アスカを訪ねて三千里

第6話「二人のレイ・前編

「どうだい お客さんは来たかい?」 不精髭のおじさんが歩きながら声をかけてきた。
「ええ、おかげさまでかなり来ました 色紙が足りなくなってお客さんに買って来て貰っ
たぐらいです。 アドバイスありがとうございました!」 僕は興奮を押さえきれずに、
今日の戦果を報告した。 その義務があると思ったのだ。

「ほら 着いたよ」 僕は不精髭のおじさんに案内されて家の中に入っていった。
「失礼します……」 僕は加持さん……来る時に名前を聞いたんだ……の背中を追って、
室内を歩いていった。

「あーらリョウジ あなたが連れて来た絵描きさん可愛いじゃ無い」
居間に招かれて中に入ると、奥さんらしき人が紅い制服らしきものを羽織っていた。

「歳は若いが腕は保証済みだよ それより、彼に何か食べさせてやってくれ 俺はエミコ
を連れて来るから」 加持さんは奥さんに告げて、奥さんがガスレンジのスイッチを入れ
て、シチューらしきものをかき混ぜ始めたのを見て、居間を出ていった。

「はい 熱いから気をつけてね」 加持さんの奥さんは熱いシチューの入ったスープ皿を
僕の眼の前に置いてスプーンを差し出した。

「ありがとうございます……」 僕はスプーンを受けとって、軽くかき混ぜてから口にシ
チューを運んだ。 
シチューは……陳腐な言い草かも知れないけど……思いやりの味がしたように思う。
気が付くと、シチュー皿は空になっていた。 まぁ昨日の昼から食べて無かったから無理
も無いかも知れないけど……

「あ〜ら いい食べっぷりじゃ無い もう一杯どお?」
「いや……あの……いえ」
僕は遠慮しようとしたが、中途半端に詰め込まれた腹が鳴き声を上げてしまったので、
僕は恥ずかしくてうつむいてしまった。
「子供は遠慮するもんじゃ無いの! ほら」 そう言って加持さんの奥さんはシチュー皿
を取り上げて、二杯めをよそってくれた。

「ちょっち固いかも知れないけど、シチューに浸けて食べると美味しいわよん」
そう言って、奥さんはフランスパンを差し出した。
「ありがとうございます」 僕はその全てを食べつくす事で、謝意をしめす事にした。

娘さんを連れて来るのに、そんなに時間がかかる訳でも無いのに、なかなか降りて来ない
のは、恐らく僕の食事の時間を作ってくれてるからだと言う事に僕は気づいた。

「本当にご馳走様でした……昨日の昼から食べて無かったもので……」
「事情があるようね……これまで保護されてた孤児でしょ?」
「ええ……そうです……引き取って貰えたんですが…………」
「ま、困った事があったら、第三新東京市の中央区にNERVって組織があるから、
そこを訪ねて来なさい……もっとも保護を嫌う孤児を保護する組織なんだけどね」

「なんか、武装してる子供たちがいるって本当ですか?」
「武装は珍しいけど、集団で抵抗する時には平気で石をぶつけて来るわね……」
「そうなんですか……」
「第三新東京市の西地区には行っちゃダメよ……あそこはそういう孤児が派閥闘争してる
から」 ミサトさんは紅い制服を着たまま腕組みをして呟いた。

「ここは何地区ですか?」 僕はこの都市の殆どを知らない事を思い出した。
「ここは北地区よ そこの大通りを南下すればNERVのある中央区があるから」

「おい ミサト そろそろ行かないとマズイんじゃ無いのか?」 階段を降りて来た加持
さんが時計を見ながら呟いた。 「あら、ホントだ じゃ行って来るわね エミコ お留
守番してよねっ」 加持さんの奥さんのミサトさんは、加持さんの後ろに隠れている女の
子に声をかけて、家を出ていった。

「おい エミコ 挨拶しないか」 加持さんは後ろに隠れている娘さんに声をかけていた。
エミコと呼ばれた女の子は5歳にも満たないようだった。
「エミコちゃん こんにちわ 僕 碇シンジって言うんだ」 僕はエミコちゃんの緊張を
ほぐす為に笑顔で挨拶をした。 だって、こんな固い表情でいられちゃ、似顔絵もしかめ
っつらになっちゃう……

「まったく人見知りが激しいんだから……ほら エミコ 椅子に座りなさい」 加持さん
はエミコちゃんの頭を撫でながら椅子に座らせた。
「それじゃ、始めましょうか」 僕は椅子の前にあるテーブルの上に道具を並べた。
「これに頼むよ」 加持さんはガラスで被われて枠まで付いている額の中の紙を取り出し
て、僕に手渡した。

「なんか、いい紙ですね 緊張しちゃうな……」 僕は手渡された紙質を指で触って確認
しながら加持さんに話しかけた。
「エミコへの誕生日のプレゼントにするつもりなんだ 頼むよ」 加持さんはエミコちゃ
んの頭を撫でながら微笑んだ。
「わかりました じゃ始めますね」 僕はまず、持参している安い紙に構図を決める為に
いろんな方向からエミコちゃんの顔を描いていった。
「加持さん 右斜め前からの横顔と、正面からの構図がいいと思うんですが、どっちにし
ます?」 僕はラフを加持さんに見せて相談した。
「そうだな 右斜め前からにして貰おうか」 「解りました」

僕はもう一度エミコちゃんの顔を見ながらラフ画の輪郭を本来の紙に書き写していった。

「こんな感じかな……」
約40分後にようやく輪郭と顔の表情を描きあげて、僕は一息ついた。 途中でエミコち
ゃんがそっぽを向いたり、椅子を降りたりで結構時間がかかってしまったのだ。

「じゃ、色塗りましょうか?」 僕は4色の絵の具と筆を鞄から取り出して言った。

「そうだね まぁ額に収めるんだし、頬の色と髪の色ぐらいでいいよ 鉛筆画だけでも、
結構可愛く描けてるからねぇ」 加持さんは満足そうに絵を見ながら言った。

僕は小さいバケツと色を混ぜる為の道具を貸して貰って、20分程かけて色をつけた。

最初は僕に人見知りしていたが、色を塗りはじめた頃から、僕の手元を見ていたので、
僕は安心して絵を描く事が出来た。


「どうでしょうか」 僕は少し乾いたのを確認して、加持さんに手渡した。

「うんいいねぇ エミコ……これはおまえを描いてくれたんだぞ 可愛く描けてるだろう」
加持さんは娘さんに絵を見せながら頭を撫でていた。

「パパ ありがと」 エミコちゃんはそう言って加持さんのほっぺにキスをしていた。

「どうやら喜んで貰えたようだ いや ありがとう」
加持さんは僕に手を差し伸べてくれた。

「恐縮です」 僕は加持さんの暖かい手に包まれて、安堵感を感じていた。

「ああそうだ……場所代を払えって絡まれたら、僕の名刺を出せばいいよ 少しは取られる
かも知れないけど、その代わり保護してくれるからね」 そう言って加持さんは僕に名刺を
差し出した。 「弁護士さんだったんですか……」 僕は名刺を見て少し驚いていた。
「もっともセカンドインパクトで受験者数が前年の15分の1じゃ無ければ司法試験に合格
しなかったようなもんだがね」 そう言って加持さんは笑った。

「おっと 忘れていた これ後金だ」 そう言って加持さんは5千円札を差し出した。
「そんな 最初に5千円貰ってますし……貰いすぎです」 僕は慌てて固持したが、加持
さんは笑いながら僕の手にねじ込んだ。
「一時間も拘束したんだ 安すぎるぐらいだよ……もし 困った事があったら、いつでも
来るといい」 加持さんは笑いながら僕を送りだしてくれた。

「ばいばい」
これまで僕には口を開かなかったエミコちゃんがそう言って僕に手を振ってくれた。

「どうしようかな……」 僕はズボンのポケットに手を突っ込んで歩きはじめた。
「まず、財布を買わないと……」 ポケットにはお札や小銭が詰まっていたのだ。

僕は紙を買った文房具屋を目指した。 もう商売道具の紙も無くなっていたからだ。


「すみません!」 僕は店の中に入らずに外から店内に声をかけた。
「いらっしゃい なんだ朝来たガキじゃねーか 今度はどうした?」
今朝よりは上機嫌な店主が出て来て僕を見て言った。
「また紙を売って欲しいんです それと財布も」 僕は5千円札を店主に差し出した。
「……中に入って選ぶんだな」 店主は少しの沈黙の後、店内を指差した。
「いいんですか?」 「おまえだろ……昼時にメシも食えない程客を送りこんで来たのは」
店主は頬をかきながら笑った。

僕はお墨付きを貰ったので、店内を見回って必要な物を探し出した。

「じゃ、この色紙を10枚とこれを下さい」
僕はレジに見本の色紙と20色の色鉛筆と財布と鞄を持っていった。
鞄を買うかどうかでは悩んだのだが、色紙や道具を持ち歩くのに必要だったのだ。
これまでの小さい手さげ鞄じゃ色紙が曲がってしまうのだ。

「色紙が一枚1000円で一万円 それと色鉛筆が2000円 財布が3000円 鞄が
5千円で、全部で2万円だな 金はあるのか?」
「あ、はい」 僕は財布の中からお札を取り出して、2万円を差し出した。

これで、残ったお金は3万3千円だ……一番安いパンと牛乳を一月ぐらいは食べる事が出
来る金額だ……

「外は物騒だからな……構わねぇから、この中で財布に金を移しておくんだな」
店主のおじさんは、鞄の中に色紙が10枚入った紙袋と色鉛筆の缶を入れて、
買った財布を僕に差し出した。

「ありがとうございます」 僕は言われた通りに、財布の中にお金を移した。
「おっと これも入れておかなきゃ」 加持さんの名刺をカードを入れる場所に入れた。

そして、財布と僕の持っていた小さい鞄を買ったばかりの大きい鞄に入れて鍵をかけてポ
ケットの奥底に鍵を入れた。

「どうも、ありがとうございました」 僕は店主に礼を言って文房具屋を出た。

「日曜だし……みんな家に帰っちゃったのかな……もう夕方だし」
僕は公園のベンチから大通りを歩く人々を見て呟いた。
午後からはあまり客は来ず、来ても1000円のコースしか選ばなかった。

「ふぅ……」 僕はため息を一つついて、大通りを歩く人々を見るのを止めた。
「ん?」 大通りから視線を外して行くと、二つ向うのベンチから僕を窺ってる様子の少年
の姿が目に入った。 まだ小学校の4年ぐらいだろうか……ケンタはどうしてるかな……

僕は文房具屋の店主がおまけにくれたポケットサイズの手帳の一ページに、その少年の顔
を描きはじめた。 ちょっと遠いし、あまりじっと見る訳にもいかなかったが、素のまま
の他人を描く楽しみを僕は初めて感じていた。 かしこまって席について似顔絵を描いて
貰うのを待つだけの人とは、あきらかに表情が違うのだ。
僕はこの手帳をこうして盗み見した人の顔を描く事を決心した。
何も絵の学校に行って学ぶだけが絵の勉強じゃ無いんだ……

一年中夏とは言え、多少の季節の変化はあるので、季節上はもう秋なので、
木枯らしの風に僕は寒気を感じた。
「今日はもう店仕舞いかな……」 僕は少年の顔をスケッチし終えて、荷物をまとめた。

「こう寒いと、橋の下じゃ風邪引くかな……」僕は鞄を持って公園を歩いていた。

「晩御飯は何を食べようかな……」 そんな事を考えながら、先程スケッチした少年の前を
通過した瞬間、僕の肘に何かが打ち込まれ、手が痺れて鞄を落としてしまった。
あっと言う間に鞄の取ってを掴んだ少年は僕に背を向けて走りはじめた。

「待ってくれ! それには僕の大事なものが入っているんだ!」 僕は痛む肘をさすりな
がら、少年の後を追った。 少年の足はさほど早く無かったので、追いつく事が出来たが、
どこから湧いて来たのか少年達がばらばらと現れ、僕の荷物をまるでラグビーのボールの
ようにパスをして、僕の手から逃れようとしていた。

「頼むから返してくれないか!」 僕は必死になって叫んだその時……

どこからともなく打ち込まれた石つぶてが、僕の向こうずねに当り、僕は向こうずねを押
さえて立ち止まった。 どうやら、肘に打ち込まれたのも石つぶてに違いない……
先程スケッチしていた少年が僕にパチンコを向けていたのだ。

向こうずねに3cmぐらいの石つぶてを当てられては、痛くて追う事は出来なかった。

「あのお金は……今日会った優しいおじいさんや加持さんのようなお客さんがくれたお金
なのに……それに……道具も……僕はどうしたらいいんだ……」
僕は途方にくれてしまった。 お金もあの鞄の中に入れていたのだ。
ポケットの中に鞄の鍵があるのを確かめる為に、僕はポケットの中に手を入れた。
確かに鍵はあるから、普通の人なら開けられないだろう……だが、彼らなら可能なような
気がして、僕は気ばかりが焦っていた。

「あれ? 君 昼間 家に来てた子じゃ無い?」 僕は誰かに呼び止められて振り向いた。
「もしかして、加持さんの奥さん?」 紅い制服に身を包み、武装した警官のような人を
3人連れて歩いている加持さんの奥さんを見て僕は驚いた。

「そうよん それより、こんな遅くまでいたら、危ないわよ この辺りもめっきり治安が
悪くなって来ちゃってねぇ……」 ミサトさんは肩をすくめて言った。

「さっき、小学生ぐらいの子供に荷物を取られたんです! 中には絵の道具と昼間買った
色紙と全財産が入った財布が入ってるんです! 取り返す方法は無いんでしょうか」
僕は一縷の望みをミサトさんに求めた。

「あっちゃぁ……やられちゃったか……君たち、ちゃんと巡回してた?」 ミサトさんは
背後にいる武装警官に声をかけた。

「あの子達は、孤児からはお金を取らないと言うポリシーを持ってるんだけどねぇ……
君 見かけないから、そう思われなかったのかもね……で、どんな子だった?」

僕はポケットの中のメモ帳の存在を思い出して、ポケットに慌てて手を突っ込んだ。

「その子が近くのベンチにいたんで、スケッチしてたんです」
僕はメモ帳を開いてミサトさんに見せた。

「ふーん……芸は身を助けるか……この子なら知ってるわぁ この辺りでも札つきの悪党よ
まだ幼いんだけど、大勢で荷物を奪って逃げるからタチ悪いのよねぇ 怪我しなかった?」
「パチンコで肘を打たれて、手が痺れて荷物を落とされた時と、追いかけてる時に向こう
ずねに打ち込まれたぐらいで、怪我って程じゃ無いです それより、居場所とか解りません
か?」

「うーん……この子達はこの辺りでも仕事するけど、西区が住処なのよねぇ……だから、
取り返すには西区に行かないといけないのよ……無論簡単に返してくれる訳も無いけど」
ミサトさんは顎を手で押さえて言った。

「西区ですね……ありがとうございました」 僕はミサトさんに礼を言って駆け出した。

「ちょっと こんな夕方の西区は子供一人で行けるような所じゃ無いのよ!」
ミサトさんの怒号が耳に入ったが、もう僕には盗られて困るようなモノは何にも無いんだ


「ここからが西区か……」 僕は電柱の住所表示を見て、手を握り締めた。

途中で比較的まともな格好をした優しそうな人に出会い、僕は手帳に描いた絵を見せると、
今は使われていない団地跡をアジトにしているらしい事を聞き、僕はあちこちの地図を見
ながら、団地跡を目指した。

僕は気づくべきだったのだ……その辺りを歩いているような一般人がアジトを知っている
のに、何故警察が彼らを保護出来ないのか……その事に……


「今日の戦果は?」
セカンドインパクトの頃には集会場だったであろう場所で、凛とした声が響いた。
現在は集会場跡には壁しか無く、天井であったモノは足元に破片として転がっていた。

「第三新東京銀行の銀行員から持ち歩いていた顧客の為の小切手と現金20万円を奪いま
した」 頬に傷のある高校生ぐらいの歳の男が銀行員が持つような黒い鞄を差し出した。

「孤児入店禁止のスーパー”サンライズ”から現金12万円と食パン2カートンを奪いま
した」
僕と同い年ぐらいの少年が食パンの入ったケースの上に現金を載せてを差し出した。

そうして、次々と盗み出されたモノが、ボスらしき人の前に積み上げられていった。

「のこのこ歩いてた絵描きから鞄を奪いました 鍵を開ける事が出来ず、中身は不明です」
僕から鞄を奪った少年が僕の鞄を差し出すのを見て、僕は隠れていた場所から飛び出した。

「僕の鞄を返してくれ!」 僕は叫びながら少年にタックルして、鞄の柄を掴んだ。

だが、次の瞬間には先程の少年二人に肩を掴まれてしまい、
抵抗はしたものの、地面に押しつけられてしまった。

「何だおまえは!」 その内の一人がナイフを懐から出して僕を恫喝した。
「まさか川向かいのグループの手のものか?」 もう一人の少年は僕の眼を見て言った。

「僕は盗られた自分の鞄を取り返しに来ただけだ!」 僕は口が地面に触れていたが、
必死になって自分の用件を伝えた。

「ふーん たいしたお坊ちゃんだねぇ……普通俺達に荷物を盗られたからって、追いかけ
て来たのは初めてだぜ」 少し年長の高校生ぐらいの年ごろの男が笑った。 周囲にいた他の少年達
も合わせて笑いはじめた。

「僕は孤児だ!お坊ちゃんなんかじゃ無い! それにその荷物は僕の全財産なんだ」
僕はミサトさんが言っていた言葉を思い出して腕に力を込めて、身体を浮かして叫んだ。

「中身は何なんだ? え? 本当に孤児なのか?」
年長の少年が僕にナイフを向けて言った。

「中身は、色紙が10枚と絵の道具の入った小さい鞄と 今日、似顔絵を描いて 貰ったお金の
入った財布なんだ! 先々月まで教会の孤児院にいたけど、僕を引き取った人が酷い人だっ
たから、逃げ出したんだ」 僕は必死になって自分の立場を明らかにした。

「おい 荷物を開けて確かめろ」 「わかりました……」
大きい石で鍵を壊そうとしているのが眼に入って僕は慌てて止めた。
「ズボンに鍵が入ってるんだ! 壊さないでくれ!」

すったもんだの末、床には僕の荷物が広げられていた。
「確かに嘘は無いな……孤児かどうかは解らないがな……」
年長の少年が荷物を調べながら言った。
「兄貴!こいつの財布には三万円も入ってますぜ!」 もう一人の少年が歓声を上げた。

「それは、似顔絵を描いて貰ったお金なんだ!」

「へぇ 一日でこんなに稼げるのかよ……」
年長の少年は僕の頬にナイフを近づけて言った。

「離してあげなさい……」 凛とした声に、僕は首を捻った。

月の光に照らされたその少女は、僕には月の女神のように見えた。
薄いベールをかぶり、レースの紋様入りの服を着たその少女は、
少年達のリーダー的な存在のようだが、とてもそんな風には見えなかった。

「昼間……似顔絵を描いてるのを見たわ それにその破れた服……孤児に間違い無いわ」
そう言って、その少女は足元にあるサンプルのアスカの絵を手に取った。
しげしげと眺めてから、そっと足元にアスカの絵を置いてから、少女は呟いた。
「絵……巧いのね……」

「あ……ありがとう」 僕はまるで天女に絵を誉められたかのような気分になっていた。

「おい! ケンジ! 孤児は狙わない掟だろ! 俺が恥をかいちまったじゃ無いか! あ
とでヤキを入れてやる!」 年長の少年が、僕から荷物を奪った少年に怒鳴っていた。

「その子……許してあげて貰えないかな……」 僕はケンタと同い年で、名前も似ている
その少年を見捨てる事が出来なかった。
「何ぃ?」 年長の少年は僕に向かって詰め寄ろうとした。

「やめなさい! あなたの教育不足よ!」 先程の少女の声に年長の少年は動きを止めた。

「もう……行きなさい……ここはあなたのような人が来る所じゃ無いわ……それとここの事
は忘れる事ね……」 僕はつい少女の声に聞き惚れていて、語り終えてからも呆然として
いたが、慌てて荷物を鞄に詰め込んで、去る事にした。

「ありがとう……」 僕は荷物を手に少女に声をかけた。

「あなた……名前は?」
シンジ……碇シンジ
「私はレイ……けど、もう忘れた方がいいわ」
僕はその少女の憂いを秘めた横顔に見入っていた




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どうもありがとうございました!



マナ:いよいよ、レイの登場ね。

アスカ:ファーストったら、やけにかっこいいじゃない。

マナ:二人のレイって言うことは、後編ではもう1人出てくるのかしら?

アスカ:2人目と3人目ってことかな?

マナ:今回登場したレイは、少年少女達を仕切ってるみたいね。

アスカ:あの、ファーストならやりかねないわね。

マナ:今回、シンジを助けたことを切っ掛けに、仲良くなったらどうしよう・・・。

アスカ:そ、そんなことこのアタシが許すわけないでしょ!!

マナ:わたしが、シンジを守りに行かなくちゃ。

アスカ:アンタは、来なくていいわよ! アタシがしっかり守ってあげるから。

マナ:守って・・・あなた、どこにいるの?

アスカ:さぁ・・・アタシはどこで何してるんだろう????

マナ:・・・・・・・。

レイ:やっと、登場したわ(ボソッ)。(*^^*)
作者"尾崎貞夫"様へのメール/小説の感想はこちら。
uraniwa@ps.inforyoma.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

第7話「二人のレイ・後編」に続く!

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