34. ER
アスカ:「さすがはマイクル・○ライトン!凄いわ・・・・」 シンジ:「・・・・・・ア、アスカが他人を誉めるなんて・・・・・・」 レイ :「可能性の一つとして、他人の実力を素直に認める事のできる 公正で、かつ自分は心が大きい人間であり、謙虚で良い人であ る事を示そうとしていると考えられるわ。」 シンジ:「そうか!それなら納得がいく!」 アスカ:「うううぅぅ、殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる! 殺してやる!殺殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる! 殺してやる!殺殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――― デルタは定量の倍近い血管収縮剤を入れた注射器でブラボーに静脈注射をしようとしていた。 殺した人間は数知れずと言われる彼女だったが、さすがに毒殺をする事には抵抗感を憶え るのか、注射器を持つ手は小刻みに震えていた。 ブラボーの応急処置に忙しいリツコ達は誰一人、その事に気付いていなかった。 鋭い注射器の針がゆっくりと皮膚に近づき、チクリとブラボーの腕に突き刺さる。 ブラボーの静脈は色白の皮膚の上にはっきりと浮き出ているので挿し間違える事はない。 緊張で呼吸が小刻みになっていくのが分かっていながらそれを止める事ができない。 彼女は無理やり深呼吸して針を静脈まで刺し通し、やがて、たどり着いた注射器の中の 薬品をゆっくりとブラボーの体内に流し込んでゆく。 50ミリ・・・・100ミリ・・・・・150ミリ・・・・・・・・・・・ その時、装甲車の後部扉がばたんと開いた。 デルタは仰天し、危うく自分の指に注射してしまいかけた。 驚いて喉まででかかった声を飲み込み、振り返ってみると、そこには心配そうにブラボーを 見つめるシンジがいた。 「大丈夫?」 見たところではブラボーの細い腰はさらに細くなり、口の端から血の泡を吹いている。 そこにレイが顔を出した。 「大丈夫。峰打ちよ。」 「ど、どこがよ・・・・・・・・・・」 レイの声が聞こえたブラボーは血を吐くような口調で、ビタビタと血を吐ながら文句を 言った。 「と、とにかく、今は喋らない方がいいと思うな。」 シンジは自信なげにブラボーに言った。 彼女の若々しすぎて色気のあまりない太股も、ミサトやアスカと同居しているおかげで 大して意識していない。 しかし、そういう物に対して免疫力の低いトウジの視線は釘付けにされてしまった。 リツコはデルタに声をかけた。 「伊達さん。注射はおわったの?別所さんの血圧が下がってるわ。輸血しないとだめかも しれない。彼女の血液型は?」 「あ、う、え、あ、ああ、BのRH+。輸血用の血液なら低温ボックスに何本かあったけど。」 動揺しまくっていたデルタは素早く気を落ち着けようと焦った。 「だめ?だめって、もしかして・・・・・」 シンジは目の前で知り合いが死ぬという事に脅えていた。 心のどこかでそこはかとなく、彼女の怪我は自分が絡んでいるような気がして仕様がなかった。 リツコは報告を聞きながらブラボーの腹部をそっと押さえる。 途端にブラボーが呻き声を上げた。 「腹部が膨満して、圧痛あり。たぶん内臓ね。排尿管から血尿がないか調べてちょうだい。」 リツコはアクションサービスの少女達に言った。 言われた彼女達は一人残らずビクッとして手に持っていたものを後ろに隠した。 リツコは気付かなかったが、劇薬を塗った針や空気入りの注射器などをブラボーに挿そう としていた彼女たちは、日頃行っている超が付くほど過酷な訓練の甲斐も無く、かなり動揺 してしまった。 だが、そのうちの一人がいち早く落ち着きと冷静さを取り戻し、リツコの言った血尿を 調べるためにブラボーの下着に手をかけた。 と、それをリツコが手を伸ばして止めた。 彼女は不思議そうにリツコを見ると、彼女の視線は外を向いていた。つられてそちらを 向くと不思議そうに自分達を見つめているシンジと目が合った。 しばらく時が止まっていたが、不意にその事に気付いたシンジはボッという効果音が 聞こえてきそうなほどに突然顔を真っ赤にした。 「い、いや、あの、その、・・・・・ご、ごめん。すぐ降りるから・・・・・・」 そう言うと、隣でやっぱり不思議そうにしていたトウジの襟首を掴んで降りていく。 そのとき、シンジは不意に振り返ると真摯な表情で彼女達に言った。 「あのさ、そ、その・・・、何か出来る事無いかな。やっぱり人が死ぬのは見たくないし。」 その言葉はブラボーを亡き者にしようとしていた少女達を凝固させた。 そんな彼女達にかわってリツコが言った。 「今あなたに出来る事はないわ。外でしばらく待っててちょうだい。終わったらすぐに病院に 連れて行くから。」 その言葉にシンジは申し訳なさそうに肯いた。 「わかりました。・・・あの、みんな、頑張って・・・・・・・・」 そういうセリフを無意識に一人一人の目を覗き込んでいう所に、天性のスケコマシ野郎の実力を 感じ取る事ができるのかも知れない。 とにかく、先程まで殺意に満ちていた少女達は今度は本当にブラボーを救う為に活動を開始した。
「大丈夫かな?」 背後で重い扉の閉まる音を聞きながらシンジは心配そうに呟いた。 シエラはシンジの肩をぽんと叩いて元気付けた。 「大丈夫だって。あの程度で死ぬほどあの娘はヤワじゃないって。」 そう言うながらも額に一筋の汗が流れているのは、もしブラボーが死んだ場合、ATFが法的に 認められていない以上、少年院送りになるのが自分である事は確実だからかもしれない。 辺りは沈黙に包まれた。 「そ、そうだ、碇君。用は何かある?出来る事があるならなんでもするけど。」 アルファはその沈黙を何とか突き崩そうと儚い努力をした。 「え?いや、特に無い――――――」 「お腹が空いた!」 シンジの言葉を遮り、ここぞとばかりにアスカが元気に声を張り上げた。 あんなものを見た後なのに、とシンジは思ったが何も言わずにアルファを見た。 アルファはニッコリと笑いながらシンジをじっと見詰めていた。 「そ、そう言えば夕食はお酒ばっかりでなんにも食べてなかったからね。何かあるかな?」 シンジの言葉にアルファはまた嬉しそうに微笑んだ。 「コンビニで売ってるものなら買ってこさせるから。中はしばらくかかりそうだし。」 「牛肉の生姜焼き弁当。なければオムライス。」 またもやアスカが声を上げた。やや声を下げて。 アルファはシンジの顔をじっと見つめていた。 シンジはアスカがだんだん不機嫌になっていくのに気が付いた。 「そ、そうだね、そうしてもらえれば嬉しいな、僕はいいや。あんまり食欲無いし・・・・」 胃も痛い。 「飲み物は?」 アルファは気を利かせた。 「オレンジジュース。100%の。」 アスカは実に静かに言った。 シンジは胆が冷える思いだった。更に胃が痛んだ。 やはり、アルファはシンジから顔を逸らそうとしなかった。 「じゃ、じゃあ、僕も、そ、そうしてもらえる?」 アスカがキレた。 「あんたねぇ!!なんでいちいちシンジに聞くのよ!!どうせ答えは分りきっ てるんだからそんな必要はないじゃないの!!」 目と口と鼻から火を吹かんばかりのアスカを覚めた目で見詰めると、詰まらん、とでも 言うようにシンジに向き直って微笑んだ。 「じゃ、買ってこさせるね。」 トウジとシエラは間一髪、暴走したアスカを羽交い締めにすると人殺しだけは起こさせ まいと踏ん張った。 シンジはそんなトウジを見ると、アルファに慌てて付け加えた。 「綾波とトウジの分の弁当もお願いできるかな。お金は後でまとめて払うからさ。」 彼は胃薬も頼もうかと思ったが、何となく気恥ずかしかったので止めた。 と、そのとき車の中から叫び声が小さく聞こえて来た。