* 愛と爆炎の聖誕祭 *

吉田




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                 30.洞木ヒカリの三つの憑物                  
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    トウジ  :「おさげ、そばかす・・・・・・・あと一つはなんや?」
    ヒカリ  :「付き物、じゃないって・・・・・(^^;」 
    ケンスケ:「・・・チャイナドレスじゃない?」
    ヒカリ  :「だからそうじゃないって言ってるでしょ(怒)」
    トウジ  :「・・・・・・何でお前がそんな事知っとんるや(怒)」
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  チーン、という仏壇の鉦を鳴らしたような音と共にエレベーターの扉が開き、
シンジ達はエレベーターに乗り込んだ。
  シンジ、リツコ、トウジ、ブラボーの4人は黙って掲示板に映った数字が下
がっていくのを見つめていた。

  ちなみにシンジは、なかなか起きようとしないレイを腕に抱き、気を失った
ままのアスカを背中に背負っている。
  ナツミは憮然とした表情でレイとアスカを担ぐシンジを見ている。

  シンジはその視線をとても肌で感じていたが、わざと気付かない振りをして
黙って掲示板を眺めている。と突然、アスカがモゾと動き、シンジは妙に艶っ
ぽい声を上げた。

「ア、アスカ、首に息を吹きかけないで・・・・・・・」



  つまる所アスカは、あの『ハレルヤ』攻撃から“やっと”解放されるとすぐに
気を失い、シンジに担がれてここにいるのである。が、レイもアスカも、トウジや
リツコが背負おうとしても、本当に寝てんのかこの野郎、と言いたくなるような
拒絶----金的、噛み付き、髪つかみ、ストレートパンチ etc----を示し、結局シ
ンジ以外には自分を背負わせようとしなかった。


  現在の三人の状態を詳しく説明すれば、レイの両手は、どういう訳かリツコの
持っていた手錠をかけられてシンジの首に回され、シンジにかかる過重を少し軽く
している。

  時々レイがシンジの胸に顔をこすり付けて気持ち良さそうにムニャムニャとする。
  シンジはその度に、まるで猫のようだ、などと思ってしまう。



  アスカはまるで赤ん坊のように、やはりどういう訳かリツコの持っていたナイロンの
ロープでシンジの背中にくくり付けられ、両手はレイと同じく手錠で固められてシンジ
の首にかかっている。
  しかし、気を失いながらもシンジをからかう事は忘れず、時々シンジの首筋に息を
吹きかけては、その度にシンジをナヨナヨっとさせていた。

  賢明な方々にはすでにお解りのとおりシンジはレイ+アスカ+装備品の、合わせて
80kgを越える重量を抱えている。
  80kgという重さがどれほど重いかというと、一般に中学3年生でバーベル80kgを
背負ってスクワットが一回でも出来れば結構な力持ちである。
  ちなみに私(作者)が高校1年の時は80kgを持ち上げられる人間はクラスでも五、六
人しかいなかったのを脳筋バカの体育教師が怒っていた。
  ・・・・・閑話休題



  そしてシンジはそれだけの過重を抱え込みながらも、アスカが首筋に息を吹きかけた
時以外はよろけもせずに、軽々とは行かぬまでも、さほど苦にせずに立っている。

  シンジは華奢な外見に似合わず、意外に服の下はマッチョなのかもしれない。


  その上、アスカの胸の膨らみが背中にある上、レイには首に抱き着かれている状況に
おいて表情を変えないどころか、正々堂々と腰が引ける事なく直立しているのは、実は
硬派だったのか、彼女達を異性として認めていないのか、馴れているからなのか、そう
いう女体の解剖学的な見地からの興味を持たないのか、その落ち着いた表情からは判然
としない。


  その時、かすかな過重と共にエレベーターは停止し、ドアが開く。

  しかるのち、彼らは凍り付いた。



  彼らが見たものは黒焦げになった伊吹マヤだった。
  マヤは髪はチリチリのアフロヘアーになり、顔や服はすすけて真っ黒になって虚ろな
瞳で遥かと奥を見つめながら壁に寄りかかって座っていた。
  まるで都会の駅にいる一番汚いホームレスのようだ。



  やはりマヤは、何かに取り憑かれたヒカリの「お友達?」という質問に「いや、そう
いうわけじゃないけど」という言葉を返してしまい、こんなになってしまった。
  一体どうすればここまで真っ黒に煤けさせる事ができるのか考えるだに恐ろしい。



  あまりの光景に、シンジ達が唖然としていると、危うくエレベーターが閉まりそうになり
リツコは慌てて閉まりかけた扉に身体を割り込ませると、マヤに駆けよった。
「マヤ!!どうしたの!?洞木さんはどこ!?」

  リツコはマヤの肩を揺する。しかし手の平が真っ黒になってしまった。
  とたんに顔をしかめながら、今度は足でマヤを揺り、不機嫌な口調で命令した。
「マヤ、起きなさい。」

  壁に寄りかかって力尽きているマヤを足で揺する金髪の美女。

  とにかくその声に、日々リツコから調教されてきたマヤはハッと目を開ける。
  しかし、さすがにダメージは大きいらしくまともに口を聞く事ができない。

「セ・・・ンパイ?・・・・ほ・・・洞木・・さん・・に・・・・・・・・・ごほっ」

  残った全身の力を振り絞ってそこまで言うと、口から煙を吐き、またもや気を失ってしまった。

  しかし、トウジは衝撃を受けた。
(まさか委員長は暴動に巻き込まれて、暴徒共にさらわれてあんな事やこんな事
を強要されているんじゃ・・・・・・)

  マヤは、ヒカリにやられたという事を伝えようとした。しかし、トウジは実に
思春期の少年らしい誤解を抱きつつ、焦りに満ちた顔でリツコに尋ねた。
「もしかしてイインチョは暴動に巻き込まれたとか!?」

  リツコは冷静に考えた。
「そうね、そういう可能性がないわけでもないわね。」
  その時、外から爆発音と一緒に少女の叫び声のようなものが聞こえてきた。
  トウジは一瞬リツコと顔を合わせると、つぎの瞬間には必死の形相で外の駐車場に
向かって走り去った。




冷たい風が吹いた。 しかし二人の少女は向かい合ったまま、ピクリとも動かない。 かつて駐車場と呼ばれていた場所は、今ではまるで原爆が爆発した直後の場所のように 瓦礫が撒き散らかされ、煙の匂いが充満していた。 ショートの髪をした少女がひび割れたアスファルトの上で微妙に重心を入れ替える。 その瞬間、その少女は地を蹴り、おさげの少女との間をつめた。 おさげの少女は間合いを保つ為に後ろに飛んで下がった。 しかし、短髪の少女の瞬発力は驚異的だった。 一瞬でそばかすの少女を木刀の間合いに入れると、即座に少女の胴体に必殺の突きを叩き込む。 その突きは三本に霞んで見えた。 三段突き。あまりに早すぎて人の目には捉え切れなかった。 だが、同時にそばかすの少女の上半身もいきなり霞む。 彼女もまた、人の目に捉え切れないスピードで突きを躱した。 両肩を狙った最初の二段を避け、少女は鳩尾に入る三段目を飛び上がって避ける。 敵に避けられたことを一瞬で悟った短髪の少女は、瞬時に木刀を引きもどすと、下から すくい上げるように切り返す。 白木の木刀が月明かりに照らされ、その軌道に光の残滓を残す。
とおっ、胎蔵禅少林寺稲妻蹴り!! 膝を曲げて飛び上がった少女はそう叫ぶと、片足の蹴りで、素早く切り戻された 木刀を払いのけ、もう片方の足で突きを見舞った少女の顎へ爪先を叩き込む。 短髪の少女は目に霞むほどのスピードで叩き込まれた爪先を、これもまた驚異的な 動体視力で身をのけぞらせ、紙一重の差で躱す。 突きをかわされた少女はそのまま後退り、稲妻蹴りを見舞ったそばかすの少女 も着地すると、数歩下がって間合いをとった。 その時、ショートカットにやや吊り目の少女は顎にちくりとした痛みを感じた。 顎には剃刀で切られたように、髪の毛ほどの赤い筋が浮かび上がっている。 先程の稲妻蹴りを完全に避けきったわけではなかったらしい。 しかし、見ればそばかすの少女のスカートも3cmほど切り裂かれている。 彼女もまた短髪の少女の突きを避けきっていなかったのだ。 それはこの戦いで始めてお互いが負った傷だった。 そして、ふたたび少女達は動かぬ彫像と化した。 その時、 イインチョウ!!! 少年の叫びがかつては立派に駐車場だった最終戦争後のような広場に響き渡った。 =============================================================== 31.ガニマタの少年 =============================================================== トウジ:「ちょっと待てぇーい!!!」 アスカ:「なによ!うるさいわね!!」 トウジ:「なんやこのタイトルはっ!」 アスカ:「イカサマな関西人なんてみんなガニマタなのよ!」(注:彼女は偏見に凝り固まっています) --------------------------------------------------------------- そばかすの少女は首を振ってを叫んだ少年を見る。 彼女を呼んだのは鈴原トウジだった。 デルタは、現在何に憑かれているのかわかる人の限りなく少ないヒカリを仕留める 一千一遇の機会を、あえて無視してトウジを見た。 トウジは、彼女達の戦いに巻き込まれ、まるで世紀末の世界と化した駐車場を走り 抜けてヒカリに駆け寄った。 ゴジラに踏み潰されたようにペシャンコになった軽トラックの上を走り抜け、溶けて ガラス質になったクレーターの上をクツの裏のゴムを溶かしながら駆け抜け、土爪が 暴れまわったような溝が縦横に走っている地面に足を取られながら、プログレッシブ ナイフに切断されたように鋭利な断面を見せて真っ二つになっている青いルノーのそば を抜け、強力な烈風に煽られたように根元から引き千切られている巨木を飛び越えると 駐車場のど真ん中にできた底なしの巨大な縦穴を迂回し、黒焦げのから揚げになった 四人の少女のそばを走り抜けて、そうしてやっとヒカリの隣に着いた。 「イインチョ!大丈夫か!?」 動転した少年に、見ればわかるだろ、などという言葉は通用しなかった。 トウジはヒカリの肩を強くつかむと目をのぞき込んで尋ねる。 ヒカリは空ろな光を宿した瞳でトウジを見詰めた。 「お友達?」 相変わらずの質問にトウジはつまった。 一瞬の躊躇のあと、トウジは何となく顔を赤らめながら肯定した。 「そ、そうや。」 その言葉を聞いたヒカリは、すっと微笑むと、急に力がぬけたようにその場に倒れ込んだ。 慌ててトウジはヒカリを抱きかかえると、木刀を構えたまま拍子抜けした表情の デルタに顔を向けた。 「おい、お前さん。救急車を急いで呼んでんか。」 トウジのセリフを聞いて、貴様どこの関西人だ!、と突っ込みたいのを必死で こらえながら、デルタはトウジを睨み付けた。 「馬鹿にするのもいい加減しろ!!」 久しぶりの死力を尽くした決闘を邪魔された彼女はひどく不機嫌に叫んだ。 そのまま、自顕流二の太刀要らずの蜻蛉の構えでトウジもろともヒカリを切り捨て ようと木刀を肩まで持ち上げる。 その時、静謐だが凛とした声が駐車場に響き渡った。 「やめなさいデルタ。」 聞き覚えのある声に振り合えると、大きな眼鏡をかけたSILF法制局長エコーが 夜風に制服のスカートをそよがせながら静かに立っていた。 「やめなさい、今はそれどころじゃない。」 もう一度言いながら、エコーは顔に大きすぎるメガネを指でかけなおした。 また風が吹いて彼女の三つ編みの髪を揺らめかせた。 「対抗組織が団体で碇君をさらいに来てる。」 その言葉にトウジもデルタも、二人とも目を剥く。 「どうして!あの人が目標になるなんて今まで一度もなかったじゃないか!」 「なんや!?あいつがなんかこの騒ぎに関係しとるんか!?」 エコーは騒ぐ二人を怜悧な目を向けた。 「当然ブラボーに対する報復も含まれているわ。だけど今では大多数の後援組織が彼の 身柄を確保し、自分達の組織の擁護を要請して認知され、公認化する事が最優先の目的 になってるの。」 さすがに司法試験に合格するだけあって漢字が多い。 しかし彼女の言葉は間違いではないが必ずしも正しいとは言い難い。なぜならシンジの 後援組織の総数は第三新東京市だけでも50を超え、更には個人で運営している所も入れ ると、その数は軽く100を超える。 それだけあると、分刻みで変化する彼女らの行動目的を的確に把握する事は、情報局長 のチャーリーや総務のアルファ、経理担当のブラボーといった人間を除くと困難を極める。 したがって次善の策として、彼女は有力な上位の組織にかぎりその目的の変化を追って、 答えを出したのだ。 「ブラボーの処置は後で検討します。今は碇君の身の安全を確保するのが先。いい?」 エコーの言葉にデルタはしぶしぶ頷く。 トウジにはまったく話しが見えなかったが、黙ってヒカリを抱えて立ち上がった。 =============================================================== 32.光あるうちに光の中をすすめ =============================================================== アスカ:「なにこれ?」 シンジ:「さぁ・・・?」 レイ :「生きているうちに生きる事を楽しもう、と言う事なのね」 シンジ:「綾波。セリフだけ見るとそれじゃマキ○オーだよ・・・」 B :「?」 --------------------------------------------------------------- 「僕がどうかしたの?」 !! 突然、彼らの背後からアスカとレイを抱きかかえたシンジが現れた。 その出現があまりに唐突だった上に、一流の武術家であるデルタにも気配を 悟らせずに現れたので、エコーもデルタも一瞬硬直した。 「トウジ!委員長がどうかしたの?やっぱり、ミサトさんのカレーに・・・・」 シンジはトウジに抱かかえられているヒカリを見ると、心配そうに尋ねた。 「ようわからん。でもセンセはここにいるとやばいらしいで。」 本当に関西人かっ、と突っ込みたくなるような関西弁で答える。 「やばいって?」 「いや、なんかこいつらが―――」 「そうなのよ!」 トウジのセリフを、エコーがそれまでの冷静さをかなぐり捨てて遮った。 「エヴァのパイロットで世界の重要人物の碇君をどうにかしようって奴等がこの 暴動を利用して活動してるの。だから早く安全なところに行かないと危ないわ。 だから、あたしたちがそこまで案内してあげる。」 エコーは一切の虚偽を交えずにシンジに伝えた。 シンジに対して嘘をつく事は死罪に値するからだ。 と、そこへいつのまにか現れたリツコがそこに口を挟んだ。 「なるほど、ありがとう。じゃあNERV本部まで連れていってくれるかしら。」 彼女の後ろには壱中の制服を着た少女達がジト目でエコーを睨んでいる。 エコーは、失敗したぁ、と考えながら、消え入りそうな声で返事をした。 ・・・・・・・・・はい・・・ 「センセ、どうしたんや後ろの連中は?」 トウジはシンジにそっと尋ねた。 「いや、トウジが飛び出してからすぐに、エレベーターで降りてきてね。赤羽根さん には文化祭の時にはたくさんお世話になったし、そこまでみんなで一緒に行こうって 事になってね。」 アルファは耳ざとく自分の本名がシンジに呼ばれた事を聞き取り、目をパチパチさせて 媚びを売る。 そんな彼女をアクションサービスと手の空いた通信員達がやぶ睨みしながら、デルタに やられ、その後洞木ヒカリにやられて黒焦げになって地面で干物と化しているアクション サービスの4人を手当てしている。 公安局長・その他色々会長のデルタはシンジと面と向かったせいで緊張してしまって、 ブリキの玩具みたいなぎこちない動きをしながら何もしていない。 取り合えず木刀の素振りをしている。 その点エコーは、うやむやのうちにSILFの本拠地にシンジを連れ込もうという作戦が 失敗に終わっても自分を売りこむことを忘れてはいなかった。 誰にも見つからないように、ニヤリと笑うとシンジを振り向いた。 クルリと回ったせいで制服のスカートがふわりと浮き上がる。 「ところで碇君。」 と、いつになくしおらしい声でシンジに近づきながら声ををかけた。 まわりの少女達は、妙なことやったら焼き入れて殺すぞ、と言う視線をエコーに送った。 「ん?なに?」 シンジはそんな少女達の視線には無意識的に気付かずに、アスカとレイを首に巻き付け たままエコーを見る。 「重そうだね。二人も担いじゃって。」 「いや、そうでもないよ。二人とも結構かるいし。」 そのセリフを聞き、当のエコーをはじめ、居並ぶ少女達からピキとかプツとか言う音が 聞こえたような気がしないでもなかったが、感情を殺すように訓練された彼女達は誰一人、 目に見えて表情を変えることはなかった。 「でも二人も背負うなんて疲れるでしょ。綾波さんくらいならあたしでも何とか 担げると思うから、手伝わせてちょうだい。」 別にレイよりもアスカの方が重いというつもりで言ったわけではない。 ただ、彼女の都合上レイを手伝うといった方が良かったのだ。 「いいよ。だって女の子にそんな事させられないよ。」 シンジは困ったような笑いを浮かべて答えた。 しかし、その言葉は会話を盗み聞いていた少女達の心をグサッと傷つけた。 ここまでアフロヘアーになったマヤを担いできて、そしてこれからはデルタと ヒカリの戦いに巻き込まれて焼き鳥になったアクションサービスの四人を担いで 行かなくてはならない生き残りのアクションサービスその他の面々である。 (じゃあ、あたしたちは碇くんに女の子として認識されてない?) これから担がなくてはいけない人数はマヤを入れて五人、そしてかつぐ人間の 数は情報局アクションサービスの生き残り四人と、デルタに対する囮を志願した 情報・事務・保守担当者六人の計十人。 あんたが持ちなさい、という、それ自体が質量を持ったような視線が交錯し、 緊張感で空気が打ち震える。 一瞬のあと、二人一組で運べば自分も女の子の範疇に入る事ができる、と言う 希望的観測を元にした妥協案が、彼女達の間に視線だけで交わされた。 そんな事は別にしてエコーのシンジに大接近作戦は続いていた。 「女の子にはさせられない?そんなの今の時代には時代遅れだって。気にしないで。」 そう言って笑いながら、大きい眼鏡をクィッと上げてレイの体に手を伸ばす。 「そ、そうかな・・・・」 シンジはあまり交流のなかった少女からの攻勢にタジタジとなりながら、彼女 の言いなりになってしまう。 その時、レイの体を持ち上げようとしたエコーの顎に、気絶しているはずで、しかも 手錠をはめられているはずのレイからアッパーが飛んだ。 「きゃん!」 エコーは計算され尽くされた可愛い悲鳴を上げてしりもちをついた。 カラン、と音を立てて眼鏡が地面に落ちる。 「大丈夫!?」 シンジはレイを地面にそっと寝かせると、慌ててエコーのそばに屈み込んだ。 それを見た少女達から、あのヤロー謀ったな、後でしめたる、という視線が飛んだ。 「だ、大丈夫。平気、気にしないで。」 エコーは目に涙を溜めてウルウルさせながらシンジを正面から見つめた。 それを見てシンジは思わず息を呑んだ。 彼女の黒い瞳、長い睫毛、涙を一杯に溜めて波打つ大きな目、赤い唇、白い肌・・・・ SILF法務局長にして謀略家エコー。 彼女は古来より日本に伝わる伝統芸『メガネを取ると実は美人』作戦でシンジの ハートをゲットしようとしていたのだ。 シンジが一人でアスカとレイを運んでいる事を見て取ったエコーは、彼女達が他の 人間に自分を運ばさせなかったからだろうと推測したのだ。 そして、その手段が暴力的な物であれば、いける、と考えた。 たとえ、そうでなくとも点は稼げる。 シンジは見事にその手にはまり込み、1m四方限定劇空間に捕らわれてしまった。 かかった! エコーは心の中で叫ぶと、やはり心の中だけでニヤリと笑った。 しかし・・・・・・・・・・・ シンジはエコーの瞳に飲み込まれたように視線を釘付けにされたまま、彼女を 立ち上がらせようと手を取った。 その時、背中のアスカがモゾリと動き、視界の隅で栗色の物が舞った。 不覚にも、二人とも自分達だけの世界に入ってしまい、気を失っているアスカを 忘れていた。 ブギャ!! シンジの背後からアスカ必殺の鉄拳がお見舞いされた。 全く計算外の攻撃が飛び、デルタほどの動体視力を持たないエコーは、無様な 悲鳴を上げながら吹っ飛ばされる。 吹っ飛ばされた彼女は、隅っこで目立たないように事態を傍観していたブラボーにぶつかった。 エコーはしりもちを付き、涙をこらえながら激痛に見舞われる鼻をおさえる。 しかし、ブラボーナツミの方は運の悪い事にぶつかった衝撃で後ろに弾かれ、バランスを 崩してそのまま数歩後ずさる。 なお運の悪い事に、彼女は突然背後から爆音と共に突進してきた、NERV、と白ペンキで 書かれた米海軍海兵隊の持つ水陸両用装甲強襲車を改造した八輪の装輪車に弾き飛ばされた。 その上、更に運の悪い事に26tの装甲車に飛ばされた彼女の前には、いつのまにか目を 覚ましたレイがATフィールドを張り巡らせて待っていた。 彼女はレイのATフィールドに、ペチャっと張り付き、背後から、止まらずに迫ってきた 装甲車に挟まれ、真っな花になった。 それはなんとなく血をめいっぱい吸った蚊を叩き潰す時の事を連想させた リツコはその光景を目の当たりにしながら、さして気に止めた様子もなく、突然現われた 装甲車に目を留めた。 中には壱中の制服を着た年齢不祥で長身の女性が乗っていた。 「あ、ごめんなさい。きゅうに彼女が飛んできたから・・・・・・・・・・」 その言葉を聞いたSILFの少女達は、よくやったな、と言う視線を彼女に送る。 SILF内ではこのような暗闘が日々繰り返されているのだ。 リツコは呆れたように彼女達を見ながら、シエラに声をかけた。 「それはいいけど、これってNERVがアメリカの海兵隊から徴発したLVTPの改造車 じゃない?」 その言葉にシエラは肯いた。 「ええ、その通りです。先ほど本部まで行ってエヴァのパイロットたちの保護を頼まれた んです。なんせ正規の職員はこの騒ぎに巻き込まれちゃって、大騒ぎですから。」 「ふーん・・・・・・・・・・」 リツコは血まみれになってグッタリと地面に横になっているブラボーに目を留めた。 「まあ、良いわ。取り合えず彼女の応急処置をするわ。医療キットは積んでる?」 「はい、通常タイプですけど。」 「結構、それとどこか安全な場所に案内してちょうだい。」 シエラはチラリとシンジに目をやり、彼がレイと向かい合ってこちらを見ていない のを見ると、小さく溜息をついた。 「ええ、もちろん。元よりそのつもりだったんですから。」 少し残念そうに言って、彼女は防弾ガラスが小さくはめ込まれたドアを開けると、 面白そうに見ていたチャーリーに声をかけた。 「チャーリー、運転代わってちょうだい。」 その言葉にアルファはギョッとして振り返った。 「チャーリー!?なんであなたがここにいるのよ!戦闘指揮所の指揮は誰がとってるの!?」 「私の部下。」 彼女は眼鏡をかけ直しながらしれっと答えた。 「大丈夫よ。こと戦術に関しちゃあたしより上の娘だから。」 「そういう問題じゃないでしょう!」 「なら戻る?」 「何いってんのよ!ただ碇君の近くに居たいってだけで来たんでしょうが、あなたは!」 「それを言うならアルファだって同じじゃない。抜け駆けは厳禁でしょ!」 死に掛けているブラボーそっちのけでSILFのナンバー1とナンバー3が睨み合った。 =============================================================== 33.ヴァーチャル・ガール =============================================================== ヒカリ :「これから、ほとんど出番の無い人は手を上げて下さい」 マヤ :「・・・・・・・・・・・え、あたし?」 ケンスケ:「ケッ、どーせ俺なんか・・・・・・・・・・」 ミサト :「・・・・・・・・・・・どうせ私の事なんかみんな忘れてるのよ・・・・・・シクシクシク」 ---------------------------------------------------------------- 「綾波!」 シンジはレイを見ると嬉しそうに駆け寄った。 「目が覚めたんだ。体のほうは大丈夫?」 「平気よ。」 レイは至って大丈夫そうに見えた。 使徒のようなレイには、ミサトカレーも効果が薄いのかもしれない。 「良かった。綾波が無事で・・・・」 シンジは不覚にも涙が滲んだ目を恥ずかしそうにこする。 「碇君・・・・・・・・・・」 レイは赤い瞳で真っ直ぐにシンジを見つめ、おずおずと手を伸ばして、シンジの涙を拭ってやる。 シンジは心の底まで暖まるレイの手の暖かさを肌に感じた。 その手をそっと触って微笑む。 「良かった。綾波が無事で・・・・・・・」 シンジはもう一度そう言うと、頬を撫でるレイの手を強く握る。 ちょっと強く握りすぎてしまったらしい。彼女の無表情な顔がほんの少し動いた。 「ご、ごめん。痛かった。」 そう言って手を離そうとした。 しかし、今度はレイがシンジの手を握ったまま離さなかった。 レイはシンジの手を握ったまま、小さく首を振る。 シンジはもう一度レイの手を握った。今度はできるだけ柔らかく。 そうしながらレイの真紅の瞳に吸い取られたように見入ってしまう。 「何やってんのよ・・・」 突然、冷え切った声がシンジの耳元で聞こえた。 途端にシンジは血と体温がヒュルルルゥと音をたてて急降下していくのを全身で感じた。
リツコは睨み合ってしまったアルファとチャーリーを無視し、ヒカリを抱えたまま呆然と 立ち尽くすトウジに声をかけた。 「鈴原君!別所さんを車の中に乗せてちょうだい。」 トウジは突然名前を呼ばれ、あたりをキョロキョロ見回してから、自分を指差した。 リツコは大きく肯く。 トウジは腕の中でスヤスヤ寝息を立てるヒカリに目をやり、そのあといかにも渋々といった 調子で彼女をひび割れた地面に寝かせた。 トウジは血まみれで横たわるブラボーの側に立つと、振り返ってリツコを見た。 リツコは苛立たしげに、再び大きく肯く。 トウジはブラボーを見つめ、意を決して抱き上げた。 彼女の血が、トウジのジャージに染み渡ってゆく。 「ああああ・・・・・、血はクリーニングに出しても落ちへんのに・・・・・・・」 トウジは悲しみの涙を堪えた。 できるだけ急いで、アメリカ海兵隊が強襲揚陸の際に使用する水陸両用の兵員輸送 装甲車に乗せる為に、車の後ろに回った。 既に後部の扉を大きく開けてブラボーを待っていたシエラが、ブラボーを車の中へ 引きずり込むのを手伝った。 ブラボーが小さく呻き声を上げる。 リツコはトウジ達のあとに車に乗り込みながらブラボーをざっと調べた。 「出血がひどいわね。誰か手伝いができる人はいるかしら?」 「ええ、たくさん。」 「じゃあ、呼んできて。」
「ア、アスカ、起きてたの?」 「さっき起きたのよ。」 アスカは冷めた目でシンジを睨み付けながら、シンジの背中から降りた。 「あんた達って、ほんと油断ないわね。これじゃちょっと目を離した隙に子供まで作りかねないわ。」 「な、何だよ。ここ、子供って・・・・」 真っ赤になって反論するシンジを無視しながら、アスカは自分の手を見た。 「何よ、これ。」 彼女の手首には引き千切られた手錠がブランと垂れ下がっていた。 シンジ達は、それがアスカが無意識にエコーにパンチを見舞う時に引き千切ったのだと 思い至り、背筋に冷たい物がツーっと這っていくのを感じた。 シンジはハッとしてレイの手首を見る。 彼女の場合は手錠は引き千切られていなかった。 ただ、引田天巧のように手錠はすり抜けられていた。 こちらはまだついて行ける範疇とはいえ、シンジは背筋が寒くなるのを抑えられなかった。 「と、とにかくアスカも大丈夫?」 シンジは恐る恐る尋ねる。 「とにかくってのはなによ。」 アスカの目は恐かったが、シンジはなけなしの勇気を振り絞って尋ねた。 「いや、頭痛いとか、気分悪いとか・・・・・・・・」 シンジは胃がキリキリと痛んだ。 聞かれてアスカは腕を組んで可愛らしく小首をかしげる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」 「どうかした?」 シンジは、わずかに顔をしかめたアスカに及び腰になって聞いた。 「ちょっと待って・・・・・・確か、ミサトのカレーが出てきて・・・それから・・・・んー?」 「・・・・覚えてないの?」 「いえ、知らないの。」 「あんたは黙ってなさい。・・・・・・・・・・・・・たしか、22章でシンジが目を覚ました所までは 記憶にあるんだけど・・・・・・・・・・・」 アスカはちょっと妙な事を言いながら、記憶の底を手探りで探っていくが、どうしても ある所から靄がかかったようにはっきり思い出せなかった。 アスカの言葉を聞いて、シンジは安堵のあまりその場にしゃがみ込みそうになってまった。 「どうしたのよ?」 「よかった・・・・よかった、本当に・・・・・・・」 シンジはアスカの肩に手をかけて、涙を浮かべながら繰り返し呟く。 アスカは何となくどぎまぎしながらも、シンジに活を入れた。 「なに、男が辛気くさい顔してんのよ!もっとしゃきっとしなさい!」 「そ、そうだね。」 シンジは涙をぬぐって、アスカに笑いかける。 アスカは、シンジの健気な笑顔を見た時、不覚にもドキッとしてしまった。 とにかく、これ以上アスカを刺激すれば記憶が元に戻ってしまうかもしれないと考えた シンジは、先ほどATフィールドと突っ込んできた強襲用装甲車によってしおりになった はずのブラボーの元にむかった。
「脈拍120で微弱。血圧は触診で40。」 装甲車の中の両方の壁に出っ張っているもうしわけ程度の椅子に腰掛け、ブラボーの 左手首を持って脈を測っていたアクションサービスの一人が大きな声で言った。 「両足の末梢神経に反能無し。」 「両足の膝の裏に脈が無いわ!」 足の裏に親指を滑らせた少女に続いてブラボーの膝の裏に指を当てていた少女も叫んだ。 「伊達さん!そっちお願い!」 リツコはブラボーの両目にペンライトで光を当てながら叫んだ。 「血圧が低い。鎮静剤は止めといた。」 デルタはそう言うとブラボーの両足の部分に移動した。アクションサービスの少女は チラリとデルタを見た。 「状態はさっき言った通りよ。」 「股関節の脱臼・・・・・・・おい!傷が開きっぱなしじゃないか!」 「あ、ごめん。血が止まってたから・・・」 「血が足にきてないんだ、当り前だ!パッチで止血。スカートが邪魔だ。切れ。」 端から黙ってみていたトウジが目を丸くした。 デルタはその存在に気付くと無言で顔面にハイキックを叩き込む。 トウジは吹っ飛んで装甲車から落とされた。 「腰を押さえろ。チアノーゼがひどい。急ぐぞ。」 何事も無かったかの様にデルタは言った。 「瞳孔は左右同じで対光反射有り。呼吸51、左右ともに微弱。血圧低下。」 一人の少女がリツコに告げた。 「ドーパミンを300ミリ静注。血圧に注意して、上がり過ぎるようなら緑のアンプルを20ミリ静注。」 その時、ブラボーが呻き声を上げて薄っすらと目を開けた。 リツコは素早く指を一本立ててブラボーの前に出す。 「別所さん。聞こえるわね?これを目で追ってみて。」 そう言ってフラフラと指を動かしていると、ブラボーの太股辺りからゴキッという音がした。 ブラボーは呼吸するたびに血の泡を口の端から吹き上げながら、苦しそうにリツコに目を向けた。 「なんです?・・・・・今の音・・・・・」 「関節を元に戻したのよ。」 「・・・・・関節?・・・・・・ケホッ・・・・・・誰の・・・・ですか?」 リツコは作業する手を止めて彼女を見た。 もう一度、デルタがブラボーの股関節を入れる音が響いた。 ブラボーの腰の辺りに馬乗りになって腰を押さえていた少女が降りる。 「脈は戻ったけど末梢神経に反応がない!」 ブラボーの足の裏を撫でた少女が叫んだ。 デルタとリツコは目を見あわせた。 「脊髄?」 リツコが言い、デルタは少し考えた。 「大腿骨がいかれてるだけかも・・・・・」 「だったら関節を入れた時にわかるはずじゃない?」 「ショック状態って事は?フィードバックかも知れない。」 「でも・・・・・そうね、まだ決め付けるのは早いわね。」 その時、脈を測っていた少女から声が上がった。 「ちょっと!血圧が急に低がったわよ!」 「落ち着いて、足に血が行っただけよ。」 リツコは冷静な声で言った。 「でも、意外に出血がひどかったのね。」 呟いたリツコにデルタは声をかけた。 「外で見た限りじゃ、多くて500cc程度しか出血してなかったわ。全体でも750は 超えていないはずなのに・・・・」 「だとすると内出血?今の血圧は?」 「50の30。脈は130で微弱、少し早くなった。」 「ドーパミンを200ミリ静注する。」 デルタはそう言って医療キットに近づいた。 キットの蓋を開け、やたら難しい学名の書かれたアンプルを選り分けながら血管収縮剤を 探し出し、注射器に移し替える時、間違えて少々多く取り過ぎた事に気付いた。 この薬を下手に多く投与すると血管が収縮し過ぎて重大な脳障害を起こす可能性もある。 デルタが気を付けながらそれをビンに戻そうとした時、頭でなにかが囁いた。 (どうして戻す必要があるんだ?) (あの女が碇シンジに何をしたのか考えれば当然の報いではないか。) しかし、彼女の善意は即座に反対した。 (いや、確かにそれは当然かも知れないがそんな事をしたら殺人罪で人生を棒に振る。) (碇シンジにも軽蔑される。) 彼女の悪意はそれを嘲笑った。 (そうか?これは単なる医療ミスだ。違うか?) (そんな事はない。たとえそうだとしても責任を取らされる。) (いいや、それこそそんな事はない。私はまだ15歳だ。法的に責任能力はない。) (罪を負うのは危険な薬物の取扱いを私のような子供に任せた赤木博士だ) (う・・・・・、だがそれは卑怯だ・・・・) (馬鹿を言うな。色恋沙汰にルールなどを持ち出したものは負けると決まっている・・・・) 悪意の勝利。 彼女は血管拡張剤を戻さず、逆に更なる量を注射器に迎え入れた
シンジ達は装甲車にどこから乗って良いか解らずに周りをウロウロしていた時、 運悪くアルファとチャーリーの睨み合いに立ち会ってしまった。 その周りでは数人の少女達が不安げに彼女らを見つめていた。 二人とも一言も発さずにただ黙って睨み合っている。 ひたすらに恐い。 「ウーン、これは恐いわねぇ。」 背後からかかった声に振り返ると、装甲車を運転していた年齢不祥の女性が立っていた。 シンジは驚いたが、恐る恐る声をかけた。 「あ、桜井さん。どうしてここに?」 「碇君たちを安全な場所に移してくれって、碇君のお父様から頼まれたのよ。」 「そ、そうなんだ・・・・・」 シンジが何とも複雑な気分になった時、背後で目に見えない稲妻が走ったような気がした。 そこではアルファとチャーリーの睨み合いが終末を迎えようとしていた。 「あー、こりゃもうすぐ肉弾戦ね。女同士の喧嘩は見境無いからなぁ・・・」 シエラはのんびりとした口調で言った。 二人とも今にも得物を懐から取り出しそうな雰囲気だった。 ついにシンジはその雰囲気に居たたまれなくなり、勇気を振り絞って二人に声をかけた。 「あ、あの・・・・」 その声に反応して二人の視線がシンジの方を向く。 二人としては突然あいだに割って入った声を向いただけなのだが、シンジはその視線の 鋭さに思わずビクリとして数歩あとずさった。 が、二人の視線は声をかけたのがシンジだとわかった途端に柔らかくなり、彼女たちの 持ちうる限り最高の笑顔をを満面に浮かべた。 きっと毎朝、鏡の前で練習していたのだろう。 「なぁに、碇君?」 アルファのネコかぶった声がシンジの耳に入った。 シンジは先程の視線の影響で足が小刻みに震えるのを懸命に堪えながら用件を告げた。 「あ、ああ、あ、あのさ、今はそれよりも別所さん、早く病院に連れて行かないと・・・」 「あ、そ、そうね。」 アルファは、後でゆっくり話し合いましょう、という視線をチャーリーに放つとシンジの方を向いた。 大方の予想を裏切って二人とも素早く矛を収めた。 ・・・・・・・・・・・当面は。 「でもさ、碇君。あっちはあんなんだから・・・・」 アルファはすまなそうに、炎に包まれた街を指差した。 シンジもやっとその事に気付き、悩んだ。 「そ、そうだね、どうしよう?」 シンジはアスカの方を向いた。 アスカは何のことはないように肩を竦めた。 「NERVの付属病院なら無事なはずよ。確信はないけど、少なくとも器材は残ってる はずだから、いざという時は赤木博士が面倒を見るだろうし。そこへ行きましょう。」 そう決めてアスカは立ち去ろうとしたが、何となく妙な気分になって振り返った。 少女達はレイを除いて一人残らずシンジに何かを期待するような目で見つめていた。 シンジはその視線に気付いてオロオロした。 「な、なに?なんかしたかな?」 そのシンジにアルファはニッコリと微笑んだ。 「どうするの?碇君。」 「ど、どうするって病院へ行こうって・・・・・・」 「NERVの付属病院でいいのね?」 「う、うん。」 シンジはいったい何事なんだと思いながらも肯いた。 「わかったわ。」 アルファは肯くとシエラに向き直った。 「シエラ、NERVとの連絡はまだ付く?」 「ええ。」 「じゃあ、病院の現状を聞いて。チャーリー、SILFの予備部隊に連絡して付属病院まで の通路を確保しといて。それと最短ルートの誘導も要請。囮に志願してくれた人達は指揮所 に戻ってそちらの任務を続行。私達はすぐに出発しましょう。」 その言葉に少女達はさっと散る。 (ウーン、働く女性は美しい・・・) シンジはテキパキと指示を飛ばすアルファを見てそう思った。 「あ、そうだ桜井さん。別所さんは今どうなってるの?」 シエラはシンジの問いにしばらく考え込んだ。 「そうねぇ・・・・、自分の目で見た方が解ると思うけど。あまり具合良くないわ。」 「・・・・・・・・・・・・そう・・・」 シンジは俯いて答えた。シエラはどさくさに紛れてシンジの手を取った。 「こっちよ。」 シンジは彼女に手を引かれるままについて行った。 その背中に凄まじい視線を幾つも感じながら・・・・・・・・ そして、シエラに連れられた先で見たものは、鼻を押さえてうずくまる鈴原トウジだった。

<つづく>


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