終末の果て

 

THE END OF EVANGELION after story

 

 

 

 

  珍しく三人揃って休暇の取れたアタシたちは、遊びに行くことにした。

  もっとも・・・いくら使徒が来ないとは云ってもいつMAGIの調子に支障が出るか分からないし、そう遠くまで行くことは出来ないんだけど。

  MAGIの主任としては結構気になってたりするけど、いざとなったら日本の本部に押し付けるって云う方法もあるしね。

  もう世界にとってMAGIの存在は必要不可欠になってるし。

  UNを始めとする多くの機関でMAGIの計算能力は発揮されているの。

  もともとは軍事で使われていたくらいだから処理能力は十分だしね。

  それに最近アタシの提唱したアルゴリズムも稼動状況が安定しているから、未完成とは云っても今現在は十分使用に耐えてるんだからね。

 

  「ねえ・・・アスカ、何処行くの?」

  「そうですよ、アスカ先輩が此処って一言云ってくれたらすぐに決まるんですから・・・」

  「そうねえ・・・」

  こんな状態でアタシたちは地図とにらめっこ。

  しかたないわねぇ・・・自分から此処へ行くって云うのは日本での自分を思い出しちゃうからあまりしたくないのよね・・・

  悪いこととか、そう云う意味じゃなくて、純粋に切なくなると云うか・・・

  でも、何時まででもそんな贅沢は云ってられないし・・・

  「じゃあさ、ハルカ、アイ、とりあえず駅前のショッピングモール行こう?

  そこでそれからのことは決めれば良いし・・・ね?」

  別に大した用事がないのに何処か休日になると出かけたくなるって云うのは・・・女の子だからしょうがないじゃない?

  「そうね・・・じゃあ、そうしようか、アイ?」

  「はい、ハルカ先輩」

 

  そんなこんなで結局駅に着いたのは十一時。

  買い物のときって、けっこう時間が経つのも忘れちゃうのよね。

  だから、気づいてみたら二時を過ぎていた。

  こんなとき・・・きっとシンジだったらお腹空かないって・・・聞いてるわよね・・・

  そんなことを思いながらアタシは二人に聞いた。

  「ねえ、アンタたちお腹空かない?

  最上階のカフェテリア、行かない?」

  「・・・ホントだ、わたしもお腹空いた・・・」

  まったく・・・そんな基本的なことまで忘れてるなんて・・・

  まぁ、さっきまで綺麗さっぱり忘れてたアタシも他人のことは云えないんだけどね。

 

 

  「ねぇ、アスカ」

  食事の終わったアタシにハルカが声をかけた。

  アイはデザートのアイスクリームにスプーンをいれながらそっと耳を傾けている。

  「なに、ハルカ?」

  アタシはアールグレイで咽を潤してからハルカの方を向いた。

  その後ろに広がる街並が陽光を受けて光景ではなく風景を形作る。

  「この前アスカが手紙がどうこうって云ってたでしょ?」

  そう、シンジに書いた手紙。

  一度は良いと思ってたんだけど・・・結局いろいろ書いて速達で送っちゃった。そうじゃないと間に合わない様なくらいになっちゃったし・・・

  メールと違って確実なカタチで相手の手元に届くから、あんまり恥ずかしいものなんか送れないじゃない。

  「うん。云ったわ」

  「・・・書いたの?」

  「うん。一昨日出してきたの。

  なんか最近Eメールばかりだったしね。

  たまには良いんじゃないかなあって思ってね」

  書いた文面を思い出すと何だか赤面しちゃうのよね。

  「ふ〜ん・・・それってアスカ先輩の恋人ですか?」

  アイが興味津々な顔でアタシに聞く。

  なんか・・・ミサトみたい。

  懐かしくって思わず笑ってしまう。

  「あ、何かアスカってば笑ってるし。

  さては例の男の子ね?まったくドイツと日本とで超遠距離恋愛だって云うのに・・・この幸せもの!」

  「・・・ハルカ、それちょっと推量入ってるし、アタシはハルカにシンジがアタシの恋人だなんて云った記憶はないわ。

  それに・・・僻んでるんでしょ?」

  うっと一言云ってハルカは黙った。どうやら図星のようね。

  ホント、こんなところもミサトにそっくり。

  「で・・・でも、アスカの好きなひとなんでしょ?」

  「うん」

 

  此処まで素直になれたのは・・・どうしてかしら?

  以前のアタシからは全く考えられないことだったのに・・・

  昔だったら堕落だって思ったかしら?

  少なくとも・・・進歩とは考えなかったと思うけど。

 

  「アスカ先輩の好きなヒトってどんなひとなんですか?」

  アイスクリームの入っていた器が空になったアイが聞いた。

  「あ、アイは知らないわよね。

  前わたしがアスカの部屋に遊びに行った時にアスカの部屋中に写真がはってあるの。

  けっこう可愛い男の子なんだけど・・・なんかアスカも恥ずかしいのか話してくれないしねえ・・・ね、アスカ?」

  意地悪くハルカが云った。

  「もう・・・良いじゃないの。

  アタシにだって話したくないことの一つや二つあるわよ」

  返したアタシを見て意地悪く笑うハルカ。

  「でもわたしもそのヒトの写真見てみたいです。

  いいでしょ、アスカ先輩?」

  アイが期待のこもった眼差しで見つめる。

  ・・・しかたないわね・・・

  「わかったわ。

  もう少し買い物してからアタシの部屋に行きましょ。

  ハルカにももう少しくらい話してあげるわ」

 

 

  今まで頑に自分の過去のことを話そうとしなかったのは・・・サードインパクトの責任が自分にあるって云うことを知って欲しくなかったから。

  もしそのことを知られてしまった時にみんなの反応が怖かったから。

  多かれ少なかれ、どの人もサードインパクトで苦しい思いをしていたんだから・・・その人たちに問い詰められて、なじられてまで自分を保っていられる様な自信がまだなかったから。

 

  シンジは自分のことを受け止めていこうとしてるって・・・この前聞いたばかりなのにね。

  アタシは・・・まだ変われないみたい。

  だめよね、このままじゃ。

  ミサトやレイに笑われちゃうわ。

 

 

  「さて、じゃあもう少し見ていきますか」

  アタシが席を立つとハルカとアイもそれに続いた。

  「先輩、あと何を見るんですか?」

  アイがとなりの椅子に置いてある荷物を手に取りながらアタシに聞いた。

  「そうね。

  もう少しで紅茶の葉っぱのストックが無くなっちゃうから買っておこうかなって」

  「じゃあわたしもこの機会に見ておこうかな・・・アスカに聞けばばっちりでしょ?

  アイはどうする?」

  「わたしもちょっとカップとか見たかったんです」

  「じゃあ、いきましょ。

  確か・・・この階で良かったわよね?」

  そう思いながらアタシはティーセットのある一角へ向かった。

 

  アールグレイもアッサムもダージリンも捨て難いけどハーブティーが今日の本命。

  シンジにいれてもらったあの味が忘れられなくって・・・でもアタシがどんなに頑張ってもあの味にならないのよ。

  何が違うのかしらね・・・?

  やっぱり・・・誰かに飲んでもらうっていう、そんな気持ちかしら。

 

  「アスカ先輩、こっちのカップとこっちのカップ、どっちが良いと思いますか?」

  アイが二つのカップを指し示しながらアタシに手を振っている。

  「えっと・・・」

  そっちを見てみると真っ白で上品なティーカップと可愛らしいうさぎのイラストの入ったカップの二つが並んでいる。

  どっちもアイらしいと思ったけど、やっぱりうさぎかしら・・・アイのイメージから云うと・・・

  「アタシはそっちのうさぎの柄の入ったものの方がアイらしいと思うけどな・・・」

  「じゃあこっちにしますね」

  弾ける様なアイの笑顔。

  なんか見ているこっちまで微笑みたくなる様な微笑ましい表情だった。

 

 

  ほどなくしてアタシたちは部屋に向かう。

  やっぱりこうして雑踏の中にいるのも・・・時には良いかもね。

  やっぱり研究施設の中にばかりこもっているとお日さまの光を浴びられないし、なんだか自分が何をやっているのか分からなくなっちゃでしょ?

  だからこういう気分転換も必要よね・・・

  信号待ちをしているとアイがそっと囁いた。

  「先輩の部屋って・・・ホントにその人の写真が飾ってあるんですか?」

  そう云うアイの顔は疑いの表情を浮かべている。

  「・・・いいじゃないの。

  アタシの部屋なんだからアタシの勝手でしょ。

  まあ、見に来ればすぐ分かるわよ」

  信号が青になって人々の波が一斉にスクランブル交差点に向かう。

  その波に乗って対角線上に向かうアタシたち。

 

  昔はこうしてたくさんの人に混じって歩くなんてなかったわよね。

  自分は特別だと思ってたし、事実・・・そうだったんだけど。

  でもそんなことで何処か他の人を見下す様な処もあったのかも知れないし・・・変な話よね。

  本当に大切なのはきっと守ったものへの誇りだったと思うのに。

 

  のんびり歩いていたら信号が変わりそうになってしまったから小走りに交差点をアタシたちは横切った。

  何気なくハルカが振り返った。

  そのハルカの顔が青ざめる。

  「ねえ!ちょっと!?」

  何ごとかと思ったアタシたちも振り返ると、既に信号が変わってしまって走り出している車と、転んでしまったらしい小さな女の子。

  「危ない!」

  アタシが云ったのか、それとも他の誰かが云ったのか良く分からなかったけど、その声が途切れる前にアイが飛び出した。

  それから・・・

 

  アイがその女の子を庇うのと、

  車が急ブレーキをかけてかん高い音を立てたのと、

  アイがはねられて宙を飛んだのが、

  スローモーションの様にアタシの眼に焼き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

   THE END OF EVANGELION

 

       The story after conclusion

 

       Episode:12  嵐が丘

 

 

 

 

 

 

 

  アタシの横にはアイの荷物だけが残されていて、ちょっと何処かにいなくなったみたいだった。

  何も考えずにとりあえずアイに近寄るアタシ達。

  「・・・先輩、女の子、は?」

  片目だけを開けてアイが苦しそうに云った。

  すぐ側に倒れているその子を見ると、大した怪我はしてないみたいだけどショックで呆然としている。

  「大丈夫、ちょっと転んだくらいだから。

  それよりあんた、じっとしてなさいよ!アンタの方が重傷なんだから!」

  起き上がろうとしたアイを押しとどめてアイの顔をハンカチで拭った。

  2メートルは確実に飛ばされたんだから。その事実を考えるとこの後が怖い。

  外傷は・・・特にない?頭でも打ってたらアタシじゃ手におえない。

  応急処置法なんか大昔にやったっきりだったから憶えてないし・・・どうしてこういうときのためにもっとしっかりやっておかなかったんだろう。

  今になって悔やまれるけど、悔やんでいてもしかたないのは分かっている。

  「・・・アイ、あんた何処か痛いところない?

  頭は?お腹とか、変なところ打ってない?

  それから、ハルカ!はやく電話!」

  おろおろしているハルカに叫ぶとアイの方に向き直った。

  「ちょっとあちこち痛いんですけど・・・!!!!」

  アイは無理矢理笑顔を浮かべてアタシに答えようとしていたけれど、急に口元に手を叩き付ける様にして押さえた。

  喉元からくぐもった様な、聞きたくもない音が漏れる。

  その手の間から鮮血と吐瀉物が溢れた。

  アイの胸元を紅に染めあげて・・・

  

  「ウソ・・・」

  アタシは呟いた。

  アイの目が焦点を失う。そのままアイの手が力なくアスファルトを叩いた。

  首筋に手を当てると、脈はあるけど弱々しい。でもこのままじゃ・・・チェーンストークスでも起こってきっと脳の方に影響が残る。

  「もう!さっさと誰かなんとかしなさいよ!」

  アタシの声が響き渡って、それが消えないうちにようやく救急車がやってきた。

  緊急用のサイレンの音が非日常を知らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  病院は、特にアタシたちのいる手術室前は、異様な程ほど静かだった。

  押し黙ったままハンカチで目もとを拭っているハルカと、やっぱり同じ様に何も出来ないアタシ。

  こんなときに何も出来ないなんて・・・

  手に力を込めた。

  どうしようもない自分の力のなさ。

  必要な時に、本当に大切な時に自分の力が役立たなかったら単なる役立たずじゃないのよ・・・

  どうしてアタシはこんなにいつも大切な時に何も出来ないのよ・・・

 

  「・・・アスカ、これ」

  ふと顔をあげるとコーヒーの入った紙コップをハルカが差し出していた。

  「ありがとう・・・」

  ちょっと口に含むと、砂糖とミルクの味が口いっぱいに広がった。

  「ちょっとハルカ、甘いわよ、これ・・・」

  云いながらもアタシは飲んだ。

  「疲れた時には甘いものの方が良いでしょ。

  そりゃあいつもアスカがいれているコーヒーには負けるかも知れないけどさ」

  ハルカは無理して微笑みながら囁いた。

  「・・・そうね。うん、ありがとう」

  しばらくアタシはその暖かさを感じながら手の中のコップに視線を注いだ。

 

  「ねえ・・・ハルカ」

  「・・・なに、アスカ?」

  「アイ・・・叱ってやらなきゃ」

  「そうね・・・」

  「あの女の子助けたかったのは分かるけど・・・それでアイがどうかなっちゃったら助けられた女の子は一生そのことを背負わなきゃいけないんだから・・・」

  「・・・・・・そう・・・ね」

  「もう、ハルカ、あんた何泣いてるのよ?

  アタシたちがアイのこと信じてあげなくてどうするのよ?」

  「だって・・・」

  「あんたバカ?

  だってじゃなくて、アイは絶対に良くなるんだから、分かった?

  アタシたちが・・・信じて・・あげな・・・きゃ・・・」

  自分自身の意図に反して涙が頬を伝った。

  堪え切れなくなって膝に顔を埋めて泣き出したアタシの肩をハルカがそっと撫でてくれた。

  「うん・・・ごめん、アスカ。

  わたしたちが信じてあげないと、ね?」

 

 

 

  経験したこともないくらい張り詰めた時間が過ぎた。

  それから手術中を知らせるランプが消えると、手術室から医師が出てきた。

  顔に浮かべる表情が重いことを考えると最悪の予感が胸を過る。

  私たちは思わず立ち上がった。

  「あの・・・アイは・・・」

  ハルカが聞いた。

  「なんとか命は取り留めました。

  しかし・・・そちらのお嬢さんの見立てた通り頭部を打っていまして・・・この後何処まで回復するかが鍵でしょう・・・

  本人の回復力次第です」

  ハルカは頭を下げると、アタシの手をとった。

  何のことか分からなくてハルカの顔を見返した。

  「アスカ・・・一回帰らない?

  日付け変わっちゃったし・・・ね?」

  そこで初めてアタシはずっと座りっぱなしだったのに気がついた。

  「そうね・・・一回帰りましょ。

  本部の方にも報告しなきゃいけないし、一応ネルフの方に移してもらった方が良いのかも知れないし・・・」

  アタシは立ち上がって、出口に向かった。

  こんなキモチ、あの時以来ね・・・

  自分の目の前で全て起こったのに、それなのに何も出来ないなんて・・・

 

 

 

  本部の方にアイの容態とか報告書を作っているうちに休日明けの一日は終わってしまった。

  彼女が抜けた分の仕事はともかくとしても、いつものアイの笑顔がないかと思うと自然と雰囲気すら重くなる。

  いつもなら三人で座っていたシートもアイが抜けてしまって違和感だけが残る。

 

 

  「アスカ」

  「・・・?なに、ハルカ?」

  さっきからぜんぜん作業に集中出来なかったアタシはハルカの言葉でようやく我に返った。

  「昨日の女の子の両親が・・・」

  顔をあげたそこには昨日の女の子とその両親らしい人が立っていた。

  何と説明すれば良いのか分からなくて心が痛んだ。

 

何を話せば良いの?

真実を伝えるの?

それともアイの思いでも伝えるの?

加持さん、アタシこんなときどうしたら良いの?

 

 

 

  「あの・・・昨日はうちの子がお世話になったと云うことで」

  父親の方が頭を下げた。

  「いえいえ、こちらこそ・・・お子さんが無事で良かったですわ。

  こんなところで立ち話もなんですからこちらへどうぞ」

  ハルカが彼等を接客部屋へ連れていった。

  出ていく時にこっちを向いて目で訴えかけていたのはアタシにも来いと云うことなんだろう。

  当然気乗りはしなかったけど行かないわけにもいかない。

  重い腰をあげると、アタシはため息をつかずにはいられなかった。

 

  紅茶の入ったカップとオレンジジュースを手にアタシは部屋に入った。

  ハルカはまだ何も話していない様で、アタシの方を見て「説明、よろしくね」と云った。どうしようもなさそうな声だった。

  アタシだって辛いのに・・・

  「分かったわ。

  ハルカは横で聞いてて」

 

  アタシは飲み物を差し出すとガラス張りのテーブルのこちら側に座った。

  「昨日のことなんですが・・・

  うちの子を助けて下さった方は・・・」

  母親の方が聞きにくそうにアタシに尋ねた。

  「その神谷アイの・・・一応上司です。惣流・アスカ・ラングレーと云います。

  実は・・・例の事故で怪我をしてしまったので何かあれば伝えておきますが・・・」

  心がどうであろうとも出てくるコトバ。

  本当はもっと云いたいことはあったのに。

  もしかしたらアイはあんなことにならないでも済んだかも知れないって、云いたかったのに。

  「そうですか・・・

  本当なら直接お礼を云いたかったのですが、どうぞよろしくお伝え下さい」

  「・・・お姉ちゃん。

  あのお姉ちゃんにありがとうってわたしが云ってたって・・・云ってくれる?」

  女の子は母親の手を握ったままアタシに云った。ほっぺに擦過傷でも出来たのか小さく絆創膏を張っているけど、大したことはないみたい。

  「うん、約束するわ」

  アタシにはその女の子に笑顔で応えることしか出来なかった。

  決して心からの笑みなんかではなく、隠し事をしたままの上辺だけのキモチ。

 

  アタシはまだ心の中では酷いことを思っていたけど、でもアイはそのたったひとつの笑顔を守りたかったんじゃないかって・・・ふと思った。

 

  それから当たり障りのないことを話して彼等は帰っていった。

 

 

  「ねえ・・・アスカ?」

  そのまま部屋に残っていたアタシたちは、じっと座り込んでいた。

  南を向いた窓から茜色に染まった光が差し込んできていて、その色が昨日の血の色を思い出させて途方もなく嫌だった。

  「なに、ハルカ」

  「本当のこと、アイは今重態だって・・・云わなかったわね」

  アタシは目を伏せた。

  「知っても・・・どうにもならないことだもの」

  「でも!

  元はと云ったらあの子が・・・」

  テーブルを叩いてハルカがアタシに云った。

  押さえていたストッパーが外れた音を何処かで聞いた。

  「でも、アイが守りたいって思った子に本当のことを云って不幸にするの!?

  ハルカ、あんた今感情に走り過ぎよ!

  本当にあの子たちが何もなかったって云って信じるとでも思ってるの?

  あの現場にいたんでしょ?だったらもちろんアイがどんな状態か知ってるわよ!

  知っててあえてそれ以上云って来ないんだから・・・本心はどうか知らないけど分かってくれたって、思いたいわよ、アタシは!」

 

  しばらくにらみ合ったままだったけど、自分の云ったことが分かってアタシははっとした。

  「ごめん、ハルカ。怒鳴ったりして・・・」

  そうするとハルカは首を振った。

  「ううん、そうよね・・・アイがそうしたいって思ったんだから・・・」

  アタシにはハルカにかける言葉が見つからなかった。

 

  「アスカ・・・

  お見舞い、行こうね」

  「うん」

 

  結局それから交わした会話はそれだけだった。

 

 

 

to be continued

 

 

 


 御意見、感想、その他は てらだたかし までお寄せ下さい。

 またソースにも幾らか書き込みがあるのでよろしければ御覧下さい。

’99 Jun 20 初稿完成

’00 May 03 改訂第ニ稿完成




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