時と言う時間の流れとともに・・・

第六話

・・・彼は・・・

『AIVE AND DEAD ARE OPPOSITE SIDES OF SAME COIN』・・・

と悲しそうに呟いた・・・










・・・君はどうして泣いているの・・・


どうしてそんなに傷ついているの?


なににそんなにおびえているの?


君の心はなにを思うの?


・・・ALIVE OR DEAD・・・


所詮・・・生と死なんてコインの表と裏みたいなもんさ・・・


・・・そう、考えれりゃあ、どんなに人生楽しいだろう・・・


でも、現実はそう上手くは行かない・・・


・・・でも、それが運命・・・


・・・それが人生・・・



涙でできたボディを組んで


悲しみに膨れ上がったエンジン積んで・・・


怒りという名のガソリン燃やして・・・


寂しさという名のオイルを入れて・・・


感情の香りで真っ黒になったTシャツ着て、


・・・俺達はどこに向かって歩いて行くんだろう・・・


その先になにがあるんだろう?


・・・ホントはそれがなんだか知っているはず・・・


・・・でも、やっぱり気付かない・・・


・・・たとえ気付いても、気付かないふりをする・・・


・・・いずれ、マシンがぶっ壊れたとき、それがなんだか気付くんだ・・・


べっこり、へこんだ涙のボディ・・・


悲しみの炎をめらめら灯し


地べたに転がった黒こげのエンジン


ガソリンなんてどこ吹く風


いまじゃ、飲むことだってできやしない


オイルという名の液体も


空のかなたにとんでった


どんなに上手な整備士だってこれを直すにゃ役不足


・・・後に残った小さな布切れ・・・


・・・それがなんだかわかりゃしない・・・


・・・答えを見つけるために旅に出る・・・


・・・それが俺達の運命・・・


・・・それが俺達の人生・・・

















「・・・ミサトさん、ラジオ消してもらえませんか・・・」


僕は車の窓から見える夜景を見ながらいった。

廃墟の向うに明かりが見える。

暗くなったせいか、さっきよりも町の明かりがはっきりとしている。


「・・・・・ん??ゴメン・・・シンジ君、なんか言った??」


ミサトさんは考え事をしていたようだ。

僕は自分でラジオを消すことにした。

さっきまで流れていた、世間でソウルと呼ばれているジャンルの音楽はプッと言う音とともに消えた。

道路の隅に立てられた街灯がオレンジ色の影をつくっていく。

オレンジ色というのは人の心を落ち着かせる効果があるらしい。

そのせいだろうか・・・僕の心は異様なほど落ち着いていた。

いや、落ち着いているというよりも、空っぽなだけなのかもしれない。

・・・心という入れ物が・・・




ーーーー午前3時・・・

当然と言えば当然なのだろうが、ほとんど車の姿はない。

誰もいない道路・・・

空を見上げると星がたくさん瞬いていた。

僕と、綾波、そしてアスカ。

3人で星を見たときと同じくらい綺麗な星空だった。 みんなパイロットだった3年前・・

懐かしさが胸に込み上げてくる・・・

でも、「3人」で星空を見ることはできない。

僕にとって特別な3人・・・

今は二人になってしまった・・・

そして、僕また失ってしまうのか・・・

アスカは・・

!!??

僕はマイナス思考になりそうになった頭を振ってそのことを考えるのをやめた。




「・・・・・シンジ君・・・・」


不意にミサトさんが口を開いた。

ミサトさんは僕の行動を見ていたのだろうか。

心配そうに僕を見ている。


「・・・シンジ君・・・昔のこと考えてたでしょ?」


「!!??・・・いや・・・僕は・・」


急な問いに僕は上手くしゃべることができなかった。

「やっぱりね・・・わかるわよ、私には・・・・長い付きあいだもの・・・

アスカともね・・・」


ミサトさんは表情一つ変えずに前を見ながら言った。

「・・・・そうですね・・・・」

僕はミサトさんから視線をはずして窓の外を見た。

窓の外に、さきほどとそう変わらない風景が流れている。



・・・第三芦ノ湖か・・・・

あの時できたんだっけな・・・

アスカと綾波と3人で使徒と戦った時

エヴァ、プラグスーツ、エントリープラグ・・・・

懐かしいな・・・

・・・あんなに嫌だったのに、懐かしさを感じるなんて・・・

・・・僕の気持ちなんて適当なもんなんだな・・・

でも、あの時は、綾波も生きていて、アスカも元気だった・・・

あれから・・・3年か・・・

後、もう3年たったら僕はなにをしているんだろう・・・

想像もつかないや・・・ 僕はまた窓の外をのぞいた。


































「シンジ君・・・・アスカのこと好き??」


「ミサトさん!!なにを・・・・・??」


突然の問いかけに僕はうろたえた、が、僕はミサトさんの顔を見て言葉を失った。

ミサトさんが言っていたように僕とミサトさんは長い付き合いだ。

ミサトさんがどんなことを意図して、話しているのかなんてことは、表情を見れば、ほとんどわかる。

今回のミサトさんのそれは、ネルフ作戦部長の顔だった。

口元をキリッとしめ、瞳からは真剣さがあふれ出ている。

ミサトさんは僕をからかっているわけじゃないんだ・・・・・

自然と僕の顔にも力が入る。


「・・・わかりません・・・でも、僕にとって大切な存在であることは確かです。」


僕は一言一言ゆっくりとかみ締めるように話した。


「・・・そう・・・」


僕は無言で頷いた。


「・・・さっきも言ったけど、アスカはもうほとんど生きられない・・・それでもあなたは・・・」





「・・・ミサトさん、知ってのとおり、僕はそんな風に割り切って考えることはできません・・・
 アスカが苦しんでる、だから僕は彼女を助ける・・・それだけです。」


物事は理屈じゃない・・・

誰かが言っていた言葉の意味が痛いほど良くわかった。

・・・昔の僕は絶対にこんなことはできなかった。

しかも、拒絶されるかもしれない他人に対してなんて・・・


「・・・でも、ミサトさんなんですよ、こういう考え方、僕に教えてくれたのは・・・」





使徒と戦っていた時も、そうでなくなった今もほとんどミサトさんは気持ちで行動している。

でも、僕にはミサトさんの背中がとても頼もしく見えた。

感情・・・

これほど当てにならないものはない・・・でも、僕はその可能性にかけてみたい。

当てにならないものだからこそ、奇跡を呼ぶこともできる。

これも、エヴァのパイロットだった僕にミサトさんが教えてくれたことだ。





「そう・・・わかったわ。あなたをそこまでさせるアスカの存在ってなんなのかしらね・・・」  


「・・・僕もどうしてかわかりません。それこそ理屈じゃないですから・・・
 最初は償いだったのかもしれません。でもいつのまにか、アスカを支えることが、僕にしかできない  僕がしなければならないことかもしれないって思うようになったんです。」


僕にしかできない、僕にならできることを探す。

これは前に加持さんに教わったことだ。





「そう・・・あなた達のあの表情の理由がわかったわ。ホントに信頼しあっているのね、あなた達。」


ホントに・・・昔なら考えられなかったことよね・・・

あんなに他人を自分さえも拒絶していた二人が・・・

アスカが他人に心を開くなんて考えられなかったし、それにあのシンジ君がこんなにはっきりとした意志を持つようになるなんて・・・

やっぱり、わからないわね・・・

ほんと、リツコに教えてあげたいわよ。

男と女はやっぱり、ロジックじゃないわ・・・























「・・・ミサトさん、アスカの病気・・・ほんとに・・・どうにもならないんですか?」


「・・・今のところはね・・・」


何故か意味ありげなミサトさんの言葉を僕は不思議に思った。


「・・・と言いますと??」


「・・・やっぱり、釘を作るんだったら専門家に頼んだほうが早いでしょ・・・

 わかったわよ・・・ちゃんと話すから、そんな顔しないで・・・

 さっき連絡があったんだけど、リツコがいまLCLの分析始めてるらしいわ・・・」


「・・・・・どういうことですか??」


「シンジ君、アスカの病気がエヴァ・・・LCLが原因だってことは前に話したわよね。」


僕は無言で頷いた。


「LCLには、いろいろな物質が含まれているわ。それはシンジ君も知っているわね。」


LCLには酸素を取りこむ力、生命維持、僕が知っているだけでも確かにいろいろな効果があった。

血の匂いがしたのはそのせいらしい。ミサトさんは説明を続けた。


「それで、アスカの場合は、その色々な効力を持つ物質の中に含まれるなにかが、心臓に作用したらしいのよ。
つまり、その物質がなんであるかがわかれば、そこから抗体を作ることもできるらしいの。」


「ホントですか!!じゃあ・・」


「まって!




 ・・・・シンジ君、そう簡単にいくものなら、私も最初からあなたに伝えていたわ。」


ミサトさんはくらい表情を浮かべている。


「どういうことですか??リツコさんなら・・・」


僕はそこまで言いかけて言葉を留めた。


「・・・ミサト・・・・さん・・・??」







「はっきり言うわ。・・・・この計画が成功する可能性は『0、000000001%』らしいわ・・・・・ 赤木博士の証言ではゼロではないそうよ・・・」




「でも!それって!!」



「・・・・シンジ君・・・あなたが初号機に乗った時、・・・いいえ・・・初めて初号機が起動したときのこと、覚えてる?」




























 「・・・で、初号機はどうなの?」


                            『B型装備のまま、現在冷却中・・・』


 「それホントに動くのぉ??まだ1度も動いたことないんでしょ?」


『起動確率は0,000000001%・・・O−9システムとは良くいったものだわ・・』


 「それって・・・動かないってこと??」


         『あら失礼ね。ゼロではなくってよ。』


 「・・・・数字の上ではね・・・」
























「シンジ君、皮肉にもこの数値はあの時と同じなの。そしてあの時、あなたは初号機を動かしたわ。そして、私達を守ってくれた。」


「・・・・・・・」


「シンジ君、私は今リツコと同じ気持ちよ・・・限りなくゼロに近いけどゼロではない・・・
それにかけてみたいの。」


  ミサトさんの淡々と話す落ち着いた姿勢に僕の沸騰した頭も次第にさめていった。


「・・・すみません、僕、つい興奮してしまって・・・覚悟なんてとうにできていたはずのに・・・
 いざ、アスカが助かるかもしれないって聞いたら、つい・・・」


「いいのよ。動揺するのは当然よ。アスカを大事に思っていればいるほどね・・・
・・・・シンジ君今は待ちましょう・・・リツコ達を、アスカを信じて・・・」


「はい・・・・わかりました。
 こんなんじゃアスカにバカにされちゃいますよね・・・」


僕は弱みをほとんど見せない元気な金髪の少女をおもいだし、微笑を浮かべた。


「そうよ!シンジ君いってたじゃない、僕がアスカを支えるんだって、それが僕にできることなんだって。・・・でもねえ・・・あなた達、ほんとに信じあってるのね。

 ほんと、うらやましくなっちゃうわ!あたしも入院しよっかなあ〜」









「ミサトさん!!!」













「はいはい。照れない照れない!もうあんた達はネルフ公認カップルなんだから!」








まったくミサトさんの豹変ぶりにはかなわない、ついさっきまで真剣な話をしていたのに・・・

・・・でもふざけ半分ではあるけれど、やっぱりこれもミサトさんの優しさなんだ・・・

ホントはミサトさんだって辛いのかもしれない。だけど、そしたら僕がもっと辛くなると思って、僕に気を使ってくれてるんだ。

・・・・ミサトさん、ほんとにありがとう・・・・




「ねね。今どの辺まで進んでるの??そういえば、KISSしてたわね・・・」



・・・前略撤回・・・

やっぱりミサトさんは楽しんでいるだけなのかも・・・

顔つきが違う・・・

(はあ・・・)

思わず溜息が出てしまった。



「ねえ、シンジ君。ちょっと寄り道しよっか?」


「ええ??・・・寄り道??こんな時間にどこに・・・
 ッワ!!!ちょ、ちょっと!!ミサトさん!!」


いきなり、ブオォン、と音を立てミサトさんの愛車がウィリーをする。

まさか車でウィリーを体験することになろうとは・・・


「ほら!ほら!ぼやぼやしてると、舌かむわよ!ほんじゃ!Let's go!!」


ミサトさんの顔はさっき以上に輝いている。


「レ、レッツゴーっていったって・・・どこ行くんですかっ??!」


「いいとこよ♪」


ミサトさんは軽くウィンクして見せる。

僕はしぶしぶ了承した。

と言うより、これ以上なにかしゃべったら本当に舌をかみそうだからだ。

ハンドルの奥についているスピードメータがぐんぐんあがっていく。

僕はひとつ気になることがあった。

これだけスピードを出しているのにおかしい・・・


「ミサトさん・・・あの・・・」


僕の視線向けられている場所を見てミサトさんはおのずから理解したようだ。


「ん??ああ・・リミッター???あれなんかいつもピコピコうるさいから日向君に言って、とってもらちゃった♪」


・・・あああ・・・やっぱりだ・・・


見るとメーターは、200キロ近くを指している。

僕はその日、もう一つの大決心をした。









『ミサトさんの車には2度と乗らない・・・』

・・・ミサトさんの言う『逃げても良いこと』とはこのことに違いない・・・


















キキィー!


ザザザザッ!





・・・・止まった・・・・

はあ・・・危なかった・・・もう少しで吐いちゃうとこだった・・・

どうやら、着いたみたいだ・・・どこだろうここは・・・



「さ〜て、シンジく〜ん、ついたわよ!」



「・・・・ミサトさん・・・ここはいったい・・・


 ・・・!!!!」


僕ははっとした。

周りの風景こそ変わっているが、ここは、忘れもしない・・・

ミサトさんが僕を連れてきてくれた場所だ。

目を閉じれば町が映えていく光景が今でも蘇えってくる。


「ミサトさん・・・・」


「ちょっち、待っててね、もうそろそろだから。」


ミサトさんはなにやら腕時計で時間を確認しているようだ。

そして時計の針が、四時半を指したその瞬間、僕は言葉を失った。


美しい太陽の光が僕の視覚を痺れさせた・・・


あの時も見た太陽の光・・・


眩しいばかりに輝く太陽の光・・・















「シンジ君、覚えてるでしょ・・・」















廃墟の隙間から差し込んでいる朝日が僕の顔を照らしている。

グニャリと曲がったガードレール・・・

少しこげついた道路

今にも倒れそうなビル

生活の香りをまったく感じさせない風景

でも、僕はそんな風景を懐かしく思った。


「・・・ここね、私のとっておきの場所なんだ・・・」


「・・・とっておき・・・ですか・・・」


「・・・そ・・・」


沈黙が流れる・・・

僕は何故ミサトさんがこんな話をするのか察することはできなかった。

「・・・いつ頃だったかなあ・・・ふと、懐かしくなってここに来てみたんだ・・・


 想像はしていたけどここまで変わってるとは思ってもいなかった・・・正直驚いたわ・・・」



僕はなんて返事をしたらよいかわからなかった。

ミサトさんが話を続ける・・

「・・・多分、すぐに整備されちゃうだろうなっておもって、たまに見に来てたんだけど、相変わらずでね・・・


・・・・それで、アスカの病態がかんばしくないってわかったとき・・・いつのまにかここに来てたわ

 ・・・そしたらね、不思議と気持ちが晴れていったの・・・どうしてかは今でもわからないわ・・・」





















「・・・シンジ君・・・この場所、あなたにあげるわ・・・


・・・なにか、思いつめたり、逃げたくなったらここにきなさい・・・

きっと、答えが見つかるはずだから・・・」





それだけ言うと、ミサトさんは眩しそうに朝日のさしているほうに向き直った。

その表情はとても穏やかだった。

ふいにミサトさんが、僕のほうに向き直り、僕の顔を不思議そうに見ている。


「・・・シンジ君・・・どうしたの??」


「・・・・え??・・・・・」





・・・僕の瞳は涙で溢れていた。

わからない・・・何故僕は泣いているんだろう・・・

ふいてもふいても、とどまることなく流れてくる熱い雫・・・


「・・・シンジ君・・・」


ミサトさんが僕の肩を抱いてくれた。

それでも、涙はとまらなかった。

どうして・・・悲しいことなんてないはずなのに・・・・




































『なに・・・泣いてるの??』




































僕ははっとした。


綾波・・・



これが・・・・・そうなんだね。



心なし記憶の中の彼女がうっすらと微笑んでいるように見えた。

ミサトさんの僕を抱く力が少し強くなった。

僕もミサトさんに体を預けた。

重なったシルエットを朝日が照らしてくれた。






















































































「・・・シンジ君、頑張りましょう・・・」





































・・・いつの日か僕も・・・

・・・こう言える日がくるだろうか・・・

『AIVE AND DEAD ARE OPPOSITE SIDES OF SAME COIN』

・・・生と死なんて、コインの裏表みたいなもんさ・・・





<つづく>


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