TECHNO ANGEL 1.04【ghost】

「じゃ、起動始めるわよ。」
「ルートおっけーです。」
「パケット正常に流れてます。」

「木崎、おまえのほうどうだ?」
「順調、順調。」

「ねぇ、端末名どうするの?」
ニースが聞いた。
部屋が少し静かになる。
「そうね。RITUKOっていれて。」
「スペル。」
「R・I・T・U・K・O」

「おっけー。登録できた。」
「勝手、だったかな?」
マヤはみんなに聞いた。
笑顔で首を振るクルーたち。
「MAGI06なんてダサイのよりもましよ。」

「こっちのほうが魂を感じる。」
ニースは結んだ髪をくるくるといじった。


「モスクワ五号機と接続します。」
「ウォール正常?」
「大丈夫です。Dワード解析中」
「通ります。」
「突破確認。」

「モスクワでなにが起きたのか。探偵ごっこの始まりね。」
マヤは軽く答えた。
「そうね。」
あの日からコーヒーはブラックと決めている。
けれどもまだその味に慣れない。

「失礼いたしますよ。」
と佐野が入ってきた。
「ふむ。みごとなもんです。」
この男、どこまで理解しているのか。表情から読みとれないだけに気味が悪い。
「モスクワの調査結果のまとめです。極秘ですよ。」
にこにこと手渡す佐野。この目の細い男はいつも笑っている。

「ミスター佐野。ちょっといいかしら。
ニースが佐野に声をかける。
はいはいなんでございましょう、と佐野は後をついていった。

木崎の声がした。
「伊吹博士、ここ見てもらえます?」
「ええ。」


マヤは寝起きの電話であわてて駆けつけた。
髪をなでつけながら走る。
「見つかったの?」
「ええ。内部犯行も内部犯行。いやな話です。」

「こんなこと、信じられますか?モスクワ五号機の自己クラッキング。」
「信じられる分けないでしょう!」
吉見が大声を出した。
「なんの意味があるって言うのよ。自分で自分の情報いじって。」

「過去、一度だけあったんじゃない?MAGIシステムの自己ハッキング。」
ニースは頬杖をつきながらマヤを見た。
佐野、か。

「でも、それはあり得ないわ。MAGIがウイルスに感染してるなんて・・・」
「そうですよ。ウイルスのチェックはほぼ完全ですし、
アプリケーションの書き換えもないはずです。」

「ないはず、ね。」
ニースは立ち上がった。
「一つだけ可能性を考えてみるわ。もしも、使徒のコピーが生きていたとしたら?」
マヤははっとした。

「確か自律自爆まで追い込まれて、逆にプログラムを打ち込んで倒したのよね?」
「ええ。でも、それならネルフのMAGI1号機が先にやられてるはずよ。」
「モスクワに、なにかがいる。行ってみましょう」


モスクワは春を謳歌していた。
「お待ちしてました。」
佐野が出迎える。
「あやしい人間はリストアップできました?」
「全部で5人。そのうちゼーレとネルフの元職員が三人。」

「あとは技術の問題ね。それは全員に該当するの?」
「ええ。」
「まずは全員に話をききたいわ。それが一番だと思う。」
マヤは足早に歩き始めた。


「勤務は何年ですか?」
「6年になります。」

別室で話をする佐野と容疑者をガラス越しに見つめるマヤとニースだった。
「この人じゃないと思う。」
「次は・・・ネルフ職員。覚えている?」
マヤにニースは写真を見せた。
面影が、あるような気がした。
誰だったか・・・


「小田ショウイチです。」
やせた細長い男はそう答えた。
あごがずいぶん張り出している。
メガネの奥の小さい目が怪しく見えた。
「何か?」
佐野は少し黙って小田を見つめた。
「第11使徒、覚えてますか?」
「使徒?なんのことです?」
佐野は細い目を細くした。

「あんた、ネルフ職員だろ。」
佐野の口調が変わった。
「ネルフというのも極秘情報が多くてですね。私みたいな下っ端には
明かされないことが多いんですよ。」
知らないのか、というように小田は笑った。

「じゃぁ、話を変えようか。」
佐野は傍らのコーヒーを飲む。
「MAGI05へのアクセス回数は?」
「覚えてないね。」
「最後にMAGIにさわったのは?」
「この間、ログの解析をしたときだな。」
「MAGIに初めてさわったのは?」
「覚えてないね。」

佐野は目を開けてにらんだ。
「覚えてないって言うのが多いな。」

「覚えてないんですもん。もっと大事な研究のことを覚えておかなきゃいけないしね。」
にやり、と男は笑った。
男の張り出した顎が奇妙にゆがむ。

「おまえに会わせたい人がいる。」
佐野はガラスに向かって招き寄せた。


「伊吹二尉・・・・」
小田はそうつぶやいた。

だが、驚くべき反応はもう一人の方だった。
「な。赤城博士?」
いや、ニースだ。リツコではない。
金髪ではあり、背丈は近いものの彼女を詳しく知るものなら間違えるはずもない。
だが、薄暗い部屋ではそう見えたのだろう。男の動揺が大きくなっているせいだ。

「まさか・・・それじゃ・・・」
赤城リツコと伊吹マヤがいる。
それなら・・・だが・・・

「オレは、オレはイロウルなんてしらんぞ!おまえたちに聞かれても
覚えてないものは覚えてないんだ。」

「聞いた?マヤ。」
「ええ。」

「佐野さん、あとは頼みますね。」
ニースは部屋を出た。
マヤも無言で出た。
「いえいえ。取り調べるのは私ではありませんよ。」

小田はしまったという顔をした。
イロウル。それは第11使徒の名前。
しかもそちらの方が情報の極秘性が高い。
男が「何か」を知っていることは事実だった。

「あなたをかわいがってくれる人たち。少し遅れてましてね。」


「事件は一件落着ね。」
「逆ね。」
マヤとニースは車内で話を始めた。
「これからよ。私たちの仕事は。」
「仕事?」
「戦わないといけないの。」

あのゼーレの亡霊と。


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