人生は、自分で思っているほど

              決して長いものでは無い。

 

    世界の歴史に比べてしまえば、

              ホンの一瞬であろうと・・・。

 

 

    だが、人はごくまれに・・・

       歴史に残る、輝きを放つ事が有る・・・。

 

 

 

 

 

 

    それが・・・・・

 

 

 

    たとえ・・・・・

 

 

 

    一瞬の・・・輝きで・・・あろうと・・・・・。

 

 

 

 

[Eファンタジー]

 

[第四節]

 

 

{天運}

 

 

     (注)この物語りはフィクションです。

        実在の人物、名称、団体等とは関係有りません。

 

 

 

 

 

 

 

  「ほら、着いたぞ・・・」

   三人はレッズの寮の前にやって来た・・・。

 

  時間は既に夜の八時を回っていた・・・。

 

  「ここが寮?ふーん・・・結構きれいじゃん!

     いいっすねぇ・・・さすがはやっぱJリーグだよねぇ・・・」

 

  またまた生意気なセリフ・・・くそがきの癖に・・・

    それをたしなめる、かのような宏。

 

  「・・・おいおい、別にお前が住める分ける訳じゃ無いんだからな、

     今日は一晩泊めてやるだけ何だからな・・・ったく。」

 

  「ま、とにかく飯でも食おうや・・・シンジ君・・・腹、減ったろ」

   優しく声を掛けるミキヨ。

 

  「ハーイ!!」とたんに元気な声を出すシンジ。

 

  “現金な奴”・・・宏の印象はなおも悪いままだ。

 

  “だけど・・・こいつ・・・

 

  俺のハリに、何かを感じさせた・・・・・久しぶりの奴・・・”

 

 

 

  赤石宏は表向きは、浦和レッズのスポーツトレーナーでは有るが、

   ハリ師としては、実は知る人ぞしる世界的権威でも有った。

 

  彼は若き日より、その腕で数多くのアスリート達を、治療してきた。

 

  カールルイス、マッケンロー、ボルグ、モンタナ、ピートローズ、

   錚々たる名前ばかりである。

 

  その時、感じた感触に、近い感じのオーラが、このくそがきに・・・

 

 

  “・・・・・まさか、ね・・・・・

  俺の感も、たまには鈍る・・・そうに違いない・・・”

   そう自分に言い聞かせる宏であった。

 

 

 

 

 

  「頂きまーすっ」

   元気に声を掛け、食堂自慢のカレーライスをほお張るシンジ。

 

  “ふふっうまそうに食いやがって・・・”

  優しい目で見つめるミキヨ。

 

  その姿を見て、宏も少し心を和ませたのだった・・・。

 

  しかしそんな二人の思いとは裏腹に

   あっというまに、カレーの大盛り一杯目を平らげ、

  「あのー」  「ん?」  「お代わりしていい?」

 

 

 

  食べ初めて、五分も立っていないと言うのに・・・。

 

  「・・・ああ、いいよ・・・」「よっしゃラッキィ・・・」

 

 

 

  ふと、ミキヨは、シンジに尋ねた・・・。

   なぜこんな子供が、家出までしてプロを目指すのか・・・。

 

  「なあ、シンジ君・・・何で君はJリーグに入りたい?」

 

  「んーそりゃーやっぱりお金、お金でしょ、

    “一蹴りでシーズン過ごすいい男”さ・・・」

  口になおもカレーをほお張りながら答えるシンジ。

 

  「お前なぁ・・・なーに甘いことを・・・」

  思わず、茶々をいれずには、いられない宏・・・。

 

  だが、そんな声にも目もくれず、

    なおも、カレーをほお張るシンジである・・・。

 

  宏は、唯々呆れるだけである・・・・・。

 

 

  「そんなに、お金がほしいかい・・・

   他にも仕事はいっぱい有るじゃない?・・・」

 

  「だってこれ(サッカー)が、一番得意だもの・・・

   まあ、鳶職も得意だから、続けてくって言う手も有るんだけど・・・。

 

  「「はぁ、鳶!?」」顔を、見合わせる宏とミキヨ・・・。

 

  「そっ・・・鳶・・・。僕、ずーと鳶で食ってきたんですよ・・・

   親父と・・・あちこち、転々としながらね・・・

   それを、あのくそ親父!

   俺のギャラを、箱根の現場でピンハネしやがって・・・。

   あの野郎!今度会ったらただじゃおかねえぞ!」

 

  物騒な事を、口走るシンジ・・・。

 

 

 

  「お前、16歳だろう・・・」

 

  「そっ・・・6月6日で16歳に、なったんだけど・・・

    そういやぁ・・・もう10月ぐらいだっけ?」

 

  「・・・何をとぼけたこと言ってるんだ・・・」

   聞いていて、ただ、呆れるばかりの宏・・・

   “しょうがねえな・・・”と、既にあきらめ顔・・・。

 

  「高校は?どうしたんだ?」

 

  「んなもん、やめちゃいました・・・」

 

  「・・・どうしようもねえな・・・お前・・・それで、

   ここにテスト、受けに来たって訳か・・・全く・・・」

 

  「まあねー」

   宏の嫌みも通じていない様だ・・・こいつには・・・。

 

  「でも、最近までちゃんと、その、“先生”とか言う人の

   所で、一緒に暮らしてたんだろ?・・・」

 

  「そっ・・・ミサトさんて言う、中学校の時の先生の・・・」

 

  「おい!ちょっとまて・・・そのミサト先生て言うのは、

   ひょっとして・・・葛城ミサトって言うのか?・・・」

 

  「・・・・・何で知ってるの?・・・・・」

 

 

 

  やっぱり、と言う顔の宏・・・どうやら

        共通の知り合いらしい・・・。

 

  「・・・高校と大学の後輩さ・・・そうかお前がねぇ・・・

    しかし、何でお前、一緒に住んで居たんだ?理由がわからん?」

 

  「あぁ、僕の亡くなった母さんが、ミサトさんのお父さん・・・

    も先生だったらしいんだけど、その教え子らしいんです・・・

      それで親父が逃げた後に、そこに高校辞めるまで

        住んでたんだ・・・変な女と・・・三人で・・・」

 

  「ふーん・・・はっ?変な女?なんだそりゃ?」

 

  「え?いっ、いやいやまっ、まあそれはおいといて、家族みたいに

    世話してもらったんだ・・・二年ほどね・・・

     でも・・・ミサトさんの先輩?・・・すごい偶然・・・」

 

  「そうさ、彼女はとても優秀だったからねぇ・・・

    勉強もスポーツも出来てさぁ・・・」

   遠くを見つめる宏・・・その目は遥か?昔を思い出して要るのか、

    何処かに行ってる様だった。思わずシンジも突っ込む。

 

  「ふーん・・・おじさん、ひょっとして・・・

   ミサトさんの事が好きだったのぉー?」

  さらに失礼なセリフを放つシンジで有る・・・

   “お前とは年が倍以上も違うんだぞ・・・”と感じたのは、

   それを見ていたミキヨの方であった・・・全く・・・。

 

  「んーいやぁ彼女も確かに抜群に良かったんだけど、

   まあ俺には他に好きな子がね・・・って?

   おい!このマセガキ!・・・何言わせやがる・・・全く!」

  やっと気づいたのか?・・・宏も思い出し笑いを浮かべていた・・・。

 

  「ま、とにかく彼女はいい子だったよ・・・ホントに・・・

   そうかぁ今やあの子が学校の先生とはねえ・・・まあしかし、

   こんな悪がきの面倒までみて・・・それも親代わりするとは、

   苦労してるんだなぁ、あいつも・・・」

 

  「なーに言ってるの!あれでかなりだらし無いんだから・・・

   真っ昼間からビールかっくらってるし、料理は全然出来ないし・・・

   こっちはホント、大変だったんだから・・・全く!」

 

  「えぇー!ホントかよ・・・まあ、そういえば確かに

   男勝りと言うか、気の強い所もあったかも・・・でもなぁ・・・

   お前みたいな悪がきを押さえ込もうと思ったら、

   そうなっても当然だろうさ・・・絶対・・・」

 

  「何だよぉ・・・」  「あぁ?!」

  一種触発か?一気に険悪になるシンジと宏で有る・・・。

 

  「まあまあ・・・宏もそれぐらいにしてさ・・・

   ところで・・・シンジくん?」

 

  「え?は、はい・・・何ですか?」

 

 

  「さっきも言ったと思うけど、今日はここに泊めてあげるから、

   明日起きたらその先生のところへ帰りなさい・・・

   お前はテストに落ちたんだから・・・そんなのをこっちも、

   いつまでも置いておく訳には行かないからな・・・」

  いきなり話題を変え最終通告を告げるミキヨ・・・。

 

  だがそれはしごく正論で有ろう・・・未成年、それも高校中退、

  そこに家出と来ては本来なら警察ざたに成ってもおかしくは無いだろう。

 

  そんな“子供”をいつまでもめんどう見れる暇は、

   二人にはとても有りはしない・・・来週からは、

   プレJリーグ・ナビスコカップも開幕する・・・

   そして来月にはいよいよ代表招集が待っているので有る・・・。

 

  Jリーグ開幕に向け、そしてWカップアジア予選に向け、

   待ったなし!で有る・・・。

 

  そして・・・

 

  この、16歳の少年をこのままにはして置けぬ・・・

   その思いが今の時点では、ミキヨは一番強く有った様だ・・・。

 

 「君だってこんな状態でプロに成ろうなんて無理だって

   ホントは分かっているんじゃ無いのか?

   だからこんなとこまで着いて来て・・・」

 

  シンジの心情は察していたつもりだった・・・。

   何だかんだと言っても発想は子供のシンジで有ったようだ・・・。

 

  その、時居り見せる寂しげなシンジの顔は・・・

  かつて自分が見せていた・・・表情を思い起こさせていた様だった。

 

  「でも・・・そういう訳には・・・行かないよ・・・いまさら・・・」

 

  「何で?」

 

  「約束したから・・・いろんな奴らとさ・・・早くJリーガーに、

   成って・・・有名に成るって・・・たんか切ってさ・・・」

 

  「さっきも言ったろう・・・そんなに甘い物じゃ無いって・・・

   現実君はテストに受からなかった・・・そうだろう?シンジくん・・・」

 

  「でも・・・」言葉が途切れるシンジ。

   さすがにミキヨのセリフは効いたのか・・・

   次第に元気を無くして行った・・・。

 

  そして先程まで悪態を返していた宏も、そのシンジの表情と

  “気の流れ”を読み取り、どうやらホントにパワーの落ち込みを

  じょじょに、感じ始めていた・・・。

 

  “どうやらやっとこっちの“薬”が効いて来たかな?”

  だが、そんなふうに思うと宏の心境も少しずつ変化していた。

 

  “しかしあの感じた“気”は何だったんだ?・・・こいつ、

   ただ者じゃ無いのは確かだと・・・俺の“気”は言ってたんだけどなぁ”

 

  少し残念な気もして来る・・・だがそうも言ってられない

   現実も有る・・・。

 

  「こっちの約束は、やっぱ効いてもらわなきゃね・・・

   テストに君が落ちてるのは皆知っている・・・それなのに、

   ただ飯食わせて更に宿泊もさせてあげるんだからね!

   ・・・まあ君の気持ちも分からない訳じゃ無いさ・・・

   俺も・・・身よりはいないし・・・天涯孤独だからな・・・」

 

  「えぇ?」

 

  「・・・宏・・・」

 

  自分の境遇をさりげなく語る宏で有った・・・次第に自分に

   重ね合わせてしまったのか、打って変わり優しい気持ちになる宏。

 

  それを知るミキヨとしてはこれ以上言葉を続ける気力も無くなっていた。

 

  シンジもその二人の心に気圧されてしまった様である。

  寂しげな表情に変わりこれ以上言葉など、有ろう筈も無かった。

 

  「・・・シンジくん、明日にでも何だったらそのミサト先生の

   所に連絡取ってあげるから・・・な、宏もそれで良いな?」

 

  「・・・もちろん・・・」

 

  その言葉にシンジも覚悟を決めたようだった・・・。

 

  「分かったよ・・・明日、朝、起きたらすぐ出て行くよ・・・

   連絡はしないでよ・・・ちゃんと出て行くから・・・だから・・・」

  ようやく諦めの表情を見せ、言葉を締めくくるシンジ。

  最初の態度からは、到底考えられない・・・。

 

  しかし宏とミキヨはこの時初めて分かった事が有った。

 

  このシンジの態度こそ、実は強気の行動、セリフで隠していた、

  本来の性根なのだと・・・。

 

  ウソまじりっけ無いあどけない本当の16歳の

   素顔で有ろうと・・・。

 

  それが分からない二人でも無かった様だ・・・。

 

  上の空き部屋にシンジを連れて行き布団を渡し、

  自分も隣の部屋で仮眠することにしたミキヨ・・・。

  シンジも疲れて居たのだろう・・・

 

  「おや・・・すみ・・・」

  と言うか言わない内に、“遠い船”を漕ぎ出していたシンジ・・・。

 

  もちろん二人がほっとして居たのはまちがい無かった・・・。

 

 

 

 

 

  次の日の朝・・・

 

  宏がシンジを寝かせて居た、空き部屋を覗いて見ると、

   既にもぬけの殻だった。

  ミキヨも起きて来て隣に並んだ・・・。

 

  「行っちまった様だな・・・」

 

  「・・・あぁ・・・」

 

  昨日の大騒ぎがウソのような静けさ・・・

  大迷惑をあの子のせいでチームも、宏も、ミキヨも被った・・・。

  “こんなことはもう二度と御免だ”と二人とも

  同時に呟いた・・・。

 

 

  だけど・・・

 

  この喪失感は、何なのか・・・。

 

  まさか逃がした大魚と言う奴なのか・・・いやいやそんな訳ないだろ・・・

 

  「今度ミサトに久しぶりに・・・会いに行って見るか・・・」

 

  宏がそう呟くと、他に言葉は何も無かった・・・。

 

 

 

 

 

  だが・・・

 

 

  運命は再び・・・三人を・・・結びつける・・・。

 

 

 

 

  ナビスコカップは、じきに始まる・・・

 

 

  その時・・・

 

 

  三人の運命は大きく変わって行く・・・

 

  だがそれは・・・まだ後の話で有る・・・。

 

 

  カルチョの神は・・・

 

  その時を・・・静かに・・・待っている・・・。

 

 

 

 

 

  ◇第五節に続く




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