスケは台所へと向かう…と、

居間に今日は居ないはずの父親がくつろいでいた。

 

「ただいま・・・。」

「お帰り。友達か?」

父親は静かに息子の後ろに立つシンジに目線をやる。

「うん、碇って言うんだけど、、泊まる所無いらしいから、泊まってってもらう事にしたんだ。」

「…そうか。」

 

ケンスケの言葉にさして問題なさそうに新聞に目を戻した彼だったがふとシンジを見つめ直し、少年の運命を動かす名を口にした。

 

「・・・変なことを聞くかもしれんが、君の親戚に碇ゲンドウって人はいないかね?」

「え!父を知っているんですか?父は今何処に?」

 

「そうか…お父さんだったか。ちょっと待ちなさい。」

 

相田荘一はそう言い、どこかに電話を掛けていたが

「明日迎えが来るそうだ。今日はゆっくり休みなさい。」

そう言い残し、満足そうに自分の書斎へと引き上げる。

居間には訳が分からない顔の少年2人が突っ立ったままであった。

 

 

 

シンジの運命の歯車が周囲を巻き込みながら、

ゆっくりと確実に回り始め、その音が僅かに響き出す・・・・・・。


−Next−
Episode.1  求めるもの 求められるもの
#2


 

 

−−−−−−−−−−−−−

後書きっ!

 

なーんか、飛び飛びのお話になっちまいましたが、如何だったでしょうか?

自分自身かなり強引だとは思うんですが(汗)

あ、あと世界観とかは、バーチャロンとエヴァの美味しい所取りでどちらにも無い設定が

存在します。というか半分以上そうなると思います(^^;

次回はやっとアスカが登場予定☆ミ




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