* 愛と爆炎の聖誕祭 *

吉田






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             25.あんなアーちゃん、そんなレーちゃん こまされて、   
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    アスカ:「絶対ふざけてるわ!!この題!!アーちゃん、よっ!!」
    レイ  :「レーちゃん・・・あたし?・・・・・・シーちゃん・・・碇君・・(*゚゚*)ポッ・・・」
    アスカ:「・・・・・・・・・・ちょっと?」
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  そして葛城家。


  怪獣と化した二人が正気を取り戻した時、そこは混沌としていた。
  死者が出なかったのは幸運以外の何者でもない、と生き残った人々は口を揃える。



  シンジはすっかり酔いも覚め、かつて部屋だったものの隅で脅えている。

  アスカは未だに憤懣やるかたない様子でシンジの胸座を掴み上げる。


「あんた・・・どういうつもりよ・・・・」


  アスカの声はあまりにも低かった。
  後ろで見守るレイの視線もきつい。


  シンジは恐怖のあまり言葉を発する事もできずに、ただ指を差した。


  アスカ達が振り返ってみるとそこにはひっくり返ったカレーの鍋と食卓。


「・・・・・・・・・・・・・・・あんた、このために?」

  シンジはコクコクと機械仕掛けのように肯くが、本当のところアスカ達の暴走
は想像を遥かに上回っていた。
  シンジとしてはただカレーをひっくり返して、ついでにミサトが意識を失って
くれれば問題はなかった。

  しかし結果は上々だったといえる。
  状況をただ傍観していたミサトは頭からカレーをかぶって意識不明。
  トウジとリツコは頭を振りながらノソノソと起き上がっている。



  しかし、すっかり酒の抜けてしまったシンジにしてみれば、自分の取った行動はあまりに
恐ろしいものだったと後悔する。

  アスカはシンジの胸座を捻じり上げたまま、シンジに向かって詰問した。
「あんた・・・・・本当にこの為だけにやったんでしょうね。」


  再びシンジはコクコクと肯く。

  エヴァに乗って数々の死線を潜り抜けてきたシンジも、これでもかと言うほどの疑わし
そうなアスカの視線に思わず泣きそうになってしまう。



  一方でシンジに無理矢理ファーストキスを奪われ、恍惚とした表情を浮かべている
ブラボーナツミは、もう死んでも良い、などと思いながら陶然としていたのだが、ふと
視線を戻すと部屋は荒れ果て、シンジは怪獣アスカにむなぐらを掴まれていた。



「つまり、私達を利用したって事よねぇ〜〜〜〜〜」


  アスカはさらに身を乗り出し、顔がシンジに触れるほどに近づける。
  シンジにはアスカが圧し掛かってきているようにしか見えなかった。


  彼は泣き笑いの表情のまま口をぱくぱくさせる。


「ようするに私達がなにをどう考えているか分かってたって事よねぇ〜〜〜〜」




  シンジに残された道は泣くか気を失うか告白するかしかなかった。




  しかし、ここには渚カヲルに匹敵する史上最強の結界術士、綾波レイがいた。



「手を離しなさい。」


  いまだ頭上に黒白のスイカを浮かべたレイの凛とした声が荒れた部屋の中に響く。


「なによファースト。邪魔しないで。」
  アスカはシンジの胸座を掴んだまま振り返る。

「碇君がいやがってるわ。抜け駆けは禁止よ。」

「関係ないわ。あたしはただ質問しているだけよ。」
  アスカはレイに向かって、紺青の双眸から、あんたは黙ってなさい光線を放つ。

「あなたのは脅迫というのよ。」
  レイも負けずに、あんたは用済み光線を真紅の冷眼から放つ。

「別にシンジを脅しちゃいないわよ、。」
  太字の『』はシンジに向けて発せられた。


  当のシンジは二人の気迫にあてられて震えるしかなかった。
「やっぱり碇君は脅えてるわ。」
「シンジ。あんた、あたしが脅したってーの!?」



  心理的にこの二大怪獣に挟まれたシンジはまともな答えが返せようはずもなく、
早く嵐が過ぎ去る事を、必死で願うばかりだった。



  しかし、ここにもまた救世主は存在した。



  ブラボーナツミ。

  彼女はアスカとレイの間に展開されるギスギスした緊張感を肌で感じ取り、このままでは
愛するシンジが二人の争いの巻き添えを食うと判断する。

  ブラボーナツミは加持より与えられた対二大怪獣用究極兵器、ハレルヤコーラスと豚肉の
細切れの使用を決意した。


  即断即決即行動。


  それが彼女の信条である。




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               26.シンジは無慈悲な夜の女王           
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    シンジ:「なんで僕なの?僕のせいじゃないような気もするけど・・・・・」
    アスカ:「あんた!!あたしにあんな事しといてまだ言うの!?」
      B  :「やめて!!あたしが全部悪いんです・・・・・・ヨイヨイヨイ」
    シンジ:「泣かないでBさん。全部僕のせいなんだから・・・」
    アスカ:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殺す(怒)」 
    トウジ:「・・・・・・そういう問題なんか?シンジは男やろ、なぜに女王?」
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  彼女はそっと綾波レイの後ろに回り込む。
  都合のいい事にレイは宿敵アスカに気を取られて、こちらには全く気付いていない。


  ナツミは懐から一口サイズの、オブラートに包まれた豚肉を取り出す。

  ちゃんと茹でてあるのは彼女の良心か。



  そっと忍び寄り、一瞬の隙を突いて即座にレイを羽交い締めにして手に掴んでいた
豚肉をレイの口に放り込む。


  レイが何が起きたのか判断できないまま、突然口の中に入り込んできた物体を思わず
飲み込んでしまった。


  ナツミはそのままレイが飲み込んだ事を確かめると、すぐさま次の行動に移る。



  スカートのポケットからSDATを取り出すと、携帯用ヘッドフォンを取り付ける。
  そのままアスカに走りよると、アスカが抵抗する間もない内にヘッドフォンをアスカの
頭に被せ、即座にSDATの再生ボタンを押す。


  突然アスカの耳に流れ出す『ハレルヤ』。

 「イヤぁーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」



  もっとも思い出したくない過去の記憶を強引に呼び起こされ、恐怖と拒絶の叫びを
あげながらヘッドフォンをもぎ取ろうと手を伸ばす。

  ナツミはそれを必死で押さえつける。


  離せばそこに待つのは確実な死だ。


  しかしアスカの怪力に少しずつヘッドフォンがはがされていく。



「碇君!!助けて!手伝って!お願い!!」

  心のどこかにある冷静な部分で、強力な瞬間接着剤でも塗っておくべきだったと
考えながらも必死にシンジに助けを求めた。



  しかし少年は苦悩する。


  ナツミを助ける事はアスカを苦しめる事だ。
  仮に彼女を助けたとしよう。
  そして仮にそれが成功したとしよう。
  そこに待つものは?


  いや、そんなことは問題ではない。

  今、彼女がアスカを抑えるのを失敗したら、彼女はアスカの最大級の怒りに触れ、
一般人の彼女は何が起きたかわからない内に即死するだろう。

『己の平穏な生活を守るため、この家で殺人事件を起こしてはまずい』




  シンジはナツミのそばに駆けつけると、彼女の手の上に自分の手を重ね、必死になって
アスカを押さえつけた。


  やがてアスカの抵抗が次第に弱まってくる。


  そしてついにアスカは口から泡を吹いて倒れた。


  少々可哀想、とは思いながらも、二人はテープをエンドレスに設定してアスカから離れた。


  一息つこうとおもった時、シンジの目にレイが膝をついて苦しんでいる光景が入った。


「綾波!大丈夫かっ!」


  シンジは駆け寄り、そして本能的にその事を後悔した。


  頭上からスイカは消えていた。


  それの意味するところはシンジには予想は付かなかったが、首を伸ばし、頬を膨らまし
両手で口を抑え、そして綾波レイの皿の上からミサトカレーが無くなっているとなれば
結論は出たも同然だった。



  あまり考えたくなかったが事実を確かめる為に、先ほど綾波レイの口に何を放り込ん
だのか、ブラボーこと別所ナツミに視線で問い掛けた。


  彼女は口だけ動かして「ぶたにく」と答えた。


  シンジは観念したように目をつぶった。



  綾波レイが肉を食べた・・・・・・・・・・・・

  その上、恐らくミサトカレーも・・・・・・・・・


 (目を逸らすな。)



  ちょっと強くなった彼は自分に言い聞かせ、心の準備をする。



  そしてレイは胃の中の物をぶちまけ始めた。


  ケチャップたっぷりの真っな吐しゃ物・・・・・・・・・・



  シンジは貰いゲロを必死にこらえながら、天井を仰ぎ、滂沱の涙を流す。


  ビタビタやっている綾波の背中を摩りながら、一体自分が何をしたんだ、何もして
いないじゃないか、どうしてこんな目に遭わなくてはいけないんだと考える。

  そして、しばらく嘔吐していたレイが荒い息を吐きながら、シンジの胸に身体をあずけ、
辛そうに顔を上げた。



  シンジはレイを両腕に抱きかかえながら、何か声をかけようとしたが、顔をしかめて、
荒い息を苦しそうにする綾波を見た時、何も言う事は出来なくなった。


  心配そうなシンジを顔を見て、レイは健気にも彼を安心させるように小さく微笑んだ。
  シンジが前にヤシマ作戦の時に見た、あの微笑みだった。



  そして、レイは目を瞑った。
  シンジの肩にかかったレイの手は力尽き、ゆっくりと落ちていった。




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                       27.無縁の住人                 
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    リョウジ:「例えばタイトルの頭に『恋愛』の文字を付けます」
     リツコ :「あ、あたしじゃないわよ」
     ヒカリ :「ち、違います!あたしには・・・がいます(*..*)」
      マヤ  :「え? な、何で私がここで出てくるんですか!?」
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  そして惨劇の繰り広げられている部屋のすぐ直上の部屋は臨時の戦闘指揮所と化し、
やはり混沌として収拾がつかないでいた。



「ぶぎうぎホーク小隊!D−3エリアで通信途絶!」
「るんるんキャスパー小隊、R−15エリアで『SI征饗十字軍』に遭遇、現在交戦中」
「いたいけアイズ中隊!D−5で『SI促進委員会』の第三機甲突撃部隊に遭遇!緊急の
応援要請です!」
「D−4地区で『シンジレラ女装愛好会』の鬼瓦兄弟を発見!現在『SI愛の星親衛隊』の
幻魔三銃士と交戦中です!」
「F−6区画で『SI促進委員会』の魔焔鬼頭三姉妹と『SI御清糾恋愛教団』の鬼影派
魔道四天王が戦闘突入しました!」

  やたらに『鬼』だの『魔』だのいう字が飛び交う。

「すくすくホエール中隊、西区C−3で『SI公平分割機構』!戦闘に入ります!」
「たしなみブルドッグから連絡!!コーヒーが切れたそうです!!」




 「今デルタはどこにいるの?」
  前線で戦う各TOCからの情報が氾濫する部屋の中でアルファの冷静な声が響く。
 「現在、ルート0を上がってきています。」
「迎撃準備は?」
「マンションの駐車場で情報部のアクションサービスが8人待機しています。」
  その報告にアルファは思わず下唇を噛んだ。


「クッ、少なすぎるわ・・・・・・・・」



  今、情報局長チャーリーは無線機に噛りついて、暴走した公安局長デルタの代わ
りに実戦部隊の指揮に回り、こちらに侵攻してきている敵の『各勢力同士討ち作戦』
を展開するのに忙しく、アルファの補佐をする余裕はなかった。

『ブラボーがいてくれれば・・・』


  先の事件の事も有り、その言葉をぐっと堪えると顔を上げた。

「もっと人は集められないの?」

「どこの部署も手いっぱいよ!手の開いてる所なんてないわ!」
  チャーリーが一瞬、端末に指示を出すのをやめて叫びかえす。

「だから今、エコーがこっち急行してるじゃない!」



  法制局長のエコーはこの年で司法試験に合格しているという俊才少女で、過去に
何度か法廷で検察官の後ろから指示を飛ばし、大麻3グラム所持していたチンピラ
を懲役20年の実刑判決を出させたり、弁護士の後ろから入れ知恵して、離婚裁判で
通常相場より5倍ほど多い慰謝料をふんだくらせた、等々の数多くの伝説を持つ少女
だった。

  しかも、その膨大な量の謝礼は全てSILFの活動資金としてSILFに寄付して
いるという話もある。

  あのゲンドウ笑いは伊達ではない。
  だから、アルファ達はデルタを止める苦肉の策としてエコーを呼ぶ事にしたのだった。



  そこに事態を一変させる報告が飛び込んできた。
「アルファ!デルタがアクションサービス4人と交戦状態に・・・・あ、今、全員やられ
ました。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ!待って下さい・・・・・」

  奇襲したアクションサービスの半分が数秒もかからずに全滅した後、壱中の制服を
着たままの女子通信員が何やら確認する。


「はい、本当に?・・・・いえ、了解しました。アルファ!現在デルタはうちの学校の生徒の
一人と交戦中です。」

  アルファはその報告ににわかに信じ難い思いで聞き返す。

「誰がデルタと戦っているというの?」
「それが・・・・その・・」
  通信員は言い辛そうに口ごもる。


「SIのクラスメートの洞木ヒカリが・・・・・・・・」




  デルタはマンションへの道をひた走っていた。

  白木の木刀を振り回し、ショートカットの髪を夜風になびかせ、100m10秒を切るかと
いうような恐るべき速度で、地を蹴り続ける。

  スカートをはいているという事実などすっかり記憶から抜け落ちている。



  考える事はただ一つ。

  碇シンジの唇を奪った裏切り者ブラボーの抹殺。

  正確にはブラボーが奪われたのだがそんな事は気にしない。

  ここに来る途中、街に流れるクリスマス・ソングに混じって、至る所で爆発や、
戦闘の雄叫び(雌叫び)やガラスの割れる音などが響いていたような気もするが
やはり気にしない。



  今の彼女にとっては、クリスマスもシンジのファンクラブ同士の対立戦闘喧嘩武力抗争など
取るに足らない。



  なぜなら、彼女はつねづねシンジと一緒に受験勉強して、ちょっとした恋愛ゲーム
をする事を日々夢見ていたのだ。

  シンジ:「あの、Dさん」 
    D  :「ん、何?シンジ(キャッ)」 
  シンジ:「この英語が分かんないんだけど・・・」
    D  :「どれどれ・・・」
  シンジ:「この・・・ここ・・・(*..*)」
                 『I do』
    D  :「ば、ばか、こんなの、か、簡単じゃないか」
         恥ずかしそうに言い、紙に何かを書く。
    D  :「練習問題だぞ、これもやっとけ」
        そこには少し震える文字で『I may』と・・・・・
なーんて事を。 しかし、それもブラボーによって無残に打ち壊されてしまった。 どこが打ち壊されたのか具体的には判らないが、何となくそう感じてしまっていた。 シンジの住むマンションに至る最後のカーブの植え込みを曲がった所で、突然四人の 少女が飛び出し、デルタに襲い掛かってきた。 次の瞬間、デルタは消えたかと錯覚するような鋭い踏み込みで、一瞬にして正面に 回り込んだ巨大な斬馬刀を構える長身痩躯の少女の懐に入り込み、白木の木刀で鳩尾に 強烈な突きを叩き込む。 次いで横から飛んできたヌンチャクとチェーンを身を起こして躱すと、木刀を大上段 まで振り被り、瞬時に二人の脳天に木刀を振り下ろす。 そしてデルタは背後に殺気を感じると、確かめもせずに木刀を横凪に薙ぎ払った。 命中。 素早く背後に忍び寄り、恐らく強力な麻酔薬の塗られたアーミーナイフを背中に突き 立てようとしていた少女の側頭部を叩いた。 鈍い音が閑静なマンションの駐車場に響き、その後ドサリというゴミ袋を放り投げた ような音が四つ響いた。 何という圧倒的な強さ。 伊達にあの惣流アスカと条件次第で互角の戦闘能力と言われている訳ではなかった。 一瞬にして四人の麗しき乙女たちを叩き伏し、にっくきブラボー抹殺への道を再び ひた走ろうとしたとき、駐車場の真ん中にぼーっと立ち尽くす洞木ヒカリを見つけた。 ヒカリは突然現れたデルタをぼんやりと見詰める。 「お友達?」 どうやらまだヒカリの憑物は落ちていないらしい。しかも少し変質している。 「誰があんたのダチだってんだ!」 とぼけた質問にデルタは動揺のあまり私闘学園の赤城小夜子のように乱暴に叫び返した。 しかし、その答えが今の憑かれたヒカリに及ぼした影響は大きかった。 突然、吹き飛ばされそうな程の殺気がヒカリから吹き出してきた。 彼女に憑いている者は、ミサトカレーの影響で友達でない者を一人残らず排除するように プログラムされてしまったらしい。 ヒカリはその場で立ったまま腕を組んで海老のように前のめりになる。 デルタが突然ふくれ上がったヒカリの殺気に戦闘態勢に入った時、ヒカリは驚くべき素早さ で身をおこした。 同時に両手は蝶の羽ように開かれ、その手には一体どこに隠し持っていたのかフォークや スプーンやステーキナイフが指の間に挟み込まれている。 ヒカリは顔を空に向けたまま口を開いた。 「殺陣・・・・・・・」 一瞬、弛緩しきったヒカリの体に力が溜まるのが外からでも分った。
「黄金蟲!!!!」 その叫びと同時に、目に捕らえるのが困難なほどの速度で両手に持った12本のフォーク などの食用武器を滑らかな動きでデルタに向けて投げつける。 木刀での防御も、身を返して避ける事も出来ないと素早く見て取ったデルタは、 とっさに木刀をアスファルトの地面に叩き付ける。 すると驚くべき事に轟音を立てて車一台分の地面がおき上がりこぼしの様に立ち上がった。 これぞ『畳返し』を遥かに凌駕する、秘技『アスファルト返し』。 その秘技を前に、百年の昔から永きに渡り失伝とされていた『殺陣黄金蟲』が 虚しく音を立ててアスファルトに弾き返される。 そして、アスファルトは轟音を立てて倒れ、再び元の位置におさまった。 フォークはその下敷きになる。 デルタは突然の強敵の出現に、野蛮な闘争本能が歓喜したのを感じた。 ====================================================================== 28.綾波レイはダミーシンジの夢を見るか ====================================================================== レイ :「碇君が一人、碇君が二人・・・、同じ物がいっぱい・・・クスクス」 ゲンドウ:「・・・・いらないものがいっぱい(一人いればいい、と言う意味)」 シンジ :「ウァ〜ン!やっぱり僕はいらない子供なんだぁ!!」 ゲンドウ:「・・・・・・・・ニヤリ(言い方が悪かったようだ、すまん。という意味)」 リツコ :「そんな事はともかく、暇な人はここで序章を読み返しましょう」 ---------------------------------------------------------------------- レイの腕がシンジの肩を離れ、床に音を立てて落ちた。 恐らく死ぬような事はないだろう。 逆に肉を食べた事は良かったのかもしれない。 少なくとも体内からはカレーを全て吐き出す事に成功したらしい。 彼女の口元には真っなカレーの断片が、まるで血のようにこびり付いていた。 シンジは自分のハンカチでその口もとのい物を丁寧に拭った。 「綾波・・・・・・・なんでこんな事に・・・・・・・・・・・」 それに答えられる者はこの場にいない。 リツコとトウジはこの惨澹たる場を呆然としながら眺めた。 そこには序章にあったような凄惨な光景が目の前に広がっていた。 「何でこんな事になったんや・・・・・・・・・・・・・・・・」 トウジの呆然とした呟きが部屋に響いた時、部屋にシンジの携帯電話がけたたましく 鳴り響いた。 しかし、シンジはただ呆然とし、綾波を見詰めているだけで電話を取ろうとしない。 「おい、シンジ。電話、鳴っとるで・・・・・・・」 トウジは壊れた人形のようにピクリともしないシンジを見て、心配そうに声をかけた。 シンジは声をかけられ、呆然としながら顔を上げる。まるで今自分がどこにい るのか分らない様子で辺りを見回し、綾波の動かぬ身体を抱きしめる。 「シンジ、電話が鳴っとる・・・・・・・」 トウジはもう一度声をかけた。
やっとシンジはトウジを見、トウジの言った事を理解して、のそのそと自分の携帯を 取り出した。 「はい、碇です。」 シンジはこの異常な状況に置いても全く普段と変わらぬ口調で返事をした。 『シンジか!?俺だ!相田だ!無事だったのか!?』 「・・・・・ケンスケ?なんで?」 シンジは相変わらずぼんやりした口調で聞き返す。 道路沿いの公衆電話からかけてきたのだろう、受話器からは車の走る音に混じ って爆発音と人の喚声も聞こえてくる。 『いいか!よく聞け!今すぐお前はそこから逃げろ!!さもないと-----』 突然ケンスケの声が途絶えた。 しばらくして、機械的で平坦な女性の声が聞こえてきた。 『ただいま、この地区は中継所の整備のため、現在通話が不通となっております。 ご利用の皆様にはご理解いただきますようお願いします。なお、この整備は早朝4時までの 予定で・・・・・・・・』 (中継所の整備?どうして?さもないとどうなるって?) シンジは呆然としたまま考えこんだ。 「シンジ!何があった!?ケンスケがどうかしたのか!?」 トウジはシンジの普通でない様子を見て大きな声で尋ねた。 シンジはハッとして正気を取り戻すとトウジに向かい合った。 「わからない。でもここからすぐに逃げろって、その後は電波中継所の整備とかで 電話がいきなり切れて聞けなかった。」 「中継所の整備?事前に通達もせんでか?」 怪しげな関西弁を叫びながら倒れているミサトを飛び越え、窓までかけ寄って カーテンをいっきに開けた。
「な、なんやこりゃぁ!?」 B級スプラッタ映画が現実におきたような部屋の中に、トウジの素っ頓狂な声が 響き渡った。 部屋の窓から見渡せる第三新東京市一帯に白煙が身をよじって踊り、至る所で炎を吹き出し、 その炎に照らされ、小さな人影が右往左往している。 しかも、人影は小さな集団を作り、別の集団とぶつかりあっては離れ、またぶつかるという 事を繰り返している。 「暴動ね。」 いつのまにかリツコまで窓から外を眺めていた。 「暴動?でもなんで?」 シンジまでも、レイを腕に抱いたまま外を見ていた。 「理由はわからないけど・・・・・」 ほんとは薄々わかっているのだが、シンジがブラボーナツミにチュウをしたの が原因など、あまりに現実味に欠けているので言うのを避けた。 その代わりにリツコは窓ごしに空を見上げて耳を澄ました。 シンジ達はそのリツコを訝しげに見つめていたが、やがてヘリの爆音が響いているのに 気付き、意外に近くに低空を飛んでいるのが見えた。 それも一機だけではない。遠くには時々起こる爆発の光に照らされ、それと同じ種類の 機影を数十機以上も、まるで羽虫のように飛び回っているのが見て取れた。 どれも鋭角的で細身のスタイルをして、くすだまのような物をぶら下げている。 「ヘリコプター?なんでこんな低空を飛んでるんです?」 シンジはリツコに尋ねた。 「わからない?あれはNERVの電子戦部隊が独自に開発した電子戦用ヘリよ。暴動で 通信に使われている周波数帯全域を妨害しているんだわ。」 そうと言いながら黒いヘリを顎でしゃくる。 そうしてリツコは部屋の中に振り返るとシンジ達に言った。 「とにかくここは相田君の言った通り、安全なNERV本部に向かった方がいいでしょうね。 あんなのに巻き込まれたりしたら大変だわ。」 シンジは小さく肯き、気がつかない間に抱え込んでいたレイを床にそっと横たえ、避難の 準備をするために自分の部屋に向かった。

<つづく>


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