時と言う時間の流れとともに・・・
第三話
・・・幸せの後に訪れるもの・・・それは・・・
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部屋を出るとミサトさんが壁に寄りかかって待ってくれていた。
「ミサトさん!すみません・・・お待たせしました・・・」
僕はミサトさんに駆け寄り声をかけた。
「・・・・・・・・」
ミサトさんは沈黙を保ったままだ・・・。
不思議に思って顔を上げると、そこにはさっきとはうって変わった表情のミサトさんが立っていた。
だが僕はこの表情に見覚えがないわけではなかった・・・・・。
1年前・・・僕がアスカの病気を知る事になった日のミサトさんの表情もこんな感じだった。
「ミサト・・・・さん??」
僕はもう1度声をかけた。
「・・・・ん?シンジ君??・・」
ミサトさんははっとなっていつもの表情に戻った。
何か考え事をしていたらしい。
だが、皮肉な事に僕にはなにについて考えていたのかが、手に取るようにわかってしまった。
いや、僕じゃなくてもその場所に居合わせた人なら誰でもわかったかもしれない・・・・
「シンジ君・・・もう、いいの??」
「ええ・・・アスカも大丈夫だそうです。」
「・・・・・そう・・・・」
ミサトさんの返事は僕の予想を確信へと変えしまった。
どこか心無い返事・・・・
でもいい加減さは感じさせない返事・・・・
それどころか、意味深さも持ち合わせている・・・
・・・・・・・
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やっぱり・・・・・そうなのだろうか・・・・・
・・・僕の心からさっきの甘酸っぱい感情が・・・
・・・ガラガラと音を立てて崩れ去って行った・・・
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ーーーーーーー・・・ウィーン・・・
窓からは相も変わらず見事な夕日が差し込んでいる。
ガラス張りのエレベータの中は真っ赤に染まっていた・・・
窓から見える町並み・・・
以前ミサトさんに見せてもらったものと同じくらい美しかった・・・
ミサトさんと僕はあれから一言もしゃべっていない。
僕はその真っ赤な空間に飲み込まれてしまうような衝動に刈られた・・・
二人でいるのに一人でいるよりも重苦しい空間・・・
僕は目を閉じた・・・
まぶたを閉じても光を感じる事ができた。
時間だけが過ぎて行く・・・
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ふと目を開けた。・・・・ミサトさんと目があった。
昔の僕ならその瞬間目をそらし、日本人特有の意味のない薄ら笑いを浮かべたに違いない。
だが、僕の中のなにかがそうさせなかった。
僕の瞳に夕焼けに光るミサトさんの像が映る。
自然に口が開いた・・・
「ミサトさん・・・・・教えて・・・ください・・・・僕に・・話してください。」
僕はミサトさんから視線をずらさずに言った。
昔の僕からは考えられないことだ、でも僕はもう『後悔』はしたくなかった。
『後悔』と言う感情を思い出したくなかった。
・・・あのときから・・・
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僕の頭の中にあの時の記憶が蘇えってくる・・・。
僕はもう忘れようとしても忘れられないのだろう、なんとなくそれを自分で理解していた。
頭と言うよりも瞳が理解していた・・・
あの日は・・・皮肉にも今日のように美しい夕日が空に映えていた。
そして、死んだような体と心を引きずりながらある病室に入って行く僕・・・
僕のその濁った瞳に映るものそれは・・・
・・・綾波レイ・・・
その日の夕日にも負けないくらいの赤・・・
血よりももっと特別な色をした赤・・・
そんな色を瞳の奥に光らせていた少女・・・
そして、燃えるような瞳とは対照的に胸のすくような真っ青の髪・・・
決して崩れる事のない美しい顔・・・
どこかに浮かぶ母親の面影・・・
ベッドに横たわる彼女・・・
彼女から人としての雰囲気は伝わってこなかった。
彼女の瞳はカッと見開かれたまま天井の一点をみつめている。
そして、その焦点がずれる事はない・・・
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
枕元から規則的な機会音が聞こえる。
その音だけが彼女の『生』を表していた。
人形・・・そのものだった・・・
綾波レイ・・・僕やアスカと同じ仕組まれた適格者(チルドレン)・・・
全てが終わった後、彼女に訪れたものそれは・・・『無』だった。
彼女は『心』というものを失った・・・
ベッドに横たわるものはまさにただの器。
ぽっかりと開いた心の隙間を埋めるものは何もなかった・・・
「心を・・・・生きるということを忘れた人間に生きることはできない・・・」
これが医師の下した判断・・・
僕はこれがなにを意味するのかを知っていた。
だが、僕は彼女の元に通いつづけた。
別に何をするわけでもない・・・ただ黙って彼女の顔を見つめていた。
そして時間が来ると家にふらふらとかえって行った。
これが僕の毎日だった。
ある日、僕はまた、いつのものように彼女の病室にやってきた・・・
その日はなにかが違っていた。
これといった確信はなかった、が、なにかが・・・
だが、次の瞬間全てが明らかになった。
彼女の見開かれていた瞳から放たれていた光は輝きを失っていた。
そして、枕もとのディスプレイにはただの規則的な線だけが規則的に延びていた。
聞きなれた音は・・・・しなかった・・・・
それらが意味するもの・・・・綾波レイ。彼女の死・・・
僕の頭の中は真っ赤になった・・・
何故赤だったのか・・・僕にはわからなかった・・・
血の様に赤い赤・・・・彼女の瞳のように・・・
だが、僕はどいうわけか落ち着いていた。
人の死をみて感性が狂ってしまっていたのだろうか・・・
そんなことはない・・・狂うくらいならもうずっと前に狂っているはずだ。
僕は彼女の蒼い髪をなでた。
サラサラとしていて砂のように手を透きとうっていった。
彼女の頬に触れる・・・・・・・
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!!!!
僕はその瞬間、はっとなった。
僕の手には暖かい人のぬくもりが残されていた。
「暖かい・・・」
ドクン・・・
・・・ドクン・・・心臓の音が高鳴る・・・
「「・・・・いかり・・・君」」
「「あなた、信じられないの?」」
「「・・・あなたは・・・死なないわ・・・私が守るもの・・・・」」
「「・・・サヨナラ・・・」」
「「ごめんなさい・・・こう言う時どういう顔したら良いかわからないの・・・」」
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綾波の笑顔が僕の脳裏に蘇える
ポタッ・・・ポタッ・・・ポタッ・・・
涙が僕の目の前をぼやけさせた・・・
「「・・・なに・・泣いてるの??」」
次々に綾波の言葉がリフレリンしてくる・・・・。
「ああああ・・・・綾波・・・っくううぅう・・僕は・・・僕は・・・」
僕は自分を嫌悪した。
自分の胸をえぐりださんばかりに皮膚につめを立てた。
シャツに赤い血液がにじんでくる。
僕は・・・彼女がこんな風になってしまったことを誰かのせいにしていたんだ。
でも、彼女を・・・綾波を本当の人形にしていたのは・・・誰でもない僕だった・・・
それを知っていて・・・それを確認するために僕は毎日、ここに来ていたのかもしれない。
頭の中で何かが切れた・・・
「わあああああああああああああっ!!!」
僕は綾波を抱きしめ叫んだ。
だが・・・全ては遅すぎた・・・僕は・・・また・・・逃げた・・・
もう、綾波は二度と笑わない、彼女は二度としゃべらない・・・
流れる涙が頬を伝って彼女におちた。
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涙は嬉しい時にも出るものだと教えた僕が・・・
最後に見せた涙が意味するもの・・それは・・・
・・・『後悔』・・・
やっと気付いてくれたのですか・・・
昨日、無くしてしまった物を・・・
たとえ慌てて追いかけても
きのうは遠くて、とどきはしません・・・
心をゆらして探せばいいのに・・・
心をゆらして願えばいいのに・・・
・・・あの日、偶然ラジオで聴いたメロディー・・・
・・・だから・・・
・・・僕は決めたんだ・・・
・・・もう、二度と後悔はしたくないから・・・
ーーーーーーー
・・・ミサトさんと僕の瞳は交差したままだ。
「・・・・・・・・・」
僕は無言でミサトさんの瞳に訴えかけた。
(ミサトさん、僕は真実を知りたいんです・・・・)
ミサトさんの瞳が一瞬僕からはずされた・・・
僕はミサトさんの瞳を追った・・・
だが・・・僕の瞳に映ったものは・・・
彼女の・・・ミサトさんのゆがんだ顔と・・・
・・・溢れんばかりの涙だった・・・
<つづく>
第3話できました・・・。
うーん、これからの展開をかんがねば・・・
どうしましょう・・・
そうそう・・・ちなみに、今回書いた詩は、知っている人は、
知っているんじゃないでしょうか?
僕が子供の頃大好きだったアニメ「ドラえもん」の映画ヴァージョンの詩のアレンジなんですよ。
もちろん元になった詩の作者はあの、ドンべいの「両方うまけりゃいいきに!」
の、もと海援隊、武田てつやさんです。
いやあ、ほんといい詩ですよねえ・・・
では、また! FROM 八色の姓
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