アスカを訪ねて三千里(仮題)



第1話 「約束」

ジングルベルジングルベル鈴が鳴る

きょうはクリスマス おともだちもみんなうれしそうにしてるから、
なんとなくうれしいきもちになる

神父さんがピアノでひいてくれた歌をみんなで歌って、ケーキを食べているんだ。

「ねぇ、この木に付いてる綿埃みたいなの、なに?」
お父さんが買ってくれた宝物のビー玉のような青い目とお人形さんかと思うほどの、
金色の髪が奇麗な女の子が声をかけてきた。

けど、ビー玉みたいな色だって言ったら、怒られそうだから言わなかった
だって、お父さんが世界には、肌の色や髪の色や目の色が違う人がいるけど、
あまりそういう事言っちゃいけないって言ってたから……


三日ぐらい前の雨の振る日に神父さんが連れて来た子なんだけど、
これまで何度も、声をかけたけど いつもむしされてたけど……
今日はクリスマスだもんね きっと これからは仲良くなれるよ……

「これはね、セカンドインパクトの前までは日本でもよく降ってた雪なんだって」
僕はお父さんが昔話してくれた事を思い出して説明してあげた。

「へぇ〜雪って言うんだ……」

「僕も見た事が無いんだ……それに雪って冷たいらしいんだ……」

「ものしりなのね……そういえば、あんたの名前は?」

「何度も言ったけど、覚えてくれてないの? まぁいいや 僕は碇しんじ 6才だよ」

「わるかったわね 私はあすかって言うの 」

「そういえば、一昨日の夜中にここに来たのが君だったんだね」
「わたし……おばあさんの所にいたんだけど……おばあさんが死んじゃったの……」

「僕は……知らないおじさんの所にいたんだけど……5歳の時に捨てられたんだ」

「しんじ……かわいそう……」

僕はあすかとケーキやジュースを食べながらいろんな話をしていた。
みんなはケーキを食べおわり、ぼくより小さな子がお歌をねだる為に神父さんをピアノの
前に連れていって、ピアノを指差していた。
あの子はお母さんに捨てられてから、ことばが話せなくなったそうだけど、
今日はとっても嬉しそうだ

あ 僕の好きな歌だ……神父さん ピアノうまいなぁ……

ピアノを引いている神父さんを見ている あすかを見て僕はある事を思いついた」

「僕達、二人ともかぞくいないから……おとなになったら、きっとかぞくになろうね」
「うん……しんじ 約束だよ」

さっきまで泣きそうだったのに、笑ってくれた……
僕はこの子の為なら何でも出来る……何故だかそんな気がした……

「うん!さ、一緒にお遊戯しようよ」




時に西暦2007年

セカンドインパクトの爪跡は、いまだに世界を覆っていた。

セカンドインパクトの折に両親を亡くした子供たちは、
お互いを慰め合いながら、施設で明日をも知れぬ生活を過ごしていた。


そして、6年後 2013年のクリスマスの夜……

「こら、ケンタ 走らないの!」 アスカはトレイに載せたスープ皿をテーブルに置きな
がら、食堂を走り回る子供に注意していた。

「あの子……先週入って来た子だろ……親戚の家をたらい回しにされてたそうだから……
こうやってクリスマスを祝った事が無いんだよ……だから優しくしてあげようよ」

僕はクリスマスの飾りつけを終えて脚立から降りながらアスカに言った。

あれから6年……この孤児院では僕達が最年長になってしまっていた……
14才になると出て行かないといけないので、それまでに里親を見つけるんだけど……

僕とアスカは今年中学校に上がったので、
お兄さん・お姉さん役を仰せつかったので、なかなか大変な事が多いんだ……
それぞれの子供により個性が違うので扱い方に苦労をしているんだ。
けど……アスカが一緒にいてくれるから……どんな苦労も苦労とは思わなかった。

「さ、出来た じゃ、神父様を呼んで来るわね」

「うん……ここに来て6回目のクリスマスだね……きっとまたいい事があるよ」
「前にいい事があったの? シンジ」
「アスカが……口をきいてくれたじゃ無いか……嬉しかったよ」
「もう……何年前の話をしてるのよ……」 アスカは少し恥ずかしそうに笑った。

「何度話しかけてもいっつも顔を背けてばかりだったから……だからあの時は嬉しかった
よ」 僕は三脚を肩に担ぎながらアスカの方を向いた。

「じゃ……あの約束……忘れて無いわよね?」
アスカが珍しく少し心配そうな顔で僕の顔を見ていた。

「勿論じゃ無いか…… 一日だって忘れた事は無いよ アスカ……」

「シンジ……」
「アスカ……」

「よーよー お熱いこって まったくいちゃいちゃすんのも時と場所を選べよな」

「こらっ ケンタ 今度そんな事言ったら許さないからね」

「なんだよ 本当の事じゃ無いか」

ケンタを追いかけ回すアスカを見て、僕は苦笑した。

そういえば……おととしのクリスマスに貰われていった、
口のきけないあの子……どうしてるかな……

目をキラキラさせて歌をねだっていた少年の顔を僕は思い出した。



クリスマスパーティも終わり、後片づけを済ませ 小さい子供達が寝入った頃……


「やっと二人っきりになれたね……」

僕達は、孤児院が管理している馬小屋の二階で逢瀬を楽しんでいた。
寝藁に背中を預け、その日一日の出来事をこうして話すのが、唯一の楽しみだった。

「そうね……いつもチビ達がまとわりつくもんね」
アスカはいつも突っかかって来るが実は甘えん坊のケンタの事を思い出してるに違いない。
「僕達だって小さい時は神父さんに甘えてたじゃないか……」

「もう6年も経つのね……」
「うん……神父様も昔は頭に白いものが混じってる程度だったのに、今は真っ白だしね」


「ねぇ……私達……家族になる約束したけど……良く考えてみたら……
どうやったら家族になれるのかしら……兄弟は無理よね……
二人とも同じ人にでも引き取って貰わないと……家族になんてなれないんじゃ無い?」

僕の心を探るかのように、アスカの青い瞳は僕を見詰めていた。
「もう一つの方法の事を言ってるの? アスカ……」
「べ……別にそういう意味じゃ……」

「アスカと家族になれるんなら何でもするよ そうだね20歳になったら結婚しよう」
「家族になる為に結婚するの?」
アスカは少し横を向きながら今にも泣き出しそうだった。

「違うよ……アスカの事が……好きだから……いや、アスカが嫌だって言うなら……」
「嫌なんて言って無い……お願い……きっといつか……私を貰いに来てね……」

「嬉しいよ……アスカ 一所懸命がんばって迎えに行くよ……だから……キスしていい?」

「ばか……」アスカは堪えきれなかったのか、青い瞳を涙で濡らしていた。

僕は初めてアスカの唇に自分の唇を重ねた。


どれほどの間、アスカを抱きしめて唇を重ねていたであろう……
アスカがもぞもぞと起き上がろうとしているのに気づいて、僕はやっと唇を離した。

「嬉しかったよ……例え……嘘でも嬉しかった」

「嘘なんかじゃ無いよ!」

「わかってる……ちょっと片づけ物があるから帰るね」

「もう暗いし 部屋まで送るよ」

「ありがと……けど いいわ……じゃ、お休み シンジ」

「おやすみ……アスカ」


僕はすぐに中に入る気がせず、何とはなしに中庭を歩いていた。

「あれ……アスカじゃ無いか 神父様の部屋の前で何やってるんだろ……まぁいいか」

僕は深く考えずに部屋に戻る事にした。
一昨年にシスターが亡くなって以来、家事を引き受けているアスカが神父様の部屋に行く
のはいつもの事だったからだ。 


だけど……僕はこの時気づくべきだったのだ……
何故今ごろアスカがあんな事を言ったのか……その理由を……


あれから三日……


アスカが時々そわそわしているような素振りを見せるのが気になったが、
僕は取り立てて気にせず、普段と同じように過ごしていた。


「アスカの分も用意良しっと」僕は自分の分とアスカの鞄に必要な教科書を詰めていた。
アスカは朝食を作る為に忙しいので、いつも僕が学校へ行く準備をしているのだ。

朝だけお手伝いに来てくれている近所のおばさんが来たので、
ようやくアスカは家事から開放された。

「じゃ、行こうか はい」僕はアスカに鞄を手渡した。

「あ、アスカ君 済まんが今日は学校を休んで欲しいんだ……ヨウコが熱を出してな」

「あ……わかりました じゃ、シンジ……ノート後で写させてね」
アスカは少し寂しそうに笑うと、僕に背を向けてケンタの部屋に歩いていった。

「まぁ、熱が下がったら出て来るかもね」僕はアスカの鞄を置いて、
子供たちを引き連れて学校に向かった。

「ねぇねぇ シンジお兄ちゃん 今日はアスカお姉ちゃんがいないから寂しいんでしょ」

「うん……そうだね……いつも一緒にいるから たまにそうじゃ無いと寂しいね」

「ふーん シンジお兄ちゃん アスカお姉ちゃんの事好きなんでしょ」

「みんな知ってるよ」

「ん〜勘弁してよ」

「シンジお兄ちゃんのいくじなし」

「アハハハハ」



だが、昼休みが終わっても、アスカは学校に来なかった。

授業が終わり、僕は一人で孤児院を兼ねた教会に向かっていた。

「あの子達はもう帰ったかな……」
僕はすぐ隣にある小学校の方を見ながら呟いた。


「あと2年であそこを出て行かないといけないんだよな……ん?」

僕は草むらの向うからケンタの声がしたので、草むらを乗り越えた。


「何だよ おまえ! 俺達と遊びたかったら、ポケ使徒のカードぐらい持って来いよ」
リーダー格らしい半袖の綿のシャツを来た男の子がケンタを見下すかのように見ていた。

「そんなの……持って無くてもいいじゃ無いか」ケンタは目をそらして言った。

「何でだよ 買って貰えばいいじゃねーか なぁ」
リーダー格の男の子は仲間二人に同意を求めた。

「あ、知ってる こいつ 親がいないんだぜ 街の外れにある教会に住んでるから」
飴を舐めていた子供がケンタを指差しておいて腹を抱えて笑いはじめた。

「なんだ 道理でしみったれた顔してると思ったぜ
あれだろ 音楽の時間に聖歌を時々歌わせに来る白髪の爺いの教会だろ」

「神父様の悪口を言うなっ」 ケンタは突然リーダー格の男の子に飛びついた。

不意をついたせいか、馬乗りになって、二度、三度と叩く事は出来たが、
あっと言う間に他の二人に掴み掛かられてしまったので、僕は慌てて飛び出した。

「こらっ 喧嘩はやめないか!」

「なんだよ うるせぇなぁ関係ねぇだろ」

「その子は僕の知り合いだ 離してやってくれ」


「何言ってるんだよ 殴りかかって来たのはコイツだぜ
折角の新品のシャツが泥まみれじゃねーか」

「あ、こいつ知ってる! ケンタの所の孤児院にいるシンジってヤツだぜ」

「おい おまえ コイツの知り合いなんだろ! このシャツどうしてくれるんだよ」
リーダー格の男の子は今度は僕に絡みはじめた。

「じゃ……僕が洗って家に届けるよ だから許してやってくれよ」

「おまえみたいな麻の安っぽいワイシャツじゃ無いんだからな 丁寧に洗えよな」
そう行ってシャツを脱ごうとしたリーダー格の男の子にケンタは後ろから飛びつこうとし
たが、二人がかりで押さえつけられているので無理だった。

「シンジ兄ちゃんは関係無い! シンジ兄ちゃんにまで迷惑かけたく無いんだよ」

「ちっ 帰るぞ みんな! クリーニング代は請求するからな 覚えてろ」


ようやく開放されたケンタに僕は手を差し伸べた。

「どうして、言われるままにあんな事言ったんだよ……孤児だから、何でもされてもいい
のかよ!」 ケンタは泥を払って立ち上がった。

「ケンタ……」僕は何と答えていいか解らず立ち尽くしていた。

「孤児だからって、気持ちまで負けちゃいけないんだよ!」
ケンタはそう言って僕に背を向けて走りはじめた。



僕は呼び止めようとしたが、何と言って慰めていいのか解らなかったので、
とぼとぼと家路についた。


「ただいま」僕は教会の脇にある孤児院の扉を開けた。

「あれ、みんな どうしたの?」

「アスカお姉ちゃんが……いなくなっちゃったの……」
「もう会えないのかな……」
「きっと……会いに来てくれるに決まってるさ」
「けど……ここを出て……戻って来た子はいないんだよ……」

食堂で突っ伏して泣いている子供たちの言葉を聞いて、
僕は神父様の部屋に向かって走った。



ノックを素早く二回して、返事が返るのも待ちきれず 僕は神父様の部屋に入った。

「神父様!アスカがいなくなったって……どういう事ですか」

「シンジ君か…… 実はな……先週からアスカを引き取りたいと言う老夫婦が来ておって
の そう……クリスマスの晩にアスカ君は、その老夫婦の養子になる事を決めたんだよ」

「アスカの行き先は解るんですか?」

「……きっといつか……ここに連絡すると言っておったよ……だからシンジ君もここを離
れた後も……定期的に連絡を取るようにすればいいよ」神父様は僕の肩を叩いて言った。
「もう……出たんですか」
「ああ……二時の便でな……それと、これを預かってるよ」
僕は神父様から、アスカがいつも使っていた紅い髪どめを受けとった。

「そうですか……失礼しました……」 僕は神父様の部屋を辞して自分の部屋に戻った。


僕はベッドの下の小さい小箱を取り出した。
僕の数少ない宝物が入った箱だ…… 父さんに買って貰った青いビー玉……
そして、アスカとの思い出が詰まった箱だ……
僕はその箱を開けて、アスカの紅い髪どめを箱の中に収めようとした。

「あっ……ビー玉が無い……これは……手紙?」

箱の中にはチラシの裏を利用して作ったメモ用紙が入っていた。


 シンジへ…… 突然いなくなっちゃってごめんなさい……
 これまで……シンジと離れて暮すのがとても不安で恐かったんだけど……
 シンジが……私を迎えに来てくれる事を……信じる事が出来たから、この話を受けたの
 私を貰ってくれたのは、生きてたら私と同い年ぐらいの娘さんを偲ぶ為だそうだから、
 きっと大事にして貰えると思うの……だから……約束どうり、私を迎えに来てね
 
 ps.前にちらっと”僕の宝物の青いビー玉”のようだって、私の瞳を誉めてくれた
 事があったよね……だから、これを約束の印に貰っていくわね……代わりに私の宝物
 を置いていくから…… 好きよ……シンジ 待ってるから

僕はアスカの書いた置き手紙を凝視していたが、
ふと文字が滲んで見えなくなってしまった。

涙がひとしずく……そしてもうひとしずく……手紙の上で跳ねたので、
僕は手紙を丁寧に折って手にしたまま、アスカの事を思って涙を堪えた。
そう…… アスカの方がもっと心細いに違い無いから……
アスカ……必ず迎えに行くからね……




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どうもありがとうございました!



マナ:四国の参愚者の尾崎貞夫さんが感動巨編を投稿して下さいました。ありがとうございます。

アスカ:この間、谷底に落ちた夢を見たから、何か起こるんじゃ無いかと思ってたけど・・・。シンジと離れ離れになるのね。

マナ:そんなにしんみりしないでよ。シンジとの約束があるじゃない。

アスカ:うん・・・シンジのことを信じてる。きっと迎えに来てくれるわ。

マナ:そうよ。シンジを信用しなくちゃ。

アスカ:そうよね。ほんの一時の別れだもの・・・。

マナ:今は辛いかもしれないけど、きっと将来幸せになれるわよ。

アスカ:わかった・・・。シンジ、しばらくの別れね。

マナ:新しいお家でも幸せにね。

アスカ:ありがとう。それじゃもう行くわ。

マナ:さようなら〜〜。
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Bパート に続く!

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