時と言う時間の流れとともに・・・

第四話

・・涙のかけら・・






・・・・・涙・・・・


・・全ての生き物が持っているもの・・ 悲しい時に出るもの


嬉しい時にも出るもの


・・・透明な色の雫・・・


・・あの広い海と同じ味がする・・


・・熱い情熱を感じられる・・


たとえ、それが悲しさや苦しさだったとしても・・・

























ミサトさんは・・・泣いていた。


「・・・あれっ??ごめんね・・・シンジ君・・・なんで私泣いてるんだろうね・・・ なんで・・・うぅううう・・」


「・・・・ミサトさん・・・・」


僕はミサトさんの涙も「嬉しさ」から来るものではないということを知っていた。

(綾波・・・嬉しさから泣ける時なんて・・・ほとんどないのかもしれない・・・)

僕は心の中で呟いた。

僕はミサトさんの言葉を待った。

こんな時にかける言葉なんて僕は知らなかった。






「ごめんね、シンジ君、いきなり泣き出しちゃって・・・」


「・・・・・」


僕は何も言わなかった。

いや、言えなかった、と言ったほうが正確かもしれない。

喉がキュッとつまったようになっていた。 唾を飲み込む・・・

自分でも緊張しているのが良く分かる。

ゴクリ、と喉がなった。

でも僕はミサトさんの瞳から目を離さなかった。

話した瞬間に全てが逃げていってしまうような衝動に刈られていた。

ミサトさんの涙で少し濡れている瞳が僕を直視する。

一瞬、ミサトさんの表情がフッと和らいだように感じた。

そしてミサトさんの唇が動いた。


「・・・・シンジ君、ホントにごめんね・・・。シンジ君やアスカにはホントに苦労かけっぱなしね・・・」


「・・・そんなこと・・・ないです・・・僕だってミサトさんがいてくれたから・・・」


「シンジ君・・・優しいわね・・・」


「そんなこと・・・それに、ミサトやアスカやリツコさん、加持さんそして、ネルフのみんなが教えてくれたんです・・・人に優しくする、ってこと・・・

「綾波を失った時、僕は・・・みんながいなかったら・・・・みんなが助けてくれなかったら・・・僕は・・・・ホントに壊れてしまったかもしれない・・・」


僕はボロボロになった自分の姿を思い出した。


「僕は、自分が嫌いでした・・・だから、どうして、ミサトさん達が僕に優しくしてくれるのか、どうして、こんなどうしようもない僕という人間を思いやってくれるのか分かりませんでした。

でも、僕は・・・優しくしてもらって・・・思いやってもらって・・・ホントに嬉しかったんです。

・・・・・

そんな折でした。アスカが倒れたのは・・・ミサトさんに真実を聞いたとき、僕の頭の中に綾波の死が蘇えってきました・・・でも、それといっしょに僕を慰めてくれたみんなの表情も思い出したんです。

・・・僕も同じように、みんながしてくれたように人を思いやりたかった。だから最初は、恩返しみたいなつもりだったんです。

でも、僕はその時初めて・・・人に優しくすることの気持ち良さを感じることができたんです。他人をアスカを思いやれば思いやるほど、僕の心が晴れて行くような気がしたんです。

だから、たまに思うんです。

僕は自分のために、自分を満足させるために、アスカのところに通ってるんじゃないかって・・・。

もちろん、それは違うって断言できます。でも、もしも、それが表面上だけでしなかったとしたら?

ひょっとしたら、僕の心の中にどす黒い感情が渦巻いているかもしれない・・・。

それをそっと、オブラートで包んでいるだけなのかもしれない。

もしそうだとしたら、僕が優しさを語ること、それこそ傲慢でしかないんです・・・・

だから、僕は・・・・僕は・・・」




僕の瞳は床の染みを見つめていた。

「シンジ君・・・顔を上げなさい・・・」


僕はミサトさんの表情にみとれてしまった。

それほど、穏やかな表情だった。

かつて、僕に「おかえりなさい」を言ってくれた時のような表情。

僕の心に嬉しさと懐かしさという感情がわき上がって来た。


「ミサト・・・・・さん」


「シンジ君・・・あなたはアスカの瞳を見なかったの?」


「どうしてですか?僕は・・・」


僕はミサトさんのいっていることが良く分からなかった。


「いいから!私の質問に答えて。」


ミサトさんがぴしゃりと僕の言葉を遮断した。


「・・・見ました・・・空色の蒼い綺麗な瞳・・・とても強い意思を持って、幸せそうな瞳でした。でも!!」


「シンジ君、あなた、昔の・・・エヴァのパイロット時代の彼女の瞳を覚えていないの?」


「!!!!!!!」


僕ははっとした。アスカの瞳は昔から美しい空色をしていた。

でも、その瞳の奥にはいつも、寂しさ、怒り、そして誰も寄せつけない拒絶が見え隠れしていた。

そして、シンクロ率が0になった時のアスカの瞳は・・・暗く、よどんでいた。

あのときの彼女の瞳に強い意志、幸福なんてものはなかったといっても過言ではない。 それはまさに、彼女が最も嫌っていた人形そのものだった。




「シンジ君、今のアスカの瞳はあなたの言うように幸せに満ち溢れているわ。でもね、人は誰の助けも借りずに、自分だけで幸せになることなんてできないの。わかるでしょ・・・
シンジ君、アスカに幸せをあげたのは、あなたの優しさなのよ。」


「でも・・・僕がしてきたことは・・・」


「自分のためにやってきたのだ。そう言いたいの?
 ・・・・シンジ君、人間はね、そんなに簡単に心をコントロールすることなんてできないわ。
もしあなたが心からアスカを助けたいと思っていないのなら、もうとっくに逃げているはずよ。
・・・二年前みたいにね・・・」


僕は確かに二年前、アスカや綾波から・・・現実から逃げた。

でも、そんなことをしても何も変わらないことをしったんだ。

だから、僕はもう逃げないって決めたんだ。

「・・・シンジ君、これだけ言ってもわからないなら、もう一度アスカの顔を見に行きなさい。
 おのれの欲求のためだけに注がれた愛情なんかじゃ、あんな顔できないわよ。
 それにね、シンジ君あなた、アスカの部屋にいるときの自分の顔、見たことないんでしょ?
 ま、普通そんなことはしないけど・・・でもね、少なくとも私には、二人ともホントに幸せそうに見えたわよ。
 ・・・・どう?もう1回アスカのとこ、行ってみる?」

「いえ・・・その必要はありません。」

僕はきっぱりと答えた。

僕はやっぱり、アスカが言うようにバカシンジなのかもしれない。

何をこんなに悩んでいたんだ。

いまさら何を悩むって言うんだ。

アスカの笑顔が僕に注がれている。それで良いじゃないか!








僕はぱっと顔を上げた。

僕は鏡を見なくても自分がどんな顔をしているのか想像することができた。



「まったく!私が、なんで泣いてたのか忘れちゃったわ!」


ミサトさんは、肩をすくめている。

僕もミサトさんに笑顔を見せた。

「ミサトさん、ありがとうございます。」


「い〜え!私は、あなたのお姉さんなんだから!当然よ。」


ミサトさんは、ニッッと白い歯を見せて笑っている。

僕はミサトさんの、優しい言葉に涙さえでそうになってしまった。
























『ありがとう』




・・・感謝の言葉・・・


・・僕は心の中でその言葉をもう1度繰り返した・・























病院を出ると、眩しいほどに美しい夕焼けが空に映えていた。


「ミサトさ・・」


僕はミサトさんに何か言おうとしたが口をつぐんだ。

さっきとはうって変わったような、ミサトさんの寂しそうな顔。

その表情の理由は僕も知っている。


「シンジ君・・・本題に入りましょうか・・・」


僕は言葉を失った。

そして、その場に立ち尽くした。

ミサトさんは、僕に背を向けると駐車場へと歩いて行った。






・・・真実をこんなにも知りたくないと思ったのは初めてだった・・・


<つづく>

・・・・う〜ん、どうもねえ・・・

なんつーか、感情の起伏があまりにも激しくなりすぎたような気がしてしょうがないのです。

まあ、それだけいろいろな思いが二人に(僕自身にも)交錯していた、ということを、
ご理解頂ければ幸いです・・・。(現実逃避)

では、これからもよろしくお願いいたします。



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