* 愛と爆炎の聖誕祭 *

吉田





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                    29.Tokyo−3大混戦                    
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    アスカ:「これもタイトルのまんまね」
    シンジ:「だからさ、これって解説なんだからもう少し・・・」
    アスカ:「もう少しなに?内容話してネタをばらせって言うの?」
    シンジ:「そ、そんなにきつい言い方しなくても・・・・・・・」
     レイ :「・・・・怪奇ミリタリー・・・・・」
  アスカ&シンジ:『あ・・・・・・・・・・』
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  同時刻。NERV本部発令所。


  メガネのあんちゃんが背後でボンヤリとしている加持リョウジに向かって声を張り上げた。

「電子戦部隊、活動を開始しました。」

  加持はつまらなそうに鷹揚に肯いた。
「よいよい、良きに計らえ。」



  畢竟、加持という人間はあくまでも水面下での齷齪せず威儀として冷厳、且つ鬱屈で
暗鬱だが殺伐とした驟雨の如く、更に輸贏の渾然たる暗闘で驕慢が即座に死を呼ぶような
暗中模索する世に暗翳を呼び霹靂の響き渡る暗中飛躍を好むのであって、たとえこの闘争に
己が一枚どころか五十枚ほど噛んでいようが決してこのような武力の正面衝突には魅力を
感じなかった。

  したがって、今は女性オペレーター達を物欲しげに物色していたりする。



  冬月はそんな加持を見ながら、ぽつりとゲンドウに声をかけた。
「・・・・・・・・行きたいか?」

  いつものポーズで微動だにしていなかったゲンドウがピクリと動いた。


  しかし、表情を一切変えずに何事もなかったかのように問い返す。
「なんの話だ?」
「いや、何でもない・・・・・・・・・・」


  そのまましばらく沈黙が流れる。




  メインスクリーンに、どこかの商店が爆発炎上する様子が映し出された。
  売り物らしい雑貨が炎に包まれながら道路に飛び散った。




「行きたいか?」
  冬月はまたぽつりと尋ねた。

  今度はゲンドウの答えが返るまで随分と時間がかかった。


「馬鹿をいうな・・・・・・」

  その言葉にはいつものきれがない。


  それに気がつかなかったように冬月は言葉を続けた。
「爆発する家々、頬を打つ熱波、内臓を揺るがす爆発音、天に舞う紅蓮の炎の柱、銃を
撃つ衝撃、鼻をつく硝煙の匂い、皮膚を焦がす真紅の炎、ガラスの砕け散る音、助けを
求める民衆の叫び声、巻き上がる血煙、ヘリの爆音、銃撃戦・・・」

  何を考えているのか、冬月は延々と物騒な言葉を言い続ける。


  突然ゲンドウは立ち上がった。

「冬月・・・・・」


「なんだ?」
  冬月は言葉を並べるのを止めて聞き返す。



「後を頼む。」



  椅子はゲンドウを乗せたまま床の中に沈んでいった。


  それを見送った冬月は小さく、フッと笑うと下に叫んだ。
「兵装ビルを上げろ。弾頭は対人用と対戦車用に変えておけ。偵察衛星との回線を繋げ、上で
起こっている事を直接地上部隊に送るぞ。攻撃ヘリの発進を急がせろ。偵察班へ増援を送れ。
敵勢力の総数の確認をする。手のあいたものは負傷者の回収、救護班の手伝いにまわれ------」

  冬月はここぞとばかりに嬉々として命令を飛ばし始めた。

  欲求不満が溜まっていたのだろうか、かなり過激な指令も混じっている。
  しかし、その命令を嬉しそうに遂行して行くオペレーター達もまた結構危ない方々なの
かもしれない。




くそっ!」 ケンスケは突然切れた電話に罵りながら受話器受けに電話を叩き付け、そのまま 公衆電話のボックスから飛び出した。 目の前では壱中の制服を着たSILFの少女達とまな板やおたまを手に持った『SI 愛護婦人同盟』の主婦の一団が怒声を上げながらぶつかり合っている。 木刀を持った中学生がその母親らしき中年女性に向けて罵り声を上げ、主婦は主婦で 主婦の余裕を持って娘をあしらっている。 家族への不信、積み木崩し、家庭崩壊、愛の無い小市民化の始まり・・・・・・・・ 第三新東京市には破滅の音が聞こえて来ていた。 あの親子をはじめ、『SI促進委員会』の召集を受けてバットを片手に家を飛び出そ うとした時、母親とぶつかり、その時になって始めて母親が『SI愛護婦人同盟』の 一員である事を知り、そのまま乱闘に突入、それを止めようとした『SI特別警護共同 体』の父親も巻き込んで家庭崩壊した家族。 息子が『SI心理革命推進兄貴同盟』の一員だった事を知り、生まれて始めて息子に 手を上げた『シンジレラ女装同好会』の父、それを見た『碇シンジの戦う追随者連合』 の幹部だった娘が家出して二度と家に帰ってこなかった家庭。 数々の家庭を崩落させ、壊変させ、崩壊させながら事態は更に悪化の一途を辿る。 血煙を巻き上げながらぶつかり合う女性集団をカメラにおさめつつ、ケンスケは 阿鼻叫喚の支配する商店街にくらべて比較的静かな住宅地をへ向けて走り出そうと した時、いきなり喉元に鋼鉄の棒が突きつけられた。 「相田ケンスケだな?壱中の?」 名前を呼ばれ、首を軋ませながら声のした方を振り向くと肩の辺りで髪を切り揃え、 第弐中学校の制服を着た少女が自分の背丈の倍はある鋼鉄の棒の先端をケンスケの喉元 に突きつけて立っていた。 「どど、どちら様でしょう・・・・」 ケンスケの答えに少女はスッと目を細めた。 (ああ、死んだお母さん。僕も今から参ります。) ケンスケが面白い事を考えてしまうほどに彼女の殺気は強烈だった。 その時、また新たに背後から声がかかった。 「止めな、雷。SIの友人に失礼だ。」 ケンスケは再びゾッとした。 (SI?シンジに?なんで俺が?) 目の前で強烈な殺気を放つ少女と、まるで幽霊のように背後に忍び寄っていた少女の 声に身も凍る思いで考えたが、動揺と恐怖のあまり思考がまとまらない。意を決して ケンスケは、神様、俺に滑らかな舌を下さい、と祈りながら口を開いた。 「なななな、、よなんよぅ?」 ケンスケの祈りに神様は答えてくれなかったが、少なくとも意味の通った言葉を言え 事にケンスケは感謝した。 「すいません。雷の姉さんが失礼をしました。」 また新たな声が聞こえて来た、それもケンスケのすぐそばで。 驚いて振り返ると異様なまでに青白い顔をした少女がケンスケのすぐ目の前で笑っていた。 「だ、誰んだよぅ?」 その場で腰を抜かして、尻餅を付きながら脅えきった顔で三人の少女を見た。 青白い顔で微笑んでいた少女は長い黒髪をなびかせながらケンスケに手を差し伸べた。 「はじめまして。鬼頭といいます。私達は姉妹で、こちらは次女で『雷』と名乗っています。」 そう言って鋼鉄の棒を手に持った弐中の女生徒を紹介した。 雷と言われた少女はボブカットの髪を小さく揺らしながらケンスケをじっと見ていた。 「こちらは長女の『風』。」 手で指されて、ケンスケは初めて鋼鉄の弓矢を肩にかけたショートカットの少女を見た。 同じくこちらの少女も第弐中学校の制服を着てケンスケをじっと見ている。 「私は末娘で『雨』と名乗っています。本名は申せません。呪い殺されてしまうかも 知れませんから。」 少女はケンスケに手を差し伸べながら、空いた手で自分の胸に手を添えながら言った。 ケンスケは威圧されてその手に掴まる事は出来なかったが、先程にくらべて少しは落ち着いた。 「何の用なんだよ?いったい。」 「相田さん。先程電話をかけていましたよね。もしかして相手は碇シンジさんですか?」 そう言って彼女はケンスケの目を覗き込んだ。 ケンスケが『雨』と名乗る青白い少女の瞳を見た時、思考が止まった。 その目の奥から何か赤い光が頭の中に忍び込み、素早く脳に染み込んでいった。 「電話の相手は誰?」 彼女はケンスケの目からピクリとも目を逸らさずに、ゆっくりと力強く尋ねた。 「い、碇シンジ・・・・・・・・・・・・・」 ケンスケは焦点の合わない目で少女の瞳を見つめながらぼんやりと答えた。 「何を話したの?」 「そ、そこから逃げるように・・あ、危ないと・・・・・・・」 「危ないってどういう事?」 予想外の答えに驚いたように少女は尋ねた。 後ろの姉たちも不安そうに目を合わせた。 「ネ・・・NERVの・・公平分割機構が・・・シ、シンジの家に・・・・・・・・・・・・・」 「いつ?いつ機構の連中は動き出した?」 鉄の棒を持った少女がケンスケに掴み掛からんばかりに尋ねた。 「わ・・・・・・判らない・・・・」 「だったら思い出せ!!」 「姉さん!質問が悪いんです!ここは私に任せて!」 棒を持った少女はがケンスケに詰め寄るのを、末娘が言葉で止める。 その時、鉄の弓矢を持ったショートの髪の長女がはっと顔を上げた。 「なにかいる。手早く済ませろ。多分、御清糾恋愛教団だ。」 その小さな呟きが動揺していた妹二人に冷水を浴びせかけた。 雷を名乗る次女が素早く棒を構えて油断無くあたりを見回した。 末娘の青白い少女は少し早口で尋問を再会した。 「機構をどこで見たの?」 「・・・ト・・・トンネル・・・・NERVへ入る・・・・」 「いつ?」 「さ、30分くらい前・・・・」 「どこへ逃げるように言ったの?」 「言ってない・・・で、電話が、言う前に切れた・・・・中継所の工事で・・・・・・」 「碇君は自分の家に居るのね?」 ケンスケは少女から目を逸らさずにゆっくりと肯いた。 雨の娘はポンとケンスケの肩を叩くと素早く立ち上がった。 「風の姉さん。終わりました。」 雨の少女は、鋼鉄の矢を鋼鉄の弓につがえている長女に言った。 ケンスケは眠りから突然叩き起こされた時のようにあたりをキョロキョロと見回した。 それを無視して弓矢を構えたショートカットの長女は末娘に小さく肯くと呟いた。 「来るぞ。」 次の瞬間、近くの建物の影から全長5mはある巨大な影が飛び出して来た。 地響きを立てながら影は猛然と姉妹たちに襲いかかる。 が、影は突然三姉妹の正面でその巨体から信じられないほど高く飛び上がると、 一番奥にいた末娘の少女めがけて飛び掛かった。 長髪で青白い肌の末娘は突然の事に避ける事ができずに立ち尽くす。 落下してきた影に少女が押し潰されそうになる寸前、いきなり影は巨大なバットで 殴られたかのようにその方向を変え、衝撃音と共に吹っ飛んだ。 影はそのまま少女を飛び越え、近くに立っていたプレハブの住宅に突っ込み、家の壁が 吹き飛ばされ、あたりにもうもうたる粉塵が舞い上がる。 しばらくの間、大穴の空いた家の中で何かが崩れ落ちる音が響く。 すこしして物音は一切しなくなった。 青白い少女はホッと息を吐いた。 「助かりました。姉さん。」 そう言って長大な鋼鉄の棒で、痛烈な突きを放ったままの形で固まっていた次女に 向き直った。 しかし、次女は小さく首を振った。 「いや、あれはゴーレムだ。」 その呟きが終わるかどうかの時、家に突っ込んで動きを止めていた影が突然立ち上がった。 あたりの明かりに照らされ、その影は正体を現わした。 「なるほど・・・・」 青白い肌の少女の呟きがやけに大きく辺りに響いた。 それは少なくとも巨大な熊のように見えた。 普通では有り得ない巨体と、皮膚が鋼鉄で出来ている熊。 (も、もういい加減にしてくれ・・・・) ケンスケはついて行けずに腰を抜かしたままべそをかいていた。 両目が爛々と赤い光を放ちながら三人をねめつける。 突然、熊はその巨体を屈めた。 一瞬後に今まで両目があったところを二本の矢が疾り貫いた。 「ただのゴーレムにしては動きが速い。北王の人形だな。やつらめ、碇シンジを手に 入れる為ならば手段を選ばんか。」 長女は新たな矢をつがえながら冷静に呟いた。 鋼鉄の熊は四つん這いになり、いつでも飛び掛かれる体勢をつくる。 「近くに御清糾恋愛教団の鬼影派魔道四天王がいる。雨、頼んだ。」 長女の命令に青白い肌の少女は肯き、口の中で小さく何かを呟くと闇に溶けるように その場からフッと消えた。 「雷、ここは任せられるな。」 次女もなにも言わずに肯き、棒の尻を掴んで熊の化物に向かって走り出す。 「そこの。」 そう言って彼女はケンスケに声をかけた。 「立てるか?」 腰の抜けているケンスケは首をフルフルと振った。 「立て、でなければ教団の奴等に掴まる。」 その時、熊が咆哮を上げて二本足で立ち上がった。 鉄の棒をビリヤードのスティックのように構えた雷は、小さく飛び跳ねたかと思うと 瞬間移動かと思うほどの踏み込みで咆哮を上げる熊の喉元めがけて強烈な突きを放つ。 が、熊は鈍重そうな外見に似合わない素早さで棒の前に左手を出して躱そうとした。 雷は構わずにそのまま突きを放つ。 鋼鉄の棒は熊の左手にぶち当たり、その方向を逸らされる。 しかし、熊の左手はその衝撃で砕け散った。 鋼鉄の破片が飛び散り、千切れた手首からは紫色の成分不明の液体が迸る。 鋼鉄の熊は砕けた左手には構わず、残った右手を突きを放って動きの止まった雷めがけて打ち下ろす。 雷は地面に棒を突き立て、その反動で身を反らせて紙一重で巨大な鋼鉄の爪を避けた。 目標を失った右手は、道路を破砕し、アスファルトを数トン分を地面からえぐりとる。 砕け散ったアスファルトの破片は建ち並んだ商店の窓ガラスを粉々に打ち砕いた。 (こ、こんなの嘘の世界だ・・・・) ケンスケは漏らしそうになるのを懸命に堪えながら思った。 彼に降りかかるガラスの細かな破片は既に彼の意識の中に入っていなかった、 何度目になるか判らないがその時、突然アスファルトが波打ち、地面に亀裂が縦横に走った。 風の切迫した声がケンスケに聞こえた。 「早く逃げた方がいい。やつらに捕まったら脳をいじくられるだけではすまないぞ。」 そう言ったかと思うと、突然彼女は飛び上がった。 次の瞬間、今まで彼女の立っていた場所から角を生やした馬鹿でかい芋虫に似たものが 飛び出して来た。 雷の少女は空中で四回転二回捻りをして角の生えた芋虫から数m離れたところに着地した。 角のある芋虫は巨大な牙を剥き出しの口から数え切れないほどの触手をウネウネさせ ながら雷の少女を威嚇する。 彼女は皮肉るように小さく笑った。 「キャリオンクロウラーの変種、いや、合成獣か。南王め、これで何人目だ。」 そう誰にともなく呟くとケンスケの方を向いた。 「早く逃げろ。南王に捕まればこういうのに改造されるぞ。」 そう言われてケンスケはギョッとしてそこにいる全長5mはある巨大な虫を見た。 言われてみれば芋虫の頭の上に生えている角のようなものはなんだ? あの角の一番上は見ようによっては髪に見えない事もない。 それになんで角なのにのような形をしているんだ? 頭のようなものに繊維が垂れ下がり、首のようなものから肩のような物がある。 そしてそこから腕のようなものが垂れているし、胸のような膨らみは性の乳房に 見えないこともない。 まるで人間女性の半身がそのままあの芋虫に繋がっているような・・・・・・・・ ケンスケはそこで考えるのを止めた。 そうしなければ正気を維持できないと無意識のうちに判断した。 アドレナリンが大量に分泌され、彼はその場から飛ぶように走り去った。 彼の趣味とカメラマンとしての管轄はあくまで生活と社会。 剣と魔法、もしくは人外魔境は管轄外だった。
「どうしたの!?」 アルファが声を上げ、それに通信員がかぶりを振りながら答える。 「判らないわ!電波妨害かと思うけど、携帯も無線も繋がらないじゃ・・・・・」 こちらの指揮所は突然の電波撹乱と電話の不通のために大混乱に陥っていた。 「どうする?このままじゃ、指揮なんてとてもじゃないけど出来ないわよ。」 情報局長のチャーリーは言わずもがなの事を言った。 アルファは机の上一杯に広げられた第三新東京市全域の地図を見、そしてその上に 並べられた敵と味方を表わす駒を睨み付けながら考えた。 やがて断腸の思いでここを放棄する命令を下そうとした時、彼女の携帯電話が鳴った。 一瞬、その場の人間が全員動きを止めてアルファを見た。 少しためらったあと、アルファは電話を取った。 「はい、こちらアルファ。」 「シエラよ。元気?」 「シエラ!?あなたなの?どうして?」 「落ち着いて、アルファ。独断と言われても仕方ないけど、外務局の方でNERVと 一時的に共同戦線を張る協定を結んだの。」 「協定ですって!?あぁ、まあいいわ。それでどんな協定を結んだの?」 長年つちかった自己暗示にも似たコンセントレーションでアルファは即座に落ち 着きを取り戻した。 「エヴァのパイロット3人の保護と安全な場所までの誘導。それと暴動の責任回避の 口実。今はNERVの車でそっちに向かってるから間違って撃ち殺さないでちょうだい。」 「わかった。で、見返りには何を要求したの?」 「フィフスの生きたの細胞のサンプル。」 それを聞いたアルファの目が鋭く光った。 「綾波レイ対策委員会ね。テンゴの要請でしょ?」 「仕方ないじゃない。パイロットを保護するってだけでサンプルを貰える訳ないんだから。」 「別に文句を言ってる訳じゃないって。で、責任回避の口実ってのは具体的に何をするの?」 「聞きたい?」 アルファは少し考えてから答えた。 「止めとく。あの金髪の黒魔術研究会会長さんがどう動くかなんて聞いたら絶対に 反対しちゃうもの。」 「正解。そっちで使ってる指揮無線の周波数と携帯の番号を教えて。NERVに ジャミングを解除してもらうから。」 「了解。チャーリーに代わるわ。」 電話を情報を一手に任されるチャーリーに渡すと一人の監視員に尋ねた。 「碇君たちは?」 「二分前に部屋を出たようです。」 「では大至急、エヴァのパイロットたちを保護に行きます。駐車場の生き残ったアク ションサービスの要員は彼らのガードに。あたしも行きます、デルタに見つかる前に 出発。万が一見つかった場合には囮となって時間を稼ぐものが必要です。志願者は 完全武装の上、ホールまで。情報・事務・保守担当者のみ。通信・指揮・作戦担当者は 受け付けません。では急いで!」
「こちらジャンボクィーン!!レッドポーン、おくれ!!」 女性士官は戦車の車長席に座り、急に交信不能になった仲間に通信をつなげようと していたが、無線機は気に触るノイズを発するだけで、向こうからの返信はない。 「チッ!感なし。ジャミングか」 冷たい美貌の女性士官はおかっぱの頭を振りながら一人で愚痴る。 しかし、その声に不安の色はカケラも無かった。 「こんな事もあろうかと予備の周波数を決めておいてよかったわ。」 彼女は再び誰にともなく喋ると、手元にある改造通信機をいじる。 「こちらジャンボクィーン、レッドポーン、おくれ。」 『・・・・ジッ・・・・・・ザザ・・・こちらレッドポーン、敵のジャミングらしいわね。』 隣を走る真紅に塗装された74式戦車からの返信が帰ってきた。 彼女は思わずニヤリと笑った。 戦車に乗り込んだ『SI公平分割機構』に所属するNERVの女性士官は、身を ゆるがす振動に歯をくいしばりながら、第3新東京市の中央通りを驀進しながら、 シンジの住むマンションへ向けて邁進していた。 ジオフロントから脱出した時、戦車の数は彼女の乗る一台しかなかったが、今では 地上に隠しておいた戦車の他、自走高射機関砲や装甲戦闘車、榴弾砲を積んだ戦闘 トラック、その他、各種戦闘車両の混成部隊となり、NERVの誇る戦車中心で構成 されたタスクフォースにも抵抗できるまでになっていた。 そして、中央通りを右折した時。
「敵戦車5台、11時!!」 砲手席から叫び声が上がった。 ワックは衝撃を受けて目の前の窓を覗く。 そこには微妙に姿の変った違う改造90式戦車を先頭に、英国チャレンジャー、 独のレオパルト、ロシアのT80、仏国のルクレール・・・各国の一流主力戦車が その威容を並べていた。 車長席の女性士官はとっさに予備周波数を使った部隊指揮無線に叫んだ。 「全車前進!行く手を遮るものは実力でこれを排除しろ!!」 その時、道路に鎮座していた90式戦車が発煙弾を発射した。 一瞬で中央通りが煙幕がまかれて何も見えなくなる。 濃厚な白い煙にまかれて視界がほぼ0mの状態の中、砲手は熱画像装置を頼りに敵と おぼしき機影に向かって砲台を向ける。 「HEAT弾装填ずみ!用意良し!!」 砲手席から声が上がり、車長席にすわる女性士官は即座に命令する。 「撃てぇ!」 「発射!!」 砲手が命令を反唱し、発射音とほぼ同時に着弾した爆音が響く。 「命中!」 もうもうたる白煙の中、敵の改造90式に装備されたリアクティブアーマーが HEAT弾の着弾に重なって、大きな爆発を起こしたのが見えた。 90式の装甲全体に貼り付けられた爆発反応装甲を前に、HEAT弾の効果は あまり期待できない。 砲手は急いで次弾の装填を行った。 案の定、着弾した部分から白煙を上げながら90式が進み出てくる。 その時、彼女達が装填を終える前に、隣を走っていた74式戦車の砲塔が火を吹いた。 それと同時に改造90式の120mm砲台も火を吹く。火線が交差し、次の瞬間、74式と 90式の前面装甲が爆発を起こした。 一見相打ちに見えたそれは、90式はリアクティブアーマーを爆発させながら74式の HEAT弾に耐え切っていた。 だが、74式はそれっきり沈黙した。 「次弾装填完了!」 再び、砲手の声が響き、ワックは反射的に叫んだ。 「撃てぇっ!」 直後に主砲を発射した大きな反動がM1A1を揺さぶる。 すぐ後に砲手の命中を告げる叫び声が響いた。 「次!サボー装填!!」 車長は叫んだ。 「サボー装填!」 「サボー装填完了!!」 「撃てっ!!」 次の瞬間、耳を聾する発射音が車内に響き、ほぼ同時に命中音が聞こえた。 コーダイト火薬の匂いの充満する車内から女性士官が覗き窓を通して外を見ると 送弾筒付徹甲有翼弾の直撃を受けた正面の90式は砲塔を歪めて動きを止めていた。 その時、視界の隅で何かが動いた。 それがなにかを脳が確認する前に彼女を叫んでいた。 「T80、10時!!サボー装填急げ!!」 その叫びに砲手は電撃を受けたように飛び上がって照準をセットした。 その脇を装軌を轟然と響き渡らせ、35mm機関砲を乱射しながら89式装甲戦闘車が 切り込んで行き、そのあとを機構の歩兵部隊が自動小銃と手瘤弾を手に特攻をかける。 こうして第三新東京市中央通りでNERVの戦車部隊と『SI公平分割機構』の 混成自動車化狙撃部隊との最初の戦闘へと雪崩れ込んでいった。
周囲で吹き上げる炎は全てを照らし出すかに見えた。 しかし、ビルの谷間、下水道、屋根の上まではその手は届かない。 彼らは光の届かぬ場所を選び、影から影、闇から闇へと素早く、そして静かに 移動していた。 背に大きな野戦通信機を背負った男が不意に立ち止まり、先頭を疾走する人間に 声をかけた。 「隊長。三佐殿。本部から通信です。」 その声に都市迷彩に身を包んだ筋骨隆々な影が足を止めた。 三佐と呼ばれた大きな人影は、暗い路地裏へ通信機を持った男を手招きし、他の 者には身を隠すように手で指示した。 三佐は男の背中から受話器を取る。彼はしばらく耳を傾け、しばらく口論のような ものが続き、やがて渋々ながら肯いたあと電話を切った。 部下は静かに彼の言葉を待った。 「命令が変更になった。」 その言葉を聞き、部下の動揺する気配が闇の中に流れた。 「一佐からの直接命令だ。これより我々はこの機に乗じてサードチルドレンの捕獲に向かう。」 彼らは最高のプロフェッショナルだった。 そんな法外な命令に一言も声を立てず、疑問を挟まずに次の言葉を待った。 三佐が口を開く。 「一曹。」 「・・・・・・はっ。」 立ち上がって現われた影は、意外にもほっそりとした若い女性のものだった。 三佐は一曹に近づくと、内閣情報調査室のスパイが撮影したサードチルドレンの写真と、 彼の詳細な生い立ちを記した書類を渡した。 軍人らしく髪を短く切った若い女性はその書類を手に取ると、物問いたげに三佐を見た。 「これはあらかじめ用意してあったものだ。頭に叩き込んだら次の奴に回せ。」 そう言われて手に取った写真を見た一曹は、次の瞬間には頭にわざわざ叩き込む必要は なくなった。が、何故かその写真からいつまでも目を離そうとしなかった。 ぼうっとした声で彼女は筋骨逞しい大柄の三佐に尋ねた。 「あの、隊長――――――」 「だめだ。」 一曹がみなまで言うのを待たず、三佐は苛立たしげに彼女の言葉を遮った。 「だめだ、写真の転載は厳禁だとさっき釘をさされた。あのババアめ。ケチケチしやがって・・・・」 その言葉に一曹はあからさまに溜息をついた。 なおも名残惜しそうにその写真を見つめながら、他の人間に急かされてやっと次に渡した。 しかし、三佐は意気消沈してしまった一曹に声をかけた。 「ただ、良い話もある。もし任務に成功したら、彼の保護と観察は我々の担当にして くれるそうだ。」 「嫌ですよ。ただ、外から彼を監視するだけだったりしたら。」 三佐は嬉しそうに首を振った。 「違う。彼の同居人兼保護者として、サードチルドレンの生活状態について観察するそうだ。 たしか、葛城とかいう三佐と同じ事を我々でする訳だ。無論、志願者のみだがな。」 幸運というべきだろうか? 怪しい微笑みを交わし合ったのはこの二人だけだった。
地上の喧騒を離れ、二十階建ての雑居ビルの屋上は冷たい風に包まれていた。 手摺りもない屋上には影が二つ。 彼らを見つめるのは、遥か頭上で孤独に輝く満月だけだった。 晴れ渡った夜空の元、そこの空気が冷たいのはビルの屋上だからというだけでは ないらしい。二人の周囲には冷気の固まりが漂っているようだった。 一人は漆黒のローブに全身を身を包み込み、もう一人は壱中の制服を着て金色に 輝く髪を風になびかせている、異様な2人組だった。 ひときわ強い風が屋上を疾った。 壱中の制服を着た少女の背中にサラサラと流れる金色の髪が揺れ、同時にスカートの ポケットから微かな電子音が響き始めた。 彼女はスカートのポケットの中から携帯電話を取りだし、耳に当てた。 「立花です・・・・・・」 その声は小さいながらも人を凍り付けにさせる事が出来そうなほど冷たく、そして 美しい音色だった。 携帯電話からはSILF外務局長シエラの声が聞こえて来た。 『テンゴ?シエラよ。NERVとの約束は取り付けたわ。あとはよろしく。』 「ありがとう・・・・、助かります・・・・・」 テンゴと呼ばれた少女は真っ赤な唇に薄っすらと微笑を浮かべて礼を言った。 彼女は電話を切り、黒ローブに身を包んだ影に声をかけた。 「お舘さま・・・・・、準備が整いました・・・・・・」 が、その言葉を聞いても漆黒のローブの影はピクリとも動かない。 テンゴもそれ以上は口を開かない。 遥か地上からは女たちの怒声や悲鳴が聞こえている。 どこかで大きな爆発が起きた。 真紅の炎が舞い上がり、遥か屋上にいる二人までも赤く照らし出す。 地上は紅蓮の炎が渦巻く灼熱の地獄と化した。 綾波レイ対策委員長、別名黒魔術研究会会長のテンゴは金色の髪を炎に照らされ ながら、渦を巻くその炎を眩しそうに見つめ、じっと佇んでいた。 やがて、爆発と炎を生き延びた女たちの叫びがまた聞こえ始めた。 その時、お舘さまと呼ばれた黒い影が口を開いた。 「良い夜です・・・・・・・・・・・・・・」 ぞっとするほど冷たい声。 しかしどこかテンゴの声を彷彿とさせた。 テンゴは小さく首を動かし、切れ長の華麗な瞳で人影を見た。 その姿は先程とまったく変らず、その言葉が本当に影から発せられたのか疑問を 抱いたが、彼女は経験から、その言葉が影から発せられたという事を知っていた。 「良い夜です・・・・・・、本当に・・・・・・・・・・」 影はもう一度繰り返した。 黒いローブが小さく夜空を仰ぎ見たように見えた。 風が吹き、ローブがゆったりとはためいた。 ローブから一本の腕がその風を掴もうとするかのように伸ばされる。 「この風・・・・・・・、破壊・・・・・・・暴力・・・・・・そして血の香り・・・・、なにより生命に 満ちています・・・・」 歳をとっているようにも、若くも聞こえる声は夢見るように響いた。 「今宵は満月・・・・、生命の祭典・・・・・・、それは死の祭り・・・・・・我らの・・・・・」 テンゴはローブの呟きに不安を憶えた。 「お舘さま・・・・、急ぎませんと・・・・・・・」 漆黒の影は物音一つ、ローブが擦れる音も立てずにテンゴを振り向いた。 「月は夜の闇を払う唯一のもの・・・・・、闇は恐れと無知の混ざり合う混沌・・・・」 ローブの人影がゆっくりと小さく首を振ったような気がした。 「だからこそ・・・、人は混沌を打ち払う月を神聖なものとして崇めた・・・、それなのに・・・」 影は手を伸ばし、地上を指し示す。 「ごらんなさい、立花さん・・・・・、満月は人を狂わせる・・、人を狂気へと駆り立て、人は 破壊への欲求を押さえ切れず、自らを傷付ける・・・・・、でもそこには生命があります・・・・・、 我らの一族には無い輝きが眩しいほどに感じられる・・・・、儚く美しいその輝きが・・・・」 立花と呼ばれたテンゴは立ち尽くしたまま、沈黙を守っていた。 ローブの人影がテンゴを見て小さく微笑んだような気配が彼女に伝わった。 人影は腕を伸ばし、自分の頭を覆う頭巾を取る。 そしてテンゴと同じ金色の髪が滑らかに背中に滑り落ちた。 風が吹き、二人の金色に輝く髪が静かに揺らめいた。 「立花さん・・・・・、わたくしが見えますか?」 その顔は驚くほど若く、そして双子と言っても通用するかもしれないほどテンゴに 似通っていた。 しかし、その目は幾星霜の年月を悲しみと共に生き、傷つき、なおも歩き続ける事を 強要された者の悲哀に溢れていた。 テンゴはいつも自分と良く似たこの顔を見るたびに息が詰まる思いがする。 彼女には肯くしか出来なかった。 ローブに身を包んだ女は微笑んだ。 「もはやわたくしには自分で自分の存在を確かめる術はありません・・・、太陽の光は 私の体を焼き尽くす・・・・・、人の作り出した光は全て私を素通りする・・・・、死ぬ事が 許されないこの体は・・・・、輝きの中で生きる事も許されていない・・・・」 彼女は自分を足元を見た。 「唯一、わたくしの存在を許す月の光でさえ私の上に留まらない・・・、影も無く・・・、 鏡を見てもそこには何も無い虚空だけ・・・・・・」 顔を上げ、テンゴを正面から見つめる瞳は狂おしいまでの孤独に包まれていた。 「自分の目が自分の顔を見られないのに・・・・・・、どうして自分の存在を確かめる事が できましょう・・・、私がわたくしの存在を確かめられた時間は僅か十五年・・・、その後 の500年以上に及ぶ歳月・・・、私が本当に存在するかどうか確かめる術は一つだけ だった・・・・」 彼女は白い手を伸ばし、黙って立ち尽くすテンゴの頬にそっと触れた。 テンゴは気持ち良さそうにその冷たい手に身を任せ、ゆっくりと目を閉じた。 「・・・あなたが、私が存在すると言うのなら、きっと私は存在しているのでしょう・・・、 でもあなたには私と同じ道を歩んでほしくありません・・・・・・・、愛する人の血を啜る 事でしか自分を確かめられない人生などに何の意味がありましょう・・・・・・・・・」 テンゴは薄っすらと目を開き、自分の頬に当たる冷たい手を握り締めた。 ローブを着た女性はゆっくりを手を引きもどした。 「・・・・・立花さん・・・、我が遠き子孫の子・・・・・、我が娘・・・・・、行きましょう・・・、 あなたの愛する碇シンジがあなたの者となったとき・・・、その時こそ・・・、あなたは 一族の呪われた血から解放されるのです・・・」 テンゴは自分から離れていく手を強く掴んだ。 ここでは本編とはほとんど無関係のシリアスドラマが重大な転機を迎えていた。 「ですが、お舘さまは一体どうなさるのですか?・・・・・お舘さまも彼の事を―――」 「お黙りなさい。」 ローブを着た女性は初めて強い口調でテンゴの言葉を遮った。 「碇シンジは定められし時に生まれた、定められし者です・・・、彼の寵愛を受けるの は容易な事ではありません・・・・・・、しかも我らの計画はまだ始動したばかり・・・、渚 カヲルを手に入れ・・・、彼を我が眷族に迎え入れ・・・、彼の力を使って綾波レイを封じ 込める・・・、そして惣流アスカをはじめ、NERVやSILF、機構と言った組織を 相手に勝たなくては彼を手に入れる事は叶わないのです・・・、一瞬の躊躇いが敗北を、 しいては破滅を招く・・・、その程度の事で迷うようでは・・・・、到底彼を手に入れる事は 叶いません・・・」 その時、テンゴは自分の身勝手な欲求が自分の敬愛する主を傷付けていた事を知った。 彼女は耐え難い自己嫌悪を感じて掴んでいた手を離した。 しかし、少女の姿をした年老いた女性はテンゴに微笑んだ。 「・・・気にする事はありません・・・、私はもう血の呪いなしには生きていけなくなってし まった・・・・・、長い年月がわたしを血を啜って生きるだけの獣に変えてしまった・・・・・、 あなたが血の呪いから解かれた時・・・、その時こそ、私はわたくしにこの様な罰を与えた 神を嘲笑いながらこの世を去ります・・・」 テンゴはハッと顔を上げた。 若き老女は首を振った。 「・・・わたくしは長く生き過ぎました・・・・・、そろそろ休ませてくれてもいいでしょう・・・・・・」 テンゴは突然溢れて来た涙を見られないように顔を伏せた。 老女は肩を震わせる少女を優しく抱きながら囁いた。 「・・・・涙は私が最初に無くした物の一つです・・・・、さあ、立花さん・・・、対策委員会の 委員長としての役目を果たしなさい・・・・・、私は舘から連れてきた獣を解き放ちます・・・・、 忘れないで・・・・、まだ始まったばかりなんですよ・・・・・・」 美しい老女はテンゴの肩を抱きかかえたまま微笑んだ。 テンゴは目の前の女性の顔を見、やがて力強く肯いた。 年老いた少女は再び頭巾をかぶり、テンゴから離れる。 二人の視線が絡み合った。 テンゴが口の中で小さく何かを呟くと、彼女の姿は風に溶けるように掻き消えた。 一人残されたローブの影はしばらく立ち尽くし、地上の争いを見守った。 「・・・・・今宵は満月・・・・、それは血の祭典・・・・・・・われらの祭り・・・・」 頭巾の中で血のように赤い唇が動いた。 笑みを浮かべていたのかも知れない。 気のせいなのかもしれない。 ただ、チラリと覗いた真っ白い歯の中に、異様に長い犬歯がぬらりと光ったような気がした。 次の瞬間、彼女は姿を変じて飛び去っていった。 誰かそれを見つけた者がいるのだろうか? 満月の夜空に巨大な蝙蝠が飛んでゆくのを・・・・・・・・・・・・・・・・ そこは再び沈黙がおり、月の光と地上から微かに聞こえる喧騒がその沈黙をより一層重くした。 対使徒迎撃要塞都市、世界最先端の科学技術の集合した都市、第三新東京市。 いま、そこは魑魅と魍魎が跋扈し、百鬼が夜行する人外の魔境と化していた。

<つづく>


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