人生には、一度は勝負しなければならない時も有る。

 

 

  しかし、そんな勝負で人生そのものが決まるかと言えば

    そんな簡単なものでも無い。

 

 

  勝ったからと言って、その後すべてうまく行くとは

    限りはしない。

 

  負けることの方が多いかも知れない。

 

  だが、勝ち負けにこだわるよりも・・・・・。

 

 

  勝負そのものを恐れるよりはましかも知れない・・・・・。

 

 

 

 

 

[Eファンタジー]

 

[第三節]

 

 

《削る 足の値段》

 

 

 

 

 

 

 

 

  「・・・土田、ちょっと頼む・・・」

 

  「あ、いいっすよぉ・・・」

 

  「俺がハーフからエンドラインに付く前に、

   ボールを奪い取って、

   シュート出来たら・・お前の勝ちだ。」

 

  ミキヨは、自分が負けるなどとは考えていないようだ・・・。

  勝負はやってみないと判らない、と、常に若手に

  言っているのはミキヨ自信なのに・・・・・。

 

  「もーうわしらは知らんぞ・・・責任とれんからな・・・」

  と、コーチ陣。しかしそれを他所にして

  周りの若手達はおおいに盛り上がっていた・・・。

 

  「ひえー江藤さんから?」

 

  「うちの誰だって無理だぜそりゃ・・・」

 

  「よしんばボールを取ったって・・・なぁ」

 

  「キーパー土田だろぅ・・勝ち目ねえよ・・・」

 

  「大体、あいつテスト落ちてるんだろ・・・」

 

  若手の反応はもちろん散々である。

  だが、当のシンジ本人は、あまり気にして無いようである。

 

  心配そうなのは、コーチ陣と宏だけの様である。

  それも違った意味でだ・・・・・。

 

  「・・・おいミキヨ・・・」

 

  「・・ん?・・」

 

  「・・・・・お前の方がよっぽどおとなげないぜ・・・」

  シンジに同情している訳ではないが、

  少し心配になってきた宏。

 

  14・5歳の子供にムキになっているその姿は、

  普段のミキヨからは、とても考えられない姿だった。

 

  それだけに心配なのだ・・・。

  しかしミキヨには、もうそんな言葉も、

  耳には入っていなかったようだ・・・。

 

  「・・・止めるなら今のうちだぜ、ボク・・・ん・・・」

 

  「・・冗談でしょ・・・そんだけ挑発しといて・・・ふんっ」

 

  「・・・良い度胸だ・・・・・何時でも・・きな!」

 

  シューズのひもを結び直したちあがるシンジ、そして・・・

  「・・あのシロクロのボールは・・・

   何時でも僕の・・・手下だ・・・」と、つぶやくシンジ。

 

  「へっ」そのつぶやくサマに何かを感じる宏・・・。

 

  しかしそれが何で有るかは・・・。

 

  その瞬間・・・二人は同時に動き出した・・・。

 

  「よおおーっしっ合格もらいぃぃー」”ダダダダダーー”

  左右に体を振りながら、突っ込んで来るシンジ。

 

  だが、かるくサイドステップし、右足でボールをキープして

  かわすミキヨ。  「チッ」とシンジ。

 

  {・・・くそっ・・とにかくマイボに・・・}

  いきなりの苦戦に戸惑うシンジ。と、そこへミキヨのタックルが、

 

   ”ドガッ”吹っ飛ばされるシンジ。

 

  「・・・・・イテテテテ・・・・・」動けない様だ。

 

 

  冷ややかな目で見つめるミキヨ。思わず若手がつぶやく・・・。

 

  「ひえぇー」

 

  「きびしぃー」 確かにきびしいタックルだったかもしれない。

 

  だが試合では、これぐらいあたりまえである。

 

  だがミキヨもシンジがなかなか起き上がらないのを見て、

 

  {しまった・・・やり過ぎたか?・・・}

  思わず後悔の念が・・・・・。

 

  しかしそんな思いはすぐに裏切られた。

 

  ”パチッ”と目を開くやいなや、

 

  ”ザザーッ”とボールに向かって

  スライディングするシンジ。寝たフリだったとは・・・・・。

  しかしそれもまた寸前でかわすミキヨ。「ふぅー危ない危ない、」

 

  「ちっ、おっしい」地団太を踏むシンジ。

 

  「ハッハハハハーあのガキーなかなかー」

 

  「転んでもただじゃおきないってかぁ?」

 

  「てぇーい」とふたたびミキヨにせまっていくシンジ。

   だがしかし、ことごとくかわされて行く・・・。

 

  「んーっくっそぉー」次第に動きについて行けなくなる・・・

  これ程の差、が、あるとは・・・シンジの顔色がかわる。

 

  「もう、勝負有りかな・・・」

 

  「かすりもしなかったじゃん」ドリブルで、次第に反対側に持ち込むミキヨ。

  それを見ての、若手の容赦ない冷やかしで有る。

 

  「・・・なにがそんなに・・・本気にさせる・・・」

  宏の疑問はつのる・・・・・。が、しかし・・・・・。

 

 

    ”ダッダッダッダッ”しだいに後ろからミキヨに追いつく・・・。

 

  「・・・おっ・・・追いついた・・・」目を見張る宏。

 

  「・・・うーんおかしいなぁ・・・あいつ・・・

   確か、50mのタイム・・・大したこと無かったぞ・・・」

 

  「!!」

  いつの間にかうしろにシンジがいるのに

  ようやく気づくミキヨ・・・。その時ボールが!

 

  ”ボッ”  ”ボコッ”{!イレギュラーか?}

 

  前に一歩早くシンジが!

 

  「おっしゃあ」初めてボールに触った!

   その勢いでそのまま前に出るシンジ。一応に驚くレッズの面々。

 

  {まさか・・・一瞬早く、見破っていた?}少し驚いたようなミキヨ。

  だがすぐ気を引き締める。

 

  「うんっ?」一瞬シンジの姿が・・・・・。

 

  「・・・気のせいか・・・一瞬別人に・・・」

   メガネを外し目をこする宏。

 

  「ふふんっ」挑発するように笑うシンジ。そして・・・

 

  ”ポン”と、右足でボールを真上にトラップして、

 

  ”くいっ”と背中でトラップして下に落とす。

  そのまま左足で持ち込みドリブルし始める。

 

  「なっなんだぁ?」  「あいつぅ今変なことしなかった?」

  驚くのも、無理はない・・・。背中の肩甲骨でトラップしたのだから。

 

  「やっ柔らかい関節してるなぁ」

   整体的にも興味があるのか?少し違う所で感心する宏である。

 

  しかしミキヨも一歩も手を緩める様子は無いようだ・・・。

  {ふっ、それでも抜いたつもりか?}今度は宏が背後から行く。

 

  「でえぇーい」一気にゴール前に出ようとする、しかし・・・。

 

  「一応形にはもって行ったぜ・・・」

  「でもムリだよ・・・江藤さん、がっちりコース押さえてる・・・」

  「当たり前だよ、江藤さんは(日本)代表のDFハーフなんだぜ・・・」

  「あの形で付かれたら今の日本で抜ける奴は居やしないさ・・・」

 

  「ふんっほーら押されてる・・・・・」再び容赦のない攻めをうけるシンジ。

 

  「んっくう・・」 「・・・とぅ・・・」思わず倒れかかる。

  「ぐっ」その、合わせたミキヨの足がシンジの頭に・・・。

  {あっ危ない!}その瞬間!シンジが倒れている状態で・・・・・。

 

  ”ビッ” 「はいれー!!」

 

  {なっ、ボレーシュート?}

  「シュートした!?」「あの体勢で?」

 

  そのままゴール前にむかうボール。だがふらふらで、ある。

   キーパーの土田が片手を挙げてボールに向かう・・・。

  「オーライ」片手でキャッチしようとする土田。その時ボールが・・・。

 

  ”フラッフラッ”と、ゆれる、思わず戸惑う土田。

  {おっとっとぉ}しっかり両手でキャッチ!{危ない危ない}

 

  「!!」その場に立ち尽くすシンジ・・・・・。

 

  「・・・・・ゲームセット・・・・・」つぶやくミキヨ。

 

  「くっ、もう一回、」「何度やっても一緒さ」つめたく言い放つミキヨ。

 

  「えっ?いってててててて」どうやら足をくじいたらしい。

 

  「くっそぉくっそぉ・・・・いてててて」

 

  「!始めに倒れた時のだな・・・どれ見せてみな。」

  近づき治療してやろうと、宏がそばに寄る。

 

  「なんだよぉいいよぉーいててっ」

 

  「うんっただの打ち身だ・・・痛みを取ってやるよ・・・」

 

  「いいってばぁ・・・そっそんなの刺して・・・だ、大丈夫なのかよぅ」

 

  「ふん、どのみちその足じゃ、勝負できんぞ・・・。」「ぐっ」

 

  「や、やだよぉ僕、ハリとかそうゆうの、いっいやだ・・・」

   「大丈夫、いたくないいたくない・・・」半ば強引にハリを刺す・・・。

 

  「んっ?」また、何かを感じる・・・。「あ、もう一本・・・」

 

  「???・・・・えっ」思わず立ち上がりぴょんぴょん

   跳びはねるシンジ。痛みはすっかり取れた様だ・・・。

 

  「へぇえ、すごいなぁ、全然いたくないじゃん・・・へえぇ」

   しきりに感心するシンジ・・・。

 

  「よぉーっし・・・・もう一回・・・」

 

  「何言ってる・・・もう終わりだ・・・・・」

 

  「えっ?」

 

  「・・・テストはこれで終わりだ・・・・・」

 

  「・・・・・そんな・・・・・」

 

  「元々そっちの我がままに付き合ってやったんだからな・・・」

 

  「うー・・・・・」途方に暮れ出すシンジ。

 

  「・・・だって・・・・・」

 

  「とりあえず・・・出直して来い・・・家に帰りな・・・」

 

  「・・・帰る家ナンか・・・ないよ・・・出てきたんだから・・・」

 

  「なにーぃ」一斉に声を挙げるレッズの面々。

  「おいおい、家出少年かよぉ」

  「こりゃマジで警察だなぁ」

  それはそうだ・・・ただでさえココまで引っ張っておいて・・・

  その上家出と来ると・・・もうかばいようも、無い。

 

  すると「あのーじゃあ・・・ここの食堂でもどこでもいいから・・・

  雇ってくれませんか・・・」

  何を突然言い出す・・・。冗談じゃ無い・・・。

  どれだけ迷惑を掛けてると思っている・・・。コーチ達の

  声が聞こえてきそうだ。

 

  しかしシンジはマジの様だ・・・。土下座を始めると・・・

  「ねえ、いまさら家には帰れないんだ・・・皿洗いでも

   何でもするから・・・お願いします・・・・・。」

 

  「・・・困ったことを言うな・・・・・家は・・・どこなんだ?・・・」

   これ以上は、ミキヨもかばい切れない・・・とりあえず

   家に返すのが先決だ・・・・・。

 

  「だ・か・ら・、僕・・・ミサトさんの・・・先生の・・・

   所に居たから・・・そこを出てきたから・・・」

 

  「ミサト?先生?」聞き覚えが有るのか・・・呟く宏。

 

  「?・・・親は?・・・家族は・・・・・いないのか?・・・」

 

  「・・・親父は二年前に行方知れず・・・母さんは・・・

   俺・・いや僕が五つの時に・・・・・死んじゃった・・・・」

 

 

  「!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

   一応に黙る・・・レッズの選手達・・・・・そして・・・・・。

 

  「・・・・・そうか・・・・・」そう、言葉を返すしか無かった・・・。

   14・5歳で・・・よく・・・ミキヨはそう、思うしか無かった。

  しばし、沈黙が続く・・・そしておもむろに宏が言葉をかける・・・。

 

  「とりあえず・・・うち(レッズの)の寮にでも、泊まってくか?

   もう七時回ってるし・・・・・まあ俺の部屋でもよけりゃ・・・。」

  「宏・・・・・」

 

  「ん・・・それにちょっとこいつに聞きたいことも有るからね・・・

   皆さん、俺が責任をもって一晩預かりますから・・・・・」

  と、コーチ達の方をみて話す宏・・・。

 

  「あ、じゃ、俺も一緒に行くよ・・・皆さん俺からも・・・・・

   度々申し訳ないけれど・・・・・お願いします・・・・・」

 

  うちのエースとトレーナーがそう言うなら・・・・・。

  他の者に異論などあろうはずが無かった。

 

 

  「ほらお前も・・・いい加減にして・・・・・」

 

  「・・・何か、うまくごまかしてない・・・?俺は・・・」

 

  「あのなぁこれ以上俺たちを困らせるな・・・大体本来ならテストを

   二回も落ちていることになるんだからな・・・お前・・・」

 

  「今日はこっちに泊めてやるから・・・・・」

 

  「・・・判ったよ・・・・」

  「判りました、だ、」

 

  「・・・はい判りました・・・・これで」

  「・・・・いいでしょ・・・じゃ、ホント皆さん、お手数掛けました・・・」

  「さ、行くぞ・・・えーっと名前は・・・」

 

  「シンジ、碇シンジ、・・・」

 

  「シンジくんか、いこうぜ・・・飯ぐらいおごる是・・・」

 

  「ホント!行こ行こ!早く行こう」

  「何だ?現金だなぁお前・・・」

 

 

  テストはどっちも落ちて終った様だ・・・。

  少なくとも今の段階では・・・・・。

 

  だが、カルチョの神は、

 

  まだ、運を

 

  繋いでいるのか?

 

  それは、誰にも、本人にも・・・・・・!

 

 

  ◇第四節に続く。




バッジョヤマザキさんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る

inserted by FC2 system