* 愛と爆炎の聖誕祭 *

吉田







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21.シンジの熱い眠り

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シンジ:「いや、熱かったのは僕のまわりなんだけどね」
アスカ:「誤解を招くような言い方をすなっ!」
レイ :「それはあなただけだわ・・・・・・・・・」
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光り在れ・・・・ 窮すれば通ず リツコの頭に小さな電球がパッと閃いた。 何のことはない、それは自明の理、いつもやっている事をすれば良いだけの事だった。 彼女はそれを即実行に移した。 「ここは公平にジャンケンで決めましょうか。」 それは運を天に任せての一大勝負。 しかし、リツコは科学者だった。 運などというものには頼らない。 「レイ、あなたは最初にグーを出しなさい。いいわね。」 「なぜ?」 「命令よ、レイ。」 「・・・わかりました。」 それは卑怯な手段だった。 トウジは悩んだ。 命は惜しい、しかし不正行為を黙って見逃せるほど器用な人間でもない。 「鈴原君。」 リツコはその心でも読んだのか、トウジに声をかけた。 「はい?」 「さっきのヒカリさんの事を思い出してみなさい。彼女を襲った悲劇を。 もしかしたら、今度はあなたがああなるかも知れないのよ。」 その言葉にトウジの背筋はピンっと張った。 そうだった。迂闊にもそれを忘れるところだった。 もしこの赤い物体を食べると、委員長がそうであったように自分も「愛理さ〜ん」 などと訳のわからない事をのたまう人格に変換されてしまうかも知れないのだ。 だが・・・・・・ だがしかし、健全な硬派を自称する彼としては己の保身の為に不正を行う事に対して、 かなりの抵抗感を持って当然だった。 「で、ですけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 なおもトウジは弱々しい声で異を唱えようとした。 だがリツコは更に保身と信念の狭間で葛藤しているトウジに更に追い討ちをかけた。 「鈴原君。あなたには妹さんがいたわね。」 「え?・・・・・はい。」 「妹さんはあなたが別人になった事を喜ぶかしら?あなたが彼女と最も親しい人であるならば、 まず自分の事よりも彼女の事を考えるべきじゃない?彼女の為にもここは五体満足で切り抜け るしかないのよ。ちがうかしら?」 リツコによって、今ここに大義名分は提示された。 トウジが肯くまでさほど時間はかからなかった。 次にリツコは机の端にチョコンと座って事態を傍観していた別所ナツミに向いた。 ブラボーナツミは視線を感じて目を上げるとリツコと目が合った。 そして、その視線の意味に気付き、一瞬考え込んだ。 シンジ、自分、レイ、SILF、NERV、赤木博士、アスカ・・・・・・・・・・・ そして出した結論は考えるまでもないという事だった。 彼女はその意思を伝える為に小さく肯いた。 リツコは今度はアスカを見た。 アスカはこれ以上ないほど邪悪な笑みをたたえていた。 彼女はたぶん、フン、これを食べてドラグスレイブッ!、とでも軽薄な声で 怒鳴ってればいいんだわ、などと考えているのだろう。 だからリツコは敢えてアスカに何かを言おうとは考えなかった。 やがて、リツコは一つ咳払いをすると気合いを入れて声を上げた。 「じゃ、いくわよ・・・・・・・・・・、ジャン・・、ケン・・、ポイッ!」 たぶん他では気合いを入れてジャンケンをする赤木リツコなど見られないだろう。 そしてこれほど真剣な目つきでジャンケンをする綾波レイも・・・・ 綾波レイは人の期待を裏切らない事で知られていた。 たとえそれがどんなに悪意に満ちたものだとしても。 ジャンケンが終わり、トウジは綾波に背を向いていた。 自分の仕出かした不正行為ともいえる行動に我に帰ったのだろう。 リツコの話術もジャンケンの後にまでは影響力を持っていなかった。 「残念ねぇ、ファーストォ〜。でも悪いけどこれも勝負だからしょうがないわねぇ〜。」 彼女はこれ以上愉快な事はこの世界には存在しない、とでも言うような顔を隠そうともせず、 御親切にもレイの分のカレーを彼女の眼前に差し出していた。 レイはその瞬間、遅れ馳せながら赤木リツコとその一党の狡猾な罠にはめられた事に 気が付いた。 彼女はシンジをほんの一瞬恨めしそうに見つめた。 もし、シンジが目を覚ましていたら、このような下劣極まりない罠をそのままには しておかなかっただろう。 碇シンジならばそんな事は・・・・・ その時、レイはハッとして気付いた。 私は今、何を考えていたの? 私は碇君を守ると誓っておきながら、実は彼に守られる事を期待していたの? 彼女はそう気が付いた事に大いに衝撃を受けた。 自分が碇シンジを守らなく手はいけないのに・・・・ 本当の自分に気が付いた時、そしてその過ちに気付いた時、人は己のするべき事を見つける。 その苦い衝撃は彼女がサナギから華麗な蝶に変身、いや、変心する時を示すものでもあった。 彼女は良しに付け悪しきに付け、この瞬間はっきりと生まれ変わった事を認識した。 彼女は、いつのまにか自分に膝枕していたシンジに謝罪と感謝がタップリと、そして少しだけ 媚びの混じった流し目を送るとカレーに目を向けた。 その赤い瞳には一片の迷いも見当たらなかった。 「どれだけ食べればいいの?」 リツコは少々気が咎めたのか目を伏せながら口を開いた。が、 「一口で――――――――」 「全部よ。」 一瞬、その部屋に沈黙が流れた。 「全部よ。」 アスカはニッコリと淑やかに微笑みながらもう一度繰り返した。 レイはアスカを無表情に見詰めかえしたが、リツコはその表情の奥では何を考えているのか 全く見当が付かなかったし、また考えたくもなかった。 「ぜ・ん・ぶ 食べるの。ドゥー ユー アンダースタン?」 トウジとリツコはその対決から目を放す事もできずに、内心ハラハラしながら見つめていた。 やがて、ゆっくりとレイが手を伸ばした。 「全部食べればいいのね。」 レイは相変わらず無感情に聞き返す。 アスカは満面にたたえた笑みを崩さずに深く肯いた。 レイは自分用に肉を除かれた赤いカレーライスを受け取ると、それを眺めた。 そして彼女なりの不安の表れだろうか、膝の上に眠るシンジの手をそっと小さく握り、 スプーンを手に取った。 トウジ達はレイが不安そうにシンジの手に自分の手を重ねたのを見た時、アスカとブラボー ナツミが頭のどこかでプチッという音を立てたように聞こえたが、当然のようにそんなものは 聞こえなかったと自分に言い聞かせて無視した。 「ファースト、早く食べた方が楽に終わると思うけど?」 アスカは額に太い血管を浮かべながらレイを急かす。 レイはそんなアスカに冷めた目で見つめ返すと、カレーにスプーンを突っ込んだ。 その時、最初にその異変に気が付いたのはトウジだった。 「あの、リツコはん。綾波の頭の上にボールが浮いとるように見えるのはわいの目の 錯覚でっしゃろかいな?」 リツコはトウジに、貴様ホントはどこの生まれだっ、とツッコミを入れるのを ぐっと我慢すると言われた場所に目をやり、しかるのち凝固した。 レイの頭の上には、黒の地に白の縞々の入ったスイカのような球体が浮んでいた。 リツコは一瞬にしてその正体に予想が付いた。 彼女は懐から携帯電話を取り出すとNERV本部に電話をかけた。 「・・・・あ、青葉君?赤木よ。ええまだ無事。それよりも、今そっちでATフィールドを 確認してるかしら?・・・・・・・・・うん・・・・うん・・・・・10分ほど前に一回だけ、この家で 確認されたきり?そう、ありがとう。監視を続けてちょうだい。」 そう言って電話を切ったリツコは、レイが多少不味そうにしながらも ミサトカレーを問題なさそうにかっ食らっている光景を目にした。 「やはり・・・・・・・・・そうなのね・・・」 「そうって、何がです?」 トウジはレイの状態を驚愕しながら眺めていたが、ふと耳に入った リツコの呟きに敏感に反応した。 リツコはレイの頭上にある球体を指差した。 「あれはね。影なのよ。」 「影?」 「そう、恐らく彼女は自分の体内に、たぶん食道の一部にATフィールドを 内向きに展開しているんだわ。そしてそこは多分、別の宇宙に・・・・・・・・・・・」 そうこう言っているうちにレイはカレーを全て食べ終わった。 彼女は、唖然としてその光景を見詰めていたアスカに、心なしか勝ち誇った ような口調で言った。 「今度はあなた達の番ね。」 それは生まれ変わったニュー・レイの勝利宣言だった。



================================================================ 22.ブラッド・ミュージック ================================================================ シンジ :「違うんだ!!僕はあくまでもみんなのためを思って!あっ、 アスカ待って!綾波まで・・・みんな僕の話を---------」 ケンスケ:「カエルの子はカエル」 シンジ :「・・・・う、うわぁぁぁ〜〜〜!!!!!!」 ---------------------------------------------------------------- 残った者はリツコ、トウジ、ブラボーナツミ、そしてアスカ。 自分がこのカレーを食べなくてはいけなくなる可能性は四分の一。 このままではあまりに確率が高すぎると判断した者が約三名。 「シンジ!いつまで寝てんのよ!とっとと起きなさい!」 「シンジ君。ここではあなたを必要として人達が沢山いるのよ。」 「シンジィ!ワシと親友なら起きろ!起きてわいらと勝負せい!」 このままではシンジが危ないと判断した者が一名+一人。 「碇君は寝かせといたままの方がいいわ!」 ブラボーナツミは懐から対アスカ用究極兵器を装填したS-DATを取り出す。 「碇君は私が守るもの・・・・・・」 レイは再びATフィールドを展開させる。 二つのグループが火花を散らして対立する。 ATフィールドがあるのでアスカ達3人はシンジに近寄れない。 しかし、レイ達も戦闘能力においては相手の3人には大きく劣るので不用意に 手を出せば返り討ちに合う。 まさにシンジを巡っての睨み合い。 敢えて強引かつ無理矢理ににファンタジー風に言い表す事を許されるのなら、天才 マッド錬金術師リツコと無敵の鉄拳挌闘家アスカ、浪花の闘士トウジのパーティーと、 最強の結界術士レイ、史上空前の会計士ナツミのパーティーとの戦闘という事になる。 しかし、互いに引くに引けない状況に陥った時、やっと両パーティーは背筋が 寒くなるような思いで気が付いた。 このままではどう足掻いても勝機はない・・・・・・・・ メンツがメンツだけに勝つ為には相手をコテンパンに、再起不能なまでに叩き のめすしかない。しかし、それでは勝った方がミサトの料理を食べる羽目になり、 負けた方は相手にボコボコにのされる事になる。 勝てば地獄、負けても地獄。 喩えて言うならベッドの上でクモに教われ、スリッパを履いて逃げようとした時に、 そのスリッパの中にゴキブリがいるのを見つけた時の心境といえるかも知れない。 当然スリッパがシンジだ。 自らの信念に基づいた行動がより事態を悪化させてしまった。 まさにクモの糸に絡まった蝶のような気分だ。 足掻けば足掻くほど、身動きの取れない状況にはまっていく。 しかし、ここまで緊張が張り詰めてしまえばもはや引く事は出来ない。 そして、お互いじっと睨み合ったまま、出口のない迷路を延々とさまよっている時、 奇跡のように事態は展開した。 「ん・・・・・・・・・・・・・・・・」 シンジが呻き声をあげ、全員の目がシンジに集中した。 「起きてシンジ・・・・・・・」 アスカがここぞとばかりにかつて無いほど甘い声で呟く。 「まだ寝てていいわ、碇君。」 生まれ変わったレイもまたオールド・レイからは想像もつかない甘い声で囁いた。 だが、シンジは目が覚めた。 それがアスカの声に反応したからなのか、レイらしくもない甘ったるい声に刺激された からなのか、単にアスカの殺気の方が強かっただけなのか、周りが喧しかったからなのか、 それともその幾つか、もしくはその全てのせいで目が覚めたのかは判らない。 ただ、彼は目を覚まし、まだ酒が抜けていないのか、ぼ〜っとした目あたりを見回した。 そして自分を見つめる五対の熱い視線を感じ、そしてまた食卓で湯気を立てる 最高級黒毛和牛入りレッドカレーライスを見た時、恐怖と共に全てを理解した。 まだ事態は完結していなかったのだ。 だが、シンジの血管にはまだ分解されていないアルコールが残っていたせいだろうか、 それとも彼の血の中に静かに眠っていた六分儀家の血のせいなのか、彼の頭脳は事態を 解決する恐るべき妙案を捻り出してしまった。 そう、再びシンジの頭の中でゲンドウがニヤリと笑ったのだ。 彼らは見た。 シンジの表情が不可解さから不安、そして恐怖に変化した後、全ての解決策を 見つけたかのように笑ったのを・・・・ 彼女らの背筋は怖気だった。 彼が彼の父親を名乗る外道に瓜二つの笑いを浮かべ、ゆっくりを身を起こす。 その場にいる全員が絶句し、動きを止める中、シンジは速やかに動いた。 彼は誰にも止められない内にブラボーナツミのそばに一瞬で詰め寄った。 ブラボーナツミは次の瞬間、三つの事実に気がついた。 一つはシンジは意外に腕力があるという事、二つ目はシンジの匂いはアルコール の匂いという事、そして三つ目はシンジの舌はとても柔らかいという事・・・・ ある者は唖然とし、ある者は呆然とし、ある者は愕然とし、ある者は陶然とし・・・ 酒を飲むと人格が変る人間がいるという・・・ 人前で恥ずかしげもなく、唾液の混ざり合う音まで聞こえてきそうな程のハードで ディープなチュウをかますシンジ。 ブラボーナツミの意識は遥か遠く冥王星の衛星軌道上の彼方まで飛んでしまう。 そして、一瞬の沈黙の後・・・・・・・・・・・ 綾波レイは己を律する事も忘れてATフィールドを大展開させる。 惣流アスカは己の持ち得る全ての力を使って必殺鉄拳パンチを繰り出す。 その場で繰り広げられたのは一切の破壊、粉砕、爆砕、圧壊・・・・・・・・・ だが、それは外道なシンジの計算どおりだった。 間違って積み上げられた積み木は、完全に壊さないと直す事は出来ないのだから・・・

<つづく>


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